学術分科会(第70回) 議事録

1.日時

平成30年9月28日(木曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省旧庁舎6階 第二講堂

3.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾分科会長、稲永委員、甲斐委員、栗原委員、小長谷委員、松本委員、荒川委員、井関委員、猪瀬委員、大竹委員、岡部委員、亀山委員、喜連川委員、小林委員、里見委員、城山委員、瀧澤委員、永原委員、鍋倉委員
(科学官)
廣野科学官、苅部科学官、三原科学官、鹿野田科学官、吉江科学官、相澤科学官、長谷部科学官、寺﨑科学官、東科学官、上田科学官、渡部科学官

文部科学省

磯谷研究振興局長、坪井科学技術・学術政策研究所長、勝野科学技術・学術総括官、千原研究振興局審議官、渡辺振興企画課長、梶山学術研究助成課長、春山学術企画室長、岡本学術研究助成課企画室長、伊神科学技術・学術基盤調査研究室長、藤川学術企画室長補佐

4.議事録

【西尾分科会長】  おはようございます。それでは、定刻になりましたので、ただいまより第70回科学技術・学術審議会学術分科会を開催いたします。
 まず議事に入る前に、磯谷局長から冒頭一言お話がしたいとのことでございます。局長、お願いできますでしょうか。

【磯谷研究振興局長】  研究振興局長の磯谷でございます。大変お世話になっております。きょうもよろしくお願いします。
 今回文部科学省の幹部職員が国家公務員倫理法及び倫理規定違反により処分された事案がございました。現職の幹部職員が懲戒処分を受けるに至ったということで極めて遺憾なことでございます。皆様に心からおわびを申し上げます。
 今後文部科学省と致しましては、再発防止を講じるとともに、職員の服務規律の遵守の一層の徹底を図ってまいりたいと思ってございます。私どもの研究振興局としましては、とりわけ科学技術・学術政策を着実に遂行することを通じて信頼回復に努めてまいりたいと思っておりますので、先生方の引き続きの御指導をよろしくお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

【西尾分科会長】  それでは、議事に入ります。
 まずは、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【春山学術企画室長】  失礼いたします。お手元にきょうもタブレットPCを用意してございます。今開いているのは議事次第となっておりますが、そこに配付資料の一覧と、それから、上の方の数字が書いてあるタブがございます。これがそれぞれの今回の配付資料ですが、一番右の方に前回の配付資料の全体版も付けておりますので、御確認をいただければと思います。
 操作等につきまして不明な点がありましたら、お近くの職員にお声掛けをお願いいたします。

【西尾分科会長】  ありがとうございました。
 それでは、本日の議題につきましては議事次第のとおりでございます。1番目、学術研究等の最近の動向についてということで報告を頂きます。まず平成31年度の文部科学省の概算要求について、渡辺課長より御説明をお願いいたします。

【渡辺振興企画課長】  おはようございます。それでは、2019年度の文部科学省の概算要求のポイント、5分程度でポイントだけ御紹介させていただきます。資料1-1を御覧ください。
 最初のページに、文部科学省全体の予算について記載をしております。右上に表がございますが、文部科学省予算全体としては、11.8%、6,263億円の増という要求でございます。1ページ目は教育関係の予算を書いております。左の方で文教関係予算のポイントとありますけれども、特に大学に関しましては、大学等の基盤経費を充実しつつ、評価や客観的指標に基づくめり張りのある配分による改革を進めるということです。国立大学関係で申し上げますと、1兆1,349億円、338億円の増、うち運営費交付金は316億円の増となってございます。また、私立大学につきましては4,773億円、496億円の増でございますが、私立大学の経常費補助については35億円の増となってございます。
 2ページ目は、これは教育の続きと、スポーツ及び文化関連の予算を掲載しております。
 3ページ目が科学技術関係予算でございます。科学技術関係予算全体としましては、対前年比で2,054億円増の1兆1,680億円を要求してございます。全体としましては、Society5.0を実現して未来を切り拓くイノベーション創出、それを支える基盤ということで、Society5.0関連のAIP等含めた予算がございますのと、特に来年度につきましては、ポスト「京」ないしは次世代放射光施設、こういったものについての予算が大きく増となってございます。
 それから、左下の我が国の抜本的な研究力向上と優秀な人材の育成、これに関しまして、また詳細について後ほど御説明いたします。
 右の方に行きまして、国家的・社会的重要課題の解決に貢献する研究開発。このように、ライフサイエンス、防災、エネルギー、こうした予算について計上しております。さらには、国家戦略上重要な技術の研究開発の実施ということで、ロケット、海洋、原子力、こうした予算についても一定の予算を要求しております。
 それで、特に前々回7月3日の会議の際に、研究力向上加速プランを御紹介させていただきましたが、その関連予算について7ページ目を御覧ください。前々回の段階でも、特に我が国の研究力の低下の要因等について御紹介させていただき、それを打破する一つの方策、全てではありませんが、取り組むこととして、研究力向上加速プランを紹介させていただきました。これについて具体的に予算として要求できたものをこのページに記載しております。
 まず真ん中の黄色い部分でございますが、特にやはり基礎研究を支える科研費において挑戦的な研究及び、特に若手研究者への重点支援ということで、これは従来から進めております科研費若手支援プランの着実な実行ということで、若手研究者を中心とした種目の抜本的な拡充を引き続き行ってまいります。
 左上でございますけれども、特に新興・融合領域への取組を強化すべく科学技術振興機構が行っております戦略的創造研究推進事業、こちらにおきましても、特に新興・融合領域を強力に開拓するため領域数を拡充するんですが、特に戦略目標についても大きな共通ビジョンを設けて、より大くくり化していくような改革を進めたいと考えております。また、若手研究を支援するさきがけを拡充いたします。
 上の右でございますけれども、特に若手研究者の支援としまして、やはり今、若い人たちが海外に打って出るチャンスがあってもなかなかそれに向かっていかないということがございますので、海外で研さんを積み、挑戦する機会を抜本的に拡充するために、海外特別研究員事業を拡充するとともに、新たに国際競争力強化研究員事業を創設いたします。これは海外特別研究員と現在の特別研究員で海外に一定期間留学ないし研究で滞在している者がおりますが、その両者のよいところを足したような制度として、最長5年間、国内と海外で研究する研究者を支援する制度として創設を要求しております。
 それから、科研費につきましては、若手研究者の参画を必須とした国際共同研究種目の充実とか、帰国発展研究を更に充実。また、予算といいますか制度の改正でございますけれども、海外渡航時に科研費は海外に行った時点でストップしてしまいますけれども、中断制度を導入して、帰国した後にも再開できるようなそういう制度改正も行っていきたいと考えています。さらに、卓越研究員制度につきましても、海外から帰国する研究者の特別枠を新たに創設いたします。
 また、下の紫色の方に書いていますが、共同利用・共同研究体制の強化につきましても、引き続き対応してまいります。
 以上、簡単でございますが、全体像について御説明いたしました。詳細等について御質問等ございましたら、文部科学省ホームページにも掲載しておりますし、いつでも我々に対しましてお問い合わせいただければ、答えられるものは答えられますし、担当部署にも照会等させていただきます。
 以上でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 次に、科学技術・学術政策研究所より「科学技術指標2018」について報告を頂きます。坪井所長から御説明をお願いいたします。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  お手元の資料1-2です。先般、当研究所から公表いたしました「科学技術指標2018」という、本体は216ページほどあるものですけれども、その概要につきまして御説明させていただきます。
 まず2ページ目です。この科学技術指標は、1991年に初めて公表し、2005年からは毎年公表しているものです。科学技術活動を研究開発費から科学技術とイノベーションまでの五つのカテゴリーに分類して、157の指標を使って日本・主要国の状況を把握し、分析しているものです。時系列データが入手可能なものについては、1980年代からの変化も分かります。また、今回特に新たに18の指標を取り上げるとともに、三つの指標に関して可視化方法の工夫を図っております。新しい指標については、この資料の中でNewという赤い印を付けております。
 次に、3ページです。ここは、五つのカテゴリーごとの指標の数を示しております。
 4ページ目からはそれぞれの内容になりますが、ここでは主に当分科会に関連の深いものを中心に御説明をしたいと思います。まず、4ページは研究開発費ということで、我が国の研究開発費総額は、米国、中国に次いで3位で、2016年では18.4兆円となっています。これは、総務省の科学技術研究調査の値によるものです。一方、OECDでは、国際比較のために大学の研究者の人件費に関して研究に専従した場合の換算を行っており、それに基づくと16.9兆円ということになります。また、下の方には部門別の研究開発費があり、いずれの国も企業部門が多いわけですけれども、日本、中国、韓国などは特に企業で使われる割合が大きいです。
 続きまして、5ページです。これは研究開発を負担しているセクターと実際に使っているセクターの関係ということです。日本では、負担については企業が約8割、使っているサイドでも企業で約8割使われています。企業から大学への流れが小さいという状況があります。
 1ページ飛ばしまして、7ページです。ここでは、日本企業の外部支出研究費の増加、特に海外企業への支出の増加度合いが大きいことが見て取れます。大学への支出に着目しますと、国内の国公立大学への外部支出が多くなっています。なお、このデータのもとは総務省統計ということで、2013年度からは海外への支出分に関して、企業と大学の別も分かるようになっております。ただ、注にも書いておりますが、海外子会社等を通じて海外の現地の大学に研究開発費が支出されるようなケースとか、寄附というような研究開発費以外の分まではこの統計では把握されていないという点に留意する必要があります。
 続きまして、人材の関係が8ページです。研究者数について、各国、研究に専従とした場合何人に相当するかという、フルタイムイクイバレント換算で比較しておりますけれども、日本は2017年で66.6万人ということで、中国、米国に次いで第3位です。また、下の方には部門別研究者数があります。日本は企業が最も多いわけですけれども、大学の研究者は、フルタイムイクイバレントで換算しますと13.8万人。ドイツは11.1万人、イギリスは日本よりも多い17万人というような数字になっております。
 また1ページ飛ばしていただいて、10ページです。ここは日本の女性研究者の数などのデータですが、ほぼ一貫して増加傾向にあるというところが見て取れるかと思います。
 続きまして、11ページでは、新規採用者における女性の割合、これも増加が見て取れます。
 12ページは、日本の大学等における研究者の任期についての状況です。
 また、13ページですけれども、ここは大学院の入学者数です。2017年の大学院修士課程入学者数は全体で7.3万人、ここは2010年をピークに減少に転じていましたが、近年は微増しています。ただ、人文・社会科学に着目しますと、人文科学では2005年、社会科学では2001年をピークに減少に転じているということがあります。また、博士課程の入学者数は、2017年度は1.5万人で、こちらも2003年度をピークに減少傾向です。また、やはり人文・社会科学に着目しますと、人文科学で2000年、社会科学でも2003年をピークに減少に転じております。
 14ページでは、ここは人文・社会科学系の修士課程修了者の就職者の割合は増加、全体で約6割が就職しております。また、人文・社会科学系博士課程修了者では全体の約4割が就職しておりますが、無期雇用の職員として就職しているのが約3割というような状態です。
 15ページです。ここは各学位段階の取得者の状況ということで、人口当たりで示しております。各国共通として見られる傾向としては、学位が上がっていくほど自然科学の割合が増えていく傾向があります。最も右が博士号取得者ですが、日本だけが2008年から14年にかけて下がっておりますが、ほかの国はそれぞれ上がっているというような状況です。
 16ページは、研究開発のアウトプットということで、まず論文です。この表は分数カウントの値ということになります。これで見ますと、論文数については、2004年から2006年では2位だったものが、2014年から2016年では4位に下がっています。また、Top10%、Top1%も、10年前は4位だったものが9位に下がっているという状況です。なお、昨年の最新データであった2013年から2015年の比較ということでは、昨年とは同じ順位ということになります。
 次に、17ページです。ここは新しくまとめてみたもので、経済学・経営学及び社会科学・一般の論文に関して新たに取り上げたものです。過去20年間の変化を見ますと、日本の経済学・経営学や社会科学・一般の論文数は伸びており、シェアも増加しておりますけれども、順位は14位から24位ということで低下しているというような状況です。
 18ページからは特許の関係で、ここから以降はパテントファミリーで勘定しております。これは優先権によって直接・間接に結び付けられた2か国以上への特許出願の束で勘定しているということです。これは単純に出願数だけで勘定すると、同じ中身で複数の国に出願している場合に数が重複して勘定してしまうということがあるので、パテントファミリーということでやっているものということです。日本は10年前から引き続き、パテントファミリー数では世界1位をキープしております。
 また、19ページですけれども、こちらは技術とサイエンスのリンケージということで、論文を引用しているパテントファミリーの状況ということです。左側の表の論文を引用しているパテントファミリー数で見ますと、日本は米国に次いで2位という状況です。また、論文を引用しているパテントファミリーは、その国のパテントファミリー数全体のどれぐらいの割合かということで見ますと、日本は9%ということで、ほかの欧米諸国の20%台に比べると低いという状況があります。また、右側の表は、逆にパテントファミリーに引用されている論文がどうかということですが、これは日本が米国に次いで2位ということです。
 また20ページでは、日本の論文は、それでは、どの国のパテントファミリーに引用されているかということです。物理、医学とか材料科学の分野はかなり日本の特許に引用されている一方、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命科学といった分野を見ますと、日本よりは米国の特許により多く引用されているような状況があります。
 21ページは、論文の引用度との関係ということで、論文被引用度の高い論文ほどパテントファミリーに引用されている論文数割合が高いです。科学的成果として注目度の高い論文は、技術からの注目度も高いということが見て取れるもので、これも新しく今回取り上げたものです。
 少し飛んでいただきまして、25ページです。ここでは、日本の大学と民間企業との共同研究実施件数や研究費受入額ということで、こちらは着実に増加しているということが見て取れます。
 また、26ページでは、企業の論文数についてです。こちらは1997年をピークに減少しておりますけれども、そのうちの産学共著論文数の割合は増加しているということで、企業の論文を生み出すような研究活動における大学の重みが増しているということが見て取れるデータではないかと思います。
 27ページ、28ページは、全体を改めて載せているものでございます。
 簡単ではございますが、以上です。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。新しい指標もいろいろ考えていただいているということで、興味深く聞かせていただきました。ただいま平成31年度に向けた概算要求の内容、また、我が国の科学技術の状況に関する定点的な指標調査の直近の結果についての報告を頂きました。ここで、二つの報告内容につきまして、御質問や御意見等がありましたらよろしくお願いいたします。
 何かございますか。
 では、永原先生。

