第8期研究費部会(第5回) 議事録

1.日時

平成27年7月27日(月曜日)16時~18時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)改革の推進について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,甲斐委員,栗原委員,高橋委員,西尾委員,小安委員,白波瀬委員,城山委員,西川委員,羽田委員,射場委員,橋本委員

文部科学省

常盤研究振興局長,安藤大臣官房審議官,鈴木学術研究助成課長,前澤学術研究助成課企画室長,他関係官

オブザーバー

勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長,盛山日本学術振興会学術システム研究センター副所長,山本日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員

5.議事録

【佐藤部会長】
皆様,時間となりましたので,ただいまより第8期第5回の科学技術・学術審議会の学術分科会研究費部会を開催したいと思います。
本日は,これまでの会議での御議論を踏まえまして,今後の科研費改革の実施方針と平成28年度の概算要求の基本的な考え方につきまして御議論をお願いしたいと思います。
それでは,1番目の議題,科研費改革の推進についてでございます。今期の部会の運営については,夏までの間,科研費改革の実施方針・工程表の策定,また,平成28年度の概算要求など速やかな対応が求められる事項についての審議を行うこととなっておりました。
これまでの会議において,若手研究者の支援,国際共同研究の促進,挑戦的な研究の促進などの論点につきまして御議論を頂いたところでございます。これらの議論を踏まえて,本日は,夏までに予定した審議の区切りを付けたいと思っております。
前回の会議におきましては,事務局より科研費改革の実施方針の骨子案を示していただき,会議の後,各委員に対して意見の照会を差し上げたところでございます。
そういうことで,本日の議論におきましては,初めに事務局より科研費改革の実施方針及び概算要求の基本的な考え方について,原案の説明を受け,その後に,それぞれについて御議論を頂きたいと思っております。
それでは,鈴木課長お願いいたします。

【鈴木学術研究助成課長】
失礼いたします。
お手元の資料1及び資料2に関して御紹介いたします。
本日,御議論を賜る中心になりますのは,この資料1と資料2-1でございます。これらはいずれも行政として今後施策を進めていくに当たっての方針や基本的な考え方など,そのような性格の文書でございます。したがいまして,審議会からの御提案や御提言レポートという性格の文書とは異なりますが,昨年8月にこの研究費部会でおまとめいただいたレポート,それからその後の情勢変化を踏まえて,行政としてとるべき対応を具体化しようという意図で作成しているものでございます。
本日は,来年度の概算要求のみならず,その先の科研費としての望ましい将来の姿もある程度展望しながら,当面の予算上の対応に関して,いろいろと具体的なアドバイスを頂戴できましたら幸いに存じます。
私からは,このうち資料1の科研費改革の実施方針(案)について,御紹介をさせていただきます。
先ほど佐藤先生からお話がございましたとおり,前回の会議で原案をお諮りし,その際にはこの資料の後ろに付いております科研費改革の工程表は,専ら項目だけの形でお示しをしておりましたが,その後メールで先生方へ照会し,また日本学術振興会の主任研究員会議などで御意見伺などもさせていただきまして,所要の修正,記述の補足等をいたしました。
この実施方針(案)の本文につきましては,多くは文言レベルの修正が中心でございますが,工程表につきましてはそれぞれの事項について記述を書き足しておりますので,大きく変わっております。
それでは,多少前回の話の繰り返しにもなりますが,本文の実施方針(案)につきまして,ざっと御紹介をしたいと思います。
まずこの文書は,第5期の科学技術基本計画の期間である平成32年度までを展望して,審議会の御提案を尊重しながら施策を進めていくという考え方に立つものでございます。
改革の基本的な考え方としましては,これも学術分科会からの御提案のとおり,学術の現代的要請としての挑戦性,総合性,融合性,国際性,これらに対応するという観点に立って,抜本的な改革を進めようというものでございます。
次の丸は,ピア・レビューやその他の根幹の部分について,信頼性の維持・向上のために不断の改善を図っていくという考え方を示しております。
3つ目の丸は,今まさに日本学術振興会の中で専門的な御議論が進められておりますが,審査システムについて審査単位の大くくり化,あるいは総合審査方式の導入などを進めていくというものでございます。
さらに次の丸は研究種目全体の構成でございますが,これについてはまだ具体的な議論が詰められておりませんので,非常に抽象的ではございますが,それぞれの種目の役割・機能分担を一層明確化する観点からの所要の見直し・改善を行うという言い方をさせていただいているところでございます。
次の丸でございますが,この研究種目の再構築に当たって,この点は後ほどの平成28年度の概算要求とも深く関わる項目でございますけれども,あらゆる研究者が新たな課題を積極的に探索し,それに挑戦することができるような支援を強化するということと,また,次のページにわたりますが,研究者の流動・独立を促進して,安定的な研究基盤の形成に寄与するということ。その際に若手研究者への適切な配慮を行うという記述をしております。
次の2ページ目の最初の丸は,オープンサイエンスの動向,これは学術情報委員会の動向などを先般御紹介いたしましたが,これについての適切な対応を図るということでございます。
次の丸は,主としては基金化を促進していくということ,それから今般進んでおります競争的研究費改革の動向を踏まえた適切な対応を行うということでございます。
次の丸は,主として科研費のある種の量的な,ボリュームに関する考え方でございますが,公的研究費全体の中でのプレゼンスをしっかりと堅持して,その充実を図るということ。それから,前回の内容に追加した点として,最後の2行でございますけれども,科研費全体としての新規採択率については従前30%という考え方を目安として審査の現場においても運用してきたわけでございますが,政府としても従来の科学技術基本計画の中でこの30%ということを掲げてきたという経緯もございます。
したがいまして,今後の構えとしても,改めて新規採択率の目標については,ここで指摘した方がよろしいかということで,記述を補足しているところでございます。
次いで,2番目に改革の工程・進め方でございます。これに関しましては,平成30年度に向けた新たな審査システムへの移行にしっかりと対応するため,それに向けた系統的な取組を進めていこうということが,まず第1点でございます。
次の丸は,そういった研究種目の在り方をいろいろと見直し・改善をしていくということが一方であるわけですが,それについては,この新たな審査システムへの移行と歩調を合わせるものと,さらにそれから先にやるべきことに整理して,適切な優先順位の下に順次対応を進めていこうという考え方でございます。
その他各論ございますが,科研費改革の工程表については別紙3として別添しております。
では,別紙3-1の工程表を御覧ください。こちらの工程表は,事柄については前回お示ししたものと基本的には変わっておりません。大きな項目の柱としては,1番目として「審査システムの見直し」,ページをめくっていただいて2番目が「研究種目・枠組みの見直し」,最後のページが3番目が「柔軟かつ適正な研究費使用の促進」という柱立てになっております。
1番目の審査システム見直しに関して,先ほど御紹介いたしました審査単位の大くくり化や総合審査方式の導入に関する大区分・中区分・小区分の導入など,そういった対応をどのように進めていくか,ブレークダウンしたものがこの資料でございます。
主としては,日本学術振興会の方でお考えのロードマップに沿う形で,平成30年度までにやるべきこととそれ以降のことについて整理をしております。この辺りは,別紙1と併せて御確認いただければと思います。
次の別紙3-2は,研究種目・枠組みの見直しに関してでございます。こちらは,将来的なことについて明確な方向性が何か出ている問題ではございませんが,これまで研究費部会で御指摘,御議論いただきましたとおり,研究種目の中でもこの大規模研究種目についてまず検証し,必要な改善を進めていくことについて御了解いただいているということで,そのような流れを書いております。
また,若手研究種目の在り方や挑戦的研究への支援についても,本年度改善策を検討した上で,来年度以降可能なものを試行したり実施したりしていくということで,ごく簡潔ではございますが,考え方を記述しているところでございます。
ただ,この30年度公募に向けては,やはり審査システムの見直しに日本学術振興会をはじめ大きなエネルギーをそそぐことになりますので,こういった研究種目・枠組みの見直しは,恐らく30年度までの間については,やれるところから逐次改善をしていくという考え方に立たざるを得ないのかなと思います。
そういう意味で,全体を通じての新たな枠組みの整備については,30年度公募以降の大きな検討課題になるのではないかなということで,研究種目間の役割・機能の明確化及びポートフォリオの最適化と書かせていただいておりますが,例えば大型の種目に振り向ける資源と,もう少し小さい種目に振り向ける資源との関係性をはじめ,いろいろと論点もあろうかと思います。ただ,現時点では,私どももまだ具体的なイメージもございませんので,新たな枠組みをどういう方向性で考えていくべきかについては,先生方の御意見をさらに頂いて,キーワードを頂戴できればというふうにも思っているところでございます。
同じページの下半分は国際化への対応でございます。本年度着手点としております国際共同研究の加速,これにつきましても30年度ぐらいまでの間は,今のプログラムを着実に推進して,フォローアップをしていくということになろうかと思いますが,そこから先については,やはりいろいろな課題を総括した上で,全体の種目の在り方を議論する中で,この国際プログラムについても検証し,必要な改善策を講じていくという,そこはまさに連動していく動きになるのではないかと考えております。
最後の別紙3-3につきましては,前回御議論いただいたオープンアクセスの動向への対応や,研究費のシームレスな連携,あるいは基金化についてでございます。基金化についても今年度,国際化対応に関する基金を新たに充実した,あるいは基金の対象種目を見直したという大きな動きがございましたので,その成果・課題を検証した上で,基金化の在り方については引き続き考えていくということで,次のステップになっていくのかなと考えております。
また,競争的研究費改革,研究不正対応,それぞれについて現時点で想定している事柄を書いているところでございます。
全体を通じてこの工程表には,主体は誰かということについては特に明記しておりませんが,改めて申し上げれば,科研費のいろいろな改革施策につきましては,文部科学省,それからこうした審議会,それから日本学術振興会,それぞれの役割・連携の下で進められておりますので,究極的には様々な制度や枠組みについては文部科学省の責任・権限においてなすということでございますが,言うまでもなく審議会の先生方の御意見を踏まえた対応,さらに専門的なことについては日本学術振興会における具体的な検討や,そちらからの意見具申を基に進めていくという,そうした相互連携を前提にしているという観点で,特に個別の主語や主体は明記しておりません。
以上,全体としては現時点ではそういった工程をイメージしているということでございますが,基本方針の本文の3ページに戻っていただきますと,「その他」がございます。
今御覧いただいてお分かりのとおり,ある程度具体的な道筋が書いてあるものもあれば,まだまだ非常にふわっとした抽象的な書き方に止まっているものもございます。そこは飽くまで現時点の考えでございますので,今後のさらなる進展に応じて,工程表を含めこの方針自体も適当な時期に改定するということを,最後に付記しております。
その際の手続としては,この文書そのものは行政としての文書でございますが,先生方の御意見をきちんと反映させるという観点から,改定等については,最終的には学術分科会の議を経て進めていきたいということで,今回新たにこの方針を策定するに当たりましても,今回研究費部会での御了承をいただけましたならば,次に学術分科会の場で御報告をするという手続を視野に入れて準備を進めさせていただきたいと考えているところでございます。
資料1の説明は以上でございます。

