第7期研究費部会(第13回) 議事録

1.日時

平成26年8月18日(月曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室(東京都千代田区霞が関3丁目2番2号

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)など研究費の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,奥野委員,甲斐委員,髙橋委員,柘植委員,金田委員,小安委員,西川委員,野崎委員,上田委員,勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長,村松日本学術振興会学術システム研究センター副所長,山本日本学術振興会学術システム研究センター科研費ワーキンググループ主査,斎藤科学技術・学術政策研究所総務研究官,伊神科学技術・学術政策研究所主任研究官,阪科学技術・学術政策研究所主任研究官

文部科学省

常盤研究振興局長,山脇審議官(研究振興局担当),安藤振興企画課長,合田学術研究助成課長,前澤学術研究助成課企画室長,他関係官

5.議事録

【佐藤部会長】
 時間となりましたので,第13回研究費部会を始めます。本日は,第1に,当部会として会を重ねて審議してまいりました中間報告をまとめたいと思います。まず事務局でまとめていただきました中間報告の案につきまして説明していただき,その後で議論を行っていきたいと思います。
 また第2に,先日公表されました「サイエンスマップ2010&2012」について科学技術・学術政策研究所の方から御説明をお願いしたいと思います。
 最後に,今後の科研費改革の方向につきまして,自由に御発言をお願いしたいと思っております。
 それではまず,科研費の基本的な方向性について,前回の部会では整理素案について議論いたしまして,委員の皆様方から御意見をお出しいただきましたが,御意見を踏まえまして,事務局に整理素案を修正していただきました。本日は,部会としまして,審議のまとめを行いたいと思っております。それではまず事務局より御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【前澤企画室長】
 失礼いたします。学術研究助成課企画室長の前澤でございます。
 前回7月16日の研究費部会,それから,その後もいろいろな御意見を賜りまして,本当にありがとうございました。それらを踏まえまして,本日,資料1-1に基づいて御説明いたしますのは,研究費部会中間報告の審議のまとめの修正案でございます。
 まずタイトルでございますけれども,今まで「第7期研究費部会における審議のまとめについて(素案)」としてございましたが,このたび全体を見通して正式に,「我が国の学術研究の振興と科研費改革について」というタイトルを付けさせていただきました。
 それから,谷口委員から,学術研究の意義を改めてしっかりと書くべきであるという御意見を頂きましたので,1ページの中ほどに,学術分科会の中間報告を引く形で,改めて学術研究の役割について記載させていただいてございます。
 2ページの中ほどの丸の部分,「イノベーションを不断に生み出して我が国の将来的な発展や国際社会への貢献を確実にし」からの4行でございますけれども,学術研究こそが国力の源であることもこちらに明記してございます。
 鍋倉委員から,学術研究は研究活動以外でも,知的基盤社会を牽引(けんいん)する人材を育てるとか,我が国全体の教養を維持するなどの役割があるという御意見を頂きましたので,その部分を段落の一番下に追記してございます。
 4ページ目でございますが,学術研究の特性としまして,個人の自由で独創的な発想に由来するがゆえの多様性,その上での交流から生まれる大きなパラダイム形成がイノベーションを駆動することも改めて国力の源の所以(ゆえん)として追記してございます。
 7ページ目,この章のタイトルの「成熟社会」についてでございます。こちらも佐藤部会長から,成熟社会というのは一体何を指すのかを明記すべきであるという御意見を賜りましたので,そのページの一番下の脚注に成熟社会についての説明を追加いたしております。こちらは,政府の今までの報告書などで成熟社会の正式な定義があるわけではございませんけれども,今いろいろなところで成熟社会についての議論がされておりますので,それらの意味を捉(とら)まえたものでございます。
 8ページ目の下から7行目「国際的に注目を集めている研究領域への参画という観点」というところにつきまして,サイエンスマップを例にいたしまして,臨床医学,経済・経営学,工学,環境/生態学,社会科学・一般などの研究領域への参画数が日本は少ないということを脚注として入れてございます。
 10ページ目の一番下の丸でございます。こちらにつきましてはもともと,科研費への申請件数が年々増えており,それに伴う審査負担が増加している,こういう問題を書くべきであるという御議論を今までいただきましたので書いておりましたパラグラフでございましたが,科研費の申請数が増えることは,それ自体をネガティブに捉えるべきではございませんので,「もちろん」以下の1文を追記してございます。
 11ページの上から4行目からの段落でございます。濱口委員,平野委員,甲斐委員,小安委員から,まず大学の基盤的経費が揺らいでいることが研究活動にも悪影響を及ぼしているということを書くべきだという御意見がございましたので,大学の基盤的経費である国立大学法人運営費交付金と私立大学等経常費補助金の削減の具体例を載せた上で,これらの経常的経費の削減が研究活動はおろか教育の方にも影響を及ぼしているということ,それから,大学において科研費などの競争的研究資金を取るまでの本当に萌芽期の研究もできなくなっていることを記載してございます。
 それから,11ページの下でございます。谷口委員から,デュアルサポートシステムの再構築といっても,昔に戻るのではなく,新しい姿を追求すべきだという御意見を頂きました。更に平野委員からは,大学における研究費の在り方をもう一度考えるべきだという御意見もございましたので,「デュアルサポートシステム」の再構築についても,これまでの大学運営や研究資金制度を踏襲するものではなく,いわばそれを「再生」する構想であるとして「再生」という言葉を使わせていただいております。こちらは,10ページ目のこの段落群全体のタイトルも「デュアルサポートシステムの再生」としてございます。