【永原委員】  科研費等で若手支援を強く打ち出していただいたことに感謝したいと思います。ありがとうございました。ただ、毎回議論されることですが、問題はもう少し背景部分にありまして、今現在既に博士に進学している、あるいは既にポスドクをやっている人にはそのような支援は見えてきますけれども、更に若い人には見えません。すなわち,最も深刻な問題は、若い人が博士に進学しない、研究者を目指さないということにあります。それからまた、海外に出たがらない理由の一つとしても、ポストの不安定性という問題があることは否めません。
 若手支援を打ち出すときに、このような目に見える形の研究費や,海外に行くチャンスというのも有効ではありますが、それと抱き合わせの形で、若手にもっと安定的なポジションが増えてゆくことを検討していただきたいと思います。そのことは文部科学省の大学政策等と関係してきますので、文部科学省としては今後その辺を是非御検討をお願いしたいと思います。

【西尾分科会長】  局長からお答えをお願いいたします。

【磯谷研究振興局長】  ありがとうございます。本当に今御指摘のとおりで、我々もやはり反省点として、よく今は言われますけれども、高等教育政策と学術・科学技術政策が必ずしもうまくリンケージが取られていなかったということがよく指摘されます。それはポスドクの問題である等、様々な問題があります。
 先生今御指摘のように、私どもが概算要求として御説明させていただいたことだけでは不十分であって、高等教育局とも今よく連携しながら政策を進めておりますけれども、できるだけ大学改革によって大学のマネジメント・ガバメントの工夫、あるいは運営費交付金の工夫等によって、若手研究者のポストをできるだけ出していただくということも必要ですし、大学院学生への支援強化も必要なので、きょうは資料を具体的なものを同時にお見せできなかったので申し訳ないですけれども、当然そういったもの等を含めて政策を展開していきますし、そういった方向性については、来年度以降もしっかりと強化をしていく必要がある。要するに、こういうものは単年度でできるものではないので、少なくとも向こう5年10年を見すえて、そういった方向で予算は限られておりますけれども、できるだけそういうところに資源が配分されるように、あるいは有効に資源が大学において使われるような形で政策を展開したい。
 私どもの反省点のもう一つは、やはりマーケティングというかメッセージ性がなかなか文部科学省の政策というのはなくて、現場の皆さんがなるほどと思うような形で我々の政策を伝えていく必要があると思っております。ありがとうございました。

【西尾分科会長】  よろしいですか。
 甲斐先生、どうぞ。

【甲斐委員】  ありがとうございました。いつもながらこういう統計が出るといろいろなことが分かってきて大変有り難く存じます。
 今回のまとめでちょっと分からなかったのは、パテントファミリーとの関係が出されていたことなのですが、これを出された意図を御説明いただきたいと思います。それが1点です。
 もう一つは、いつもまとめに出されるのですが、最初に全体の科学研究費総額が世界第3位であるということと、そのすぐ後に、だけど、論文の数は減っているというデータです。あたかも比較対照として考えさせるように書かれるので、それで申し上げたいです。いつも出される最初の研究費総額というのは、企業のお金が入っている合計額です。企業のお金は、日本は多いと思いますが、それが大学に流れるのは極めて少ないというのも統計にありました。
 論文数はどうかというと、ほかの統計で見たのですけれども、大学の科研費を取ってらっしゃる方の論文数は決して落ちていない。大きく落ちているのは企業だと。そうなると、総額のところでは企業のお金を入れて、論文のところでは全体として下がっていることと示すのでは、何かちょっとバイアスが掛かったメッセージになってしまうのではないかなと感じますので、最初の総額の指標のところでは国が出しているお金を出していただきたいなといつも思います。大学は企業からほとんど得てない、数%ですか、ほとんどは国からのお金で研究しているわけですから。そういうデータの示され方であれば、論文の数と比較して、大学は頑張っているとか、落ちてきているとかいうことを議論しやすいかなと思います。
 もう一点、女性の比率が上がってきているという、一見、雇用者数が上がってきているかのように示されていますが、大学では、任期制ありの方に女性の比率が多いとなっていますよね。一般的に女性の数が上がっても、女性のポジションの高さ、責任者としてはどうなのかという点をもう一点加えていただきたい。
 それから、何と言っても大事なことは、修士課程・博士課程への進学者数が減っているということです。これは博士課程進学者あるいはドクターの取得者の諸外国との比較データを見ても、アメリカ、中国を除いて我が国とよく比較される、ドイツ、フランス、イギリスでは上がっているのに日本が落ちている。これが将来の研究を担う、科学を発展させる若手を育てるのには非常に大きな問題だと思います。だから、この点を、多分科研費だけではどうしようもないので、もっと国策としてみんなで議論していかなければ間に合わないのではないかなと考えております。
 以上です。

【西尾分科会長】  それでは、4点ございました。まず一つ目は、パテントファミリーということで、今回パテント関係と連動させたデータがいろいろ出ておりますけれども、その趣旨は何なのかということからお答えいただけますか。

【伊神科学技術・学術基盤調査研究室長】  最初のパテントファミリーを分析した意図は、やはり昨今、説明責任等が求められて、科学研究の成果がどう経済的・社会的インパクトに結び付いているかというのも求められます。なので、そういうところに少しでも近付くためというところで、技術にどう活用されているかというのも見る必要がある。一方でもう一つは、昨今、技術側でもサイエンスベースのものが増えているという事実もありますので、今回分野別の細かい分析はなかなかできていませんが、将来的にはきょうお見せしたようなものを時系列や分野別で見ることによって、科学と技術の関わりが時系列でどう変化していくかを見ていきたいという意図がございまして、新たにこういう分析を、不完全ではありますけれども、加えつつあるということになります。

【西尾分科会長】  甲斐先生、今のお答えでどうですか。

【甲斐委員】  まだお答えが。

【西尾分科会長】  一つ目の御質問の回答ですね。

【甲斐委員】  所長が今。追加ですよね。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  今のは一つ目です。

【西尾分科会長】  一つ目の回答は先に述べられた内容だそうです。どうですか。

【甲斐委員】  科学は国力の発展の源というのが強く言われていますけれども、まずここはそういうのは関係なく議論したいなと思うので、余りこういうデータが前面に出ると、パテントを取れるとか、経済に貢献できる科学が優れているかのような印象を与えるので、前面に出すのはいかがかなとは思います。皆さん御意見ございますと思いますので、それぐらいにさせていただきます。

【西尾分科会長】    そうしましたら、まず、1点目については、特許に関しましてはいろいろな背景事情、特に企業の特許というのは、企業間での交渉事に用いることも考慮して数を多く申請する、というようなこともあり、特許そのものが独立して強調されるようなことが科学技術・学術の振興に真に繋がるのか、ということがあります。したがって、パテント関係のことを強調し過ぎないように、という御意見だと思います。

