人文学・社会科学特別委員会(第21回) 議事録

1.日時

令和6年1月26日(火曜日)15時00分~17時00分

2.場所

新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、オンライン会議にて開催

3.議題

  1. 人文学・社会科学の振興に向けた取組について
  2. 人文学・社会科学の研究成果の可視化及び国際発信力の強化について2(研究成果の可視化)
  3. 共創による課題設定型・プロジェクト型共同研究の推進について2(体制整備)
  4. その他

4.出席者

委員

(委員、臨時委員、専門委員)
城山主査、白波瀬委員、仲委員、井野瀬委員、大橋委員、尾上委員、北本委員、木部委員、治部委員、青島委員、後藤委員、田口委員、森田委員、山中委員
(科学官)
木津科学官、松方科学官、松田科学官、加藤科学官、長壁科学官

文部科学省

名子学術企画室長、髙田学術企画室長補佐

5.議事録


 
【城山主査】  それでは、定刻になりましたので、ただいまより第21回人文学・社会科学特別委員会を開催いたしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
 初めに、事務局から配付資料の確認及び注意事項についてよろしくお願いします。
 
【髙田学術企画室長補佐】  事務局でございます。事前に電子媒体でお送りさせていただいておりますが、議事次第に記載のとおり、資料は資料1から資料5、それから、参考資料が1から3ということでお配りしております。なお、資料1については、前回の委員会における主な御意見をまとめたものとなります。こちらのほうを適宜御覧いただければと思います。
 資料の不足等ございましたら、事務局のほうまでお願いいたします。
 それから、御発言の際は、「手を挙げる」というボタンをクリックしていただきまして、主査より指名を受けましたら、マイクをオンにしてお名前から御発言をお願いいたします。終わりましたらミュートにまた戻していただきますようにお願いいたします。不具合ございましたら、マニュアル記載の事務局連絡先まで御連絡をお願いいたします。
 なお、本日の会議は、傍聴者を登録の上、公開といたしております。
 説明は以上でございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 それでは、議事のほうに移りたいと思います。
 本日は、まず、「人文学・社会科学の振興に向けた取組について」ということで、名子室長のほうから、先般閣議決定をされました令和6年度の予算案について、人文学・社会科学の振興に関する事業の説明をしていただきたいと思います。
 次に、人文学・社会科学の研究成果の可視化・モニタリングについて、事務局より今後の進め方の全体像を説明いただいた後に、一橋大学の軽部先生から、SciREX事業における「我が国の人文学・社会科学の国際的な研究成果に関するモニタリング指標の調査分析」について御説明いただいて、その後、意見交換を行いたいというふうに思っております。
 最後にですけれども、「共創による課題設定型・プロジェクト型共同研究の推進について」ということで、前回、学術的意義、社会的意義、教育的意義など、多様な意義や成果の広がりについては御議論いただきましたけれども、今回は、このようなプロジェクトを進める推進体制とか組織の運営という観点に着目して議論をしたいと思います。名古屋大学の人文知共創センターの中村先生から御説明をいただいて、その後、前回の論点も含めて意見交換をしたいというふうに思っております。
 それでは、まず、議題の1つ目ですけれども、「人文学・社会科学の振興に向けた取組について」ということでお話をさせていただければと思います。
 資料2、令和6年度予算案について、事務局から御説明をお願いいたします。
 
【名子学術企画室長】  学術企画室長の名子でございます。それでは、まず、最初の議題1につきまして、私どもから御説明させていただきます。資料2と資料3について御説明させていただきたいと思います。
 まずは資料2でございますけれども、人文学・社会科学振興に関する関連する主な予算事業ということで、少し全体像が分かるものということで御用意いたしました。人文・社会学の振興がメインになっているものということでございますので、申請においてそういったものも入っているとか科研費とか、そういったものは入れてないものになってございますので御留意ください。
 こちら大きく2つありまして、上段と下段でございますけれども、上段のほうの1、こちらが社会的課題への対応等を見据えた共同研究の推進ということで、これはJSPSのほうの運営費交付金でやっている取組でございますけれども、課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業ということでございます。こちらにつきましては、ちょっと前年度から予算が減った形にはなっているんですけれども、1.5億円ということで計上してございます。一応JSPSの運営費交付金中の推計額ということで御留意いただければと思います。
 また、下段でございますが、2、人文学・社会学の研究基盤を支えるデータ化でしたりデータ基盤の開発整備、共同利用・共同研究の推進ということで、3つ設けてございますが、1つ目でございます。一番左のものが、JSPSの運営費交付金の中で取り組んでいただいておりますが、人文学・社会科学データインフラストラクチャー強化事業ということで、こちらも約8,000万ということで少し前年度から下がった形になっておりますが、これも運営費交付金中の推計額ということで御留意いただければと思います。こちらは人文学・社会科学のデータ共有、利活用を促進するデータプラットフォームの基盤の充実・強化を図るということで、メタデータの整備をしたりといったところをいろいろと取り組んでいただいているものでございます。
 あと下段の真ん中でございますが、人文学・社会科学のDX化に向けた研究開発推進事業ということで1億円、正確に言いますと9,800万になりますが、こちらは内局予算で新規で今回計上させていただいたものでございます。概算要求段階では2.4億円ほどの事業ということで要求させていただいたんですが、最終的には(1)のデジタル・ヒューマニティーズ・コンソーシアムの運営、こちらデータ規格の整理ですとか、データ構築・利活用等に通じた研究者育成ということも含んでおりますけれども、コンソーシアムをつくってそういったことをしていただくということで、大体約6,400万ほど。(2)の我が国の人文学・社会科学の研究動向の可視化ということで、前期の人文学・社会科学の委員会のほうで研究評価のモニタリングの御議論をいただきましたが、それを受けての対応ということで、書籍についてのモニタリング手法ですとか、あと社会的インパクト、データベース開発の研究基盤構築への貢献といった、そういう多様な成果についての指標の検討をしていくといったところで約3,200万ほどの予算案を計上しているところでございます。詳細は次の資料3のほうになります。
 あと下段の一番右のところでございますが、データ駆動による課題解決型人文学の創成ということで、大規模学術フロンティアの促進事業の中で、国文学研究資料館さんが中心になって取り組んでいただいているものでございますが、今年度でちょうど今の取り組んでいらっしゃる取組、日本語典籍の画像データの30万点をつくっていくという作業をされておりましたが、それの後継というような形で、画像データをさらにテキストデータをつくるというところと、あとはデータ分析技術の開発ですとか、国内外の機関とも連携した画像データの拡充であったり、また、こうした国文学を中心としたデータインフラをさらにいろんな分野の人が使えるような形の研究をしていくというような、大規模データを活用した次世代型人文学研究の開拓ということで後継事業が立っておりまして、こちらのほうをまた新たに進めていくというふうになってございます。
 概略全体像は以上でございますが、資料2の2枚目のほうを御覧ください。
 概算要求で要求していたもので御説明はさせていただいておりましたが、最終的にこちらのほう、いろいろ調整を終えまして、データ規格については3領域ということで考えていたんですけれども、取りあえず2領域でつくると。1領域を中心に進めながら、少し2領域目に取り組んでいくという形になっております。
 また、人材育成のところは拠点としていたんですが、ちょっと拠点というところまでいかなくて、プログラムを進めていくと。プログラムを開発して、いろんな方が受講できるような形のものをつくっていくという形になっております。
 また、利活用拠点というようなものを要求して頑張っていたんですけれども、そういったところはコンソーシアムですとか、ここでもともと中心的に担っていただく中核拠点の取組の中で一応進めていったり、事例を集めていったりということを想定いたしまして、主に取組としてはデータ基盤をつくるということと人材育成の開発、あとはいろんな機関を集めてコンソーシアムをつくって動いていくというところが中心的な事業としてなっているところでございます。
 下のモニタリングのところは、ローマ数字2のところでございますが、先ほどの説明とちょっとかぶりますのと、次の議題と関連するところがございますので、その中で少し触れたいと思います。
 予算に関しましては、ざっとで申し訳ございませんが、以上でございます。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 ただいまの事務局からの御説明について、御質問あるいは御意見ある方ありましたら、御発言いただければと思います。よろしくお願いします。いかがでしょうか。特にございませんでしょうかね。
 新規のものも含めて要求していただいたものは認めていただいているということですが、既存の共同研究も含めて額としては減額されているということで、ちょっとそこの点は少し厳しい側面もあったかなということですが、一応やろうとしていることが一定部分はできるという、そういうような御説明だったんだろうというふうに思います。よろしいでしょうか。
 そうしましたら、また何かございましたら、最後のときにでもお気づきの点あれば御指摘いただければというふうに思います。
 それでは、議題の2つ目のほうに入っていきたいというふうに思います。
 人文学・社会科学の研究成果の可視化及び国際発信力の強化についてということであります。次に、その点につきまして、資料3、人文学・社会科学の研究成果のモニタリングについて、今後の方向性などを、まず事務局から御報告いただければというふうに思います。よろしくお願いします。
 
