人文学・社会科学特別委員会(第27回) 議事録

1.日時

令和7年7月30日(水曜日)13時00分~14時59分

2.場所

オンライン会議にて開催

3.議題

  1. 人文学・社会科学特別委員会の議事運営等について
  2. 今後の人文学・社会科学研究の在り方について
  3. その他

4.出席者

委員

(委員、臨時委員、専門委員)
大橋主査、木部委員、仲委員、宇南山委員、尾上委員、北本委員、治部委員、森田委員、安田委員、青島委員、後藤委員、田口委員、山中委員、米村委員
(科学官)
清水科学官、恒吉科学官

文部科学省

山之内振興企画課長、助川学術企画室長、林学術企画室長補佐

5.議事録

【大橋主査】  それでは、定刻となりましたので、ただいまから第27回人文学・社会科学特別委員会を開催いたします。
 大野分科会長より本委員会の主査に指名されています大橋と申します。御指名ですので、何とか務めさせていただければと思います。今回、第13期ということで、人文学及び社会科学がいい方向に進むような議論ができればという思いを強く持っておりますので、ぜひ委員の皆様方のお力を借りながら、いい議論ができればなと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、本日の委員会の開催に当たって、事務局から配付資料の確認と、注意事項等ございますので、御説明お願いいたします。
 
【林学術企画室長補佐】  事務局でございます。本日はオンラインの開催となりますので、事前にお送りしておりますマニュアルに記載のとおり、御発言の際は「手を挙げる」のボタンをクリックしていただきまして、指名を受けましたらマイクをオンにしていただいて、お名前を言っていただいた上で御発言をいただければと思います。主査以外の委員の先生は、御発言されるとき以外はマイクをミュートにしていただきますようにお願いをいたします。もし不具合等ございましたら、マニュアルに記載の事務局連絡先まで御連絡いただければと思います。
 なお、本日の会議でございますが、傍聴者を登録の上、公開の会議としてございます。
 資料につきましては、事前に電子媒体でお送りさせていただいております。議事次第に記載のとおり、資料の1-1から資料の3、参考資料1-1から2-3をお配りしておりますので、もし資料の不足等がございましたら事務局まで御連絡をいただければと思います。以上でございます。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 今回第13期人文学・社会科学特別委員会ということで、初回でもございますので、今回就任されております委員の皆様の御紹介と、事務局の出席者の御紹介も併せてお願いできればと思います。
 
【助川学術企画室長】  学術企画室長の助川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 第13期の人文学・社会科学特別委員会に就任された先生方を、事務局より御紹介申し上げます。資料の1-2の順に、本日御出席の先生方を紹介させていただきます。
 まず、木部暢子委員でございます。
 
【木部委員】  木部でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、仲真紀子委員でございます。
 
【仲委員】  仲と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、宇南山卓委員でございます。
 
【宇南山委員】  宇南山です。よろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、主査の大橋弘委員でございます。
 
【大橋主査】  よろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  尾上孝雄委員でございます。
 
【尾上委員】  尾上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  北本朝展委員でございます。
 
【北本委員】  北本です。よろしくお願いします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、治部れんげ委員でございます。
 
【治部委員】  治部です。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  森田果委員でございます。
 
【森田委員】  森田です。よろしくお願いします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、安田仁奈委員でございます。
 
【安田委員】  よろしくお願いします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、青島矢一委員でございます。
 
【青島委員】  青島です。よろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、後藤真委員でございます。
 
【後藤委員】  後藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  田口茂委員でございます。
 
【田口委員】  田口です。よろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、山中玲子委員でございます。
 
【山中委員】  山中でございます。どうぞよろしくお願いします。
 
【助川学術企画室長】  続きまして、米村千代委員でございます。
 
【米村委員】  米村です。よろしくお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  よろしくお願いいたします。
 なお、先ほどありましたけれども、本委員会の主査につきましては、資料1-3に規定がございますけれども、規定によりまして、学術分科会長が主査を指名することとなってございまして、大橋委員が指名されておりますので、御報告申し上げます。
 続きまして、事務局の出席者の紹介でございます。本日は事務局より、振興企画課長の山之内が出席してございます。その他、私、助川ほか関係官が参加してございます。
 ここで一言、研究振興局振興企画課長の山之内より御挨拶申し上げたいと思います。
 
【山之内振興企画課長】  山之内でございます。第13期の第1回目の人文学・社会科学特別委員会の開催に当たり、一言御挨拶申し上げさせていただきます。
 まず、委員会の皆様方におかれましては、大変お忙しいところ委員をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
 前期においては新たに人文学・社会科学のDX化に向けた研究開発推進事業を立ち上げることができ、また、委員の皆様に今後の人文学・社会科学の振興に向けた推進方策について取りまとめていただきました。昨今、AIの急速な進展をはじめ変化が激しく、先行きが不透明な状況が続く中、人間の生きる力の根源や社会の根本を支える人文学・社会科学の果たすべき役割は一層大きくなっていると認識しております。委員の皆様におかれましては、御知見を生かし、人文学・社会科学の様々な論点について活発な御議論をお願いしたいと考えております。文部科学省といたしましても、いただいた御意見を踏まえ、人文学・社会科学のさらなる振興に努めてまいります。
 最後に、これから2年間、人文学・社会科学の振興のためにお力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。以上でございます。
 
【大橋主査】  ありがとうございました。
 それでは、議事に移りたいと思います。本日、議事3つございますので、順番に行きます。
 最初、議題の1、人文学・社会科学特別委員会の議事運営等についてということでございます。こちらのほうは、本日は第13期の初回になりますので、事務局より本委員会の議事運営等について資料を御用意いただいていますので、御説明をお願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  改めまして、学術企画室長の助川でございます。
 まず、資料1-1を投影してございますけど、学術分科会における委員会の設置について御報告申し上げます。この特別委員会が設置された設置要綱でございますけれども、調査事項として、枠の中のとおり、人文学・社会科学の学問的特性を踏まえた振興の在り方、データ基盤整備方策、その他人文学・社会科学の学術研究に関する事項ということを調査事項とすることとして設置されてございます。
 本委員会の設置期間につきましては、第13期の科学技術・学術審議会の終了まで、すなわち2027年(令和9年)の2月14日までとなってございます。
 さらにこの委員会の運営の規則についてでございますけれども、今、資料の1-3を投影してございます。本委員会の議事運営につきましては、前期の第12期と同様に、本委員会用のものというのを別途定めるのではなくて、この委員会の親会議である学術分科会の運営規則について、分科会長を主査と読み替えるなどして準用して運用することとしてはどうかと考えてございます。
 ここに分科会運営規則が出ているんですけれども、主立った点、特に申し上げるべき点だけ申し上げておきますと、6条のところですけれども、委員会の会議及び会議資料は基本的には公開とすることとなります。人事に係る案件等については例外ですけれども、基本的には公開となります。そして、7条にございますけれども、議事録を作成し、これも公表するということになります。このような形で進めていただくのはいかがでしょうかというふうに考えております。
 事務局からは以上でございます。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。委員会の運営ということで、事務局より、学術分科会運営規則という今、投影してもらっているものですけれども、これを準用するという御説明がありました。特段変わった内容でもないということで、通常なのかなと思いますけれども、これで御異論のある方いらっしゃいますでしょうか。よろしゅうございますか。
 それでは、このようにさせていただきます。
 運営規則の第5条の7項というところに、主査に事故があるときに、当該委員会に属する委員等のうち、主査があらかじめ指名する者がその職務を代理するということで、主査代理というものなんだと思いますけれども、この指名がさせていただけるということでございまして、差し支えなければ私としては、森田果委員に主査代理をお願いしたいと思うんですけれども、森田先生含めてよろしゅうございますでしょうか。
 
【森田委員】  よろしいです。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。森田先生、挨拶をしてもらいたいということですが宜しいでしょうか。
 
【森田委員】  法学を専門としている森田です。大橋先生に差し支えがあった場合に、代理として能力の及ぶ限り務めさせていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
 
【大橋主査】
  ありがとうございます。それでは、そのように、森田先生には主査代理ということでお願いしたいと思います。
 それでは、議題の1、以上とさせていただいて、議題の2ということでございます。
 議題の2は、今後の人文学・社会科学研究の在り方についてということでございまして、こちらのほうは事務局に資料2を御用意いただいています。まず、こちらの資料2を御説明いただいた後、討議等させていただければと思います。それでは、助川学術企画室長、お願いいたします。
 
