資料2 グローバル・リサーチ・カウンシル(GRC)について

1.科学上のブレークスルーに関するシンポジウム

(1)概要
 世界をリードする学術振興機関長やノーベル賞受賞者、大学・政府関係者等を招き、科学研究によるブレークスルーの促進のための方策を議論し、広く国内外に学術研究振興に関する国際的な動向を発信するための公開シンポジウム。ノーベル賞受賞者の研究等の優れた研究成果やブレークスルーにつながる研究支援策を紹介や我が国の研究力を支える教育政策、科学技術・学術政策をアピールした。
(2)日程  平成27年5月26日(火曜日)
(3)主催  独立行政法人日本学術振興会
(4)出席者等
(スピーカー)根岸英一  パデュー大学特別教授(2010年ノーベル化学賞受賞)、コードバ 米国国立科学財団長官、ブルギニョン 欧州研究会議理事長
(一般傍聴者)国内外の政府関係者、学術関係者等  約400名
(5)テーマ  科学上のブレークスルーに向けた研究費支援
(6)言語  日英同時通訳

2.第4回GRC年次会合

(1)概要
 全世界の学術機関の長が一堂に会するハイレベル・フォーラムとして、米国科学財団(NSF)の提唱により2012年に創設。GRCでの議論、宣言は、各国学術振興機関・アカデミアでの議論、政策、プログラム決定に影響。今回テーマは「科学上のブレークスルーに向けた研究費支援」であり、科学技術・イノベーションを支える基礎研究振興や若手研究者育成の重要性について議論された。議論を踏まえ、会合において宣言文を採択。
(2)日程  平成27年5月27日(水曜日)~5月28日(木曜日)
(3)主催  独立行政法人日本学術振興会
共催  南アフリカ国立研究財団(NRF)
協力  科学技術振興機構(JST)、南アフリカ科学技術省(DST)
(4)出席者  世界50か国以上の主要学術振興機関長等(約100名)
(5)テーマ
1)科学上のブレークスルーに向けた研究費支援
2)研究教育における能力構築
(6)言語  英語

科学上のブレークスルーの支援のための原則に関する宣言 (日本語仮訳)

前文
強固で広がりを持つ学術研究・基礎研究の基盤が、将来のブレークスルー及びイノベーションの源泉として必要とされている。

科学上のブレークスルーには、傑出した発見や発明、方法論や技術の開発であって、科学上のパラダイムの転換、または、人類や世界に対する基本的な理解の変革をもたらすものが含まれる。科学者の自由な発想に基づく科学研究は、ブレークスルーそして人類社会の発展の原動力とみなされてきた。

しかし、ブレークスルーを目指すための研究を行うことは、時に既存の課題や研究分野を越えた未知の領域に踏み入ることであり、予測不可能かつ期待を越えるような結果が生じうるものである。そのような研究は同時にリスクを伴うこともあり、長期間の研究努力をもってしても成果が得られる場合もあれば得られない場合もある。また、ブレークスルーは単独で生じるわけではなく、効果的な研究環境が不可欠である。すなわち、多様性を育む環境や、研究者が未踏の領域を探求して前例のない成果を得るための手段と柔軟性を与えるような環境が必要である。科学研究の道のりにおいては、ともすると既存の知を発展させる活動が注目され、科学技術イノベーション政策は短期的な社会・経済的インパクトに傾倒していくことになりがちとなる。しかし科学研究の価値は経済的・社会的価値のみならず、知的・文化的価値を含むものである。

科学上のブレークスルーのために長期的な投資が必要であることを認識し、持続可能で、安定的かつ多様な研究費支援を確保することが欠かせない。また同様に、研究評議会組織(Research Councils)が研究費配分やプログラム管理の面での自律性を確保するとともに、支援を行った研究の公正性が自律性の不可分の要素であること、そして、研究の公正性が研究活動に対する社会の信頼のために極めて重要であることを保証することが重要である。そして何よりも、グローバルな研究コミュニティと関係者に対し、学術研究・基礎研究やブレークスルーを促す研究環境に対する支援が必要であるという強いメッセージを伝えることが重要である。

このため、グローバル・リサーチ・カウンシル第4回年次会合の参加者は、科学上のブレークスルーに向けた研究費支援のための主要な要素として、以下の原則を確認し、グローバルな研究コミュニティにおいて共有する。

原則
研究における自由・柔軟性・リスク負担
GRC参加者は、研究費支援プログラムを通じて以下を目指すべきである:
- 公的支援を受けた研究プロジェクトにおける公正性と倫理的な行動及び説明責任を求めつつ、研究課題や研究方法の決定、研究資源の配分等における研究者の自由を確保すること
- 予期せぬ発明を生み出すための柔軟性と知的余裕を研究者に与えること
- 多様な研究領域に対する支援を確保し、挑戦的なアプローチを刺激するための学際的・領域横断的な交流を育むこと
- 研究活動においてリスクを取ることを奨励し、研究における失敗を許容すること。

