学術の基本問題に関する特別委員会(第7期)(第6回) 議事録

1.日時

平成26年6月23日(月曜日)14時00分~16時00分

2.場所

文部科学省3階2特別会議室

3.議題

  1. 学術研究の推進方策に関する総合的な審議について
  2. その他

4.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾主査、小安主査代理、安西委員、甲斐委員、佐藤委員、高橋委員、柘植委員、羽入委員、平野委員、荒川委員、亀山委員、金田委員、鈴村委員、瀧澤委員、武市委員

文部科学省

小松研究振興局長、安藤振興企画課長、木村学術機関課長、合田研究助成課長、中野学術企画室室長

5.議事録

平成26年6月23日

【西尾主査】  
  ただいまより、第6回の科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会を開催いたします。御多忙のところ御参集いただきまして、まことにありがとうございました。
 まず、議題に入る前に、文部科学省において異動があったとのことですので、事務局より紹介をお願いいたします。

【中野学術企画室長】  
  6月4日付けで振興企画課長の異動がございました。前任の板倉は、内閣府日本医療研究開発機構担当室へ異動となってございます。
 後任の安藤課長でございます。

【安藤振興企画課長】  
  安藤でございます。よろしくお願いします。

【西尾主査】  
  ありがとうございます。
 それでは、議題に入りたいと思います。まず、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【中野学術企画室長】  
  お手元の議事次第に配付資料一覧として掲載をさせていただいております。資料といたしまして、1、2、3-1から3-5、それから参考資料6種類でございます。読み上げは省略させていただきますが、欠落等ございましたら、お申し付けいただければと思います。
 また、ほかに、机上ファイルとして、グレーの過去の委員会の配付資料のファイル、それから、参考資料6の下にありますが、机上資料といたしまして、「科学技術・学術審議会総会における委員意見」という2枚ほどの資料を置かせていただいています。
 また、その更に下でございますが、本日の資料1で、JST・CRDS有本副センター長より御発表いただく資料の参考資料といたしまして、参考資料1から6まで6点ございますので、こちらにつきましても欠落等ございましたら、お申し付けを頂ければと思います。
 以上でございます。

【西尾主査】  
  資料の件、よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。
 それでは、学術研究の推進方策に関する総合的な審議に移りたいと思います。まず、中間報告につきましては、5月26日の学術分科会において取りまとめられ、6月3日の総会にて平野分科会長より御報告がなされました。改めて委員の皆様にお礼申し上げます。
 総会での御意見等については、本日のスケジュールの都合上、最後に御紹介をさせていただきます。委員の皆様には、今後、最終報告に向けて引き続き御協力をお願いいたします。
 それでは、本日は前回の学術分科会での御意見を踏まえ、諸外国における学術研究をめぐる課題、動向等の共通理解をした上で、議論を行いたいと思います。
 初めに、これについて御知見の深いお二人から御発表を頂きます。本日は、JST・CRDS(科学技術振興機構研究開発戦略センター)より、有本副センター長に御出席いただいております。御多忙の中、御出席いただきまして、まことにありがとうございます。
 まず、有本副センター長より、諸外国における学術研究をめぐる課題、動向等について御説明いただき、その後、引き続きまして、安西委員より御説明を頂きます。
 それでは早速でございますけれども、有本副センター長より御説明をお願いいたします。

【有本副センター長】  
  今日はこういう機会を頂きまして、どうもありがとうございます。
 私の表題は、お手元の資料1にありますように、「学術研究を巡る各国の動向について」です。元より全体での情報をつかんでいるわけではありません、断片的に幾つかの視点になろうかと思いますけれども、お許しいただきたいと思います。
 今回、この委員会の中間報告を私も読ませていただきまして、第5期科学技術基本計画に向けて、あるいは国立大学の次の中期目標に向けて、非常にタイムリーで大事なメッセージが出ているんじゃないかというふうに思ってございます。これをどうやって具体化していくかという段階に来ているんじゃないかというふうに思っています。
 それでは、お手元の資料の1ページ目の下でございます。今日私のお話は、今年から来年にかけてどういう大事な時期に来ているのかということを申し上げます。
 それから、最初に私に話してほしいという要請を受けましたときに、現在の理研の小保方問題を含めて、海外にはどういう関連の動きがあるかということで、少しそれを、先生方はよく御存じの方多いと思いますけれども、まとめてみました。
 それから3番目が、科学の側(がわ)が早急に、自立的に研究システムの改革をする必要がある。そうしないと、時間をかけていると政治が介入しやすい状況になっているということを海外の事例で申し上げたいと思います。
 4番目最後ですが、今、あらゆる意味で大きな歴史的な転換期に来ているんじゃないか。その辺りについて言及したいと思います。
 1枚お開けいただきまして、裏のページでございます。今年から来年にかけてどういう時期か。科学技術政策の面のバイアスが強うございますが、まず、科学技術基本法が1995年にできまして、20年目を迎える。それから、国立大学が法人化をして10年。学術会議が新しい制度になって10年。よく議論があると思いますけれども、「サイエンス・イン・ソサエティー、サイエンス・フォー・ソサエティー」というユネスコと国際学術連合会議の宣言(ブタペスト宣言)が出てから15年。
 それから、イノベーションというものを、企業戦略あるいは公共政策において、世界中に大きな激震を与え、影響を与えつづけている、アメリカ競争力会議のパルミサーノ・レポートが出てから10年ということです。総合科学技術会議も名前が変わった。この1年というものが、第5期科学技術計画基本計画の準備に向けて非常に大事な時期にあるという時代認識を書かせていただきました。
 次の3枚は、小保方問題関連の海外動向です。1つ目が、Nature誌の論文です。全文は机上配付の参考資料1にございます。詳細は御説明申し上げませんが、専門分野の方は御存じだと思います。NIH、例のヒトゲノム・プロジェクトのリーダーであったコリンズが今、所長ですけれども、NIHが生命科学の実験研究というもののデータの再現性が非常に悪いということで、今年1月、強いメッセージを『ネイチャー』に出しまして、関係の制度改革をしようということで動いてございます。
 この6月初めには、トップのサイエンスジャーナルの、『ネイチャー』『サイエンス』あるいは『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』とかの編集長を集めて、ジャーナルの側もきちっとこういう事態打開のために動いてほしいという会議をやってございます。7月の初めには、今度は医薬産業界を集めて対等会議を開くということで、米国は本気で取り組んでいるという状況ではないかと思います。
 それから、次のページが、今年4月に出たアメリカ科学アカデミーの紀要PNASの論文です。ここのトップオーサーはブルース・アルバーツ、アメリカ科学アカデミーの総裁あるいは『サイエンス』の編集長をされた人物です。日本にもよく来てくれています。ラストオーサーがハロルド・バーマス。NIHの長官、ノーベル賞を受賞者、現在はまたNIHに戻って国立ガン研究所の所長をやっています。こういうビッグネームが、アメリカのバイオサイエンスが今、歴史的危機的な状況にあるということで、人材養成を含めて、非常に詳細な分析と、具体的対策について強いメッセージを出しています。これは参考2に全文で出してございます。
 それから、参考3が、これはつい最近、5月初めに『サイエンス』の社説で、アルバーツの後任のマクナットという女性の編集長、彼女はオバマ政権でアメリカの地質調査所長で内務長官のチーフサイエンティストになった人物でありますが、彼女が「Think Outside the Lab」というタイトルで、特にバイオサイエンス分野を中心としたポスドクあるいは学生たちが、直線的な研究者としてのキャリアを目指すだけでなくて、多様なキャリアを目指すべきであるということを強く述べております。言うだけでなくて、彼女はいろいろ具体的に行動を起こしている。その内容にも言及しております。
 次のページに移りまして、4ページの上です。これは少し前2年くらい前だったと思います、左側が『サイエンス』、右側が『ネイチャー』の社説、ほとんど同時期になります。
 ちょうどこの時期は例の2008年のリーマンショックの後を受けて、各国の経済財政が非常に厳しくなって、研究開発経費が削減されるという状況の中で、2つのトップジャーナルの社説が、左側は「サイエンス」「Rethinking the science system」、右側『ネイチャー』の方は「Tough choices」という強いシグナルを出した。誰のTough choicesかというと、公的研究資金の効果的な使い方について早急にサイエンスのコミュニティーが自立的に改革する必要がある。時間をかけて議論ばかりしていると、政治的圧力が掛かるということを強く警戒しているものです。
 この2つの社説につきましては、平野先生が会長の研究評価部会で作られた新しい研究評価指針、大綱でも引用されております。
 その下、これは英語で書いてございます。現在、世界の経済社会システム、科学技術あるいは大学制度体制が大きな転換期を迎えている。左側にいろいろ書いております、ワールドサイエンスカンファレンス、OECD、ワールドサイエンスフォーラム、AAASの年次総会、これらはグローバルなアリーナになってございます。それから、少し科学とは異なりますが、世界経済フォーラム、ダボス会議。これらを含めて、あらゆるところで今、科学技術について、ポリシーも具体的な活動も、体制も転換期にあるということを示しているものでございます。
 次のページ。同じような文脈で、サイエンスシステムの再検討ということでございます。『サイエンス』『ネイチャー』の社説はすでに述べました。あと申しますけれども、インターアカデミーカウンシルのレポート。ナショナルアカデミー・オブ・サイエンシーズの国連のような世界全体の集合体でございます。ここから非常に大事なレポートが、「Responsible Conduct in the Global Research Enterprise」というタイトルで、2012年秋に発表されています。
 次にEUの“ホライゾン2020”では、特に社会科学というものに対する大きな期待と同時に、社会科学の方法もかなり変えないといけない、それを支援する政策を用意しないといけないという強いメッセージが出ています。 こういう変革に当たって、Rebuilding science advice system and scientific integrityということで、科学と政治あるいは科学と行政との間の行動規範、あるいは倫理という基盤となる課題が常に語られているということを示しています。
 2番目が、あと安西先生からお話があると思いますけれども、グローバルリサーカウンシル。これは世界各国のファンディング・エージェンシーのトップの集まりでございます。それからOECDでも同じような議論がされています。また、国連事務総長のサイエンスアドバイザリーボードというものが、昨年10月に、設置されました。
 今年8月末に、グローバルカンファレンス・フォー・チーフサイエンス・アドバイザーズということで、ニュージーランドのオークランドでICSUの総会に合わせて、多分50か国以上になるだろうと思います、各国首脳の科学顧問たちが集まって、科学と社会、科学と政治政策との関係性、あるいは科学の健全性の維持などについて世界規模の会議が開かれようとしています。
 ちなみに、現在コペンハーゲンでユーロサイエンス・オープンフォーラムが開かれています。科学と社会、科学コミュニケーション行事だけでなく、世界中から科学顧問レベルの人が集まります。EU諸国のチーフサイエンスアドバイザーの初めての会議も開かれるということです。率直に言うと、日本は世界のこういう急速な動きに対して非常に感度が低い。あるいは参加しても個人レベルで、組織的系統的な情報共有と対応がされていないというところが、私の個人的な危機感がございます。
 その下、IACのレポート。参考6にフルペーパーを配布しております。「Responsible conduct in the global research enterprise」という非常に刺激的なタイトルでございます。さっき申しましたインターアカデミーカウンシルが30ページぐらいのレポートを一昨年まとめてございます。
 ポイントは、これだけグローバライズした中で途上国がどんどん研究費を伸ばす、あるいは研究者を増やす、いろんな政治体制あるいは宗教も異なる国々が科学に急速に参画してくる。そういう一種の過渡期にある。それから、サイエンス自身が非常にコマーシャライゼーションされている。こういう時期に当たって、世界標準的な科学の方法、レビューシステム、学会の在り方、ジャーナルの在り方、大学の在り方、マネジメント、ファンディング、こういうものについて分かりやすく、特に若い研究者たちに分かりやすくまとめている。サイエンスとはこういうものだということを分かる教科書風のものを作ろうというのが趣旨だったと思います。こういうものは是非、大学等々で教育訓練の素材にすべきじゃないかというふうに思っております。
 次のページ、ワールドサイエンスフォーラムに、昨年11月にリオで開催されました、非常に強いメッセージがある。サイエンスの過渡期の中をどう対応していくかということ。下側は社会科学というものの貢献。イノベーションということになれば当然、社会というものがスコープに入りますので、現実のニーズ、あるいは期待、問題解決というものに社会科学がどう自然科学とコンビネーションを組みながら対応していくかということで、最近インターナショナル・ソーシャルサイエンス・カウンシルという組織の存在感が強くなっていると見てございます。
 次のページの7ページの上。さっき申しました世界的に国際組織が動いているんですけれども、これがどうもまだ世界的にシステマティックに連携が取れていないということであります。右上の方にハイレベルグループということで、さっき申しましたニュージーランドの会議がございます。右の方は伝統的国連、ユネスコ、OECD、こういうものの動き。それから左下が、古くからのアカデミーの動き。それから右の斜めのところが、これは近年活発化しているインターナショナル・フォーラムということで、STSフォーラム、あるいはヨーロッパのオープンフォーラム、あるいはワールドサイエンスフォーラム、それからAAASのグローバルなフォーラムというもの。それから左上がグローバルリサーチカウンシルですね。こういうものが様々に動いている。これらが多分これからはネットワーク化していくことが大事になると考えております。システム・オブ・システムズです。
 7ページの下は、科学技術体制のこの200年の世界史概観です。グローバリゼーションが始まって20年の中で、どう見るか。もう1つは、過去2世紀、近代大学制度がベルリン大学で始まって以来、ピアレビューシステムとかジャーナル、あるいは学会というものがいろいろできて科学が社会制度化して以来、これぐらいの大きなタイムフレームの下で今のシステムの在り方を考える。変えるものは変えるという時期に来ているんじゃないかというふうに考えております。
 あとは議論の中で御紹介をしたいと思います。長くなって申し訳ありません。

