平成25年4月11日(木曜日)10時00分~12時00分
文部科学省3F2特別会議室
西尾主査、上島委員、岡部委員、加藤委員、倉田委員、後藤委員、斎藤委員、竹内委員、辻委員、羽入委員、土方委員、美馬委員、吉田委員
(科学官)美濃科学官 (学術調査官)市瀬学術調査官、宇陀学術調査官 (事務局)下間情報課長、長澤学術基盤整備室長、その他関係官
○事務局より資料1「第7期科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会 名簿」に基づき、委員の紹介が行われた。
○西尾主査から科学技術・学術審議会 学術分科会運営規則により、羽入委員が主査代理に指名された。
○事務局より資料2-1「科学技術・学術審議会の概要」、資料2-2「学術分科会における委員会の設置について」、資料3-1「科学技術・学術審議会 学術情報委員会運営規則(案)」、資料3-2「科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会の公開の手続きについて(案)」に基づき、本委員会の概要・議事運営等について説明が行われた。
※以上については、科学技術・科学分科会 学術分科会運営規則第4条に基づき、議事の内容は非公開とする。
【西尾主査】 それでは、第1回学術情報委員会の議事を進めさせていただきます。まず、審議に先立ちまして文部科学省研究振興局情報課、下間課長の方から御挨拶をお願いいたします。
【下間情報課長】 下間でございます。第7期の科学技術・学術審議会学術分科会、第1回の学術情報委員会の開会に当たりまして、局長の吉田が急な用務のために参れませんので、私の方から御挨拶を申し上げたいと存じます。
先生方におかれましては大変御多用の中、また、本日も大変御多忙の中、御出席を賜りましてありがとうございます。本委員会は、先ほど西尾主査からお話がございましたとおり、前期、第6期までは研究環境基盤部会の中の作業部会として設置をされていたわけでございますけれども、大学等における教育・研究における学術情報の重要性ということに鑑みまして、今期から特別の委員会として関係する様々な問題の御審議をお願いすることになったところでございます。
例えば教育面では、この後また御審議を賜りますけれども、中央教育審議会における審議を踏まえて、現在策定中の第2期の教育振興基本計画の中でも重要な要素として議論がされております学生の能動的な学修、アクティブ・ラーニングということでございますけれども、その推進のためには大学図書館などのスペースの確保でございますとか、教材、図書の電子化といった学術情報基盤の整備、高度化が不可欠でございます。
また、研究面でも大変大きな話題となってございますビッグデータ、あるいはアカデミッククラウド環境への対応といたしまして、膨大な情報の中から有用な新たな知見を得るために機関を超えた大量の情報流通の基盤となるネットワーク、あるいはシステムの構築などの基盤整備が必要になってございます。このほかにも研究成果の発信でございますとか、電子ジャーナルに関わる問題など学術情報に関する様々な問題がございますので、私どもといたしましては、このような課題に対しまして先生方に様々な忌憚のない御審議を賜りまして、今後の対応方針につきまして御意見を賜れればと考えているところでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
【西尾主査】 下間課長にはこの委員会の重要性を述べていただきまして、どうもありがとうございました。そういうことを踏まえながら、我々、今後議論を進めてまいりたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
それでは、次に審議する事項等につきまして、事務局より説明をいただきます。長澤室長、お願いいたします。
【長澤学術基盤整備室長】 それでは、少しお時間をいただきまして、審議事項とか引継いだ事項の資料の御説明をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
まず、資料の4をごらんいただければと思いますけれども、この第7期の審議会の第1回目の学術情報委員会でございますが、この委員会の審議事項の案ということでございます。第6期の審議会から引継いだ検討事項ということでございまして、学修環境充実のための学術情報基盤の整備ということでございます。特にこういった学修支援という観点からの学術情報基盤の整備というものが非常に重要になるということで、先ほど課長からも御説明いたしましたけれども、能動的学修環境整備の在り方、2番目は教材、授業、書籍、様々な学習資源の電子的保存・共有・普及の促進について、3番は蔵書の電子化等によります大学図書館の機能強化についてということでスペースの確保とか、情報流通についてということが課題としてなっているところでございます。
メインの検討事項といたしまして、アカデミッククラウド・データ科学の進展を踏まえました学術情報基盤の整備の在り方ということで、含めて次期学術情報ネットワークということで、今、そのフェーズとしてはSINET4ということでございますが、次の5か年のSINET、一応、5としておりますけれども、整備を含むということで、どのような整備が必要かということにつきまして、御審議をいただきたいということを考えているところでございます。特にここの学修環境のところにつきましては、様々な、これは大学ICT協議会等でも審議をされておりますけれども、こういったこと、それから、アカデミッククラウド等につきましても活発な御意見をいただいて、そのような考え方をお示しすることができればということで考えているところでございます。
この引継いだものにつきまして、資料5のところをごらんいただければと思いますけれども、この前期の作業部会におきましては意見交換というもので行いまして、相当議論はしていただいたのですけれども、最後の取りまとめ等につきましては次期の委員会に委ねたいということでございますので、そのたたき台としてのまとめのような内容につきましては、資料の5のとおり、これは前作業部会の有川主査の方でおまとめいただいた資料が資料5でございます。ただ、この不足するようなところにつきましては、次回にヒアリング等も行いながら、それから委員の先生方からいただいた御意見等も踏まえて、これを加筆・修正して、いいものにして発信していきたいということでございます。
方向性としましては、特に論点の2番目でございますが、この3ページにございます学術資源の普及につきましては、次回にこの電子図書館とか、そういった授業の可視化に取組んでおられます奈良先端科学技術大学院大学の事例の紹介、それから、学術書の電子化につきましては、慶應義塾大学の実験プロジェクトの概要につきましてヒアリングを受けた上で先生方に御審議をいただこうと思っております。その上でまた取りまとめを行い、夏頃までには報告書としてまとめていきたいということで考えているところでございます。
それから、審議事項2のSINETの関連する学術情報基盤の整備の方につきましては、特に資料6の方では、特にこの方はまとめということではなくて、ざっくばらんな意見交換を始めたということでございまして、そのときの意見交換のまとめが資料6でございますが、特に重要なのはネットワークの増強というようなインフラ的なものだけではなくて、その利活用を含めた基盤整備に対してのビジョンを総合的に検討すべきだという御意見をいただいておりますので、そのような観点でまとめて、併せてこの次期SINETの在り方についても先生方の方にじっくりと御審議をいただいて、こちらの方は今年度いっぱいぐらいをかけまして関係の方々のヒアリングということで、このアカデミッククラウドとかの現状、それから、SINETの利用状況とかのヒアリングを行う予定でおります。
それから、ユーザーの方々の教育面でのアカデミッククラウドとか、研究面でのアカデミッククラウド、それから、現在は授業の効率化という観点の利用形態が多いわけでございますけれども、関連するようなニーズを踏まえたヒアリング、そういったものを行いながら、実際の我々の方で考えるべき事柄につきまして、いろいろな御所見をいただければと思っているところでございます。
それから、その他の審議事項として想定されるものですが、前作業部会におきましては、机上の参考資料としてオレンジの学術情報の国際発信・流通の強化に向けた基盤整備の充実をまとめているわけでございますが、こういった情報発信、オープンアクセスとか、ジャーナルの深化を含めまして、こういったものに対するフォローアップ。それから、特にその他もろもろ出てくると思いますけれども、円安でジャーナルの購読料が払えなくなっていくような問題とか、それに関する評価の在り方とかというものを踏まえて、いろいろな適宜必要な事項につきまして御審議をいただきたいということを考えているところでございます。
なお、この審議事項のこの取りまとめと審議事項2の情報基盤の在り方につきましては、並行して御審議をしていきたいということを考えておりますので、よろしくお願いいたします。
資料4に基づく審議事項の捉え方につきまして、御説明をさせていただきました。具体的な引継いだ内容等につきまして、資料5及び資料6に基づいて本日は御説明をさせていただきます。資料5につきましては、このたたき台というのは相当まとまったものになっておりますが、本日、自由な御意見をいただくとともに、次回までに、もし特にお気づきの点等ございましたら、御意見をいただくというような形にさせていただきたいと思いますので、いきなりこれ、資料を見てもどうしたらいいかわからないというところもあると思いますので、御意見をいただけないところは、また次回までにいただく。それからまたヒアリング等も踏まえまして適宜いただくという形でまとめていきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
具体的な内容でございますが、まず、一つ目の能動的学修環境の整備の在り方についての考え、問題意識でございます。特にこの中教審答申等におきましては、従来の知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りながら一緒になって切磋琢磨して、その学生が主体的に問題を発見し、解を見だしていくような能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要とされているところでございます。学生には、こういった主体的な学修に要する総学修時間の確保、日本の学生さんは勉強しないと言われておりますけれども、そういった総学修時間の確保とか、それから、教員の方々には一方通行ではなくて、教員と学生若しくは学生同士のコミュニケーションを取入れた授業の方法の工夫とか、授業の準備、きめ細かな支援とか、そういったものを求められるということになってございます。