【名子学術企画室長】  学術企画室長の名子でございます。それでは、資料3に基づきまして御説明させていただきます。この後、資料4のほうで一橋大学の軽部先生のほうからいろいろな取組等についてまた御説明いただきますので、まず全体像に関わるところを御説明させていただきたいと思います。
 資料にございますとおり、昨年2023年2月に人文学・社会科学の研究成果のモニタリング指標についてということで、委員会の皆様のほうに取りまとめていただきました。それを踏まえて具体的に研究の動向、指標を見ていくということで、国際論文ですとか、国際ジャーナルですとか、国内ジャーナル、また書籍といったところですとか、いろいろそういったものを中心に動向を見ていくということで報告をまとめていただいておりましたので、それを受けての取組となります。
 それでモニタリングをどういう形で進めるのかということでございますが、資料のモニタリング実施内容ということで、まず一つは書籍の分析ということで、これは今回の予算案として計上しているものの対応となりますが、書籍というのは非常に研究成果として大事だということは言われるんですが、じゃあ具体的にどういう形で成果というのを可視化するのかというのが正直あまりできていない状況もございましたので、そういったところで書籍を使ってどういったことが見られるのかというのをしっかり分析していこうと思っております。
 例えば、成果の総数。これは書籍、単著、共著、章論文とありますが、一体どういう総量があるのかといったところ。また、例えば分野においてのサブカテゴリーごとの量といったところですとか、あとは書誌情報なんかを見ることで、一定の年数の間の分析ということになると思うんですけれども、例えば研究テーマの動向とかホットトピック的なところなんかも見ることができるのではないか。また、引用されているところ、引用数の分析というのは、いろいろ手間がかかったり、データアセットをつくったりということが必要になると思うんですが、そういったところまで見て、例えば引用される論文の状況ですとか、あと引用の傾向ですとか、いろんなことも見えてくるんじゃないかということで、そういったことをかなりしっかりと進めていきたいというところでございます。
 予算が3,200万円ということで、もともと人文系・社会科学系ということで1拠点2,500万ずつでトータル5,000万と考えていたんですが、そこにつきましては今回1拠点ということで、その中で少し領域、人文・社会学といってもすごい広いわけですけれども、一定の分野をちょっと絞った形で、それでもしっかりその中で見られるようなことをしていくということで、3,200万という形で今回、予算として計上しているものでございます。
 また、国際ジャーナル論文の分析というのを、別途SciREX事業という別の局の持っている予算の中で、今、分析を開始したところですけれども、国際ジャーナル論文のほうでは、研究者ヒアリングを通じて対象範囲を整理して、総論文数ですとかサブカテゴリーごとの論文数を把握して、日本の研究の発信状況をまず見ていくということを今、進めるところでございます。また、あわせてSciREXの中で、国内ジャーナル論文の分析というのもやっていただくといったところで、今、全体像を考えているところです。
 また、新しく指標として言われておりました社会的インパクトですとか、またAltmetrics等の活用の可能性ですとか、そういったところについても検討をしていきながら進めていきたいと思います。この作業の過程で、例えば書籍の分析とか、いろんなところの分析で多分見えてくることもあると思うんですが、目録ですとか索引作成、データベース構築とかいろんな研究基盤への貢献とか、そういったようなところも見えてくるところもあると思いますので、こういったような作業をしながら、研究の成果というのも可視化していく作業を進めたいと思っております。
 こちらについては定期的に学術審議会の学術分科会等において報告をさせていただきながら進めていきたいと思っております。特に多分、この委員会がメインになると思うんですけれども、こういった進め方を想定しております。
 SciREX事業が令和7年度まで、我々の3事業のほうが8年度で一定の結論が出ることになる、結果が見えてくることになるんですけれども、そういったところを踏まえながら、また新しい施策に生かすとか、そういったことを考えていきたいというふうに思っているところです。
 こういったことを進めながら、人文学・社会科学の研究成果の可視化ですとか、計画的振興、社会還元、国際発信への活用、そういったことを考えながら、我が国の人文・社会科学の振興につなげていきたいというふうに考えているところでございます。
 後ろに関連する資料として、前期にまとめていただいた報告の概要ですとか、また評価に関連して、いろいろ過去言われております審議会のまとめなども入れさせていただいております。書籍の重要性については、12ページですかね。もともと学術分科会の人文学・社会科学の振興の委員会は、過去いろいろ言われていることもあるんですが、書籍の重要性自体は、実は平成21年の人文学・社会科学の振興についての報告の中でかなりしっかり取り上げられておりました。このときに言われていたところは、人文学・社会科学の成果というところで重きになるのは、アカデミズムの評価だけじゃなくて、社会における評価ですとか、歴史における評価といったところがあって、単に書籍が重要ということじゃなくて、成果が非常に社会に影響を与えたり、人の考え方に影響を与えるというところがあって、非常に実践的な契機があると。そういったことを見る上で、書籍のこうした研究評価にとどまらない、まさに社会における評価ですとか、歴史における評価が重要といったところがあるということが言われておりまして、そういう意味での、まさに書籍をなぜ見ていくのかという意味では非常に重い意味があるのかなというふうに思っているところでございます。
 簡単に補足も含めてでございますけれども、一応こういう方向でモニタリングを進めていくということと、次年度の予算で計上させていただきましたものについての、どういうことをするのかということで、簡単な御報告というところでございます。
 私からは以上でございます。
 
【城山主査】  全体像についての説明、どうもありがとうございました。
 続きまして、先ほどの全体像の中にもありましたけれども、SciREX事業という別枠の事業の中で、国際ジャーナル論文の分析というのが若干先行して進んでいるということもありますので、それについて説明をいただければというふうに思います。具体的には資料の4に基づきまして、軽部先生から御発表をお願いしたいと思います。軽部先生、よろしくお願いします。
 
【一橋大学(軽部)】  よろしくお願いいたします。それでは、始めさせていただきます。
 我が国の人文学・社会科学の国際的な研究成果に関するモニタリング指標の調査分析ということで、SciREX事業の一部として採択いただきました。研究代表者の軽部と申します。所属は一橋大学経営管理研究科・イノベーション研究センターになります。共同研究者としては、人間文化研究機構の後藤先生と、自然科学研究機構の小泉先生と3人で研究プロジェクトを推進しております。
 採択されましたのが10月でして、研究進捗と申しましても始まったばかりのことを少しかいつまんで、これから皆さんのお時間を頂戴してお話しさせていただければと思います。次、お願いします。
 このプロジェクトは、実施体制としては、私軽部と既に申し上げました人間文化研究機構の後藤先生と自然科学研究機構の小泉先生と、あともう一方、先ほど御説明のありました名子さんを含めて、文科省の研究振興局の振興企画課の学術企画室の実務家の方、行政官の方と一緒に、人文学・社会科学研究の国際性・国際的な活動というのをどのように定義するかという問題はもちろんございますけれども、その可視化が重要であるという双方の認識に基づいて、具体的なプロジェクトとしましては、3年間を通じて国際ジャーナル論文における定量的指標の構築可能性というのを様々な観点で検討するということを、研究の最終的な目的にしています。
 具体的には、その次の政策課題にございますように、人文学・社会科学の国際性に関しては様々な議論が行われておりますけれども、具体的な指標化あるいは検討可能性に関しては十分に議論されていないように思われますので、それについて具体的に定量的な把握の可能性、計量手法の可能性、分析手法、モニタリング指標、フィージビリティー等に関して多様な点で検討していくということを考えています。
 具体的な研究計画ですけれども、14ページの非常にビジーな資料で大変申し訳ないんですけれども、この中にありますように、具体的には今年はElsevier社のScopusのデータベースを使って個々の論文データを引き出してきて、日本国内の研究機関に所属する研究者が、それぞれの領域で、どのような研究活動を国際査読誌を中心にして行っているかというのを見ていくということを考えています。
 質的なものに関しては議論の余地がございますのでそれはさておいて、取りあえず定量的な側面、具体的には論文数、あるいは論文の引用数を中心にしながら、その規模というのを時系列で組織別に、あるいは日本という国別の単位で見たときに国際的にどうなのかというのを分野ごとに見ていくということを考えています。
 他方で、人文学と社会科学の研究活動の国際性に関して、あるいは研究評価に関して国際的な査読誌を使うということの適切性みたいなものは、実は必ずしも自明ではございませんので、それも含めて多様なインタビューを通じて、その可能性というのをチェックしていくということを研究プロジェクトでは考えております。次、お願いします。
 このプロジェクトには大きく2つの柱がございまして、1つはScopusを使った、データベースを使った量的な調査研究というのを検討しております。具体的には既に申し上げましたけれども、試行的にこの3か月進めてきましたのは、SciValというElsevier社のデータ検索のサービスを使って、私が所属します一橋大学と、あと後藤先生が所属される人間文化研究機構、恐らくこの2つの組織は、一橋は一応社会科学全体をカバーしまして、人間文化研究機構のほうは比較的人文系の方が多くいらっしゃるので、そういう意味でいうと、この2機関という限られた研究機関ではございますけれども、比較的網羅性であるとかバランスということに関しては恐らく適切だろうというふうに考えまして、初年度に関してはこの2機関を中心に、今後、主要国立大学、あるいは私立大学も含めて、日本全体の特徴というのを追っていこうというふうに考えています。
 4万誌ほどあるScopusの収録雑誌がございますけれども、これをScopusが割り宛てている分野ごとのコードを合わせて、純粋に人文・社会科学と分類されるもの、これが一つ目。二つ目は、純粋に自然科学と分類されるもの。それから、その両方の掲載を念頭に置いたような雑誌と大きく3つに分けて、狭義の人文・社会科学系雑誌と、あとは広義の人文・社会科学系雑誌に分けて、それぞれの雑誌を一つのプールにして、年別、機関別、国別もそうですけれども、分野別、雑誌別にそれぞれその組合せで研究活動を国際誌という形で把握していくというのが、現状考えている定量分析の主たる大きな作業の中身でございます。次、お願いします。
 もう1つはSciREX事業において、様々な先生方から事前にコメントをいただきまして、人文・社会科学といっても非常に広範な研究領域分野を含むので、それに対する多様性に対してきちんと考慮しようというアドバイスをいただきましたので、それに沿って、研究分野・領域の多様性というのを理解するという観点で、聞き取り調査を12月初旬から始めています。
 具体的にはどのようなことを聞くかということですけれども、研究者の社会との関わり、あるいはアイデンティティーに関わる問題、あるいは研究者の研究環境に関する変化、それから、研究者自身が研究業績をどのように定義しているか、あるいは研究者が所属する研究者コミュニティーというのがどのように研究業績を定義しているか。全ての質問に関しては、御協力いただいた研究者の方と、研究者が所属する研究者コミュニティーについて、回答者の方がどのように見ているかという2つの点においてそれぞれお聞きしています。さらに研究者による研究の質の定義、あるいは研究者による国際化の定義であるとか、その程度というのをおおよそ35項目、半構造化インタビューで、余った時間については追加的な質問をすることによって、それぞれの分野について特徴を捉えようというのがもう1つの目的です。
 12月の初旬に約200名の研究者にメールで依頼をしまして、2024年1月26日、本日ですけれども、65名の方が参加予定です。対象者はシニア、常勤職員を退職された方も含みますし、他方で若手の助教である方も含みます。これは、非常に研究者コミュニティーというのが多様で、同じコミュニティーに所属していても、恐らく研究ステージによって研究者コミュニティーに対する考え方が違うということを前提にインタビューを実施しています。時間は60分から大体90分の対面・オンラインによる聞き取りで、対面かオンラインの選択は研究者御自身に両方のオプションを提示して、どちらか好まれるほうを選択して実施を行っています。次、お願いします。
 具体的には75の科研費分類が人文・社会科学に関してはございますけれども、34分野、65名の研究者の方への半構造化インタビューを行っています。これは実際、1回メールを送ってその後回答がなかった方にはわざわざフォローアップしておりませんので、実際には非常に好意的に捉えてくださる方と、全く回答をくださらない分野の方がいらっしゃいます。各分野に関して該当しそうな方にランダムにピックアップしてお願いしているので、網羅性ということに関しては課題が残っています。
 私が比較的情報にアクセスしやすい経済・経営コミュニティーにはより多くの回答者がありますし、あるいは社会学に関しては、比較的協力者は現時点ではそれほど得られていない。どれぐらい回答してくださるかという傾向に関しては分野ごとに違いはあるでしょうが、必ずしも分野間の違いを同定するような数は集められておりません。取りあえず今年は1年目ですので、なるべく研究者コミュニティーの多様性を把握するということを目的に、探索的にインタビューを実施しています。次、お願いします。
 聞き取り調査による暫定的な発見事実ですけれども、非常に興味深いものはこれだというふうに申し上げるものは特にございません。むしろ我々の常識をきちんとなぞるような形で結果が得られているというか、非常に有益な意見を積極的な形でいただく場合のほうが多いというのが、このインタビューを現時点では35件ほど、ちょうど半分終わったぐらいですけれども、感想です。
 研究評価に関する意見・考え方は、研究者、研究分野で大きく異なるというのが一つ目。研究分野によって国際化の程度は恐らく大きく異なるというのが一つの特徴です。いまだにと言うと語弊がございますけれども、分野によっては国内誌が支配していて、国際的査読誌への投稿がほとんど行われてない分野も存在しますし、他方で国際的な査読誌が当然視され支配的な分野、あるいはかつて書籍が評価されていたけれども、そのような評価がほとんどなくなったという分野もございます。
 書籍の位置づけに関しては非常に興味深くて、私自身は書籍というものを非常に高く評価し続ける分野というのが存在しないと思っていたんですけど、分野によってはそういう分野がいまだにございます。あるいは、採用・昇進においても鍵となるというふうに、様々な世代の方が共通して回答される分野も実はございます。
 それから、共通して見られるものは、言語として英語が支配的になっていること。ドイツ語、フランス語も共存していた時代から、この10年で大きく英語に移行していたという分野が数多く見られます。それから、どの分野においても、若手ほど国際的な活動に関与しているという傾向が見られます。
 既にトランスクリプトは大体1件あたり3万5,000字ぐらいなので、恐らく180万字ぐらいのトランスクリプトが出来上がると思うんですけれども、非常に有益なものがあって、私自身がこのインタビューを通じて少し気がついた点というのは、研究評価に関しては、比較的可視化に関しては多くの方はそれほど違和感はないんだけれども、どのように可視化するかということに関しては、分野とか研究者によって大きく考え方が異なるというのが、現時点では見い出せています。
 私からは以上です。御清聴ありがとうございました。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、ただいま事務局のほうからお話しいただいた全体像と、軽部先生からの研究の現時点での御報告というのがありましたので、これらの内容を基に意見交換をさせていただければと思います。御質問、御意見含め、御発言いただければと思いますが、いかがでしょうか。では仲先生、お願いします。
 
