資料1-1 大学の革新的な機能強化・イノベーション創出のための学術情報基盤整備について -クラウド時代の次期学術情報ネットワーク(SINET5)の在り方- (審議まとめ)【案】

大学の革新的な機能強化・イノベーション創出のための学術情報基盤整備について
-クラウド時代の次期学術情報ネットワーク(SINET5)の在り方-
(審議まとめ)【案】

1.はじめに

 情報基盤は、現在では、あらゆる社会的活動の実施において欠くことのできない重要な要素となっており、進展の著しい情報通信技術(IT)の動きを的確に捉え、適切かつ迅速に取り入れつつ、必要な環境整備を図らないと立ち後れてしまう情勢にある。
 我が国の大学や研究機関等(以下「大学等」という)における教育研究活動を支える情報基盤(学術情報基盤)については、コアとなるネットワークインフラとして国立情報学研究所(NII)が学術情報ネットワーク(SINET)を整備・運用しているが、今後の我が国の社会発展を左右する学術の振興や大学等の教育研究活動の実施において、世界をリードするためには、最新のITを活用した情報流通・共有の促進を確実にサポートする基盤整備としてSINET等の高度化が不可欠である。
 このため、学術情報委員会では、今後、大学等の機能に様々なイノベーションをもたらす重要な効果が期待されるクラウド化(コンピューター資源を仮想空間で共有・利活用する手法)への対応を含め、大規模化・ボーダーレス化する大学等の情報流通を支えるネットワーク環境構築のために必要な基盤整備の在り方について、審議を行い、結果をとりまとめたところである。

2.知識基盤社会の形成に不可欠なネットワーク環境 

1)社会的背景等

○ 資源のない我が国がこれまで発展してきたのは、勤勉な国民性及び優れた学術研究に裏打ちされた卓越した科学技術とそれを支える優れた教育・人材育成に基づき形成された高度な知識基盤社会にあることは疑いようもなく、現在、我が国が抱える国際競争力の低下、少子高齢化の進展等の構造的な課題を乗り越えて、豊かな社会を形成していくためには、今後も大学等を中心に、更なる知識基盤の強化に取り組むことが不可欠である。

○ しかしながら、科学技術指標2013(文部科学省科学技術・学術政策研究所による調査)の示すとおり、日本は、論文数、被引用数の多い注目度の高い論文数のいずれにおいても、世界シェア及びランクが低下しており、主要国の中で唯一伸び悩んでいるという状況から、日本の論文生産の約7割を担っている大学における研究力の低下に対する懸念も拡がっている。

○ その理由については様々な要因があると考えられるが、文部科学省科学技術・学術政策研究所の実施した「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2013)」によると、「我が国における知的基盤や研究情報基盤」の充分度に関する指数は低下傾向にあり、特に、大学関係者の回答結果では「不十分」という認識になっていることから、関係する基盤整備に遅れがあることは明らかである。

○ 一方で、大学等の教育研究活動等の機能強化に関連して学術情報基盤整備の重要性を示す様々な政策提言が以下のとおりなされており、今般、日本学術会議からも「我が国の学術情報基盤の在り方について-SINETの持続的整備に向けて-」(平成26年5月9日)が取りまとめられた。

○ 「世界最先端IT国家創造宣言について」(平成25年6月閣議決定)においては、「情報通信技術(IT)は万能ツールとして、イノベーションを誘発する力を持っている。さらに、ヒト、モノ、カネと並んで「情報資源」は新たな経営資源であり、その活用こそが、経済成長をもたらす鍵であり、課題解決につながるとし、世界最高水準のIT社会を実現する。」と明示され、具体的な対応として、「ビッグデータやオープンデータに期待されるように、分野・領域を超えた情報資源の収集・融合・活用により新たな付加価値を創造する」ことや「安全で信頼できるサイバー空間の構築や国境を越えたサービス等のネットワーク活用の深化の流れに対し、グローバルな情報の自由な流通空間の拡充等に向けて、国際的な連携も図りつつ、取り組む」べきことが指摘されている。

○ 教育振興基本計画(平成25年6月閣議決定)においては、緊急性の高い大学教育改革に関連して、「アクティブラーニング等のための教育の質的転換として、ICTの活用に関し、近年急速に広まりつつある大規模公開オンライン講座(MOOC)による講義の配信やオープンコースウェア(OCW)による教育内容の配信など、大学の知を世界に開放するとともに大学教育の質の向上にもつながる取組への各大学の積極的な参加を促す。」こととされており、これらの流通において、情報ネットワークの整備は不可欠である。