【前澤企画室長】
それでは,続きまして,資料2-1を御覧ください。
こちらは4月からの研究費部会での御議論のうち,科研費改革の中でもすぐに着手すべき点を事務局の方でまとめたものでございます。
柱を4つ立ててございまして,1つ目の柱は,制度の基幹である基盤研究種目を通じた助成水準の確保でございます。
柱の2つ目は,学術研究における「挑戦性」の追求に対する支援の強化でございまして,そのまた1つ目は,新たな学問領域の開拓等に向けた挑戦的研究への支援,もう一つは,次代を担う研究者のPIとしての独立基盤形成の促進でございます。この2つにつきましては,科研費の新たな取組として,特に研究費部会で御議論いただいた御意見に基づいてまとめてございます。
研究費部会の中で頂きました御意見につきましては,別紙に「挑戦性」にかかる新規策の具体化に向けた留意点としてまとめてございます。挑戦性への支援の共通項目としましては,現行制度の運用をめぐる現状・課題を十分に踏まえて対応することや,既存の研究種目の見直し,再整理の可能性を視野に入れて設計することなどがございます。
それから,挑戦的研究への支援につきましては,2(1)関係と書いてある欄でございますが,計画の斬新性の重視と質の確保との適切なバランス,申請者の挑戦性に適切に対応する審査区分や審査方式の検討,それから審査や評価の仕組みの工夫等がございます。
PIとしての独立基盤形成促進,2(2)関係と書いてある欄につきましては,支援対象の明確化,特に若手研究者の孤立化を助長しないような配慮,それから適切な支援規模に加えまして,若手研究者等の安定性と人材の流動性の促進。その際,地方大学や私学を含めて多様な人材及び研究機関に制度のメリットが公平に行き渡るようにすること,既存の若手種目の見直しを併せて検討することなどがございます。
1枚目に戻っていただきまして,3番目の柱でございますが,こちらは国際共同研究の加速に向けた取組の推進でございます。27年度に開始した取組の定着を図るとともに,在外研究者に係る予約採択の要件を緩和して,外国人研究者へも適用を拡大することを進めてはどうかと考えております。
4番目の柱は,特設分野研究の拡充でございます。これらを通じて平成30年度に予定される新たな審査システムへの移行に向けた準備を整えつつ,アワードイヤーによる研究助成や国際共同研究の推進など,研究費の成果を最大化するための基金化を促進してまいりたいと考えております。
次に,資料2-2,2-3は,挑戦的研究への支援や若手研究支援に向けて,以前の研究費部会で御議論いただいた際にお出しした資料から,主要なデータを改めてまとめまして,かつ補強したものでございます。時間の関係で新しいデータについてのみ御説明いたします。
まず資料2-2,「科研費における挑戦的な研究への支援」という題の付いている資料の10ページをお開きください。以前に研究費部会の中で,挑戦的な研究に対応する種目として挑戦的萌芽というものがございますが,その種目で支援を行った研究や研究者について,その概観が分かるようなデータが必要ではないかという御意見がございました。それで,10ページのデータでございますが,まず挑戦的萌芽研究終了後の応募状況でございます。左の①の円グラフが応募件数全体でございますが,こちらに比べまして,右の②の挑戦的萌芽研究終了者による応募の特徴としまして,挑戦的萌芽研究の割合が多いこと,それから基盤(B)以上のより大型の研究費への申請が多いことが挙げられるかと思います。
それから11ページは,挑戦的萌芽研究終了後の研究者の方の採択の状況のデータでございます。採択率を種目ごとにまとめておりますが,どの種目においても挑戦的萌芽研究を終えた研究計画の採択率が高くなっております。
それから16ページから17ページにかけて,挑戦的萌芽研究がその後どのように発展し,成果を出していったのかという事例を幾つか掲載してございます。一番上は,山中伸弥教授が2005年度に採択された挑戦的萌芽研究が,細胞核初期化の分子基盤という特別推進研究につながり,それが後々のiPS細胞,ノーベル生理学賞・医学賞受賞につながったという例でございます。
それから2番目が,東京大学の染谷教授の有機トランジスタ駆動による点字ディスプレイの試作研究という挑戦的萌芽研究の課題からCRESTの大面積ナノシステムのインタフェース応用につながっていったという事例でございます。
17ページが,名古屋大学の天野先生の例でございます。成果事例はそこに載せてあるとおりでございますが,特に天野教授からは,基盤研究種目は基本原理の追究,挑戦的萌芽研究はアプリケーションの拡大や具体的な企業研究と,こういう使い分けをしているというコメントを頂いております。
これが挑戦的萌芽研究の全ての目的,あるいは使い道ではないかと思いますが,御参考までに載せさせていただきました。
それから,18ページの方に以前の研究費部会でもお示しいたしましたNIHにおける挑戦的研究種目の概要を載せてございまして,19ページは,さらにその配分の状況をデータでお示ししてございます。
いわゆる挑戦的な種目であるR21,こちらは採択件数の25%,配分額の13%を占めております。また御参考までにですが,R21での研究をさらに発展させるR33というグラントも設けられてございます。
それから,資料2-3を御覧ください。13ページにNISTEP定点調査の2014年の結果をお示ししてございます。若手研究者に自立と活躍の機会を与えるための環境整備は十分と思いますかという設問に対して,大学全体では2011年から十分度が減っております。特に国内論文シェアの高い大学が属する第1グループ・第2グループでは,第3グループ・第4グループに比べても大きく減少しているという結果が見えるかと思います。さらにその右のところに,十分度を上げた,あるいは十分度を下げた理由が掲載されておりますが,十分度を下げた理由の例として,国の支援や運営費交付金の減により若手研究者への支援が困難になった,あるいは若手が独立して研究を行う研究環境となっていないなどが挙げられてございます。
それから14ページでございます。こちらが学校教員統計調査より作成いたしました年齢別・職名別の採用・転任大学教員数,すなわち大学教員の方で機関を超えた異動があったと見なせる人数でございます。このうち特に独立基盤形成に向けた支援が重要であると思われる30代から40代の教授・准教授クラスの研究者の方につきましては,平成25年度の人数は2,657人となってございます。
それから,本日は参考資料を幾つか御用意してございますが,この議題に関係するものが参考資料1と参考資料2でございます。参考資料1の方は挑戦的萌芽研究の応募内容ファイルでございまして,例えば2ページ目を御覧いただくと,基盤研究(A)(B)にはない項目として研究の斬新性,チャレンジ性を書いていただくような部分がございます。
それから参考資料2が,本日御欠席の鍋倉委員から,事前にこの議題につきましてコメントを頂戴しておりますので,御紹介申し上げます。
1番目が,挑戦的研究への支援に関することでございますが,一番上の丸は,研究者が大きなテーマ転換を図ろうとする場合に相応のリスクが発生し,初期投資も必要となると。そういう本格的な転換を支援する仕組みとして,現行の挑戦的萌芽研究は十分ではない。
その下でございますが,挑戦的萌芽研究は個人レベルのアイデアを試すにはいいけれども,異分野と連携した本格的な挑戦を単独で行うことは難しい。新たな支援策により,異分野の専門家を共同研究者とする,あるいはチーム内のスタッフとすることを誘導することには意義がある。
それから,鍋倉委員の御自分の経験上,生物学と工学,医学と工学といった連携については,こうした支援が有効であるということでございます。
それからその下でございますが,分野横断の挑戦的研究については,細目表の区分によらず広領域によって応募を受け付け,審査を行うことも1つの方法として考えられるのではないかということでございます。
2番目の研究者の独立基盤形成に関しましては,地方大学では研究室の立ち上げなどに対する環境整備が不十分になっており,若手が昇任ポストであっても地方大学には応募せず,流動性を妨げる要因となるなど問題になっているので,所属機関によらず次代を担う有望な研究者が自立できる環境を作っていくことが大切である。地方創生の観点からも,研究者の独立形成基盤形成の意義を強調すべきではないかということでございます。
その下でございますけれども,通常であれば独立基盤形成は所属機関が担うべきではありますが,科研費の枠組みの中で支援を行うとすれば,支援対象については科研費を獲得した実績を持つ研究者に限るということも考えられるのではないかと。
それから,支援対象については,異動から2年程度以内の者が適当ではないか。さらに,他種目との重複制限は課さないことが適当ではないかと,こういう御意見を頂いております。
事務局からの資料説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【佐藤部会長】
ありがとうございました。
それでは,ただいまの説明を踏まえまして,審議に入りたいと思います。
本日は最初に申し上げました2つの点が重要でございますが,まずは当面,早急に作業を進める必要がある平成28年度概算要求に向けて,基本的な考え方について,50分ほど時間をとって審議をしたいと思います。
それでは,先生方から御意見を賜りたいと思いますが,いかがでございましょうか。鍋倉先生もなかなか適切な御意見をおっしゃっておりますが,どなたからでもお願いしたいと思います。