 19ページの一番下,ローマ数字の(4)から始まる段落は主に科研費の審査コストについて述べた部分でございます。こちらにつきましても,科研費は種目ごとに研究費としての趣旨や目的が異なるため,一律には比較できない要素があり,その上で審査コストを比較し,プレスクリーニングの導入や審査コストの再配分などを今後検討しなければいけないという書きぶりにしてございます。
 25ページの上から二つ目のポツの部分は,研究者としてのキャリアパスのイメージを書いているところでございます。北岡伸一委員から,知の融合を促進しながら,大学としては限られた資源を効果的・効率的に活用し,研究教育マネジメントにわたる教員の業績評価の実質化,教育研究組織の再編成,学内資源の再配分を行うべきであると,大学に向けての御意見を頂きましたので,それを追記してございます。
 27ページの下から二つ目の段落でございます。大規模科研費,すなわち現在の特別推進研究や新学術領域研究を意味するものでございますけれども,濱口委員,谷口委員から,このような大型研究の枠組みの中で次世代の研究者を育成することが重要であるという御意見を頂きました。また,西川委員からは,あくまでもボトムアップで出てきた研究テーマが重要ではあるけれども,そういうものを戦略的に伸ばしていくことが必要ではないかという御意見,それから,小安委員からも,大規模科研費でこそ国際プレゼンスを戦略的に上げていくような仕組みが必要であるという御意見を頂きましたので,こちらに追記してございます。
 それから,28ページ,上の丸の一番下の部分でございます。佐藤部会長と濱口委員から,大型設備や高度機器の共用について科研費で買ったものを含めて研究のために全体で効率的に利用していけるような在り方について考えるべきではないかという御指摘がございましたので,「科研費としてのルール整備や評価の在り方,それから,機器の運用に関する大学等への支援方策についてのさらなる検討が必要」と書くとともに,これは科研費だけではなくほかの研究費にも共通して言えることでございますので,科研費以外の研究費についてもルールの共通化が求められるということを書いてございます。
 28ページの一番下の段落でございます。国際ネットワーク形成につきましては本当にいろいろな御意見がございました。一つは,平野委員,濱口委員,谷口委員から,チームとしての集合知や,既存ネットワークを生かして,むしろ個人のみでは持てないような広い視野を持って若手研究者を育成していくことが重要であるという御意見を頂きました。一方,甲斐委員からは,そのようなチームとしての交流とは別に,個人の自由な発想においてネットワーク形成をしていくことが重要だという御意見がございましたので,その二つを書き分ける形としてございます。
 それに伴いまして,29ページの上から7行目でございます。今までは大規模科研費によるチームとしての国際ネットワーク形成についてのみ書いてございましたけれども,個人のネットワーク形成につきましても追記いたしました。それから,11行目以下でございますけれども,佐藤部会長,鍋倉委員,甲斐委員から,科研費以外の,例えば日本学術振興会でやっておりますような海外特別研究員事業など国際関係事業の全体像を把握して制度設計をするのが重要であるという御意見を頂きましたので,そのことを1に記してございます。
 30ページの,人文学,社会科学の重要性について書いてあるパラグラフにつきましてもいろいろな意見を賜りました。金田委員からは,日本語による日本文化に基づく発信を支援すべきであるという御意見を頂きました。谷口委員からは,紛争地域での平和構築,歴史問題など,政治では扱うのが少し難しいような問題にこそ学術が役に立つような場面があるのではないかという御意見を頂きました。奥野委員からも,人文学,社会科学が学術研究に果たす役割について御意見を頂いております。
 その辺りをまとめまして,上から6行目の1パラグラフに追記をし,それから,その下でございますけれども,東日本大震災後に学術分科会が「リスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について」という報告書を取りまとめていただいております。そちらに非常に適格に人文学,社会科学の役割も書いてございますので,そちらを追記いたしました。
 32ページでございます。7月16日の段階では,いろいろな制度改革の方向性の提案につきまして,科研費に求められること,科研費以外の制度に求められることがまとめて書いてございました。それが少し分かりにくいという御指摘がございましたので,科研費以外の制度につきましては32ページから34ページまでに章を別にしてまとめてございます。
 34ページの一番下でございます。科研費以外の競争的資金について求められることといたしまして,上田委員から,CRESTとの連携,エフォート管理など,デュアルサポートシステムの理想についての全体像を検討していくべきであるという御意見がございました。その意味を踏まえまして,34ページの一番下段になりますけれども,四つのポツを記載してございます。
 それから,少し戻っていただきまして,26ページの一番下の丸,科研費改革の基本的な視点の整理といたしまして,第一の科研費の基本的な構造の改革でございます。27ページの7行目以下の段落でございますけれども,前回髙橋委員から,科研費については現在の種目が細分化され過ぎていて,それぞれの審査に分かれていることがあるので,そこを少しラジカルなアイデアを出して改革していけばどうかという御意見も頂きました。
 今の段階では方向性でございますので,例としてではございますけれども,例えば13行目以下では,現在のような研究費の申請額による種目区分で申請審査を行うのではなく,趣旨を同じくする種目の中では申請額にかかわらず,一括申請・審査とするようなやり方,あるいは申請額による種目区分を設けても,ある申請が上位種目で不採択となったが下位種目の申請と比べて優れていると認められる場合には下位種目で採択する方法,あるいは若手研究者向けの種目を基盤研究種目に統合して全体的に審査する方法など,柔軟な科研費の在り方を可能とする仕組みについて,理想の科研費の在り方に向けた大胆な検討を行うことが必要であると,この1パラグラフを追記してございます。
 前回7月16日からの主な修正は以上でございます。