【甲斐委員】  そうですね。

【西尾分科会長】  二つ目が、研究開発費には企業関係ものが多分に含まれていて、そのデータを見ると云々という議論になりますと、いわゆる大学や公的研究機関に本当に研究費がきっちり充当されているのかというところがぼやけてしまいます。そういう観点から、国からの研究費を独立したものとして明確に示してほしいということだと思うのですが、その辺りはいかがですか。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  御指摘のとおりで、この使用額の総額で見ますと、5ページにも掲げていますように負担部門の8割が企業です。そういうデータもあるので、この表は今、日本しか示していないのですけれども、本体の方には実は各国の同じ表が全部載っています。こういうようなまとめのプレゼンのときにも、少し各国の状況とも比較できるような形で、各国は実は国の負担割合が大きいとか、そういったところが見えるようなことも大事だろうと思います。
 また、企業まで含めた研究費の話といわゆる論文というアウトプットの関係で、確かに論文というのはやはり基礎科学とか基礎研究の成果のアウトプットでもありますので、単純に研究費と論文数の比較で直ちに結び付くようなものではないということに留意するような表現の工夫はなるべくしていきたいと思います。

【西尾分科会長】  それについてはよろしいですか。

【甲斐委員】  ありがとうございます。本当にこれ、独り歩きして、ほかのところの会議ではよく言われるんです。お金は十分なのに論文が落ちていて、研究者は何をやっているんだという、そういうふうにバイアス掛けられるんですけれども、それを反論するときにその資料が我々にはないんですね。いつも出てくるのがこれですので。ですから、両方併せて出していただければ、我々もちゃんと議論できると思います。お願いいたします。

【伊神科学技術・学術基盤調査研究室長】  今回はお示しできませんでしたけれども、例えば大学に注目しますと、今年度の一つのハイライトは、大学部門の研究費で日本がドイツに抜かれました。この結果は、きょうの日経新聞でも報道されておりますが、そういうところも我々は言ってはいます。ただ、今回少しそこが足りませんでしたので、今後は工夫していきたいと思います。

【甲斐委員】  ありがとうございます。日本と比較されるヨーロッパの国は決して人口も多くはないです。それで、GDP比というと、本当に彼らはサイエンスに掛ける割合を頑張って多くしているのだろうと思います。それでサポートされて、若い人たちもエンカレッジされていく。そういうことを何か反映するデータがあると議論しやすいと思います。お願いいたします。

【西尾分科会長】  あとは、国からの研究費に関しても、ミスリーディングになる場合があるのは、研究のタイプで、国家からの要請研究と、いわゆるJSTを中心とした戦略研究と、運営費交付金・科研費の学術研究の三つの研究のタイプがありますが、各々のタイプで国からのお金がどうなっているのかというところまで掘り下げていただけると良いと思います。学術研究への国からの支援がどんどん減り、学術研究そのものが疲弊していることが分かってくると思いますので、そういう点もよろしくお願いいたします。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  はい。

【西尾分科会長】  三つ目が、博士人材の数がどんどん減っていっていることで、これはNISTEPのミッションを考えたときに妥当かどうか分からないのですけれども、データとしてお示しいただくところからもう一歩踏み込んで、なぜこういうことが起こっているのか、では、どうしたらよいのかというところまでの分析をしていただけると有り難いのですが。そこまで掘り下げていただけることを特に期待しています。そのような分析結果が出てきますと、我々もここで議論しやすいと思いますけれども、何か御意見ございますか。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  その点に関しては、例えば、博士人材のデータベースなど、博士課程に在籍している人なども入っているので、いろいろな意識調査、博士に進んだときのいろいろな悩みみたいなとかも聞けるようなそういう意識調査の方もやっていますので、その辺はまた改めて行いたいと思います。
 また、データの方、これについてはある程度、やはり大学への入学、修士課程から博士課程への進学とかそういう話もあるので、かなり中央教育審議会の方でも議論されていると承知しております。

【西尾分科会長】  その点は、甲斐先生よろしいですか。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  あと、女性研究者の関係……。

【西尾分科会長】  はい、まずは博士の人材のことはよろしいですか。

【甲斐委員】  これは多分、ほかの委員の方の方が御発言されたいのかと思いますので、どうぞ。

【西尾分科会長】  では、喜連川先生、どうぞ。

【喜連川委員】  今御議論があったと思うんですけれども、企業の部分が80であって、20が国であると。なぜ企業を除いた部分のグラフがないか。僕、大分前に何回か申し上げてなかなか通じにくかったんですけれども、そもそもこの様な有限、紙のページで、全ての皆様の委員が御満足になられるようなものを出そうということそのものが限界があるわけですね。ですから、こういうのはやっぱりウエブサービスとして、要するに、企業を除いたものが見たいと思う人はそういう統計が出るようなサービスを作った方が、その方が文部科学省さんとしても楽で且余り厳しい御意見を頂かなくて済むような気がします。
 例えば最後のところで、パテントはコンピューター系がぐっと上っているというような、そういうのが出たとき、我々的には、一体何だろうというのはすごく興味があるんですね。褒めていただく以上に、単に最近の深層学習のちょっと枝葉の部分が増えただけなのかなとか、そういうことそのものが分かるようなシステムの方が重要で、最終デリバラブルとしてのこの図だけに固執すると、ちょっと何か議論が収束しづらくなるんじゃないかなと思いまして、僭越ですけれども、意見を述べさせていただきました。

【西尾分科会長】  貴重な御意見どうもありがとうございました。

【坪井科学技術・学術政策研究所長】  今回は確かに概要でして、本体は200ページ以上あるということと、関連するデータをエクセルのような形で公開しているものもありますので、それらを使っていろいろな分析ができるようなデータも提供しているということも御理解いただければと思います。

【喜連川委員】  あるんですか。

【西尾分科会長】  あるのですね。

【喜連川委員】  それを是非教えておいていただきたいのと、比較的、今エクセルというのはある意味で評判がすごく悪くなってきているというか、もうてんこ盛りのファンクションで誰も分からないというので有名ですので、もうちょっと甲斐先生も使いやすいようなシステムがあるといいんじゃないですか。

【甲斐委員】  ありがとうございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございます。
 栗原先生。

【栗原委員】  私も、修士号・博士号取得者の国際比較に非常に数的にはショックを受けたのですが、先週フランスに行っておりまして、フランスの大学の研究者が、課題は博士号取得者が企業に雇われないことだと言っていました。ドイツはそれが全然違うと。確かにここを見ましたら、日本に次いでフランスが少ないので、彼らの言っていた悩みというのは本当にそうなんだと実感を持って感じました。
 そのときに企業のマネジャーに博士号取得者が少ないとも言っていました。そうなると、ずっと同じようなことが繰り返されるので、今、産学連携も非常に言われているところなので、その中でなるだけ博士号取得者を増やしていくのも大事だと思います。
 日本は高学歴社会だと今まで言われていたけれども、これを見ると、それはどこへ行ってしまうのかと。大学の卒業生は多いとしても、よその国はフェーズが変わっているのに日本は変わり切れていないというところはやはり非常に課題だと思います。論文の生産とかそういうことにも全部基盤的には関わっているところが大きいと思いますので、これは全員の問題かもしれないので、共通認識としてうまく課題をシェアして、状況を少しずつでも変えていけたらいいのではないかと思いました。

【西尾分科会長】  はい、どうぞ。

【磯谷研究振興局長】  ありがとうございます。まさにそういう議論を我々もしています。幾つか論点があるんですけれども、ポスドクや博士課程の学生も含めて、やっぱりもっと産業界とも日頃から我々も議論して、学会の方も含めて、産業界としてはこういう悩みを持っていて、どういう人材を欲しいか。それはポスドクも含めてですね。そういうことをちゃんとやりながら、一方で、先ほど永原先生がおっしゃったように、大学とか研究機関は非常に魅力のある、きらきら光ったものを作っていく。全体としてドクター人材がうまく社会で活躍できるような、そういうことを作らなければいけないということもあります。最近では、かなり企業もドクターに対してのインセンティブが上がってきたというデータもありますので、先ほどのマーケティングの話とも重なるんですけれども、是非学術の世界だけでなくて、企業との、産業界との対話はもっとやっていかなければいけないなと思っています。ありがとうございました。

【西尾分科会長】  あともう一つ、4番目の女性研究者のことで、数については増えているということなのですけれども、更にもう一つ深掘りして見たときに、例えば有期雇用について男性よりも女性の比率が高いとか、そういうような分析を今後していかないと、女性研究者における研究環境の改善ということに資するデータにはなっていかないという御意見だと思うんですが、その辺りはいかがですか。

【伊神科学技術・学術基盤調査研究室長】  きょうはこの二つのデータだけお示ししましたが、別のデータも組み合わせると、例えば大学でいうと、比較的大規模な大学で女性研究者、特に若手が増えているように見えます。したがって、女性研究者の方が任期付きの方が多いというのは、女性研究者が増えているというポジティブなサインとも考えられますが、雇用が厳しいという中で任期付きの方も多いというような状況が表れているのかなという形で我々も解釈しています。
 そこの辺りはやっぱりもう少しいろいろなデータを見ていかないといけませんので、あと、また分野の違いも当然ございますし、可能な範囲でやっていきたいと思いますし、政策研は人材のことをまた別途やっているグループもありますので、そういうところとも協力していきたいと思います。
 ただ、我々がお出しできるのはどうしてもデータだけになってしまうので、その先の解釈はこういうところで御議論いただく形になるのかなと思っております。

【西尾分科会長】  そうしましたら、その点は今後、ダイバーシティーの向上という観点で大事なことですので、より深掘りしたデータの提示をお願いいたします。
 まだまだ議論はあるかと思うのですが、時間のこともございまして、次の議題に移らせていただきます。
 学術分科会における今後の議論の進め方ということです。前回の分科会以降、事務局と私の方で相談した案を提示させていただきますので、御出席の委員から御意見又は御質問を頂きたいと思います。前回から議論になっておりますのは、人文学・社会科学系の振興ということに関して今後どういう議論を展開していくべきか、ということです。より焦点を絞ったらどうかとか、いろいろなことを事務局とも相談をしてきました。その点につきまして、局長からまず御説明を頂けますと有り難く、よろしくお願いいたします。