【仲委員】  ありがとうございます。御報告どうもありがとうございました。特に後半のことについてなんですけど、量的に見ると、経年的に少し変化があるのかどうかというのを、今、年代では若手のほうが、というふうなお話もありましたけれども、あと、分野の違いももちろんあるわけなんですけど、経年的に何か変化があれば教えていただければと思います。全体としてコロナ前、後ということで、論文数とか減っているのでは、というふうに推測しているところですけれども、人文・社会科学ってどうなのだろうかということを思いました。お願いいたします。
 
【一橋大学(軽部)】  それに関しては、Elsevierとの契約が今済んだところでして、これから本格的に見ていくということなので、特定の機関のみというと、具体的には一橋が増えたかどうかというお話をするだけになってしまうので、あまり皆さんにとって有益な情報ではないと思いますけれども、うちの機関では右肩上がりには増えていると思います。ただ、それを何と比較するのかというのは幾つか複合要因がございまして、恐らく研究者コミュニティーが小さくなっているという領域もございますので、そういう意味でいうと、論文が増えたというのは生産量が増えているのか、研究者が増えているのか、減っているのは1人当たりの研究者のプロダクティビティーが下がっているのか、研究者自身のコミュニティーが小さくなっているのかという幾つか複合要因がございますので、ここら辺を結構きちんと見なきゃいけないと思います。
 
【仲委員】  確かにそうですね。内に籠もってむしろ書けるという部分もあったりするかもしれないですし。分かりました。どうもありがとうございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 では、井野瀬先生、お願いします。
 
【井野瀬委員】  御報告のおまとめありがとうございました。非常に興味深く聞かせていただきました。
 質問なのですけれども、今、軽部先生言われたのは、1冊にまとめるということに対する価値が分野によってもいろいろあるんだというお話でしたけれども、私自身は歴史学ですけれども、皆さんやったことあると思うんですが、JSPSなどの成果公開でとにかく1冊まとめるというようなことは、一つ若手の職を得るときのメルクマールになっているような気がするんですけれども、そういうことがこれからは変化してくるという、そういうように軽部先生の、まだ1冊にまとめるという書籍の公開がいいところもあるけれども、でも国際論文とかそういうのがというようなその御発言から、今私が言いましたような、従来の職を得るときに必要だというふうに認識されていた、そのメルクマールも変わってくるんじゃないかというふうに思われますか。
 
【一橋大学(軽部)】  これはそもそも分野によって大きく違うかなというふうに思っていまして、恐らく本にまとめる意味というのはどういうものですかという質問をしたときに、例えば民俗史を書くという意味では本にまとめないといけなくて、それは民俗学の中の基本中の基本だというふうにおっしゃる方もいらっしゃるし、ある種の体系性みたいなものを本として表現するんだということをおっしゃる方は、歴史学であるとか、恐らく法学の一分野でいらっしゃいますし、経済学であるとか、あるいは心理学であるとか、分野によってはそういうものを全く評価しないという分野もございまして、そういう意味でいうと、体系性そのものを訴求するかどうかということ自体も学問の評価軸の一つで、それを見る領域と必ずしも見ない領域とがあって、専門化が進展することによって、体系性そのものを指向すべきかどうかということさえも懐疑的な研究領域というか、必ずしもそこを重視しない研究領域も人文学・社会科学の中にもありますので、少し本というか書籍に対する考え方も大きく違うんじゃないかと思っています。
 
【井野瀬委員】  そうですね、おっしゃるとおりで、そうすると若手研究者たちが目指していくものというものも少しずつ変化してくるというような、分野によってはもちろん差はあるんですけれども、若手というところで考えていくとどういう新たな光というか、変化が見えるかなという点についてはどうお答えになりますか。
 
【一橋大学(軽部)】  私自身が一番危惧しているというか、恐らくこれは研究者コミュニティーがどのように考えるかということだと思うんですけど、研究者の横のダイバーシティーの問題を皆さん結構おっしゃるんですけど、私からすると縦といいますか、世代間のトランジションみたいなものを研究者コミュニティーがそれぞれどう考えるかというのがありまして、むしろ指導教官によって評価軸が大きく違うことと、研究者コミュニティーで変わりつつある支配的な評価軸にギャップがあると、恐らく若手研究者のキャリアが大きく失敗したり、限定的になる問題があるので、そういう問題をどのように考えるかというのは、私自身は、特に変革期であればあるほど深刻になるんじゃないかなというふうに思います。
 つまり、自分自身が所属している研究者コミュニティーが完全に閉じていて、そこで就職が可能であれば問題ないんですけれども、そこが開かれているときに、特定の研究者コミュニティーの評価基準にのみのっとって、自分のキャリアの時間を使ってしまうことによって、それ以外のキャリアの展開可能性みたいなものが大きく制約されるんで、それに関しては、やっぱり学術の領域がどのようにそれぞれの研究者コミュニティーとして評価していくのかということを事前にある種共有しておかないと、それぞれの若手の研究者のキャリアが形成できないし、そこに難しさがあるというふうに感じます。
 
【井野瀬委員】  ありがとうございます。すごく考える要素になりました。ありがとうございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 いかがでしょうか。白波瀬先生、お願いします。
 
【白波瀬委員】  大変ありがとうございました。とても有益なデータでありがとうございます。ただ、専門分野の社会学がなぜか非協力的だという何とも言えない事実があって、ちょっとどうして……。
 
【一橋大学(軽部)】  いや、これは非協力的なのではなくて、恐らくまだ十分にアクセスできてないという部分があるかと思いますので、現時点では非常に少ないのは、私の努力不足という可能性がございますので、必ずしもこういうパブリックな場で非協力的だと僕が申し上げるのは適切でもないし、実際そうではないと思います。恐らく多様な社会学のコミュニティーみたいなものをどう適切にアクセスしていくかという、我々の研究アプローチの問題でもある。
 
【白波瀬委員】  大変ありがとうございます。でもそれも含めて今、仲先生から時系列ということもありましたので、できれば対象については、時系列比較が可能なような設定をしていただけると大変有益。今、どういうようなことで評価されるかということなんですけれども、なかなか言葉遣いというか位置づけが難しくて、例えば、社会学でももちろん本当に、その分野によってどれだけのコンセンサスというかな、この辺りの媒体で何を目標として出していくのかというところの違いというのは、恐らく経済よりも社会学なんかのほうが多様である。でも、それは日本のある意味の特徴であって、海外ではそれほどばらけてはいないぞとか、いろいろあるように思うんです。それとあと、北米とヨーロッパ、それとアジアというような地域的な違いもある。
 だけれども、私が知る限り、私は残念ながら全く社会学を代表しないと思うんですけど、伝統的なやっぱり日本でのということになると、もしかしたらそちらのほうが事情としてはよくお分かりの方がいらっしゃるかもしれないんだけれども、少なくとも海外だと、やっぱり書籍については、もうある程度の評価を得た者が書籍として、それで業界自体もリスクを取れないので、もうそこはまずマニュスクリプトを出して、今、日本は依頼をされて何とかということなんですけれども、そういうことは全くなく、マニュスクリプトを出して、レビューをして2年間で書き上げて書籍になるというようなことになりますから、出版社側がもうリスクを取らなくなっているという状況があって、そういう意味では日本のほうがまだ学術に対して友好的かなと思うんですけれども、そういう市場の中で、次の学生たちをどう展開していくかというのは、もちろん横連携というか国際連携の中で、ある程度の標準化されたところで研究成果を見せなきゃいけないという具体的な理由がありますからね。
 そうなると必然的に、やはり英文の国際ジャーナルということになるかもしれないんですけれども、そこでは世代の交代のタイミング、経済学では比較的北米型のというか、そういうのに早く転換したいのもありますし、心理学も結構早いですね。心理学会がかなり国内で努力されたという状況もあります。そういう意味では、社会学は残念ながらちょっと遅れているような気が私自身としてあってという背景があるので、そういう背景と一緒にこの有益な結果を出していただけると、すごく次の政策展開をするときに有効に使えるんじゃないかななんて個人的に思った次第でございます。
 以上です。ありがとうございます。
 
【一橋大学(軽部)】  ありがとうございます。一つ補足させていただきますと、恐らく私はこのインタビューを通じて、私自身も自戒の意味を込めて検討しないといけないなと思ったのは、社会の評価といったときに、社会の構成要素として何と考えるかというところによって、研究に対するエバリュエーションの在り方って変わってくると思うんです。例えば、日本に在住する日本語話者を念頭に置くのか、あるいは日本に住んでいる日本語以外を母語にする人たちに研究発信をするのか。あるいは海外といったときに、あるいは国際的というのが何を意味するかということによって、大きくその意義というのは変わってくると思います。これが一つ目です。
 その点でいうと非常に奇妙だなと思うのは、例えば国語に関連するもの、あるいは日本文化に関連するものは、英語で発信するということが社会的に強制されるような状況に置かれている事例が見受けられます。そういうものが何度も確認されるんですけれども、国際的に発信するといったときの意味が、英語で発信するということに自動的に変換されているのが私自身は奇妙な事態だと。むしろ国際化という意味でいうと、日本語でコミュニティーを形成する、あるいは日本語を学ぶ外国人研究者が日本文化を学ぶときに英語で学ぶわけがありませんので、そういう意味でいうと、そのコミュニティーを大きくしていくという意味でいうと国際化ですけれども、それを英語で発信するというふうに国際化を定義してしまうと、非常に奇妙なことが起きると思います。恐らくそれが分野間の特徴であったりするところと関連すると思います。これが全ての分野に適用されるわけではございませんけれども、一部の分野ではそういうことに気をつけないといけないように思います。
 