【助川学術企画室長】  改めまして、助川でございます。今、資料の2を投影してございます。第13期の初回となりますので、人文学・社会科学を取り巻く状況といたしまして、人文学・社会科学の振興に向けた取組と、前期第12期の本委員会における審議状況について、私ども事務局から紹介させていただければと思います。
 まず、右下のページで申しますと3ページでございますけれども、人文学・社会科学の振興に向けた主な取組をまとめてございます。このページ以降、大きく4つの観点からまとめてございますけれども、この3ページは研究資金に関するものでございます。人文学・社会科学が科学技術・イノベーション基本法の対象である科学技術の範囲に位置づけられたということを踏まえまして、まず、ここに幾つか挙げてございますけれども、まず、初めに科研費等により研究者の自由な発想に基づく研究活動を支援しまして、人文学・社会科学においても多様で分厚い研究を蓄積していくとともに、また、社会課題を見据えて、人文学・社会科学により社会実装に向けたELSI(倫理的・法的・社会的課題)ですとか複雑化する社会の諸課題の解決を目指す研究を振興してございます。 例えば、下から2番目のところに書かれてございます、戦略的創造研究推進事業というものがございまして、こちらでは令和7年度の戦略目標の1つといたしまして、安全かつ快適な“人とAIの共生・協働社会”の実現というものを掲げてございます。そこでは、AI分野だけではなく人文・社会科学も含めた幅広い分野の研究者の参画、関係領域の発展が期待されているものでございます。
 続いて、右下で4ページでございますけれども、研究基盤整備、共同利用・共同研究の推進の視点からの紹介でございます。一番上のところに書いてございますけれども、昨今、国際的なデジタル・ヒューマニティーズの潮流を踏まえまして、我が国においても国内の学術機関の協働体制の構築ですとか、分野に適したデータ規格のモデルガイドライン、人材育成プログラムの開発など、研究のDX化のための基盤の開発が求められるということでございまして、第12期の人社委員会からも御示唆をいただきながら、令和6年度から、ここにあります人文学・社会科学のDX化に向けた研究開発推進事業というものを立ち上げて、令和8年度までの3か年の計画で進めているところでございます。
 そのほかにも研究基盤の形成として、例えば2つ目のところ、国文学研究資料館においてデータ駆動による課題解決型人文学の創成プロジェクト、あるいはここのところ、国語研で実施しますけれども、国立国語研究所における現代日本語コーパスの拡充、また、JSPS(日本学術振興会)において、人文学・社会科学データインフラストラクチャー強化事業を実施するとともに、また、人間文化研究機構ですとか、全国の共同利用・共同研究拠点を中心に、共同利用・共同研究の推進にも取り組んでいるところでございます。
 次のページ、5ページでございますけれども、人文学・社会科学系の人材の重要性は、科学技術・学術審議会だけではなくて、中央教育審議会のほうでも指摘を頂戴しておりまして、文科省といたしましても、ここにありますが、人文・社会科学系ネットワーク型大学院構築事業ですとか、デジタルと掛けるダブルメジャー大学院教育構築事業などの取組を行ってございます。
 さらに令和6年3月には、博士人材活躍プランというのを策定してございまして、このプランを踏まえた取組として、大学院における学位授与の状況に関する情報公開を促進するですとか、人文学・社会科学も含めた博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けたガイドブック、ロールモデル事例集の作成・公表なども行ってございます。今申し上げましたガイドブック、ロールモデル事例集は、本日の参考資料の2-2と2-3で添付してございます。
 資料に戻りまして、6ページの研究成果の可視化・モニタリングでございますけれども、人文・社会科学が科学技術・イノベーション基本法の対象である科学技術の範囲に位置づけられた、先ほど申しましたことに伴いまして、人文学・社会科学の研究力も客観的に可視化されることが求められるようになりまして、本委員会での議論を踏まえまして、文科省としても、例えば一番上の事業において、書籍に係る指標開発に向けた調査分析などに関する事業などを実施しているところでございます。
 続いて、前期の第12期における審議状況でございます。
 8ページ目、9ページ目、10ページ目、11ページ目ですけれども、昨年度、ですので今年の1月17日にまとめていただいた、今後の人文学・社会科学の振興に向けた推進方策について(審議のまとめ)の概要と参考資料でございます。
 簡単に内容を申しますと、人文学・社会科学の現代的役割として、社会経済情勢ですとか国際情勢が急激に変化する中で、そういう現代にあっては人文学・社会科学の共通の価値・特長を踏まえつつ、果たす役割や貢献の社会的意義を絶えず再検討し、社会との接点を常に意識して、新たな知の創出に取り組んでいくことが一層求められるということを強調いただいておりまして、そのためのさらなる推進方策として、新たな「知」の創出、研究成果の可視化とモニタリング、研究成果の国内外への発信などといった柱で御議論をいただいたところでございます。
 10ページ目、11ページ目が、その審議のまとめの参考資料でございますけれども、11ページのほうを御覧いただければと思います。11ページが、人文学・社会科学の研究のプロセスを可視化したものでございまして、自然科学においては、中規模、大規模な実験設備そのものが研究基盤というふうに言われることも多い中、人文学・社会科学では古典籍ですとか社会調査のデータなど多様な資料を用いて研究が進められており、これらをまとめた論文が出されたり、データベース化されたり、注釈が作成されたりといったものが積み重ねられることによって、研究基盤にまたなっていくという特徴がございます。また、そのような、多様な資源を利活用することで、分野の研究が深化していったり、異分野と融合することで研究の幅を広げることで新たな知が創出され、あるいは新分野が創成されるということにもつながるものでございまして、多様な研究支援が利活用しやすい状態にあるということは、分野の研究を加速させ、異分野融合研究を深化させる、両方につながることではないかというふうに考えてございます。
 また、研究の成果が論文化、データベース化されて研究資源になることで、ここのところですけれども、再び研究基盤の形成、成熟に寄与することになると考えてございます。
 また、下のところでグレーで書いていますけれども、人材育成ですとか社会との関わり、国際性という視点も重要でありまして、大学共同利用機関ですとか共共拠点による共同利用・共同研究体制は、こうした5つの観点、こういう活動に貢献しているのではないかということを図示したものでございます。
 12期の審議のまとめにおいては、12ページでございますけれども、今後、特に検討すべき事項として3つ掲げられてございます。1つ目が、人文学・社会科学における研究基盤について、その在り方を大局的に整理した上で、活用方策や必要な支援について検討を深め、今後の研究基盤の拡充・構築、分野を超えた利活用を進めていく必要があるのではないか。また、2として、人文学・社会科学における共同利用・共同研究体制につきましてですけれども、その成果ですとか現状の課題、期待される役割などについて議論を深める必要があるのではないか。また、人文学・社会科学の研究成果の可視化、モニタリングについて引き続き検討を進める必要があるのではないかといった形で、第13期に向けて引き継いでいただいているところでございます。
 以降は資料がついてございますけれども、先ほど冒頭のところで人社の振興に関する取組についての関連事業の参考資料となっておりますので、適宜御参照いただければと思います。私からは以上でございます。
 
【大橋主査】  続いて、今期第13期の委員会の進め方ということで、資料3ですが、こちらもお願いできますでしょうか。
 
【助川学術企画室長】  かしこまりました。引き続き、資料の3を御覧いただければと思います。
 続いて、第13期の進め方でございますけれども、今の資料と若干かぶりますけれども、第12期の審議を踏まえ、今後特に検討いただきたい論点として、人文学・社会科学における研究基盤、1つ目。2つ目として、共同利用・共同研究体制。3つ目として、研究成果の可視化とモニタリング。さらに4つ目、その他人文学・社会科学の研究振興に関する事項についての4点を挙げてございます。
 第13期の本委員会については、これらを特に御議論いただきたいと考えているところでございますけれども、引き続き、3ページを御覧いただければと思います。当面の議論の進め方についての御提案でございます。
 第12期において、世界の潮流ですとか、研究現場の課題などについて活発に御議論いただいたところでございます。さらに生成AIなどのテクノロジーの進展ですとか、社会情勢というのはこの数年でもさらに大きく変化もしておりまして、第13期の審議を開始するに当たって、ここの下の検討の進め方のイメージのような形でお願いできればというふうに考えてございます。
 本日というのと次回以降というふうに分けてございますけれども、まずは本日改めて、人文学・社会科学研究の特性ですとか、テクノロジーの進展ですとか、そういう近年の変化を踏まえて、今後の人文学・社会科学研究のあるべき姿を御議論いただきまして、それらを念頭に、今後そうした姿を実現するに当たって、まず、研究基盤、人材育成といった各観点の目指すべき状態、現状の課題は何かということについてより詳細に御議論いただいて、さらにそれらを踏まえて、一番下のところですけれども、現状の課題を解決し、目指すべき状態を実現するためには具体的にどうすればいいかという、そういう具体的な方策の議論へとつなげていくと、そういった流れで進めていってはいかがでしょうかというふうに考えてございます。
 それで一番上のところは赤箱のところで、人文学・社会科学の特性ですとか近年の変化を踏まえてと申しましたけれども、本日御議論いただく参考として、人文学・社会科学研究の特性ですとか近年の変化として指摘されているものを、幾つか私ども事務局のほうでまとめてございます。それが4ページ目以降でございます。
 もちろんこれに尽きるわけではないとは思いますけれども、まず、人文学・社会科学のそもそもの特性についての例として、まず、研究対象の視点、すなわち人文学・社会科学というものが人間・文化・社会、こういったものを研究の対象とする学問であるという視点は1つ重要と考えてございます。また、研究基盤・研究資源の視点が次にございますけれども、先ほどの審議のまとめの参考資料のところでもちょっと触れましたけれども、人文学・社会科学においては、多様な資料、データ、それらを研究した成果論文などが蓄積されることで研究基盤が形成されると、そういう特徴があるというふうに認識してございまして、一番下の箱のところに具体的に記載しておりますけれども、研究資源と一口に申しても、実態はこれだけ多様であって、その多様性を踏まえた振興方策の議論が必要かと考えているところでございます。
 続きまして、5ページ目でございますけれども、研究成果の発表の仕方の多様性というのも重要な特徴として挙げられると考えてございまして、令和5年2月、ですので11期、前々期の人文学・社会科学特別委員会のときの取りまとめでございますけれども、ここの色つきで囲っております成果発表媒体が多様であるということ、発表の言語が多様であるということ、また、社会的インパクトという意味で多様であること、こういう3つの多様性を指摘いただいたところでございます。
 また、研究の時間軸という点についても若干付言いたしますけれども、日本学術会議の以前の提言ですとか、あるいは本委員会の1月の提言におきましては、独創的な研究成果を上げるために必要とされる時間というのが相対的に長いということが、いわゆるスローサイエンスであるという特徴も指摘されているところでございます。
 以上が、人文学・社会科学研究の特性の部分について幾つか例を挙げたところでございますけれども、続いて近年の変化の例でございます。こちら、グラフが出てきていますけど、研究規模の視点からの図でございます。まず、サイエンス全体の傾向として研究の大規模化が指摘されているんですけど、このページのグラフというのは、1つの論文の著者数の平均を分野ごとに経年でグラフ化したものでございます。どの分野においても基本的には右肩上がりの傾向を示しておりまして、いろんな分野、自然科学含めてですけど、自然科学、人文学・社会科学ともに、1つの論文当たりの著者数が増加しているということを示してございます。
 右下にもありますけど、人文学・社会科学においても、近年は1つ当たりの論文の著者数が増加しているということでございますけれども、ただ、この4つのグラフ、縦軸の縮尺はばらばらでございまして、右下の人文学・社会科学の著者数を他の3つのグラフと比較してみますと、自然科学と比べると著者数が少ないということがお分かりいただけるかと思います。一方、グラフとしては、さっき申しましたように右肩上がりになっておって、近年は、一番上にあるのが心理学ですけれども、心理学ですとか経営学などを中心に、人文学・社会科学においても研究規模がかつてより大きくなっているという傾向が示されてございます。
 続いて、研究の高度化・高効率化という視点について、具体的な事例をもって御紹介申し上げたいと思います。最近も報道されていたものでございますけれども、AI活用によるナスカ――ナスカの地上絵のナスカですね、ナスカ調査の加速というのをちょっと事例として御紹介申し上げたいと思います。山形大学のナスカ研究所とIBM研究所の共同研究におきまして、飛行機から撮影した膨大な量の空中の航空写真を分析したところ、ナスカの地上絵の有望な候補というのは合計1,309件特定されまして、約4分の1について現地調査を行った結果、僅か6か月の間で303個の新しい具象的な地上絵を発見することできたということで、具象的な地上絵の数がほぼ倍増したという事例でございまして、AIを使用することによって、地上絵の発見率が16倍も向上したというような事例も出てきているところでございます。
 ナスカの地上絵の研究における現地調査の効率性という長年の課題に対して、AIを活用することによって革新的なものを起こしたと言えるというふうに考えておりまして、今後、人文学・社会科学分野においてもAI for Scienceといいますか、そういったものによる方法論の転換というか、革新的な転換が起こっていく可能性を示しているというふうに考えてございます。
 下の段が研究対象・手法の視点でございますけれども、人文学・社会科学、特に人文学で、書物について記載されている文字情報を読み解くということで新たな発見につなげていくという活用法が一般的かと、多いかと考えてございますけれども、ここで紹介しているものは、歴史的な書物がマテリアル、素材、材料としても分析対象となり得るという御紹介でございます。
 歴史的な書物、昔からあるものでございますので、それ自体を高精細のデジタルの顕微鏡で観察することによって、文献でのみ伝わっていた事実について、書物、絵画を自然科学的な観察により実証するですとか、あるいは右のところにございますけれども、分析装置を活用して、古典籍、書物を解析することによって、例えば和紙に紛れ込んでしまっていた毛髪から当時の食生活を知るといった、そういったこともでき得るようになってございます。このようにマテリアル、材料としての書物から情報を抽出するということで、新たな知見、視点が生み出されるという意味で、人文学・社会科学研究を深める、幅を広げる、そういう可能性があるというふうに考えてございます。
 以上、先ほどのところで引用してきました、人文学・社会科学の特性ですとか、最近の傾向、特徴というのを、私ども事務局として承知しているものを例として書かせていただきましたけれども、8ページ目を御覧いただきまして、改めて本日御議論いただきたい点というのをくくり出してみたところでございます。
 今後の人文学・社会学研究のあるべき姿を議論するに当たっては、今申しました人文学・社会科学の特性というものと、テクノロジーですとか、社会情勢等の変化を受けた近年の変化、この両方の視点、どちらに偏るではなくて、両方の視点を踏まえた検討が必要と考えてございます。技術革新ですとかサイエンス全体のトレンドなどの近年の変化は、こういう研究の在り方にも大きく影響を与えますけれども、その際には、例えばAIの効果をより発揮させるために、質の高いデータベースを構築するためには、研究資源の多様性も重要となるといった形で、人文学・社会科学の特性にも目を向ける必要が出てまいります。また、逆にそうした変化を受けてもなお必要となる視点・能力といったものは、時代が変化しても変わらない人文学・社会科研究の幹として、今後も引き続き重要になると考えてございます。
 このような認識の下、本日お願いできればと申しますのが、第13期の議論のスタートに当たって、人文学・社会科学研究の不易と流行と申しますか、その特性とは何か、また、近年の変化は何か、これらを踏まえた人文学・社会科学研究のあるべき姿とは何かといった点について、当然人文学・社会科学の中でも、分野によって状況は様々かと思います。先生方の身近な具体的な事例も含めまして御議論いただければと思います。
 また、ちょっと参考のところですけれども、この1個上の会議の学術分科会で、人文学・社会科学関係の意見もありましたので、若干御紹介を申し上げたいと思います。9ページ目でございますけれども、今期の初回となった第95回、4月の会議では、人文学・社会科学の意義・重要性について御意見を頂戴したところでございます。
 10ページ以降でございますけれども、今月頭に開かれました第96回におきましては、AI時代における学術の在り方というのを御議論いただいておりまして、そのときの資料を10ページのところで抜粋してございます。学術一般の話なので、例として自然科学系の材料のものを引用しておりますけれども、現在、AIが様々な分野の科学研究で活用されておりまして、例えば材料開発でいうと、AIを活用することによる研究のサイクルの加速といったものですとか、新発見の加速といった効果が生まれつつございます。
 こういうのを御紹介した上で、11ページ目ですけれども、関連する意見を抜粋してございますけれども、例えばこういう意見がございましたと御紹介いたしますのが、AIの活用に関しては、基本的には実は自然科学系と人文系の研究でそんなに多くは変わらないのではないかと。ただ、自然科学との違いとしては、人文系のデータが非常に多様であるということが挙げられるのではないかと、そういったような御指摘を頂戴してございます。
 雑駁ではございますけど、私からの説明は以上となりまして、ぜひ先生方から、先生方御自身ですとか、あるいは先生方の身の回りの事例も踏まえて、多様な視点から、これらの点について御知見をお借りできればと思っております。私からは以上でございます。
 