このようなことを考えますと、必要なものは能動的な環境ということで、アクティブ・ラーニングということなのでございますけれども、図書館の機能を見直すということと必要なスペースを整備するということで、各大学ではこういったスペースを用意するというところまで行っていますけれども、その先について機能しているところもあれば、まだ手探りのところというのもございまして、まちまちになっております。こういったところにつきまして、効果的な活用方法等につきましての指針を示したいというのが一番の論点でございます。
その具体的な対応として前作業部会でいろいろいただいた意見をまとめたものが、その対応というところでございますが、こういった学修環境、能動的な学修環境を効果的に整備するためには、ただ単にスペースを確保するということではなくて、組織としては図書館と情報系のセンターというものなどが、教材センターとかも含めまして、こういった学術情報に関わる組織と教育を担当する部局教員とが協力して推進する体制が不可欠だということでございます。また、内容につきましては、学修のためのそういった空間と、それから、それをサポートする、提供する、利用できるようなコンテンツの充実。それから、そういった主体的な学修を適宜補助する人的なサポート、こういったものの有機的な連携が必要という御意見でございます。
このまず一つ目のスペースにつきましても、ニーズに応じたグループ、それから、個人、様々な活動がございますけれども、そういったものに可能なスペースを用意するということでございますけれども、その際、特に求められますのは開放性、透明性の高い空間が必要だということでございます。学生さんが「見る」、「見られる」という環境の中で、ほかの学生さん等の学習意欲も刺激しながら、周辺への効果への発現というものが期待できるということで、こういった内容が必要だということでございます。それから、コンテンツにつきましては、電子媒体というものが多くなっておりますけれども、そういった電子、印刷にかかわらず、ニーズに応えて迅速に入手できるように用意するということが理想でございます。
そのとき、特に細かい内容でございますけれども、授業との関連ということで授業のサポート、連携強化というところから2枚目をごらんいただければと思いますが、授業の関連する資料というものを書架に配置したりとか、これは主にこういったものを、電子化を推進することによりまして、学生さんの利活用がすぐできる、例えば行ったけれども貸出し中で使えないとかということもないようにするという観点からしますと、こういった授業に関連するものをまず積極的に開架していくということが必要だろうということでございます。
それから、e-learningとかの環境の整備、これまでの基本的には情報リテラシーとか、そういったものはありますけれども、特にそういったe-learningの環境のコンテンツの充実とかを含めまして、その環境を整備する。それから、授業の保存・配信、電子的教材の作成とか、オープンコースウェアによる授業の公開、それから、電子的な教育環境の構築ということが必要だということで、積極的に、このまとめとしては検討すべきということになってございます。
それから、人的なサポートにつきましては、やはり学生が自主的に勉強すればいいということだけではなくて、院生の支援とか、図書館員によるレファレンス、どういった情報を取れるかというサポート、それから、必要に応じた教員の指導助言とか、そういった体制の構築も不可欠というまとめになっているところでございます。
専門的人材の確保というのがございますが、特にこういったアクティブ・ラーニングを支える人材として、デザインを担当するような専門職の人員というのが不可欠ということでございます。特に欧米等では図書館員の方々も専門職としての位置づけがございますけれども、リサーチ・アドミニストレーターのような存在のこういったデザイン担当の専門職としての人材がやはり不可欠だということでございます。そういった図書館職員の性格づけ、人材確保が重要だというまとめになっているところでございます。
それから、図書館と教員との関係でございますけれども、どういうふうな在り方が適切かということでございますが、図書館として積極的に教育面でサポートするような体制を構築していくべきだということでございます。これまでの図書館の役割としましては、資料を集めて整理して利用を促すという機能が中心的でございましたけれども、これからはやはりそういった学習支援のための資料等につきまして、学生、教員と協力して作っていくというところまで踏み込むことが重要であるということで、こういうふうな流れが定着すれば、図書館の生活はどんどん能動的なものに変わっていくということでございます。
ただ、その際、教育のデザイン自体につきましては、飽くまでもやはり教員が考えるべきことでございますので、そういったサポートするという役割が重要だということでございます。図書館は、そういったいろいろなアクティブ・ラーニングの環境を整備することによりまして、教員に対する新しい発想の構築を奨励・支援するということが重要であるということにも留意しておく必要があるということが付記されているところでございます。
それから、教員に対するFDの推進ということで、特にこういったアクティブ・ラーニングの推進ということにおきましては、教員の理解というものが必要だということでございます。こういった観点で、では、どのように学生さんにこういったスペースを利用させるかということを効果的にするためのアサインメントの出し方とか、そういったアクティブ・ラーニングスペースの活用というものを成績の一部として勘案していくようなこととかということで、こういったより効果的な学修環境を使うということが必要になる。そういうふうな内容に関するFD(ファカルティ・デベロップメント)ということで、こういった教育現場でICT技術を活用するような必要性について、そういった教員に対する啓蒙活動が必要だということでございます。
それから、情報の共通化ということでございます。大学教育としての質を保証するという観点からいたしますと、その大学教育の質がまちまちであるということは余り望ましくないということで、例えばでございますけれども、提供すべき基本的な情報については、やはり標準化していく必要があるのではないかということでございます。例示として挙げられましたのが法律学において提供すべき判例とかということでございますけれども、様々な情報の中でこういったところまではちゃんと提供しないといけないという情報の標準化というものも必要だということも取りまとめが必要だということと、それから、授業とか教育のプログラム化、ナンバリングというふうな習熟度を測るための体系化というものが必要だというのが中教審の答申には含まれておりますけれども、こういうふうな体系化が一定の共通基準におきまして開発されて、共通認識を図っていくということが必要だということでございまして、こういうことが進めば教員に対するサポートの先に図書館が自主的に資料を用意しておくということもできるようになるということで、こういったものを積極的に関与して、学術情報の整理という観点から関与していく必要があるということでございます。
学生の動向を反映した教育の展開ということで、特に大規模データ、ビッグデータという観点の一部でございますが、こういった大規模データの解析、利活用に関する関心というのは非常に高まっているわけでございますけれども、教育に関する部分の対応というものについては、一番遅れているという意見がございます。そういう観点で例えば学生さんの意向とコンテンツをどういうふうに選択されているかとか、その波及効果はどうなのかとか、そういった、学生さんがどういうふうに利活用しているかとか、それをどう生かしているかという、その教育効果とかに関する情報、ログの分析とかも含めまして、その学習に関わっている大量の情報の把握、分析というものが必要であろうということでございます。
特にこういった電子化が進みまして、学習データというものもいろいろ取れるようになってきているわけでございますけれども、こういった解析が進んでいないし、手法もはっきり固まっていないということで、こういったものを適切に解析する手法というものをまとめて、それを普及していけば、学生の学習到達度の把握とか、そういったものにも使えるようになっていくということでございまして、こういうふうなデータに基づいた教育ということが、支援というものができれば大学教育も新しい局面を迎えることになるのではないかということでございます。そのような役割として図書館、先ほどの情報系センターも含めてですけれども、こういったものを含めて大学全体として取組んでいくことが必要だろうということでございます。
それから、電子的な情報の利活用ということで、様々な文献だけでなく、教育、研究に関わるデータ、途中のものも含めましてそういったデータを集約、保存していくということが重要で、そのリポジトリを機能させながら適切に対応していく必要があるということでございます。そういった利活用につきましては、図書館と大学の職員等も協力しながら行うということで、どういうふうにして利活用していくのが適切かというふうな仕組みの開発が必要だということで、こちらの方につきましても図書館と情報系センターの連携、人事交流とか一体化というものを含めて検討していく必要があるだろうということでございます。
最後の方でございますが、今後の学習の方向性といたしまして、最近の流れといたしましては、先に知識を詰め込むような形の、従来、授業として行っていたことにつきましては、全てオンラインで済ませて、教室では双方向でアクティブな学生参加を求めるような教育手法、反転学習と言われるものの導入が進んでいるということでございます。こういったことも考えながら、教室、図書館、それ以外の空間がどういうふうな役割を果たすかという全体のデザインを追求していくということが大学としては求められているというまとめでございます。また、こういった指針があるからといって画一的になるのではなくて、多様化の確保というのは非常に重要であるということでございまして、そのような観点からユニークで効果的なアクティブ・ラーニングを展開していくことが望まれるというまとめになっているところでございます。