【城山主査】  よろしいでしょうかね。
 それでは、木部先生、お願いします。
 
【木部委員】  私は今、軽部先生がおっしゃった、まさに日本語学の分野で、日本語で発信することが重要であるというふうに考えています。一方で、外国語による発信も必要だと思います。私の所属している日本語学会でも、今年、オンラインの英文ジャーナルを新しくつくりました。しかし、それは評価という観点ではなくて、評価に結果的につながるかもしれませんけれども、日本語研究に関する情報を正しく世界に発信したいという観点からです。オンライン限定ですけど。
 これまで日本語で書かれた論文で非常に価値が高く、レベルが高いものがあるんですけれども、なかなかそれが世界の方々に読まれない。そうすると、誤ったというか、専門的でない情報が世界に広まり、レベルの高い情報が世界に伝わっていかないというジレンマがあって、それでそういう試みをやったわけです。今年始めて、これから続けていく予定ですが、それが評価に直接つながると考えて始めたわけではありません。けれども、それを続けると、だんだん若い方の中には、そこに発信することで世界の人が読んでくれるという意味で、若い方の発信力をつけるということにもつながるのかなという気がしています。
 ただ、日本語学の分野では日本語での発信は重要なので、それはずっと続けていきます。やっぱり日本のことをやっていても英語――英語だけではなく、外国語での発信は必要だと思います。けれども、それと評価をすぐに関係づけるのは、ちょっと私は疑問視しているところがあります。すぐに結びつけるべきではないという感じがしています。その辺いかがなんでしょうか。
 
【一橋大学(軽部)】  これ、分かりません、まだ研究を始めた私見ですけれども、研究のサマリーみたいなものを外国語で発信するというのは十分あり得るかなというふうに思っています。研究論文そのものを英語で書くのではなくて、ある種研究活動のアウトリーチ活動であるとか、あるいは長期的には研究者コミュニティーをより豊かに厚みのあるものにしていくという試みとしては十分あり得るのかなというふうに思います。そういう意味でいうとそれは矛盾するものではなくて、ある種、長期的な研究活動、研究者を増やすとか、研究者の厚みを国際的に巻き込んでやっていくという意味ではあり得ていいんじゃないかなと思います。
 ですので、研究者は高いレベルで日本語研究、日本語をベースにした研究、日本の歴史研究というか文学研究みたいのを例えばやるときに、全てを英語ですべきではないですし、ある意味で、その研究成果の一部を英語という形で研究知見として発信することによって、長期的に研究に携わる日本語を母語としない研究者が、その研究者コミュニティーに入ってくるというのは、違った形での国際化という話になると思います。
 こういう話を申し上げるのは、日本語の文学研究をされる方に何人かお聞きしましたけれども、英語のパブリケーションがポイント制になることによってどういうことが起きるかというと、御自身が研究クオリティーを下げることによって、英語論文を学内紀要に出すようなことをされている研究者の方がいらっしゃって、それは学校のルールからすると、それがポイント制になるという意味では一応意味ある活動だと評価されるわけですけれども、長期的にそういう研究リソースの分配というものが、個々の研究者によって適切かどうかというものと、日本語をベースにした研究の研究者コミュニティーのリソース配分として適切なのかという問題は、一方で議論する余地があるかと思います。
 あと社会との関わりについて申し上げますと、よくきちんと社会的インパクト評価を考えないといけないということは、多くの研究者が強く同意されています。ただ、もう一方で非常に興味深い指摘は、社会の評価にさらすということが、社会科学とか人文科学上、本当に直に望ましい効果かというと、それは両方の効果があり得て、説明責任という意味ではイエスだけれども、一方で社会全体の評価は極めて近視眼的な側面があるので、そういう意味でいうと、いかに長期的に多様性みたいなものをどの程度担保できるのかというのが、現時点でこのインタビューを通じて、私自身が個人的に得た知見の一番大きなところです。
 
【城山主査】  よろしいでしょうか。
 では、治部先生、お願いします。
 
【治部委員】  ありがとうございます。私、今、軽部先生がおっしゃったことはすごく重要だと思います。私自身は今、大学に籍を置いておりますが、長いこと経済記者をやっておりましたので、今日の議論は、日本の研究、社会科学、人文科学におけるKPIをどのように考えるか、また、それを納税者を含む一般のサイエンティスト、アカデミアでない方にどう説明していくかという観点で、極めて重要であるというふうに考えております。
 今、例えば多様性ということが世界的に重要視されるんですけれども、多様性ということは、決して英語でそれらしいことを述べることにとどまらないということをいつも考えます。その意味で、軽部先生がおっしゃっていたように、単純に英語で発信したことだけで全てのものがはかれるのは、むしろ多様化に反するものであるというふうに、少しアカデミアの外から見ている者としても感じるものです。
 あと、メディアという観点で申し上げますと、ちょっと今日、傍聴の方がどれくらいいらしているのか分からないんですけれども、昨今、全くアカデミアと関係ない方たちと、大学のランキングというものを分かりやすいので結構報じることがあるかなというふうに思います。ただ、そのランキングがどのように取られたかということはほとんど気にせず、単に数字だけがひとり歩きするような状況ですので、ぜひ今日ここで議論されたようなことを分かりやすい形で発信していくということも含めて、この会議体で期待したいところだなというふうに思いますし、ちょっと記者の方とかがぜひ傍聴されていたら、こういう議論が行われているということを書いていただきたいなというふうに思いました。
 以上です。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 何かレスポンス、軽部先生のほうからございますでしょうか。
 
【一橋大学(軽部)】  今、治部先生から御指摘があったポイントに関連して、私自身は研究者が評価にさらされるということに関して、極めて懐疑的だと当初思っていたんですけれども、私のインタビューに参加してくださった方は、極めて当然の責務だというふうにお話しされていました。
 大きく2つの観点で、大きな論点がございました。一つは納税者とか社会への責任という観点で、その評価が大事だとおっしゃる方、それからもう一つは、研究者間の間で、ある種の資源配分に関してトレードオフがあるんで、そういう観点からすると、研究者評価というのは不可欠である、あるいは避けられないというふうに考えられている方がいらっしゃいます。
 他方で非常に興味深いのは、多くの人たちが社会の評価にさらされるということが、総じて必ず必要かと言われるとそうではなく、実はいつの社会かということに応じて大きく見方が変わっているのではないかと考えています。人文社会科学に対して社会が要求したり期待するものは時代によって変わってくると思います。その時代その時代の社会の要求や期待に即して学問のあり方を柔軟に変えてしまうと、個々の研究分野の知の継続性や一貫性が失われてしまいます。社会のあり方を考える基礎を作るのが人文社会科学の役割だと思います。学問のあり方を検証するには、継続性や一貫性を基礎とした知的財産の継承が不可欠です。時代は常に正しいわけでもなく間違っているわけでもない。だからこそ、その社会との対話を維持しながら、個々の学問のあり方を事後的に検証していくことが可能となるように、学問の継続性と多様性を担保することが必要ではないかと思います。研究者のコミュニティーの方は、常に留保つきで御自身の考え方と、コミュニティーの考え方、御自身があるべき姿とそれぞれ違う観点でその重きを置いて御指摘されているので、私はやはり一方で、社会に対するコミュニティーの評価も大事ですけれども、回答者が指摘されていた研究者同士のコミュニティーであるとか、相互評価など、評価の多様性みたいなものをなるべくオープンな形で議論できる。要するに、つくった数字のみをブラックボックスにして議論するのではなくて、そのプロセスを常に丁寧に議論することが我々にどれぐらいできるのかというのが、恐らく公正であろうとする社会、完全ではないですけれども、それに近づこうとするための必要不可欠な活動だというふうに、このインタビューを、現時点で半分ほどですけれども、聞いて感じた次第です。
 
【城山主査】  ありがとうございます。いかがでしょうか。
 白波瀬先生、先ほどまで手がまた挙がっていたような気がするんですが、何か追加でしょうか。
 
【白波瀬委員】  すみません、評価について、木部先生とすごく似たことがあって、若い人たちはやっぱり評価が物すごく気になると思うんです。そのときに中途半端に社会的な評価、我々研究者で、もちろん国の血税を使ってという、その自覚は当然社会的な責任として持っているわけです。それは教育の中でやるべきことであることは確かなんですけれども、ただその一方で、中途半端に社会的な評価と言われたときに、一番困るのはやっぱりその途上にある若手なような気がするんです。ですから、こういうことを、例えば今回のような貴重なデータをお示しいただくときに、あくまでも学術のところを中心にとか、少し目的を明確にして展開いただかないと、今の日本語の話もあるんですけれども、やはり日本の国語の資料ということになりますと、外国の優秀な研究者が日本に来て、日本語で研究をするわけです、それは分野によって。そこの中で、発表はあえて日本語でしたいということになるわけです、現場としては。だから、これがやっぱり我々の一つ一つの業界であるということは、やっぱり過小評価していただかないほうが、それはやっぱりこういう学問を続けていくという社会的な責任がありますから。
 そのことと、社会的にどうかというのは何というんだろう、やっぱちゃんと区別して、文科省の研究会としても展開しないと、中途半端に社会的な責任と言ったところで、日本語でということになるとそっち側で引っ張られちゃったりすると、やっぱり非常に評価の手前のところで若手が育っていかないという状況もなりかねないので、ここの本当の議論はすごく重要だし、我々自体もどういう形でしっかり上げて、評価として、ある意味で標準化できるのかというのが重要かなとすごい思ったので、すみません、2回目だったんだけど、失礼しました。
 
【城山主査】  御意見ということで、記録に残させていただければと思います。
 いかがでしょうか。
 1点、私からもお伺いしたいんですけれども、今日、結構議論になったことの一つで、軽部先生御自身も御指摘された、国際化というのは英語だけじゃないよねという、そのコンテクストによっていろんな国際化の評価の仕方があるべきだという、極めて重要な視点だと思うんですけれども、逆にこれを本当に可視化しようと思うと、どういうやり方があり得るのかという課題があるのかなと思うんですが、何か御意見はございますでしょうか。取りあえず、まさにプロジェクトとしてやっていただくのは、英語で出ているものを可視化しましょうと。だけれども、当然それを絶対視するのはまずいので、いろんなことを考慮しなきゃいけませんよという注意書きとしては、まずもちろん言えるんだと思うんですけれども、それを超えて正面から扱うということがあり得るのかというのをお伺いしたいというのが1点と、もう一つ、ちょっとこれも大きな話で恐縮です。
 あるいはSciREXのプロジェクトの域を超えてしまうかもしれませんが、今日の皆さんのお話の中でも、分野ごとの違いというのは何となく分かっているのがインタビューで可視化されてきたということはあるかと思うんですけれども、恐らくこういうことを継続的にきちっと議論していこうと思うと、多分軽部先生が横から、ある意味では研究としていろんな分野に接点を持っていただいたことを契機として、ある種のそれぞれのコミュニティーの中で、自分たちの立ち位置みたいなもの、変化みたいなものを、自らセルフリフケーションしていくような、何かそういうプロセスが必要なんだと思うんですけれども、ある意味では軽部先生御自身のプロジェクトを契機に、何かそういうことにつながっていく可能性はあり得るのかとか、ただそれはプロジェクトとして抱え込んでしまうと大変なことになってしまうので、必ずしもそういうこととは無関係に、そういうことはアカデミックにも面白いし、研究マネジメント上も大事だという側面もあるかなと思うので、その辺、何か御感触あればちょっと一言いただければなと。すみません、ジェネラルな御質問ですけど、よろしくお願いします。
 