【西尾委員】
今御説明いただきました資料2-2の10ページですが,前回の本部会において,追跡調査の方法についてある提案をさせていただきましたが,的確に実行していただき,挑戦的萌芽が次のステップの研究活動に非常に大きなブレークスルーを持っているという観点で役割を果たしているということがよく分かりました。どうもありがとうございました。
その上での質問なのですが,10ページの②の挑戦的萌芽研究を終了した研究者による応募件数の円グラフで,挑戦的萌芽研究は46%となっています。これは,挑戦的萌芽研究に再度応募したということですか。

【前澤企画室長】
そういうことでございます。これをどう捉えるかでございますが,1つの解釈としては,現在の挑戦的萌芽研究の期間は1年から3年となっておりますので,もしかしたらそれでは足りないのかもしれないということは,1つインプリケーションとしてあるかと思います。

【西尾委員】
なるほど,分かりました。どうもありがとうございました。

【甲斐委員】
今の質問の続きですが,今回お考えになっている挑戦的研究への支援の期間と総額はどのぐらいなのでしょうか。

【前澤企画室長】
それは先生方の御意見を頂きながら,事務局で検討してまいります。
規模としては,やはり挑戦的萌芽より大型のもので,例えば基盤研究(B)程度の総額,それから研究期間につきましても,例えば5年以内程度として,たたき台として検討してはどうかなと考えております。

【甲斐委員】
追加質問ですが,2段階にするという考えはないのですか。基盤研究(C)程度で1,2年のものと,基盤研究(B)程度で4年ぐらいものなど,2段階にするようなことは考えていないのですか。

【前澤企画室長】
それはいわゆるスモールスタート方式で,一,二年のものから成果が出たものを上に上げるというような考えでございましょうか。

【甲斐委員】
そうです。昔でいう萌芽研究は一,二年の期間で少額でしたよね。それでちょっとアイデアを思い付いたのでやってみたいなという人が応募していました。挑戦的萌芽研究に変わって,前回鍋倉先生もおっしゃったように,本来の実績がある研究者が研究分野を変えたいという,そういう趣旨になると研究費は少額とは限らなくなりますね。違う趣旨での挑戦性だと思います。
そういう後者の新たな分野開拓のような挑戦的研究にあう大きめのが必要だとは思います。つまり,もし作るなら挑戦的研究として応募できる種目が2段階あった方が良いと思いまして。

【前澤企画室長】
そうですね。その2つの意義付けとしましては,今までの挑戦的萌芽研究に加えて,この新たな挑戦種目を作るということを考えております。
従来の挑戦的萌芽が,いわば基盤種目からちょっと発展させるような新しいアイデアであるのに対して,今回のより大型の挑戦種目では,例えば異分野融合連携を本格的にやるとか,今までの研究実績を基にして分野の展開をするとか,今までの挑戦的萌芽研究とは全く質の違うような挑戦を目指していっていただくのかなと,今までの研究費部会での御意見を総合して,そのようにまとめてございます。

【小安委員】
全体の中で基金化を促進するというのは物すごく大事なテーマだと思うのですが,これまでもどういうロジックで攻めるかというところで,いつもひっかかっていたような気がします。これを単純に拡大したいといっても,なかなか財務当局はうんと言わないのもよく分かっていて,その中で例えば今回,国際共同研究加速基金を創設して,その中でアワードイヤーをきちんと取り入れないと回らないとか,そこはそれでいいと思います。
ただ,それだけだとやはり非常に限定されてしまうと思うので,今おっしゃったような挑戦的,本当に大挑戦という,どういう表現かよく分からないのですが,要するに挑戦であればあるほど,計画どおりに物事は進まないので,フレキシブルにそのときに応じて予算を使えるということが実際の研究の発展に資するなど,そういう理屈をいろいろと考えておかないと,基金化はそう簡単には進まないような気がします。
ですから,その辺りをもう少し入れ込んだ形で作っていただくというのが大事なのではないかと思いました。

【佐藤部会長】
いいコメントをありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。
はい,どうぞ。西川先生。

【西川委員】
資料2-1に沿って,今の非常に厳しい財政状況と絡めて発言させていただきます。科研費はいろいろと新しいこと,挑戦的なこと,融合的なことをやる,それはそれで良いアイデアだと思うのですが,全体の科研費の枠組みというのは決まっているわけですよね。私たち研究者にとって,資料2-1で1番目にうたっているように,基盤研究種目の助成水準の確保について明文化していただいたことは非常に有り難いことだと思いますので,これが非常に大事だということを,この委員会でも是非認識していただきたいなと思っております。
こういう基盤があってこそ,挑戦性,国際性,融合性,そういったものができるのだと思います。挑戦性や融合性など,新しいものを作るということは非常に重要だと思うのですが,そのために基盤が削られるようなことがあってはまずいと思いますので,是非この1番を大事にしていただけたらなと。そういう安定した落ち着いたシステムがあって,その上で挑戦性,国際性,融合性など,そういったものが生まれてくるのだなと思っております。

【佐藤部会長】
ありがとうございます。科研費の精神はまさに基盤種目にありますので,全くおっしゃるとおりだと思います。
はい,どうぞ。

【羽田委員】
少し違った角度からお話をすることになると思います。今の基盤種目の件ですが,人文社会系の場合には,基盤種目の分科や細目は,ある程度中身の定まった既存の研究枠組みです。新たな研究の提案は,その枠組みの中をさらに細分化した一つの部分を明らかにすることを目的とする場合が多いのです。他方,今私たちがやらねばならないことは,その既存の研究の枠組みそのものを再考する,あるいは場合によってはその中の区分の方法を変えるということだと思います。それは挑戦的ではあるけれども,研究枠組みとしては基盤種目に関わるテーマです。
そこで,基盤種目のテーマとして応募しようとしても,それは場合によっては枠組み自体を壊すことになるので,なかなか応募しにくい,応募しても通らないということになります。かといって,いきなり新しい分科や細目を作るということにはならない。今の研究の枠組みになっている一つ一つの学問領域が,一種の脱皮をせねばならないと思うのですが,そのような研究は挑戦種目と基盤種目のどちらになるのかが,少し分かりにくいと思います。
基盤種目は,従来の研究を単純に先へ進めていくというイメージで捉えられます。一方で,挑戦種目は全く新しい枠組みやテーマを作るという趣旨なので,現状の枠組みやテーマの再編や融合という話とは合わない。このような取組は,どちらでやればよいのか,整理して示していただけると有り難いです。
この話は,大学自体の組織や構成と関わっているところがありまして,研究室あるいは学科の構成が変わらないと,研究の枠組みや主たるテーマはなかなか変わりません。研究室や学科を壊すような研究は,そこでしかやりようがないが,とてもやりにくい。大学の中での組織改革とつながる話だと思っています。