【西尾主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、安西先生より御説明をお願いいたします。

【安西委員】
 安西でございます。15分ぐらいという時間を頂いております。お手元の資料2、「学術研究をめぐる国際的な動向と日本の状況」ということについて申し上げます。
 今、有本さんの言われたことは全くそのとおりで、この委員会のまとめに国力の源ということを申しましたのは、やっぱり今、有本先生が言われたような感覚をかなり強く私も持っているからで、世界の動きというのは非常に緊迫感がある。サイエンスが一体どうなっていくのか。また、それをサイエンティストが自分たちでスピード感を持って新しい時代を作っていくのにどうしたらいいかということがかなり密に語られるようになり、コミュニケーションも取れるようになっている中で、日本の声がほとんど聞かれないということについて、かなり危機感と違和感を持っているということは申し上げておきたいと思います。
 私のお話は、1つは、先ほどありましたそういう世界のリーダーたちの会合が随分行われるようになっている、かなり密に行われるようになっている中での1つの例として、グローバルリサーチカウンシルのことを申し上げます。
 ページを開けていただいて、右下に2と書いてありますけれども、グローバルリサーチカウンシルというのは、2012年5月にNSFの提唱でできた世界のリサーチファンディングエージェンシーのヘッドの会合でございます。
 目的は、そこにありますように学術研究の振興における共通の課題への対応、ベストプラクティスの共有・対話の促進、共通原則の確認等々書いてありますけれども、これまでの成果を申し上げた方がいいと思いますが、最初のワシントンDCでの会合では、メリット・レビューの原則に関する宣言を採択いたしまして、昨年第2回のベルリンの会合でリサーチインテグリティーの原則に関する宣言、それからオープンアクセス行動計画を採択しております。このときにRIについてはJSPS、それからオープンアクセスについてはJSTがいろいろバックアップをしてきたという経緯もあります。
 それから、今年、この間5月に北京で第3回が開かれまして、このときにはシェーピングフューチャーという題で人材育成の共通原則・行動に関する宣言を採択しておりまして、第4回、来年5月26日から28日まで年次会合4回目を日本・東京で開催することになっています。共催として南アフリカのナショナルリサーチファウンデーション、これは発展途上国を共催として一緒にやらなければいけないという、そういうルールになっていまして、北京では北京とカナダ、ベルリンではドイツとブラジルが共催の形で行いました。来年はアフリカ諸国をリクルートしたいということがございまして、南アフリカとしております。これも実際に応募して、誘致をしかけたのは3つのペア、国というのでしょうか、ございまして、その中で日本と南アフリカに決まったという経緯もあります。
 グローバルリサーチカウンシルの参加国はその次に書いてあるような次第で、延べ50か国、61機関、5国際機関が参加しておりまして、いろいろ写真を載せておりますけれども、なかなかこれ緊迫した会合でございます。実際に決まることは世界中のことなので、発展途上国といわゆる主要国との間のいろいろな議論もございまして、なかなか大変なのでありますけれども、こういう中で世界のサイエンスについての支援、そういった動きが行われているということは是非知っていただきたいなというふうに思っております。
 4ページに行きまして、そういう中で、この間の北京の会合では、例えばですけれども、学術振興機関長の声として、やはり基礎研究をきちんとやらなければいけないのではないかということは、アメリカあるいはドイツ、ほかの国もそうですけれども、イギリスもそうですけれども、主要国はこぞってそういう状況にある。今、なし崩しで何が起こっているのか分からないような、そういう状況に世界の主要国もある意味悩まされつつありまして、そういう中で、そこにありますように、研究資金配分機関もオートノミーとかスタビリティーがやはり一方では大事。もちろんイノベーションに向けてのモーメントが非常に大事なのでありますけれども、一方でスタビリティーとオートノミーが大事だということでございます。
 それから、2番目は若手研究人材の育成、3番目は国際共同研究ネットワークを作っていくべきだ。これは基礎研究、学術研究になればなるほど、国際共同研究のネットワークというのはむしろ作りやすいということがございまして、我が国のある意味での学術安全保障といいましょうか、そういう意味合いからいっても、あるいは本当のイノベーションが進むという意味からいっても、国際的な共同研究の場というのは更に広く深くしていかなければいけないということであります。
 その次が、5ページがGRC第4回年次会合のことで、そこに書いてあるとおりで、来年はResearch Funding for Scientific Breakthrough、赤で書いてありますけれども、サイエンティフィック・ブレークスルーについてのファンディングをどういうふうにすべきかということ。それから、Building Research and Education Capacity、これは人材育成です。
 それで、主催・共催はそこに書いてあるとおり、協力機関としてJST、それから南アフリカの科学技術省に御協力いただくということになっております。
 今のGRCというのは1つの例でありますけれども、来年の5月に開かれますので、それに向けてJSTにも御協力いただいて、文部科学省とも一緒に準備を進めていきたいというふうに考えています。
 それでは、6ページに行きまして、科研費のことで、やはり学術研究、基礎研究の土台になっているのは科研費である、そういう面から多少のお話をさせていただきます。
 まず、科研費のみならず、世界の学術研究環境の変化の中で、我が国の状況はどうかといいますと、トップ10%、1%でもいいのですけれども、トップ10%補正論文数のシェアの変化、これを見ますと、大体10年間でもってやはり日本の落ち込みが相対的にかなり大きい。日本は赤ですけれども、上の方はアメリカが抜けているので上に書いてありますけれども、やはり中国の躍進というのが非常に大きく、中国はトップ10%の論文も躍進が甚だしいということは申し上げておきたい。
 そういう中で、その下の次の7ページは、トップ10%補正論文数のシェアの変化は、日本はかなり落ち込んでいる。☆印と※印がありますけれども、※印で見るべきであります。※印というのは人件費のフルタイム換算をしております。OECD諸国の数字はこれで作られておりますので、それで御覧いただければと思いますが、そうしますと、大部分の研究費は日本に限って9%、10年間で減、米国、ドイツ、フランス、イギリスは、そこにありますように、ほとんど50%~100%増ということになっています。
 日本の場合、大体ざっくり言って2兆円ちょっとでありますけれども、それが9%落ち込んでいるということが、よく科研費がターゲットになることはあるのでありますけれども、これは科研費を擁護するわけでは全くございませんで、この9%の落ち込み、それに対するアメリカ、ドイツ、フランス、イギリスの上昇、中国、韓国はもちろんでありますけれども、ここのところがやはりトップ10%補正論文数のシェアの変化が、それでも落ちているんですね、アメリカ、イギリス等々は。それでもそれを食い止めている、そういう状況にあるのだということを御理解いただきたい。
 日本の大部分の研究費、1年で約2兆円なんですけれども、2兆円のうち、科研費の占めている割合は大体2,000億余りでございまして、大体10%程度、10%ちょっとだと思います。その10%ちょっとの科研費について、その成果がどうだからどうだということを言うのは、やはり事実としては違うのではないかというふうに思っております。
 次の8ページでありますけれども、やはり大学部門の研究費がマクロに言って減っているということ、それから研究者数もマクロに言って減っているということ。特に教員が研究に割く時間が減っている。これはNISTEPの調査から取っているのですけれども、そういったこと全体が大学の基礎研究に影響を大きく与えているということでありまして、9ページにありますように、科研費の助成額はもちろん多少は上がっているのでありますけれども、NSFそれからドイツのDFG、イギリスのリサーチカウンシル等々の予算の伸びに比べますと、圧倒的に小さい。こういう状況がございます。
 9ページの右下の箱にありますけれども、こういう状況がございまして、ERCはどんどん増えている、こういう形になっています。
 10ページにまいりまして、NISTEPの調査、それから学振で独自にエルゼビアのScopusを用いた分析をやっておりますけれども、大体似たような結果になっていますが、日本全体のいわゆる上位10%論文の割合というのは大体8%~10%、これに対して科研費の成果について限ってみると、上位10%の論文の割合というのは大体10%~15%、こういう状況であるのに対して、科研費以外の論文についてはそれよりかなり低い、こういう状況がございます。
 これはイギリスのメディカルリサーチカウンシルですね、これはウエブ・オブ・サイエンスを使って調査をしておりますけれども、ほぼ似たようなことが出ていまして、つまり、安定的に供給されている研究費、これを頼りにしている大学の研究者というのは多いし、それによって成果も出ている、こういうことを是非申し上げておきたいと思います。
 11ページに行きまして、科研費による論文の優位性について科研費の種目別に見てみますと、そこにありますように、横に点線が引いてありますけど、これは科研費以外の論文のトップ10%、トップ1%の論文の比率でございまして、それに比べて、基盤Sとか基盤Aとか、それはもちろんですけれども、基盤Cあるいは若手についても、科研費以外の論文の上位論文比率よりも高く来ているということは是非指摘させていただければというふうに思います。