【一橋大学(軽部)】  一つ目に関連して言いますと、恐らくリージョナルスタディーとか地域研究みたいな扱いというのが一つの考えるポイントになると思います。恐らく南アジアだと、ヒンドゥーとか非英語圏はございますけど、英語が流通する領域においては、やはりコミュニティーのフィードバックというのは、実は地域研究であったとしても英語と相性がいいと思うんです。あるいはラテンアメリカでいうと、恐らく英語ではなくて非英語的なもの、多分スペイン語というのが中心的なものになると思います。私自身は学術の世界で英語がどれぐらい支配的であり続けるかというのはよく分かりませんけれども、現時点ではそれがより強まっているという傾向はございます。
 ただし、幾つかの領域においては必ずしも英語ではない。例えば、哲学の領域だと多様な言語を使うということを推奨するような流れもあるというお話をお伺いしましたし、そういう意味では言語的なものの独自性みたいなものを担保しようとする動きというのはないわけではないと思います。
 論文の研究としてどうやってそれを可視化していくのかというのは、恐らく非英語的なものというのがより支配的である領域というのは恐らく地域研究みたいなものであると、例えばそういうのはあると思いますし、日本語というのもそのひとつだと思います。他方でフランス語というのを対に考えるというのもあるでしょうし、恐らく非英語的なものに関して、例えば、非英語圏の人たちがどれぐらい自分たちの言語的なものに関連するか関連しないかというトピックをベースにしながらそのアクティビティーを追うと、間接的にそれを観察することは可能だと思います。これが城山先生に対する最初のコメントです。
 2つ目は、このプロジェクトを始めて、12月から六十何人のインタビューを取るということで、ちょっとこれはどれぐらいできるか分からないんですけど、私自身はやはり幾つかの研究者の方にお聞きしていて気づいた部分というのは、個々のコミュニティー、研究者同士、分野のコミュニティーみたいなものをどうやって相対化するかということです。恐らく異なるコミュニティーの人たちがお互いに領域横断するような、越境と表現してもいいし、境界連結と呼んでもいいと思いますけど、そういうふうに相互の交流みたいなものがあれば、もう少し相対化とか可視化みたいなものが可能になるだろうし、実際そういう領域で若い人が仕事をするのは簡単なことではないですけど、異なる価値基準にさらされるような若手研究者がいれば、その研究者のコミュニティーの中で、どちらのほうがより望ましい評価基準なのか、あるいは2つを合わせることによって複眼的に異なる研究次元みたいなのを評価することになると思うんで、そういう機会がどれだけこの日本社会の中でできるかというところがポイントだと思うんです。
 そういう意味でいうと、人文学と社会科学がそれぞれ多様であるのは前提の上で、どの程度違っていて、どの程度実は同じことを言っているのかというのだけを確認して共通化できるというか、標準化という表現が適切かどうか分かりませんが、同じ次元で評価できる部分と、やっぱり異なる部分で評価すべきだというところがどこかというのを、実は追うこと自身が自分たちのディシプリンであるとか、フィールドそのものの固有性を定義するときに大事になってくる。異なる部分があるのであれば、やっぱり固有の評価基準というのがあり得るという結論につながると思うんで、むしろそれが相互に比較可能にならないとどこが独自になるかというのは分からないという意味では、そこが一つ考えるべきポイントかなというふうに思います。
 以上です。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 青島先生、お願いします。
 
【青島委員】  青島です。ありがとうございました。
 今、いろいろ議論をお伺いしていてやっぱり思うのは、評価をどう国際化、標準化して考えるかということと、要は国際的な研究コミュニティーに対して、いわゆる研究コミュニティーのやり取りの範囲をどれだけ広げるかという問題の両方がやっぱどうしてもごっちゃになるんですけど、最近思うのは、もちろん言語を完全に英語にして国際的に発表するということ自身で、そこで評価するということであれば評価とコミュニケーションを一体化していくわけですけど、いろんな固有の価値がある場合には、言語としては、例えば日本語でいろんな発表をしたとしても、コミュニティーの場としてやっぱり英語で発信しないと、いろんな海外の学者とやり取りができないと。それは最近はかなり翻訳ツールとかいっぱい出来上がっていて、僕も最近ちょっと自分のところにいる学生の人に、いろんな論文を実際どのぐらいのクオリティーで翻訳していて、どのぐらいのコストでできるかとやると、3日もあるとかなりのクオリティーが出てくるんですよね。正直その翻訳見たほうが自分で書くよりいいんじゃないかという感じのレベルで出てくるので。そうなると、この辺り両立し得るんじゃないか。常に自分の書いたものは、ほぼ自動的に国際的に発信できるような、言語としてはですね。だけれども、研究そのものはかなり固有の価値にのっとったような形でやるということも可能になっていくのかなというのをちょっと思ったんですけど、この辺りいかがでしょう。
 
【一橋大学(軽部)】  全くそのとおりだと思います。テクノロジーの進歩に応じて学術の形って変わってくると思うんで、恐らくコラボレーションもずっと以前よりも簡単にはなったし、ミーティングも簡単になったし、あるいは、日本語で書いたものを簡単に海外の研究者がWeb上で簡単に利用可能なAI翻訳ソフトで翻訳して、中身を簡単に把握するということは非常に容易になっている。そういう意味でいうと、現行的な障壁が持っているものというのは極端に小さくなっているというふうに見ることはできると思います。
 なので、研究そのものをコラボレーションという問題と、研究活動の普及というか、活動そのものを発信していくといったときには、機械翻訳がどんどん進歩することによって、その障壁がどんどん小さくなっていく。
 いずれにせよ翻訳の問題だけではなくて、いわゆるテクノロジーの進歩によって学術の協働の仕方というのが変わってくるということをさらにどう考えるのか。後藤先生もいらっしゃいますが、デジタルヒューマニティーの可能性みたいなものも非常に大きいですし、これは日本について研究している海外の研究者にとってもメリットがあると同時に、一方でヨーロッパにある資料みたいなものをデジタルヒューマニティーの進展によってアクセスしやすくなるという双方向のメリットがあるので、そういう意味でいうと、テクノロジーとか学術の協働の在り方というのがどう変わっていくべきなのかというのは、一方で長期的な問題として考えないといけないと思います。
 
【青島委員】  どうもありがとうございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 田口先生、お願いします。
 
【田口委員】  どうもありがとうございました。軽部先生の御発表、非常に興味深く拝聴しました。
 こちらで伺ったことは私自身も非常に学びが多くて、やはり自分の分野の評価というのをどういうふうに考えるのかということをいろいろ考えさせられましたが、やはり先ほどのお答えの中でもあった、相互比較が可能になるということが非常に重要だというふうに私も思いました。相互比較を可能にするための材料がやっぱりなかなかなくて、機会もなかなかなくて、そういう意味で今回、軽部先生中心になさっている御研究を、何らかの形で公開といいますか、成果発表のような形を、こういう具体的なデータがあったということも含めてやっていただけると、分野内で議論するときに非常に役に立つんじゃないかなというふうに思ったんですが、今後、この御研究をどういう形で成果発信していくのかというあたり、ちょっとお伺いできればと思いました。よろしくお願いいたします。
 
【一橋大学(軽部)】  ありがとうございます。SciValのデータを使った研究というのは比較的誰もが再現できるようなものになると思うんですけど、恐らく研究者に対するインタビューを含めたものというのは、匿名化した形にはなりますが、研究者の方の非常に貴重なボイスだと思っていまして、今回の研究を通じて勉強したのは、実は私自身かもしれなくて、そういう意味でいうと、御自身のことを聞かれて非常に勉強になったと研究者の方は控え目におっしゃってくださるんですけど、実は私自身も、自分以外の研究者の方のコミュニティーのことを聞くことによって、自分たちの研究者のコミュニティーの相対化ができるという意味では、相対化するということが持っている意味というのは双方向に決して小さくないなと思っています。自分たちの専門そのものについてのイシューを議論することは多いんですけど、こういう観点で研究活動そのものを振り返るということはなかなかない。私自身がこれをやっているのは自分の研究成果というよりは、皆さんの相対化のための公共財をつくっているという意識がございますので、そういう意味ではなるべく公共財という形で何か皆さんと共有できれば、恐らくこのプロジェクトに参加されなかった研究者の方にとっても非常に意味があるものになるのではというふうに考えております。どうもありがとうございます。
 
【田口委員】  ありがとうございます。各分野でそういう議論がどんどん盛り上がっていったらいいのかなというふうに思います。それぞれの分野で、やはり世代間の違いもありますし、まだまだ評価基準というのも動きつつあると思うんですよね。それをどうしていくのかというのは、やはり自覚的な議論が必要なのかなというふうに思いました。ぜひいろいろな情報提供をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
 
【城山主査】  それでは、北本先生、お願いします。恐縮ですが、これでちょっと次に移りたいと思いますので、よろしくお願いします。
 
【北本委員】  非常に参考になるお話、ありがとうございました。途中でちょっとコメントがあったんですけれども、評価の目的として、資源配分のために必要だというような声があったということなんですけれども、評価と資源配分が直接結びつかないとは思うんですけれども、その辺りは今後どのように考えていく。直接というか、結局、成果が上がっているから資源を配分するというようなロジックになりがちですけれども、そういうことなのか、それともそうではなく、また独立に考えていくのかというあたりは、何か知見がありましたらお願いします。
 
【一橋大学(軽部)】  資源配分のロジックとして評価を使うというのは一つの考え方で、評価と資源配分は、誰がどのような意図で結びつけるかに応じて変わってくると思います。評価と資源配分マネジメントを分けて考えるという視点が必要だと思います。そういう意味でいうと、評価は資源配分のためにあるというふうに考える方もいらっしゃるし、そういうふうに考えない研究者の方ももちろんいらっしゃいます。ただその中で、どのようにそれぞれの研究者の方が、なるべく自分たちの研究フィールド、あるいは御自身の研究の意義というのをきちんと説明していかないと担保できないという考え方を共通してお持ちだというのが、先ほど申し上げた意図でございます。
 
【北本委員】  ありがとうございます。そういった結びつけ方というのも、いろいろ検討が必要かなというふうに思いました。
 以上です。ありがとうございました。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 まだいろいろ御意見等ございますかと思いますけれども、何かありましたら、後日メール等で事務局までお送りいただければというふうに思います。まさに可視化という、結果だけじゃなくて、プロセスにおいて研究コミュニティーを相対化する、ある種のインフラを日本の中でどうつくっていくのかという、極めて大きな課題について問題提起いただけたのかなというふうに思います。軽部先生、どうもありがとうございました。
 続きまして、議題の3、共創による課題設定型・プロジェクト型共同研究の推進について、2回目ということで、体制整備の話を中心に御議論いただければと思います。
 まず、資料5に基づきまして、中村先生から御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
 