【佐藤部会長】
人文系の状況を御説明いただきまして,ありがとうございます。
では,白波瀬先生。

【白波瀬委員】
2つあるのですが,1つは今の挑戦性の話です。私も若干混乱しているのは,基盤という概念と挑戦性というのが若干背反しているようなところがあるところです。やはり研究の中には,幾ら基盤といっても,挑戦性がないとやはり基盤的な研究は成り立ち得ません。それは西川先生の方から基盤種目について,いま一度その重要性について確認が必要なのではないかという御意見があったので,その点繰り返しとなりますが,キャリアステージというかスタートアップというか,アーリーキャリアとしての支援という意味と,挑戦性という意味との関係は同一ではなく,区別すべきだと思います。挑戦的萌芽というところでアーリーステージとかなり密接な位置付けがあったように思うのですが,前回の議論では,やはり挑戦性というのはしっかりした基礎があってこそという議論もありますので,そこの区別をしていただけると有り難いかなと。
あと2点目は基金化の話です。私もすごく混乱しているところがございまして,一見基金化されるといいように思うのですが,ただ予算が全て単年度制になっているので,基金化することによって最終的なプロダクトに注目が置かれるようになると思います。しかし,実際の手続的にはどうして予定どおりに進まなかったのかという説明を求められるような部分があり,その辺りは私が誤解している部分もあるかと思うのですが,実際に使い勝手が期待するほどよくなかったというところがあるので,基金化のそもそもの意味づけについて今一度明確にしていただけると助かります。

【佐藤部会長】
後者の方は事務局から簡単に説明できるのではないでしょうか。

【前澤企画室長】
基金化のメリットというのは,本当に一にも二にも単年度主義を超えて,今までも繰越しということはできたのですが,それをさらに簡素な手続でできるということでございます。
それでもまだ使い勝手が悪いという御意見を頂戴しまして,もう一度,今の基金の年度をまたいだ使い方のところを見直したいとは思います。

【高見沢企画室長補佐】
若干補足させていただきます。
基金化の種目の場合は,例えば5年間なら5年間の金額を初めに取り置くということですので,5年間の計画の柔軟性が年度間で上がるということです。
ただ,毎年度放っておくということはできませんので,若干の実施状況報告を頂いております。その点は制度面の運用改善に当たりますので,どこまで細かい情報を状況報告としていただくかというのは,今後検討が必要かなというふうに思っております。

【佐藤部会長】
そういう意味で基金化されると本当にフレキシブルになりますから,ほとんど単年度という意識はなくても,よろしいのではないかと思います。

【白波瀬委員】
よろしいのですね。はい,分かりました。

【城山委員】
幾つか申し上げたいのですが,1つは,従来の挑戦的萌芽研究とは違う挑戦的メカニズムを何かお考えだということだと思うのですけれども,そのときに幾つか仕組みを変えるとすると,クライテリアがあるのかなと。この鍋倉先生のコメントはかなり具体的にその点を捉えていただいていると思いますが,この中で1つ面白いというか大事かなと思うのは,例えば共同PIです。複数の分野で本当にやろうとするとき,一方がもう一方を利用するのではなくて,共に相互作用を持ちつつ進化していくような,そういう仕掛けはすごく面白いと思います。
そういう意味では,共同PIみたいなものを認めるというのはあり得て,これは場合によっては先ほど羽田先生のお話もありましたが,人文社会的なところで基盤性を維持しつつ新しいことをやっていくというようなことを考える上でも,1つ意味を持ち得るのかなというふうに思いました。
もう一つは,審査の話にも絡んでくるのかなと思っていて,正確な記憶ではないのですが,挑戦的萌芽研究の場合には何が違うかというと,この資料に出していただいていますが,アイデアで応募書類を書きますと。だから既存業績は必ずしもちゃんと書かなくていいというのは1つだけれども,ただし他方,審査は通常の細目でやっていたのではないかなと思うので,そこも変える余地はあるのかなと。
逆に言うと,先ほどの基盤がベースにあって初めて新しいことにチャレンジしてみようということがあるのだとすると,既存の業績は書いてもいいと思うのです。ただし,それと同じことをここでは書くのではなくて,その実績を持った上で,新しいことをやろうとしているということを書くという。そういう意味では,既存の業績はむしろ書いてもいいのかもしれないなというのが1つの差別化です。
もう一つは,違うことをやろうと思ったときに,やはり先ほどの羽田先生のお話ではありませんが,審査を細目でやってしまうと,やはり見る角度が限定されるので,審査も共同にするような,たしか特設分野では新しい審査方式をとられていると思います。むしろそういったタイプの審査方式でやった方が,この仕組みとしてはうまく動くのかなという感じがしました。これが新しい仕組みに関する点です。
それから2番目は,若手研究者の独立基盤形成についてです。こちらの方がやはりベースは理系だなという感じがしていて,文系での独立基盤形成とは何でしょうということを考えていたのですが,少なくとも私ぐらいまでの世代であれば,比較的若いときに例えば2年間在外研究に出させてくれたというのは,結構これに当たるのです。2年間最初の研究キャリアとは違うことも含めて少し勉強して,2年間ぐらい自由度があって,かついろいろなネットワークが作れますと。
そういう意味でいうと,文系の研究者にとっては,そういう時間とネットワーク作りのようなことがかなり大事です。これは分野によって,データを使うような人たちとはまた少し違うのかもしれませんが,そういう意味で,ここで議論したことでいうと,若手を国際共同研究加速基金で外へ派遣するというような仕掛けは,文系にとって結構大事で,それがこういう話でも例えば使えるのかですね。
例えば基盤形成のときに,理系の場合には所属組織も一定程度支援しなさいというようなことがありますが,自分でしかるべきネットワークを作ってやっていくようなことがあるのであれば,大学もそれなりに2年間や1年間出せるようにするのとセットでこういうのをやるのというのは,文系でもひとつあり得るかなという感じがします。
ただそれをやると,今までここで議論してきた国際化の支援や若手支援とかなり重複してくるところがあるので,うまくデマケーションをしないと,文系バージョンというのは,少し考えづらいかなという感じがしたというのが2点目です。
あと3つ目は,少し抽象的でどうでもいいことでもあるのですが,この実施方針の最初のところに,学術の現代的要請で挑戦性,総合性,融合性,国際性とあります。これは,もともとどこで出てきたものでしょうか。
予算との関係でいうと,特設分野研究のような融合があって,国際ももうやっていて,次は挑戦をやらなくてはいけないから,4つのうちの挑戦が最初にあるのだろうとは思うのですが,基盤種目との関係の議論もありましたけれども,こういう言葉も少し丁寧に位置付けるのがいいかなと思います。それから,残っている総合性というのは何を意味するのでしょうという,質問と言えば質問ですが,余り理論的にのみ議論する必要もないのかなという気もしますが,少しその点に気が付きました。

【佐藤部会長】
文化系のお立場のこと,大体よく分かってきました。
最後の点は西尾先生に説明していただくのが一番よろしいかと思います。

【西尾委員】
その説明の前に,今,城山先生がおっしゃったことの最後より1つ前のことで,共同研究者に関する情報提供をさせてください。今年度からJSTのさきがけ研究で,融合領域において挑戦的なテーマをエンカレッジするということで,マテリアル分野と植物生産分野では,ビッグデータ解析によるデータ科学がますます重要になるとの観点から,情報分野との融合を目指す研究領域を立ち上げております。これらの研究領域では,申請の段階において,マテリアル分野と情報分野の研究者,また,植物生産と情報分野の研究者が,最初からペアになって,それぞれの分野の代表的なプレーヤーとして申請する仕掛けが既に始まっております。
以上,城山先生がおっしゃった意味での,共同研究者ということを明確にしながら申請をする制度が始まっているということでの情報提供をさせていただきました。
さて本題の総合性,融合性,挑戦性,国際性のことについて説明いたします。科研費はまさに学術研究そのものを進める上での競争的な資金,つまり,自らが定める研究テーマを自己責任のもとで進める競争的資金と言えます。ところが,昨今,その学術研究を進める上での苗床が枯渇しつつあるということで,それをどのように支えていくかということを集中的に審議するための特別委員会が開催されていました。
その中で,学術研究の現代的要請として,総合性,融合性,挑戦性,国際性という4つのキーワードが出てきました。総合性の持つ意味は,学問分野が極度に細かく分かれ過ぎてしまっているので,それをもう一回メタなレベルから見て,新たな学術の方向をきっちり考えていくことが非常に大事なのではないかという視点から,この言葉が出てきております。
それから,融合性はもう申すまでもないと思います。次に,挑戦性というのはまさにここで今議論しているように,新たな研究分野の開拓です。20世紀末までに学問の大きな柱が出そろい,その体系が整ったとも言われています。そして,21世紀はそれらを交差して,新たな学問領域を創出していくことに,果敢にチャレンジするということも含めた挑戦性を重視にするというものです。
それと国際性に関しましては,日本における学術研究を国際的な観点から展開していき,世界の学術研究においてのリーダーシップを発揮していくというものです。
以上のようなことをいろいろ考えますと,これらの4つのキーワードが現代において学術研究そのものを強力に進める上で非常に重要ではないかということで,現在的要請とした経緯がございます。

【前澤企画室長】
事務局から1点だけ,今の西尾先生の御説明に補足をさせていただきますと,机上資料としてお配りしていますこのピンク色の冊子です。
こちらは学術分科会のレポートでございますが,こちらの12ページに,今,西尾先生に御説明いただいたことがそのまま載っておりますので,御参照いただければと思います。