こういったものを中心に議論をしていたということでございまして、次に、それに使えるコンテンツという観点で資源の電子化の保存・共有・普及の促進ということがございますが、この4ページでございますけれども、問題意識としましては、各大学で有している教材とか、授業等の電子的な保存・共有・普及というのは意義があるという意見があるのでございますけれども、実際には余り進んでいないというのが現状でございます。こういったオープンコースウェアというものもある程度普及してきているわけですけれども、やはり中身は余り充実をしていないという状況がございます。授業の予習・復習などということで、先ほどもお話しさせていただきましたけれども、アクティブ・ラーニングの推進においては、こういった授業等の教材の電子化が非常に重要だということでございまして、こういったことも踏まえて学生の学習時間を増やしていくということが必要だろうと。
また、次は学術書に関連する部分でございますけれども、こういったニーズというものが高いのですけれども、こちらの方も余り進んでいないということでございます。ニーズとしては、こういった電子書籍を必要に応じて紙媒体に変えていくというふうなプリントオンデマンドという形の形態が非常に必要だということでございますが、こういったものもなかなか進展していないということでございます。
具体的な対応といたしましては、簡単に書いてございますけれども、こういった電子化をすることによりまして、学生さんがいつでもしたいときに予習・復習等の活用が可能になるということでございます。ただ、実際になぜ進んでいないかということを調べていきますと、どうしてもやっぱり教員の方々が消極的だということと、それから、著作権とか重要データを一般に電子化してしまうということに対する問題点、そういうものもあるわけでございますが、公開できない部分は制限してもかまわないんですけれども、まず、電子的な保存を一義的に進めるということが重要だろうということでございます。
こういった授業の可視化によりまして提供する大学は大学のアピールにも寄与しますし、それを活用する大学は、活用することによりまして学生のレベルアップにつながるということで双方向の効果が期待できるということでございます。特に海外ではこういった流れが積極的に進展している状況でございますので、図書館が中心になると思いますけれども、教員の方々、情報系のセンターを含めて対応して、授業を連携してこういったデジタル化の方を進めていく必要があるということでございます。
それから、学術書、蔵書等を踏まえまして電子出版に関する対応でございますけれども、これについては簡単にしか触れておりませんが、著作権の問題とか、出版社もなかなか消極的だということもございますが、ビジネスモデルを適切に構築しながら、また、適切に対応していく必要があるということでございます。
それから、3番目としては、関連する蔵書のデジタル化等によりまして大学図書館の機能強化が求められているということを付記してございます。問題意識としましては、こういった図書館の蔵書のデジタル化というものが日本の場合は特に遅れているということがございます。その結果どういうことが起こっているかというと、紙媒体を図書館の方で整理していくということの観点からしますと、書架が大きなスペースを占めている。それから、蔵書がどんどん増えていく。そういう観点で設備も必要になって資金もかかるということでございますので、こういったものを電子化等を踏まえましてどのようにして機能強化を図っていく必要があるかということが問題意識でございます。
具体的な対応といたしましては、そういった効果的・効率的な保存方法を考える必要があるということでございまして、その例示といたしましては、1にございますが、蔵書をどういうふうにして開架、そこに並べていくかというふうなこと、それから、省力化していくかということで、考え方を指針として示すということが必要だということでございます。その貴重書とか稼働率の高い書籍を中心にするとか、授業に関連する参考図書を出すとか、そういうふうなイメージでニーズの高いものは紙媒体として用意するとかしますけれども、余り使われていないものは除籍していくとか、重複するものは除籍するとかいうことも踏まえて省資源化に取組むというのがまず一つ目でございます。
二つ目は書庫を、自動書架を導入したりとか、その他、大学とは共同で遠隔書庫を作ろうという動きもだんだん出てきておりますが、こういったもので稼働率が低いものにつきましては、集中して所蔵することによりまして図書館の省スペース化を図る。3番目としましては、こういった紙媒体の資料を特に中央と部局図書館とかもございますし、大学外では国立国会図書館を含めた大学間の連携によりまして、こういった重複保存というものを抑制するようなシェアード・プリントという考え方を推進するということが、その例示として挙げられてございます。こういうことによりまして書籍の合理化等を推進しまして、利活用を促進するとともにスペースのラーニング・コモンズに転用するとかというふうな有効活用というものが必要になろうということでございます。
また、このときに必要になるのが、どうしても障害になるのが著作権の問題でございますけれども、現在の著作権の取扱いにつきましては、没後50年とかというふうなイメージになってございますけれども、特に国会図書館におきましては、取りあえず保存のためのデジタル化とか、絶版本については大学図書館への配信が可能、ここまでは広がってきているところでございます。こういったものも踏まえまして、どういうふうな形の電子化というものが適切かということについて考えながら整理をしていく必要がある。この程度にとどめているところでございます。
それから、蔵書のデジタル化による人材活用のそういった有効性でございますけれども、こういったデジタル保存というものが進展していきますと、従来、図書館で紙媒体資料の整理・管理に多く要した人材をこういった専門職としての振り分け等が可能になって、人材活用という面からもこういった効果が期待できるという側面で望ましいという御意見をいただいて、この程度のまとめになっているところでございます。この論点2、3のところにつきましては、次回に補強するためのヒアリングを行いたいということを考えておりますので、そういった側面も含めて補強をしていきたいと思っているところでございます。
それから、資料6で情報ネットワークについて、前作業部会におきましては次期SINETにどういうふうな対応が必要かというところの意見交換を若干していただいたところでございます。2枚目以降はSINETの関連する現状等を踏まえた資料になってございますので、これは飽くまでも参考資料ということで、あとごらんいただければと思いますが、前回、作業部会で出た意見につきましては、一つ目は、SINETにつきましてはNIIの運営費交付金で一括して運用しているわけでございますけれども、今般、運営費交付金が削減されているという状況がございますが、ここで確保できなくなった場合は機能が維持できないということになりますので、利用機関の負担に切り替えた方が安定するという考え方もあるのではないかという御意見もあったところでございます。ただ、こういったことをいたしますと、負担できない機関の研究者は利用できなくなったりして、大学間の共同研究の遂行に支障が出ますし、こういったものは日本全体のインフラとして整備する必要がございますので、これまでどおりNIIの方で一貫して整備していくことが必要だろうという意見でございます。
それから、次期ネットワークを整備する上での、どの程度の増強が必要かというふうな視点でございますけれども、米国、欧州等の構想に従って考えますと、400ギガビット技術というものをベースにした、将来、テラビットまでを視野に入れたネットワークの導入というのは不可欠だということでございます。それから、特に回線の国際的な連携ということにつきましては、アジア地域との関係も考えながら、こういった基盤を整備していく必要があるという御意見がございました。
それから、既に先ほど申し上げましたけれども、SINETということになりますと、単にキャリア的な発想ということになりますけれども、そういった論点では視野が狭いのでネットワークと、そういった上に乗っかるようなコンテンツの広い意味でのサービス機能を含めた情報基盤として必要性を検討するというのが自然な流れでありまして、こういった研究者の求める上位のサービスレイヤについての対応も検討すべきだということでございます。特にこういったネットワークとともにクラウドをどのように構築するかということを国益として先端的に検討していくということがこの委員会として必要だろうということが意見としてございました。
また、こういったアカデミッククラウドの関係からしますと、どうしても技術系若しくは理系という観点で検討されるわけですけれども、文系の学問におきましても、こういった膨大な情報をビッグデータとして考える必要があるということで、文系の学問でどうすべきかという議論も是非進めていただきたいという御意見がございました。また、研究面だけではなく、教育クラウドという観点での構築ということで、大学現場でこういったものをどういうふうにして活用していくかということについても十分検討していただきたいという御意見でございますので、こういうふうな御意見があったことも踏まえながら、この在り方につきまして様々な御意見をいただいてまとめていきたいと考えているところでございます。
長くなりましたが、御説明は以上でございます。
【西尾主査】 長澤室長、どうもありがとうございました。
ただいま資料の4、5、6の説明をしていただきました。前身の作業部会におきまして学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実に関して、ジャーナル支援の改善であるとか、オープンアクセスへの対応等について取りまとめがなされるとともに、学修環境の充実のための学術情報基盤の在り方についての審議が行われておりました。そのことにつきましては先ほど来、御説明がありますように最終的なまとめに関しては、この委員会に宿題として引き継ぐということになっております。
本委員会では、先ほど長澤室長から説明がありましたように、夏頃までを目処にしまして、資料5に関しましては取りまとめを行うというのが一つ大きな課題でございます。皆さんお気づきのように、おおむね必要な事項は記載されておりますので、これにプラスアルファでどういうことが大事なのかとか、既に記載されてあることでもう少しある部分は深堀りすべきだとか、そういう段階に来ているかと思います。具体的には、学修環境の充実、特にアクティブ・ラーニングということを踏まえた上での環境整備についての取りまとめを行うというのが一つ大きな課題でございます。
