資料1 学術情報委員会(第2回:平成29年5月31日)における主な意見

1. 学術情報流通に係る諸課題や基盤整備

(1)オープンサイエンスへの対応

  ○ オープンサイエンスの議論を進めるに当たっては、ステークホルダーの利害などが各分野でどのような状況にあるのか、また、分野ごとの分類、類型化が可能なのかというあたりを見ながらでないと先を見通すことは難しい。
  ○ 研究データの利活用を進めるためのルールをどうするかというのは非常に重要で、ステークホルダーや、分野ごとの状況が異なる中での一律のルール作りは困難であるとしても、幾つかの分野を取り上げて一定の方向性を示すなどは可能ではないか。

(2)機関リポジトリの機能強化

  ○ 機関リポジトリは、オープンアクセスへの寄与が期待されているが、それに加えて、出版されないものや失われやすいもの、例えば、講演会の発表資料や教材、オンライン講座の資料など、大学オリジナルなものの保存・公開にも貢献できる。このような取組を含め、機関リポジトリの利活用の方向性を大学の規模や分野構成を踏まえた幾つかの類型として示していくことが考えられる。
  ○ 日本の機関リポジトリに紀要が多く登載されている理由の一つとして、公式・非公式を問わず研究会などの会議の状況をきちんと資料としてまとめるという、ある意味日本の文化が背景にあるように思う。
  ○ スペインの団体が発表している公的機関のリポジトリランキングにおける評価基準にここ数年変化が見られる。従来はこれまで公開されていなかった論文や資料、データ等が新たに載せられるなど、内容の充実度が重視されていたが、最近は画像も含めて研究資料としての価値が重視されるようになった。このことは、リポジトリに対する要求の変化を示しているのではないか。
  ○ 機関リポジトリのコンテンツで、特に英語で作成されたものは、紙の時代であれば見向きもされないようなものでも、サーチエンジンなどを通じて世界中から予想以上にアクセスがある。機関リポジトリへの登載が検索機能とあいまって大きな効果を生んでいると思われる。
  ○ 機関リポジトリへの論文の登録率が上がらないのは、研究者にとってインセンティブが必ずしも高くないということもあるが、かなりの手間がかかるという理由も大きく、ある程度強制力というものも必要なのではないか。
  ○ 日本の機関リポジトリ数が世界に比して多いのは、大学が多いことに起因すると考えられる。各国比較においては、目的関数とそれを評価するための基準、指標の設定が重要で、たとえデータセットが増えたとしても、実際に活用されなければ手間が掛かるばかりで意味がなく、活用という点も意識しないと現実的な形にならないのではないか。
  ○ 各国がリポジトリをどう使おうとしているのか、また、利用者の主体は誰なのかというような点の分析も重要である。
  ○ 大学の知的資産を機関リポジトリに集中させるためにはどうすれば良いか、あるいは、そのような方向性が本当に良いのかという点もポイントではないか。収集することのみならず、出口のメトリクスをどうするかというところも非常に重要で、大学ごとの方策はもとより、我が国としてどういう方向で進めばよいのかについてのフレームワークを示すべきだ。

  〔情報発信機能〕
  ○ 大学図書館のミッションの比重を学術成果の閲覧支援から、機関リポジトリを介した研究情報発信に移していくということも論点の一つではないか。
  ○ 大学図書館の取組として、知の創出側、共有側にとどまらず、発信側というビジョンは重要な側面ではないか。
  ○ 各国の機関リポジトリのコンテンツ別データを見ると、明らかにその役割が異なることを示している。米国の大学は、経営体としての機能が強く、大学をよく見せるという観点から、情報発信に力を入れており、MITなどは研究論文を外国の著名な研究者からのコメントと併せてリポジトリに載せている。
  ○ 機関リポジトリを情報発信にも活用するとした場合には、誰が、どのような資料を発信しようとしているのかについて確認しながら進める必要があるのではないか。
  ○ 機関リポジトリと情報発信に関連して、オーキッド(ORCID)として取り組まれている研究者識別子の活用により、大学間異動や姓の変更などがあっても一義的に検索が可能となるなど、有用性が高まると考えられる。
  ○ 世界で唯一網羅性をもつ研究者識別子であるオーキッドを機関リポジトリに導入することで、機関内の研究者同士のつながりや研究の近接性、他機関の研究者との関係などが分析可能となり、ある意味でイノバティブなリポジトリという将来性も高まるのではないか。
  ○ 大学の多数の研究者は機関リポジトリの存在を意識していない現状にあると思うが、機関リポジトリの情報発信能力にメリットがあると分かれば、各研究室が保有する膨大なプロジェクト資料や、研究室移動や主宰者変更時に喪失してしまう学術資源などが新たに載せられて、リポジトリの利用が活性化されうる可能性も考えられる。