研究費支援の多様性
GRC参加者は、それぞれの機関のミッションに即して、科学上のブレークスルーを実現する可能性を最大化させるため、多様でバランスのとれた研究支援のポートフォリオを採用すべきである。例えば以下のものを含む:
- 学術研究や戦略研究に対する支援
- 基礎研究や応用研究に対する支援
- 課題を定めない研究や重点分野に対する支援
- 研究拠点や研究者個人に対する支援

審査と評価
GRC参加者は、「GRC科学上のメリット・レビューに関する原則についての宣言」に立脚しつつ、将来のブレークスルーにつながる先端的なアイディアや創造的な研究者を見出すことができるような新たな効果的審査プロセスを探求するために協働すべきである。
GRC参加者は、研究の成果の評価はプログラムによって異なることを認識しつつ、研究の結果や成果を追跡し、研究費支援の価値を確認できるよう努めるべきである。

関係者との連携
GRC参加者は、機関のミッションの実現のため、政府、学術コミュニティ、産業界、国民等の様々な関係者と積極的に交流し、国の優先課題や社会的ニーズ、地球規模課題等に配慮すべきである。
GRC参加者は、ブレークスルーにつながる科学への支援にあたり、関係者からの投資や関与を促し、連携を促進すべきである。
またGRC参加者は、「GRC学術論文のオープンアクセスに向けた行動計画」も踏まえつつ、研究結果・成果の公開にあたり枢要な役割を果たすべきである。

国際的な連携
GRC参加者は、二国間・多国間の取組を通じてブレークスルーにつながる科学を奨励するために協力する機会を追求すべきである。具体的には、特に成功事例を共有するためのワークショップ、研究管理に関する知見の交換、多様性イニシアチブの開発、共同支援、草の根の研究者ネットワークの促進、中核的な研究設備・インフラへのアクセス提供等が含まれる。

研究・教育の能力構築のためのアプローチに関する宣言:(日本語仮訳)

背景
研究・教育における能力構築は、グローバルな研究システムにおける全ての関係者にとって重要な事項である。各研究システムの具体的な背景事情や多様性を理解し、それが国際協力にどのように影響するのかを理解することは、効果的な研究・教育上の能力構築をグローバルに行うために不可欠である。

研究・教育の能力構築、特に低中所得国のそれは能動的なプロセスであり、研究ニーズを特定し、研究を委託・実施(研究上の連携を含む)し、研究成果を伝達し、研究成果が現場や政策レベルで活用されることを保証するような国レベルのシステムを開発することを伴うものである。

重要なのは、世界の研究支援機関が国・地域・そしてグローバルなシステムの中で研究・教育の能力強化、特にデジタル接続性に向けて積極的に活動し、個人と組織的な能力の両方を強化することを目指した行動を取ることである。

このため、グローバル・リサーチ・カウンシル第4回年次会合の参加者は、研究・教育の能力構築のための主要な要素として、以下に掲げるアプローチをグローバルな研究コミュニティにおいて共有する。

研究・教育の能力の構築のためのアプローチ
協力・パートナーシップ・ネットワーク
様々なパートナー間の真の公平なパートナーシップは、能力強化のための主要な課題である。GRC参加者は、相互に有益なパートナーシップの確立や既に成功しているネットワークを利用することを通じて、組織や個人の能力を伸ばすことを目指すべきである。この文脈で、強固な能力開発のアプローチを研究基盤やネットワーク、卓越拠点(COE)などに統合させ、これらの資産への幅広いアクセスの向上・共有のための条件を定めることができるよう、GRC参加者は他の行政庁や諸機関と協働することを検討すべきである。

研究管理に関するグッドプラクティスの共有
グッドプラクティスを共有することは、GRC参加者の組織的な能力構築の上で重要なインパクトを有する。GRC参加者は、例えば研究管理事務に関する全ての面にわたる活動についてのグッドプラクティスを共有するためのプラットフォームの開発などの、経験を共有し互いに学び合うための効率的な方法を追求すべきである。研究公正は、研究管理の実務における重要な要素である。これらの共有のための活動の結果として、グッドプラクティスに関するデータベースを創出することも考えられる。

研究・教育能力の持続可能性を確保するための「経路」全体に渡る支援
研究者や教育者の強固で多様な「経路」が継続的に確保できるよう、GRC参加者は各国やグローバルなレベルにおいて新進の研究者が多様なキャリアパスの過程を通じて科学的探求や教育に取り組むことを奨励するような、グッドプラクティスを共有するよう一致して取り組むべきである。