並行してアカデミッククラウド等の推進に必要な環境整備の検討を行うということになっておりまして、その基盤としてSINETのことについては、今後、議論を十分に深める必要があると思っています。これに関しましては、今年度末ぐらいを目処に方向性をきっちり出していかないと、国の重要施策への反映とかいろいろなことを考えますと、時機を逸してしまうと思います。ただし、来年度の概算要求への反映等が必要になるような緊急の事態が生じた場合、これは6月頃が時期的にもギリギリのところかと思うのですが、早急に何らかのメッセージをこの委員会から発信していくようにしたいと考えております。そういうことによって日本の科学技術・学術の進展を促す情報環境を少しでも良い方向に持っていくということに関しては、この委員会が非常に大きな責務を持っていると思いますので、それは臨機応変に対応する必要があると思っています。
学術情報は大学における教育研究の基盤でありまして、その発信、流通、利活用に関することについては、以上で述べたこと以外にもいろいろな課題がございます。前の作業部会の審議のまとめのフォローアップを含め、その他状況に応じて審議を要する事項が生じた場合には、適宜対応するということにしたいと思いますので、委員の皆様にはどうか協力のほどをよろしくお願い申し上げます。
この委員会に御参加いただいている皆様方には前身の作業部会からの委員の方もございます。今日、新たに加わっていただいた委員の方もございます。今日はせっかくの第1回でもございますし、そういう意味では、両方の委員の方々のある種の意識合わせをしておくことも兼ねまして、資料5、あるいは資料6の説明等を踏まえまして、今後の審議に向けた意見交換を今日は是非させていただければと思います。
特に今の内閣の下で情報教育、例えば、情報機器を使ったいろいろな教育に関しましては、今後、それをより強化するという方針が出ています。具体的には、中学、高校においても生徒のコンピュータ利用環境を良くすることをサポートするような方針が出ております。日本が情報通信分野の国際競争力において、世界中で17位、18位とかになっている一つの要因としては、いわゆる学校教育においての情報機器を徹底的に使った教育がなされていないということがあります。トップグループであるデンマーク等においては、そのような教育が徹底して行われています。
そういうことも踏まえて、最初の学修環境充実というのは大きな課題だと思いますが、先ほど長澤室長に御説明いただいたように、今までこの課題に関する議論は長くいろいろ続けられてきておりまして、その上で、実際にどのようなブレークスルーを起こしていくのかということの観点からの議論は必要かと思います。
それと、SINETの問題、これはNIIの方に非常にお世話になりながら日本の学術情報環境のネットワークを支えていただいているわけですが、予算削減等で今後不測の事態等が考えられる場合への対応も含めて、この環境をどのようにして維持、発展させていくのかということが大きな課題です。日本が世界に向けて科学技術、あるいは学術に関しての先進性を維持する上でも非常に大切なインフラですけれども、そのような観点のもとで資料5、6に関して、いろいろ御意見をいただきまして、その中で今後こういうことを議論すべきだというようなことがありましたら、是非御提案いただければと思います。どなたか、どうでしょう。羽入先生、どうぞ。
【羽入主査代理】 御丁寧な御説明をいただきまして、今、西尾先生がおっしゃっていたように、ほとんどのことがここにもう書かれていると思います。それで、資料5に関してですけれども、確かにアクティブ・ラーニングのために情報環境が学生にとって重要であるということは、どなたも否定しないと思うのですが、そうすると、ここの委員会では学術情報がアクティブ・ラーニングにとってどういう働きをすべきかというようなことも一つ視点として基本的に持っている必要があるのではないかという気がいたします。そうすると恐らく情報環境としての情報の質の問題とか、安全性の問題とか、そういう論点も出てくるのではないかと思います。それが一つです。
それからもう一つは、先ほどブレークスルーをどう起こすかと西尾先生はおっしゃっていましたけれども、そのときに鍵になる、恐らく人的な役割を果たす人たちというのは、ここにもありますけれども、図書館の職員であり、そのの専門性がやはり一番鍵になるのではないかという気がいたします。そうすると、その方たちの学内での位置づけとか、あるいは専門性をどこで養うのかというような、その教育環境、専門家の教育環境を考えなければいけないだろうと思います。
こういう観点から少し気になりましたのは、資料5の2ページのアクティブ・ラーニングにおける図書館と教員との関係ということの2パラグラフ目のところに、「教育のデザイン自体は飽くまでも教育担当教員が行う」というのでいいのかなということです。つまり、もう少しイーブンである立場の方がいていいのではないかということです。
【西尾主査】 最初のところでアクティブ・ラーニング等を推進していく上で、情報の分野としてどう対応していくか。羽入先生から御指摘いただいたことで大切なことは、そこで提供される情報の質であるとか、その安全性であるとか、そういう重要事項が本当に学生にとって保証されたものを提供できるようになっているのかどうなのかということは、これは非常に大きな問題かと思います。それと、今、羽入先生から二つ目で御指摘いただいたのは、アクティブ・ラーニングを進める上では、それが行われる場所として図書館を想定するにしても、対応できる人材をそれなりの数をそろえておくことが大切ではないかということでした。
最近、ビッグデータに関しましてはデータサイエンティストという言葉が非常にクローズアップされていて、そういう人材を早く育てることが大切だということですけれども、羽入先生がおっしゃいましたように、図書館においてアクティブ・ラーニングに対応できる人材の育成が大きな問題になることは必至だと思います。それと、今、羽入先生から御指摘いただいたことで非常に大切なこととして、担当教員だけではなくて、図書館側の職員の方々とイーブンな立場でアクティブ・ラーニングを考えていくことが、お互いの理解を深め、高度なアクティブ・ラーニング人材を育てていく上ではキーになるのではないかと思います。どうもありがとうございました。
ほかにどうでしょう。どうぞ、倉田先生。
【倉田委員】 今の羽入先生の御意見、私も大変同感するところが多い点なのですけれども、これを読ませていただきまして、項目というか、トピックは確かに大変よく含まれていると思うのですけれども、視点と申しますか、もう少し整理できるのではないかなと思えたところがございます。一つはやはり今、西尾主査からもありましたように、人的な課題でして,職員、教員の枠を超えた新たな専門職というものが、いわゆる中間的な専門職というのでしょうか、それは別に図書館員とかに限る必要は全くないわけで、非常に広い意味でいろいろな場面で必要になっていくのではないかと思います。そこのところは、もちろん今までも言われてはいるのですけれども、そこに対してもあえて体制として組織的に、そういうところに踏み込んだ、ここはもう少し強い主張があってもいいのではないかなというのは思いました。
もう一つは、アクティブ・ラーニングといったときに教育と研究が何か分割されて、教育は教育、研究は研究というふうになってはいけないのではないかと思います。羽入先生がおっしゃいましたように、アクティブ・ラーニングにおいて学術情報はどういうふうに働くのかといったときに、それはやはり一体化して働くという一種のサイクルのようなものを想定していくべきではないかと思います。教育と研究がばらばらということはあり得ないわけで、特に大学院等の教育においては、もはや院生は一種の研究者でもあるわけですので、そういう研究をしながら、そのデータを使ってアクティブ・ラーニングの素材にしていくという、そういうようなところがもう少し出てほしいなという感じがあります。それを行うためにもやはりオープンであるということであるとか、共有を支える何か仕組みというところが必要なのですけれども、そこがやはり教員が単に消極的というのは、もちろん大変だとかいろいろあると思いますけれども、それだけではなくて、やっていいのかなというのが不安だというのも結構あると思うんですね。
例えば大学院などで文献講読の授業で,その文献を勝手にネット上に上げていいのか。これ、上げるとまずいわけですよね。それはどこどこに見に行けといっても、まあ、見に行くその手間を惜しむ学生では困るのですが、でも、ただ指示するということも重要だと思うのですけれども、ある種の教材パッケージを作ろうとかしたときに、もう作ろうとした瞬間から著作権はどうなるんだろうということが心配に思えてしまう。それから、それを更に使って学生が何かレポートを書いたりしたものをみんなで回して議論しようとかといったときにも、その場がある程度セキュリティがかかった内部のものであれば問題ないと思いますけれども、それを何か例えばレンタルサーバーで軽くやろうとか思ったら、それは途端に駄目になってしまうというような、詳しくないと余計それが不安になりますし、ちょっとわかっている人間は逆に今度は怖くなってなかなかできないという状況があります。教員に対してのFDであるとか、様々なそういう、もっと積極的になってくれというのであるならば、元のところでいろいろなことがある程度自由にできるのだということを保証するような、そこのところをもう少し考えていけたら、もう少しスムーズに支援体制も考えられるのではないかなということを感じました。
【西尾主査】 倉田先生に質問なのですけれども、例えば、システムとして著作権のことをオープンにしてしまうと問題であるということでよろしいですか。それとアクティブ・ラーニングに適したような情報プラットフォームのソフトウェアとか、そのようなものはあるのでしょうか。
【倉田委員】 私もあれば本当にいいなと思うのですけれども。
【西尾主査】 ああ、そうですか。
【倉田委員】 というか、これは美濃先生とか、システム系の先生方の方がよっぽどお詳しくていらっしゃると思うのですけれども。
【西尾主査】 わかりました。
【倉田委員】 単純なソフトウェア、今いろいろな形で提案されていると思うんですね。でも、いわゆる帯に短し、たすきに長しでして、実際に何も知らない教員が使おうとすると、何かやっぱり使いにくいなと思ってしまう。ただ、何もないわけではないので、そこをもう少し、あともう一歩簡単にできるようなものがあればというのはすごく思います。
【西尾主査】 どうもありがとうございます。
美濃先生、何かコメントないですか。
【美濃科学官】 教育の支援システムというのは、教育する人の意向にかなり関わってくる。だから、アクティブ・ラーニングをしよう、何々をしようとしても、どういうことをその先生が望んでおられるかとか、そういうことがまずあって、それをベースに議論することは重要だと思うんですね。どうも我々情報技術の専門家は先にシステムを作って、これを使いなさいというようなことを言っている。この考え方を少し直すべきだという気がするので、アクティブ・ラーニングを本当にするのだったら、どんな環境が必要かを探り出すことが必要だと思います。
