資料1-2 学術研究の推進方策に関する総合的な審議について(分科会長私案)(2)

科学技術・学術審議会 学術分科会
学術の基本問題に関する特別委員会
(第7期第1回)
平成26年3月10日

分科会長私案の「主な論点(案)」についての意見


<「学術の意義・役割、社会に対する説明責任」に関する意見>
  ○学術側から「科学」と「技術」及び「科学技術と学術」に対する考え方をしっかりと体系化し、その上に立った「基礎研究」(純粋基礎研究及び目的基礎研究)の社会的使命の明確化が必要。また、「基礎研究」の概念を、未知への探求と文化を創造する「純粋基礎研究」と大きな社会的価値創造に結びつく可能性を持つ「目的基礎研究」とに整理し、それらに基づいた学術の意義・役割の社会への説明が有効ではないか。
  ○研究の類型を考えると学術研究・目的研究・委託研究の軸と基礎研究・応用研究・開発研究の軸の3×3のマトリックスが考えられ、学術研究は基礎だけでなく、応用や開発の段階でも行われるもの。それぞれの部分をどのセクターが担うかと考えると、大学は学術の部分を優先すべきだ。国は大学にあれこれ強制すべきでない。強制しすぎると教育との齟齬(そご)が出る。
  ○「学術」は、人文学、社会科学等を包含したより広い概念であり、いわば「統合的な知の科学」として推進され育まれてきたもの。最近の学術・科学技術政策は、実利性を重視した資源の重点的配分や数値化による競争原理や評価の強化といった視点による基本構造で成り立っており、その帰結として人文・社会科学と自然科学を総合した新しい知の創出や精神文化などを基盤とする学術の根幹を担う諸活動を疲弊させる可能性はますます高まっているとともに、学者間でもそのような問題意識の共有がなされているか疑問。このような根源的な問いかけなしには、学術の本来的意義について広く社会の理解・支援を得ることは難しい。
 ○学術は国ではなく人類と世界のためにある。日本の研究者が基礎研究(暗黙知)の分野で世界をリードすることが、世界からの尊敬を生み、ひいてはそれが科学者を支援する日本という国への敬意につながる。迂遠(うえん)だが、この論理を主張しなければならない。
  ○自由な発想に基づく多様な知の創造たる学術の本来的意義についての議論が必要。
  ○学術と国力(経済力)を直接結びつけるのは適切でない。
  ○社会的要請課題からビジョンを立て、そこから基礎研究へ論議が遡及することによってイノベーションが生まれるという流れもあるため、新たな知の創造と知の活用による社会・経済的価値の創造との間の結合メカニズムについて十分な検討を行うことが必要。
  ○イノベーションには、特定の目的に集中投資することによって生まれるイノベーションと予期せずに生まれるイノベーションの2つがある。学術研究が担うべきは後者だが、その内容がイノベーションにも繋(つな)がりうるという社会との接点を意識して研究を行うことが必要。
  ○「公的研究資金が国民にどのように還元されるのか」ということが、経済的イノベーションにも学術にも共通した論点。
  ○学術の社会還元として、知的イノベーションが国民にとって非常に大切であることを示すことが重要。人文社会学から自然科学まで、国民の知的欲求に対する最新情報を提供することは、教育立国であり知的水準が高い我が国の国民に対する最大の還元。
  ○近年政治的・社会的に早く・目にみえる成果をあげることを求める風潮が強いが、その必要性は否定しないものの、将来に向けて長期的な視角が必要ではないか。そのためには、プロセス重視型の研究計画も考慮する必要がないか。
  ○国力の源としての学術研究の意義を考える際に、次世代の人材育成、国際協働ネットワークの構築の論点も必要。
  ○現代的諸課題の問題の核心には近代科学が生み出してきたパラダイムを基盤とする物質主義を追求する余り、精神的豊かさを醸成する世界を置き去りにしてきた側面がある。これからの新しい時代に向けては、学術分野横断的な見地から現代の物質文明の礎となっている価値観や価値体系を改めて検証し、人類の生き方とそれを育んできた自然との共生を基本とした新しい知軸を形成することが重要。これこそ、学術を担う人たちが社会に向けて発信していく土台となるもの。
  ○学術の重要性は相対的に増している。現場の研究者は時代が変わったことを理解し、学問の現代化が必要。
  ○「国力の源としての学術研究の意義」の記述は、社会・産業界との対話と学術界との対話との、それぞれとの対話において、理解と賛同を得る判(わか)りやすい内容にしたい。
  ○一般国民の中には、学術研究の重要性を理解されている方々が既に相当いる。その方々が高額の授業料を納めて子弟を大学院に通わせているにもかかわらず、その方々の学術研究への貢献に謝意を表し、今以上の支持してくれる父母を増やすことが忘れられている。