【名古屋大学(中村)】  よろしくお願いいたします。名古屋大学の中村と申します。画面共有させていただきます。本日は、人文知共創を目指すためにという形でお話しさせていただきます。
 今回、こうしたお話をいただいた際の資料にはこんなことが書かれていました(資料5の2枚目)。プロジェクト型共同研究を推進するための要点として、研究マネジメントの仕組み、マネジメント人材の育成や組織的支援の在り方、やっぱり研究者のマッチング、そして相互理解の仕組み、先ほどから話題になっておりました評価とか成果発信の在り方。その上で今回、私どもの人文知共創センターの取組について紹介してほしいというお話になったと理解しております。
 この人文知共創センターというのは、学術知共創プログラム2022年度に採択されました、「人間・社会・自然の来歴と未来:「人新世」における人間性の根本を問う」というプロジェクトを推進する研究拠点として、名古屋大学人文学研究科附属センターとして発足したものです。私は現在、そのセンター長を務めさせていただいております。
 そこで、先ほどの要点を、私のほうでこのように5つにまとめました(資料5の3枚目)。今日はこのような流れでお話ししていきたいと思います。
 まず最初に、このプロジェクトチームができるまでをご説明いたします(資料5の4枚目)。発端は2005年に名古屋大学総長裁量経費プロジェクトに採択されたことがきっかけになっております。このときの採択の条件というのが、学際的であること、文理融合であることでした。それを踏まえて,企画したプロジェクトが採択されました。こうした助成金は準備資金という位置づけでしたので、研究期間が終了したら何らかの出口を示さなくてはいけませんでした。その出口として考えられたのが、外部資金の獲得と、我々人文系でいいますと、論集の発行でした。まず科研の萌芽研究に応募し、それが採択され、のちにメンバーを新規に加えたりして、プロジェクトが順々につながっていったという経緯でございます。
 ここには学術知共創プログラムに採択されたメンバーと、過去に行った共同研究だけを述べていますが、それに以外にも、今回このプロジェクトには関わっていない人との共同研究も別途あります。長い時間をかけて色々な方といろんな形で関わりながら、少しずつそれが流れるようにこのプロジェクトに合流したという形になっております。
 このプロジェクトの研究班の構成と班の連携について御説明いたします(資料5の5枚目)。人間性の根本を問うというテーマを設定しましたので、人間をほかの動物から区別し、人間を特徴づけるものとして、言語とセクシュアリティーというキーワードを選びました。そして、一方では人間を取り巻く世界として、自然と人間との関係、それを、古来より人間は自然とどう関わってきたかを担当する研究班、それに対をなす形で近代以降の生政治、それに対するアートを担当する研究班を設置しました。ここで言うアートには、テクノロジーも含んでいます。それらを統合する形で理論班を設けまして、この5つの班で研究を進めております。そして、全ての班に、人文学系、自然科学系、社会科学系の方たちに入っていただいて構成しております。
 このプロジェクトを推進するための共創センターとして、人文学としては、本領である文献研究+データマイニング、という形で進めようとしています(資料5の6枚目)。それを基本として、いろんな分野の方たちと定期的な研究会を開いて、まずは相互理解をすすめ、それをどう形にしていくかというところで格闘しているところです。メンバーの所属機関も、名大以外に13の機関が協力機関に名を連ねております。
 センターの構成メンバーは、ご覧のようになっています(資料5の7枚目)。基幹教員としては、人文学研究科に所属する3名で、このうちの1人、鄭さんという方は、センターが設立されたことによってセンターに配置されたポスト、助教ポストを利用して、プロジェクト採択後、センター発足後、採用してメンバーに入っていただいております。それ以外に採択時の所見には、政治学関係の人を入れることが望ましいとありましたので、名古屋大学の法学研究科の田村先生にも入っていただいております。年齢構成としましては、後に加わった人を除いて、申請書を書いた時点での年齢構成は20代から60代まで、大体中堅に集中するという形で構成しております。
 プロジェクト活動の大枠としましては(資料5の8枚目)、各班で班別会議を毎年度2回ずつ行い、全体集会を年度内に2回、大体夏に一度と年度末に一度開催し、これは全員がそろって進捗状況を話し合うという形になっています。それ以外にグループリーダー・ミーティングも随時、こちらは大体オンラインで開催しております。
 班の連携としては(資料5の9枚目)、連絡板を用いておりまして、誰かが何か、こんなことをしたらいいんじゃないかと提案すると、それに賛同した人たちの中で、じゃあこんな感じにしましょうというふうに話がだんだん固まっていき、興味のある人はどうぞ参加して下さいという形で、班に関係なく、都合の合う人が参加するという形でやっています。単独の班だけで行動するということもなく、世代という点では、可能であれば院生さんとかRAさん、もしくは関連する研究者の方たちにもお声かけして参加していただいています。
 センターを設立したことによる学内外の反応についてもご報告します(資料5の10枚目)。センターをつくったことによって、活動が目に見えるものとなり、こういうものがあるんだなと着目していただくという点で効果はすごく大きかったと思います。多分野の研究者が関わるプロジェクトが立ち上がった、それが採択されたということで、学内でも各方面に喜ばれ、おかげで全面的な御協力をいただいていますし、いろんなお声がけをいただくことになりました。その実例をここにお示しします。
 この中で特に私、これまでこうしたコミュニティがあることを知らなかったのですけれども、ドイツ語圏日本学術振興会研究者同窓会からお声がかかり、、そこでも話をしてほしいという依頼を受けました。。こうした研究者の同窓会は各言語にあるんだそうです。それ以外には新聞社からの取材となっております。
 次に、これだけ分野が違う方たちとのプロジェクトを遂行する際の困難な点についても紹介してほしいということでしたので、幾つか挙げさせていただきました(資料5の11枚目)。大体皆様も推測は容易と思うのですけれども、まずは予算を執行するに当たっての手続が各大学ごとに違いますので、毎回一つの出張手続をするにもいろんなやり取りがあって、ようやく認可というふうになって、本当に出張の朝、直前までかかるみたいな、そんなことも多々ありました。だから、最初はかなり大変だったのですけれども、まず事務補佐員をセンターのほうで雇用して、その方に一括してやってもらうという体制を作りました。。だし、フルタイムでセンターの仕事だけをしていただくほどの予算的な余裕はないので、これもかなり限定的な形ではありますが、それによってかなり助かっているのは事実です。この方がいろんな取次ぎをしながら、名古屋大学の中にはいろいろ部署があって、旅費担当、謝金担当、物品担当など、それぞれ担当事務の人たちがいます。センターの事務補佐の人に、これらの担当事務の人たちとのやり取りをしてもらっています。こんな風に、総じていろんな事務の方にも御協力いただいて支えていただいています。
 また、もう一つには、これはこのプロジェクトに限った問題でもないし、共同研究に限った問題でもないのですが、若い方――若い方に限ったわけではないのですが、本務校での業務がどんどん押し寄せていて、その中での時間配分、研究のための時間の確保がどなたも難しい。そして、皆さん大抵御自分の科研などを持っておられるので、それとのやりくりと時間配分、エフォートのの配分にも苦労されています。さらには、30代、40代の方が多いので、ライフイベントの中で、そもそも研究のための時間を捻出するのがなかなか大変になっております。このプロジェクトでは、5つの班がありますので、今はこちらの班でどんどんやっていただいて、別の班はちょっとペースを緩めてというような、そういうこともしております。それによって、プロジェクト全体としては常にどこかが走っているし、どこかの班は一時的にゆっくりとしたペースで進めている、ということができています。
 成果発表については、最近では国際学会のパネルに応募することがわりとやりやすくなっていますので、そちらに応募するようにしています。もともと研究班ごとのテーマというものがありますから、それらに関連するようにして、しかし単独の研究班ではなく、班をまたがった顔ぶれで参加可能なテーマを設定します。それは、普段の班別会議や全体会議でのセッションを通じて、こういうテーマでもできるんじゃないかというような、議論の中で自ずと出てきたものです。そうやって、でこんなふうに国際学会に応募したりしています。他に、叢書刊行を予定しているのんですが、この困難としては、この予算をどこから捻出するかというところで、また別途出版助成をどうするかと考えているところです。
 メンバーは現在24名いるんですけれども、ほぼ全員の分野が違います。ということは、自分以外の全てにおいて、ほかの人が話すことに関してみんなが初心者という状況なので、みんながセッションに参加する前に勉強しなくてはいけないという、そういう状態がある程度続きます。そのため、自分の分野の紹介や研究報告をするだけでなく、ほかの人の言うことに関する事前勉強みたいなものも必要になったりして、皆さんいろいろ苦労はされているところです。昨年六月に最初の報告書を出し、それに対するフォローアップ報告書を先日受けとったところですが、そこでもやっぱり法律とかそういう方も入れたらどうかというふうなことが書かれていました。多分いろいろなところが、ここが足りないんじゃないかというのが見えてくるのだとは思うのですけれども、常に予算配分のほうには苦労しておりまして、採択後に参加していただいた方たちは、皆さんただ働きというか、配分金なしでやっていただいているような状態ですので、ちょっとその辺のやりくりはかなり難しい状態になっております。できる限りのところでしております。
 一つ、一般の市民のかたたちを巻き込んだ企画をご紹介します(資料5の12枚目)。もともとメンバーの1人が読書会というものをしていまして、最初は対面でずっとされていたのですが、コロナを機にオンライン開催にした途端、東京だけではなくていろんな地域から参加者が出てきて、一気に拡大しました。これは一般市民の人たちも関わっていて、登録している人は200名を超えています。常時参加されるのは、80人とか100人ほどにはなっていますが、そういう場で、このプロジェクトの予算を使って、講師、お若い方たちをお呼びしてお話ししていただき、若い研究者が一般の人たちと共に議論する場をつくるという試みです。
 最後に、今後のセンターの活動をご紹介します(資料5の13枚目)。先ほど申しましたように、今現在、共通のテーマを設定してパネルを申請するということをしておりまして、それが現在、東西哲学会議パネルと国際哲学会議パネルになっています。これは班に関わりなく、いろんな分野のメンバーが入っております。
 もう一つは、第5班におられる先生が、1人今、サバティカルでローマ第二大学に滞在しておられまして、それをきっかけに、最初はそこに我々は研究訪問という形で行こうというふうに話していたのですが、それがどんどん話が大きくなって、先方の先生のご尽力で向こうでもいろんな方にお声をおかけして、シンポジウムをすることになりました。エスポジト先生とか、ダンジェロ先生は、日本でもご著書が翻訳されており、イタリア哲学会の重鎮です。こうした方々と一緒にシンポジウムをすることになり、3月、ローマで研究報告をしてまいります。
 私のほうからは以上となります。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、ただいま中村先生から御説明のありました内容をベースに議論、意見交換をさせていただければと思います。御質問、御意見いかがでしょうか。では尾上先生、お願いします。
 
