参考資料1 第2期教育振興基本計画について(答申) -抜粋-

平成25年4月25日
中央教育審議会

<5年間における具体的方策> 

基本施策8 学生の主体的な学びの確立に向けた大学教育の質的転換 

 【基本的考え方】
○ 知識を基盤とした自立,協働,創造の社会モデル実現に向けて,「生きる力」の基礎に立ち,生涯にわたり学び続け,主体的に考え,どんな状況にも対応できる「課題探求能力」を有する多様な人材を育成する。
○ 学士課程教育においては,学生が主体的に問題を発見し,解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)や双方向の講義,演習,実験等の授業を中心とした教育への質的転換のための取組を促進する。
○ 学士課程教育の質的転換のために,事前の準備や事後の展開も含め,主体的な学修に要する総学修時間の実質的な増加・確保を始点として,教育課程の体系化,組織的な教育の実施,授業計画(シラバス)の充実,教員の教育力の向上を含む諸課題を進めるための全学的な教学マネジメントの改善などの諸方策が連なってなされる「質的転換のための好循環」の確立を図る。
○ その上で,大学院においては,世界の多様な分野において活躍する高度な人材を輩出するため,大学院の教育課程の組織的展開の強化を図る。

 【現状と課題】
○ 予測困難な今の時代を生きる若者や学生にとって,大学での学修が次代を生き抜く基盤となるかどうかは切実な問題となっている。また,地域社会や産業界は変化に対応したり未来への活路を見いだしたりする原動力となる有為な人材の育成を大学に求めるようになっており,「答えのない問題」について最善解を導くために必要な知識・能力を鍛え,生涯学び続ける力,主体的に考える力を持った人材を育成することが,大学教育の直面する大きな目標となっている。
○ 学士課程教育の質的転換の前提として,主体的な学修に要する総学修時間の確保が重要であるが,我が国の学生の学修時間は,卒業の要件から想定される学期中の1日当たりの総学修時間8時間程度の約半分である4.6時間との調査結果もあり,これは例えばアメリカの大学生と比較しても極めて短いと言わざるを得ない。また,国民,産業界や学生は,学士課程教育の現状に満足していないとの調査結果もある。
○ なお,質を伴った学修時間の実質的な増加・確保は飽くまでも好循環のための始点であり,手段である。ただ授業時数を増加させたり,事前の課題を過大に課したりすることは,学修意欲を低下させることはあっても,学士課程教育の質的転換に資することにはならない。
○ また,学士課程教育をめぐる問題の背景・原因として,「学士課程教育の構築に向けて」(平成20年12月中央教育審議会答申)が期待した学位を与える課程(プログラム)としての「学士課程教育」という概念の定着がいまだ途上であること,主体的な学修の確立の観点から学生の学修を支える環境をさらに整備する必要があること,初等中等教育,特に高等学校教育と高等教育の接続や連携が必ずしも円滑とは言えない状況にあること(基本施策10参照),地域社会や企業など,社会と大学との関係を見直す必要があること(基本施策13,21参照)が挙げられる。
○ このような学士課程における改革の取組とともに,大学院教育においては,高度な能力を持った人材輩出といった社会からの要請に応えるため,個々の担当教員がそれぞれの研究室で行う研究に依存することのない,体系的な大学院教育の課程の提供が必要となっている。


【主な取組】
8-1 改革サイクルの確立と学修支援環境整備
  ・ 学長を中心とするチームを構成し,学位授与の方針の下で,体系的な教育課程の編成,組織的な教育の実施,成果の評価,その結果を踏まえたプログラムの改善・進化を行うという一連の改革サイクルが機能する全学的な教学マネジメントの確立を促進する。
      そのため,教学に関する制度の見直しを図るとともに,補助金等の配分に当たっては,例えば,組織的・体系的な教育プログラムの確立など,十分な質を伴った学修時間の実質的な増加・確保をはじめ教学上の改革サイクルの確立への取組状況を参考の一つとする。
      その際,ティーチング・アシスタント等の教育サポートスタッフの充実,学生の主体的な学修のベースとなる図書館の機能強化,ICTを活用した双方向型の授業・自修支援や教学システムの整備など,学修環境整備への支援や,基本施策17の学生に対する経済的支援も連動させながら促進する。ICTの活用に関しては,例えば,近年急速に広まりつつある大規模公開オンライン講座(MOOC)(※1)による講義の配信やオープンコースウェア(OCW)(※2)による教育内容の発信など,大学の知を世界に開放するとともに大学教育の質の向上にもつながる取組への各大学の積極的な参加を促す。あわせて,学生の思考を引き出す教科書等の教材や教育方法の開発・研究など,教育に関する特色ある自発的な取組を支援する。
     また,学生が学修に専念できるよう環境を保障する観点からも,就職採用活動の早期化・長期化の是正に関係府省,産業界と連携しつつ取り組む。
  ※1 実際の講義と同様に,インターネット上で大勢に講義を提供し,かつ無償公開する講義形態のことで,修了者には履修証明を発行するサービス。
  ※2 大学等で正規に提供された講義とその関連情報のインターネット上での無償公開活動。

8-2 専門スタッフの活用と教員の教育力の向上
  ・ 各大学における教学システムの確立に不可欠なファカルティ・ディベロップメント(FD)(※)の専門家,あるいは入学者選抜や教学に関わるデータ分析,テスト理論や学修評価等の知見を有する専門スタッフの養成,確保,活用のために,拠点形成や大学間の連携の在り方等に関する調査研究を行う。なお,これと並行して,体系的なFDの受講と大学設置基準第14条(教授の資格)に定める「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力」の関係の整理について検討を行う。
  ※ 教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称。