【磯谷研究振興局長】  では、私の方から。資料2を御覧いただきたいと思います。前回私、欠席をしておりまして、大変失礼いたしました。前回、人文学・社会科学の振興の進め方等について資料をお配りして御説明したところ、様々な御意見があったところでありますが、分科会長とも御相談をいたしまして、学術分科会の今後の議論の進め方ということで全体をまず整理させていただいて、その中で人文学・社会科学についてもどういうふうに議論を進めていくかという立て付けにさせていただいておりますので、御説明したいと思います。
 学術分科会につきましては、今期の任期としましては来年の2月までということになっておりますけれども、それまでの状況につきまして俯瞰しますと、ここに書かせていただきましたが、今後、来年から始まります第10期の科学技術・学術審議会におきましては、次期の科学技術基本計画、これは2021年からでございますが、この策定に向けての検討が本格化するわけでございます。
 それで、皆様御案内のように、現在の科学技術基本計画におきましては、学術研究の推進ということが、先ほど甲斐先生からも御指摘ありましたが、イノベーションの源泉として明確に位置付けられたということを踏まえて、次の6期の計画におきましても、学術研究の意義が更に適切に位置付けられることが重要と考えてございます。
 それで、もう既に残された期日が来年の2月までということで、現在の学術分科会の期日はそれほど残っておりませんけれども、次期の学術分科会で第6期の科学技術基本計画における学術研究の位置付けに関する検討をするわけですから、それに資するための主な論点の整理を今後、来年に向けてしていただいたらどうかなと思ってございます。
 そうした中で、とりわけ人文学・社会科学に関しましては、Society5.0とかSDGsといった新たな社会の姿が提唱されています。また、グローバル化あるいは社会構造の変化ということで、そういった中でこれまで以上に人文学・社会科学には期待も寄せられておりますし、果たすべき役割が大きいのではないかと考えてございます。
 それについては、これは後ほどの議題でも議論いただきますけれども、今期の学術分科会の下に別途、特別のワーキンググループという形で設置をしまして集中的な検討を行って、そうした結果も全部含めて、次期の学術分科会における検討に反映してはどうかというふうに考えたわけでございます。
 検討スケジュールが下に書いてございますけれども、もう少し具体的にイメージを持っていただくために、ちょっと飛んでいただいて、3ページなんですが、事務局ではこんなイメージを考えました。学術分科会の検討スケジュールということで、左の方にございます。きょうは9月28日でありますけれども、先生方の議論を踏まえて、もし御了解いただければ、来年の1月に向けまして、あと2回ほどございます。後ほど御説明いたしますけれども、論点整理の考える論点もきょうは少し用意させていただいていますが、10月からは事務局によって各委員の方の御意向を個別にヒアリングをしまして、次期につなぐ論点をいろいろ先生方に挙げていただいて、12月、1月に向けて論点の整理をさせていただいて、次に引き継いではどうかということでございます。
 それと並行しまして、真ん中に書いてありますが、学術分科会に設置するワーキングにおける検討ということで、人文学・社会科学振興の在り方に関するワーキンググループという形にさせていただいて、10月、11月、12月に集中的に御議論いただいて、1月にまとめます論点整理にも、人文科学・社会科学について反映していただくというようなことでございます。
 ちなみに、一番右の方に書いてありますのは、科学技術・学術審議会全体として、次の科学技術基本計画にどういったことを盛り込むかということを中心にまとめております総合政策特別委員会の動向を書かせていただいています。それを御覧いただきますと、現在その委員会におきましては、次期基本計画に向けて議論すべき論点整理をしております。来年の1月に第9期としての最終取りまとめをしまして、2019年8月ぐらいには、総合政策特別委員会としての第10期の中間取りまとめをして、総合科学技術会議、CSTIの方にもその内容については打ち込んでいくというようなことで、最終的には2021年1月に内閣府として科学技術基本計画が閣議決定されると、そういった段取りになるわけであります。
 ちなみに、今の科学技術基本計画、先生方には釈迦に説法で恐縮ですが、次のページに、4ページ目ですけれども、第5期科学技術基本計画の抜粋がございます。その中では、科学技術基本計画の中で、知の基盤の強化という項目において、イノベーションの源泉としての学術研究と基礎研究の推進ということで、ローマ数字1のところで書いてあります。学術研究がイノベーションの源泉となっているということで、学術研究の推進に向けては、挑戦性、総合性、融合性、国際性の観点から改革強化を進めるということ、それから、具体的に科研費あるいは大学共同利用機関、共同利用・共同研究拠点についての大きな方針について掲げられており、現在まさに我々はこういったものの方向性も踏まえて検討を進めているという状況がございます。
 こうした第5期基本計画の記述のもとになったものが、これも先生方はよく御承知の話ですけれども、次の5ページ、6ページにポイントをまとめさせていただいておりますが、平成27年、今から2年半ほど前に科学技術・学術審議会学術分科会として出した最終報告の内容でございます。この中で、危機に立つ我が国の学術研究とか、イノベーションの源泉としての学術研究、社会における学術研究の様々な役割といったことについてまとめていただきました。
 そして、最後の6ページのところですけれども、具体的な政策の方向性ということで、デュアルサポートシステムの再生とか、先ほどもちょっと議論させていただいた若手研究者の育成・活躍促進。もう既にそのときには、安定的なポストの確保とか、方向性については示されております。それから、女性研究者の活躍促進とか、国際的な学術研究ネットワーク活動の促進、あるいは共同利用・共同研究体制の改革等について盛り込まれているわけでございます。
 少し説明が長くなりましたけれども、いずれにせよそういった形で、今後1月に向けて学術分科会の議論を進めていただいたらどうかという御提案でございます。よろしくお願いします。

【西尾分科会長】  局長、どうもありがとうございました。前回この委員会におきましても、人文学・社会科学系のことを今議論するということに関しましていろいろ御質問いただきました。その回答を今、局長から頂いたところです。この委員会での議論というのは、何らかの意味で政策に反映させるべきであるということも前回御示唆を頂きました。
 そういう中で大きな今後の事項としては、第6期の科学技術基本計画の立案があります。この分科会から基本計画に盛り込むべきことを提案するには、来年の夏から秋ぐらいまでにこの分科会でまとめておかなければ、時期的に遅れてしまいます。
 そういう観点で、第5期の基本計画では学術研究ということを強く押し出すことを行った。では、第6期のところでは、現代的ないろいろな社会の複雑な問題を考えたときに、人文学・社会科学系からの議論が非常に重要であるということで、それを第6期の基本計画に何らかの形で打ち込んでいきたい。ところが、基本計画の現行の規定の下では、人文学・社会科学だけのことを議論したものは基本計画の中には入れられないことになっている。そういう意味で、例えば自然科学との連携の強化を図ることを考えるなど、基本計画の中にどのように盛り込んでいくのかということの工夫が要ります。
 そういうことを踏まえて、議論をまず展開して、第9期の委員会の間、第9期というのは1月末までと考えてよいと思いますが、そこまでに、深い議論まではなかなか時間的に無理ですけれども、何らかのガイドライン的なものがきっちり出せたらということで議論を進めるという考えです。
 何か御意見や御質問はございますか。
 どうぞ。

【磯谷研究振興局長】  1点、補足させていただきます。同じ資料の2ページをごらんいただくと、これは先ほど御説明した27年の報告なども参考にすると、現時点で考えられる論点として、これは逆に何も書いてないに等しくて申し訳ないんですが、学術研究の意義・役割とか、社会との建設的な対話とか、財政支援の在り方とか、研究環境、研究基盤といったような論点が考えられるのではないかと参考までに掲げさせていただいています。これはもちろん今後先生方からいろいろとお聞きしながら、論点をまとめさせていただきたいと思っております。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。今後の、とりあえずは今期内の議論の進めた方について、御意見等ございましたらお願いいたします。
 今の局長からの説明で今後進めさせていただいてよろしいですか。
 それでは、今期の学術分科会では、今後、今御説明いただきました方針に沿って議論を行っていきたいと思います。また、御説明の中にもありましたとおり、論点の検討や整理に当たっては、事務局から各委員に個別にお伺いして、ヒアリングをさせていただくというような機会が多々あるかと思います。各委員におかれましては、時間の許す範囲で御協力を頂ければと思っております。
 それでは、今の方針に沿いまして、人文学・社会科学の振興ということで審議を頂きたいと思いますが、まずは私の方から一言申し上げたいと思います。
 前回の審議において、人文学・社会科学に関する審議をこの学術分科会で進めるに当たって、あらかじめ焦点をより明確なものとする必要があり、また、審議の体制についても考える必要があるということで、先ほどから申しておりますように、事務局といろいろ詰めてまいりました。
 資料3-1については、私案としてお示ししておりますが、これは分科会全体において、第6期科学技術基本計画に向けた議論を行うことも念頭に、人文学・社会科学に関して特に議論すべき点について、人文学・社会科学系の委員からの御意見も伺いつつ作成したものです。これは飽くまでも現在の段階での案でございまして、またいろいろ皆様方から御意見を頂いて改訂をしていくということも考えております。
 本日は後で、この私案も踏まえた観点からのプレゼンテーションを小長谷委員にしていただくこととしております。検討の体制については、先ほど小グループを設置する案が示されておりますけれども、まずは議論すべき内容について御審議いただくため、事務局の方から資料3-1の説明を頂き、それから、小長谷委員の方から御発表を頂きたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