【大橋主査】  ありがとうございました。
 以降、意見交換をさせていただきたいと思うんですけど、ただいまの御説明で、おおむね議論の射程がどうなっているのかということを改めて敷衍させていただくと、資料3の3ページ目というのがあって、これはこの期、第13期と呼んでいますけれども、この期における議論をどう進めるかということの全体のストラクチャーだということになります。今日初回ですので、当然のことながらこの進め方、つまり、あるべき姿という目標があって、その目標を達成するための課題が何であって、その課題を解決するための施策は何かと、そういうふうな考え方で、これはこれで非常にリーズナブルな組立てだとは思うんですけれども、こうしたところ、進め方について、もしお感じになられるところがあればそこもいただいていいと思いますし、この立てつけを了とする場合に、本日と書かれているところでいうと、先ほどのページ数でいうと8ページ目に、これは先ほどのストラクチャーの図を拡大したバージョンだということなんですけど、そういう意味でいうと、あるべき姿とは何かということについて、幾つか論点的にブレークダウンしてもらっていますけど、こういうところについてどうかという感じの、今回の論点提起なのかなと思います。
 初回ですし、また、人文学・社会科学とはいえ、皆さん相当多様な分野の御専門の専門家の皆様方ですので、自由にご自身の分野等々からお感じになることを御意見いただければいいのかなというふうには思います。
 そんなところでございますので、御発言希望の方は挙手してもらうんですかね。
 
【助川学術企画室長】  挙手のボタンを押していただければと思います。
 
【大橋主査】  挙手いただければ私のほうから指名させていただきますので、ぜひ御発言いただければと思います。いかがでしょうか。
 それでは、最初に仲先生、お願いします。
 
【仲委員】  どうもありがとうございます。私、2時半ぐらいに出なくてはいけなくて、早めに申させていただきます。先ほどの特性、近年の変化、あるべき姿という観点について申します。
 特性については、自然科学研究、エンジニアリングが、環境とかマテリアルとか技術に、大ざっぱに言ってしまえば関心を持って、物質的な、あるいは理論的な研究が進んでいるということに対して、やはり人文・社会科学というと、人や社会に大きな関心があるというところが特徴だと思うんです。人、社会の問題を直に扱っているというのが人文・社会科学ではないかなと思っています。
 そういう意味では、近年の大きな変化としましては、もちろんAIとかグローバルウォーミングなどの問題もあると思いますけれども、まず、特に日本などの社会を見れば、人が減っているというのが大きな問題ではないかと思います。2050年には人口が25%減ってしまうとか、若者の人口が減って、高齢者の65歳以上が40%になるとか、そのような中で、人文・社会科学の研究対象が大きく変動している、ここがすごく重要かなと思います。
 今後の人文・社会研究の在り方としては、人、社会とつながっている自然科学領域、例えば医療というような技術との連携もそうですが、まさに人と関わる教育であるとか、犯罪とか、行政とか、そして個々人の貧困とか、孤独とか、そういうところに関わりのある研究がさらに進んでいくといいかなと思っているところです。
 先ほど、知識の蓄積、多様な知識が蓄積されているというお話しがありましたけれども、人文・社会科学には、知識だけじゃなくて、スキルというか、技能というか、技術も大変蓄積があると思うんです。私の領域で言えば、例えば、被害に遭ったとされる子どもさんなどから話を聞くという、誘導をかけず、負担なく話を聞くという面接の技術であるとか、また、高齢者の扱いとか、医療的な安心・安寧の増強とか、教育の在り方とか、そういうふうな知識、技能を社会に還元できればいいなと思います。
 その方法としては、例えば政策の策定、ポリシーメーカーになっている方々に、大学院に研究課題を持って入ってきていただいて、研究を一緒に進めていくというのもあるし、また、人文・社会の知、特に技術、技能というのを、人や社会と携わる行政の方々であるとか、法律家であるとか、教員であるとか、福祉に関わる人たちに伝えていく、共同研究等を通して伝えていくということが必要かなと思いました。以上です。
 