【佐藤部会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,ただいま説明いただきましたけれども,科研費改革の基本的な考え方やロジック,その方向性につきまして御議論を進めていきたいと思います。これまでの審議を踏まえて修正がなされておりますので,修正等の御意見がありましたら御発言いただきたいと思います。
 ただ,今回,柘植委員から参考資料5を頂いております。せっかく資料を提出していただいていますので,まずは柘植委員から是非御発言をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【柘植委員】
 まず,参考資料5を御覧いただくと,表題が「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」という要約の1行目に書いてありますように,経済財政諮問会議・産業競争力会議の合同資料,経済再生担当大臣の戦略です。なぜこの場に場違いなものが出たのかと,恐らく皆さん,お思いだと思います。今からの議論に少しでも連続性を持って,この場違いな参考資料5が出た趣旨を説明したいと思います。
 すなわち,我々のこの部会が取り巻かれているバウンダリコンディションの変化をつらつら私自身も感じているということを皆さんと少し共有したいという思いで参考のために置いたわけです。表紙だけ少し見ていただきたいのですけれども,これは経済産業省の動きです。「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」として出されまして,御存じのとおり,科学技術イノベーション総合戦略2014の中身にも吸収されて,閣議決定がされているわけです。
 これを見ますと,3行目に書いていますように,諸改革項目は,大学,公的研究機関,産業の間で非常に密接に関連しておりまして,戦略の中に個別の改革はいろいろ書いてあるのですけれども,個別の改革をそれぞれがやったとしても効果を上げることは私は難しいと思います。お互いの相互連関課題をきちんと可視化して,それをまさに相互連関,協力して制度設計までしないと,言うだけで終わってしまうのではないかと思います。
 そのような意味で,中身までは入りませんが,この資料では,相互連関課題で指摘される問題を深掘りしまして,文部科学省も含め,経済産業省だけではとてもできない担当府省間をまたがる制度上の障害まで踏み込んで,その打開策まで具体化することは,まさにこの科学技術イノベーションエコシステムの強化にとって非常に重要であるということであります。これはひいては科学技術イノベーション総合戦略2014を実行するということで,また,来年から策定に入ります第5期の科学技術イノベーション基本計画の策定に生かさねばならないと私は思って提案しているわけです。
 私自身は,10年前に総合科学技術会議の議員をしておりましたが,その時と今とでは本当にバウンダリコンディションが変わっているのを感じます。10年前は,経済財政諮問会議は,はっきり言いまして科学技術の方はコストと見ていました。10年前のあるとき,経済財政諮問会議が「投資目標ではなくて,成果目標を軸として」という文章を起案したことを前日に探知いたしました。私は,正式な経済財政諮問会議の前に当時の経済財政諮問会議の委員であった牛尾さんのところに行って,それはおかしい,「投資目標のみならず,成果目標も」というのが一番正しい言い方じゃないですか,投資目標ではなく「成果目標を軸とし」というのは不合理ですと押し問答しました。やはり産業人の経営者ですので,御理解いただき,「投資目標のみならず,成果目標も」ということで落ち着いた文章が書かれた覚えがあります。
 すなわち,10年前は,やはり経済財政諮問会議側の方は,科学技術政策に対して,どれだけ国力に役に立つのかということを今ほど期待していなかったという実態があったことを思い出しています。科学技術政策とイノベーション政策というのは,口ではスローガンとしては掲げていましたけれども,うまくつながっていなかったというのが,当時の総合科学技術会議の実態だったと思います。
 10年たった今,経済財政諮問会議・産業競争力会議も,科学技術政策の戦略の中に熱い思いを盛り込んで期待するような時代になり,科学技術イノベーション総合戦略2014の閣議決定まで持ち込まれてきたと感じています。総合科学技術会議もこの6月に総合科学技術・イノベーション会議に名前を変えて,まさに科学技術駆動型のイノベーションで日本を立て直していこうということで,不可逆なことになってきたということを,今までできなかったことを約束したということかと,まさにバウンダリコンディションが変わってきたと思います。
 そんなことで私自身この学術分科会の委員として感じていますのは,今までの審議の中で,この中間報告というのは,我々学術側からも社会に対して,今までの土台は堅持しながらも,社会のための科学,社会における科学というスタンスで大分充実したステートメントがなされてきたし,逆に私自身の科学研究費の改革に向けたコミットメントが具体的に掘り下げられて記述されていると感じる次第でございまして,参考資料として御紹介したものであります。以上でございます。

【佐藤部会長】
 柘植先生,どうもありがとうございました。我々の中間報告,また先日の学術分科会の中間報告にも先生のおっしゃった観点も含まれていると思いますし,省庁をまたがったような連携が必要なことも本当にそのとおりだと思います。今度,第5期の科学技術イノベーション基本計画の策定にも,多分いろいろな観点で盛り込まれてくるのではないかとは思います。
 今,科学技術・学術政策局では,いろいろな方からヒアリングをするなど,様々なことをしていますし,先生方にも何か意見を求められることもあるのではないかと思います。その時にも是非,柘植先生のおっしゃった観点も発信していただければと思っております。
 それでは,柘植先生に対する質問でも結構ですし,今回の中間報告全体につきまして,どなたでも御意見を発信していただければと思いますが,いかがでございましょうか。