【佐藤部会長】
これは西尾先生が座長としておまとめになったものでございます。
ほかに,勝木先生。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
2つあります。
城山先生がおっしゃった挑戦性の定義という点で,研究の実体がどうかということがやはり重要だと思うのです。
鍋倉さんがおっしゃっているのは,研究をやってきて,それで壁にぶつかる。また,ある程度完成しそうになる。そのときに偶然学生が100倍ぐらい混ぜ物をした結果,違う物性が出てくる。仮説にないことが事実として起こる。これを失敗と見てやり過ごすか,まともに積み上げてきた実績の上に,一挙に挑戦すべき課題として深く考えるか。分かれるところですが,これを事実として受け止め,一時,仮説を立て直し,計画を再考し,発見や発明に結びつけることができることが科研費の大きなメリットです。ここに挑戦の芽が生まれます。セレンディピティーと言われる偶然を,それこそまともに学問に変え,日本ではノーベル賞をもらっている方たちがいるわけです。
それほど大きなものではなくても,自然科学や工学など,全ての学術がそうでしょうけれども,ある研究計画を進めて,突き詰めていったときに,セレンディピティーと言われるようなものが必ず誰にも出現しているのだと思うのです。
セレンディピティーを求めてやっているわけではなくて,そういう,つまり挑戦するに価値あるものにぶつかるということです。そのチャンスはたくさんの人にあるのだと思うのです。計画通りに行かないことこそが学術の重要なところだと考えた上での話です。
もちろん挑戦的萌芽研究もそういうことがありますが,前提として幸運があるものではなくて,積み上げてきて必然性があって挑戦できるものが随分転がっているのだと思うのです。そういうチャンスを,基盤研究はそのままやりながら,挑戦的課題を立てて,こちらで大きな展開をする。そういうことがやはり学問にとっては重要なブレークスルーです。結果的には独創的で内発的でオリジナルなもので,西尾先生の御説明にありましたように,結果として,挑戦性,総合性,融合性,国際性というような学術が内包する属性が表れるのだと思うのです。そのような新しい学術を,よその国の人が見落とすわけがない。我々もそういうものを海外に見つけたら,それを見落とすわけがない。これが国際性の意味です。国際性といって共同研究を行うのは,このような必然性が生じたときだと思います。つまり最も重要なことは創造的な研究を研究者が遂行することなのです。総合性,融合性,挑戦性,国際性は,学術の属性としてあるものという御指摘だと私は思います。これが目標であるはずはない,それが1つ。
もう一つは,先ほど西尾先生がおっしゃった共同研究について申しますと,城山さんより御指摘がありましたように,鍋倉先生のコメントでよく書けていると私も思います。
ただ,共同研究の部分はおかしいと思います。そういう挑戦的なものが初めから前提として何か共同研究を相手にするような,我々の研究の現場はそんな生易しいことではありません。やはり極端に尖(とが)っています。尖(とが)った個人が前提です。その上で,結果としていろいろな人が集まってきて,それが共同研究になっていく。大きなものになっていく。共同研究と書いてしまうと,必ず無理やりに先端を鈍磨してでも見かけ上新しいものが提案されてくることを経験して来ました。多くの場合,生物系に限ったことかもしれませんが,真(しん)に新しいものは出て来ません。
ですから,この挑戦性は,実体があるところから種目を作るなら作るべきだと私は思います。そういう意味でいいますと,当然のことながら審査方式の改革も大切だと思います。少なくとも総合審査方式,SSですね,少し広めにするという審査方式とセットでなければいけない。御指摘のとおりだと思います。
挑戦性,総合性,融合性,国際性,あるいは,そのほかまだたくさん学術の属性があるでしょうが,それらの属性を目的化して取り上げるのではなく,学術の振興にとってあらゆる場合に必要な要素として手当てすることが重要だと思われます。それから多様性ということをよく言いますけれども,外国はこういうところをやっているのに日本ではやっていないからこうやりましょうという多様性は,少なくとも人まねにすぎない。むしろ多様性というのは,人まねでないことをみんながやる。そうするとみんなが違うわけですから,全体を見れば多様なものになっているわけです。そういう観点で学術を見るべきだと私は思います。
何といっても個人のアイデアというのは無限ですから,それを何らかの形で制約するものは一切やめた方がいいと思います。演説となり済みません。

【佐藤部会長】
勝木先生,ありがとうございました。
私も繰り返して言いたいのですが,やはり科研費の根本は基盤研究でありまして,基盤研究は何でもできるのです。挑戦的な研究も若手研究も全てできるのです。ここで言っている挑戦性や若手というのは,その分についてモチベーションをより与えるというだけのことであって,原則は基盤研究が科研費の真髄であって,それはもう誰も疑っていません。その上にそういうモチベーションを少し与えて,伸ばしてやろうではないかという考え方だと思うのです。
ですから,私たちは基盤研究をちゃんと守る。これが大前提だと,私は認識しております。
はい,どうぞ。

【橋本委員】
最初に確認なのですが,資料2-3の1ページに種目構成があります。この中に位置付けるとすると,挑戦的な新しい仕組みというのは,ピンク色の新学術領域研究と挑戦的萌芽研究の間の空(あ)いたところに入ると考えてよろしいのですか。

【前澤企画室長】
はい。今検討している規模感では,この間のところに該当するものかなと思います。

【橋本委員】
それを見て,やはり基盤研究のところは全てに「独創的・先駆的研究」と書いてあるので,そういう意味でいうと,挑戦的な種目とどこが違うのだということがあるかと思うのですが,私も両方に応募していた経験からいうと,どちらかといえば,基盤研究は独創的・先駆的なのだけれども,ある意味ではフィージビリィーが非常に審査されるというところがあるかと思うのです。
それに対して挑戦的萌芽研究は,むしろリターンとリスクをちゃんと分かってやっているかということが大事なところかと思うのです。つまりリスクはあるけれども,うまくいったら新しいアイデアがもっと開くのだということを申請者自身が分かっているのかどうかという,そういうところで少し見るべき部分が違うかという気がするので,審査の仕方を相当きちんとしていかないといけないと思います。広い区分を審査するということもあるし,いろいろな方向から見るということも含めて,フィージブルかどうかということと,リターン・リスクがきちんと評価されているかということの違いというのは,アイデア出しのときにも大分違ってくるのではないかという気がするので,そういうところに入れれば,このピンク色の挑戦的萌芽研究はもっと小さくてもいいかもれないという気がします。それとそれが少し開き始めたところに対して,多少大きめにすると。
さらにそれが幾つものグループが集まってきたということになれば,その上の新学術領域を構成できるという,そういうことはあるかという気がするのです。
問題なのは,個人の発想なのか,あるいは異分野が混じればそういうことができるのかというところは,少しまだ分からないところがあります。異分野が混じっている場合にはやはりCoPIという考え方をとらないと,キャリア形成の観点からも,申請書を書くときにCoPIでやったということになれば,どの分野から来ても書けるので,それはモチベーションとしてはいいのではないかなという気がいたします。
それとついでにもう一つの方の独立基盤形成について,申請する中身はこれから詰めるのでしょうけれども,例えば研究内容を申請するのか,あるいは研究基盤の計画を申請するのかということも,かなり要素としてあるかと思うのです。
多分,基盤形成なので研究環境整備だけで申請するということは余りないだろうと思うと,基盤研究の(A)(B)(C)と並列して出てくるべきものではないかという気がするのです。ですからプラスアルファで基盤研究がとれていると,あるいは申請時にそのための環境整備として機関が何をするのかということもあるし,この資金で何をするのかということもあって,一緒に書かれている形の方がフィージブルではないかという気がします。これは重複申請との関係もあります。
そしてもう一つは,これを記述した定義は分からないのですが,アワードイヤーという考え方と基金化というのと密接に関係あると思うのですけれども,やはり今大学の方では秋入学やクオーター制の導入という動きがあって,人が入る時期が4月ではなくなってきているわけです。途中で入ってくるとか,あるいは途中から抜けるということもある。
そうすると,今のような年度単位でもって秋に申請,春から研究を開始というのが余りマッチしないということがあるので,大変だけれども,極端に言えば年2回とか,そういうこともあるだろうし,あるいは7月から13か月とか,あるいは26か月とか,そのようなやり方もとらざるを得なくなるのではないかと気がします。そうでないと,来た人が翌年度にならないと何か始められないので,その辺りのスタートアップに関しても抜本的に考える必要があるのではないかという気がいたします。