【大橋主査】  広範な御指摘ありがとうございます。
 続きまして、手挙げていただいた順番で指名させていただきますと、田口先生、お願いします。
 
【田口委員】  田口です。これからの人文・社会科学の在り方というのを考えるときに、人文・社会科学の意義というものが、やはり社会にきちんと理解されていない。ひょっとすると人文・社会科学者自身にも理解されていないというところがあるのかなと思っていまして、加えて他分野の研究者にも理解されてないというところがあると思っています。その意義というのを私なりに考えているのですが、今後、先ほどの御説明の中でもありましたけど、AIの社会実装というのが間違いなくどんどん進んでいくというフェーズに、もう数年以内に入っていくだろうと思うんです。AIが社会の中に入り込んでいくときに、確実に我々人間の具体的な生活との間に、いろいろな齟齬を来してくることになる。こういう人間の生活が具体的に関わってくるときに役立ってくる知というのは、やはり人文・社会科学なんじゃないかと思うんです。
 工学的な発想でAIを社会の中に実装しようとしても、具体的に生きて動いている人間にはなかなかそうぴったり合わない。ぴったり合わないところをうまく工夫して、調整して、うまい形に持っていく必要がある。これは全然自然科学的な知の領域ではなくて、やはり人文・社会科学が生きてくるところであり、人文・社会科学が担当しなければならない部分なんじゃないかというふうに思うんです。
 じゃあそこでどういうふうに人文・社会科学が生きてくるのかというところに関しては、やはりなかなか理解されてないところがあるのかもしれないと思っていて、例えば、人間が善いことだけしていればいい社会ができると、人間に善いことだけをさせるような技術を開発しましょうといったことを考える人がいるかもしれません。そんなことは不可能ですけど、仮にそういうことを言う人がいたとして、でも、善いことだけしかできないというのは、場合によってはものすごいディストピアのような感じになる可能性があって、これは例えば、ドストエフスキーの『地下室の手記』であるとか、映画であればスタンリー・キューブリックの「時計じかけのオレンジ」であるとか、いろいろな文学、芸術作品、さらには悪を行う自由ということを深く問題にした哲学者のシェリングであるとか、文学や芸術、哲学、こういうものの中で深く問題にされてきたことだと思うんです。実際に悪を行うことを肯定しているのではなくて、「自由を否定し、強制的に善しかできなくする」ということが、ほかならぬ善を破壊するという議論だと思っています。
 こういうような、単純に善だけやればいいじゃないかみたいな発想でやると逆にディストピアになってしまうというようなことを深く考えてきたのは、人文科学、社会科学であると思いますので、今後の社会をどう作っていくかといったところにいろんな意見を言っていくべきだし、いろんな意見を言っていくような体制を社会的にもつくるべき、そして、人文・社会科学者もそれを自覚して、他分野の議論や、あるいは社会の中でのAIの実装といったところに積極的に関わっていくべきなんじゃないかなというふうに考えているんです。そういうような形で、人文・社会科学のあるべき姿というのを考えていくべきなのではないかというふうに思っている次第です。ちょっと長くなりましたが、以上です。
 
【大橋主査】  重要な御指摘だと思います。ありがとうございます。
 続いて、木部先生、お願いします。
 
【木部委員】  木部でございます。私は、資料の3の4ページ、5ページあたりの、人文学・社会科学の特性というところについて最初に申したいと思います。人文学・社会科学の今後のことについては、もし時間があれば次の発言で申したいと思います。
 人文学・社会科学というのは、ここにうまくまとめてくださっているように、人間を対象にして、人間の精神生活だとか、文化や社会を明らかにすることですが、それは実は人間の見えない部分を明らかにすることだと思うんです。今、画面に映っているページの下の部分に研究資源の種類がたくさん書いてありますが、人文学の研究資源は多様です。文字や、物や、図像、それから音声、データ、たくさんあります。見えるものを観察しないと見えないものの解明ができないので、こういうものを対象として研究、分析していきますけれども、実際には民具や考古などの資料を見て、その背後にある人間の見えない営み、社会の営みというのを研究する、これが人文学・社会科学の根本だと思うんです。そのためには、資料の次のページにあるように、やはりどうしても時間がかかる。
それから、個別の地域の住民の方々との対話が必要ですし、その方々に、私たちの研究成果をお戻ししないと意味がないと思うんです。そうすると、やはり非常に時間がかかるわけです。AIが発達して、これから人文学でもこれを活用することになると、資料整理の速度を速めることにはなると思います。見えるものの分析から見えない人間の営み、社会の営みを追及するということは、昔も今も未来も変わらないだろうと思いますが、その速度が、AI技術などを使えば加速化されるだろうというふうには思っています。自然科学でも見えないものの原理を解明するということが1つのテーマだと思うんですが、人文学では人間自身の、自分自身でありながら見えていない部分を解明するというところに特色があるということを、もうちょっと訴える必要があるのではないかという気がしています。以上です。
 
【大橋主査】  御指摘ありがとうございます。
 続きまして、尾上先生、お願いします。
 
【尾上委員】  ありがとうございます。私もちょっと専門部会、もともと情報系でございますけれども、先ほどの木部委員のお話とも近いところがあるのかもしれないんですけれども、データが多様だというだけではなくて、やっぱり人文学・社会科学で扱う、いわゆる資料であるとか材料というのは、それだけで学術的な価値というのも非常に多様だというところが特徴かなと。さらに時間軸を考えてあげないといけないというところも、少し理工系や医歯薬系とは違うようなところがあるのかなというふうに思っております。
 今後の議論の中で、やはり共同研究とかをどんどん活発化させていこうと思った場合に、いわゆるURAみたいな人たちというのが必要になってくると思うんですけれども、そこの必要とされる力というのが、一般的な理工や情報系や医歯薬系等のURAとも違って、いわゆる価値のキュレーションみたいなのとかをうまく理解した上でナラティブに話をしていく、そういうような力というのを持つような人が入ってくるような、そんなことを皆様と議論できるとよいかなと思いました。ありがとうございます。
 
【大橋主査】  ありがとうございました。
 続きまして、青島先生、お願いします。
 
【青島委員】  青島です。やっぱり生成AIとかが発達する中で日々感じているのは、圧倒的に我々の領域でも研究の効率が上がるというか、効率が上がると同時に、また言語とか国境の壁は容易に越えられるようになるという意味では、そういう面はどんどん活用して、研究を拡大していったらいいなと思うと同時に、そうなってくると誰でもいろんなことができるようになるので、何を研究するかとかという、それ自身が非常に重要になってくるんだろうなと思っています。
 社会の中でも、これだけ生成AIが進むと、いろんな人が何でもある程度できるようになってくるという自動化される時代になってくる中で、改めて人の意思とか、志とか、あとは主観的な価値とか、社会の合意とか、こういったものがどんどん重要になるという意味では、人文・社会科学というのがもっともっと活躍するべき領域が増えてくるんじゃないかなというような印象です。
 その辺りはこの間、ある奨学金の審査をしたんですけど、技術系の学生さんというのは非常に社会に対する、課題に対する感度が高いなと思いまして、技術をやりながら、社会にそれをどう実装するかとか、社会にそれをよいものとしてどう定着させるかみたいなことを非常に真剣によく考えられているなというのはちょっと感心したんですけど、逆に社会科学系とか人文科学系で、そうした教育を受けた人がそういう技術の発展とかの理解、コミュニケーションする上で、そういうところまで踏み込めるかというのが、研究コミュニティーとして、そういった融合ができていくことが重要かなというふうに思いました。
 今日のテーマとしては1個で、あと発表の中で1つやっぱりいつも気になっていることは、博士人材問題というのはやっぱりすごく最近気になっておりまして、やっぱりそういう中で博士人材というのをどんどん増やしていくという動きはある中で、正直我々、かなり個人的にも反省もあって、無理していろいろ博士を出さなきゃいけなくなっているなということもあるので、こういう発展の中でいかに研究者のクオリティーとかコミュニティーの維持をきちんと考えるかということが、もう一つ必要だろうなというふうに思っております。以上です。
 
【大橋主査】  ありがとうございました。
 続きまして、後藤先生、お願いします。
 
【後藤委員】  ありがとうございます。失礼します。
 私からは、まず、先ほど指摘がありましたけれども、非常に長い時間軸での研究という御指摘、学術企画室のほうからお話ありましたけれども、もう一つ私のほうから指摘しておきたいのは、やはり社会へのインパクトという点でも、時間がかかるような内容のものが多いのではないかなというふうに思っております。例えば、差別の問題であるとか、多様性の問題であるとか、そのような点、研究が進んでから社会全体で理解を得るという点が非常にやはり長い時間がかかる研究が、社会へのインパクトという点からも時間がかかる研究をやっているというふうに思っております。
 また、その点では非常に大きな視点への影響を及ぼすというのも、私はもともとは歴史学であり、歴史情報学、人文情報学を専門としておりますが、まずは人文学はほかの分野でももちろんあるわけなんですけれども、非常に大きな視点の影響を及ぼすということも特徴であり、そういう傾向が非常に強い分野であるというふうに思っております。ただ、これはどの分野がよりすぐれているという、人文学はより大きいことやるから偉いんだというわけでもないし、ほかの分野は、例えば直接的に社会とつながっているから偉いんだというわけでもなく、それは役割の違いであるということも議論の中で、それぞれの役割の違いの中で人文学というのがあるのだということも、あらかじめちょっと申し上げてあげておきたいなというふうに思いました。なので、全分野が日本をはじめとした人間社会全体の未来に貢献しているんだと、その中で人文学・社会科学はあるんだろうというふうに思っています。すみません、ちょっと長くなりますけれども。
 私は特に人文情報学、デジタル・ヒューマニティーズを専門としておりますので、その観点から、私の気になる今回のポイントを少しお話しさせていただきますと、まずは大きくは2つです。1つはやはり多様なデータということと、あともう一つは、信頼できるデータという観点になります。
 1つ目は、これはデータの多様性というのはさんざん御指摘されているとおりだと思いますけれども、多様になればなるほど、あと発見が難しくなるという状況はまだ大きく変わっていないというふうに思っています。いわゆる生成AIサービスによって情報発見がどんどんどんどん可能にはなっているけれども、まだやっぱり正確さが足りていない。結果的に最後に、人間が自力で探していくとか、AIサービスが精度を上げるという視点からも、基盤データの充実もそうなんですけれども、情報発見を行うためのメタデータの充実というのも、さらに今後まだ考えていく必要がいまだにあるんじゃないかなというふうに思います。
 もう一つが、信頼できるデータという点です。こちらもAIの生成結果自体の精度というのは少しずつ上がっているというのは間違いないんですけれども、やはり誤りがあるのは、今の段階でも誤りはもちろんありますし、たとえ技術が進んでいっても、誤りというのは本質的に排除することはできないだろうと思います。それは言い換えると、データとか資料の最後に信頼できる先はどこかとか、責任を持つ先はどこかというところをどこに求めるということにもなってくるので、その点では人文系の大学とか研究組織なり、共同利用の基盤というのがより重要になってくるのではないかなというふうに思います。
 AIに関する技術的な変化とか未来というのは本当に早く、2年たつと状況が変わるというふうに思っております。ただ一方で、AIと人間との信頼関係をどういうふうに考えていくかとか、AI社会だからこそ、倫理の在り方みたいなのを考えるというのは人文学・社会科学の経験から考える必要があるんじゃないかなと思います。すみません、長くなりますけれども。
 私自身も今、今年度から、歴史情報学の創生という大型の科研を領域代表として私は進めております。その中でも、コンピューターを用いた歴史学研究を共に進める、これはAIだけではなくてコンピューターを使った歴史学専門家以外の人とも共に進めるということも含みますけれども、歴史学をコンピューターと共に、もしくはそれ以外の人と共に進めるということと、その中で、共に進める中で、特に専門家、歴史学なので歴史学の専門家の役割とはどのようなものかということと両輪を考えるということを目的としております。なので、これ自体は歴史学という分野に限ったプロジェクトなんですけれども、共に進めるということ専門性を考えるということが、AI時代の今後にとっても重要なのではないかと考えています。
 なので、こういうやり方を研究成果というアウトプットだけではなくて、こういう方法論そのものがAIと人との関係という点で社会にも貢献できるのではないかというふうに考えております。今後こういう利用基盤の在り方とか、あと人文知と社会、コンピューター、それは日本だけではなくて内と外両方のつながりみたいなことを考えていければというふうに思っております。
 すみません、長くなりましたが以上でございます。失礼いたしました。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 続きまして、宇南山先生ですかね。お願いします。
 