【髙橋委員】
 この研究費部会になかなか出られなくて,申し訳ありませんでした。でも,これだけのすばらしい中間報告にまとめてくださいまして,どうもありがとうございます。2点,3点簡単に申し上げたいと思います。
 まず1点はとても機械的なことです。マイナーなところなのですが,33ページの科研費以外の競争的資金改革に求められるものという部分の上から4行目,「一方で,これらの」というところからの文章が長いですよね。最後まで丸がないのです。次のページまで13行にわたって丸が1個もないので,何を書いているかよく分からないと思ったので,ここはよろしくお願いします。
 次はもう少し内容全体のことです。私が非常に良いと思ったのは,学術の本来論,本質論について見事にまとめてくださって,本当にすばらしいと思いました。これだけのことを書いてくださるのであれば,あともう少しだけお願いできればということがあります。
 一つは,人材を育てるということが再三再四強調されているのはすばらしいと思いますが,そこへ恐らくもう一つ強調してもいいと思う点は,学術が文化の上に成り立っているということです。文化論とまでは言いませんが,学術はやはり,この長い歴史における日本の文化の中で発展するものであり,その流れにおいて,若手の人材というときに,お金を付けることやポジションについてのことも大変重要なことですが,それと同等あるいはそれ以上に非常に重要なこととして,学術マインドを持ったメンターが若手を育てるということがあります。
 私はよく,「学術マインドは,皮膚呼吸をとおして体に入ってくる」と言うのですが,やはり良い研究室からは良い学生,良い研究者が育つのです。そうではない場合もあるかもしれませんけれども,大体において,良い人材は良い先生のところから育ってきます。それは何を意味するのかということ,良い先生というのは,ただ単に論文をたくさん出しているなどということではなく,学術の本質や品格を持っておられる,そういう人を指します。それから,学者魂というものがありまして,学者魂が継承されてこそ学術が成り立つのです。そのような本質論をどこかに入れ込んでいただければ大変有り難いと思います。
 それから,この提言報告は大学院以上の学術研究にフォーカスを当てて作られているということは重々承知の上ですが,やはり人文・社会系の議論までがきちんと入っておりますので,学術研究の前の教養の充実に関しても少し盛り込んでもよいかもしれません。人文・社会系がおろそかにされると,学問の最も基盤となる教養が崩れるということを改めて強調すべきです。単に,例えば生命科学が進んだから人文・社会系もそれに便乗して何かの役に立つだろうみたいな論調だけではいけません。せっかくこれだけの報告書が出るのだったら盛り込んだらいかがかと思いました。
 それからもう一つ,これも少しデリケートなところですけれども,例えば16ページ,17ページの,「例えばアメリカにおいては」とか,ヨーロッパにおいても,皆さんどこの先進国も同じような問題で困っているという論調でした。全くそうだと思います。そこで,つまるところ,結局,アメリカなどの表面的な追随はやめるべきであると思います。例えば日本版NIHはまさしくその表面的追随に基づく発想ですよね。そういうのは,もってのほかであると思います。生命科学の分野に限って言うと,アメリカもほとんど破綻寸前の状態にあります。ですから,先ほどの柘植先生からも御意見がありましたけれども,海外のことをモデルにするというのはもちろんですけれども,「追随はやめようと,もう戦後は終わったんだ」というようなことをどこかでにおわせていただければと思います。
 ほかの議論もあるのですけれども,とりあえずこれでしまいにします。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。文化の発展,若手教育うんぬんのことは,どの辺りに盛り込めばいいでしょうか。

【髙橋委員】
 皮膚呼吸は――いや,皮膚呼吸と書かなくてもいいのですが,若手のところですよね。人材,人であるということがいろいろなところに散りばめられているので,私もどこかなと思うのですが,やはり人材育成・輩出が一番強調されているところに入れてほしいという感想を持ちました。

【佐藤部会長】
 アメリカ追随をやめるというのはお気持ちは分かるのですがなかなか書きにくいところです。

【前澤企画室長】
 冒頭のそもそも学術とは何かというところに,髙橋先生のおっしゃった,日本の文化の上に成り立つ日本の学術というようなことを少し加えてはいかがかと思います。

