資料5-1 若手研究者の育成のための科研費改革について(論点)

1.これまでの議論の経緯

(1)「科学研究費補助金に関し当面講ずべき措置について(報告)」(平成22年7月22日科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会)

○ 本報告においては、科研費における若手研究者支援の意義等について「科研費における「若手研究」の在り方を検討するに当たっては、若手研究者が研究活動を始める段階で研究の機会を幅広く与えるために支援を行うとともに、できるだけ早い段階で、より円滑に「基盤研究」に移行していくことができるように若手研究者支援の枠組みを構築していくことが必要である。」こと、また、「科研費の「若手研究」は、若手で実績も十分ではない研究者をエンカレッジする「奨励研究」が元となっており、可能性のある若手研究者にできるだけ幅広く研究費を支援することが最も重要な役割であると考えられる。」と指摘され、その上で以下の通り議論が取りまとめられている。

(「若手研究(B)」の見直しの方向性)
1) 「若手研究(B)」については、若手研究者の研究活動を奨励する重要な研究種目として、今後とも他の研究種目よりも高い採択率を維持することが必要である。
 その際、1件当たりの配分額が減少しないよう配慮する必要がある。
 さらに今後、若手研究者のための中核的研究種目として、30%の採択率の確保に向けて、予算の拡充を進めていくべきである。
2) なお、特に、平成22年度において、「若手研究(B)」の採択率及び1件当たりの配分額が大きく低下したことは、このような「若手研究(B)」の方向性に照らし、極めて重大な問題である。この点については、早急な改善が望まれる。

(「若手研究(A)」の見直しの方向性)
3) 「若手研究(A)」については、「基盤研究」の中に位置付けるべきである。
4) その場合、「若手研究(A)」からの主な移行先と考えられる「基盤研究(B)」の中に、「私立学校・高等専門学校調整枠」と同様の優遇措置を講じる必要がある。
 優遇措置の内容としては、「基盤研究(B)」の審査において、ボーダーライン付近にある39歳以下の若手研究者による補欠採択提案又は不採択提案について、調整額を確保して、一定数を採択課題として取り上げるものとする。
 優遇措置については、「若手研究(A)」を「基盤研究」の中に位置付ける際の経過措置であり、一定の期限を設けるものとする。
5) なお、将来、「若手研究(A)」が「基盤研究」の中に位置づけられた場合には、「若手研究(B)」の名称を「若手研究」に改めることが適当である。

(「若手研究(A)」の見直しの時期)
6) 若手研究者等の間で将来の支援についての不安が広がっている状況を踏まえ、「若手研究(A)」を「基盤研究」の中に位置付ける時期については、十分にその影響を踏まえて決定すべきである。
 それまでの間は、若手研究者支援についての基本的考え方や優遇措置等について周知に努めることが必要である。

(その他)
7) 「若手研究(S)」については、基盤研究とのバランス等から様々な課題がある。また、今後も厳しい財政状況が続くとすれば再開は困難であり、引き続き新規募集を停止すべきである。

(2)「我が国の学術研究の振興と科研費改革について(第7期研究費部会における審議の報告)(中間まとめ)」(平成26年8月27日科学技術・学術審議会学術分科会)

○ 本中間まとめにおいては、一例としての研究者のキャリアパスのモデルを示しながら、科研費改革の基本的な方向性の一つとして、「優秀な研究者が、所属大学や年齢、性別などの属性にかかわりなく自らのアイディアや構想に基づいて継続的に学術研究を推進できるようにするという観点から見直し、科研費の過度な集中は避けなければならないが、科研費と科研費以外の競争的資金との関係を踏まえると、科研費における重複制限の在り方の見直し、早期終了や最終年度前年度応募の活用、出産や育児などのライフイベントに配慮した優れた研究の積極的な支援、海外大学に所属する研究者による帰国後の研究再開を円滑にするための帰国前予約採択などにより、優秀な研究者がその進展を踏まえながら継続的に研究を進めることができるようにする必要がある。」とされている。
○ 併せて、「若手研究者向けの種目を基盤研究種目に統合し、審査過程で別枠を作る」などの検討についても、提言されている。

2.若手研究者の育成に向けた科研費改革の視点

○ これらの検討の方向性を具体化しつつ、以下のような状況も踏まえ、科研費を通じた若手研究者の支援策の強化について検討することが必要である。
○ 若手研究者については、近年、研究機関における任期付きポストによる雇用の増加等が問題となり、博士号取得を目指す学生の減も指摘される中で、適切な競争を通じ安定した成長をしながら挑戦的な研究に取り組むことができる制度整備が必要であると考えられる。
○ 研究者の自由な発想に基づく研究を支援する科研費は、若手研究者の育成に極めて重要な役割を果たしている。科研費として、若手支援が最も重要となるのは、ポスドクからPIとして自立し、自らのイニシアティブに基づく研究実績を重ねていく時期であるが、基盤的経費が減る中で大学等からのセットアップ経費及び研究費は、現状として十分に配分されないことが多いと考えられる。
○ また、この時期に研究資金が途絶えることへの不安から、独立した若手研究者の方がむしろ大型研究種目への申請に消極的になっているケースがあると考えられる。
○ 39歳以下の研究者においては、「研究活動スタート支援」「若手研究」「挑戦的萌芽研究」の採択が大部分を占めるが、特に近年、「基盤研究B・C」や「挑戦的萌芽研究」のシェアが拡大傾向にある。また、その年齢の研究者層において、「若手B」の新規採択率よりも「基盤C」の新規採択率の方が高くなっており、このことからも科研費による若手研究支援の意義に適合した適切な種目の在り方について見直す必要があると考えられる。

→ 過去の議論の経緯やこのような現状の課題を踏まえ、科研費において、若手の自立と研究者としてのキャリアパスの確立を支援するためには、独立の際のスタートアップ経費や、活動基盤を確立しより発展的な研究に挑戦するための研究費支援を重点化していくことが効果的ではないか。
→ そのため、若手種目・基盤種目全体を通して、若手研究者の成長を支援し挑戦を引き出しつつ、基盤研究へ円滑に移行する仕組みの構築が必要ではないか。
→ 一方、若手研究者の健全な競争を促しつつ、安定的に研究活動に取り組み、より自らの発想を生かした研究に挑戦することを可能とするために、重複制限の在り方や研究期間の柔軟化について見直しが必要ではないか。
→ なお、このような研究費の獲得が、研究機関における若手研究者の処遇と結びつく仕組みの検討が必要ではないか。

【検討を要する課題例】
◆ 独立する若手研究者のスタートアップへの支援
◆ 若手種目・基盤種目の全体的な再構成(「若手」の支援対象範囲を含む。)
◆ 若手種目における採択率の向上
◆ 「基盤研究C」や「若手研究B」において基金化を活用し、研究者のニーズに合わせた研究期間の柔軟化
◆ 若手の挑戦を促すことに向けた重複制限の在り方の見直し
◆ 研究展開に向けた審査結果のフィードバックの在り方の検討

以上

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