【宇南山委員】  宇南山です。よろしくお願いいたします。
 私はちょっと一歩引いたところから始めたいと思うんですけれども、今回、人文・社会科学を考えるある種の起点として、何度か科学技術・イノベーション基本法の対象に含まれた、位置づけられたということを指摘されていて、この部分が非常に気になっておりまして、科学技術というのはやはりベースとしては自然科学があって、何となくそこの仲間に入れてあげたという感じがあって、何となく見ていても、自然科学のところで解決できない課題を人文・社会科学で解決してくださいと、そういったスタイルで投げられているように感じられます。
 それは人文・社会科学のあるべき姿を考える起点としては非常によくないものだと思っておりまして、人文・社会科学というのが科学技術・イノベーション基本法の対象である科学技術の範囲に位置づけられたということはどういうことかといいますと、やはりイノベーションというのは何か、基本法に立ち返って考えてみますと、創造的な活動を通じて新たな価値を生み出し、普及することによって、経済、社会に大きな変化をもたらすことをイノベーションと呼んでいるということを考えると、主体となるのが人文・社会科学であって、それを技術的な面でサポートするのが自然科学であるというような立ち位置で、先ほど後藤先生のほうからありましたが、歴史学をやる上で必要な技術というものを提供してもらう、そういう視点でないと、もちろんそれが全てではない、自然科学をサポートできる面もあるかもしれませんが、自然科学、社会科学のあるべき姿を考える際には、まずは我々が主体である、人文・社会科学が主体であって、それにどうやって自然科学がサポートしてくれますかというのを前面に出す必要があると思います。
 具体的に、例えば、コロナのときなんかも典型だったわけですけれども、医学の知見で全ての社会活動の制約などが考察されていたというのは非常によくなかったと思います。本来はコロナという疫病があった場合には、社会というものがどのように対応するかを考えるはずですので、本来は社会科学が中心となって、それに対して医学が科学的な知見を提供するという姿であるべきだったにもかかわらず、我々、皆さんがそうではないかもしれませんが、人文学・社会科学の分野の人間が、必ずしもそういう枠組みを提供できなかったというのが非常に大きい反省ではないかなと思うと。その点で考えますと、もっと人文・社会科学のあるべき姿というのを考える際には、いかに自然科学の知見を生かすのかというのを、社会科学のまさに本業の視点を中心に考えるべきだというのが、まず、私が主張したいことです。
 それを具体的にどうやるかといったときには、やはり社会というのは、ある種の知見を我々が生み出すと、それに応じて社会が変わるという特性があると。それは自然科学で星の動きが分かったからといって、その動きを避けるように星が行動を変えるということはないわけですから、それがまさしく社会を対象とすることだと思いますので、その意味では、我々が一体どのような社会をつくりたいのか、それを考えたら、その考えたこと自体が社会を変えてしまうというところを、もっと我々も社会も意識する必要がありますので、そのためにはもっと分野固有の議論というのが必要で、あまり人文・社会科学というのを大くくりで議論するのではなく、経済学ならば経済学、心理学ならば心理学、歴史学ならば歴史学、それが固有にいろんな提案をしていくことが重要じゃないかなと思いました。
 少し大局的な話だけであれですけれども、私からは以上です。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。重要な御指摘だと思います。ありがとうございます。
 続いて、森田先生、お願いします。
 
【森田委員】  森田です。よろしくお願いします。
 先ほどの青島先生の御発言に近いことを考えていたのですけれども、私は、法学を専門としておりますが、法律家は生成AIの発展で一番最初になくなる職業の1つだというふうに言われていて、実際今、様々なリーガルテックと言われる生成AIを使ったいろんなベンチャー企業がたくさん出てきています。それこそ今の日本の例えば裁判例とか法律とかあるいは学説とか教科書とか、あるいは論文に書いてあることまで全部まとめて、こういう事件があったらこういう判決になるのではないか、この問題についてはこういうふうに考えられているのだというのをまとめてぱっと示すというサービスが非常に急速に広がっています。これは日本だけではなくてほかの国々でもそういうサービスがどんどん広がっています。そういう意味では、普通の法律家でないとできない仕事というのはどんどん減ってきています。
 他方で、伝統的な法律学者が何をやってきたかというと、よく言われるのが外国の法律はこうなっていますよということを紹介して、それは日本とは違う社会経済条件における一種の社会実験なわけですけれども、その実際の効果を日本に紹介して、日本でもこういうことができるのではないですかということを提案するという、そういう比較法分析というのがなされてきました。ただそれも今お話ししたように、各国の法内容がいろいろAIとかで簡単に分かるようになってくる。先ほどの青島先生のお話にありましたように、それこそ言語が違っても、例えば私は英語しか読めませんけれども、それ以外のスペイン語であろうとドイツ語だろうとイタリア語だろうと、何語だろうとぱっとAIだったらできるわけですよね。それも全て分かるということになってくると、外国との比較法というのも、研究者の仕事がなくなってくるのかなというふうにちょっと前までは思っていたのです。ところが、今のところ意外にそこはなくなってなくて、まだそこに研究者の仕事は残っているようにも見えるのです。
 それは何でなんだろうというと、要するにAIがまとめる、要約する内容というのは、その国のそれまでの議論の中身、裁判なり何なりの中身であって、それは国の様々な社会条件とか制度条件とかが前提として形成されている議論なので、必ずしもそのままの形ではほかの国に移転可能ではないわけなのです。いろんな簡単な概念、たとえば「自由」とか「所有権」とか、ほかにも判決の効力とかは国によって全く違ったり、裁判所の権限とかも全く違ったりします。そうするとほかの国でできたことが日本で同じに動くのですかというと、それはそう簡単に動かない。
 実はAIは今のところまとめてくるもの、あるいはよく弁護士さんが海外の提携事務所なんかにお願いして現地の情報を持ってきて、まとめてレポートを作ってくれる場合なども同じなのですけれども、やはりそれらではそういった観点が抜けていて、そこが実は伝統的な法学者が割と得意だったところと言えるのではないかと考えています。ただ、今のところあまりその点を埋めるようなAIがまだ出てきていないというのは、多分恐らくそこはビジネスにならないからに過ぎないのではないかとも思います。そういうビジネス上のニーズが存在しない、そういう多分ニーズを求めているのは、多分法務省で新しく法改正をしようというお役人さんたち、それから、立法をされる政治家の方たちだけなので、企業実務の方ではあまりニーズがない。だから、そういったAIは今まで発展してこなかったということだと思うので、将来的にはもちろん様々なファインチューニングとかが進んできて、ローカリゼーションが進んできて、そこを乗り越えるAIが出てくるとまた違ってくるとは思いますけれども、今までのところはそこが法学が社会科学として貢献してきたところなのかと思います。
 以上が、青島先生のお話があった、これから法学は何をすれば、社会科学が何をすればいいのかということの1つのヒントになります。もう一つ法学が大きく変わりそうだというのは、今年の5月に新しく法律ができまして、民事判決、裁判の判決が全部、今までも基本的に裁判所に行けば見られたのですけれども、データベースで公開されてなかったのです。それを公開しますよという法律ができまして、2027年から実際にそれが施行されるということになりました。そうしますと、たくさんのデータがオンラインから入手でき、全ての判決データが入手できるようになるわけです。そうすると新しいデータサイエンスが法学でも可能になる可能性がある。
 そうすると今までの伝統的な法学とは違って、例えば、判決の分布や傾向に関して一定の仮説を立ててそれを検証して、またそれが駄目だったら違う仮説を立ててみるという、いわゆるサイエンスとしての思考方法というのは必要になってくる。それはもしかすると、今後新しい分野として伸びていくかもしれないな。データの拡大によって、新しい、今まで伝統的な法学では要求されていなかった思考方法、いわゆるサイエンス的な、科学者的な思考方法というのが従来以上に要求されてくる可能性もあるのかなと思っています。以上です。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 次にお手が挙がっているのは北本先生ですね、お願いします。
 