 こういったことは、とにかく科研費の予算が削減されている状況というのは申し上げますけれども、そういう中でこれをどういうふうに見ていったらいいのかということと、イノベーションに対する研究開発費の投入と、それから学術研究、基礎研究への投入のバランス、これをおろそかにすると、やはり国力の源が陰ってくるといいますか、崩壊してくるということ。これはNSFあるいはDFGあるいはUKRC等々のヘッドと話す限り、皆さん口をそろえてそういうふうに言っている状況がございます。
 次の12ページでありますけれども、これはNISTEPの定点調査の結果ですが、科研費についてはやはり非常に高い評価を頂いておりまして、特に研究費の使いやすさ、あるいは基金化の影響ですね。基金化は、これは聞き及ぶところですけれども、科研費を受けている件数の約70%が利用していると、こういうふうに言われております。
 そういう状況の中で、基金化を進めるということも大事でありますし、例えば研究時間がすごく少なくなってしまって、みんな忙しくて困っているというのは、科研費が件数が多いとか、そういうこととは全く関係がないということであります。
 13ページの科研費の最近の状況、予算額と助成額の推移について申し上げますと、特に平成26年度になって、その棒グラフにありますように、予算額、青ですけれども、右側の助成額の方が高くなっている。予算額より助成額の方が上がっているということは、これはどういうことかといいますと、基金が入っているので、予算額から基金に入れる、それから基金から出す、それを出し入れをして、助成額というのはJSPSを経由して助成する総額でございますけれども、それが高くなっているということは、結局、基金を削って、それで平成26年度何とかやり繰りしている、こういうことを意味しております。
 実質的に約50億円の赤字と書いてありますけれども、予算額の中から実際の審査費用とかを削除して、これもNSFの審査費用のパーセンテージは5%ぐらい取っていると思いますが、JSPSは1%行くかぐらいだと思いますので、それを取り除いてみると、実際には約50億円の赤字、既に今年度の予算も実際実行されていますけれども、そういう状況にある。
 14ページは、新規採択課題の配分総額を見ますと、新規採択課題についてはずっとこの3年、減になっている。継続の課題についてそれなりに予算を充てておりますので、結局、新規採択課題の配分額を削らざるを得ない。そういう状況にあります。それが14ページ。
 15ページは科研費の最近の状況でございますが、そこにありますように、充足率を御覧いただきますと、充足率、15ページの一番下に赤で書いてありますが、23年度から26年度について10%減になっている。今年度の充足率は66%でやっておりまして、これを実際応募した方から見て、どう思われるのかというのは非常に危惧しております。
 これは結局どういうことかというと、採択率を何とか28%ぐらいにキープしている。採択率を下げると、これまた大きな問題が起こりまして、特にファーストその他も終わり、いろいろな大型のそういうことが終わったことの影響もあって、科研費の応募件数が極めて増えているのですね。そういう中で採択率を何とか保って、多くの研究者にしっかりしたミニマムレベルの研究費を、それを安定的に供給するということをやりますと、充足率が66%にならざるを得ない。66%でもって一体研究ができるのかという、そういう論もあるかというふうに思います。
 一番最後の16ページは、そこにありますように、今申し上げましたように、応募件数は基盤B、基盤C、基盤A、萌芽研究もですけれども、がくっと今年度になって増えております。今年度応募分が増えております。若手研究Bは減っておりますけれども、これは若手研究Bへの応募条件として、2年間しか応募できないというふうにしました結果で、ほかへ流れている。基盤C等へ流れているということでございます。
 科研費について往々にして誤解がございまして、そのことについては是非申し上げておきたいのですけれども、科研費の利用状況、またそれの供給状況について非常に危機的な、利用状況というのは非常によく使われると思いますし、また、供給の状況については非常に危機的な状況にあるということを申し上げたいと思います。
 その中で、特に国際共同研究、それから融合研究といいましょうか、これからの領域、それから特に若手のPIを、それを伸ばしていくような、そういうことというのは科研費についてもやっていかなければいけないのではないかというふうに考えておりまして、科研費のそういった構造をこれから新しい時代に向けて作っていくということももちろん大事なことで、そういうことについても検討している状況にございます。
 以上にさせていただきます。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。有本先生、安西先生には短い時間で申し訳なかったのですけれども、本当にインパクトのある、また、我が国の学術研究が国際的な観点からも危機的な状況にあるということをお示しいただき、誠に有益なお話を頂きましたことに対しまして、改めてお礼申し上げます。
 それでは、議論に入りたいと思います。御発表を頂きましたことに対しての御質問、御意見等も含めまして、御自由に御発言を頂ければと思います。有本先生におかれましては、この後、御予定がございまして、午後3時頃に退席をなされるということで、その後につきましては、本日、佐野フェローが同席いただいておりますので、引き続きまして御対応いただけるということになっております。
 それでは、いろいろな観点からの御意見ございませんでしょうか。どうぞ。

【小安主査代理】  
  有本先生にお伺いしたいのですが、たしかアメリカのPNASの記事で言われていたことは、アメリカはこれまでのように一直線に伸びていく時代ではないという状況にあって、予算の伸びは止まっているにもかかわらず、研究全体が拡張しているという表現をされていたと思います。アメリカの中では、大学は、このように予算が上げ止まって、なおかつまだ研究領域が拡張しているという状況をどう捉えて、どう対応しようとしているのかに関して、何か情報があったら教えていただきたいのですが。

【有本副センター長】 
 専門の先生の方がよく御存じじゃないかと思うんですけれども、やっぱり今、過渡期じゃないかと私は思っております。急激に研究費のリソースが相対的に縮小しているという中で、人材養成、あるいはファカルティーのメンバーの入れ替えとか、こういうものは急激には対応できない。ただし、PNASのようにこれだけの強いメッセージが出ていて、NIH所長コリンズなんかも動いていて、政府全体で危機感を共有していますから、やっぱりアメリカはリアルに動くと思います。
 何度かアメリカは危機があった、大きな危機の中でなかなかしんどいところがありますけれども、上手にアジャストしながら今までは来た。今まではあれだけ強い物理とか化学の人材をバイオの方にシフトし、政府の反省も大学の戦略もそうしてきた。それを今度はリバウンドで、フィジカルサイエンス・エンジニアリングへ戻すというところは確実に起こるんじゃないかと考えています。日本は科学の変容と時代のニーズの下でそこら辺が上手にできるかどうか。非常に縦割りで固い、大学のガバナンスもそうですし、ファンディングの在り方もそうだというところがある。
 ちょっとお答えになっていないかも分かりませんけれども。

【小安主査代理】  
  大学間でそれを共通に危機感を持って取り組もうという動きがあるのでしょうか。例えば日本ですと国大協みたいな動きが考えられますが、アメリカの場合にはほとんど私学で動いている中で、大学間のそういう協調的な動きというのはあるのでしょうか。

【有本副センター長】  
  私は大学だけでは動いていないんじゃないかと思います。ファンディングエージェンシー、アカデミー、学会と組みになって動くということじゃないかと思います。

【西尾主査】  
  ほかに御意見ございますでしょうか。

【柘植委員】  
  有本さんのお話を伺って、2点、私は感想を持ってお話しします。これは自分自身の課題でもあるのですけれども、これを日本の現状、日本学術会議を頂点とした学術界の課題として転写したときに、ここでウォーニングされているものの日本の学術界の課題と、更にまだここにはウォーニングされていないが、実は日本が持っている課題、例えば、小保方さんのケースで提示されたものは、別な課題もあるのではないかと自問しているのです。
 私たちの課題で、別なものというのは、私の仮説は、ここに出されていないのは、“エデュケーション”という言葉が一言も出ていないんですね。探したら1つだけあったんですけれども、サイエンステクノロジーのリシェーピング、これは完全に出来上がった科学者が当然やるべきことのリシェーピングに対する時期だよと、こうウォーニングしていて、これは日本学術会議としても当然やらねばならない話であります。この委員会も当然受け止めならないわけですけれども、もう一つ、日本が欠けているのはエデュケーションの面です。私の判断は、小保方さんの問題はむしろ大学院教育が十分されていないまま育ったのが原因だと思っております。ちょっと言い方は悪いかもしれないけど。やっぱり大学院教育から科学者の育て方というのをきちんとしていれば、もうちょっと事前防止ができたと考えています。
 そうなってくると、有本さんのウォーニングされているものと別なものも、やはり我々は今回の提言の中に盛り込んでいかないとだめなんじゃないか、そういうふうに読めたわけです。
 ありがたいことに、安西先生の話で、2015年の中のテーマにBuilding Research and Education Capacityと、エデュケーションを入れていただきました。エデュケーションを入れていただいたのは、本当ありがたくて、今の視点を受けて中間報告にもそういう視点で入れているので、是非今後はそれを具体化、さっきインプリメンテーションと安西さんがおっしゃったように、そういう視点がないといけないなと思って有本さんの資料を拝見いたしました。