<「財政支援関係」に関する意見>
  ○基礎研究の概念整理(純粋基礎研究及び目的基礎研究)を踏まえて予算枠をそれぞれ独立させ、それぞれの枠内での独自性の競争原理を作用させるという研究費配分の在り方を検討すべきではないか。
  ○基盤的研究費の減少による dual support のひずみの拡大とプロジェクト型研究偏重の問題について議論が必要ではないか。
  ○学術や大学を対象にして政治が指導力を発揮する場合には、とりわけ長期的に視野に立った慎重な配慮が必要であり、「大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」(教育基本法)の原点に立ち戻り検討することが重要。
  ○国の財政が逼迫(ひっぱく)している状況にもかかわらず、学術コミュニテイの利害関心を優先させて政治的主導を批判する、といった誤解を与えることのないよう、大学等が学術の将来を見据えた主体的改革を実践していき、社会に対し理解を求める努力を続けていくことが重要。
  ○研究現場においても国の厳しい財政状況と自発的な(意識)改革の必要性を理解してもらう必要がある。そのために、国と現場の信頼関係を作り、現場の共感を得るような伝え方をしていくことが必要。
  ○学術研究において、多様性・継続性を担保する基礎研究とともに、社会・経済的価値創造を目指す応用研究を推進し、両者の両立を担保することが重要であり、その視点を持ってこそ社会にも説得力が増す。
  ○ともすれば、学術研究は「研究者のわがまま」と捉えられかねないので、財政の逼迫(ひっぱく)状況を抱える現状を踏まえ、科学に対する社会の負託に応えるためにも、説得力のある方策を検討し実践していかねばならない。資源を有効に使い、知の創造と知の循環を駆動させるためにも、社会的かつ地球規模での対応が求められている課題について、学問分野を広く統合し、研究者の自主性を尊重しながらも、それをより有効に支援する方策を練ることが、結果的には広範な学術の支援・推進を保証することにつながる。
  ○国や世界の将来にとって「人類文化の原資ともいえる学術」を長期的視点に立って支える体制、すなわち、自然科学から人文・社会科学といった広範な学術を統合的に発展させ、進化させるため、複眼的な視野に立った支援・推進体制が望まれる。


<「研究環境の改善、支援体制の強化関係」に関する意見>
 ○グローバル化に対応し、広く世界から優秀な人材を集め育成するために、「学術外交」を充実させることも重要であり、そのためには大学等で学術を担う教職員の意識改革が必要。


<他の関係部会等の議論を踏まえ、学術研究推進方策全体としてとりまとめる項目について>
(異分野融合関係)
  ○異分野の連携がさけばれているが、そのためにも広い視野を育む一般教養教育の意義を再検討する必要があるのではないか。
  ○新分野が重視されるが、専門知識を十分にもっている世代はよいものの、それが欠如した次の世代が問題にならないか。
(研究評価関係)
  ○理系などの研究評価ではcitation index などが一般化しているが、数十名の著者が並ぶ論文など研究者単位で見たときに問題はないのかなど、研究評価(citation index, 著者数、人文・社会系の評価)の在り方についての検証が必要。
  ○論文数や引用数は、研究(者)の過去の状態を表すものであるため、それらよりも将来の発展可能性を見ることが重要。研究者の採用に際して、その将来性を点数化することは難しく最後は大学の主観になってしまうが、大学をどのように発展させるのかという観点から考えて採用すべきだ。その意味で、ある大学にとっていい人が、別の大学にとっていい人ではないということもあり得る。
  ○curiosity-drivenの研究は重要だが、質が担保されていることが必要。
(グローバル化関係)
  ○強固な国際ネットワークの構築、学術研究のグローバル化や研究者の国際流動性の向上が重要。「学術外交」を充実させるための戦略を練ることも重要。
(研究基盤関係)
  ○長期的に取り組む必要がある研究を行うために必要なリソースの維持・充実が滞り始め、大学において長年培われてきた息の長い学術研究が途絶えてしまうという危惧感がある。「リソースのないリサーチはあり得ない」という視点を共有することが重要。
(人材育成関係)
  ○優れた若手研究者等の次世代の人材育成と大学における教育研究の向上が必要。その際、ポスドク、大学院生への支援、若手研究者の国際交流の推進等の観点も必要。
  ○若手研究者に関しては様々な議論がなされているが、シニア研究者については、その果たすべき役割についても処遇についても余り議論がない印象。シニア研究者が与えられる環境や待遇は、研究者の道を目指すか迷っている学生たちに大きく影響するものであるため、シニア研究者の果たすべき役割とその処遇についての論点も必要。
  ○学生は社会貢献を目指しているが、大学に残っても社会貢献はできないと考えている。意志と能力のある若者が大学に残るように、学生に学術の意義や大学の魅力を伝える努力が必要。
  ○国際的視野に立った論理的思考能力やコミュニケーション能力を有する優れた人材の養成が重要。
  ○現在、独法や企業において経済イノベーションに貢献している研究者はほとんどが大学出身者であることに鑑みると、自由な発想と多様性が担保されている大学における研究教育は重要。
  ○非常に短期的にかつ多様に変化する国際産業・開発に機敏に対応できる体制を常に維持することが重要。ある専門分野を失うと、その回復に非常に時間がかかり、国際競争力という観点からは大きな遅れを余儀なくされる。そのため、現在の産業に直接結びつかない(ようにみえる)学問分野に精通している研究者も常に育成・確保することが重要。
(産学連携)
  ○日本はScience & ArtとScience & Technologyの両輪でいくべきだが、後者に関して、企業との連携が欧米やシンガポールなどと比べて有効に機能していないことが問題と感じる。企業がもっとオープンになることに慣れる仕組みを作ることも必要。


<特別委員会の進め方等について>
 ○特別委員会で行われる良い議論を意味のあるものとしていくため、強い発信力を持ったものにすべきだ。
  ○人材育成と学術研究の推進を両輪で行うこと、学術の在り方について社会からの支援を得ること、科研費の具体的な在り方について若手人材育成等を促進する観点から検討を行うことに論点を絞るべきだ。
  ○議論の最終目的や発信相手について、意識を共有しておく必要がある。
  ○文科省だけでなく国全体の研究推進方策について議論が必要。文科省が基礎的な学術研究を推進し、他省庁がその成果を活用した施策を立てるという形を提示できれば財務省に対しても説得力がある。
  ○国が何かをやろうとするときには、現場の個々の研究者にまで届く明確なメッセージを出すことが大事。

 

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