【尾上委員】  尾上でございます。非常に興味深い、幅広い分野の方々を巻き込んだプロジェクトの御紹介ありがとうございました。
 話として、班の連携というところとかを見させていただくと、大学院生の方々も一緒に活動されているように思えるんですけれども、大学院の学生さんから見ると、こんな機会に触れるというのはすごく役に立つというか、今後に生かせるかなと思っているんですが、学生さんのモチベートという面でいうと、積極的にどんどんやりたいというのか、結構やっぱり分野の違う人と話すのは難しいという、そういう感じなのかというところ、何かそういう印象がもしありましたら教えていただければと思います。
 
【名古屋大学(中村)】  これもやはりジェネレーションによる、あるいは年齢によるかと思いまして、まず学部で学年の低い子たちは、私、ドイツ文学なんですけれども、独文に来たのにどうしてドイツ文学と一見関係ないことをやっているんだろうという、ちょっと面食らったところはあります。ただ3年生、4年生となると、最近、学部生の目にも耳にも学際的な研究が重要ということは届いているようで、そういう形で貴重な機会というふうに思ってくれているようです。
 まして院生さんになると、自分にとってのチャンスと思ってくれる人も多いです。もともとITに強い若い人とかだと、もとは趣味でやっていたことがそのままこっちでも連動できるみたいな形で、ごく自然に参加されている方もいらっしゃいます。
 
【尾上委員】  ありがとうございました。
 
【城山主査】  山中先生、お願いします。
 
【山中委員】  詳しい御説明ありがとうございました。2つお聞きしたいことがあります。感想もあるんですけれども、一つは出張の手続がすごく大変だとか、予算のやりくりのことなど、本当に共感します。こういう大きなプロジェクトを取ると、途端に事務仕事ばかりになりますし、また若手を雇ってそういう仕事を補助してもらったとしても、その人がそれで研究のキャリアを積むというより、生活はここでお金が出るからサポートしてあげられるけれど、かわりに下働きにも使ってしまうというようなことになったり。今、お話の端々からも御苦労がしのばれて、ちょっとその大変さに共感を示したいと思いました。
 それからもう一つ、今の尾上先生のお話ともちょっと関わりがあるんですが、うちでもいろな拠点の仕事をやったときに、世界中からいろいろ有名な人が来て、こんな人たちとお話ができるなんてと喜ぶんですけど、そこに参加した若い人たちが、別にいいところに就職しているわけじゃないんです。結局こういう新しいことに関わって、すごくわくわくする経験はしたけれども、ちゃんと受皿としてそういう経験が生かせるようなところに就職ができるか、というと難しい。そんなことは何もしないですごくドメスティックに内側に向いて論文を書いていた人のほうが先に就職することもあって、自分たちがこういう外部資金取ろうとしたことが、若い人にあまり役に立ってない、ということはないのかなと。大学のレベルとかいろいろなことがある思うんですけれども、ちょっとそういうことがあったので、今の尾上先生の御質問と引っかけてどうなのかなと思いました。
 それから、すみません、3つ目になってしまいますけれど、予算がないからほかの分野の人にお願いできないというお話だったんですが、これはやっぱり全員にお金を配って参加してもらっているという意味ですか。例えば、すごく面白いテーマだから、お金は分配できないけれど一緒にやりませんか、ということで人がたくさん集まってくる、というようなやり方は、許されないことなんでしょうか。
 
【名古屋大学(中村)】  分かりました。最後のお話からいきますと、普通に配分するのではなくて、やっぱり共通の何かイベントをするということに集中して予算を投じたいと思っておりますので、ある程度は私に集約しています。しかし、とにかく皆さん分野が違うから、まずは本を買って勉強するところから始めなくてはならない、というところもあって、そのためには各自の裁量で使える予算が必要ということです。そういう意味では最小限の分担金みたいなのは皆さんに使えるようにしています。
 あと、いろいろロボット関係とか何とかというとIT関係が必要になってきますので、そういうものは確保しながら、ただ、こちらであんまり要らないよという人がいると、それを融通し合いながら、イベントで使う、というふうにしています。あるいは、この分野で面白い人がいるよというふうに紹介したいときは、余裕があればその人の分担金から、その人に対する講師謝金を払うようにしていますが、できるだけ私の持分から出すようにしています。というのは、最小限自由になるお金がないことにはなかなか不自由だと思うので、研究に必要なものは買っていただきたいと思っています。持ち出しにならないということが一番大事だと思っております。
 それと前後しますけど、就職につながるかといいますと、ただ本人の側に、面白いイベントがあってすごくわくわくしたんだけれども、それが自分の中で熟して、それを何らかの論文に生かすまでには物すごく時間がかかるというふうに私は思っております。私自身大学院生の頃、文系ですので、大体研究会とか読書会というのは、ハイデッガーの文献を順番に読んでいくとかそういうことをやっていたんですけれども、やっぱり読んでいても訳分からなかったし、自分が論文でハイデッガーに言及するということをやったのは本当に10年や20年かかりましたので、消化するのに時間がかかることを実感しています。となると、生半可な形で、未消化に口にするのはかえって危険でもあります。本業として何かをやりながら、でもちょっと余力があればそういうことに関わっていける。しかしそれを生かすための時間は必要ですので、そういう2本立てが必要かなというふうに思っております。
 あと予算……。
 
【山中委員】  あとは感想でした。ごめんなさい。ありがとうございました。
 
【城山主査】  ありがとうございます。
 では仲先生、お願いします。
 
【仲委員】  どうもありがとうございます。本当にこれも大変興味深いすばらしい活動をされているなと思いました。一つは、今までの御質問ともつながるんですけれども、人文知共創学みたいな分野をつくられているところだと思うんですけれども、例えば事務的な扱い、あるいは論文書くときの作法であるとか、言葉であるとか、概念というふうなところで、お互いに通訳をしていかなくちゃいけないというようなこともあるわけで、こういうようなことに携わった人たちがサイエンスコミュニケーターとか、大学のこういったプロジェクトを支援していくような、そういう専門職につながるみたいなことはないのかなということを思いました。これは今、人文社会が主ですけれども、そこに自然科学なども入ってくると、ますますそういう「つなぐ」ということに長けた、慣れた人たちが出てくるんじゃないかなというふうに思いましたのが一つ。そういうトレーニング的なプロセスというのが、今日は仕組みのところだけでしたけれども、組み込まれているのかどうか、というのが一つです。
 もう一つは、ここも今までの御質問と重なるんですけれども、自分の専門というのを極めたいというときに、こういう融合的な活動というのがどういう効果を持つのか。自分の専門を極めれば極めるほど、その立場から貢献できる部分が増えるのか。あるいは、むしろ共創知、人文知共創学のような、何か特定の領域の学問分野をつくっていくパートになるのか、先生のお考えを伺えればと思いました。ありがとうございます。
 
【名古屋大学(中村)】  ありがとうございます。私自身はドイツ文学ではありますし、でもいろんな研究会に院生の頃に出ておりましたので、自分が完全に専門外のことをやっているとは思っておりません。実際専門から外れてはいるんですけれども、ただ、昔、哲学でこういう言葉で語っていたことを、今は哲学の言葉を使わずに探究できるのだということを知って以来は、とても興味深くメンバーの方々のお話を伺っています。例えば、言語の問題にしても、言語哲学とかそういった言葉ではなくて、ロボットに言葉をどうやって覚えさせるか、ロボットがどうやって概念を持つようになるのかという形で探究するという点では、それほど全然別のことをやっているという意識はないので、だからこうやって、さほど抵抗もなく、やってこれたのだと思っております。
 あと、サイエンスコミュニケーターの方の話なんですけれども、先ほど、これまでの学内外の反応のところで一つお示しした、名大カフェ第100回記念のイベントを持ちかけてくださったのは、名大におられるサイエンスコミュニケーターの方です。その方が、学外の別のプロジェクトのサイエンスコミュニケーターの方とお知り合いで、そういった人同士で話合いながら、それぞれのプロジェクトリーダーに話を持ちかけて対談が実現しました。そのときに、相手方の先生と、こうしたサイエンスコミュニケーターの方たちがやってくれることは、私たち自身ではそこまではできないという話をしていました。つまり、私たちの研究が私たちの日常をどう変えていくのかを、一般市民の方たちに伝えるためには、研究会が学会で用いるのとは別の言葉が必要ですし、別の語り方が必要です。それを専門でやってくれる人がいて、どういうやり方がよいのか、どうしたら効果的かに特化して取り組んでいるのはすごく助かります。今、私のプロジェクトのメンバーの方々は、すでにアカデミックポストについておられますので、むしろ彼らの指導学生さんたちが、将来進路を考えるとき、選択肢として出てくると思っております。
 
【仲委員】  どうもありがとうございました。そういうトレーニングのプログラムにもなるなというふうに思いました。ありがとうございます。
 
【城山主査】  ありがとうございます。
 後藤先生、お願いします。
 
【後藤委員】  後藤でございます。大変すばらしい内容のプロジェクトだと思います。
 すみません、私からは少しちょっとスペシフィックな質問になってしまうかと思うんですけれども、デジタルの位置づけというのをどのように捉えておられるのかという辺りをもう少し詳しく御説明いただければと思っております。今回のスライドでも、かなりデジタルヒューマニティーズに関わるような部分が大変多くあったと思っておりますし、また、先ほどの議論の中でも、ロボットとの関係性であるとか、恐らくデジタルないしはコンピューター自体も一つの共創の相手として捉えるのかなというのは少しイメージとしてあったんですけれども、デジタルというのをプロジェクトの中でどのぐらいの大きさで、どのように位置づけているのかというあたりについて、もし可能でしたら少し補足をいただけるとありがたいです。
 
【名古屋大学(中村)】  ありがとうございます。形は複数ありまして、しかもグラデーショナルで、一番尖っているのが第3班で、ロボティクスと言語です。そのグループリーダーをされている方は、ロボットが登場する小説の中で、ロボットがどのように描かれているか、そういったことをテキストマイニングによって分析しようとしています。つまり、人間がどうしてもロボットに対して乱暴な扱いをする描写とか、言葉遣いなんかをテキストマイニングし、言語哲学、正確には語用論の専門家と協議します。そこに記号創発のロボティクスの人が加わりロボットに言語を習得させ、どのように概念を得ていくのか、そもそも概念を得るのかを研究し、さらに発達心理学の方が、幼児が言語を習得するときと比較していくという、そういう形を取っております。
 もう一つは、私自身のテキストマイニングです。そもそも私は当初、こういうツールが信用できるんだろうかというふうにやや懐疑的でした。しかしそのままでは話が進まないので、一応自分でいろいろ試してみました。そして実際にやってみた結果、的外れではない、それほど間違った結果は出てこないなというような実感を得ました。そうした実感を得ることができたので、さらにいろいろ試していくうちにだんだん面白くなったという状況です。こうした自分自身の体験を踏まえますとあらかじめそうした先行研究の中で、何が言われて何が問題になってきたか、そしてそれがどう論じられてきたかを知ることなしに、ツールだけを使うというのは難しいかなというふうに思っています。専門知がなければ、テキストマイニングもただのおもちゃになってしまいます。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、田口先生、お願いします。
 