○ 研究基盤に関しては、第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定)において、「デジタル情報資源のネットワーク化、データの標準化、コンテンツの所在を示す基本的な情報整備、領域横断的な統合検索、構造化、知識抽出の自動化を推進する。知識インフラとしてのシステムを構築、展開する。」ことが求められており、大学等で生産される研究成果やデータなどのコンテンツの共有・利活用を円滑に進め、更なる研究発展につなげるための環境として、情報ネットワークを整備していく必要がある。 

2)学術情報基盤としてのネットワーク整備の方向性 

○ 我が国の学術情報基盤に関しては、コアとなる情報ネットワークインフラとして国公私立大学共用のSINET(Science Information NETwork)が整備され、SINETを通じて、大学等が互いの情報資源の流通を促進させることにより、横断的な教育研究活動を支え、科学技術・学術の振興に大きな役割を担ってきている。SINETについては、5年ごとの整備方針・計画を策定した上で整備が行われているが、上述のような大学等の機能強化における情報ネットワークの重要性の高まりとともに、諸外国の類似のネットワークと比較しても整備が遅れている状況にある中で、我が国におけるこれからの知識基盤社会の構築において不可欠な基盤であることを認識し、環境整備を進める必要がある。

○ 特に、平成28年度から展開する予定の次期SINETの整備にあたっては、今後の普及・発展が見込まれる大学等における情報システムのクラウド化の流れを念頭に置きつつ、大学間の共通基盤として、必要な強化に着実に対応することが求められる。 

3.大学等におけるアカデミッククラウド環境の構築について

1)クラウド化の動向 

○ 近年の情報基盤整備の流れとして、国内外、官民を問わず、クラウドの時代と言われるほど、コンピューター資源を仮想空間で共有・利活用するクラウド化を導入する動きが顕著になっている。

○ クラウドコンピューティングとは、データセンターで運用されるコンピュータ資源に対し、必要に応じて、情報ネットワークを通じてアクセスすることにより、外部からサービスの提供を受ける利用形態である。クラウドサービスを活用することにより、コンピュータ資源の可用性が促進され、情報の分散管理の一元化、システム維持に必要な設備投資の抑制、情報基盤の質的・量的高度化へ対する負担軽減、環境変化への迅速性の確保等、多くのメリットがある。一方で、外部の情報基盤を活用することから、情報セキュリティの確保、サービスの継続性等に対する不安を課題として指摘する声もある。

○ 我が国の大学等でもクラウド化の必要性が認識されつつあるが、文部科学省の「アカデミッククラウドに関する検討会」提言(平成24年7月)において、「アカデミアにある膨大なデータを連携し、高度に処理・活用するデータ科学を高度化する共通基盤技術の開発やアカデミッククラウド環境の構築により、新たな知の創造、科学技術イノベーションの創出、社会的・科学的課題解決につなげる必要性が高まっている」ことが指摘されているように、クラウド化には様々な側面でイノベーションを創出する効果が期待されることから、大学等は積極的に取り組むべきである。

○ 大学等におけるクラウド導入は、その目的が主に教育支援、研究支援、管理運営支援の3つに区分される。その意義としては、単に経費的な節減効果が見込まれるだけでなく、ネットワークを通じて、各機関の持つ情報資源やシステムを共有し、どこからでもアクセスできる環境が整備され、データや資料等の相互利用を促進することによって、大学等に様々なイノベーションを誘発し、総合的な機能強化、さらには我が国の大学等全体の水準向上を図ることにある。

○ 学術情報基盤実態調査(平成25年度)では、全大学の63%がクラウドサービスを導入し運用しているものの、そのうち59%は機関単独で実施している。また、その内容については管理運営業務(69%)と教育業務(68%)が主体となっており、研究業務での活用は25%にとどまっている。

2)アカデミッククラウド環境整備の方向性

 文部科学省では、大学等におけるより有用性の高いクラウドの導入促進についての検討を行うため、アカデミッククラウドの環境構築の在り方に関する調査研究(代表者:岡田義広九州大学教授)を平成25年度に実施しており、その成果も踏まえ、アカデミッククラウド環境の整備の方向性を整理すると、以下のとおりである。

(1) 支援目的ごとの方向性

○ 教育支援

【方向性】
 (1)アクティブラーニングとしての双方向型のe-learning、OCW、MOOC、遠隔講義等、ITを活用した多様な教育スタイルの実現、(2)授業等における活動状況から取得・集積する教育・学習情報のデータベース化による個別指導(eポートフォリオ)や学習管理システム(LMS)の運用、(3)教員の作成する教育コンテンツの共有・利活用が進み、全国的な教育の質的向上・保証が見込まれる。