【春山学術企画室長】  それでは、失礼いたします。今分科会長おっしゃっていただいた資料3-1でございます。
 まず1ポツとして、人文学・社会科学の普遍的価値と現代的役割ということでございます。来るべき未来社会の姿ということでパラグラフがございますけれども、ここに書かれておりますのは、情報科学技術の成果というのは既にもう市場を通じて社会実装されていて、もう我々の生活も大きく変わっているということに加えて、また今後、人工知能等の科学技術の進歩が明日の社会を更に変革していくというようなことが現実的な射程に入っていることである。そうした状況を各国政府も踏まえて科学技術政策について考えておりますけれども、我が国におきましても、御案内のとおり、第5期科学技術基本計画におきまして、Society5.0を目標として設定しているという状況でございます。
 二つ目の括弧のところでございます。そうした中で、5期の基本計画にも書かれておりますけれども、その中の一つの要素として、倫理的・法制度的・社会的取組、いわゆるELSIということで、自動運転技術や生命科学に関することなどにおいて既に現実的な取組として進んでいる部分もございますけれども、こうした人間と科学技術、それから、社会・文化的価値の調和とか、こうした視点が今後様々な場面で重要となるということが予想されるということです。
 それからさらに、1ページ目の下から2行目辺りからのところですが、そうしたことだけに限らず、やはり今、グローバル化が進んでおりまして、いろいろな今までの我々の共同体の中での常識の価値観だけじゃない、いろいろな価値観が非常に近い距離になっているというような状況もあります。また、情報科学技術の進展がコミュニケーションを非常に近い形にした面がある一方、逆に対話を遮断したような閉鎖的なコミュニケーションが叢生されるというような状況も見られるという、非常に価値観が大きく揺れ動く中で、新しい価値が今生成されるような可能性も否定できないような状況になっているということです。
 2ページ目の真ん中の国境を越えてというところですけれども、SDGsというのも、一つはこうしたいろいろな価値観、人類社会が何を目指すべきかという中で、社会的公正や、誰もが参加し活躍できるというような包摂的な社会づくりを国際的な視点で目指すものということでございます。これは各国や各企業においても目指すべき理念として捉えられているという中、また一方、いろいろな経済的な指標がございますけれども、豊かさということ自体の捉えもなかなか難しい時代になっているということです。
 2ページ目の下のところでございますけれども、こうした中での人文学・社会科学に対する期待ということですが、人文学・社会科学につきましては、これまでいろいろな議論が、学術分科会だけに限りませんが、されているという状況でございますが、今申し上げたような、社会の中で人文学・社会科学の知をより発揮していただくということに対する期待が非常に強い高まりを見せているということです。
 特に、2ページの下からのところに書いてありますけれども、人文学・社会科学が、人間に対する理解、また、いろいろな場所とか時代とかの規定を受けながら人間同士の相互作用になって形成される価値に基づいて形成される思想や社会制度、こうしたものを研究対象として考究を継続してきた人文学・社会科学が、今やはりこうした新たな社会の共創という中のために価値、蓄積を発揮することが待望されている。そうした意味では、人文学・社会科学がSociety5.0やイノベーション創出ということを言うまでもなく、未来社会の構想にとって非常に不可欠な営みであるということです。
 2ポツと致しまして、具体的な検討の論点ということでございます。平成27年の学術分科会報告、先ほど前の議題の資料でも概要がありましたけれども、そこで例えばデュアルサポートシステムの再生とか、若手研究者の問題ということについては提言を頂き、今、それに沿って、行政で取組を行っております。
 こうしたものについては、まず基本的な方策として、今後も基本的なもの、基調に据えられるべきものということをまず検討の前提とした上で、これは人文学・社会科学に限らず、学術研究や基礎研究が抱える構造的な課題に取り組むものとして、これらが一層効果的に実施される必要がある。その上で、人文学・社会科学の振興に当たりましては、特に今申し上げたような期待される現代的役割を視野に含めながら、そこへの貢献を通じた社会的認知の向上と、そうした社会的認知の向上が人文学・社会科学の学術振興を支える基盤形成に好循環を与えていくというような視点からの検討をすることが重要と考えるということでございます。
 3ページの下のところでございますが、未来社会の共創に向けた連携・協働ということでございます。今御説明申し上げました、人文学・社会科学と自然科学や実社会との連携・協働による取組が既に進められているという状況を書いておりますけれども、そうした協働がやはり重要なものであるということで、そうした方法での検討が必要ということでございます。
 それから、4ページの真ん中辺りからですが、現代の社会的課題への対応ということです。我が国や国際社会が直面する現代の社会的課題の解決や課題設定そのものに生かしていくということが重要だということが指摘されているということで、これにつきましても既にいろいろな取組等ございますが、そうした中、価値観とかグローバル化とか非常にいろいろな社会的課題が広がる状況の中で、持続可能性という観点で、人文学・社会科学のより主体的かつ積極的な提案を促す方策について現状の取組も踏まえつつ検討を進めるということです。
 それから、「また」と致しまして、4ページの下からでは、現実社会の政策形成の場面では、EBPM、Evidence Based Policy Makingということで、こうした政策形成の手法も今注目をされているところです。こうしたものと学術の成果が連動した形で、そうした現実社会の動向との連動を見据えながら、人文学・社会科学の専門知を深めるための効果的な方策を検討することも有効と考えられると。
 それから、三つ目と致しまして、国際性向上ということです。国際的な視点からの科学的検証を受けるということ、これにつきましては、人文学・社会科学の中でも、経済学と日本語の固有性が学問対象の内容にも関わるところという分野ではおのずから違いはありますけれども、そうした分野ごとの特性の違いを踏まえても、やはり国際性を高めていくということの重要性は看過されるべきでないということで、これについても既存の取組がございますけれども、これを更に推し進めるための検討も必要であるということです。
 3ポツということで、こうした視点に立って検討をしていくために、ワーキングを設置して議論の整理を行うということです。
 それから、6ページに参ります。その際、特に留意すべき視点ということで、本日の一番初めの議題のところでも話題になりましたとおり、やはり若手人材というか、これからの将来の研究を支える人材をどう考えていくのかという視点が非常に重要であるということでございます。これは分野に限らずこうした状況がございますので、こうしたものにつきましては看過することはできないということになっておりますけれども、人文学・社会科学を考えるというような場面におきましても、これは必ず留意すべき視点として検討の中で扱っていくということが必要だということです。
 それから、7ページのところでは、具体的な調査検討事項ということでございます。一つ目として、未来社会の共創に向けた人文学・社会科学的アプローチからの応答と提案の活性化というようなことで、今お話しさせていただいたようなことを三つ掲げさせていただいております。2ポツと致しましては、研究費の支援、それから、研究環境整備ということで、ここは少し具体的な中身についての課題を掲げさせていただいております。
 私からの説明は以上でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。ワーキンググループにおける調査・検討事項が7ページにいろいろございまして、今後ワーキンググループではこういうことを議論してより内容を深めていきたいということを考えております。
 以上のことを踏まえまして、後で御発表いただく時間をきっちり確保しつつも、今の御説明内容につきまして、何なりと御意見いただければと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
 はい、どうぞ。

【城山委員】  どうもありがとうございました。多分この全体の中の一つのポイントは、現代社会の課題の解決という話と切り離して未来社会共創みたいなものを書いたということのインプリケーションをどう考えるかということに一つあるかなと思います。そのことの一つの意味は、西尾先生が最初に言われたように、若干タクティカルな意味もあるのかなと。つまり、科学技術と絡めないとなかなか書き込めないとすると、そこを書き込まなければいけないという、そういうニュアンスもあるかなと思いましたが、ただ他方、もうちょっとポジティブに考えると、例えば社会課題の解決といった場合には、課題は既存のものとしてあるわけですね。
 例えばELSIの話を未来社会共創で書いているんですけれども、むしろこれは既存の課題の解決の方の話でありまして、例えば技術を入れていくときに倫理的な問題がないとか、法制度をどういじるかとか、自動運転はどうかとか、そこはある意味では既存の課題の話の、ある意味では悪く言えば、後処理の話のわけです。そこで当然社会科学の役割はあるんだけれども、それは限定的な役割であって、むしろ未来を構想するときの方がより価値の問題とか、どういう社会にしたいのかというのは正面から問われるんですね。
 だから、そういう意味でいうと、より能動的な役割が問われることがあって、そういうことを対象に本格的にするんですよというメッセージを出すというのは、単にタクティカルな意味ではなくて、多分人文・社会科学のある意味では意義を主張する上では本来的にはすごく重要なことなんだと思うんです。ただ他方、これは本当にやろうとすると、単に絵に描いた餅にするとまずいというか、中途半端に終わると、逆に後でバックフラッシュが起こりかねない話なので、逆に言うと、本当に将来の課題について語るとか、将来の社会像について語るんだとすると、どういうことが必要なのかというのはかなり真剣な議論が必要なんだと思います。
 これは社会科学は、むしろ社会科学の方かもしれませんが、大体は過去について分析しているわけですね。歴史にしろですね。つまり、エビデンスベースドという話もありましたが、エビデンスがあるのは過去のことしかないので、エビデンスに基づいて議論できるのは結構過去の話なんですね。それをベースにするんだけれども、将来を語ろうと思うともう一歩ギャップがあるので、そこをどうするか。価値の話をどうやって扱うだとか。
 もちろん歴史的ないろいろな議論を対象にすることで頭を柔軟にしていろいろな発想が出てくるということはあるんですが、それだけで足りるのかとか、あるいは多分ある種の社会実験みたいなものは多分こういうことも絡んできて、実験する中でむしろデータを取って将来のことを考えていきましょうというような形で、ここを打ち出すからには、そのために一体どういうことが必要なのかということをちゃんと考えるんですよということが多分必要になるので、単なる枕言葉にしないような工夫をむしろ今後の話としては検討することが必要なんだろうなと思います。
 それが基本的に申し上げたいことなのですが、そのインプリケーションとしてここの書きぶりで若干気になるのは、一つは、先ほど申し上げたELSIの話が最初に出てくるんですけれども、ELSIはむしろ現代の既にある課題の解決の話なので、そっちはEBPMというか、エビデンスの方の話だけでくくっているんですけれども、むしろ通常のELSIの話はそっちなので、むしろELSIという言葉を使ってもいいですけれども、その価値だとか社会の在り方が本来的に問われるのが最初の第1フェーズですよということを多分言っていただいた方がいいかなというのが1点です。
 それからもう一つは、多分未来社会のところで若干科学技術との観点でタクティカルに焦点を当てたということがあるので書かれたのかなと思うんですが、要するに、全ての分野が同様に関わるわけではないということをあえてここは最初のところで言っているんですね。だけれども、実は社会像の話になると、実はいろいろな分野が一番関わりやすい話で、歴史なり思想なりというのもすごく大事になってくる話なので、あえてそれはここに限って言うのはどうかなと。つまり、あらゆる問題、距離は等距離ではないって確かなんですが、ここだけ特に一部が関わらないというわけじゃなくて、ここは実はいろいろな人たちが関われる領域なので、むしろそれは強調していただいた方がいいかなという感じがします。
 ちょっと関連して、以上2点です。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。おっしゃいますように、人文学・社会科学系に関して、本当にどういう研究をやるべきだとかそういうこともきっちりと議論しようとしますと、大変時間を要するし、いろいろな意見も出てくるということは、当然理解しているつもりです。
 今回、今期の来年1月の学術分科会までに、例えば先ほど局長がおっしゃったように、政策の中でどう生かしていくのかということを考えたとき、どういう書き方ができるのかということで議論していかないと本当に発散してしまいます。そういう点で私案のような書き方をしました。ただ、先生がおっしゃるように、最初のところからそれありきのような書きぶりをしていくというのもまた一方で考えなければならないことなので、その辺りのバランスをどう取っていくかということの議論はきっちりしていきたいと思っています。本当に貴重な御意見ありがとうございました。

【城山委員】  今少し申し上げたことは、ネガティブに申し上げたわけではなくて、むしろ未来を語るということは大事なので、例えば人社を振興するためにどういう研究支援形態があり得るかということをスペシフィックに多分議題として入れて、多分どこかの段階でその具体策を出すことが大事だということなので、考えるなというよりは、そこまで踏み込んで、むしろそういうインプリケーションがあるので、そこを認識して次のステップにして進んでいただくのがいいのかなという、そういう趣旨です。

【西尾分科会長】  本当にどうもありがとうございます。
 どうぞ、小林先生、それから、井野瀬先生。

【小林委員】  非常に分科会長がいろいろ御苦労されて書かれているというのがよく分かります。科学技術にも絡めながら人文学にも気を使い、社会科学にも気を使い、非常に苦労して書かれているというのはよく分かります。
 ただ、私はもっと現代のことをやっていますので、社会科学から見ると、あるいは人文学から見ても同じかもしれませんけれども、人文学と社会科学はやはり目指す方向はかなり違うので、どちらからもやや分かりにくいところが出てきていると。ですから、総論の部分と、あるいは場合によっては人文学と社会科学が持っている課題が違うので、分けて書く部分も少し各論的にはあってもいいのかなと思います。
 例えば包摂性とか多様性という価値の問題として随分出てきます。これは多分人文学においてはそういうダイバーシティーが大事だと思います。ただ、社会科学においては、もちろんいろいろな分野がありますけれども、自由な国ですから、個人の多様なプリファレンスはもちろん尊重するとしても、社会的決定は一つしか下せないということがあるわけです。例えば消費税を上げるのか、先延ばしするのか、あるいは法律を変えるのか、変えないのか、それは人によって価値観は多様であるということは大前提ですが、例えばそれは法学においては一つの決定しか下せないのです。裁判官になって、自分の価値観で判決を下すことはできないです。ですから、そこのところ一つ取ってもやはり少し違うところがあるので、社会科学の人が見ても人文学の人が見てもすっきりするようにするには、そこを分けるところもあっていいのかなという気はいたします。