もちろん、オープンにされた教材も要るでしょう、e-learning教材を作りましょうという話も必要でしょう、リポジトリみたいな研究文献も必要でしょう、というのは、概念的にはわかるんですね。けれど、何を狙って教育するか、なぜこういう資料にアクセスするような授業をしたいのかということなど、教育をされている人からの要求というのをある程度つかまえないと、なかなか本当に使ってもらえるシステムになりませんので、そのあたりも踏まえて議論する必要があるのかなと思っています。
【西尾主査】 どうもありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。資料の6のSINETの関連、アカデミッククラウドの関連でも結構ですし、今後どういうことを議論しておくべきかという観点で何かございませんか。竹内委員。
【竹内委員】 竹内でございます。今回の資料5につきましては、前期に千葉大学で現在進めております活動について報告させていただいたことがコアになっているようなので、何となく座り心地が悪いところがございます。先ほど倉田先生、そして美濃先生から御発言があったことに少し関連して申し上げますと、学術情報を能動的学修環境の中でどう使うかという点について、これは羽入先生もおっしゃいましたけれども、大きな考え方をここで明確に示しておかないといけないのではないかと思います。自由にアクセスできるものについては,教育、学習の場において自由に使うことができるのだということを明確に言うことではないかと私は考えております。従来の図書館の立場から申し上げれば、いわゆる書誌情報というのは広くみんなが使うという環境でずっとやってきたと思いますので、教育、学習に必要なリソースを発見していくための環境を整備し、なおかつそれらを自由に使えるということについて今一度確認しておく必要があるかと思います。
それから、教育をする側から見た場合に学術情報基盤がどういう形で必要かということに関しては、すでに指摘があったとおりかと思いますが、今日の高等教育の議論では学習という観点が非常に強く出ております。それゆえ,教育をする側ではなくて教育を受ける学生たちが情報をどのように使っていくか。そして、いかに彼らに情報利用を含め,学習を能動的にできるようにするかということが重要になってきておりますので、今の学生たちが情報機器、SNSとか、モバイル環境も含めて、そういったものを使っていく中で、学習のための資源を彼らにとって使いやすくしていくということも議論の中では必要になってくるのではないかと考えます。
【西尾主査】 最初のところで学術情報をいかにアクティブ・ラーニングに有効に使うのかということに関して、資料5をよりインパクトのあるものにしていくとしたら、今後、具体的にどのあたりを追記していったらよろしいんでしょうかね。何か竹内先生としてご提案、アイデアとかあったら是非いただけると非常に有り難いと思うのですけれども、そこら辺どうでしょう。
【竹内委員】 その辺は難しいですが、最初にやはり大前提としてそれを明確に打ち出すか、あるいは学習資源の電子的保存・共有・普及というところで言及するかのいずれかではないかと思います。
【斎藤委員】 よろしいですか。
【西尾主査】 はい。
【斎藤委員】 先ほど倉田先生がお話しされたことで少し単なる思いつきなんですけれども、私、この資料5のたたき台を読ませていただいて、図書館には行かなくなった理科系の人間にとっては、ほとんど論文はPDFでとりますので、単行本というのはほとんど我々は使っておりません。教科書などは自分で買いますので。ところが、やはり新しい雑誌とかは今どんどんオンラインで見られますけれども、では、どの雑誌を見たらいいかとか、そういうことがなかなか教えてもらえないところの研究室もあると思います。
私のかすかな記憶ですと、学生のときに最初に論文を見たときに、まず「et al」って何のことかわからなかったですね。こういう基本的なことは今、Googleサーチしましたら、「et al」が何かについては教えてくれます。こういう基本的なことは今現在ではネットの巨大な空間の中でいろいろな人が教えてくれますから、そういうことはいいのですが、もっと深い、その分野に特化したようなことですと、なかなか教えてくれる先輩がいないような研究室もあると思います。
そこで少し浮かびましたのが一種のコールセンターのようなものですね。日本全国、どこからでも日本語、あるいは留学生を考えれば英語で対応してくれるような人が常に待機している。そういう人たちを雇用していただいて、あるいは図書の司書の方も参加していただく、そういうものがあるとアクティブ・ラーニングにはいいかもしれない。ちょっと思いつきました。といいますのも、これはポスドク雇用問題にも関係してきますので、できればテニュア付きで、テニュアのある、しかし、安いんだけれども、テニュアのあるコールセンター要員、もちろんPh.D.が必ずこれは必要条件ですが、そういうものを今少し思いつきました。
以上です。
【西尾主査】 今の斎藤先生のお話はスケールの大きな話で、大学という枠に閉じずにサイバー空間の中に各々の学術分野ごとのコールセンター的な機関を設けるということですね。その分野を学ぼうとした人が、全部自分自身で検索して調べていくというのではなくて、何らかのサポートをしてくれるようなコールセンターを設置すると、アクティブ・ラーニングを支援する学修環境という観点からも大変役立つのでしょうね。しかも、そのサポート要員としてポスドクの方々を雇用するとポスドク問題の解決の一助にもなるのではないかということでしたけれども。
どうぞ。
【上島委員】 上島でございます。今、斎藤先生がおっしゃったように、人をどのように配置するか大変重要だと思います。去年の前身のこの会議で竹内先生から御紹介がありましたURAの枠を図書館に利用できれば、支援人材と位置付けられればというのがございましたけれども、それは大学としてそういう人を配置するという位置づけではないかと思っております。また、斎藤先生、今、西尾先生がおっしゃったように大きなセンターとして作ろうという発想でお話しになったと思いますけれども、大学個々でもURAのような人材というのを置くというのは非常に価値があるのではないかと思います。このURAについては、私どもの大学でも少し考えましたが、研究のコーディネーションという形で目的が設定されていまして、図書館のために使うということは難しかったのですけれども、こういったURAに限らず、制度的な面を少しサポートできるようなことができればと思いました。
それからもう1件。この今日の議題の中で学修環境と、それから、学術情報ネットワーク、あるいはクラウド、SINETといったシステム面が教育と研究という形で分かれているように思います。羽入先生がおっしゃったようにその間の関係を如何に作るか、あるいはリンクをするかというようなところもこの委員会で是非何か深めていければいいのではないかと思いました。
以上でございます。
【西尾主査】 貴重な意見、どうもありがとうございました。
そうすると、能動的学修環境の議論におけるこの学修環境を効果的に整備するためには云々というところで、図書館というのが一つ重要な場所にはなっているのですけれども、図書館だけにこだわってしまうのはよくなくて、もう少し新たなコンセプトを持ったサポートセンターを考え、ネットワークを介していろいろなサポートをしていく形態も考えられる、という趣旨のご発言かと思います。しかも、そのようなセンターにおける人員配置が一つの大学では難しい場合には、一つの大学の枠を超えて、広域の複数の機関で共同してセンターを運営していけば、人的な面でも効率的に運営できるのではないか、というような御意見と考えてよろしいですかね。
もう一つは研究と教育は切り離して考えることができない、という御意見は非常に大切かと思います。美馬先生、いかがでしょうか。
【美馬委員】 今日初めてこのメンバーの方にお会いするので、自己紹介も少し兼ねながら、今回の議題全般についてお話をさせていただきたいと思います。私は公立はこだて未来大学、2000年に開学しましたけれども、情報系の単科大学ですが、その計画策定を空間から、カリキュラムから教育方法まで全てデザインしてまいりました。主となってやってきました。その中で当時は2000年開学ですから、アクティブ・ラーニングという言葉はなかったのですが、そういった空間とカリキュラムも踏まえて全てやってきて、今、13年間の経験から言えることというのがあります。また、そのことについては少し前なのですけれども、東大出版会から2005年に『「未来の学び」をデザインする-空間・活動・共同体-』という本でまとめさせていただきました。
その後の新しいことなのですが、今、高等教育における学習支援の在り方ということで、この2年ほど米国を中心に調査してきています。その中で、ここで手短にお話ししたいのは、米国における学習支援組織の系譜ということで、大衆化を既に経験している大学が、まず1965年に米国では大学進学率50%を突破して、そのときに読解、作文の支援が必要だというのでライティングセンターというのができ始めました。これは授業外の支援ですね。そういうスペースも用意した。1990年になって進学率が60%を突破したところでラーニングセンターというような、名前、いろいろほかのものもありますけれども、できてきて、そこでは理数科系の科目と学習方略の支援、学び方、学ぶことをどう学ぶかというようなことを教えることが始まり、それが2005年ぐらいになってから図書館との融合というのが起こりラーニング・コモンズという概念が出てきました。
そういう中で、図書館の中の場所とか、人材とか、資源とか、その機能、そういったことが議論されて、ラーニングセンターの、米国の学協会ができ上がって、その中で表彰されているところを幾つか訪問調査してきました。そこで重要だとされていたことは、運営するのに5原則でインクルーシブ、インテグレート、プロアクティブリー、コラボレーション、リスポンシビリティ、つまり、全レベルの学生を対象とすること、重複したサービスをなくすということ、既存のリソースを有効活用するということ、スタッフ間で協力し合うということ、そして責任を持って取組むということ、こういったことが主に考えられて、こういう組織ができてきたわけです。そういう中で重要な役割を果たすのが、今日いろいろお話が出てきています人材です。専門人材。