【北本委員】  
 私自身は情報系といいますか、AI側の人間ですので、人文学にAIを使っていくことはメインの研究テーマになります。データを大規模化する、モデルをつくる、AIが使えるタスクを見つけるという課題は常に意識しています。先ほどご紹介があった文部科学省の人文DX事業でも、人文学の大規模データをつくって、人文学の研究を加速する課題に取り組んでおり、そうした研究は改めて強調するまでもなく重要だと考えています。
 今日はせっかくですので、もうちょっと根本に戻って、人文学の特性として日頃感じていることをお話しします。人文・社会科学は、いろいろな意味で曖昧な面があると思っています。曖昧であることは必ずしも悪いことではなく、むしろ本質的に曖昧な部分が避けられないのではないかと考えています。曖昧という意味は、例えば正解がないとか、正解が複数あるとか、正解が無数にあるなど。いずれにしろ、正解が1つという世界観ではないと思うのです。AIの学習をするときには、正解が1つあって、それを再現するように学習することが多いのですが、正解が複数あるときにどうするべきかという問題については、まだあまりよい解決策がありません。先ほど森田先生がおっしゃっていたように、各国で法律が異なるというのはまさにその一つの例です。正解がないときにどうするかは、これから大きな課題になると考えています。
 AIを使う場合、正解がなくても正解っぽい答えは出てくるので、人々がそれを信じてしまうことがあります。実はその答えが正しいわけじゃないよ、という判断をするには専門知識が必要です。それが人文・社会科学の専門知ということになるのではないでしょうか。それがないと、AIが出した答えの位置づけがよくわからなくなります。正解が複数あるとしたら、そのうちの一つなのか、それともいずれとも異なるのか。そうした状況で、自分が欲しい答えが出てきたときにそれを正解だと信じてしまうと、陰謀論にはまってしまう危険性が高くなります。先日の選挙でも陰謀論の話がいろいろ出てきましたが、1つの答えに飛びつくことで問題が起きてしまうことも多いのではないでしょうか。
 また、社会が様々なグループに分かれていき、それぞれのグループが正解を持っているような状況に対して、どのように対応するのがよいでしょうか。最近はプルラリティや多元性などの言葉で、複数の考え方を無理に統一せずにコラボレーションを進めていく方法論に関する議論も出てきています。そうした課題にAIをどう活用するかは、非常に重要な課題だと考えています。
 世界の中で考えれば、日本も一つのグループと言えます。最近はソブリンAI、すなわち国ごとにAIをつくるべきという考え方が提唱されています。日本の制度や文化を反映したAIをどうつくるかという課題に対しては、人文・社会科学の多くの研究者が様々な意見を出せるのではないでしょうか。
 最初に、人文・社会科学は曖昧だという話をしましたが、自然科学の方が数量的に明快な答えを出しやすい傾向があるため、両者を比較すると曖昧なほうが不利になりやすく、人文・社会科学側の方が説得力を出しにくい面はあるかもしれません。とはいえ、社会にAIを適用する際には、曖昧な対象を扱うという課題から逃れることはできません。そうした状況でAIを使っていくには、人文・社会科学の様々な知見が生かせるはずです。これは、AIの側から見ても、非常に興味ある可能性だと考えています。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 続いて、安田先生、お願いします。
 
【安田委員】  どうもありがとうございます。今の北本先生がおっしゃられていた点と重なるんですけれども、日本の古文とか文化とか法律とか、そういったものを重点的に学ばせたローカルなAIというのは確実に必要になってくるし、そういうものは日本の人文学の研究者にとっても日本国民にとっても非常に有益だと考えております。
 あともう一つ、ダブルメジャーという考え方、こういうものもやりましょうということで非常にすばらしいなと思いました。最近トヨタのコンポン研のリサーチアドバイザーをさせていただいているんですけれども、そこで未来の人類の幸せとか地球にとっていいことという風に少し遠いゴールで、何か根本的な学問とか学際融合研究みたいなものをやりましょうということで、いろんな専門家が集められて議論する場というところに参加させていただきました。その中で、哲学の方だったりデザインの方だったりいろんな方がいらっしゃって、話を聞いているだけで非常にわくわくするというか、人文学とか社会科学ってこんなことをしているんだ、こんなことを考えているんだということの発見自体で、私は非常に感動でいっぱいになりました。
 自然科学のコミュニティーでももう少し人文学・社会科学の研究者が何をしているのか、どういう問題意識を持っているかということを知れる機会があったら、共創の場というのが増えてくるんじゃないかなと思っております。例えば文科省とかが主導になって、学際研究に関心のある文系と理系両方の学者を集って、ふだんやっている自分の研究の目の前のゴールとは違って、もっと社会をよくするとかもっと未来のこと、遠い未来だけれども、こういうところで役立つといいな、というような共通ゴールを持てる学者をいろんな分野で集めて議論させて、その中で研究テーマをつくるところからやって、実際にいいものがあったら、そのうちの何割かを採択して研究費つけるみたいな、何かそういうシステムが実際にあってもいいのかなということを最近思いました。
 自然科学の学者が発案する人文系、社会学関係の方との融合研究を、完全に対等に行っていくためにもそういった場があるのは良いのかなと思いました。少し今回の議論の中心からは外れてしまうんですけれども、ちょっとそういう提案をさせていただければなというふうに思いました。
 以上です。ありがとうございます。
 
【大橋主査】  ありがとうございました。
 山中先生、お願いできますか。
 
【山中委員】  いろいろなお話をありがとうございました。私は細かいことを言おうと思って、最後のほうに手を挙げました。
 私、能の研究をしています。最近、崩し字をAIで読んでいくという研究がどんどん進んでいますが、能の場合は文字の横に節を表すゴマ点がたくさんついているので、そこが邪魔して読めませんでした。ところが、そこのところも含めて読める技術を開発しているという先生が研究所を訪ねていらして、一気に研究が進んでいます。もちろんまだまだ不正確なところはありますが、AIは、とにかく一度に扱える量が多い。あっという間に、手作業とは違う数とスピードでいろんなことができるんだなというのに驚いた次第です。また、その理系の先生たちと話していると、「こんな考え方をするのか」という驚きや、知的な興奮を味わうので、若い人たちにもこういう経験をしてもらいたい、ということを強く思いました。
 一方で、学際研究の成果を発表する際に、やっぱり研究のお作法が違うということでうまくいかないこともあります。例えば理系の先生との共同研究の論文ですと、本当にちょっとしか参加しなくても、こちらの知識を提供すれば、必ず、たくさん並ぶ共同執筆者の中に私の名前も入っている。でも人文系ですと、分野の違う人と共同研究をして、たとえば古い資料の崩し字をこちらで苦労して読んであげても、それに基づいた議論の中で誰かが気づいたことは、その後、個人で深めて個人の名前で論文化するのが通例です。研究会に関わった人全員を論文の共同執筆者として挙げるというルールがまだ人文系にはないのです。
 たとえ共著者として名前が挙がっても、人文系だと、共同研究よりも個人の研究のほうが価値が高いと判断されていると思います。理系の先生方に話したら驚かれましたが、共著論文にすると誰の研究か分からなくなって、業績としてもあまり評価されないというようなことが、少なくとも国文学ではあるだろうと思います。この辺のルール、研究の作法を、これから若い人たちが学際研究をやっていくときには、そろえていくということも大事なのかなと思っています。
 こういう細かいことを言おうと思っていたら、木部先生が見えない部分の研究が大事なんだとおっしゃってくださったり、それから宇南山先生のお話を聞いて、そのとおりだと思いました。私も実は、資料のイノベーションのところで、「社会受容の壁」が一番難しい高い壁で、それを越えて社会に受け入れてもらうためには、人文科学の知恵が必要なんだ、というのを読んで、「人文学はそのためにあるわけでもないよな」と感じました。今、人文系の我々が一生懸命社会と関わって、何とか、人文学は役に立たない学問じゃないんだ、役に立つ学問だと示そうとしているのは、多分さっき室長が「不易と流行」ということおっしゃいましたけど、その不易の部分で、本当に国際性とか学際性とかに全然興味がないけれども、でも、古い資料をしっかり受け止めて読んで、その中身を調べている人たちの研究というのもあって、そういうものを社会の風圧から守ってあげようと思って、がんばっている面もあると思うんです。
過去から脈々と続いてきたものを、それがどうイノベーションに役立つかというようなことだけじゃなくて、そのまま受け止めて、深く血肉化して、それを次代に伝えていくというのが、本当は人文科学のすごく大事な役割なんだろうけど、きっとそういうことを言っていたら駄目なんだなと思っていたので、さっきの宇南山先生のお話にはすごく力づけられました。以上です。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 続きまして、米村先生、お願いできますでしょうか。
 
【米村委員】  ありがとうございます。初めての出席でございますので、まずは先生方のお話を拝聴しているというところでございます。社会学を専門にしておりますので、人文と社会科学の両方にまたがるところにおります。
 そして、ちょうど今、大学院で大学間連携も含めた、人文・社会系の博士人材の育成、マルチキャリアの開拓ということをミッションとして取り組んでいるところでございまして、それと関連して発言させていただきたいと思います。
 社会理解、もう少し言うと社会課題解決に向けた複合的な視点や多角的な視点を持っているというのが人文・社会科学の大きな可能性だと思います。複合的・多角的というのは、例えば文化の理解であるとか歴史であるとか、それから、多様性に関する理解であるとか、世界的な紛争に関する価値観の対立、感情の問題、宗教の問題、それから格差の問題をどう捉えるかということなどを理解するということです。
 人文・社会科学の今までの蓄積というものが、現代社会を理解する上で重要な意義がそもそもあるというふうに思っております。ただ、そうした蓄積について人文・社会科学の専門家も、実社会との間に距離があると思ってしまいがちです。人材育成という点に関しては、大学院生が、自分たちが専門的に学んでいることがどんなふうに社会とつながるのかということを、社会の役に立とうと無理に意味付けなくても、大学院で学ぶなかで理解して言語化できるようにすることが自分の課題と思っております。以上です。
 
【大橋主査】  お手が挙がっている委員の方が以上なんですけれども、もし私の間違いがなければ、治部先生いらっしゃるという認識ですけれども、もし。
 
【治部委員】  おります。
 
【大橋主査】  もしよろしければ、もう全員発言終わっちゃったんですけれども、もし治部先生、あれば。
 
【治部委員】  ありがとうございます。私、もともと実務が長くてメディア出身なので、ちょっとお話伺っていたという感じになるのですが、全体を伺っておりまして、特に宇南山先生や山中先生の御発言に大変共感するところです。
 文部科学省の会議ですし、どうしても政策が主導になって議論が進むとは思うのですが、今日の論点になっております、そもそも学問とは何ぞやということは、政策があるから議論することではなくて、政策に優越して議論されるべきことではないかなというふうに思いましたので、そこはやはり本筋を外さずに進めていく必要があるかなと思います。
 私自身は理工系の大学で文系教養部門で教えているんですけれども、まさにテクノロジーのことで頭がいっぱいな学生さんに、人文・社会科学の必要性ということを授業で教えています。そういった立場では、今日先生方のお話ししていたことは全くそのとおりでして、AIをこれからどのように活用していくかということを議論する際に、必ず倫理ですとか法ですとか人権といったような社会科学の知見というものはなくてはならないものなので、あなたたちの専門ではないけれども、このような重要な領域であるということを常に伝えておりますし、授業、教育というものは当然研究からトリクルダウンしてくるようなものでもあると思いますので、今日の御議論というものは非常にそのとおりだなと思って伺いました。以上です。
 