【西尾分科会長】  これは前回先生から頂きました本当に貴重な御指摘のところに戻ることになりますね。要は、人文学・社会科学ということの書き方がいいのかどうなのか。人文学と社会科学は分けて書くべきかということもあるのですけれども、私としては、最終的に出てくる報告書のタイトルは中ポツなりでつないでおきたく考えています。その上で、今、小林先生が言っていただいた、人文学が持つ特性の部分と社会科学が持つ特性の部分とを、今おっしゃったようにすみ分けながら記述をするということを今後進めたいと思っています。今は両側から見たときに何かちょっと中途半端的なところがあるかもしれません。

【小林委員】  そうは申し上げていませんけれども、タイトルはこういう形で、総論としたら、最終的に出す報告書としては、少し各論的なものがあってもいいのかなという気がします。

【西尾分科会長】  貴重な御意見、どうもありがとうございます。今後それは十分考えてまいりたいと思います。またいろいろな意味で御意見を頂けますようよろしくお願いいたします。
 井野瀬先生、どうぞ。

【井野瀬委員】  ありがとうございます。西尾分科会長が人文学・社会科学の今後を議題として取り上げ、このように書き込んでいただいたことにまず感謝申し上げたいと思います。
 今、小林先生が言われたこととも関わるかもしれませんが、冒頭で局長が、「文部科学省はメッセージの出し方がまずいかもしれない」とおっしゃった、恐らくそこがポイントだと思います。どういうふうにストーリーを作っていくのか。書きぶりというのはメッセージの表現だと思うのですが、メッセージをどう表現するのか。これはまさしく人文学の問題であり、社会への実装という点からすると社会科学の問題です。人文学・社会科学の今後を考えることは、メッセージの出し方自体から必要だと思いました。
 人文学・社会科学が必要であるといったメッセージは、事態や社会状況の変化に合わせて、文部科学省からも出されてきたはずです。例えば「3.11以降」に学術は何をすべきかというとき、人文学・社会科学の学知は、人間の価値観や人の生き様、豊かさといった文言とともに、必要性が説かれてきました。今議論すべきは、それら今までのメッセージとは異なる新たなメッセージとして何を送ればいいのか、ということですね。
 そこには、小林先生が言われた意味も含めたある種の分かりやすさと、それを誰に届けるかについての明確さが必要です。冒頭の話にもありましたが、学部から大学院に進む学生の数も割合も、人文学では諸外国に比べてぐっと減ります。博士課程への進学となると更に減少する。ですので、彼ら、彼女ら学生たちに届くように、人文学・社会科学は今後こうなる、こう進めるといったメッセージを出していただきたい。
とても難しいかもしれませんが、言葉や表現にこだわること自身が、文部科学省の変化を伝えることになるかもしれません。よろしくお願いします。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございます。井野瀬先生のお言葉、今までより何かもう一段別の次元でのアピールの仕方が要るのではないか。特に最後おっしゃった、報告書の英語版を作って、それに日本の人文学・社会科学系はどういう方向で今後進んでいくのかを明示したときに、特に海外の人文学・社会科学系の研究者がそれを見て納得、あるいは非常にインパクトを与えるような書きぶりが大事なんじゃないかということですかね。これ、なかなか重いですけれども。
 まず栗原先生、どうぞ。

【栗原委員】  今、ワーキンググループにおける調査検討事項の1の方に主な御意見が出ていると思うのですが、2の方の研究環境等のところで、私が最近、人文学で感銘を受けた活動としては、国文学資料館のなさっている古典籍のデータベース化というのが大変すばらしい活動だと思っています。4万点ぐらいをデータベース化して作っておられると。
 それを作ったことで、外国の主要な図書館等との共同研究が進んだり、あるいは文献学の在り方のようなものも非常に変わるのではないかと拝見しました。例えばデータベースになったことで、情報を使えば、文献学で、ライフワークのようにしていろいろな本の間の相違を見ていたのがあっという間にできれば、今度その先をやることができるような。これ、私、理科系の発想として言っているので、人文学の方がどういうふうにお思いになるかはちょっと違うかもしれないのですけれども、非常に貴重な古典籍が大勢の人のものになって、民間の研究者も使えるかもしれないし、いろいろな意味で学術の在り方も変えるかもしれないと感じました。
 科学技術の先端とうまく人文との融合のようなものもいい形でやっていくことで、特に日本の持つ文化、日本の自然もそうですけれども、我々が非常にすばらしいと思っているものを国際的に伝えていくようなことが、何か新しいツールによってできれば非常にいいのではないかとも思うので、全体の今のワーキンググループの趣旨とはちょっと違うかもしれませんが、新しい視点なのではないかと思ってその活動を拝見しているので、ちょっとここで御紹介しました。

【西尾分科会長】  貴重な御意見どうもありがとうございました。特に研究環境ということで、人文学・社会科学系のデータプラットフォームが日本でも今できつつあって、それが今後、人文学・社会科学系の新たな学術振興あるいは社会との接点の上で非常に大事になってくる、ということでした。そういうことも設置されるワーキンググループでは、きっちりと議論をしていくべきじゃないかと思います。
 局長、どうぞ。

【磯谷研究振興局長】  井野瀬先生がおっしゃったこと、本当にそうだと思います。人文学あるいは社会科学の学問分野って本当に言葉を大事にし、概念とかを体系化するということで、それが学問だと思うんですけれども、おっしゃるとおりで、文部科学省とおっしゃいましたけれども、文部科学省として行政としてのメッセージはちゃんとこれからもシナリオを作れるような、我々もブラッシュアップをいたしますし、まさにこの議論については、西尾先生がおっしゃったように、ワーキンググループやこの学術分科会の議論として是非そういったすばらしいものを作り上げていただきたいと。我々もいろいろ参画をしながら、特に先生方に是非御尽力をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 里見先生、どうぞ。

【里見委員】  今までの議論を聞いていると、人文学・社会科学が世の中にとって非常に大事であるというのは、共通の認識になっているのではないでしょうか。かなり複雑な社会になっているので、その問題解決のためや、日本の文化や社会をよくするため、それからいろいろな国と付き合うときに、お互いの国の背景や歴史について共通理解するためなど、もろもろの意味を含めて、人文学・社会科学が世の中にとって非常に大事だというのはもう共通の認識だと私自身は思います。
 もちろんいろいろな視点があるので、全く異なる意見が出てくるけれども、大事だという思いはみんな持っている。それにもかかわらずなかなかうまく振興されていないというところに問題があるからこそここで議論しているのであって、大事だということを議論するよりも、何で今できないのか、何をやってほしいのかを議論すべきではないでしょうか。
 例えばJSPSでは、課題設定による先導的人文学・社会科学推進事業を実施しています。三つのプログラムで順繰りに課題を設定して解決するようにしたり、データがそろった方がいいからということで、データインフラストラクチャーを構築するプログラムも始めましたが、あと何をやったら人文学・社会科学が振興するかを議論しないと、前に進まない。いつもこの手の議論というのは、入り口、前提の話に終始していて、どうすれば解決できるかというところに一歩も行かない。前の議題にあった学術振興にしても、やるべきことの答えはもうほとんど出ている。若手が少ないのが大きな問題ならば、その若手を増やすためにはどんなグランドデザインを我々は描きたいのかというような議論を進めていかないと、前に進まないのではないでしょうか。
 やはり、特に人文学・社会科学系の先生方が、自分たちが活動してみて、こういうところが足りないということを言っていただいた方が、それができるか、できないかという議論ができて、少しずつ前に進むような話になるのではないかと思います。

【小長谷委員】  私、控えております。次に発表させていただきます。

【西尾分科会長】  そうですか。先生の発表の中でそういうのが出てくるとよいですね。ワーキンググループの中で、今先生がおっしゃいましたように、人文学・社会科学系に関わっておられる方がふだん抱いておられる問題意識、つまり、一体どういうことをやってほしいのかというようなことをいろいろ出していただくことが大切だと思います。そうでないと、里見先生がおっしゃるように、議論がまた入り口のところだけで終わってしまうということを繰り返しになってしまいます。そのようなことは、もう避けたいということは、私も全く同じ意見でございます。どうもありがとうございました。
 ほかにございますか。
 はい、どうぞ。

【小林委員】  今の里見先生の御質問にお答えしてもよろしいでしょうか。具体的に何をやってほしいかということですが、人文学・社会科学の課題設定による領域開拓プログラムがございます。我々社会科学は、まさに社会のためにいろいろなことを、社会的課題を解決することを研究しています。失業率をどうやって下げるとか、GDPをどうやって上げるかとか、格差はどう減らすかとか、あるいは地方創生をどうやってやるか、直近のデータでモデルを作ってシミュレーションして、このままで行ったらどうなるかとか、社会保険費がどういうふうになる、そういうことをやっています。
 本当は課題設定による人文・社会科学領域開拓プログラムにもっとそういう社会的課題に対して設定していただきたいのです。これは理系の方は御存じないかもしれませんが、実はこれは3年に1回しか公募がありません。
 それからもう一つは、データプラットフォームのもの。これはSociety5.0、非常に重要なのですけれども、ほかの国がみんな作っているものはアグリゲートデータ、つまり統計データなのです。例えばメッシュ単位や基礎自治体単位です。ところが、ここで募集されているのはサーベイデータだけなのです。それは、それぞれの大学でみんな公開していますし、あるいは東京大学には既にSSJDAがあります。

【里見委員】  私自身、この二つの事業がどういうふうに組み立てられているかの詳細は十分には知りませんが、これまでのJSPSのやり方を見ていますと、研究者コミュニティにみんな任せられている。ですから、先生方が課題設定の議論をするときにも、先生たちのグループの恐らくどなたかも入った上で、課題が決定されるのであって、JSPSだけでトップダウン的に課題を設定するわけではない。それから、人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラムについても外部有識者で構成された委員会で議論いただいた上で決めています。JSPSだけでこういうことを決めて、これやれ、あれやれと言っているわけではない。それだけはきちんと反論しておきます。