【導入事例】
 京都教育・大阪教育・奈良教育の3教育大学では、遠隔授業の情報基盤整備環境を統一し、SINETで連携することにより、他大学の学生も授業担当教員とコミュニケーションが可能になる双方向型の遠隔授業を実現するとともに、受講した他大学の授業を単位認定することにより、互いの教育レベルの質的向上を図っている。
 また、四国地区では、香川大学、徳島文理大学等の国公私立大学8大学が連携して遠隔講義とe-learningを活用して教育コンテンツを共有する取組を実施している。

【課題及び留意点】
 eポートフォリオ、LMSの導入ニーズは高いが、個人情報保護の観点から当面はオンプレミス型(機関内に閉じた状況)での利用が継続する可能性が高い。学生用端末システムのクラウド化はプライベートクラウド型を基本として検討が進みつつあるが、PC必携化としてのBYOD(Bring Your Own Device)対応(個人所有機器の活用)については検討が進んでいないという状況である。
 今後、クラウド化を一層促進するためには、システム導入コストの低下、学外接続ネットワークの高速化、セキュリティ・プライバシーの強化が必須である。
 なお、IT、ネットワーク環境を活用した教育の普及により、従来型の授業が不要になるのではないかとという意見もあるが、これらはあくまでも補完的な役割として、反転学習など学習スタイルの高度化や効率化を進めるものであり、教員の対面指導による授業を否定するものにはなりえないことに留意する必要がある。その上でクラウド化を支援していく体制整備が必要である。

○ 研究支援

【方向性】
 (1)情報基盤の共有により、ビッグデータの解析によるデータ科学、スーパーコンピューターと連携したシミュレーション科学、ネットワーク型の大規模科学等、大量データ流通を伴う最先端研究の推進、(2)異分野融合研究など、研究コンテンツの共有・利活用による効果的・効率化な進展、(3)研究データ・データベースの遠隔バックアップによる相互保全等の促進が見込まれる。

【導入事例】
 北海道大学では、計算資源(サーバーやシステム)をクラウド上に構築することにより、スパコン並みの性能を有する計算環境と利用者が需要に応じて占有できる効率的な運用を実現している。

【課題及び留意点】
 研究環境として、仮想空間による最適な計算資源の構築・提供やデータ処理システムの連携、開発したプラットフォームやソフトウェアの共有による高度化を進めるとともに、運用体制として、継続性の確保、全国共同利用サービスとしての提供、認証やセキュリティなどの管理面での統一的な仕様やポリシーの策定が重要になる。
 なお、クラウドの規模に関しては、全国一体型、地域連携型など、資源の集約化やシステムの合理化を図る一方で多様性を持ったシステム基盤を構築することにより、自然災害の発生や単一技術に依存するリスクを軽減する体制の整備も必要である。
 また、クラウド基盤の連携により、より高度な環境を実現するインタークラウドの展開も重要であり、そのために民間や外国との人的交流の促進も必要と考えられる。
○ 管理運営支援

【方向性】
 (1)事務系及び大学経営に関わる管理運営サービス(学務系システム、経費管理システム、人事管理システム等)の仮想空間による運用、(2)情報ネットワークを活用したシンクライアントやBYOD等による情報基盤の効率化等を通じ、システムの機能強化と経費抑制の両方を実現する環境整備の進展が見込まれる。
 クラウド運用による業務システムの標準化・共有化により、開発コストや運用コストの削減、サービスの迅速化、関連する設備投資の合理化等の効果が得られる。

【導入事例】
 静岡大学では、業務運営に関わる基幹システムのクラウド化を図ることにより、サーバや端末等の設備投資や光熱水量等の維持管理経費を大幅に効率的したIT環境を構築している。

【課題及び留意点】
 管理運営サービスは、汎用的なシステムとしてクラウド化を進めやすい部分であるが、その場合、BCP(災害時等の事業継続計画)対策とSLA(提供サービスの保証契約)への対応は不可欠である。その上で、学内に存在する多種多様なシステムについて、クラウド化による統合を進めるべきである。
 なお、パブリッククラウドの活用について、現状では、個人情報保護を含むセキュリティへの懸念からあまり進んでいないが、安全性に配慮しつつ促進させることも重要である。