【西尾主査】  
  有本先生、いかがですか。

【有本副センター長】  
  おっしゃるとおりだと思います。今度の中間報告で非常に印象深かったのは、はっきり学術政策と大学政策と科学技術政策は連携するということが書き込まれている。これは大変大事で、自戒を込めて、これまでばらばらで、せっかく2001年に文部科学省として統合したのはそれをやろうとしたのが目的だったはずなんですが、十数年かかってもなかなかうまくいっていない。それが現場のいろんな研究あるいは学生たちの教育まで悪い影響を与えているということが明らかになりつつある。
 そういう意味で、今、柘植先生のおっしゃったことは非常に大事だと思います。もう1つ、我々JST研究開発戦略センターのような公的シンクタンク機能の組織がばらばら最近でき始めているわけです。教育政策のシンクタンクもある。これらがばらばら動いている。これらのシンクタンク活動も系統的に体系的にやるような仕組みを作らないといけない。ネットワークですね。

【西尾主査】  
  今おっしゃられたことは非常に重要なことだと思います。安西先生、何かありますか。

【安西委員】  
  有本先生は最初から言われておられますけど、とにかくやはり、ここにおられる皆様は釈迦に説法だとは思いますが、かなり緊迫感を持って世界のネットワークに参加もし、また我々もコミュニケーションを取っていかないといけない、そういう時代に来ていることは本当にそのとおりだと思います。
 今の大学院教育の問題について、来年のGRCの東京会合で2番目のテーマとしてBuilding Research and Education Capacityというのを挙げておりますけれども、これの1つの理由というのは、発展途上国が非常に関心を持っておりまして、大学院生、若手研究者をどうすれば育てられるのかということはむしろ日本に聞きたいという、そういうこともあり、南アフリカは極めて熱心にこのテーマをやりたいという、そういう状況があるのですね。
 やはり日本としてはそういうことを助けながら、これからの世界のネットワークに関与して、我々がリードしていくという、そういう方向も持っていかなきゃいけないのではないかというふうに思っています。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。
 ほかに御意見等ございませんでしょうか。いかがですか。いろんな観点から御意見を頂ければと思いますけれども。

【安西委員】  
  これは質問というか、コメントで申し訳ないのですけど、今、気が付いたので。有本先生のお話は本当にすばらしいなと思うのですけど、話し残された資料、有本さんの資料の右下9ページのところでもって、さっきお話ししたのと違うので、一応申し上げておきますけれども、「科研費の増額・申請件数の膨大化」と書いてあって、「競争の過熱」と「研究時間の圧迫」という方に矢印がかなりはっきり出ているのでありますけれども、これは申し訳ありませんが、かなり誤解があるというふうに思います。そういったところは是非冷静にお考えいただきたいなというふうに思う次第でございます。

【有本副センター長】  
  修正致します。この図は仮説的に書いている。問題の構造を俯瞰(ふかん)的に見た上で、最後は政治家とも議論できるようにしないといけない。問題の構造を3層に分けて、一番上がファンディングに係る問題点、2番目が研究現場における問題点、それからアウトプット、アウトカムの問題点が第3層で書いています。今から第5期科学技術基本計画に向けてファンディングの制度改革に本格的に取り組む必要がある。その時、ピースミル的に対応すると必ずおかしくなるものですから、全体を変えていかないといけない。
 競争的資金制度だけじゃなくて、基盤経費も合わせてです。これもパッケージの上で議論、その上にちょっとデータを集めて、9ページの上はそういうものを書いてございます。

【安西委員】  
  マクロに、さっき申し上げたように、政府の研究開発調査の全体の構造をどうしていくのかということは非常に大事な問題だと私も認識しております。やはりバランスが非常に大事だというふうに思います。
 指摘させていただいたのは、この図が一人歩きして誤解を招くといけないというふうに思いますので、そのことで申し上げましたので、よろしくお願いします。

【有本副センター長】  
  ついでに申し上げておきますと、これは分かりやすく模式的に書いたものですから誤解が生じる可能性があるので、8ページの方の下なんですけれども、4つの図を書いてございますけれども、これはちょうど競争的資金を倍増しようということで2001年の総合科学技術会議ができたときに、第2期基本計画で、そのときのプロットがこれです。
 それから、要所要所の第3期、第4期というところに合わせて、科研費、JSTの戦略創造、それ以外のいろんな制度がどういうぐあいに推移したかということを分り易くビジュアル化してみたものです。細かいところはまだ十分精査をしていませんけれども、明らかに短期的ないろんな制度がばらばらと断続的に実施され、これらが混乱を招いている。こういうものと、合わせた上で関係者と議論していくことが出発点かなと思っております。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。安西先生としては、これが一人歩きするということが、先ほど何回か御説明の中でも力説されておられた観点からも御留意いただきたいということでございます。どうかよろしくお願いいたします。

【有本副センター長】  
  はい。

【安西委員】  
  ばらばらというのはおっしゃるとおりで、特に学術研究、基礎研究をやっている研究者が一番困惑しているところでもありますが、これはそのことだけじゃなくて、日本の研究開発、特に政府が関わる研究開発全体のパフォーマンスに実はかなりネガティブな影響を与えているのではないかと思うので、そこの分析を是非お願いできればと思うんですね。
 むしろCRDSにお願いできればというふうにも思うぐらいでありますが、ちょっと申し上げたかったのは、今おっしゃった図の中でNEDOが減っているように見えるんですけど、ここで言わなくてもいいことかもしれませんが、だからといって、その分がほかの基礎研究に行ったとか、そういうことでは全くありませんので、そういう意味でも御注意いただきたいなと。そういうことでお分かりいただけますでしょうか。

【有本副センター長】  
  いや、分かります。これをデータを集め作るのは本当大変です。本当は総合科学技術会議がこういう権能と能力を持たないといけないと思います。

【西尾主査】  
  有本先生おっしゃいましたように、幾つかの研究資金がばらばらと出てくるような状況において、それらの使用に関して政治の圧力がかかる前に、科学の側(がわ)が研究資金の効率的使用について、自律的に改革する必要である、ということは重要な観点だと改めて思いました。
せっかくの機会でございますので、どうぞ。

【高橋委員】  
  こういう問題を議論するときに、俯瞰(ふかん)図とか予算の経緯とかいうデータに基づいた資料は確かに大変有り難いのですが、一方で、現場にいて一番感じるのは、日々現場を支えている、私たちの場合では実験科学なのですが、それを支えている本当の現場の人間の声がなかなかこういうところに届かないという問題に、いつも私はフラストレーションを感じています。
 この点は、この会議で何回か申し上げましたが、たとえ私が現場を代表しようと頑張ってみたところで、さすがに限界もあるわけです。つまり申し上げたいことは、こういう大きなデータを取るために、その都度また巨額の予算を使うより、むしろ日々現場の研究者が何を感じ、何を不満に思っているかを吸い上げるようなシステムができれば、いろいろな問題に対しての対処が迅速的にできるのではないでしょうか。
 またここでも何回か申し上げましたが、私個人の意見としては、ERATO、ファースト(FIRST)、そしてNEDO等の大型予算は、効率的に使われているとは到底思えないのです(もちろん一部例外はありますが)。バブルでお金がじゃぶじゃぶあるときは、このような大型予算も許されるのでしょうが、今のこの時代において、非効率的な大型予算が動く横で、真っ当な研究者が研究費を取れなくて、絶対に取らなければいけない人が取れなくて、挙げ句の果てに研究室を畳むということが許されてよいはずがありません。そして研究室を畳むだけならまだしも、それが学部生あるいは大学院生の教育の質の低下に直結していることを、我々は認識しなければなりません。ゆがんだ科学政策や予算配分のしわ寄せを直接的に受けるのは、結局は次世代を担う若手であるわけです。
 このような現状を目の当たりにしながら頑張っている現場の者が何を言いたいか、言いたいことはたくさんあるはずです。しかし彼らの(私達の)声が科学政策に届いているとは到底思えないのが日本の現状です。昔も今もそうです。
 おまけに生命科学の実験科学者となると、この手のことを発言するのが下手くそときています。なぜなら若い頃、そういうトレーニングを受けておりませんので。じゃ、下手くそだから駄目じゃないかと言われても、そういう低レベルの議論をしていては、国は前に動いていかないと思います。
 ですから何かを議論するときに、「データがないじゃないか、グラフにしないと駄目じゃないか」というのはそろそろやめて(もちろん一理ありますが)、現状を迅速にかつ正しく把握する方法を生み出すために知恵を絞るべきではないかと思います。その知恵とは、現場の声を吸い上げるようなシステムの構築です。
 せっかくの機会ですので、そういうことを近未来的に構築することをお願いしたいですし、また我々も一緒に考えていかなければいけないと思います。よろしくお願いします。

【有本副センター長】  
  非常に大事な御指摘だと思います。科学技術政策の構造を考えると、トップに総理がいて、総合科学技術会議があり、各省があって、それから個々のファンディングエージェンシーがあり、それから現場の研究機関、それぞれの個人の研究者研究チームあるいはコミュニティーがあるという構造がある。その中で科研費はボトムアップ。それ以外のファンディング制度は、日本はトップダウンで来る。信頼関係、コミュニケーションができないという状況がずっと続いているということは確かです。本来これは、学術会議がやるべき仕事だと私は思っていますけれども、それができていない。日本の学術会議は個人的には機能と組織は、海外のナショテルアカデミーと比べて、大変弱いと私は思っています。
 それぐらい私は危機感を持っています。だからこそ学術会議が改革して今10年たった。抜本的に見直し強化すべき時期にきている。今は私の今属している、研究開発戦略センターは吉川弘之先生ですが、吉川センター長は常にその視点を強調して言っておられます。ボトムアップとトップダウンの共鳴。マクロなデータだけではなくて、個々の研究者、研究現場の現実、インタビュー、ワークショップを大切にする。しかし政策や、プログラムを計画する時にはある程度抽象化せざるを得ない、その間のバランス・つなぎと運用の工夫です。問題点だけ申し上げますけれども、先生の御指摘は本当にそうです。