【佐藤部会長】
 良いアイデアだと思いますので,うまく修正をお願いできたらと思います。

【奥野委員】
 基本的には大変良く書けていて,事務局の労を非常に多としたいのですけれども,柘植先生も少しおっしゃっていたように,全体に,前半の方では科学技術全般の話があって,その後でイノベーションの話がしてあるわけですよね。まさに柘植先生もおっしゃったように,イノベーションは学術研究だけではなく,最終的にビジネスといいますか,そこまで結び付いて初めて社会にイノベーションの貢献ができるということになっているわけです。
 ところが,後半になると,これは研究費部会の報告ですから当然のことだとは思うのですけれども,科研費の話になってしまい,ビジネスがどこかにすっ飛んでしまっている。その断絶が少し激し過ぎるような気がしまして,イノベーションということを前半でもう少し書き込んで,それが科研費の中でどのように生かされるべきで,科研費をどのようにイノベーションにつなげていけるのかをもう少しどこかに書き込んでいただけないかというのが一番言いたいことです。
 そして,そういう意味でイノベーションということを考えると,文科省で別のヒアリングをされたときにも申し上げたことなのですけれども,イノベーションというのは新発見だけではなく,新しい考え方,ビジネスモデル,組織の在り方など,いろいろなものを新しくコンビネーションとして結び付けて組み合わせていくことによって,非常に新しいビジネスモデルを作ったり,新しい商品を作ったり,いろいろなことをしていくということだと思うのです。
 そういう意味で言いますと一つ気になりますのは,例えば29ページの一番最後に,人文・社会科学という言葉がとりわけ出てくるのですけれども,人文・社会科学とここで書いてあるのは,自然科学とやや大きく異なる独自の学術分野を構成しているものだと書いてあって,もちろんその後で,そうではありませんとは書いてはあるのですけれども,何か違う分野であるという感じも受けるわけです。
 むしろ本当は逆ではないかと個人的には思っています。自然科学でいろいろ出てきた新しいアイデア,例えばシリコンバレーや,情報学,コンピューターサイエンス,ライフサイエンスなども最近は特にそうであるし,あるいは最近の例でいえばビッグデータのようなものが自然科学で出てきて,それを今度は社会科学や人文科学が実際の社会に結び付けていくという役割を今度は果たしていくわけですから,自然科学と社会科学・人文科学はある種の車の両輪になって社会のイノベーションを作り出していくというようなニュアンスをもう少し書き込めないかというのが私の個人的な感想でございます。
 全体でという部分と,最後の部分,それから最初に申し上げたことですけれども,その中で科研費はどのような役割を果たしていくのが一番望ましいのかについて,私自身も今,良い知恵はないのですけれども,是非何か付け加えていただけると,全体のまとまりも良くなるでしょうし,メッセージ性も高まると思います。ほかの委員の方の御知恵もありましたら,是非それも含めて御検討いただけないかと思って発言いたしました。

【柘植委員】
 先ほどの参考資料5の最後のページを見ていただきたいのですけれども,奥野先生のおっしゃった点は,私として科研費の世界を11ページとして可視化したときに,黄色で書いたところが経済財政諮問会議の戦略で書いたところなのです。
 すなわち,効果的なファンディング機関の機能として,橋渡し機能の強化に向けたファンディング機関の改革,効果的な資金配分の在り方を含めた技術シーズ創出強化のための方策として実態の把握等々など書いてあります。それ以外は私が書いたことなのですけれども。この中には,下のJSPSとか,もし科研費もこの11ページのところで転写したときに,今の話が結局,この中間報告の前半でイノベーションということを論じていたときに,11ページの中では,この矢印なり,大学の機能である教育・研究が,右の公的研究機関なり,最終的には産業が担うイノベーションにどのように国力の源泉として役に立つのかということを後半の中に我々の思想としてもう少し具体的に書けないのかというのが奥野先生の言われたことだと思います。
 私自身は,後半の中で二つのことが,我々としては当たり前のことだけども,外から見えやすいようにすべきではないかと思っています。すなわち,この11ページの絵の中で,少なくともJSPSが支えてくれている,大学が担う教育・研究の科研費は,やはり先ほどの髙橋先生が言われた皮膚呼吸をして伝えた人が,公的研究機関なり,ひょっとしたら産業の方に行くなど人が動いていくのであって,知識が動いていくわけではないわけです。多分科研費で投資したものは,人が動いていくと思うのです。
 たまたまの発見が橋渡しとして公的研究機関に行くかもしれませんが,多分ほとんどのものは,我々がここで言っている国力の源は人ですと,皮膚呼吸した人が動くのですということに当たると思います。JSTなどが支えているようなほかの部分のものは,ひょっとしたら知が動いていくかもしれません。発見が動いていくかもしれません。私は11ページに,科研費の知の源は何だと,何が流れていくのだということを書きたいと思うのです。つまり,奥野先生のクエスチョンについては,むしろこの後半の中でも書けたら,外からは見やすくなっていくという感じがします。

【村松JSPS学術システム研究センター副所長】
 先ほど髙橋委員から,人社についての記述が少し弱いのではないかという御発言があったと思うのですが,この中間報告には,学術政策として,研究者の多様な関心を支援するという原則や,今おっしゃった人材ということを非常に強調して,基本的なミッションが書き込まれていて,全体として私は良いと思っています。確かに言われるように,人社については,例えば17ページのHorizon2020関連で,自然科学を主役にして人社における組織研究というのも役に立つなど,役に立たないわけではないという書き方がされているわけです。だから,確かにそういうトーンはありますけれども,基本的なところはやはり書いていただいていると思って見ていました。
 ただ,人社から言えば,11ページに人的交流が大切であるという,学術の発展のステップでそういうことがあるわけですが,そのときに人社としてそれがどのような形をとるのかということについて我々はしっかり検討,提案をしてきたわけではないかもしれないと感じてはおりまして,今後しっかりと考えて提案をしていきたいと思っております。
 全体としては,人社の表現について「人文・社会科学」ではなく「人文学及び社会科学」という,表現が良いということを私は主張したのですが,それは大体において直していただいています。それがやはり国際標準だろうと思います。ですから,その点が私には割合重要でした。アメリカでも,humanitiesについては,National Endowment for the Humanitiesというのがファンディングエージェンシーになっていて,NSFはNatural scienceとSocial scienceという具合になっておりますし,そこの区別はあるのではないかということがあります。
 前回私ども学術システム研究センターの主任研究員の方が「人社は余りお金が掛かりません」というようなことを言いましたけれども,あれは少し誤解を与える言い方でして,そうではありません。従来,運営費交付金型でやってきた方なものですから,あれがあればやれるという意味のことをどうもおっしゃりたかったようで,こういうところに来るとそのあたりはうまく表現できなかった。だから,デュアルサポートという議論をしていますので,それへの支援と聞いていただければいいのではないかと思います。
 humanitiesについては,本質的に実作実演,絵や小説や音楽のような世界と密接に関係を持ちながら人間の分析をする学問が多く,直観や観察を磨くことが重要なのですが,最近ではIT技術の発展によって,古文書などのPDF化や活字化が進みまして,歴史を非常に緻密にする可能性が高くなっております。それにはお金は掛かる話ですけれども,そうした新しい科研費に向かう動向が見えております。
 社会科学でも,私が知るのは政治学ですけれども,私どもの世界全体でいえば,最近のホームランはソーシャルキャピタル論ということになるでしょう。その研究を精査しても,政府統計やサーベイデータの緻密,広範な利用ということで行われて,マンパワーも機械も動員されております。そこから考えてもお金がかかります。また,公共統計や調査データを整理,公開,保存することが重要で,OECD諸国からの日本の社会への更なるデータの蓄積と保存,公表の要望はいろいろな形で私も聞いております。ですから,そのような方向で努力していきたいと思う次第です。
 それから,人社はやはり有望な研究者の時間をどう確保するかが決定的だと思います。いわゆる手足的なものが最終的には存在しません。ですから,これぞという方に周囲から時間を確保してもらうような仕組みは,フェローシップとかグラントとかいろいろな形でありますので,それがキャリアパスの中で上手に利用されるようになるように支援する仕組みを考えることが重要であると考えております。
 全体的なことは書き込まれていますけれども,今私が言ったような更に具体的なことをしっかりと具体化するような検討をしなければならないと思っていますが,今私が言ったような状況があるということを申し上げたいと思います。