それには二つの種類があって、一つはファカルティの中でもリサーチファカルティ、ティーチングファカルティ、そのほかにスペシャルファカルティといって、こういった組織を責任を持って運営する、統括する人。その組織には教員もいますし、それから、スタッフ、それはスペシャルスタッフですね。単なる一般職ではなくて、先ほどから議論されているような図書館の司書のようなものもありますけれども、それを超えてラーニングデザインを行う人たち、それからあとは映像の資料を管理検索などを行うアーキビストというのもその中に入ってきていて、ビッグデータを扱う。このあたりが日本としては教員、職員のある程度の別の専門職というか、そういうものが必要だと思いました。
今後の議論については、ここの委員会の中で一つ一つの項目は大事ですけれども、例えば今日、アクティブ・ラーニングという言葉で示されていましたけれども、それが全体として皆さん持っているイメージというのはそれぞれ違うと思うので、まず、どういう環境が、理想とする場かをみんなで描いて、共通イメージを持った上で、どういう空間にするのか、どういう活動をそこで行うのか、どういうラーニングコミュニティが教職員も含めてでき上がるのか、その中でどういう道具、ツール、メディアを使うのか。では、その中でデザイナーというのは誰がどういう形でやっていくのかということが必要だと思います。
以上です。
【西尾主査】 貴重な観点、ありがとうございました。今後の議論でアクティブ・ラーニングを行うスペースを考えた場合に、今の美馬先生のお話しでは、米国におけるラーニング・コモンズは、図書館から発展してきているとのことでした。美馬先生としてアクティブ・ラーニンに関する議論を今後深める上では、物理的なきっちりとした図書館なりというスペースがあって、そのようなスペースでのアクティブ・ラーニングは、先ほど来いろいろと意見が出ておりますサイバー空間にセンターを置くという場合と異なり、別の何か大きな意義があるということでしょうか。そこら辺をお伺いしたいのですけれども。
【美馬委員】 学生に対する学習支援ということを考えたときに、人的にも空間的にもリソースというのは大学で限られています。そうすると、どこが今活用できるのかというところもまずあると思います。そういう中で授業以外のところ、授業を何とかするというところ以外のところの学習空間というのはやっぱりライブラリー、図書館だと思います。その中で限られたスペースをどう活用していくかという中では、今までの、今回、議論になる蔵書をどう電子化していくかということで、そこにスペースを作ることができるということと、それから、そこにいる、今日も図書館司書の話が出ていますけれども、そういう人材、そこもそれと同時に変わらなければいけないということもあって、図書館が一番、どの大学においても使いやすいのではないかと思います。
【西尾主査】 なるほど。いただきましたご意見も含めまして私としましては、ここでの議論というのはやはり大学のある物理的な空間があって、そこに人が実際に来ることを想定しながら、そこでのアクティブ・ラーニングというものをどう展開していくのかを議論したいと考えます。ただ、これは斎藤先生のお話と全く切り離しているわけではなくて、そういう物理的な空間に外部からネットワークを通じてアクセスするということも構わないと思います。ここでは、大学として今後新たな教育とか研究を促進する空間として非常に大きな意味を持つであろう図書館、さらにはそこから発展したラーニング・コモンズと呼ばれるような空間が、どのようにアクティブ・ラーニングに関わっていけるかということを議論の焦点の一つとして持ちたいと思います。そのようなことでよろしいでしょうか。
【羽入主査代理】 よろしいでしょうか。
【西尾主査】 はい。
【羽入主査代理】 おっしゃるとおりです。考え方を少し整理しておく方がもしかしていいとすれば、サイバー空間とリアル空間でのアクティブ・ラーニングの意味のようなものを考えていく。
【西尾主査】 両方とも議論していくということでしょうか。
【羽入主査代理】 そういうことが必要になるかもしれないような気が今してまいりました。
【西尾主査】 わかりました。
どうぞ、加藤委員。
【加藤委員】 科学技術振興機構の加藤でございます。今のお話に関わるのですけれども、学術情報というものをどういうふうに捉えるかといったときに、各大学で共通的に使うような情報、その研究室なり、先生なりが個別に使う情報と分けて考える必要があるのかなと思っております。大学、図書館、それぞれが個々に電子化をしていくということではなくて、電子化したものは共通的に利用できるような仕組みを作っていくということが必要だと思うんですね。それ以外にも日本の電子ジャーナルをどういうふうに使うかということで、共通的なものは皆さん方が使えるような、そういう形にしていく必要があるのではないかなと情報の側面から捉えていくということも重要ではないかなと思っております。
もう一つは、これは一般的な話で申し訳ないんですけれども、アクティブ・ラーニングをやっているのは、一般的な大学生よりも大学院生はむしろアクティブ・ラーニング的な動き方をされているのではないかなというふうに、すみません、素人なのでわかりませんけれども、そうしますと大学院生に向けたアクティブ・ラーニングというものを考えて、それを大学生に適用するみたいな、そういうような考え方もあっていいのかなと思っております。
それから、JSTの中で、科学技術振興機構、JSTなのですけれども、データベースの非常に緩い形のリンクの仕方ということを幾つか取組んでおりまして、ジャパンリンクセンターということで、DOIというアドレスを共通化するということをやっておりまして、そうしますと、各大学でいろいろなものをオープンにいたしますと、それが共通的にどこからも使えるというような同じような仕組みでできるようなこともございますし、それから、バイオサイエンスデータベースセンターというのが今動いているところなのですけれども、それは各省庁の研究者の情報を全文検索で検索できるというようなことも動いています。これも非常に研究者一人一人が実はそういった全文検索のインデックスを作ってやるという、各大学が作ることによって全員使えるようになるというような仕組みなどもやっておりますので、具体的なことになりましたら参考になるのではないかなと思っております。
【西尾主査】 加藤委員は、JSTの情報流通関係を担当なさっているのですけれども、先ほど倉田先生、上島先生もおっしゃった意味で、大学院生に関して研究と教育がサイクリックに影響を及ぼし合っている状況の中で、加藤委員のおっしゃっているように大学院というところは自然にアクティブ・ラーニングは相当行われると思うのですが、私は学部レベルにそれをどれだけ広げていくかということが、今後、日本の教育というものを考える上では非常に大切であり、更に高校にまで広げて行くことが重要だと思っています。そういう方向に向けての議論も今後できたらと考えております。
岡部先生、ネットワークの専門家として、SINETなどに関して何か御意見ございますか。
【岡部委員】 私は今期から委員に加えていただきまして、私自身は国立情報学研究所の客員としてSINETの検討については、SINET3の前の時代からずっと関わっております。今日、この資料6に挙げていただいている次期SINETについての検討事項は、国立情報学研究所の中の作業部会でも正に同じようなことを検討しておりまして、意識は共有しているところです。一方、この学修環境充実の方は今日初めて勉強させていただいたというのに近いところですけれども、その中で感じましたこととして、SINETをどうしていくかということについては、特に国の予算が非常に厳しい中で、どうしていくか、これは何回も検討しているところで、ここに挙げられたような費用負担の在り方、あるいは全国一律のインフラにするのか、あるいはこのいわゆるグランドチャレンジを目指すトップ研究プロジェクトのようなところについて少し別の考え方をするのかということも議論になっているところです。
今日、この資料5の方の議論との関係で思ったことは、資料6の三つ目に研究者の求めている上位のサービスレイヤについての対応を考慮する。これも国立情報学研究所の中で何度も検討されていることで、すなわち単なる土管ではなく、本当に研究者の求めているネットワークになるべきだという議論をしております。ただ、その上位のサービスレイヤが何なのかというところについては、十分に定義し切れていないというのが正直なところで、国立情報学研究所の中では、今日は喜連川先生がおられないので恐縮ですけれども、例えばCiNiiという電子ジャーナルコンテンツのサービスもやっていますし、リサーチマップという研究者の情報発信ということの活動もやってきている。そういうものは、当然、ここの期待されるサービスレイヤの中の一つだと思います。
ただ、それだけではないだろうということですね。今日、この資料5の方の話を思いまして、あるいは先ほどから何度も皆さんがお話しされている大学院レベルにおいては教育と研究は切り分けられないものである。あるいは先ほどから西尾先生もおっしゃった、大学院で研究できるような人材をいかに学部レベルから育てていくかということからすると、正にアクティブ・ラーニングということも、その上のリサーチそのものにつながるアクティビティとして、このSINET、あるいは学術情報ネットワークが支えるべき上位レイヤのサービスではないかということを感じました。そういうことで、この資料5の課題と資料6の課題は独立ではなく、ここで一緒に議論することによってシナジーが生まれるのではないかと思ったところです。
以上です。
【西尾主査】 どうもありがとうございました。
どうぞ、辻委員。
【辻委員】 私、企業の研究所に所属しているものですから、ついついその視点からでこの資料も拝見させていただいているのですけれども、例えば大規模データの解析、利活用という話題がこの中に入っておりまして、企業で研究しておりますと、どうしてもそのコンテンツ、データそのものがいわゆるビジネス価値を生むものである。なので、どうやって囲い込むかというところが実は最重要課題になってくるわけでございます。ただ、この大学の場合ですと、これはどれだけ裾野を広げて研究をより拡大させていくかというところが教育であり、かつ研究の広がりを生むというところだと思うんですね。なので、ここでは、先ほどSINETの話もございましたけれども、そういったものも最大限活用して、いかにその研究データの共有も図っていけるか。それがまた教育の方にもいい影響を及ぼしていくではないかというところを強く感じました。
【西尾主査】 どうもありがとうございました。
吉田委員も企業のご立場から是非クラウドとか、いろいろ御意見があるのではないでしょうか。