【小林委員】  大変恐縮なのですが、やはり基本的に人文学の方が大半を占めていて、社会科学の委員が少ないように見受けられます。

【里見委員】  それは研究者コミュニティの問題です。

【西尾分科会長】  この議論をし出すと止まらないので、このくらいにしてください。

【小林委員】  分かりました。

【西尾分科会長】  亀山先生、何か一言ございませんか。

【亀山委員】  特にありません。

【西尾分科会長】  よろしいですか。
 そうしましたら、小長谷先生、プレゼンテーションをよろしくお願いいたします。

【小長谷委員】  はい。それでは、3-2の資料をお開きください。29枚あります。
 1枚目です。まずタイトルですけれども、この応答というのは、もう既に今の御議論で分かるように、社会からの要請に応え、そして、成果を社会へ還元するという、社会との対話関係、社会とのコミュニケーションのことです。それで、今、何か社会には問題がなく、学術界の発信の方に問題があるように一方的に皆さん思ってらっしゃるかもしれないんですけれども、私は実はそうは思っていません。
 3.11の前のときに、民族問題に関して、いろいろな新聞の記事を解説するような形で本を作りたいといろいろな出版社に言ったら、どの出版社も、それは売れませんとおっしゃったんです。そして、3.11になった瞬間に、きのうまでそんなことを研究していなかった人までたくさんそんな本を出し始めたんですね。そういうことを見ると、本当は社会の側にも研究を受け入れる、そこの接合面というか、うまいつながりがなかなかまだできていないと思います。そこで、きょうの発表は学術の方からの問題を主に話しますけれども、それは社会と学術をつなぐ、そのつなぎ目のところそのものも考えないといけないと思います。
 1枚目、「総会」の2文字は間違いですから取ってください。1ページ目から間違ってすみません。
 2枚目です。前回の、お二人の社会科学の方からの御発表で、もう社会的有用性については、疑念よりもむしろ期待が大きいということは、きょうもいろいろ御発言があったと思いますので、飛ばします。
 あえて、人文学の方から申しますと、人文学の研究者だって社会的に応答したいというふうに思っていることは間違いないんですけれども、具体的にいろいろな課題があるだろうということで、いろいろな次元の課題を書いておきました。今、大型研究費、課題設定型についても、今のままでは、人文学からは低調だし、社会科学の人も満足してないということがよく分かりましたので、制度面での改善なんかもあるかと思います。
 だけど、やっぱり一番大きな問題は4番目のところではないでしょうか。法人化以降、人文系は特に、同じ分野の方がわずかしかいないんです。何人も同じ分野の人が固まって存在するわけじゃなくて、分散傾向が強いです。そんな分散している人文系の研究者が、駅伝なら学校対抗は分かりますけれども、学術のときに学校対抗していたら、この分野のテーマにはあそこの大学のあの人が一番だから手を組もうと思っても組めないんですね。学校対抗のプログラムに投資されていると、学術的に本当に振興するということにはならないので、学校を超えて、ここ、「学校際」と強調しておきました。組織を超えた共同研究です。科研なんかがそうだという理解もありますけれども、科研ではないタイプのお話をしたいと思います。
 それで、4ページ目に進めてください。話題提供として、私自身の職場での試みと個人の試みを三つずつ簡単に御紹介したいと思います。グッドプラクティスとまでは言いません。けれども、格闘している事例なので、それを参考に未来を考えていただければ有り難いと思います。
 人間文化研究機構は、5ページに示しましたように、六つの人文系の国立の機関です。先ほど国文学研究資料館のプロジェクトについてお褒めいただき、ありがとうございました。それはお金を付けてくださった方々のおかげさまで、実際にスタッフも頑張って取り組んでいると思います。それはともかくとして、経緯もミッションも違うこの六つを束ねていくことになった段階で、シナジー効果があるようにと連携研究を進めてまいりました。
 しかし、その連携研究をもっとしっかり進めていこうということで、6ページを御覧ください。最近、センターを作りました。このセンターの英語名と日本語名の大きな違いに御注目ください。全く翻訳にはなってないですね。英語ではこれぐらい学術的野望を秘めなければ意味がないのです。だけど、それを日本語で出したら恥ずかしくてとてもやれないので、謙虚な名前になっております。
 目的も、ちょっと腰が引けているんですけれども、例えて言うと、我々に外科手術ができるとは思っていないけど、根本的に体質的に根治しようと思ったら、生活習慣も含めて変えていかなければいけない。そのときに、患者の、この場合、社会ですけれども、そこの持っている基礎的な情報、カルテ情報は作る必要がある。そういう地味な、地道な基礎的研究を推進することで、現代的諸課題に資したいという、そういうスタンスです。方法は、大学共同利用機関だから、はっきりしています。大学を通じてです。いろいろなプロジェクトを企画立案し、そして、それを運用するというのがこのセンターのタスクです。
 7ページにお示ししましたようにいろいろなプロジェクトがありますけれども、きょうお話しするのが青字で示したものです。
 8ページ、北東アジア地域研究というのは、やっぱりロシア語をメインにしてロシアやスラブ世界を研究しているところと、中国語を通じて中国を研究しているところ、そして、韓国語を通じて朝鮮半島を研究している人というふうに扱う言語によって分断されがちで、そうすると、二国間の関係の束は作れますけれども、多国間関係として地域全体を研究するというのが余り実際には行われていなかったです。それで、プロジェクト形成に1年を費やしました。研究者に集まっていただいて、どういうふうにしたらいいかというのに丸々1年かけました。
 それで、結果的に、9ページにお示しするような、国公私立、共同研究機関もあれば、共共拠点もあるという、いろいろな組織を組み合わせて、しかもそれぞれの組織がテーマを分担いたしました。10ページのようにしてテーマを分担したんです。
 こうしたプロジェクトの特徴は、11ページに示しましたように、各研究所が得意なテーマを担っていて、研究機関、部局が結節点になります。さらに、部局を超えて日本全国でその研究にふさわしい人を束ねていくという、部分的に束ねていくという結節点を持ちながら全体のプロジェクトにするというものです。
 費用は決して多くないです。基盤Aぐらい、年間700万程度です。違うのは、若手研究者の研究経費と同じぐらい、年俸600万で若手研究者を雇って一緒にやっていくという点です。もちろん任期付きですけれども、やっぱりよく売れます。就職していきます。こういうふうに研究費がしっかりあって、身分が6年間安定していて、それで、お世話係もするし、しかもそこで大体いろいろな先生と絡み合うので、はけがいいです。それはとてもうれしいことです。
 こういう新しいプロジェクトの形を12ページでお示ししています。新学術領域研究や課題設定による云々というのも、細かに見て改善していくということはあってもいいんだけど、もっと抜本的に新しいプロジェクトの形を提案しようというわけです。そもそも採択プロセスにものすごい手間とお金が掛かっているので、その手間やお金で、プロジェクトを作るプロセスに掛けたらどうかということです。それから、単独の大規模資金よりも、マルチの中規模資金を組み合わせるようなそんな新しいプロジェクトの形があるのではないでしょうか。
 それで、13ページ目が、提案その1としてまとめました。社会が共創型であるなら、プロジェクトだって共創したらいい。産業界を考えずに書きましたけれども、デュアルサポートから一歩進めて、産業界も入れてトリプルサポートでもいいですね。人文系に産業界が投資してくれるようになれば。この共創プロセスに産業界の人が入ってくださってもいいんです。資金を持って参画してくださって、提案に一緒にプロジェクトを作るというようなことがあったらいいなと思います。
 この共創プロセスの値打ちは、例えば五つぐらいプロジェクトを作って、最終的には投資されるのが三つだけということになっても、あとの二つは、手ぶらで帰るわけじゃないんですね。結局一緒に出会って、いろいろなことを議論した、その1年間は人文系にとって研究に等しいので、そのプロセス自体が研究にも等しい。予備研究ですから、また次の研究のステップになるだろうと思います。
 次、14ページ目は、ちょっと別のプロジェクトです。日本に関連する資料が海外にありますので、それを調査研究し、更に活用するというプロジェクトがあります。個人的に、代理で参加した経験があります。フィンランド国立博物館にある全ての日本資料を悉皆調査して、その目録を英語で作るという仕事です。
 こういう要請が海外からたくさんありますが、そのニーズにとても人文機構だけでは対応できません。それで、行ってみたら、日本の研究者で、漆を見にこの人が来て、着物を見にこの人が来てというふうに、それぞれ分野ごとにいろいろな研究者が来てらっしゃるんだけど、そういう研究者を動員し切れないです。だから、こういうプロジェクトなんかもやっぱり一緒にしましょうと大いに呼びかけて、共創プロセスを経れば、もっと有効なプロジェクトができるようになるんじゃないかと思いました。
 でも、この最大の問題は、それにメタデータを付けるということでした。本は印刷されて複数あるから、同じものを特定するために、メタデータの付け方というのは歴史的に決まっていて書誌データという形式が整っていますけれども、物は一品一品別物ですので、それにどういうふうにメタデータを付けるかという国際標準はまだないです。それで、日本人が持っているものも余り公開されていないから、結局何を見るかといったら、ヤフオクを見て判断する。刀はすごく銘がはっきりしているので判断しやすいんですね。だから、そういう骨董品関係ならまだありますけれども、ファインアートでない地味なもの、みのとかかさとかそういうものに関しては保存だけでも問題で、それをどんなふうにデータにしていくかというのはなかなか実はできていないです。
 これをするためには、まず日本国内で取り組んでおく必要があります。略して歴ネットワークと呼びますけれども、この歴ネットワークを作ろうという動きも人文機構ではしています。それが15ページです。 歴ネットワークのタスクをもうちょっとブレークダウンすると、第一に、メタデータの付け方に関する国際共同研究があり、これは科研でできる。しかし、圧倒的に大変なのが、第二のタスク、データセットを作るという入力業務です。類似のものにジャパンサーチという、日本の文化を発信するために大きなプロジェクトが動いていますけれども、これは図書館主導なので、データを今から一から作るなんていう工程は想定されていません。データを一から作らなければいけない物質資料については、ジャパンサーチの流れに乗っていないです。
 第三のタスクについては、書いてなかったんですけれども、今、皆さんの御議論を聞いていたら、こういうようなところに実は産業界と組んでもいいんじゃないかと思います。人文系の研究者が博士課程に行って、優秀な人が研究者に残るばかりでなく、もっと社会との応答の方が好きだという人は企業に就職するというふうになればいいですね。裾野が広くなければ山は高くならないので、裾野を広げる意味でも、人文系についても産業界からの支援が得られて、学位を取った人が産業界に、企業に就職するという、そういう社会のバリューチェーンを作らないと、結局ポストは増えないので、人材育成はなかなか難しいかなと思っています。
 それで、17ページは、人文系のみの基礎的な課題であっても、こんなふうに技術でスマートになっていくわけですから、テーマは人文系オンリーみたいなものでも、ピュアなものでも構わないだろうと思います。それが17ページです。
 18ページは、人文知コミュニケーターというのを人文機構で採用しているんですけれども、どうしても機関の発信したいことを発信するので、社会のニーズを捉えるということはまだまだできてないと思います。社会との応答を担うような学術コンシェルジュみたいな部門が本格的に実は必要なのかもしれないなと思うきょうこの頃です。
 人文系サイエンスマップについては、時間がないので省略します。