8-3 学修成果の把握に関する研究・開発
  ・ 学生の学修成果の把握の具体的な方策について,国際機関における取組の動向や諸外国の例も参考にしつつ,大学間連携組織(コンソーシアム),学協会等における速やか,かつ多元的な研究・開発を推進する。

8-4 「プログラムとしての学士課程教育」という概念の定着のための検討
  ・ 現行の大学制度は大学や学部・学科,研究科といった組織に着目して構成されている。こういった状況を踏まえ,「プログラムとしての学士課程教育」という概念の定着のために,望ましい大学制度の在り方等について検討を進める。

8-5 大学院教育の改善・充実
  ・ 大学院教育については,「第2次大学院教育振興施策要綱」(平成23年度~平成27年度)に基づき,コースワーク(※)から研究指導へ有機的につながりを持った体系的な教育を確立するとともに,産業界等との連携を一層促進することにより,教育内容・方法を改善・充実する。
     また,世界を牽(けん)引(いん)するリーダーの養成に向けて,大学院教育の抜本的な改革・強化を図るなど,基本施策15-1に記載した取組を進める。
  ※ 学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修すること。

8-6 短期大学の役割・機能の検討推進
  ・ 高等教育の機会均等,教養教育や職業教育,地域の生涯学習の拠点といった役割を果たしている短期大学士課程についても,授業計画の充実など大学教育の質的転換をめぐる課題は共通するものであり,その特性を踏まえつつ,短期大学の役割や機能の在り方について更に検討を行う。

基本施策9 大学等の質の保証

 【基本的考え方】
○ 学生の保護や国際通用性の観点から,大学等の質を保証し,基本施策8等における教育の質的転換の取組等とあいまって,その向上を促進するため,制度の改善や制度間の連携強化,教育研究活動の可視化促進などを図る。

 【現状と課題】
○ 我が国の大学における公的な質保証システムは,「事前規制から事後チェック」への転換といった社会全体の動向を踏まえ,従来の事前規制として設置認可制度を弾力化しつつ,事後チェックとしての自己点検・評価制度に加え,認証評価制度を平成16年度より導入しているところである。
○ その一方,質の保証を徹底する観点から設置基準・設置認可審査・アフターケア・認証評価・学校教育法による是正措置といった各要素の相互のつながりを強化する必要性など指摘がされている。
 また,基本施策8や13で掲げる教育内容の充実のための取組や,基本施策26から28に掲げる大学ガバナンスの強化,機能別分化,財政基盤の強化の取組等とあいまって学生の保護や国際通用性の観点から,大学等における教育の質保証・向上を促進する必要がある。
○ 同時に,大学等は公的な機関として,その活動や取組について社会に対して説明責任を果たすことが極めて重要である。大学情報の活用・発信については,これまでも公表すべき教育情報の明確化やユネスコの情報ポータルを通じた正規の高等教育機関や制度の情報等の国際的な発信など段階的に取組が行われてきたが,一層の推進が求められている。


【主な取組】
9-1 大学教育の質保証のためのトータルシステムの確立
  ・ 大学設置基準等の明確化や設置審査の高度化などを図るとともに,質保証に関係するシステム(設置基準,設置認可,認証評価等)間の相互の連携を進め,大学における質保証の徹底を図る。

9-2 大学情報の積極的発信
  ・ 認証評価機関や大学団体等が参画した自律性の高い主体を設けて運営する「大学ポートレート(仮称)」(※)の積極的な活用を促進する。その際,それぞれの大学がその機能や特色に応じてどのような教育に取り組み,成果を上げているかについての数値以外を含む情報を国内外の様々な者に提供することにより,社会において従来の偏差値等に偏したランキングとは異なる実態に即した大学像の共有が図られるように努める。           
  ※ データベースを用いた教育情報の活用・公表のための共通的な仕組みのこと。

9-3 大学評価の改善
  ・ 各認証評価機関の内部質保証(※)を重視する動きを踏まえ,全学的な教学マネジメントの下で改革サイクルが確立しているかどうかなど,学修成果を重視した認証評価が行われるよう,それぞれの大学の特徴がより明確に把握できる客観的な指標の開発,大学がその機能を踏まえて重点を置いている教育活動や研究活動に着目した評価,企業や地域社会等の多様なステークホルダーの意見の活用,評価に関する業務の効率化を促進する。
  ※ 高等教育機関が,自らの責任で自学の諸活動について点検・評価を行い,その結果をもとに改革・改善に努め,教育の質を自ら保証すること。

9-4 分野別質保証の取組の推進
  ・ 高度専門人材の育成に向けて,大学及び高等専門学校における分野別質保証の構築・充実に向けた取組を促進する。
  ・ また,日本学術会議において審議が進んでいる「分野別の教育課程編成上の参照基準」は,各大学における改革サイクルの確立に際して重要な参考となるものと考えられるため,各大学や認証評価機関の活用を促す。

9-5 国際的な高等教育の質保証の体制や基盤の強化
  ・ 日中韓における質の高い大学間交流を拡大させる「キャンパス・アジア」の取組を推進する。また,高等教育の質保証に関する国際機関の取組や国際的な共通枠組み形成に貢献するため,我が国及び諸外国の高等教育制度に関する情報の収集・発信機能,国境を越えた教育連携・学修の評価等を担う体制を整備する。

9-6 専門学校の質保証・向上の取組の推進
  ・ 専門学校については,教育の質保証・向上のため,基本施策13-3に記載した取組を進める。

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