【吉田委員】 自己紹介も含めて若干御説明させていただきますと、富士通で実は私、クラウドのサービスを実際構築して、今、グローバル、世界6拠点ぐらいでクラウドのサービスを本当に動かしてやっていただいている、お使いいただいている、そういう立場なんですね。逆にこの教育とかって全くわからないので、いいかげんなことは言えないと思うのですが、おっしゃるように、これをお伺いしたときに別の話ではないなと思いまして、当然、そういうインフラがあった上で、例えばこういう教育があるとか、そういう形になるのだろうなと。
それからあともう一つ思ったのは、やはりクラウドの実際面からいろいろ何かインプットできたらと思うのですけれども、例えば我々、お客様、どっちかというと企業のお客様にクラウドを使っていただくとか、ビッグデータも実は私のところでサービスをやっていまして、ビッグデータの分析サービスみたいなのをクラウドでやっているんですよ。そういうのも少し作ったりしているのですけれども、そうしますとやっぱり企業ですから、それがお客様に対してはどういう効率化ができるとか、どういうイノベーションができるとか、あるいは例えばクラウドを使うとスモールスタートできますとか、あと、早く事業が立ち上がりますとか、そういう御説明をしているわけですよね。
それから、ビッグデータについても、こういうふうに分析するとお客さんのビジネスにこういうふうに、例えばもっと露骨に言うと、売上げが上がりますとか、そういう訴求をするわけです。それがこういう分野でどういうクラウドのメリット、あるいはビッグデータを使うことのメリット、何を目的としてそのクラウドやビッグデータをお使いになるのか。恐らく少し違うと思うんですね。早くビジネスが立ち上がるというのは、例えば教育の場合は多分全然違っていて、もう少し人材育成みたいな話でしょうから、そういう意味でクラウドとかビッグデータって、今、言葉が非常に氾濫してはいるのですけれども、こういう分野でクラウド、ビッグデータをお使いになる。どういうクラウドやビッグデータのいいところを利用して本当にいいものにしていこうとしているのか。そこをもし議論させていただけたら、逆にそういうインプット、我々も是非いただきたいですし、クラウドがそれに対して何ができるかということは、我々の方からお話しできるかなと思っております。
【西尾主査】 どうもありがとうございました。吉田委員には是非今おっしゃったようなお立場からいろいろ意見を賜ることができれば有り難いと思っています。アカデミアの分野においてもクラウドという環境をどのように構築していくのか、それでどういうメリットが有るのかということに関しては、今後、議論をしていくことになります。特に、日本全体としてどのようなアカデミッククラウドを構築していくことによって、日本の学術、科学技術の進展を図っていくのかというのは、緊急的な問題です。特に大学などの場合ですと、マルチベンダーの多様なサーバーにデータソースが格納されており、そのような環境においていかにシステムを連携させてクラウド的なサービスとして価値ある情報を獲得するかが非常に重要になっています。そのような観点からは、企業にとってもチャレンジングな課題は多分にあると思っておりまして、今後ともいろいろ貴重な御意見をいただければと思います。
先ほどセキュリティということでは、データのセキュリティなどは非常に重要だと思いますが、後藤先生、いかがですか。
【後藤委員】 情報セキュリティ大学院大学の後藤でございます。この委員会に初めて参加させていただきます。まず、資料6の、これから考えるクラウドの基盤について一言申し上げたいと思います。ここでアカデミッククラウドという言い方があるのですが、昨今の情勢から言っても産学共同の取組みによる研究活動が増えていることを考えると、だんだんアカデミアとインダストリーの境目が減ってきていると思います。さらに、昨今、セキュリティの世界では、いわゆる閉じた空間というのは作れなくなっていることを想定したセキュリティ対処策が重要になっています。特にクラウドは、オープンなクラウドである、と覚悟して、情報を守ったり、データを管理しなければいけないと言われております。そういう意味で境界線がない世界において、アカデミアでの利用が中心とはいえ、ネットワークと上位のアプリケーションも含めた土台をどのように作っていくべきか、が大事なポイントだと思っております。そういう意識で、今後の資料6の課題については貢献させていただきたいと思います。
同じく資料5の方も勉強させていただいているところでございます。ここでは著作権とか、そういう課題も出ているわけでございます。この法律の面ついては私自身は素人でございますけれども、よく言われるのは、IT技術の進歩に比較すると法律は後からできますので、必ず「遅れ」があります。これは別に法律の方がさぼっているからではなく、当然のこととして遅れが存在します。そうすると、最先端の技術を使うとどうしてもそれに見合った法律がないものですから、研究者や技術者は、どうしようか、となってしまいます。特に日本人は生真面目なので、まず、安全サイド、つまり、やめておこう、控えておこうになってしまって、それが研究開発に関しても、企業活動に関しても萎縮を生んでしまっていると思います。
この資料にありますように、このような環境でいろいろなチャレンジをなさることに関しては、技術進歩と法律に時差があることを理解しあうこと、例えば、もし後で悪いこととわかったら止めればいいんだよ、というぐらいの、社会的なおおらかさが大事だと思います。又は文部科学省さんから「それは大丈夫だよ」とお墨付きをもらえたり、後で問題が起こったならやめればいいんだからというぐらいの、そういう仕組みがあると本当はうれしいのではないかと。そうするとみんなチャレンジしやすくなり、著作権の問題についても、ちょっと危ないかなと思ってもやってみる。もしクレームが出たらやめればいいじゃないか。そういうおおらかさを是非持ちたいなと思っています。
あともう一つ、人材の件です。実は私も長く民間にいたため、その立場からです。人材に関しては民間企業の場合は常にキャリアパス、つまり、ある人材を確保したら、その将来、5年後、10年後どうなっていただくのかということを常に考えます。辻委員が一番プロでございますけれども、そういう観点が大事だと思うのですが、そういう意味で先ほどの図書館の専門の方とか、そういう方というのは社会全体というか、アカデミア全体でどう獲得し、その後どう育てて、どうなっていただくのかというところまで踏みこんで考えていかないといけないのだろうなと。そのあたりについて、私に知恵があるわけではないのですが、是非この場でも検討いただければなと思っております。
以上でございます。
【西尾主査】 いくつか非常に貴重な観点を御指摘いただきましてありがとうございました。法規制との関わりについては、日本の大学では、何か問題が生じた場合のことが恐ろしくて、結局、コンサバティブに動いてしまいます。そこら辺は、米国などにおいては、今、後藤先生がおっしゃったように積極的なアクションを取ります。そういうところがさまざまな活力を生んでいる源泉だと思います。どうもありがとうございました。
土方委員、何か是非出版業界からのご意見はございますか。
【土方委員】 出版業界というのは、これから先いろいろ出てくると思うのですが、このアクティブ・ラーニング、まあ、アクティブ・ラーニングという言い方がいいのか、協調学習というのがいいのかわかりませんけれども、基本的にそれがやっぱり学生の評価にどうつながったかというような、そんなところが一つ前提にないと、皆さん、どこの大学さんもアクティブ・ラーニング、アクティブ・ラーニングとは言うんだけれども、本当にそれで成果があるのだろうかといったところが一つ大前提としてあってもいいのではないかな。モデルとしてもあってもいいのではないかなと思いました。
それからもう一つ、我々もいろいろとお手伝いします。こういうラーニング・コモンズなどのお手伝いをするのですが、空間なら簡単にできてしまうのですが、それを動かしていく、共同体を動かしていく人がいない。大手の大学さんはいいんです。地方などに行きますと、そういう方がいらっしゃらない。そういう人がいないと実際に動かないというので、そういった人が流動的にできるような仕組みというのも一つあってもいいのではないかなというのはあります。
それから、三つ目として場所ですね。こういうようなラーニング・コモンズの場所が何で図書館でなければいけないんですかとおっしゃる方も結構いらっしゃいます。別の場所でもいいのではないか。例えばコンピュータセンターもあるしとか言うのですが、私は図書館に近いところに、図書館の中にあるべきであろうと。それはやっぱり利用できる資料もあるわけですし、もっと言いますと、アクティブ・ラーニングということも必要なのでしょうけれども、日本の学生さんは、ここからちょっと、私、本屋なので、本を余りにも読まない。例えばアメリカの大学生だったら、4年間で300冊ぐらい平気で読むのに。
でも、日本の学生も読むようにするには、一つはアクティブ・ラーニングをきっかけにしながら、そっちの方へ持っていきたいなというのがありまして、そのときには紙でもいいし、電子でもいいし、何でもいいんですけれども、そういったことをやらないと、いわゆる主体的に動くという能力だけではなくて、リベラルアーツ的な基本的な知識の習得というものも絶対必要になると思っていますので、そういった観点からも図書館にこういうアクティブ・ラーニング、あるいは協調学習の仕組みを置くべきではないかなと私は若干自分の欲も含めて考えております。
以上です。
【西尾主査】 なかなか本質を突いた御意見でございまして、アクティブ・ラーニングがどれだけ効果を生んでいるのか、そこら辺の客観的な評価ができているのかということですね。それから、やはり、アクティブ・ラーニングを推進するには、それを支える人材が重要であることを再確認しました。特に、そのような人材がいないと、何かのチャンスで環境整備をする経費が充当されたとしても、その先進的な環境が全然生かされないというような状況も土方委員は見て来ておられるというお話しは大切な教訓になりました。それから、アクティブ・ラーニングが日本の学生の読書力の向上に資することにならないのかということまで、非常に貴重な御意見でした。アクティブ・ラーニングに関しては、今までそこの効果などについて客観的に論じられているのでしょうか。羽入先生、どうですか。
【羽入主査代理】 中教審のこれにアクティブ・ラーニングということの定義が書いてあるので先ほど見ていたのですけれども、きっとそれで学習効果が高まるだろうという期待の下に使われている用語かなと思うのですが、ただ、主体的に学ぶという、その学びの場だけではなくて、主体性を持った行動をするということを今の教育の場では重要視しているということは確かだと思いますし、それはどういう効果がどういうふうに表れるという数的ものよりも社会全体のアクティビティを高めるという意味での期待かなと私は理解しておりましたが、先生、どうですか。