【西尾分科会長】  時間が迫っていまして…。

【小長谷委員】  23ページから個人の試みです。卒業論文は誰もフォローアップなんかしませんでした。その頃、モンゴルなんて誰も関心がなかったんですけれども、最近それが引用されるようになってきて、世の中が変われば、価値が変わるので、人文系の論文の価値というのは、ある意味予測不能なところがあるという話題です。
 それから、24ページは私のフィールドノートの写真です。生活文化をとりあえずいろいろ記録します。ネタがたくさんあるので乳製品の論文を書いたところ、科研費を一度も取る必要などなく、たくさんの企業がいろいろな形で支援してくださり、何本も論文をリバイスできました。学界と業界の評価は異なるので、そう簡単に産学連携はできないという事例です。でも、これもコンシェルジュがいたら解決するかもしれません。
 26ページは、100年後に遺すという仕事です。市場経済へ移行する、いわゆる民主化のときに、モンゴルの旧体制の書籍が捨てられて便所紙になるほど、価値が転換しているときに、誰もが無視していった社会主義時代の政治家のライフヒストリーをインタビューして、翻訳しました。これは100年後ぐらいに感謝してくれればいいやと思っていたんですけれども、案外、すぐに評価されて、自分でしてなくて、他人が英訳してくれたんです。そして、英語化されると、国際的な引用が非常に増しました。
 次の27ページは、自分で英語化しましたけれども、キリル文字、ロシア文字にするということはしなかったところ、それを読んだ文学研究者が、一生で一番泣いたからということで、ロシア文字にしてくださったんです。そうすると、カスピ海の向こうへ学会で行ったときに、「こんなことをしている日本人がいるけど、おまえ知っているか」と言うから、「それは私だよ」と自慢できたんですね。
 このような事例から言いたいのは、人文系の仕事は古くても価値がある。あるいは、古くなるほど価値が出る。それはその当時の社会を映し出しているから。そして、それを英語化すると利用度が非常に増しますので、古いものでもタイトルやキーワードやアブストラクトだけでも付けて国際発信するということで、資産価値が上がるんじゃないかということです。そして、そういうところに若手研究者を雇用してくだされば、とにかくキャリアパスが増えますので、そういうふうにしたらどうでしょうか。
 最後です。未来社会のことを考える上で人文学・社会科学は不可欠なので、そうしたスペックを持ってないものは不可とするぐらい、常に全てのプロジェクトに人社部分を入れていただくようにするというのも一つの方法ではないでしょうかということです。
 今まで戦略的なところは御議論ありましたので、戦略をもう少し整理していくためにも、タクティクスのレベルがあった方がいいでしょうから、少しそういうレベルでブレークダウンしてお話しさせていただきました。ありがとうございました。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。今の御発表は、ワーキンググループの調査検討事項に関連して、未来社会の共生に向けた人文学・社会科学的アプローチからの応答という観点でお話しいただきました。人文学・社会科学の研究分野の特性をお示しいただいた、私としては非常に印象深いプレゼンテーションでした。
 時間の都合で、御質問や御意見ありましたら、1件か2件だけにさせていただきたいのですけれども、何かございませんか。
 どうぞ。

【城山委員】  どうもありがとうございました。今、小長谷先生にお話しいただいたことを若干解釈すると、多分きょう御提示いただいた3-1との関係でいうと、多分今は研究費支援だとか、研究環境整備だとか、若手支援だとか、ばらばらで項目が立っていて、それできれいなんですけれども、実際にやれることはその三つをうまくつなぐ何か仕掛けを提案するといいのではないかと、多分そういうインプリケーションなのかなと思いました。

【小長谷委員】  まさにその通りです。

【城山委員】  特に研究費というか、むしろネットワーキングですね。学校際の学際ってすごく印象的だったんですが、やっぱりそういうものを作ったりだとか、あと、やっぱり若手を数年間ちゃんと雇用するものを作るというのはすごく大事で、先ほどの応答と、やり取りとの関係でいうと、やっぱり理系と比べて文系が圧倒的に違うのは、ポスドク問題もあるんですが、そもそもポスドクのポストがないということですね。学振のポスドクのポストぐらいしかないわけですね。そのときに一定の期間で受け入れられる仕組みがあるということはすごく重要だと思います。
 それから、先ほどのやり取りとの関係でいうと、人文社会科学振興のプログラムは、これも小長谷先生と昔一緒にやらせていただきましたけれども、多分総額年間4億とか3億とかぐらいなんです。多分桁が違う話だと思います。同じような話をJSTのRISTEXでやると、20億ぐらいの規模になるんですね。だから、本当に人文・社会科学全体をやろうと思うと、本当は額の話が一番言いたいんですが、そこが現実的な制約があるとすると、少ない額をマルチパーパスに使っていくというのができ得る工夫で、そういう次善の策を多分考えるということなんだろうなと思います。
 これまでは、人文・社会サイドのガバナンスの問題も若干あるんだと思いますが、少ない額で何かやっておかなければいけないので、ちょっとずつ変えていじってきたというのがここ十数年の歴史なので、確かに微修正で何かやったふりをしますよということだけは避けるべきだというのは、当事者としてもそういう気持ちはありますので、その辺りを踏まえた上で御検討いただけると有り難いなと思いました。
【西尾分科会長】  城山先生、小長谷先生の御発表の持つ意義をサマライズしていただきまして、どうもありがとうございました。
 ほかにございませんでしょうか。
 どうぞ。

【喜連川委員】  先ほど発言する機会がなかったわけですが、栗原先生の古典籍の話といいますのは、情報研が微力ながらサポートをさせていただきまして、非常に良いものが出来てきたかなと思っております。これはいわゆるデジタルヒューマニティという領域でございまして、今の御発表の資料の中にも、何ページかちょっと忘れましたが、「デジタル・プラットフォームの上に乗せる!」とエクスクラメーションマークが付いているというのは、IT屋にとりましては大変勇気付けられる表現であったと思います。
 冒頭西尾先生からも御指摘ありましたように、やはり第5期から第6期という、その時間間隔ぐらいで何をしていくのかという、そういう視点が非常に重要じゃないかなと。そういう意味でいいますと、先ほど来城山先生から御指摘いただいたときに、例えば「過去です」というお話があって、これからはもう少し「未来に」、そういうところが実証実験の中でというようなお話もありました。
 今国会を通っておりますいわゆるサンドボックス法案といいますのは、まさにエビデンスをプロアクティブに作る、デジタルに作ると、そういう世界にどんどん入ってきているんじゃないかなと思うんですけれども、サイエンスと人文・社会を接点するところに、やはりデジタルというものと、申し上げましたようなプロアクティブにデータを作っていくんだ、エビデンスを作っていくんだというような切り込み方というのは一つ考えられるのではないかなと感じた次第です。
 それから、人材の話をなされたと思うんですが、最近に有名なのは、MITのモラルマシンです。エシックスを皆さんも御存じのように、自動車を運転していて、こちら側におじいさん、おばあさんがいて、反対側に赤ちゃんがいると、どっちに車を切るんですかというアンケート設定です。こんなこと答えられないわけですけれども、アンケートを物すごくたくさん取って、やっぱり皆さんお子さんを大切にされるというようなことを発表しています。
 ですから、逆に言うと、サイエンスの中で人文系の方々を雇用したい方というのは今すごくたくさんいると思うんです。ですけど、そういう方が今どこにおられるのかも分からない。これも多分、デジタルの中で、いわゆるクラウドソースのエクステンションで随分解決できるようなところがあるかと思います。一つの切り口はやっぱりデジタルという言葉を何か入れていただくのが分かりやすいのではないかなと思って、ちょっと勝手な発言をさせていただきました。

【西尾分科会長】  本当にどうも貴重なコメントありがとうございました。それと、デジタルヒューマニティのことでは、先生が所長をされているNIIが本当に多大な貢献をなされていることに敬服いたしております。
 先ほど来、城山先生、井野瀬先生、里見先生がおっしゃっていますけれども、人文学・社会科学系に関して本委員会で報告書を書くときに、今までと違った切り口といいますか、もう一段フェーズの進んだ段階の内容にしないと、また以前の報告書の繰り返しかということになります。今、喜連川先生から言っていただきましたデジタルというようなことの切り口、そういうものを含めて今後きっちり考えていきたいと思っています。どうも貴重なコメントありがとうございました。
 時間が来ておりますので、ここで、今後の議論の進め方として小グループで検討していくということに関しまして、事務局から簡単に説明していただけますか。

【春山学術企画室長】  資料3-3を御用意いただければと思います。趣旨や審議事項につきましては、きょう用意した資料をベースにしてございますけれども、きょう頂いた御議論も踏まえて,形にするということだと思っております。
 検討体制と致しましてはワーキンググループということで、ヒアリング等を中心に検討を進めていくということです。
 スケジュールのところを御覧いただきますと、10月25日、11月14日、12月14日ということになっていますが、これは今まで学術分科会の開催日程ということであらかじめアナウンスさせていただいていた日程のところを予定しております。
 これは私から申し上げるかですが、この委員の人選につきましては、今後また西尾分科会長と事務局とで御相談させていただくというようなことになろうかと思います。
 以上でございます。

【西尾分科会長】  今御説明いただいたような形で、ワーキンググループを設置して、集中的に議論をさせていただいて、その後でまたこの分科会の方でいろいろ御審議いただくという形態を取りたいと思っておりますが、それでよろしいですか。
 そうしましたら、その方向性で進めさせていただきます。委員の人選等につきましては、当方に御一任いただけますように、どうかよろしくお願いいたします。
 また、今後、分科会の委員の方々にも様々な観点で御意見を頂戴することが多々あるかと思いますけれども、何とか今回考えております報告書については、斬新で、しかも内容の濃い、また政策的にも意義のあるものにしていきたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。
 時間となっておりますので、本日の議論は終了させていただきますけれども、委員の皆さん方には本当に貴重な御意見の数々頂きまして、どうもありがとうございました。また、小長谷先生、貴重な御発表をありがとうございました。
 それでは、本日の議題は終了させていただき、最後に、事務局の方にバトンタッチをしたいと思います。
 局長からも何かコメントはよろしいですか。

【磯谷研究振興局長】  大丈夫です。

【西尾分科会長】  では、事務局の方で。

【春山学術企画室長】  事務連絡だけさせていただきます。次回の学術分科会としましては、12月14日に開催ということになります。今御審議いただきましたとおり、人文学・社会科学のワーキンググループということでは、10月25日に第1回という形で開催させていただくという運びなので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 また、本日の議事録につきましては、後日またいつもどおりメールで確認させていただきますので、これについてもまたよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【西尾分科会長】  それでは改めて、本日はどうもありがとうございました。これにて終わりにします。

                                                                  ―― 了 ――


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