【小安委員】
 先ほど髙橋委員,奥野委員,柘植委員がおっしゃったことというのは,基本的に人をどのように出していくかというところであり,やはりデュアルサポートの部分だと私は思っています。それは11ページのところにかなりきちんと書かれていて,イノベーションを創出するために何が欠けているかと言ったときに,大学の人材育成機能が弱まっているところに問題があるということが書かれています。それは科研費も含めてのことですけれども,やはりこのようなところで言っているので,全く触れていないわけではないと私は思っています。ですから,ここはかなり重要なこととしてここで議論されていたことですので,もう少しここを強調することはあるかもしれないのですけれども,おっしゃったようなことはこの中に入っていると私は理解しています。
 それからもう一つは,今,村松先生がおっしゃった時間の問題なのですけれども,それは自然科学でも全く同じです。私たちに時間が要らないなどということ,そんなことはありません。同じぐらい時間を確保するということは,やはり私たちも思索をしないわけではございませんので,御理解をいただければと思います。

【野崎委員】
 25ページの脚注16ですけれども,ここで科研費の成果がJSTに引き継がれ,更に社会に役立っているという書き方をされているところでJSTのERATOというプログラムを挙げておられるのですが,このERATOというプログラムは,それまでやってきたこととは違うことを提案するプログラムのはずです。もし特別推進でやったことを基にERATOを提案すると,それは採択されないはずですので,ここは少し無理があるのではないかと思います。JSTのERATOプログラムをもう一度御覧いただけると,このような文章にはならないと思いました。
 あわせて,例えば人材育成が非常に大切であるということが繰り返しこの中で出てきておりますが,特に23ページからの科研費改革の基本的な方向性のところで今後どうあるべきかが書かれている中で,23ページの二つ目の丸として,研究者としてのキャリアパスのイメージが書かれているのですが,ここが何となくアカデミックに閉じてしまっている感じがします。24ページの3番目のポツに一応,産業界との連携強化ということも書かれてはおりますが,先ほどの柘植先生のお話にもあったように,もう少し積極的に学術の経験を持った人が広がっていくことに関する重要性を,23ページから25ページにかけて書かれている人材育成の今後の基本的な方向性というところでは強調されていないということが若干気になりました。
 あとは,細かいことですが,32ページに脚注17が重なって出てきていますので,これは恐らく訂正ミスだと思います。以上です。

【佐藤部会長】
 貴重な御意見ありがとうございます。キャリアパスに関しては,学術研究のキャリアパスという感じになっております。

【野崎委員】
 学術研究を続ける人のキャリアパスということでしょうか。

【佐藤部会長】
 そうですね。

【西川委員】
 まずお伺いしたいことですけれども,この報告書が世に出た際に,どれだけの効果や影響力,縛りがあるものなのでしょうか。それはなぜかといいますと,一つは人材育成の重要性をすごく高らかに宣言していただいたのは,本当に有り難いことだと思っております。
 もう一つは心配する点ですけれども,特に改革,具体的にこのようなことがあるのではないかということがいろいろ書かれていますけれども,余りにも具体例を出し過ぎると,まだ審議中のものや議論中のものに対していろいろと変な拘束力を持つのではないかということを少し心配しております。
 具体的には26ページから27ページにかけて,科研費改革に求められるものというところで,特に27ページに,科研費について抜本的にいろいろなことを見直しなさいという形で書いてあります。これは確かにいろいろな意味で改革が必要なことであると思っていますけれども,余りにも具体的過ぎて縛りが強過ぎると大変かという気がしております。