【西尾主査】  
  甲斐先生、どうぞ。

【甲斐委員】  
  3時に出掛けられるそうなので短く質問を。頂いた資料の中で、アメリカ、中国、韓国などの研究開発動向と戦略の図を見ますと、企業と政府から出ているファンディングのことが書かれていますね。日本の場合のこのような図はいただけないんでしょうか。日本には企業から出ているという資金の図は今日頂いた資料の中にないので。

【有本副センター長】  
  今日は海外だけです。

【甲斐委員】  
  あるのでしょうか。

【有本副センター長】  
  あります。

【甲斐委員】  
  そうですか。では比較のためにあったらと思いまして。

【有本副センター長】  
  はい。

【甲斐委員】  
  お伺いしました理由の一つは、いわゆる日本版NIHができましたね。あれもトランスレーショナルリサーチを目的としたファンディングだと思うのですが、関係省庁のそれに関わるグラントを集めて作ったような形ですが、少なくとも外国、欧米ではそういうことには企業は多額のお金を出しています。でも、今回日本が作った日本版NIHは全部政府系のお金を集めただけで作られていて、企業は出していないですね。そういうことについても、こういう統計から見られるのかなと思いまして、できればお願いしたいと思います。
 もう1点だけ。先ほど、とても良い指摘をしてくださいました。日本学術会議が確かに先進諸国のアカデミーと随分違うものになってしまっています。その大きな理由の一つに、予算が全然なくて、自分たちで調べることもできないという大きな構造的欠陥があり、それが益々(ますます)ひどくなっていると思うのです。そこを何かこちらから提言して、もう少しまともなアカデミーを構築することを提言できたらと思います。

【有本副センター長】  
  先生の御指摘のところはまたデータを集めて、御報告申し上げます。今のお話は非常に大事で、学術政策、大学政策、科学技術政策の連携と、それと学術会議をどうするか。内閣府というところは、総合科学技術会議はありますが、学術会議は別の位置付け、組織。、予算が増えるのは困難。相当な仕掛けをしない限り。こういう組織構造をどう変えるか。私は、第5期基本計画に向けて一つのチャンスではないかと思います。
 学術会議だけでない、研究開発戦略センターも予算は減っている。なぜソフト、あるいはシンクタンクのお金に多少目配りできないのか。イノベーションを内実化するには、例えば、科学コミュニケーション、ELSI、テクノロジーアセスメントとかの活動の充実が必須です。そんなお金はほとんど配慮されていない。社会的インパクトの大きなプロジェクトだったら、必ず、アメリカのヒトノゲム計画の際にやったように、5%ぐらいはそうした活動へ配分する。それが引いては日本のデモクラシーを支えるということじゃないかと思うのです。

【西尾主査】  
  どうぞ。

【佐藤委員】  
  有本さん、学術会議のあり方にもふれられましたので、お伺いしたいんですけれども、御存じのとおり、現在「大型計画に関するマスタープラン」を学術会議で作成し、それを参考として科学技術・学術審議会の研究環境基盤部会、学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会で審議していただく流れができあがっています。各コミュニティーで議論を詰めて、いろんな分野ごとに大きなプロジェクトがいかにあるべきかを発信しているわけです。それを政府に持ってくるような道が開けていったことで、随分コミュニティーの意見に基づいたボトムアップの体制ができたと、私はすごく評価しているわけです。それに対する有本さんの意見をお聞きたいとおもいます。、それとトップダウンの研究費に対しても学術会議は大型計画と同じように、学術会議から政府の審議会に持って行くのが望ましいと思っておられるのかお聞きしたいとおもいます。トップダウン研究計画は政府の政策に基づいて作るものですよね。それに対して学術会議が発信するシステムを作ればいいと思っておられるんでしょうか。

【有本副センター長】  
  2つあります。前者の方は、ちょうど私、今から学術会議の国際リニアコライダーの大きなシンポジウムがあって、それにパネリストとして参加します。そのスピーカーの選び方が推進派が多い。辛口ですが、学術会議はもっと多角的な議論ができる場を設定すべきと考えます。学術会議の大型ファシリティーのリストができるようになったのはいいのですが、私はまだ不十分で成熟していないと思っています。欧米は苦労しながら、tough choiceをしながら、プライオリティーを自分らで付けた上で、行政サイドのお金とうまくワーカブルになるような形の仕組みを作っていると思うのです。リニアコライダーの動きなんかを見ていても、それは心配です。
 それから、後者の方はアメリカ科学アカデミーとUKのロイヤルソサエティーを見てみましても、アメリカの科学アカデミーは、例えば最近起こりました湾岸のブリティッシュ・ペトロリアムの原油流出事故があります。連邦政府が、1兆円ぐらいBPから供託金を取っているんですが、その中の500億円ぐらいをアカデミーでデザイン、運営してくれという要請があった。シセローネ会長も相当悩んだようですが、本当にやり始めました。30年ぐらいのスパンで地域の環境と、健康のモニタリングをやる。それからUKのロイヤルソサエティーは数年前に、サイエンスポリシーセンターという組織を思い切って作った。ロイヤルソサエティーは350年も歴史があり、十数年前までは政治とか行政に近付くのは余り好きじゃなかったんだと見ています。ロバート・メイ会長以後、苦労しながら10数年かけて、ポリシーすなわち政治、行政と対話をしないといけないということで、最近は積極的にポリシーオリエンテッドの報告書を出して世界に向けた政策を考えている。そういう海外の動向もきちんと見た上で、学術会議、各学会を、どう変えていくかどう支援するのか。そうしなかったら、日本の学術政策はうまくいかないと、考えています。

【西尾主査】  
  はい、どうぞ。

【鈴村委員】  
  学術会議に関してもレスポンスしたい点がありますが、むしろ別の側面に関して発言したいと思います。有本先生のハンドアウトの6ページで、World Social Science Reportに言及していただいています。人文学・社会科学に言及されているのは、この1か所だけです、人文学・社会科学は、小なりとはいえ、学術研究の翼の一つであるわけですから、こういう議論の中で、理工学・生命科学と並んで人文学・社会科学が正面から検討対象にされていないことは、むしろ非常に大きな問題だと私は思います。
 有本先生の議論によく出てくるICSUの人文学・社会科学側のカウンターパートとして、UAIという組織が在りますが、これは人文学・社会科学の国際的なアカデミー連合ということになっているものの、どちらかというと古典学の研究に比重が高く、社会科学の国際的なアカデミー連合は寥々(りょうりょう)たる状態にあるように思われます。分野連合としての発信機能が弱体であるだけに目配りが難しいことは理解できますし、社会科学側の発信機能の不備こそ問題だと言われるかも知れません。とはいえ、学術の在り方に関する基本問題を検討する場において、人文学・社会科学を置き去りにして議論のキャンバスを設定することは、私には誤りだと思われてなりません。形を変えて何度か発言してきた論点ながら、改めて警鐘を鳴らすことを、私はひとりの社会科学者としての義務だと考えています。
 有本先生が言及してくださったWorld Social Science Reportに関連して、もう一点だけ申し上げたいと思います。このWorld Social Science Report が扱っているのは、長期的な環境的外部性の問題でありますが、この論脈においては人文学ー特に哲学ーと社会科学ー特に経済学ーの連携した研究が、国際的にも推進されるべき強い理由があります。残念ですが、伝統的な哲学の研究は、ヘーゲルがミネルヴァの梟(ふくろう)は夕闇に飛び立つと表現したように、往々にして事態の帰趨(きすう)が判明した後にその合理化に腐心して来たことは否定できません。経済学者も「彼はあまりにも哲学的だ」という批評が暗黙のうちに役に立たない空理空論という批判と表裏一体となって用いられてきた事実は、否定できません。幸いなことに、この現状にひび割れを走らせる先端的な研究は、世界の複数の研究拠点で進行中です。小なりといえども重要な洞察の起点となる人文学・社会科学の研究のシーズを尊重して助成する視点が、革新的な学術の振興において、忘れ去られてはならないと私は確信しています。この視点を忘れると、理工学・生命科学も含め日本の学術は一層やせ細っていき、自分の分野に多くの研究費を確保する手段に専心する醜態を晒(さら)すことになることを、私は恐れています。

【有本副センター長】  
  ありがとうございました。2001年に日本の政策ドキュメントとしての、第2期科学技術基本計画の中に初めて科学と社会との架橋、コミュニケーションという項目が大きな1つの章として位置づけられた。その部分は、石井紫郎先生が大変苦労されてまとめられたものですけれども、日本の人文社会科学のコミュニティー、あるいは研究者は、一人一人、社会のニーズ、あるいは期待をよく見て分析した上で、自然科学と相互作用しながら対応しないといけない、さらに、国もそうした活動をちゃんと支えるサポートしないといけないということを明記された。それを受けて、学術振興会の一つのプログラムになった。それを受けて、この第5期基本計画に向けて戦略的に人文社会科学の振興に取り組む必要がある。今回はインターナショナル・ソーシャルサイエンス・カウンシルのレポートを紹介しましたのは、最近イノベーションを語る国際会議で頻繁にこのレポートがよくレファーされるものですから。、このレポートの最後のレファレンスのところに、30ぐらいの文献があるんですけれども、残念ながら日本人の文献が載っていないという現実がある。ちょっとショックでした。