【大橋主査】  ありがとうございました。
 これで一通り委員からの御意見はいただいております。事務局からは人文学・社会科学双方ですけれども、この特性とは何か、あるいは近年の変化ということで、主にAIの活用であるとか、あるいは多様性の重要さみたいなところも併せて例示はいただきつつ、委員の方々から大変多様な、御自身の経験を踏まえた貴重な御指摘、様々いただけたのかなと思います。
 特にまとめるようなことはしませんが、もしあれですか、事務局のほうから何かこの点をもう少し深掘って聞いてみたいとか、その他あったらいただければと思いますけど。では、私のほうから聞いてみましょうか。
 
【助川学術企画室長】  すみません、何点か。先生方、いろいろとありがとうございます。不易についても流行についても、AIも含めて非常に様々なご指摘をいただいたところかと思います。深く伺いたいことが本当にいっぱいあるんですけれども、この間の学術分科会でもあった意見を踏まえて、例えば、人文系と自然科学系の違いの中で、人文系のデータが非常に多様だという意見があったということをちょっと紹介しております。それで学術分科会の議論の資料の11ページのところで引っ張っているんですけれども、データ同士を連携させていくという方法論を考えていく必要があるですとか、あるいはデータの基盤をしっかりとつくっていく必要があるという今後の課題をいただいたところでございますが、もしよろしければ、ここにあること、データの多様性だとかそれを踏まえた連携だとかそういう面に関して、今後このようにしていったほうがいいといったご知見があれば教えていただければと思います。その他ちょっと伺いたいこともあるんですけど、まず、これを伺えればと思います。
 
【大橋主査】  全部仰って頂いたほうがいいかもしれないです。ほかにもあるんですか。
 
【助川学術企画室長】  ありがとうございます。ほかに気になったことがありまして、人社系の意義だとか不易に関することというのは、今も大変深い御議論いただいたと思っています。その中でさらに、ちょっと個人的な関心も含めてなんですけれども、森田先生のお話の中で、AIの活用というか、例えば判例だとかそういうのをAIで検索できるようになっているとかいう話がありました。こういった点について、各分野、身近な分野でこういうふうにAIを使われているだとかいう事例があれば教えていただきたいと考えています。
 といいますのは、さっき先生がおっしゃったのは、先生方が研究をされるに当たって、研究で知恵を付け加えていくという作業をする。ただその前提として、過去の先行しているものをデータベースから抽出するだとか、そういうことはいろいろあるんだと思います。森田先生がおっしゃっていただいたのは、過去の判例だとか、そういうのはAIで自動的に抽出できるようになりつつあるというようなお話があって、ただ、知的な部分を一緒にAIとつくっていくとか、そういう話であんまりなかったのかなと。そこの部分はやっぱり研究者のお仕事だということだと理解したんですけれども。あとは比較法の分野であれば、判例だとかに出てこない部分、要するに紙になっていないその国の文化だとかそういう部分というのはAIとかでは対応できないから、そこを読み込んだ上でというのは研究者のやる部分だというようなことと受け止めたんですけれども、この辺は分野によっても、AIの活用状況や、さらにはその可能性は大分違うのかなと思いまして、そこの辺がどういう状況にあるのかというのを、それぞれの分野について教えていただければと思った次第です。以上でございます。
 
【大橋主査】  ちょっと翻訳だけ試みますが、多分今、AIを使われる方って相当多いと思っていて、簡単なところで言うと、論文読むのに直接読まないでAIに要約させちゃうとか、場合によるとレフェリーの代わりさせちゃうとかという人も、それは倫理的、ほかの観点から本当にいいのかというのはあるかもしれませんが、結構やっちゃっている人とか、それを踏まえて白地にこの論文はいい論文だとかと文字埋め込んじゃって、そういうふうなレフェリーのAIの判断をマニピュレートするようなやり取りもあったりするというのは、メディア記事ですけど、結構あったりするんだと思います。
 事務局から森田先生の御指摘ですけど、リーガルテック、これなども実務でも相当進んでいるという認識ですけど、AIの活用が進んでいる中において研究、だから、情報を要約するとか、あるいはデータをつなげるというのも近いものかもしれませんけれども、そうしたことという以上に、何か知的な作業でAIを使っているような事例があるんでしょうかということでよろしいですか。
 
【助川学術企画室長】  はい、失礼しました。
 
【大橋主査】  そういうふうなところで、だから、現場感を知りたいというのが多分事務局の御指摘だと思うんですけど、ややピンポイントかもしれませんが、ちょっとそこに関わるようなことでお話ができるような方がいるとありがたいと思うんですけど。全く趣旨が伝わらないとかということがあったら本当に申し訳ないんですが、どなたか助け舟出していただける方っていらっしゃいませんか。
 すみません、本当にありがとうございます。後藤先生、お願いします。
 
【後藤委員】  後藤でございます。まず、前半のほうから、こういう答え方でいいのかどうかというのはちょっとありますけれども、まず、データを連携させるというところでいきますと、今、AIだと、例えばあるデータとあるデータ、既存のデータであればつなげることというのは比較的やりやすい。ある論文と論文の連関性を探るというときに、両方ともテキストデータがあれば、それは類似性を探るとかということができるわけですよね。ただ、恐らく人文のデータが多様だといったときに、例えばある古文書があるのに対して、例えば類似のその地域の言語であるとか、物資料といったときに、そのデータが直接的につながるかどうかというのは、木部先生が指摘されましたけれども、人のバックボーンにある知ではつながるということが分かるんですけど、データ上で可視化されないのでつながりが分からないということがあったりします。同じ地域であるとか類似性みたいなところが、実は人の知というか、漠然としたバックボーンとしては何となく知っているんだけど、そこから何かつながらない。例えば同じ地域であるとか、あとは別の地域であっても実は交流があるからそこは分かるんだよとか、全然別の知識をつなげることによって、例えば、地域Aと地域Bのデータが実は連携があるとかということは全然別の知識、交流とかそういうところで分かるということがあります。
 そういうところは実は人の知によって、何かそれとそれがつながりがあるということ自体を、どちらかというと今の段階では教えてあげないといけないということだと思います。その点からは、データとして連携させていくというときには、そういう人の知を入れるようなデータ連携みたいなのをやらないといけないというのが1つポイントになるかなというふうに思います。ある程度連携が見えてくると、そこからに学習させて、さらに高度化させるという戦略はあり得るかなと思うんですけれども、まず、そういう今、データ化されてないような人の動きというか、人の見えない動きみたいなのをデータにして可視化するような在り方というのは必要かなというふうに思います。
 ただ、じゃあ具体的にどういうふうに落としていくかというところがまだちょっと今見えずにしゃべっているところはあるんですけれども、ただデータの連携といったときの最終的に求められる姿というのはそういうものかなというふうに思います。
 もう一つのほうの知的な連携、知的な成果というところでいきますと、これは恐らく北本先生のところでもやられているんじゃないかなと思いますけれども、ちょっと知的な連携とまで言えるかどうかまで分からないですけれども、やはり言語変換であるとか、あと抽象的な問合せに対する回答みたいなところは非常に大きいかなというふうに思います。私、歴史学ですので、例えばいわゆる古文書、江戸時代に書かれたような文章は、今はAIで翻刻するとか、クラウドソーシングで翻刻するという例がありますけど、それだけではなくて、それだと、ただまだ江戸時代の言葉になっている。それを現代の言葉に変換する、その精度実験みたいなのを我々の同僚が行ったりしています。
 例えば、そういう形での言語変換みたいなところでも、より具体的な人文学のところで役立てるという例もありますし、そういうところで抽出されたものに対して、RAGと言われる拡張検索の機能を使って検索するというようなことは、北本先生のところでやられたりする事例はあるのかなというふうに思います。そういう形で、変換からちょっと抽象度の高い分析というか、そういうところまで進んでいるというのはあるかなというふうに思いました。
 すみません、特にちょっと後半がお答えになっているかどうか分かりませんけれども、以上でございます。
 
【大橋主査】  大変参考になりました。ありがとうございます。
 木部先生、お願いできますでしょうか。
 
【木部委員】  私は情報学の専門ではないので、言語学の専門なので、情報のことはそんなに詳しくないんですけれども、今、人間文化研究機構でデジタル化を進めているので、そういうところで今、勉強しているところです。後藤先生、どうもありがとうございました。
 やはり質の違うデータをいかに結びつけるかということが非常に重要だと思います。そのときに、つまり結びつけるためにはメタデータをつけなければいけない。テキストデータならテキストがそのままメタデータ、インデックス、キーワードになると思うんですけれども、画像だとか映像だとかそういうものは、メタデータとして何かテキストをつけていかなければ、今のAIではデータ同士を結びつけることができないんです。もし画像だとか映像だとかも、テキストをつけずに他のテキストデータと結びつけられるようになるというような技術開発があるとすごく楽になる、データ同士が早く結びつけられるようになると想像しているんですが、私は情報の専門ではないので、そういうことが可能なかどうかちょっとよく分かりません。
 それから、日本ではテキストデータだけでも、データのデジタル化がもの遅れています。デジタル化されていないデータ、古文書とかですが、それは日本各地に存在しています。江戸時代に各藩でたくさん文書が作られたのですが、そのまま、まだデジタル化されていないものが多いんです。日本の歴史的資料のデジタル化が進まなかった原因は文字のシステム、古文書の文字や崩し字ですとかにあったわけですけれども、それが最近、AIでかなり読めるようになりましたので、今は、各地の膨大な文書資料をデジタル化し、テキスト化することが不可能ではなくなってきたと思います。それができると、日本のデータは点ではなくて面になります。その意味で、世界的にも優れたデータベースになるだろうというふうに思っています。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 ほか、お気づきの先生とかいらっしゃいますか。ありがとうございます。北本先生、お願いできますでしょうか。
 
【北本委員】  先ほどご紹介いただいたテーマの研究についても言及したいところですが、今日はもう少し根本的な点を申し上げたいと思います。データ連携、データ基盤や知の基盤のように、複数の分野を横断した基盤をつくるとき、誰がやるのかという問題があります。人文・社会科学の分野は細かく分かれているため、狭い分野に特化して専門家になるというキャリアが多いのが実情です。そうした背景を踏まえると、分野内でのデータ連携はなんとかできるとしても、分野を超えた連携はなかなかやりづらいということになりがちです。
 やりづらい理由として、幅広い知識が求められるので難しいという理由は大きいですけれども、研究として評価されづらいという問題も無視できません。例えば、辞書をつくるような仕事はかなり基盤的なものですが、その種の研究はなかなか評価されづらい面があります。評価の話は前回の分科会でも議論にはなりましたが、人文・社会科学全体で評価の問題とセットで議論いただくことが重要だと考えています。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。確かにそういうふうな側面はあると思います。
 ほか、どうでしょう。もしよろしければ、事務局の疑問の発端は森田先生だったんですけど、森田先生から何かあれば。
 