「未来の形成: 次世代の研究者の支援」宣言(2014)に立脚しつつ、GRC参加者はキャリアにおける様々な段階において研究者を引きつけ、つなぎとめるため、教育・訓練・キャリア形成に関する持続可能な様々な支援方策の提供を保証すべきである。GRC参加者は教育・研究関係者との適切な連携関係構築に努めるべきである。

能力開発に向けた具体的な行動
GRC参加者は、研究・教育の能力強化を目的とした一連の自発的活動に、国レベル、地域レベル、グローバルレベルで取り組むことも考えられる。具体的な活動には以下のものが含まれうる:

1.研究支援機関によるシンポジウム: 複数の研究評議会が主催する具体的な研究管理の課題に関するワークショップはグッドプラクティスの共有を促し、キャリア初期段階の研究者を育成し、世界の発展途上の研究支援機関を支援することになる。
2.職員交流プログラム: 研究評議会に雇用されているプログラムマネージャーや実施部門スタッフーのキャパシティ向上を助けるための、短期間の職務訪問や職務訓練を行うことによって、様々なモデルや実務に触れる機会を助長できる。
3.組織的カップリング: 研究マネジメントに関する組織的な能力構築のための方策をより持続的な形で実施するため、先進的研究支援機関と発展途上の研究支援機関の連携を模索すべき。
4.コミュニケーション研究: 研究が能力構築に与える改革の力を積極的に宣伝するため、研究支援機関は前向きな研究成果を一般市民や政策決定者に対して効果的に伝達していくためのプラットフォームを開発し、共有することができる。

第4回グローバルリサーチカウンシル年次会合
安倍内閣総理大臣ビデオメッセージ

 内閣総理大臣 安倍晋三です。

 御列席の皆様。ようこそ日本へ。心より歓迎いたします。

 本会議の主催者である、日本学術振興会の安西理事長、また、共催者である南アフリカ国立研究財団のビバリー・ダモンスさんを始め、皆様が各国の学術振興機関のトップとして、力を尽くされていることに、心から敬意を表します。

 世界各国の機関が、共通の課題について対話し、認識を共有することは、科学の発展にとって大きな意義があると思います。

 私は、総理就任以来、イノベーションを成長戦略の中核に据えてきました。これは、日本の経済成長のために不可欠だからというだけではありません。イノベーションは、世界各地で、社会を変え、様々な困難を克服し、人々に幸せをもたらす、大きな力を持っているからです。

 イノベーションを生み出すもの。それは、研究者の自由な発想に基づく、独創的で多様な研究です。基礎段階の研究をしっかり支援し、未来へ投資していくことが重要です。

 一方、科学は、急速に進展し、ボーダーレス化しています。研究への支援も、変化していかなければなりません。

 第一に、内向き志向を改め、研究と人材のグローバル化を進めること。

 第二に、縦割り主義を改め、研究分野の融合を進めること。

 第三に、基礎研究の成果を実社会の発展に役立てること。

 これら三つの改革が必要です。

 まず隗より始めよ。日本の研究費支援について、この視点から改革を強力に進めます。

 日本発のイノベーションとして皆さんが真っ先に思い浮かべるのは、昨年、ノーベル物理学賞を受賞した青色LEDではないでしょうか。

 青色LEDは、明かりの世界に劇的な省エネをもたらしました。アフリカの電化されていない地域でも、子供たちが夜も勉強し、「未来」を手に入れられるようになります。日本発のイノベーションが、アフリカを照らす光を生んだのです。

一昨年、50か国を超えるアフリカの首脳らを、横浜にお迎えしました。昨年は、私自身、アフリカの地を訪問しました。あらゆる面で躍動感にあふれ、大きな可能性を秘めているアフリカを実感しました。科学の世界でも、これからアフリカが飛躍的に発展していくことは間違いありません。

 今後、我が国とアフリカとの科学の絆を深め、研究者の交流や、共同研究を一層加速したいと思います。
 アフリカの学術振興機関の能力開発とネットワークづくりを支援します。感染症研究について、アフリカ睡眠病やデング熱など「顧みられない熱帯病」に焦点を当てた新たな国際共同研究をスタートさせます。予防、診断、創薬、治療法の確立を目指すとともに、アフリカの優秀な若手研究者を育成します。

 もちろん、私のイノベーション政策のグローバル化は、アフリカにとどまりません。

 グローバルな連携のもとで、基礎研究と、その実社会への応用をシームレスに行い、あらゆる分野で、次から次へとイノベーションを起こし続ける。そのため、日本は、先頭に立って、研究への支援と改革を進めます。

 結びに、これから2日間、実りある議論が行われることをお祈りし、開会に当たっての私のメッセージといたします。

(日本学術振興会HPより引用)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課企画室企画係

工藤、井出
電話番号:03-5253-4111(内線4092)
メールアドレス:gakjokik@mext.go.jp