【西尾主査】  
  鈴村先生、どうもありがとうございました。

【安西委員】  
  先ほど、短期的な、細々したといったらあれですけど、そういうプロジェクトが多いという御指摘、全くおっしゃるとおりで、やはり持続的に研究者がきちっと研究ができる、そういうプラットフォームをちゃんと作っていかなきゃいけないと思っておりますけれども、CRDSでもやっていただければ、ちらっと申し上げたのは、そのプロジェクトの評価とかいったことは、どうもやはり基礎研究についてはなかなか結果が見えないのでやられていないということはよく言われるのですけれども、実はそういう短期的なプロジェクト等々の評価、あるいは定量的な指標というのはほとんどないようにも思うのです。ですから、基礎研究だけがそういう定量的な指標がないというわけではなくて、やはり政府の出資で行われている研究資金の投入効果というのでしょうか、そういうことに対する指標というのは、短期的なプログラムについても、やはりそれほどないのではないかというふうにも思っております。この点だけ、ちょっと指摘だけさせていだければと思いました。

【西尾主査】  
  有本先生、何か御意見ございますか。

【有本副センター長】  
  承りました。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。有本先生は、多分、時間が来ておられるのだと思います。

【有本副センター長】  
  すいません、ちょっと……。

【西尾主査】  
  本当にどうもありがとうございました。

【有本副センター長】  
  リニアコライダーの方で……。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。
 今後の全体の政策の中で、高橋先生がおっしゃっていただきましたように、現場サイドからの声をどのように上の方に挙げていって、科学技術政策、大学政策、学術政策にうまく生かしていくのかという、そのパスの構築というのは今後非常に大事なことではないかと思っています。どうかまたよろしくお願いします。

【有本副センター長】  
  はい。どうぞよろしく。

【西尾主査】  
  ほかに皆様方から御意見いかがでしょうか。私は安西先生の資料の中の7ページのことが相当ショックでした。新興国における科学技術政策が最近急激に強化されていることです。その典型例がここに示してありますように、中国がこれだけの予算投下とか、あるいは政策的な強化策を考えているとき、例えば2020年を見据えたときに、その時点で中国と日本の科学技術における立場がどうなっているのか、というようなことに対する危機感をもたなければならないと考えます。実際、先般の中間報告における学術研究の危機的状況を記述して部分で、そのようなことが書かれるべきではないか、というようなコメントを頂きました。そういう国際的な観点からの危機感を、何らかの形で最終報告までにきっちりと書いていく必要があるのではないかと思っております。平野先生、中国におられまして、そこら辺の状況はいかがでございますか。

【平野委員】  
  私は中国全体を捕まえて動いているわけではないんですが、学内において、教育も含めてどのように彼らが活動しているかということは日常的に理解をしているつもりであります。少し話がずれるかもしれませんけれども、皆さんの御議論のお蔭(かげ)で中間まとめをさせていただいたところの中からいたしますと、私も委員でもありますが、国の学術、科学技術政策がどのように決まってくるかを考えると忸怩(じくじ)たる思いもないわけではない。それは、現在も科学技術及び教育等に投入する予算、国で言えば大学への基盤的経費のところも含めて、研究費用だという認識がされる枠に一方では入ったり、一方では教育用だというふうに入ってくるんです。これは大学においてはよく分かるように、基盤的経費が何が研究の費用で、どこが教育用かというのは、これは一体化していますから、非常に分けづらいというところなんです。以前、柘植委員が議員であられた頃に、私は、評価等を手伝ったときに、データを見まして、1兆2,000億円ほどの国立大学に行っている予算が、そのまま科学技術予算としてカウントされていたので、これはないということを言ったんですが、大学においてトータルすると、どこまで真の研究費用となっているか、みていくともっと私は大きな減少ではないかと思っております。
 一方、中国を見てみますと、途上国は元々が少なかったものですから、伸び率が非常に大きいので、伸び率だけでなく、実質的にはどうなのかというデータを安西先生もお持ちだろうと思いますが、教えていただくと、実質的な変化が見えると思います。それから、上海は結構給与は高いんですが、給与を含めてどうなっているかということがもう一つであります。それが、研究予算の中に入っている部分もありますので、それを分けていった方が、本当の意味の補正論文数のシェアになるんじゃないかと思います。私は別に論文数のシェアが高いから、日本の修正されたのはもう少し高くいくべきだということを言っているのではなくて、せっかく良い資料を頂いていますので、現実のデータはデータとしてみた方がよいように思っています。
 もう1つだけお話をさせていただきますと、中国の大学を、御存じのように、あれがいいか悪いかは別にして、最重点、重点、その他と分けて彼らと話しするんです。最重点的な大学は9大学ぐらいかなと思っているんですが、重点的大学が約90あります。その数を見ていくと、やっぱりピラミッドのようになっておりまして、研究の成果の主たる担い手は約100大学くらいだと考えます。より基礎的な部分について彼らに言うのは、安西先生もNSFの会長さんともよくお話をされると思うんですが、アメリカの場合は、いわゆるNIHだとか、DARPAだとかの予算に、やっぱり大学人は予算をもらうために目がくるくる動くんです。これを取らなかったら埋没するかもしれません。基本的にはNSF予算がかなり詰められてきているとも思います。科研費がかなり厳しい状況で、どこで決めてくるか分からない予算が日本で出口志向だけで動くというのが、決定ルートも分からないで動くというのは、私は大変な危機感を持っております。
 基盤的経費をもっと増やせということも言いたいんですけど、そればっかりではなくて、研究予算については本質的な間違いを日本も犯しつつあると危惧しております。前回中間でまとめていただいたところの中に、もう少しまた強調もしなきゃいけないと思っています。是非NSFの状況、そこからどう彼らが改善しようとしているか。例えば中国はどうして先進国に追いつこうとしているか。基礎科学も含めて。ここの部分は後半におけるこの委員会の中にやっぱりエビデンスとして入れていっていただけたらなと、こう思っております。

【西尾主査】  
  本当にどうも、貴重な御意見ありがとうございました。おっしゃるとおりで、そういうデータも必要なんですけれども、安西先生、またよろしく、いろいろな面でお願いいたします。
 ほかに御意見等、ございますでしょうか。どうぞ。

【高橋委員】  
  はい。

【西尾主査】  
  どうぞ。

【高橋委員】  
  世界の動向を見て思った私個人の感想を言いますと、ドイツの科学政策は非常によろしく、高く評価できると考えます。もちろん私は生命科学の分野しか知らないとはいえ、ドイツの科学の質は非常に高いです。EUが抱える財政危機にもかかわらず、メルケル首相以下、科学政策に携わる人達がうまくリードしているのだと思います。その結果、ドイツは昔も今も、国際的に非常に高い信用を勝ち得ています。その信用とは、論文の数とか予算額に表れている場合もあるでしょうし、また表れていない場合もあるでしょう。一方で、アメリカの状況はかなり異なります。ですから、「欧米ではこうだ」という一元的な議論はあまりよろしくないのではないでしょうか。
 それから中国に関しても、確かに論文数はうなぎ登りとはいえ、その科学的な質をみてみると、まだまだのレベルといわざるを得ない場合も少なくないです。フランスは私も昔住んでいたこともありそれなりに知っているのですが、やはり今、我々が注目すべき国はドイツだと思います。ドイツといえども、EU問題で決してお金がじゃぶじゃぶという状況ではないはずです。しかし政治と学問の両サイドがうまくかみ合って、双方が知恵を絞りながら、「学術の本質は何か」を理解した上で、効率良く政策に反映させるシステムを考案しています。首相の側近には、学術の本質がわかっているブレーンがいますね。そこらへん、もっと日本が注目してもよいのではないでしょうか。

【西尾主査】  
  はい。どうぞ、安西先生。

【安西委員】  
  今、高橋委員の言われたドイツの動向というのはおっしゃるとおりで、やっぱりドイツが非常にしっかりした動きをしているというふうに私も思います。その一方でGRC、グローバルリサーチカウンシルの東京ミーティングが来年5月になりますけど、そこでできればリサーチファンディング・フォー・サイエンティフィックブレークスルーのステートメントを採択する方向で現在検討中なのですけど、その中には、今、平野先生が言われた、リサーチのサポートの体制といいましょうか、それが主要国で、みんな同じように、今後どうしたらいいのかという状況はありまして、ドイツもやはり悩みながらそういうことをやっているのです。それで、一緒にこれからの時代の科学政策に資する、その科学の支援の在り方、ファンディングエージェンシーの会合ですから、それをきちっと打ち出すということを現在目標にしております。これは世界での、世界中絡めてのステートメントですので、何か非常にドラスティックということにはいくかどうか分かりませんけれども、やはり日本のこれからの科学技術政策の在り方とは是非連動していただきたいと思っております。そういう意味でGRCにつきましては、是非御支援、応援していただければ有り難いと思っているところであります。

【西尾主査】  
  どうもありがとうごいました。高橋先生おっしゃいますように、日本がどの国をベンチマークとしていくのかということが大事ですし、また安西先生がおっしゃっていただきましたように国際的な枠組みで決めたことをベースに、外からの力で日本のいろいろなところに働き掛けるというやり方も、非常に大事だと思います。その観点からも、安西先生の会議に関しましては、我々も連携していく必要があるということを強く思っております。
 まだ御発言になっていない委員の方々で、きょうは国際ということをテーマにしておりますけど、御発言等ございませんでしょうか。どうぞ。

【甲斐委員】  
  申し訳ない……。せっかく国際比較ということなので、高橋委員に応援演説を送りたいと思います。国際間のいろいろな比較をする上で、この表の中にある中国、韓国、アメリカと日本とは大部違うと思います。やはり私も高橋委員と似ていて、ドイツとフランスについてももう少し詳しく調べていただけないかなと思います。
 と申しますのは、両国ともそれほど経済が順調というわけではない中でも、ちゃんと科学政策にお金を出していて、論文シェア数も中国の上昇率が飛び抜けているので若干落ちているように見えますが、実際の数でいうと伸びていっているんです。日本も若干ですけど伸びていますが、それよりも伸びています。その要因を、もう少し科学政策で見ていった方が日本に近いと思うんです。
 実は私もかなり長い間フランスと共同研究しておりますが、実感としていろんなものがそろっていくのを感じています。それは研究費だけではなくて、建物が建ったり、共通の設備がそろったりしています。そういうのは、ここで見るようなグラントの額には表れていないのではないかと思うんです。
 例えば、非常に高度なセキュリティが必要な施設があるのですが、それは日本では20年議論しても未(いま)だに建たないのですが、この数年の間にフランスは増築計画が進んでいますし、ドイツはこの三、四年の間に3つも建ちました。それにスタッフも配置されて、すごい勢いで伸びています。多分、数年後にはこの分野でドイツがトップリーダーズのうちの一つに上がってくると思います。それは、グラントの額には表れないようなサポートを国が行っているということです。ですから、できればそういうことも調べていただいて、国の科学政策を考えるモデルにするのは、サイズ的に考えても、先進性を考えても、そのヨーロッパの二国というのは対象として適しているのではないかなと思いますので、できたらお願いいたします。