(2)クラウド環境構築に必要な事項

○ ネットワーク
 アカデミッククラウドの普及において、最も重要なインフラが大量のデータ流通を支える高速情報ネットワークの維持であり、クラウド化の進展に伴って、帯域不足になることを懸念する声が大きい。そのため、学術情報ネットワークのバックボーン(基幹的な部分)となるSINETの整備は重要である。また、情報ネットワークの環境として、一般的に、機関間ではSINET、機関内では自機関で整備したネットワークを活用することになるが、特に、機関とSINETを接続するアクセス回線の高速化が遅れていることも課題となっている。

○ セキュリティ及びプライバシー
 セキュリティ対策は、アカデミッククラウドの展開において極めて重要な課題である。情報ネットワークの運営過程において常にセキュリティを強化していく視点が重要であり、厳しい状況でも予算を確保し、維持していくことが不可欠である。文部科学省の調査研究結果におけるインシデント発生経験30%という数値は、残り70%は気づいていないと考えるのが妥当であり、利用者側で守ることは困難であることから、情報ネットワークの入口で防止すると同時に大学側のセキュリティも強化する仕組みを考える必要がある。
 また、データプライバシーの取扱に関しては、適切なガイドラインを策定・共通化し、事前に公表しておくことが重要になる。

○ 認証
 多様なユーザーが複数のサービスを共有するクラウド環境を効果的に利活用するためには、機関間での認証機能の統一化、認証連携が不可欠になる。そのためには、既にNIIが提供している学認のトラストフレームワークを最大限に活用することが現実的であり、そのメリットを生かして、シングルサインオンでの利用環境の実現を図るべきである。

○ 人材育成
 大学等の内部に、教育・研究・管理運営業務と情報基盤整備との関係を理解し、安心して仮想空間や情報ネットワークを利用できる環境の整備について支えられる人材を養成する必要がある。その際、個人情報保護、機密情報保護、BCP対策、SLA標準化等に対応できる人材も必要になる。
 また、クラウド化を想定した新しい情報ネットワーク技術の導入に対して、管理者及び利用者への適切な教育を実施することが求められる。

○ 意識改革
 大学等において、活動全般の高度化・効率化につながるアカデミッククラウドの導入によるメリットは非常に大きいが、これらのメリットが教職員等に正しく理解されていないこと、また、必要以上にセキュリティ等のリスクを問題視することにより活用が遅れている状況も見受けられることから、NII等において、アカデミッククラウドに対する理解を広く深めていくための取組も重要である。

○ 運用ルール
 クラウド環境の構築にあたっては、海外を含めて、関係する機関が様々なデータを共有することになることから、フォーマットの標準化等の取組とともに、データ管理における制度的、法的な側面を含めて、クラウド基盤の運用ルールを整備しておくことが不可欠であり、関係機関における検討が求められる。 

4.次期学術情報ネットワーク(SINET5)の整備について

(情報ネットワーク整備の方向性)
○ 大学等のおける情報環境は、今後、通信とクラウドが一体となって高度化され、セキュリティ技術の進歩により、学生・研究者に必要なサービスは仮想空間を活用して提供されることが一般化すると考えられる。クラウド化は、内容に応じて、パブリッククラウド、プライベートクラウド、クラウドの連携など、様々な形態が想定されるが、いずれの活用においても、高速、安全、高機能なネットワーク環境への接続ニーズが拡大していくことは必至であり、その中核となるSINETの強化に対する要求も一層高まることが予想される。

(国立情報学研究所(NII)の役割)
○ SINETについては、NIIが中心となって運営されているが、情報基盤の構築にあたっては、各大学等が独自に整備するよりも、共通するニーズを踏まえ、連携し共同で対応することにより、大幅な合理化が可能になる。そのため、大学共同利用機関として、情報学分野における研究開発から基盤整備、啓発活動、人材育成までを幅広く対応しているNIIがとりまとめを行っている。NIIではSINETの運用に関して、ユーザーである大学等のニーズをとりまとめ、一元的に整備することで、高速、低価格、安全安心な情報ネットワーク環境を提供するとともに、最新の研究開発の成果を反映させることにより、情報ネットワークの継続的な高度化とサポートを実現してきた。こうした対応は、他の機関や商用の情報ネットワークでは実現できないものであり、今後のアカデミッククラウドの展開においては、更に高度な情報技術の連携が不可欠になることから、NIIの果たす役割はより大きくなるものと考えられる。