【西尾主査】 どうもありがとうございます。
美馬先生、何か御意見ございませんか。
【美馬委員】 これは学習理論等で出てきていることですけれども、人は協調的な活動の中で、複数人と活動する方がよく学ぶというのはありますね。一人でいろいろ考えているよりも、「学習の共同性」といいますけれども、その方がいろいろな視点が出てきて、自分の考えもまとめて話さなければならないという状況におかれるということです。もう一つは「学習の社会性」というのがあって、社会的な文脈の中で社会的に意味のある活動を伴ったときに人はより深く学習する。学習が動機づけられるというような話があります。
そういった中で1点だけ、すみません、先ほどのこういった学習支援全体の在り方の中でキーになっているのが、人材育成ということもそうなのですけれども、そこで出てくるのはピア・チュータリング、学生同士が教え合う。あるいはラーニンググループ、学習グループをいかに作っていくかという、そのときにこういう情報のメディアとかツールがいかに利用されるかということで、そのチュータートレーニングのプログラムと、それから、チューターをトレーニングする人たちの、さっきから出てきている専門人材のトレーニングのプログラムというのも実はアメリカで認証制度がもうできておりますので、そういうのも今後参考になるかと思います。
【西尾主査】 今、おっしゃった学生同士がお互いに教え合うということの素晴らしさについては、実は私もイギリスにおけるカレッジの良さを調査に行ったときに実感しました。カレッジの中では、下級生が大学の授業についていけなさそうになると、上級生がメンタリングを本当に親身になって行います。そのようなことが、学生の質を保っている源泉の一つだと言っていました。日本において、上級生が下級生にメンタリング、あるいはチュータリングするというようなことが本当に効果的に行われているかどうかということは非常に疑問なところです。そのようなことと関連して、情報通信技術がどう生かされるかということをきっちり考えていくことは重要なことかと思っております。
美濃先生、どうですか。今までお聞きになって、何かご意見はありませんか。
【美濃科学官】 おっしゃるとおりでやはりアクティブ・ラーニングというのは、どういうものかというイメージが大分違うので、多分、その辺を明確にしなければいけない。
それともう一つ、少し気になるのは、アクティブ・ラーニングというのはもちろんディスカッションベースでやろうということですが、その前の段階で多分、知識を得るために自学自習をやらなければいけないと思うんですけれども、その過程を何らかの形で記録していかないと、どの程度勉強したかというのはわかりません。講義で学生を見ていても、勉強してきて意見が言えないのか、勉強せずに意見が言えないのかという話がわからない。そうするとやはりe-learningをやったか、やっていないかとか、そういう学習ログデータを集めていくことがすごく重要になってくると思うのですが、多分、学生の教育研究活動に関するログデータというのは、個人情報に当たるか当たらないかというような話が出てきて、これは大学内ではいつでももめています。
基本的には、ログデータは大学が教育研究目的で行う大学内の活動の結果だから、学内で利用することは問題ないと言うのですけれども、個人情報を拡大解釈されるというか、これは使ってはいけないとか、授業をしている以外の先生が見てはいけないだとか、いろいろな議論が出てくるんですよね。このあたり、もし機会がありましたら、こういう場で整理していただいて宣言していただくと、多分、教育データの利活用というのが進むのではないかと思いますので、そんな議論もやっていただけたらいいかなという気がします。
【西尾主査】 アクティブ・ラーニングに関する委員の皆様のイメージに関しては、美濃先生に御指摘いただいたとおりでなのでいろいろイメージがあるかと思います。そこで、資料5の最初の中教審の答申で書かれていることをような学習形態をアクティブ・ラーニングだということで、この委員会では議論はしたいと思っています。
その上で美濃先生がおっしゃったことは、アクティブ・ラーニングをすることによってどのような効果が出ているのかを単に議論するだけではなくて計量的に評価して、それをもとに新たな方法を開発し、次の世代に継承していくことが重要であるということだと思います。つまり、定性的な議論だけではなくて、土方委員もおっしゃいましたように、客観的な評価のもとに遂行することが大切だと言うことだと思います。ただし、そのように進めようとしても、いつもどうしても問題になりますのは、個人の多様な学習プロセスのデータが評価に関わってきますので、それが個人データとしての保護の観点に抵触してしまうのではないかとか、ということです。このような問題が十分に想定される中で、例えばこの委員会としては、そのような重要なデータに関しては、個人情報保護の対象外とみなしましょうとか、そういうことをきっちり議論し、発信しましょうということですね。
【美濃科学官】 そうですね。そういうことがないと、各大学でそんな議論ばっかりして、不毛な、と言うと問題かもしれないのですが、なかなかデータ活用が進まない、データ共有が進まないという現状がありますので、文部科学省がこう言っているというとみんな黙るのではないかと思いますので、そういうふうな形ができたらいいという気がします。
【西尾主査】 わかりました。先生からいただきましたご意見については、資料5を今後より充実した内容にしていく過程で工夫をしていきたいと思います。
そろそろ時間も来ていますので、今日いただきましたことは非常に大事なことですので、それなりに整理して今後の議論に生かしたいと思います。なお、資料5、あるいは資料6に関して、委員の皆様方から今日は十分に言うことはできなかったのだけれども、こういうことがどうしても重要だと思ういうようなご意見を後からいただければと思います。これについては長澤室長の方から期限を切って皆様方に意見を是非お寄せいただければと思います。本日は貴重な御意見、また、コメント等ありがとうございました。事務局の方と一緒になって整理しまして、今後の議論に生かしたいと思います。
最後に、参考資料の説明を事務局からお願いいたします。
【長澤学術基盤整備室長】 手短にさせていただきます。参考資料として、まず1でお配りしておりますのは、科学技術・学術審議会において議論していただきたいという上での野依先生の発言の概要ということでございます。特に科学技術の指標が低迷しているのですけれども、そのためにはやはり大幅なシステム改革が必要だということで、すぐれた若手、女性、外国人とかのリーダーへの登用が必要だということとか、ファンディングの仕組みはこれまででいいのか。それから、アカデミアのイノベーションへの貢献度が低いということで関連しますと、研究活動に対して論文指標以外の評価法の確立というのは不可欠ではないのかということで、これはジャーナルに対する対応とも関連してきますけれども、こういった評価手法の確立が不可欠ではないのか。
それから、人材養成という観点で、これもこれまでの議論に関わりますけれども、企業に入ってから再教育が必要な学生を育成していいのかという観点からしますと、高等教育、大学院教育の抜本的な改善が必要だということで、こういったことを踏まえながら審議会で議論をしていただきたいということでございます。参考資料2は検討課題ということでございますので省略をさせていただきます。
それから、この背景的なデータといたしまして、平成24年度の学術情報基盤実態調査の結果報告の概要と、それから、冊子をお配りしておりますけれども、このようなまとめたものがございますが、若干置き換えていきますと、ただいま3ページのところでは図書館の経費というのが減少しているとか、それから、ジャーナルに関する経費というものが、そのうちの、これは7ページのところでも半数ぐらいを占めている。各全ての大学では、このジャーナルの経費に218億円も負担しているというデータも出ております。それから、そのデータ的なものからしますと、10ページのところにアクティブ・ラーニングの整備というのがあるのですけれども、空間を整備する図書館の数は確実に増えている。あとはどういうふうにして使用するかという観点が今後問題になってくるのではないか。
12ページのところに図書館の管理、運営に関する課題というのがありますが、先ほど来出ております専門性を有する人材の確保というのが最も大きな組織運営の課題で、経費としてはやはりジャーナルの購入費とか、スペースの狭隘化の解決というのが非常に重要な問題になっているということを掲げてございます。コンピュータ、ネットワークに関連するものでございますけれども、特に23ページのクラウドの運用というところで、55%は運用しておりますけれども、他機関と連携しているというところがまだ11%ぐらいしかないというところがございます。課題意識としましては、24、25のところにございますが、技術職員の不足というものと、それから、コンピュータ、LANの経費に係る確保が問題。それから、その内容としてはセキュリティ対策というものが課題として挙げられているという調査結果が出ておりますので、こういうようなものも適宜ごらんいただければと思っております。
資料の御説明は以上でございます。
【西尾主査】 それでは、次回は学修環境の充実に向けた有識者ヒアリングということで、先ほどもお話がありましたように奈良先端科学技術大学院大学と慶應大学の活動を御紹介いただくということを予定しております。事務局より、最後、次回のこと等について連絡がありましたらお願いします。
【長澤学術基盤整備室長】 本日の会合の議事録につきましては、先生方に御確認をいただいた上で公開をさせていただきたいと思います。氏名等も公表させていただくということを御了承いただきたいと思っております。
それから、次回は5月17日の金曜日の1時から3時まで、場所はこの近くの3F1会議室を予定しております。当面の予定は資料7のとおりでございます。
それから、本日の配付資料につきましては、席上に残していただければ、事務局より郵送させていただきますので、よろしくお願いいたします。
以上でございます。
【西尾主査】 それでは、これで閉会といたしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
―― 了 ――
首東、佐藤
電話番号:03-6734-4080
ファクシミリ番号:03-6734-4077
メールアドレス:jyogaku@mext.go.jp(コピーして利用する際は、全角@マークを半角@マークに変えてください)