【西尾主査】  
  鈴村先生、どうぞ。

【鈴村委員】  
  国際比較をすることに、原則的な異論がある筈(はず)はないと思います。とはいえ、国際比較をする際には、研究助成システムを包摂する社会システムの在り方を俯瞰して、我々の中間報告書の柱とされた筈(はず)の「現在及び将来の国民の福祉の改善に寄与する」学術体制の在り方を模索する視点を一貫して採用することが、この委員会の責任であると思います。例えば、ドイツの研究支援システムが理工学・生命科学の観点からは輝くほどの実績を示しているにせよ、その光の影でドイツの社会科学の相対的な弱体化が進行したという事実を無視することは、いささか不見識だと思います。もうひとつの例として、中国のケースも指摘しておきたいと思います。確かに、中国における自然科学系の研究助成金の飛躍的な増加は瞠目(どうもく)するべき現象ですが、その光の影には人文学・社会科学の視点からは見過ごしにできない多くの問題が潜んでいます。その一例として、生命倫理学の分野では議論の焦点となる「生む権利」の問題を採りあげたいと思います。長期にわたる一人っ子政策の下で、国民の「生む権利」が大幅に制約されたこの国で、出産に関する自己決定権を高らかに宣言する会議が主催されたことは、人文学・社会科学の立場から看過できない欺瞞(ぎまん)だと思います。これは一例に過ぎませんが、人文学・社会科学の研究者が自らの国民の福祉と権利の観点から自由な発言ができない現実を黙視して、自分の研究分野への研究助成が飛躍的に増大していることにのみ注目して、助成制度の先進的な例であるかのように考えるとすれば、些(いささ)かバランスを欠いた判断ではないかと危惧します。これは人文学・社会科学の立場から、自分たちの分野への研究助成を優先的に確保しようとする発言ではありません。学術の品位と責任感の在り方を問題としているのです。
 重ねて言いますが、制度の国際比較は重要であり、移植可能なシステムを検討することは正当だと思いますが、現在及び将来の国民の福祉の改善に寄与する学術体制の在り方を模索するという基本的な視点を忘れず、判断のバランスを測って必要とあれば痩せ我慢を貫く姿勢こそ、国民の理解を得られる政策提言に到(いた)る道ではないかと思います。

【西尾主査】  
  荒川先生、どうぞ。

【荒川委員】  
  いろいろお話を伺って、大変興味深く拝聴しましたが、7ページ目のデータをずっと眺めていて考えていたのですが、中国、韓国がこれだけ伸び率が高いというのは、先ほどの平野先生の御説明のとおりではないかなと思います。
 ドイツ、フランス、イギリス等がこのように減少率が比較的抑えられていることなど、全体を見ると、政府の科学技術予算の投資と減少率は、かなり相関があるというような状況が読み取れます。
 それで、気になったのが2点あります。1つは、EU全体の予算というのがあります。これが各国予算にこの統計の中でどう反映されているのか、それが1点です。
 それからもう一つは、特にEUなどでは国境の枠を超えて非常に連携を図っているわけです。例えばドイツ、フランス、イギリスの3か国の研究者が研究を一緒にやって論文を書いているということがあります。その場合に、どういうように論文の数をカウントしているのかというのを確認させていただければと思います。0.3、あるいは3か国の場合には3で割っているのかどうかとか、その2点について教えていただければと思います。

【安西委員】  
  私の出した資料の7ページをごらんいただきますと、今、荒川委員の言われた点というのは入っていない、ヨーロッパの研究者、EU諸国の研究者は、自分の国の研究費とEUからの研究費と両方受けております。それ、両方足したものがこの数字なのかどうかというのはちょっと確認させていただかないといけないと思いますが、出どこは、もともと国から出ているので、EUには国から出てきましたので、巡回している形になりますので、結局は同じことなのかもしれないですが、ちょっと確認させていただければと思います。
 ついでに、7ページで手短に。

【荒川委員】  
  すいません、オーサーの件は。つまり、例えば3か国の研究者がオーサーになったときの論文の数というのは、それぞれの国に1を足されるのか、あるいは0.3なのかという点です。

【安西委員】  
  これは分数ですね。整数ではなくて分数でやっています。しっかりそこは。分数の方が妥当だと思いますけども。
 それから、マクロでついでに是非申し上げたかったのは、政府の科学技術予算が、とにかくほかの国もなかなか財政が厳しい中で、これだけ増やしているという状況はやっぱりありまして、その中で、しかも、政府の科学技術予算が増えた分のある程度の部分がちゃんと大学に行っているということもマクロでごらんいただければと思います。そこがかなり日本の場合と違うと。日本の場合は、R&D予算、企業まで入れた全体では、世界でも引けをとらないのでありますけれども、特に政府支出の研究開発予算がパーセンテージとしては非常に低い中でもって、更に出口というんでしょうか、そういうことにかなり傾きが行っているためにいろんなことが問題になっているんじゃないかなというふうに思いますが、この7ページのデータをごらんいただければ、それは何となくお分かりいただけるのじゃないかと思います。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。
 荒川先生の方から、ドイツ、フランスとイギリスという言葉が出てきたのですけども、私もイギリスに関しては、やはり注目すべきじゃないかと思っています。これは日本と、GDPの対国民一人当たりにするとほぼ同額であるか、いろいろな類似点があります。
 それと、日本で国立大学法人化に向かった際には、パブリックコーポレートという概念がイギリスから出ており、それを参考にしたとも言われています。更に最近では、大学の評価に関して、RAE、Research Assessment Exerciseというのがイギリスで行われておりますが、その同様の評価の仕方が日本の大学等でも開始されております。そのようなことで、大学の置かれている環境としては結構似ているのに、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学のように、あれだけの世界的なアクティビティーをなぜ出しているのかという観点では、イギリスも是非ベンチマークの対象としては大事なのではないかということを思っております。
 ほかに、どうぞ。

【高橋委員】  
  今の議論では、ドイツ、イギリス、フランスと例が挙がりました。これらの国々の科学政策がなぜ上手(うま)く進むのかについて考えてみたいと思います。たとえば日本との決定的な違いは何かなと考えたところ、ドイツならドイツの政策、イギリスならイギリスの政策を持っているにもかかわらず、「どうみても常軌を逸している」悪い科学政策は自然に排除されるようなシステムがうまく機能しているのです。つまりその国独自の路線を考案すると同時に、その政策の是非がEU諸国の批判に曝(さら)されるわけです。そうすると自(おの)ずといい意味での「淘汰(とうた)」が起こります。
 この点日本は島国で、科学政策が国際レベルの批判の目にさらされない。しかし現実には、先ほどからいっているように、現場の人間がみると、どうやっても常軌を逸しているとしか思えない科学政策に振り回され、学術が崩壊していくケースも多いのです。ではそのとき現場の人間はどうするか・・・いわば飲み屋で互いに愚痴るしかないのです。ですから私はここで、「脱飲み屋」運動を提言したいと思います。現場の不満を飲み屋から外に出して、もっとオープンな議論の場に持って出て、本当に現場にとってメリットとなる科学政策の実現に役立てたらどうかと思うわけです。またこの考え方こそが、先ほどの有本先生の強いメッセージだと私は受け止めています。
 現場の声や意見をディスクローズして、改善すべき問題点や困っている点などをフィードバックさせるシステムの構築。これがうまくいっているEU諸国と日本との大きな違いです。自然科学系に関しては、ヨーロッパはお金がない中でも、少なくとも日本よりもかなり合理的な考え方が浸透しています。ここらへんの課題がうまく改善できるかが、日本の将来を分けるのかもしれません。
以上、私の分析結果です。

【西尾主査】  
  分かりました。どうも。そういうルートのことは大事だと思います。
 先生、どうぞ。

【小安主査代理】  
  せっかく国際比較ということがあったので、これは安西先生のところでもCRDSでも、あるいは文科省でもいいのですが、調べていただきたいことがあります。この前、日本の科研費の申請資格のある方の人数に対して、実際にどのぐらいの方が科研費を受給されているか、あるいはかつて受給されていたかという数字が出てきたときに、私の記憶が間違っていなければ、75%ぐらいの人は一度も科研費を受給していないという数字があって、あれを見たとき、私は非常にショックを受けました。つまり、それだけの人が科研費に応募資格がありながら、受給しておられない。ただし、それは応募して受給できなかったのか、応募していないのか、そこはちょっと数字がなかったのですが、ともかくそういう数字がありまして、それはデュアルサポートと考えるときに、非常に重要な数字だと思いました。
 ほかの国の場合には、グラントへの応募資格がある人の中で、どのぐらいの人が実際にそのグラントを使って研究しているかという数字を知りたいなと思いました。もしそういう数字がとれるのでしたら、是非お願いしたいと思います。

【西尾主査】  
  きょうは先ほどから、エビデンスデータに関する様々な要望とか、こういうデータがあればいいということで意見が出ています。これはもちろん事務局の方でも御尽力していただけると思いますが、ただ、事務局だけで対応し切れない場合も多々あると思いますので、委員の皆様のところにお願いが行く可能性がありますが、そういう場合に是非サポートしていただきますようにお願いいたします。
 亀山先生、何か。