【森田委員】  先ほどお話ししたように、基本的にはやはりビジネスではいろいろなリーガルテックが使われています。そして、かなりの数の企業の法務部とか、あるいは弁護士事務所とかがみんなそれを採用していて、これは諸外国でも同じような状況になっている。そこから先にどのようなAIの法学における活用があるかと言うと、AI裁判官をつくるというプロジェクトを国立情報学研究所の先生方がずっとやられておられるのですけれども、そちらに関して言うと、私はちょっと難しい点があると思っています。今、判決とか法学文献データは入手できる、先ほどの後藤先生のお話と答えと同じになっていくのですけれども、判決のデータは将来的に全部入手できるようになるし、今でも割と入手できています。けれども、判決になる前の,当事者が述べた証言とか、あるいは証拠として提出されている文書とか、そういったものからどういうふうに事実認定を、どういう事実があったのかということを認定していくという、そのプロセスは、日本でも闇の中なのです。このプロセスについては法学研究者はあまり取り組んで来ておらず、基本的には司法研修所という裁判官などを育てるための教育システムが和光にあるのですけれども、そこで裁判官などになる前に教えてもらうという形、あるいは裁判官となった後にOJTで教えてもらうという形になっていまして、そこのところはブラックボックスになっています。
 様々な当事者が裁判の法廷でいう証言や証拠は、互いに矛盾しているものはいくらでもあるわけですよね。そこから何が本当なのかと見つけ出すのが裁判官の仕事なのです。そこはもしかしたらデータがあればAIでもできるようになるのかもしれませんけれども、ただ、そこのデータは公開されていないし、今後も恐らくなかなか公開されにくいところだと予想されますので、恐らくAI裁判官は、事実認定の後の、この事実が存在していることを前提として、それならばこの法律が適用されてこういう帰結になります、そのような判断はできるかもしれませんけれども、その前の事実認定のところが、多分AI裁判官を作ろうとするときにはハードルが高いのだろうなと思っております。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。人間の判断をリプリケートすることというのは、情報のやり方によってはできるということはあるんだろうと思います。
 どうですかね、私から指名していいんですかね。後藤先生、すみません、お願いします。
 
【後藤委員】  いや、ほかの先生方がしゃべるんだったらと思ったんですけど。
 今、森田先生おっしゃったように、恐らく人文学のほうからしても、いわゆる研究のプロセスであるとか、もうちょっと言うと基盤となる辞書のつくり方とか、辞書であるとか、そういう部分に関してはまだ共有化されている部分が少ないというふうに思っています。結果的にそれがAIであるとか、そういうところのアウトプットになかなかつながりにくいというか、森田先生のほうのお話で裁判官と言いましたけれども、じゃあAI歴史学者ができるかというと、それは恐らく研究の読みのプロセスであるとかそういうところをどういうふうに明らかにしていくかという議論にもなってきて、実はその部分の専門性をやるというのは実は私の科研のテーマでもあるんですけれども、ただいきなりそれはAIに反映させるというわけではないですけれどもね。
 なので、そういうプロセスの可視化であるとか、あと何を我々は考えようとしているのかの可視化という点は、今後の人文学・社会科学の意義を示していくという点でも結構重要なのかなというふうに思いましたので、そのように少しだけちょっと付け加えさせていただこうかなと思った次第です。今のAIは、多分最終的には論文からバックキャストしてしか成果を読めないので、そうではなくてプロセスであるとかを可視化していくことによって、学問の在り方とは何なのかというのを考えるというのはありなのかなというふうに思ったので、すみません、ちょっと補足させていただきました。すみません、何度もしゃべって恐縮でございます。以上です。
 
【大橋主査】  とんでもないです。ありがとうございます。
 ほか、いかがでしょうか。お時間もそろそろというところはあるんですが、どうしてもこれを聞いておきたいというのがあれば。
 
【助川学術企画室長】  お伺いしたいというよりも感想めいた話で大変恐縮なんですけど、AIがどう使われているかということをきっかけにいろいろ先生に教えていただいて、多分その中で伝わってきたこととして、あとまた、先ほどのディスカッションの中で先生方がおっしゃっていた話とも関わるんですけど、やっぱり人文学・社会科学においては、見えるものを研究の資源にして、人間の見えない部分というのを明らかにするという作業をされているというのは多分大きくて、その話と、今おっしゃっていただいたAIというお話というのが大分クロスして見えてきた、伝わってきたというふうに理解してございます。
 先生方のおかげで、最近の傾向という部分も踏まえて、人文学・社会科学の特性というのがさらに際立って見えてきたのかなというふうにも受け止めておりまして、改めて御礼申し上げたいと思います。すみません、感想めいた話で失礼しました。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。なかなか難しい話題でして、皆さんそれぞれ御経験されている分野も違うし範囲も違うので、そうした中で、こうした場である種共通の基盤をつくろうということなので、とてもではないですけれども、2時間でやり尽くせるところではないのかもしれません。
 本日、もうお時間近いので議論のほうはそろそろとは思っておりますけれども、何かお気づきの点とか、なかなかそのとき言い尽くせなかったんだけれども、こうした点も重要じゃないかとか、そうしたお気づきの点あったら、ぜひ事務局にお送りいただければと思いますが、ぜひ田口先生、お願いできますでしょうか。
 
【田口委員】  すみません、気づいた点ということでちょっと追加でお話ししたいなと思ったんですが、私が最初にした話は、宇南山先生とか山中先生がおっしゃったことと何か相反するように聞こえたかもしれないと思うのでちょっと補足したいと思いました。
 AIの社会実装に伴って人文・社会科学の意義が非常に高まってくるだろうというふうに申し上げたのが、科学技術の後追いみたいな形に聞こえたかもしれないんですけど、多分意図としては、私も宇南山先生とすごく近くて、むしろ人文・社会科学がもともとやっていたこと、もともと我々がやっていたことのすごみがようやく分かってもらえるんじゃないかなという、そういうような趣旨だったんです。
 我々のほうが何か科学技術に迎合するということではなくて、むしろ逆で、人文・社会科学がこれまでやってきたこと、そのすごみとか深みというものが、ようやく社会の中ではっきりしてくる可能性があるんじゃないかなというふうに思っていて、なぜかというと人間が表面的にやれることってかなりの部分、AIが代替できたりすることもこれから出てくると思うんです。だけど、人文・社会科学がこれまで積み上げてきたことって、今の議論でもありましたけど、そんなに簡単にAIに置き換えられないというところがあって、ですから、これからの時代こそ人文・社会科学が、まさに宇南山先生おっしゃるように主体になって、我々が主導するぐらいのつもりでやったほうがいいのかもしれないというふうに思っています。それをちょっと補足したいと思いました。以上です。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 北本先生、お願いします。
 
【北本委員】  先ほどの助川さんの御意見や後藤さんの御意見をお聞きして、言い忘れたことを思い出しました。研究のプロセスに関して、人文・社会科学は今まで1人でやることが多かったという話がありました。ここにAIという、ある意味では他者を巻き込むことによって、プロセスの暗黙知を形式知化できるという効果があります。これは、研究のプロセスを見直す貴重な機会にもなります。AIとの対話を通して人間側の考えが明確化するメリットもある、という点を付け加えておきます。
 
【大橋主査】  ありがとうございます。
 ほか、よろしゅうございますでしょうか。
 ところどころ自分の意見を述べたつもりではいるんですけど、私も思うところは、今、北本先生最後おっしゃっていただいたんですけど、多分AIとかデータとかという話になると、仮に人文・社会科学は今個人芸が強いかもしれないですが、だんだん資本集約的になっていくし、実際になっているんじゃないかという、経済分野は特にそうですけど、なってきているところが相当あるかなという感じがします。
 他方で、やはり社会とか人間を理解するというところというのは個人的な要素って結構あって、そういうところとのバランスの中で社会科学の今後の行く末ってどうなっていくのかというのは重要なのかなと思いますし、あと我々、自然科学も、これはスティックなものとして言っていますけど、彼らも社会実装とか言い始めると、人の肌感覚にどう合うものとか、いろんな認知に近いところまで実は議論し始めちゃっているところもあって、そうするとすごくマージしてくるところもあるのかなと思います。
 昔からマージしている分野の1つが建築だと思っているんですが、建築ってあれは工学とも言えず、人文・社会科学的なところもありみたいなところなんだと思っていますけど、いずれにしても様々御意見いただいて、本当にありがとうございます。
 お時間ですのでそろそろ終わりにさせていただいて、今日はキックオフの会ですのでまとめはしませんが、今後ヒアリング等を通じて、さらに皆さんと御議論を深めさせていただいて、最後、施策にどうしてもつなげなきゃいかんという話ではないんですが、ただ、施策は要らないというのも結論なんで、そういう結論も含めて、どういうふうなことが望ましい姿なのかという議論はしっかり見据えさせていただければと思っています。
 ということでございまして、以上ですが、特段最後、付け加えることとかあれば、委員の方、いただければと思いますけど、よろしゅうございますか。ありがとうございます。
 それでは、最後事務局のほう、もし何かあれば。
 
【林学術企画室長補佐】  事務局でございます。本日の議事録につきましては、後日メールにて先生方にお送りいたしますので、御確認をお願いいたします。
 また、大橋主査からもございましたけれども、本日の議題に関しまして、もし何か追加の御意見等ございましたら、事務局までメールでお知らせいただければと思います。
 次回の日程につきましては、日程調整の上、後日、事務局より委員の先生方に御連絡をさせていただきます。
 連絡事項は以上でございます。
 
【大橋主査】  それでは、本日これにて閉会とさせていただきます。大変お忙しいところお時間頂戴いたしまして、活発な議論、本当にありがとうございました。
 
―― 了 ――
 

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室
電話番号:03-5253-4111(内線4226)
メールアドレス:メールアドレス:singakuj@mext.go.jp

(研究振興局振興企画課学術企画室)