(SINET4の現状)
○ 現在、SINET4では、約800機関が参加し、約200万人のユーザーが利用している。整備する回線の帯域としては、最も強い部分でも東京ー大阪間で40Gbpsが2本であり、それ以外は、10Gbpsもしくは2.4Gbpsという状況である。そのような中で、冗長性を確保し、東日本大震災にも耐えた信頼性の高い情報ネットワークを維持してきた。SINET4としては、当初計画にあった「主要な拠点への回線は40Gbps回線を束ねて100Gbpsを超える帯域にする」環境を実現できておらず、研究分野によっては、データ流通を情報ネットワークではなくディスクに保存した形での輸送に頼らざるを得ない状況も生じている。そのため、NIIでは、学術情報ネットワーク運営・連携本部を設置し、大型研究や教育利用のニーズを調整しつつ整備することにより、ユーザーの教育研究にできるだけ支障が出ないようにしてきている。また、国際共同研究等において、大型の共有研究装置を用いた大量のデータ流通が活発になっており、高速安定のネットワーク環境整備とともに、海外の類似の学術情報ネットワークとの接続が不可欠であることから、我が国としても相応の学術情報ネットワークを構築する必要が生じている。海外では、米国や欧州、中国など、国内外を問わず100Gbpsがベースになっているが、SINETでは、日米間において10Gbpsを3本整備した状況にとどまっており、その増強が強く望まれている。一方、機能強化の側面では、大学における情報蓄積や流通量の増加から生じるクラウドサービス需要に応えるため、商用プロバイダーとの接続を進めており、現在、10カ所を設定し、安全性の高いプライベートクラウドとしての活用を可能にしている。

(次期SINET(SINET5)の整備)
○ アカデミッククラウドの普及に向けて、その基盤となるSINETでは、効率的なデータ流通のための更なる高機能化が不可欠になる。また、スパコン等の計算資源を連携したシミュレーション科学やビッグデータ解析によるデータ科学の推進、大学間の教育研究情報利用のためのプラットフォームの構築、MOOCやOCWなどの機関を越えたオンライン教育の進展等に伴って、大量の情報流通ニーズがオープンアクセスやオープンデータの流れに乗って加速することになる。こうした動きに合わせて、フィージビリティとして、400Gbps、さらには1Tbpsのオーダーに耐えられる最先端のネットワーク技術開発を進めつつ、これらの情報資源をユーザーが安心して利活用できる環境を整備することが、科学技術の発展、それを支える人材育成を促し、我が国の競争力を強化する上で重要であり、そのため、基盤となる情報ネットワークの強化ととともに、セキュリティ対策の高度化、サービスの標準化・共通化を推進する必要がある。

(1) 必要な回線確保

〔国内回線〕
 各機関では、これまで、学内は高速、学外接続はニーズとコストを考え低速な回線整備となっている状況である。今後は、情報量の増加とクラウド環境による機関内外の境界が消失することになり、学外でも学内と同程度の高速ネットワークが必要になる。
 これらの需要増に効率的に対応することが不可欠であり、SINET5では、専用線を確保するのではなく、ダークファイバー(通信事業者の余剰回線)を活用する方法への転換を図ることにより、安価で高速な回線確保を実現する。
 また、従来、各機関の接続回線をつないで中間とりまとめ的なノード校を通じてSINETに接続していた方式を改め、SINETに直接接続するインターフェイスを設け、各機関からはダークファイバーを活用するなどして、ノード校を経由せずにつなぐ方式にする。アクセス回線は各機関負担であるが共同調達により経費を節減し、その結果、学内からSINETを経由して他機関やデータセンターまで高速を維持することを可能にする。
 このダークファイバーの活用は沖縄以外で可能であり、沖縄との間では従来同様の専用回線が必要となるが、ほとんどの国内環境において100Gbps単位の情報ネットワーク整備が効率的に実現できる見込みである。
 次期SINETにおいては、回線の強化とともに必要な冗長性を確保する観点から、早急に各都道府県に100Gbpsで複数接続できる高速ネットワーク環境をバックボーンとして全国に構築し、今後の情報ネットワーク需要を踏まえて、更なる増強を図ることが適切である。これに合わせて、各大学等がアクセス回線の確保に努めることにより、我が国全体の情報ネットワーク環境の充実が実現する。

〔国際回線〕
 最先端の研究開発においては、大型の研究装置や大量データ共有による国際共同研究の進展により、国際間の情報ネットワーク増強が不可欠な状況にある。
 既に諸外国の学術情報ネットワークは100Gbps規模の増強が進んでいることから、我が国においても日米間の回線増強など、対等な環境整備が求められている。また、日本ー欧州間に関しても、北米経由で流通している現状から、データ利用に遅延が生じてきており、シベリア経由の回線整備が望まれている。