【佐藤部会長】
どうぞ。

【甲斐委員】
挑戦的萌芽の方は随分煮詰まってきたと思いますので,もう一つのPIの方についてなのですが,鍋倉先生のコメントを読んでみると,少し科研費になじまないことが書かれているなと思いました。
2番目の丸に書かれている,通常であれば独立基盤形成は所属機関が担うべき役割であるということ,これは本当にそうだと思います。昨今大学の在り方が議論されていて,各大学が自ら発展を図るために,様々な工夫を求められ,努力されていると思います。その中で,何でもかんでも科研費で担うというのは,大学側の努力を科研費で補えるからいいではないかというふうに,かえって大学の自由度を狭める結果になるのではないかと思うのです。
研究室の立ち上げの環境整備は,本来は大学がやるものであって,よいPIを呼ぶということは大学の力になるので,そういう努力は最低するものだと思うのです。ですから,鍋倉先生のコメントの2番目の丸にも書いてありましたが,支援対象は科研費を獲得した実績を持つ研究者に限るとする,科研費の役割はこれくらいで十分ではないかと思うのです。科研費のような競争的資金を獲得している研究者でないとPIに選ぶのはおかしいと思うので,科研費の中にPI独立のための別個の種目を新設して環境整備まで支援するというのは,大学のこれからの努力に対してもディスカレッジになると思います。
確かに,今橋本先生がおっしゃったように,科研費をとれている者の中でPIとして来たけれども,備品等が足りないから少し買い足したいという場合のためのグラントを,その基盤の中に新たに作るというのであれば,まだいいのかもしれません。これから研究室を立ち上げることを約束されている人や,あるいは機関を移ってから一,二年以内の人だけが申請できて,PI独立としてこの基盤整備にこれだけの要求ができるというのも,分野によって違うのでしょうけれども,1,000万ぐらいの機器が欲しいとか,そういうことに対して基盤研究(B)や(A)などに採択した人が申請できるようなグラントがあってもよいのかなと思います。
今,新しい方の挑戦的萌芽は基盤研究(B)程度を考えているという説明があったので,そちらでもいいと思うのです。融合分野でとって。若手研究(B)の人がPIとして独立するというのは,やはり少しおかしいと思いますので,基盤研究(B)程度をとった人,あるいはその程度のお金をとった人が申請できるようなグラントなら良いのかなとは思います。
ただし,やはり科研費の趣旨にはなじまないとは考えます。また,これを新たに立てるのは,今の大学の在り方の議論にも触れてきて,多少危険ではないかなと私は感じます。

【佐藤部会長】
栗原先生。

【栗原委員】
幾つかあるのですが,前半の萌芽的研究についてですけれども,これについては今,勝木先生がおっしゃったような,新しいアイデアは個人から出るということは,多くの研究分野においてはそのとおりだと思うので,非常に大事にしていかなければいけないのですが,現状,例えば融合研究というのは,比較的新しいものが生み出される可能性は非常に高くあると思います。
今,医学や工学という比較的大きなくくりで言われましたが,私どもは最近,摩擦の研究を機械工学と材料を継続でやっておりまして,これは言葉遣いを一致させるのもなかなか大変な分野でして,融合研究のプロモーションというのはある程度の規模ではエグザンプル的なプロモーションは幾つかされているのですが,それを今度個人レベルで継続しようと思うと,特に若い人が継続するのはなかなか難しいと思います。
そのような意味で,融合性もそういうCoPIのようなシステムを挑戦的萌芽の中に入れていくのは,比較的,特にエンジニアリングのこれからの革新というような部分について,あるいは先ほど言われたようなインフォーマティクスとか,比較的幅広い分野との具体的な融合研究の推進には非常に有効なのではないかと思っていまして,新しい研究の行き方というのは,比較的継続的に出る可能性があると思います。
あと2つ目の「次代を担うPIの独立基盤形成」について,これは今,甲斐先生のおっしゃったことを聞くと,私ももっともだなとも思うのですが,地方大学においても大学でやることだと言い切ることができるのか,全ての人がそういう可能性があるのかなどということもあるので,私はこの独立基盤形成というのはどういう人を対象にするのかがすごく大事だと思っています。例えば何年も何年もPIとして独立するというようなところではなくて,条件も非常に厳しくして,1つは,本当に独立を支援するなら志をきちんと問うというのはすごく大事ではないかと。それから必要な人を支援することが必要で,それは文書だけでは分からないので,例えば志をきちんとコミットしてもらうためにヒアリングをするとか,何か従来とは違う形でそういう支援をするなら,選考もした方がいいのではないかなと。

【甲斐委員】
科研費ですから。

【栗原委員】
科研費ですからね。でも,科研費でも,実はこれは,従来はさきがけが結構こういうものをやっていたと思うのですが,今さきがけがそれほどブロードな形でないので,そういう機会があってもいいのではないかと思います。科研費ですからイメージとしては,やはりある程度の装置が必要な研究を始めようとする人で,それから機関がその人をどう支援しているかという状況等も踏まえて,きちんと状況を把握してやるべきもので,決して安易にすべきでないというか,こういう支援は書類ベースではできないのではないかなという気がしています。こういう支援をするなら,やはりまずPIとして独立するに当たっての志を聞いたらいいのではないかと思います。
少し感覚的になって申し訳ありません。

【小安委員】
私も後半の部分に関して,資料2-3の資料を見ていて,13ページの「研究活動スタートの障壁」の「十分度を下げた理由の例」の中に,科研費の若手種目の採択回数制限がありますが,先ほどからこれはなぜなのだろうと思っていました。
回数制限をすることが自立の機会を本当に妨げるのだろうかと。というのは,9ページに戻っていただくと,実はこれをやったことによって基盤研究(C)の若手の採択率は物すごく上がっているのです。恐らくこれが意味するところは,特に若手を優遇しなくても良いのではないかということです。ただ基盤研究(C)と若手研究(B)は,総額は同じだけれども,期間を見ると1年違います。結局これは,私のうがった見方かもしれませんが,やはり金額が十分でないということをいっているのかなという感じがしています。
先ほど人社系の話があり,人社系の場合には最初から独立というのはある意味当たり前のことだと取り回しています。しかし,分野によって,例えば理工系にしても生物・生命系にしても,やはりある程度の科研費を持っていないと,なかなか独立して仕事するというのは難しいことも事実です。特に日本の場合にはグラントをとるということとキャリア形成がカップルしていないですね。
ですから,そういう意味では,先ほどさきがけの話が出てきましたが,やはり私も見ていて,さきがけに採択された人たちは本当に自分のことを自分のアイデアでやるということができていたように思います。そうすると,やはりある程度きちんとした額の科研費を与えるということが,まず大前提なのだと思うのです。
ですから,それを獲得した人に対してさらにプラスのサポートをするのか,あるいはそういう人がうまく獲得できる仕組みを考えることなどが大事だと思います。どちらがいいのかというのは議論のあるところだと思いますが,やはりきちんとPIとしてやるんだという人に十分な支援をすることが非常に大事だと思います。
そうでないと,13ページの十分度を下げたもう一つの理由として,若手研究者に対して無理に教授の仕事を手伝わせるというコメントが出てくるというのは,要するにやろうと思ってもきちんと独り立ちできるグラントがないということを言っているようにも読めたので,その辺りをもう少し,若手をどうやって支援するかということで考えるべきではないでしょうか。

【栗原委員】
PIとしての独立がどのくらいの若手かもよく分からないですよね。済みません。

【小安委員】
年齢ではないと思いますから,やはり独立したというようなキャリアの問題と。

【佐藤部会長】
勝木先生。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
今のお話は,やはり大学あるいは研究所が支援すべきことを科研費で行うということですが,根本的に筋が悪い。まずそれを考えておくべきだと思います。筋が悪いというのは,つまり科研費の中にそういうものが入ってくると,本来の,それこそ先ほどおっしゃった基盤研究などとの整合性を考えると,全体として学術研究の正統性を考えるときに難しいのではないか。日本学術振興会の立場からすると,ピア・レビューをその根幹とする評価方式では極めて困難な問題です。
ただ,今確かにデュアルサポートというのは私学の方はないとおっしゃるから,大学が持っているお金が私学に限らず,何に限らず非常に少なくなって,ほとんどなくなっているということを考えると,大学全体を考えればそれは何とか処置しなければいけない。しかし,そのお尻を科研費に持ってくるのが本当にいいのか。それはやはり一回考えた方がいいと思います。今,大学の改革が行われているようですが,私は改革とは思わないけれども,とにかく行われているようですが,その中でこそ考えるべきことで,私はそう思います。
今の貧しさというか,苦しさをこういうものに転嫁したら,それこそ先ほど甘やかすという言葉もありましたが,大学を甘やかすことになると思います。
建設的な御意見については,私は黙っていますけれども,とにかく筋が悪いということをみんな自覚するべきだと。それが,もう1つのことです。

【小安委員】
しかし,やはり独立した一人前の研究者というからには,きちんとした科研費をとるべきだという,そこが私のポイントです。
ところが,それが今のシステムでは科研費をとったことが独立できる状況になっているのかという問題提起なのです,私が言っていることは。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
いやいや,それよりもお金を付けるかという話でしょう,これは。
済みません,もう1点だけ。先ほど栗原先生が,共同研究について2分野の話をおっしゃいましたが,私に異論はありません。異論はありませんが,私が申し上げたいのは,それが前提になっては困るということです。
だから基本的に尖(とが)ったものですよ,要するに。そういうものがCoPIであれ何であれ,つまり問題がそこできちんと学術の特性があれば,それは組織がどうあれ,構わないと思います。
ただ,こう書くと往々にして分野融合とか,私にはちょっとなじめない言葉がたくさん出てくるので,そういうものが中心になっては困ると思います。