【亀山委員】  
  感想めいたことしか言えないんですけれども、鈴村先生のおっしゃったことに強く共鳴いたしました。日本の歴史といいましょうか、日本において科学技術なり、あるいは人文学といったものが近代的な学として成立していくプロセスの中で、西欧との比較という観点から見た場合、やはり日本というのは、まだまだ歴史が浅過ぎるのではないかなという思いがあるんです。これはワールドカップと同じで、日本は戦後何十年かの中で急激に伸びてきた。その伸び方というのは異常ともいえるものがあり、恐らく日本は実力以上のものを出し切っているんじゃないかという思いがぬぐえません。
 次に中国との比較ですが、今後、長い将来にわたって、いろんな分野で日本が中国を越せなくなる時代が来るはずです。13億と1億3,000万ぐらいの人口比で、恐らく資質的にみて、中国の方が、天才の数も10倍はいるだろうということを考えた場合、やはり悲観的にならざるをえません。しかし、中国は別格なのです。そこで必要となるのは、まさにベンチマークということです。ドイツ、フランス、イギリスが、一応我々日本が近代化する中で目指してきた国であるわけですし、それらの国々からも後塵(こうじん)を拝しつつ日本が成長してきたということがあるので、より長い歴史的なスパンを意識しつつ、余り無理しないでやっていく姿勢も大事かなと思いますね。
 私がこの特別委員会で最初に述べたのは、いけいけの精神もいいけれども、やっぱり人文諸科学に対する励ましというものも、大きな観点から言葉として出していただきたいなということでした。人文科学はもともとお金がかかるものではなく、あくまでのロングスパンが要求されるまさにスローサイエンスの典型のようなところがあります。それじゃ、まったくお金はいらないのか、というとそういうわけではない。今後の人文学の将来を視野に入れた場合でも、その点は強調しなければなりません。日本は何といっても島国です。中国と韓国と台湾、そしてロシアに海に囲まれている国です。そうした国と、何百年という近代化の歴史を持った国々が、それぞれ国境を接し、行き来が自由な国とは根本的に王権が異なる。インターナショナルなカンファレンスを1つ構築するにも、外国から1人の研究者を呼ぶにもすさまじい手間ひまがかかるという状況がある。日本の人文学が国際的なレベルで発展していくためには、リサーチアドミニストレーターとか研究補助のシステムはぜったいに欠かせない。人文学は必要ではないと思われているが、そんなことはありません。国の財政がどんどん悪化していく中で、安かろう、悪かろうじゃありませんが、お前たち、いいだろということではなくて、それなりの目配りを人文学にも与えていただきたいと思いますね。
 日本は非常に無理しているし、無理しないことには今、この地位を、あるいはステータスを維持できないということがあるわけですから、今後、我が国における科学技術の伸びを心から願っています。しかし同時に、成熟したアジアの先進国としての知性といいましょうか、そういったものを、自信をもってアピールできる国へ日本は変わっていかなくてはならない。世界に誇れる日本の知性を世界に訴えるシステムがあるといいと思いますね。端的には、翻訳、出版を国家的事業として奨励するシステムの構築です。ちなみに、日本の人文学的知性は、大学よりもむしろ出版界にあると、私は心のどこかで信じているところがあります。繰り返しますが、ジャパンアズナンバーワンの時代からはるか四半世紀が過ぎて、世界の人々の日本幻想が潰(つい)えた今だからこそ、日本の人文的知性を世界に発信する仕組みが必要です。私が昔から訴えているのは、日本の優れた翻訳者を一堂に会したオールジャパンの翻訳機構の構築です。人文、社会にまたがる学術的な知性をこれで発信できます。また、世界の人々と人文学的知性によって交流するためのお金も必要です。余りこの会議の席にはそぐわない意見かもしれませんが。

【西尾主査】  
  今回の最終の報告には、今、先生がおっしゃったような人文社会系の方々にも大きく力を与えるというか、励ますことができるようなことを書き込めたらと思います。

【亀山委員】  
  励ましが欲しいんですよね。

【西尾主査】  
  そういうまとめに是非していきたいと考えます。本当にどうも、貴重な意見をありがとうございました。
 いろいろあるかと思いますが、時間が来てしまっていますが、これだけはどうしても言いたいということはございませんか。よろしいですか。

【金田委員】  
  それを恐れていたんですが、国際比較という点で、今、亀山先生の御指摘はそのとおりで、大変有り難い御指摘だと思っていますが、国際比較以前のレベルに、実は特に人文学の方はなっておりまして、つまり、日本語という、いろんな意味で孤立した文化を背負っているという中では、人文学もそれなりに頑張ってきているとは思うんですけれども、それの国際的な発信という点から言えば、極めて問題が多いというか、そういった状況だと思います。やはり人文学についての、亀山先生の御指摘の励ましとか云々(うんぬん)というケースがあるとすれば、それはシステムと資金と両方の面における発信のシステムをどのようにサポートするかということを是非お考えいただければ有り難いと思います。

【西尾主査】  
  ありがとうございました。議論は本当に尽きないところなのですけれども、予定の時間ですので、次に移らせていただきたく思います。本当に貴重な議論、また、貴重なコメントを多々頂きまして、まことにありがとうございました。
 次は事務局より、科学技術・学術審議会総会等の報告について御説明をお願いいたします。

【中野学術企画室長】  
  失礼いたします。お時間もありませんので、ごく簡単に御報告をさせていただきます。
 お手元の資料3-1からおまとめいただきました中間報告関係の資料を付けておりますけれども、3-1にありますように、また本日、冒頭に主査からも御発言がありましたように、6月3日の科学技術・学術審議会総会におきまして、平野分科会長からこの中間報告について御報告を頂いたということでございます。3-1がその際の分科会長の御発言の要旨をまとめたものでございます。こちらにつきましては、6月3日直後ぐらいにメールでお送りさせていただいたものでございます。
 それから、机上資料というものがございまして、本日、参考資料をたくさん配っているのですが、参考資料6の下に、右肩に机上資料と書いております「科学技術・学術審議会総会における委員意見」というものを配付させていただいております。こちらにつきましても、速報でメールにて御連絡しましたが、微修正しております。総会の議事録がまだ作成できておりませんので、正確には後日確定版を御参照いただきたいと思います。中間報告を平野先生から御報告いただいた際に様々な御意見を頂きました。この特別委員会にいらっしゃいます柘植先生、安西先生からもサポートの御発言を頂きまして、特にイノベーション総合戦略にもきちんと学術分科会の趣旨を反映するべきだといったことですとか、学術研究とイノベーションとの関係をしっかり捉えているということを御発言いただいたところです。
 とりわけ、柘植先生の最後の方もそうですし、その次の庄田委員、あるいは2ページ一番下の野間口副会長といった産業界の関係の先生方から、非常に好意的に中間報告について御意見を頂いたということを御報告させていただきます。
 例えば野間口先生の2ページの一番下ですけれども、この中間報告について、この種の報告の中では、最も納得性、格調が高く、強い思いが伝わってくるものであると感じたといったこと、あるいは3ページ目に参りまして、持続可能なイノベーションの源泉としての学術研究が我が国にとって一番大事であるということは、企業経営者としてもそう思っているのだということで、自信を持って進めていくべきといった御意見を頂いているところでございます。
 戻って恐縮ですが、2ページの下の方、野依会長からも、本日のお話とも少し関係しますけれども、アメリカ等でも若者が研究者になりたがらない傾向にあって、こういうことを考える時期に来ていると。もう頑張りようのないところまで落ち込んでいるので、教育研究システムをサステイナブルにする、若い人が希望を持って科学技術に取り組むことができる雰囲気作りが必要だといった御意見を頂いているところでございます。
 併せまして、特に関係の深い科学技術・学術審議会の人材委員会が先般開催されましたけれども、そちらでも中間報告については事務局の方から御報告させていただいておりますし、また本日、この後、中教審の大学分科会が開催予定ですけれども、そちらでも御報告の時間を頂いてございます。
 すみません、時間が押して恐縮ですが、最後に参考資料1をごらんいただきたいと思います。参考資料1は、中間報告関連の資料3-5の後に入っているものですけれども、こちらも同じく6月3日の総会で配付され、決定されたもので、総合政策特別委員会というものを設置することが決まりました。ごく簡単に申し上げますと、第5期科学技術基本計画、学術分科会の御議論でも、そちらをにらんで議論いただいていますけれども、総会におきましても、基本計画に向けた検討が、今後、総合科学技術・イノベーション会議で本格化する予定であることを踏まえて、全体としての議論をするべきだということで、このような委員会の設置が決まったところでございます。近く第1回が開催されると聞いておりまして、年内をめどに、次期計画の重要事項の中間取りまとめを行う予定でございます。
 学術分科会の御議論も、これをにらみながら最終報告に向けて御議論いただきたいと思いますけれども、本分科会につきましては、既に中間報告をほかにも先んじて出していただいておりますので、途中段階でも適宜インプットしながら進めさせていただきたいと思います。
 以上でございます。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。
 何か御質問とかございますでしょうか。
 どうぞ。

【高橋委員】  
  先ほどの野間口副会長のコメントの中、3ページの下から5行目のイノベーションの定義の問題です。「総合科学技術・イノベーション会議では、イノベーションとして見えるところに集中してしまうのはあると思うが」とおっしゃっています。野間口先生に対してどうこう言っているわけではないのですが、私が常々恐れている「イノベーションの定義」が、私たちのこの報告では、学術全体を含むというふうにしてやってきましたが、若干まだ自己満足的なところがあります。総合科学技術会議の名称が、総合科学技術・イノベーション会議に変わったというところで、もう、このイノベーションは、「出口志向」というところをはっきり明示してきているわけです。にもかかわらず、私たちが、「いや、イノベーションって総合的な学術だよね」と幾ら言ったところで、これでは戦略的に相手にのみこまれることはほぼ確実です。これだけ何十時間議論して、イノベーションはこうあるべきだと主張したところで、結局は握りつぶされてしまう危険性が大だということを、危惧しています。今後の大きな課題だと思いますので、是非知恵をしぼってまいりましょう。よろしくお願いします。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。貴重な観点、御指摘を頂きました。ありがとうございました。
 ほかにございますでしょうか。
 それでは、今後のスケジュール等について、事務局より説明お願いいたします。

【中野学術企画室長】  
  次回の特別委員会につきましては、日程のみ御連絡させていただいているところでございます。7月17日木曜日の10時から12時、場所は文部科学省の3F1ということで、今日の会場の隣の会議室でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 また、本日の資料でございますが、大部になっております。机上に残していただきましたら、郵送させていただきます。
 以上でございます。

【西尾主査】  
  どうもありがとうございました。来月以降も最終報告に向けて引き続き審議のほど、どうかよろしくお願いいたします。
 きょうは、今後に向けての幾つかの方向性も出ておりますので、それを是非深めてまいりたいと思います。
 本日の会議はこれで終了いたします。皆さん、本当にどうもありがとうございました。 

 

―― 了 ――

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