(2) 最新ネットワーク技術の導入
 SINET5では、安全安心のクラウド環境を提供する情報ネットワークを整備するため、情報ネットワーク利用におけるセキュリティ強化自体をクラウド化する。ファイアーウォールやIDSという侵入検知システム等をクラウド化し共通化することにより、中小大学も情報ネットワークにおけるクラウド環境を維持することが可能になる。
 また、セキュリティと合わせて重要になるのがユーザーごとの権限に応じて情報を利用できるようにする認証の仕組みであり、NIIが整備する学術認証フェデレーションである学認を共通仕様とすることにより、学外の様々なクラウドサービスにもシームレスにアクセスできるようにする。
 さらに仮想情報ネットワークを実現するため、最新の情報ネットワーク技術であるSDN(ネットワーク構成を需要に応じて柔軟に変更する技術)とNFV(セキュリティ機能等をクラウド上の汎用サーバに実装し、コスト削減を図る技術)を用いて高効率で高セキュアな環境を整備することで、情報ネットワークの高度化を推進する。

(3) コンテンツの利用環境
 情報資源は貴重な資産であり、大学における教育研究成果の流通促進も極めて重要であることから、各機関の教育研究成果等を蓄積した機関リポジトリの構築を推進している。NIIでは、機関リポジトリを情報ネットワークで連携するJAIROを展開するとともに、機関リポジトリのシステムをクラウド環境で利用できる共用リポジトリサービス(JAIRO Cloud)を提供している。大学等がJAIRO Cloudを活用することにより、開発経費の節減に加え、コンテンツの標準化が進み、流通促進が期待できることから、その整備とともに、積極的に普及を進める。
 今後は、オープンアクセスやオープンデータに対する世界的な動き、大学等の情報公開ニーズの高まりも踏まえ、論文等の研究成果だけでなく、MOOC、OCW等の講義内容、さらには、書籍やデータといった教育研究活動に関わる様々なコンテンツが機関リポジトリに蓄積され、発信されるようになると考えられ、それらを情報資源として、大学間で共有、利活用する仕組みを一層強化する必要がある。
 そのため、現在、コンテンツのメタデータを整備し、情報検索機能を提供しているCiNiiの機能を高度化するとともに、SINETを介してコンテンツ間の連携を図ることにより、知識基盤としての情報共有を推進する。

(4) クラウド環境の普及促進への取組
 大学等において、情報資源の効率的活用につながる多様なクラウドサービスの利用を加速するため、大学等とNIIが協力し、商用プロバイダーとも連携して、利用できるクラウドサービスを情報ネットワーク上でメニュー化し、ポータルサイトとして整備するとともに、各機関がカスタマイズし、シングルサインオンで様々なサービスを利活用できる環境として、クラウドゲートウェイ(仮称)の実現を図る。
 これらの取組は既に欧米で進みつつあり、大学等がニーズに合ったクラウドを適切に導入する上で、効果的に機能するものと期待される。 

5.まとめ

 我が国が高度な科学技術に依存し、ボーダーレス社会、グローバル化が進展する中においては、大学等が国際競争力を保って、優れた教育研究の遂行に支障なく取り組める環境として、情報ネットワークの高度化が不可欠であり、そのための継続的な整備が必要である。こうした取組においては、大学等が独自に行うのではなく、連携・協力して一元的に取り組むことで大幅な合理化が可能になることから、その役割を情報学分野における大学共同利用機関としてのNIIが対応することでコスト削減と機能強化の一体整備が可能になっていることを共通認識として、対応を進める必要がある。
 NIIは次期SINET(SINET5)において、大幅な増加が見込まれる情報流通ニーズに応える帯域の確保とともに、効率的に情報流通を可能にするクラウド基盤等の情報ネットワーク技術、安心安全に利用できる環境としての最新セキュリティ対策、情報コンテンツの相互利用を可能にするプラットフォームを登載することにより、世界最高水準の情報ネットワーク構築に取り組むものとし、国は、次期SINET構築に向けた整備を着実に支援すべきである。
 大学等は、共有する最新の情報ネットワーク環境のメリットを生かし、教育研究の高度化につながるアカデミッククラウドの導入や情報資源の利活用を効果的に促進させることにより、それぞれのミッションを踏まえた機能強化を図り、イノベーションの創出や社会貢献を果たすことが求められる。

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