【合田学術研究助成課長】
 ただいまの御質問でございますけれども,先ほど柘植先生からもお話がありましたように,学術分科会の中間報告にしても,この科研費改革についてのレポートにしても,学術界だけではなく,産業界も含めて,大変重要でrelevanceがあると感じていただいているというのが私ども事務方の率直な受け止めでございます。
 先ほど部会長からもお話がありましたように,28年度から第5期の科学技術基本計画や国立大学の中期目標期間が展開していく中で,これまで学術分科会で御議論いただいたこの議論のコアは,今まさにお話がありましたように,学術研究は人を育てていく,人が移動することによってこの国を支えているという点については随分共通認識となっていますが,働き掛けを今後更にしていかなければならないと思っております。このレポートの影響力という意味については,私どもも決して小さいものではなく,率直に申し上げまして学術分科会でこれだけの御議論を賜ったというのは初めてでございますので,そのインパクトは非常に大きいと思っております。
 また,逆に後者の御懸念の点でございますけれども,これについては前回甲斐委員からも御意見がございました。今回のレポートは,全ての具体的な点について「例えば」と入れてございます。私どもが大変大事だと思っておりますのは,これからこの部会で,あるいは日本学術振興会とキャッチボールしながら科研費改革の議論をしていくわけですけれども,そこの中でまさに研究者の方から出てくる豊かな構想力を縛ることなく思い切った議論をする一方で,フィージブルな形でどうしていくかも考えなければならず,そのための土俵をこの中間報告ではかなり丁寧に書き込んでいただいているということでございます。
 具体的な提案も幾つかありますけれども,全て「例えば」ということでございますので,このような方向性の議論をこの場でしていただいたことを一つきっかけにしながら,これから更に具体的な議論を,構想力とフィージビリティーを両立させながらしていただくことにおいて,決して今後の議論を悪い意味で縛るものではないと考えてございます。

【佐藤部会長】
 合田課長,本当に中間報告の案をおまとめいただきましてありがとうございます。やはり具体的なことを「例えば」で書かないと見えてこないことがありますので,合田課長から説明ありましたように,これでJSPSの議論を方向付けてしまう必要はございませんし,フレキシブルに十分議論していただけるものと思っております。

【奥野委員】
 やや弁解といいますか,繰り返しになるのですけれども,先ほど小安先生から,11ページから12ページに人材育成のことが書いてあるから,それは私が言おうとしたことを十分取り込んでいるというお話で,それ自体は大事なことですし,書いていただいているということはよく分かります。
 今の文科省のといいますか,政府の縄張り体制のような状況の中でここまで書くのは恐らく無理なのかもしれないと思ってはいるのですけれども,だからこそ,長期的に文科省の側(がわ),あるいはこの部会,審議会でもいずれ考えていただきたいと思うのです。11ページから12ページ,よく書けているのですが,要するに,人材育成が極めて大事であって,それは学術にとって大事だと書いてあるわけです。しかし,やはり日本にとって一番大事なのは,学術を今度はいかに社会に生かしていくか,これがある意味でイノベーションだと思うのです。
 要するに,例えばアメリカのシリコンバレーが典型だと思うのですけれども,学術は例えば大学で行われていて,大学で行われているものが産業と接点がたくさんあって,大学の中で育まれた知や人材などが今度は実社会に出ていって新しいビジネスに結び付いて,それが世界でアメリカのリーダーシップを作り出しているという側面があるわけですよね。
 ある意味でその一つのシーズとして科研費があるので,そういうところまで見据えて科研費もきちんと考えたいということです。学術という,ある意味で狭い領域だけではなく,社会に生かされて初めて学術というものの意味があるわけです。生かされ方にもいろいろあるわけですから,そこのフレキシビリティーが恐らくイノベーションの一番重要なところだと思います。この11ページから12ページはよく書けているとは思うのですけれども,もし可能ならば,現段階でももう少し踏み込んで書いていただければ,あるいは中長期的にもう少しお考えいただければということであってもいいと思います。それが先ほど申し上げたかったことです。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。趣旨はよく分かりましたし,この部会は学術分科会の下にありますので,それがイノベーションにつながることを強調することは大事だと思いますけれども,学術という観点は大事な観点として残ると思っております。
 大体基本的なことは御了承いただいたと思うのですけれども,随分回を重ねて議論をし,御意見も賜ってきました。今回が中間報告をまとめなければならない時点でございますので,ただいまの御意見を踏まえて,事務局の方で修正案を作成していただきたいと思います。それを各委員にお送りいたしまして,更に御意見があるようでしたならば,それも踏まえまして議論していただきたいと思いますけれども,それに関しては恐縮ですが最終的には部会長の佐藤にお任せいただければ有り難いと思いますが,よろしゅうございますか。
                 (「異議なし」の声あり)

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。
 それでは,委員の皆様の御意見を賜った上で,部会のまとめとさせていただきたいと思います。その後,今月の27日の学術分科会において,お諮りしたいと思います。どうもありがとうございました。
 具体的な検討事項につきましては,この後お諮りする作業部会において議論を深めていければと思っております。作業部会の設置についてでございますけれども,中間報告の案にございますように,科研費改革の具体的な検討につきましては,本部会の下に作業部会を設置し,そこで審議をしていただきたいと思っております。事務局から作業部会のことを御説明お願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【前澤企画室長】
 資料2を御覧ください。「研究費部会における作業部会の設置について(案)」でございます。その資料の1枚下に,「科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会運営規則」の抜粋を付けてございます。この第2条で,「部会は,学術分科会において定められた所掌事務のうち,特定の事項について調査審議を行う必要があると認める場合は,部会に作業部会を置くことができる」としてございます。この規定に基づきまして,今後,科学研究費助成事業の基本的な構造や審査体制の在り方等,科研費の抜本的な改革に係る事項について,総合的に調査・検討を行うための科研費改革に関する作業部会を設置するという案でございます。
 この作業部会に属していただく委員,臨時委員あるいは専門委員といった方々につきましては,運営規則では部会長の指名となってございますので,それに従いまして,今後,佐藤部会長に御相談しながら詳細を決めてまいりたいと考えてございます。以上でございます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。今後,作業部会で具体的にいろいろ議論していきまして,科研費の具体的な検討を進めていきたいと思います。もちろんこれはJSPSとの連携が大事でございますので,それも図りながら同時に具体的な作業を行っていただきたいと思っております。
 この作業部会の設置,これでよろしゅうございますか。
                 (「異議なし」の声あり)