【栗原委員】
私もそう思ったので,個人から出ると前半に言ったのですよ。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
はい,分かりました。済みません,念のため申し上げました。

【佐藤部会長】
CoPIが必ず出願に必要だとか,決してそういうことではないと思います。本当にすばらしいアイデアならば一人でも十分ですし,でも,1つの例として挙げるのはなかなかいいと思います。
分野融合で成功した例はたくさんありますし,それはまさにアイデアがよかったからですよ。そういうアイデアが基本ということは変わりないですし,これは1つのアイデアだけですね。
はい,どうぞ。

【射場委員】
1つ前の勝木先生のお話で,セレンディピティーをマネジメントしたいとかねがね思っているのです。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
そんなことは無理です。

【射場委員】
セレンディピティーを見過ごすわけはないとおっしゃいましたよね。
それをいろいろと調べていると,結構見過ごしている事例が多くて,セレンディピティーで成功につながった事例は,その研究者が最初にアプリケーションと思っていたものと違うところにアプリケーションを持っていったときに,大きな成果につながるケースが結構多いです。そういう意味では今の融合の話ではありませんが,入り口は何でもいいと思いますよ。入り口はその研究者の思うとおり研究をやるのだけれども,そこから出た研究成果をやはり広く多くの人で見て,これはもっとこちらに使えるよというようなマネジメントが要るのではないかなと思っていて,そういう意味では最初に諸先生が質問された円グラフで,挑戦的萌芽研究の終了後にどの研究費をとっているかというパーセンテージではなくて,もっとダイレクトに挑戦がうまくいったかとか,どういう萌芽が出てきたかということ,専門的な見地で日本学術振興会が全部評価していると思うのです。その評価結果をもっと有効に活用して,マネジメントするやり方があるのではないかと思うのです。
私はどの改革案も入り口のところ,応募や採択のところはもっとフレキシブルに,どんどんやればいいと思うのですが,出た成果をどう取り扱うかのところをもっと議論すべきで,何か紙を書いて終わりというようなことになっていないですかと。確かにここでいい事例は幾つか出てきているのですが,成功したものからさかのぼって,後で取って付けたような形が多いので,やはり現在進行形のところでどうやってセレンディピティーを戦略的にマネジメントしていくかということは,チャレンジしてもいいのではないかと思います。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
射場先生がおやりになっているのですか。そのマネジメントを。

【射場委員】
暗中模索でいろいろチャレンジしていますけれども。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
済みません,ぴんとこないので。難しいだろうなと思います,今のところはね。

【佐藤部会長】
では,高橋先生。

【高橋委員】
先ほどの独立するときの問題は,やはり現場でありますね。研究室を変わる,大学を変わるというときは,もうナイトメアなのですよ。若い者も若くない者もナイトメアなのです。
新しい研究室に行ってまずよくあるのが,前の先生が残していった負の遺産です。いろいろな試薬を片づけるためのお金はどこから出るのかと聞けば,運営費交付金だろうと言われて,机がない,椅子がない,椅子の足が折れている,買おうと思ったら誰が払うのかと聞けば,運営費交付金だろうと言われて。私の場合,京都大学に行ったら,壁が真っ黒で,壁を塗るのにどうしようと思って,そもそも科研費なんてとんでもないと言われて。たまたま私は寄附金を持っていて,そのように本当にたまたまお金があったという人はいいですが,若手の場合はそのたまたまは余りないと思います。
ですから,具体的には今即断はできないのですが,甲斐さんがおっしゃったように,別枠で支援するというよりも何かそういう本当に必要な,運営費交付金から出すべきもののうちの少しだけ,でも本当に研究に直結するもの,そういうものの柔軟性をこれから考えていってもいいのではないかなと思います。
ただ別枠ではなくて基盤研究(B)や何かに,研究室を移った場合のみにそういうのは適応できるとか,それもいろいろと穴はあるのですが,何かを変えるとしたら,そういう前向きな柔軟性もあっていいかなということを皆さんの御議論を聞いて思いました。
以上です。

【佐藤部会長】
はい,ありがとうございました。
この2点に関しましては,大分実りある議論が出ましたので,これを踏まえて案を作っていただきたいと思います。
もう一つ,科研費改革の実施方針についての議論が残っていまして,こちらは秋以降でもよろしいのですが,何か特に御意見等ありましたらお願いしたいと思います。いかがでございましょうか。
はい,高橋先生。

【高橋委員】
資料1の1ページの一番下の丸の研究種目の再構築についてです。やはり私が日頃から一番思っているのは,研究種目が多いがために,審査員を決める方も大変ですし,審査する方も大変です。皆さんやる気はあるのですが,たくさんの数が回ってきますので,なかなかうまくいかないという現実もあります。
ですから,私はスリム化をすればいいのではないかという意見を持っています。もっと言えば特別推進研究,基盤研究(S)のような大型研究種目,その辺りを抜本的に改革して,全体的にお金がないとおっしゃるのであれば,特別推進研究ほどの大型のものをやる必要はどこまであるのかということの根本的な議論をしたいと思います。
僭越(せんえつ)ながら提案というほどでもないのですが,つまりなぜ私はそういうことを言うかというと,生命科学において少なくとも私の周りにいる仲間,例えば100人に聞くと,基盤研究にどんどんお金を渡すと日本がよくなるのではないかという答えが100人から返ってくるので,秋以降の議論をさせていただくときに,もう少しいろいろな現場の意見そのものを,アンケートというほどでもないのですが,そういう生の声がもっともっと聞きたいなということをお願いしたいと思います。

【佐藤部会長】
どうもありがとうございました。
特別推進研究の在り方については,生命系はいろいろと思うところがあることは承知しているのですが,また理工系の立場というのもありまして,それを秋以降で議論をしていきたいと思います。ありがとうございました。
どうぞ。

【鈴木学術研究助成課長】
済みません,スケジュール感に関しまして,私どもの説明が足らず恐縮です。
1つは,本日の前半に御議論いただいた概算要求の考え方につきましては,確かに8月末が概算要求の締切りになっていることから逆算しますと,取りまとめが焦眉の急でございますが,一方科研費の実施方針につきましても,秋以降いろいろと諸方面と折衝や議論していく際におきましては,大まかな見取図を持っていることが肝要でございます。恐らく学術分科会が9月か10月か秋口にございますので,それまでには一旦議論を収れん化させて,必要があればその後また改定という段取りをさせていただければと。
そういうことで,今回のこの第1段階の御議論で,全てこの内容が固まり切るというわけでなく,逐次また見直しをするという前提での御了解を頂戴できれば有り難いかなと思っております。

【佐藤部会長】
どうも済みませんでした。今日のこの場でももう少し議論を詰める必要があるということです。ほかにも何かございますか。
どうぞ。

【小安委員】
今の点なのですが,やはり私もこの種目の見直しというのはあった方がいいと思っていて,どうやるかという議論は必要なのです。前からいろいろな場所で言っているのですが,なぜ若手研究という種目を設けなければいけないのでしょうか。先ほどのデータが示すところは,若手は若手研究よりむしろ基盤研究(C)の採択率が明らかに高いのです。ということは,十分勝負ができているということです。しかも年齢で応募資格を区切っているのは日本しかないと思うのです。キャリアではなく,年齢で区切るという考え方は僕はやはり間違っていると思います。
本来であれば科研費というのは全部1本でいいと思います。どの研究者も自分の必要な研究費の額に合ったところに応募するというのが科研費の本来の考え方ですから,それをやはり年齢で区切るというところに,私は非常に違和感があるのです。そういうことも含めて,キャリアに合った科研費の在り方というような考え方で議論をしていただいた方がいいのではないかなと思います。

【佐藤部会長】
それは言ってみれば,学位を取って何年かなどでしょうか。

【小安委員】
例えばですね。あるいは職を得て何年など,そういう考え方はあると思うのですが,年齢というのは僕はないと思います。

【佐藤部会長】
また育児期間がこれだけあったから,その期間は除くとか ,いろいろな財団での若手支援では必ずそういうのがありますね。年齢だけではなくなっていますよね。それは少し考える必要はあると思います。
どうぞ。

【白波瀬委員】
私も是非支持したいと思います。応募資格を年齢だけで区切るというのは,先進国の中で極めて少数派です。多様性というような議論も出てきますし,新機軸ということであれば,本当にいろいろな年齢層の方も一緒にということで,私も強く反対します。

【佐藤部会長】
栗原先生。

【栗原委員】
でもそれであれば,先ほどのスタートアップのような感じのものは,より必要度が高いので,逆にそういうものをより充実させていくという形でやるというのはあるのではないかという気がします。
今,若手の方の回数が減っているというのも,ある意味ではそうですけれども,若手の金額ではなかなかPIの環境整備には十分ではないので……。