2. コンテンツの電子化等を背景とした大学図書館機能の強化

  ○ 昨年6月に公表された「国立大学図書館協会ビジョン2020」では、基本理念として、知識、情報等への障壁なきアクセス、新たな知識、情報等の生産を促す環境の提供により、大学における教育研究の進展、社会における知の共有、創出への貢献を掲げるとともに、重点領域として、知の共有、創出、そのための人材の構築等が示されており、このあたりを切り口に議論を進めていってはどうか。
  ○ 企業の図書館予算も以前から大きな変動はなく、近年は電子ジャーナルの占める割合が徐々に大きくなり、様々な運営上の工夫を行っている。他方、図書館業務自体が変化する中で、研究トピックをテーマに新たな議論の場を提供したり、関係の研究分野の人たちに話題を投げかけたりするなどの新しい取組が始められている。
  ○ 分野別図書館、例えば、医学系図書館では、ビブリオメトリクスを活用した論文引用の傾向調査などを行う一方で、人文学系図書館では伝統的な古典籍整理の作業を行うなど、その業務が大きく異なっており、機能強化の検討に当たっては注意が必要である。
  ○ 個々の大学図書館として何にどう取り組むのか、大学図書館総体としてどう取り組むべきか、さらには、国レベルで取り組むべきことは何かということを明確化した上でないと、特定の業務が抜けて落ちてしまう可能性がある。
  ○ 大学図書館は、限られた資料費の効果的・効率的な使用という観点から、図書資料の利用把握などの新たな業務が生じてきている。
  ○ 電子化の進展に伴い大学図書館職員の業務内容が変化する中にあっても、総体としての業務量は従来と余り変わっておらず、この点に注意して議論を進めないと現場の状況とかい離してしまう恐れがあるのではないか。
  ○ 自然科学系においては、従来、雑誌や論文を探しに行く場所が大学図書館であったが、それらは今、ネットワークを通じて行えるようになるなど、大学図書館の物理的な意味合いが変化していることは明らかである。
  ○ 大学図書館は、研究支援、教育支援、学術資料の継続的な維持管理という三つの大きな役割を持ち、それぞれが電子化とともに進化していくこととなるが、大学図書館の役割強化といったときに、どの部分にフォーカスしていくべきかについては議論が必要である。
  ○ 日本の大学や基礎的な学問全体が危機にさらされている中で、大学図書館が学術全体を支えていくという視点に立てば、予算、人員などリソースの問題もあるが、情報発信という切り口は非常に重要である。
  ○ 大学における広報関係業務は弱い体制にあり、研究発信能力を大学図書館の機能として新たに定義づけられれば、大学図書館が大きく変わっていくきっかけになるのではないか。

  〔研究支援機能〕
  ○ アクティブラーニング支援に続く大学図書館の役割として、研究に対してどのように関わっていくのかということが考えられる。国際標準に則したデジタルアーカイブの公開が多様な比較研究の新しいフェーズを開いた例もあり、大学図書館の新たな機能として議論の対象になりうる。
  ○ 大学図書館における教育支援の方向感は一応定まった感があり、今後は研究に焦点を絞って、大学図書館がこれにどう関わるべきなのかをはっきりさせるべきである。
  ○ 大学図書館の役割に関して、まずラーニングコモンズの議論を行い、次にリサーチコモンズを検討するという流れは、ある意味で、大学本来の使命である教育と研究を押さえた上で、その先の社会貢献にもつながっていくものである。ただ、総論はともかく、個々の大学図書館の具体的な取組については、各大学の規模と構成分野に関係してくるのではないか。
  ○ リサーチコモンズの取組のベースラインなどについて、大学の特性に応じた方策、戦略などをタイプ別に示すことができれば、大学図書館の取り組むべき目標が見えやすくなると思う。

  〔ジャーナル環境〕
  ○ 化学分野は、アメリカ化学会が発行するハイインパクトファクターのジャーナルに論文投稿が集中し、さらに、データジャーナルも戦略的に発行する体制が整うことで、研究成果の大半が吸い上げられることになる。大局的に見ると、我が国の論文投稿の7、8割が海外のジャーナルとなっている状況については、考える余地がある。
  ○ 電子ジャーナルはビッグディールが導入され、基本的に何でも見られる状態ではあるが、どういう雑誌がどう活用されているのか、どの雑誌に誰が投稿しているか、誰がどれだけ引用しているかなどを調査し、分析・評価することで、どこに研究を集中させるべきか、研究の多様性をサポートするためにどのような雑誌が必要かというようなことを把握し、共有すべきだ。

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麻沼、齊藤
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