【田口委員】  御発表どうもありがとうございました。非常に幅広く展開されている印象で、感銘を受けました。
 その中で、自然科学系の研究者もたくさん巻き込んでプロジェクトを進めていらっしゃると思うんですが、自然科学系の研究者の巻き込み方といいますか、どういうふうにこのプロジェクトに参加していただいたのかというそのやり方ですね、その部分を一つお伺いしたいと思います。
 というのは、自然科学系の研究者にとっては、恐らくは、少なくとも最初の段階では議論ベースの共同研究になってくると思うんです。人文系の研究者、恐らくは社会科学の研究者も、ある程度そういう議論ベースの共同研究ってなじみがあると思うんですけれども、自然科学系の研究者は必ずしもそうではないと思われるので、そういう方々をどうやってまず巻き込んでいったのか。それから、どういう方々がこういう研究に関心を持って加わっているのかという辺りを少し補足していただければと思いました。よろしくお願いいたします。
 
【名古屋大学(中村)】  ありがとうございます。先ほどお見せした、私が過去にいただいた科研とかで、その都度成果発表の一環として、シンポジウムとか研究会とかをしてきたんですけれども、その研究会にメンバーの方々が、こういう人がいると紹介してくださるという形でつながりができていきました。どの分野にも,分野に拘らない人はいて、そういう方が、文系の集まりでも話をしてくれたり。科研の研究会とかだと数人なので、分からないことが何でも聞ける。何で数式で表現しようと思うんですかというような素朴な質問から、なんでも聞いて、根気よく答えていただきました。その頃私、フロイトに関しても関心を持っていましたので、記憶が潜伏するというのはどういうことかということを考えているときに、数式で潜伏というものが表現でき、遅れを表現できるということを知って、いたく感銘を受けまして、そうはいってももちろん数式は全然分からなかったんですけれども、とにかく一緒に定期的に集まって、お互いの研究発表をするということを続けていく中で、お互いに完全には理解できないながらも、何か楽しい。楽しいだけでは叱られるかもしれないですけど、どこかで目的が収れんしていくんじゃないかなという手応えが出てきました。そうなるまで、ずっと根気よくお付き合いいただいているとしか、いいようがないです。
 
【田口委員】  ありがとうございます。私も異分野融合研究をやっているんですけれども、やはり人脈というのが非常に重要だなというふうに考えていまして、そういう個人的な、この人とは話が合うというような付き合いからどんどん広げていくというのが大事なのかなと思っていましたので、やはりそういうことが重要なのかというふうに改めて認識した次第です。
 その中で、もう一つ追加でちょっと御質問させていただきたいんですが、今、面白いだけではちょっと困るかもしれないとおっしゃっていましたが、確かにそういう異分野でお互いに一緒に議論し合うということは非常に楽しいことで、議論しているだけでも本当に楽しいと思うんです。他方で、やはり成果を出していくというところが難しいところで、成果として、やはり論文発表などにつながった例というのはどのぐらいあるのかというのをちょっとお伺いしたいんですが。
 
【名古屋大学(中村)】  共著論文、単行本の中に、自然科学系の方とか、認知神経科学系の方とかに入っていただいて、一つのテーマに対して、数学からはこんなふうに表現する。例えば、フランス詩においてはこう表現するという、全然違う分野なんだけれども、一つのテーマについて論じたらどうなるかという形の、論集自体がそれこそ一種のコミュニティーのようなものになって、そこにガチャガチャといろんな分野の人が議論している、という態を成しています。研究の精度とか密度とかといいますと、論集の中の各論考は、分野がさまざまではあるので、専門的には物足りないという面もあるかもしれませんが、コミュニティーをつくるという、それを一つの足がかりにして次に行くというプロセスとしては重要ではないかと思っています。
 
【田口委員】  どうもありがとうございました。参考になりました。
 
【城山主査】  どうもありがとうございます。
 ちょっと基本的な点について一つだけ私からもお伺いしたいんですけれども、最初のほうにお話いただいた、プロジェクトができてきた経緯のところのお話を具体的にお伺いしたいんですけれども、学術知共創プログラムに申請をして採択されたということと、今回、人文学研究会の中の附置センターとして、こういう形で見える形で設置したということ、この間の関係とか、どういう経緯でセンターという形を取ることにしたのかとか、その辺り、何か背景なり経緯なり御説明いただける部分がございますでしょうか。
 
【名古屋大学(中村)】  これは私にとってはちょうど運がよかったというのか、でもそもそも時流がそうなっているということなのかもしれないんですけれども、大学のほうでもこうした趣旨のセンターを必要としていたというのが、実際のところです。私の方でもセンターを設置したいと思ったときに、研究科長もまた新しいセンターを設置することを考えていました。、それは、名古屋大学が中長期ビジョンというものを制定しているときでしたので、そこで求められているものと、このセンターが目指すもの、つまりこのプロジェクトが目指すものとがちょうど合致した、というところです。センターを設置するための学内でのヒヤリングや評議会の場では、理事の先生とか総長の方から、人文学に附属ではなくて、全学的なセンターとしてやってはどうかというふうなお言葉をいただいています。。
 
【城山主査】  現在は一応人文学研究科の中のセンターに最終的にしたけれども、プロセスの中ではむしろ大学本体本部のほうからいろいろ、もうちょっと全学的なものにするというオプションを示されたという、そういうことですか。
 
【名古屋大学(中村)】  はい、そうです。ただ、私としてはあくまでもプロジェクトを遂行するための拠点としてセンターを設置したいと思っていましたので,現在のような形に落ち着いた、ということです。
 
【城山主査】  なるほど、分かりました。どうもありがとうございます。
 白波瀬先生、お願いします。
 
【白波瀬委員】  少しだけ。大変ありがとうございました。すばらしいと思いました。やはりこれだけの分野を組織されるリーダーシップ、何となく中村先生、簡単なようにおっしゃっているんですけれども、これはやっぱりお人柄と実績でこれだけまとめられていると思います。
 それでやはりこのコミュニケーションは、学生たちにとっては本当にきっかけ、これが10年後、花開くかどうかというのは一本ではないんですけれども、これがないとあるとでは物すごく違いがあると思うんです。こういうところに投資をしようという名古屋大学の先見の明もすばらしいと思うんだけれども、やっぱりこういう事例はどんどん本当にもっと広く教えていただけると、今日私は伺って本当に感動いたしました。ありがとうございました。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 今回、前回の田口先生の御発表に基づく議論とかなり重なってくるところもあるかと思いますけれども、今回、特に体制だとか仕組みのところに少し焦点を当てるということで、そういう意味でいうと、これまでの質疑の中でもございましたけれども、一つ一つはそもそも出張手続のようなロジをどうするのかみたいなレベルの話だとか、それから、仲先生御指摘いただいたような、サイエンスコミュニケーションとかつなぐ人材をどうするという、そういうレベル話だとか、あとちょっと私が最後触れさせていただいた、人文学研究科の中につくるのか、あるいは前回の田口先生のお話は、たしか学内協働施設みたいな形だったと思いますが、そういう全学的な形でやるのかだとか、多分いろんな仕組みのオプションだったり、それぞれをこういう取組を広げていくために必要なインフラ的なものがあると思うんで、もちろんそういうものを今後どうやって強化していくかみたいなことが、将来的な提案につながり得るのかなという感じがしています。
 ちょっとそういう意味で、前回の御議論、今回の御議論を踏まえて、こういう点をむしろ今後、むしろ政策的に考えたほうがいいんじゃないかというような点、もし御意見等ございましたらいただければと思いますが、いかがでしょうか。森田先生、移動中だったかと思うのですが、御質問についてお話しできますか。
 
【森田委員】  私も今、こういう異分野融合のプロジェクトをほかの研究科の先生方と始めようとしているのですけれども、最初はどうやれば融合できるのかがよく分からない。そこで、最初に互いに今何をやっているのかということを報告し合って、だんだんその中で、具体的なリサーチクエスチョンが新しく出てくればいいねということ、それを狙って次のステップに行こうとしています。名古屋大学においても、そういうステップを多分継続的にやられているのではないかと思うのですけど、そういうステップにどのくらいの期間がかかるのかという点をお聞きしたいと思います。
 先ほど、研究の発展の歴史というのを見せていただいて、多分それもいろいろなステップを踏みながら発展していったと思うのですけれども、このように発展させていくのには、どのぐらいの期間がかかるものでしょうか。
 
【名古屋大学(中村)】  分からないですが、目安としては、2年か、3年かと。といいますのは、我々は大抵科研の研究期間を3年で設定することが多いですから。一端採択されたら、その科研の期間中は、とにかく定期的に、台風があろうが何だろうがとにかく研究会をするということを至上命題としまして、とにかく顔を合わせて話をするということをしていました。なので、ほかの分野の方が私の話をどう思われたかは全然分からないんですけど、私のほうはほかの方々のお話が面白くて、これは面白い、あるいは研究会のときに講師でお招きした方と皆さんが議論していて、この顔ぶれで研究チームをつくったよいのにと思ったりしたことが、今回の一つ一つのユニットみたいなものになっています。それをくっつけていったらこんなプロジェクトになりましたという具合です。
 
【森田委員】  なるほど、状況がよく分かりました。今、私がやっているのは自然科学の先生方との協働なので、そうするとやっぱり向こうの先生方は、具体的なリサーチクエスチョンを解決したいという方向にすぐに持っていきたがるような傾向があるようにもうかがわれます。そこでどうやって協働すればいいかなと今、苦労していました。ひょっとすると、人文系と自然科学でマインドセットがちょっと違うのかもしれません。
 
【名古屋大学(中村)】  私が他の分野の先生のお話を聞いて面白いと思ったとき、そのとき私が頭の中で何をイメージしているかを,相手の方に伝えることができているかどうかは分かりません。その意味でも、みなさま、根気よく付き合ってくださっているとしか言いようがありません。相手の方は相手の方なりに、何か面白いと思って下さっていれば、それでよいのかもしれません。私が何を思い描いているか分からないものの、付き合ってみようかというふうな、本当におおらかな気持ちでお付き合いいただいています。そのおかげで何とかなっています。
 
【城山主査】  ありがとうございました。よろしいでしょうか。
 大体時間にもなりましたので、一応ここまでにさせていただきたいと思います。こちらのほうも追加的に御意見、御質問等ございましたら、事務局のほうまでいただければというふうに思います。
 本日の御議論はここまでとさせていただきたいと思いますけれども、次回の本委員会ですが、これまでいろいろな御意見をいただいてきましたので、このタイミングで一度それを論点の整理という形で、事務局のほうでまとめていただきたいというふうに思っています。次回はそれをベースに、今後について議論するということにしたいというふうに思います。それが次回の進め方ということになります。
 それでは、今後の日程等について、事務局から連絡事項をお願いいたします。
 
【髙田学術企画室長補佐】  先生方、どうもありがとうございました。
 次回の本委員会につきましては、既にお知らせいたしましたとおり、3月5日火曜日、15時からの開催を予定しております。
 また、本日の議事録につきましては、後日メールにてお送りさせていただきますので、御確認のほうよろしくお願いいたします。
 以上でございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 それでは、本日はこれで閉会したいと思います。皆様、お忙しいところありがとうございました。
 
―― 了 ――
 

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