【佐藤部会長】
ありがとうございます。
よろしいでしょうかね。

【山本JSPS学術システム研究センター主任研究員】
先ほどの小安先生からの御指摘なのですが,確かにそういう側面はあります。ただし,1つバイアスが掛かっているということは申し上げなければいけない。それはどうしてかというと,今,若手研究の需給制限は2回となっています。そうすると,35歳の時点で2回採択されてしまう人はたくさんいます。そういう人は基盤研究(C)が強いですから,若い人が基盤研究(C)に応募するという場合に強いです。だからそういう強いものが強いだけだけれども,基盤研究(B)に現在応募している人たちが基盤研究(C)に応募したときにどうなるかは,これは調べてみないと全く分からないですが,若干バイアスが掛かっている可能性がありますので,その点だけは御留意ください。

【佐藤部会長】
ありがとうございました。
時間の都合もあるので,この議論をこれで終わってよろしいでしょうか。
どうぞ,栗原先生。

【栗原委員】
済みません。話を戻すのですが,若手の上の人がドクターを通って,1回目に科研費の応募書類を書くというのは結構プラクティスの部分があって,何回認めるかというのがどんどん減ってきているのはいいと思うのですが,そういう意味ではやはり若手の改革というのは,別に審査されてもその枠はいいのではないかなと思うのです。
何回も何回もということではないと思うので,だから今,2回が適当なのか1回なのか,何歳までなどということはあると思いますが,最初に書く人と何回も書いている人を全部同列でやるのか,あるいは1回目だからということでアドバンテージを与えるのかなど,いろいろとごちょごちょするよりは,今まであるシステムの中で見直しが必要なところは,やはり丁寧に考えていく必要があるのではないかと思います。
少し先走った発言だったかもしれません。

【佐藤部会長】
ありがとうございました。
一応これで審議を終わりたいと思います。
先ほど事務局からお話がありましたように,8月末には概算要求がなされることを考えますと,概算要求の基本的な考え方につきましては,8月初旬までに固める必要がございます。
事務局から示されましたように,概算要求の基本的な考え方については,本日頂きました御意見を踏まえまして,事務局の方で修正していただき,後日,書面にて委員の皆様に照会させていただきたいと思っております。
それから,科研費改革の実施方針についてのことでございますが,工程表につきましては概算要求の動きとタイミングを合わせてまとめることになりますので,以後,必要に応じて改定を行うことが適当であると考えております。
つきましては,こちらに関しても,本日頂きました意見も踏まえて修正を行って,また書面にて委員の皆様に照会させていただきたいと思っております。
その後,頂いた御意見につきましては,部会長の私と部会長代理の甲斐先生と御相談して,学術分科会へ報告を行う手続をとりたいと思っておりますが,これでよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)

【佐藤部会長】
ありがとうございます。
それでは,こちらについても事務局で準備をしていただきたいと思っております。
こういうことで,8月上旬に審査部会の開催も予定されておりますので,同時に連絡もとりながら対応したいと思っております。審査部会は甲斐先生が部会長でございますね。
それでは,「その他」の議事に移りたいと思います。実は生命科学3分野の支援の在り方についてでございます。
この生命科学3分野の支援につきましては,新学術領域研究の下で助成を行ってきましたが,その助成期間が今年度末で終了することになっております。今後の対応の在り方については,審査部会において検討を進めていただいているところでございます。
ついては,審査部会長の甲斐先生から,これまでの検討状況などについて御説明を頂き,今後の取り進め方についてお諮りしたいと思います。
それでは,甲斐先生,よろしくお願いいたします。

【甲斐委員】
では,生命科学3分野支援活動見直しについて,検討状況と今後の具体的な進め方についての御報告と,それからお諮りしたいことがございますので,よろしくお願いいたします。参考資料3の「生命科学3分野支援活動の見直しについて」という1枚紙を御覧ください。
具体的には1の「助成措置の沿革」という欄にございますが,このがん,ゲノム,脳の支援班には大変古い歴史がございまして,昭和42年度のがん特別研究に始まり,それ以降,科研費においていろいろな見直しを経て,特別枠による重点支援の対象としてきたところでございます。
その後,がん特別研究から特定領域研究と変わって,今や新学術領域研究の下で支援活動に対する助成を行う仕組みを継続しているわけですが,平成22年度以降,3分野合計で年30億円以内を目安として措置しているところでございます。
この特定分野に対する重点支援は,平成20年度の本部会におきまして,他の分野との同等の取扱いの中で助成を行っていくべきということにされまして,平成22年度から創設された新学術領域に包含して,助成措置が行われてきました。
一方で,その転換の際に,本部会において従来の3分野に関する特定領域研究における総括班・支援班の果たしてきた役割を継承して,3分野の研究者コミュニティーが蓄積してきた支援活動のノウハウ,基盤のみを存続し,今後も3分野の研究支援を発展させるべきとの提言を頂きました。
平成21年度1月30日,科学研究費補助金審査部会において,「科学研究費補助金における生命科学系3分野(がん,ゲノム,脳)への支援の在り方について」を取りまとめ,その方針に基づいて平成22年度から3分野支援活動として助成措置を行ってきたという経緯がございます。
当該助成措置は,当初の計画では平成26年までの5年間の時限措置であり,その間,審査部会において何回かにわたり,本支援活動の今後の在り方も含めて検討を行ってまいりました。
昨年度,研究環境基盤部会において審議が進められていた,共同利用機関等の機能強化に関する審議の動向等を踏まえつつ,時期の在り方を検討するということが必要であるという判断から,これと併せるということで,26年度までの5年間措置を1年間延長して,経過措置を講じて,現在の最終年度に至っているところでございます。
2の「見直しに向けた審議状況」を御覧ください。
その欄にありますとおり,審査部会では,これまで数回にわたる審議の中で,四角に囲みました3つの方針を集約いたしました。1番目は,本支援活動が一定の貢献を行ってきたということが理解できる。2番目は,特定分野支援が必ずしも科研費制度の趣旨にのっとったものではないため,助成措置を講ずる場合は,分野特化型というものから分野横断型へ転換するべきであるということ。3番目は,より開かれた仕組みとするために,共同利用機関や共同利用拠点がプラットフォームの受皿としての中核的な役割を担うことなどの方向で進めること,と集約しました。
また,研究環境基本部会におきましては,本年1月に審議まとめが出されまして,個々の研究者コミュニティーがこれまで形成してきた学術的発展を支援するため,基盤を発展強化する方策の検討を行うという提言がなされております。
これらを受けまして,3の「今後の見直しの進め方」の欄に移りますが,平成28年度以降の枠組みにつきまして,切れ目なく事業を展開できるようにとの観点から,この秋に公募が開始できるように審査部会,基盤部会の委員数名から構成される合同検討会を立ち上げて,具体的な検討を進めていくことで両部会において了承を受けました。
そのスケジュールですが,7月から8月に,必要に応じて3分野関係者からヒアリングを行って,どのような支援機能を対象とするのか,事業期間,予算規模などの具体的な制度について合同検討会で御検討いただき,その後,検討結果を審査部会に報告いただき,成案を取りまとめる予定でございます。
ただいま御説明いたしましたとおり,3分野への支援活動の存続などの具体的な在り方に関しては,審査部会に委ねる手続がとられていましたが,今回その枠組みを改めていく時期を迎えますので,審査部会の検討状況を御報告するとともに,今後の審議の進め方について御確認いただければと思います。
私としましては,これまでの審議経過を踏まえて,研究費部会長の佐藤先生と御相談をしつつ,引き続き審査部会で成案をまとめる作業を進めさせていただくことが適当ではないかと考えております。
スケジュールの関係もありますので,研究費部会との連携に関しては,このような方法で御了承いただければと思います。最終的な取りまとめ結果につきましては,追って研究費部会にも改めて御報告申し上げます。
以上,本件の検討状況と今後の手続についての御報告とお諮りをさせていただくものです。よろしくお願いいたします。

【佐藤部会長】
はい。甲斐先生,御説明ありがとうございます。
今,甲斐先生から御説明いただきました方向性でございますが,大きな御異論がないようでしたら,本件の取扱いについては,引き続き審査部会を中心として検討を進めていただき,これに関する研究費部会としての対応につきましては,私と部会長代理である甲斐先生で相談することで御一任を頂ければ有り難いと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは,甲斐先生,審査部会での御議論,よろしくお願い申し上げます。
はい,小安先生,どうぞ。

【小安委員】
話を戻してしまって申し訳ないのですが,先ほど栗原先生と山本先生がおっしゃったことについて,一言よろしいでしょうか。
学問の世界では,学術論文を書いているときに1回目だからという理由で審査を手加減していることはないわけですよ。ですから,それだけをもって1回目の人を優遇するというのは,僕はやはり筋が通っていないと思います。もしやるのでしたら,別のロジックを考えていただきたいと思います。それだけです。

【栗原委員】
はい,分かりました。

【佐藤部会長】
小安先生,コメントありがとうございます。
それでは,事務局より連絡事項をお願いします。

【前澤企画室長】
本日御議論いただきました概算要求の基本的な考え方と科研費改革の実施方針につきましては,佐藤部会長から御指示がありましたとおり,本日頂いた御意見を踏まえまして,後日,先生方に意見照会をさせていただきます。

【佐藤部会長】
それでは,本日の会はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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