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。それでは,研究費部会運営規則にのっとり,作業部会を設置させていただきます。また,作業部会の構成員等は後日指名させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 続きまして,「サイエンスマップ2010&2012」につきましての議題に進みたいと思います。科学技術・学術政策研究所の阪主任研究官から,「サイエンスマップ2010&2012」について御説明をいただくことになっております。今後の作業部会での議論の参考にもなるものと思っております。それでは,阪主任研究官,どうぞよろしくお願いいたします。

【阪NISTEP主任研究官】
 ありがとうございます。科学技術・学術政策研究所の阪でございます。このたび,このような機会を頂きましてありがとうございます。
 資料3の2ページより説明を差し上げます。サイエンスマップ調査とは,NISTEPで定期的に行っております調査でございまして,共引用関係に着目した論文データベース分析により,国際的に注目を集めている研究領域を定量的に把握し,それらを1枚の地図のように示しているという調査でございます。今まで定期的に行っており,下の図のように6年を単位として一つのサイエンスマップを描いております。スナップショットを描いていくということで,このたび,サイエンスマップ2010,2012の二つを公表しました。これまで蓄積として6時点のサイエンスマップが作成されてきているということになります。
 3ページ目を御覧いただきまして,サイエンスマップとは,どのようなものを作っているかということでございます。これは国際的に着目される研究領域を抽出しているわけですけれども,そちらの図にお示ししていますように定量的に作成しております。サイエンスマップ2012を例に御紹介しますが,2007年から2012年の6年間の被引用数TOP1%論文を,研究者の方がいつも一緒に引用していれば内容的には同じだろうという共引用関係によってグループ化を行いまして,研究領域を作成しております。こちらのサイエンスマップでは,823の研究領域,論文のグループができたということになります。論文のグループでございますが,同じような研究内容に取り組んでいる研究者の方のコミュニティを抽出しているとお考えいただいても問題ありません。
 4ページを御覧いただきまして,まずこのクラスタリングのときにはTOP1%の論文をクラスタリングし,研究領域のコアの部分であるコアペーパーを抽出します。ここで研究領域を山のように見立てますと,このコアペーパーの部分が山頂部分になります。さらに,これらの論文を引用する論文を抽出しますと,サイティングペーパーという名前が付いております。このように研究領域を山のように見立てたときに,山頂部分に日本が参画しているのか,それとも山腹にいるのか,裾野にいるのかをこれから御紹介してまいりたいと思います。
 5ページは,サイエンスマップ2012ということで,まず1枚紙をどのように作っているかのイメージを御紹介したいと思います。右手に出ておりますのが,サイエンスマップの骨格部分になります。先ほど御紹介しましたようにサイエンスマップ2012では,823の国際的に注目を集めている研究領域が抽出されており,これの位置関係を可視化することで皆さんに分かりやすいマップを描いております。
 小さい丸が研究領域を示しております。位置の情報については,研究領域と研究領域が,ほかの研究者からいつも引用が多くされていれば近くに来るように,そうでなければ遠くに来るようにしております。線が描かれているところもございますが,ここは特に共引用関係が強いところには線を描いています。この骨組みの上にいろいろな情報をオーバーレイさせていくことで,国際的に注目を集める研究領域において一体何が起きているのかを情報として読み取っていこうという調査でございます。
 6ページを御覧いただきますと,まずそれぞれの研究領域にはコアペーパーとして入っている論文の量が異なりますので,コアペーパーの密度,高い山のところは赤くなるように,そうでないところは青くなるようにという,カラーで示しております。皆さんにいわゆる科学研究の状況を示した1枚図を,鳥瞰(ちょうかん)していただいているというものになります。823研究領域のそれぞれの特徴を表す語も今回分析を全て行いました。その特徴語の広がりから,研究領域でも特にどのような内容が近くに来ているのかというガイドラインを示したものが右図になります。こちらのマップの上の方から,生命科学系がありまして,植物,環境,エネルギー,化学合成,ナノサイエンス,物性研究,素粒子宇宙ということが見ていただけますが,それぞれの研究領域群が孤立しているわけではなくて,かなり重なりを持って研究活動は行われているという様子が御覧いただけるかと思います。
 そして,7ページ目から,日本がこのサイエンスマップ上でどのような存在感を見せているかというところを御紹介したいと思います。上の表を御覧いただきますと,サイエンスマップ2008,2010,2012の3時点をお示ししております。ここに描かれる国際的に注目される研究領域は,647から823に増えております。では,そのときに日本はどのような存在感かというところで,ここでは参画領域数を指標として使っております。その研究領域に一つでも論文が関与していれば「参画をしている」とみなす,つまり研究領域の山頂に旗を立てていれば参画をしていると計測した場合,日本の状況を見てみますと,263から274ということで,世界の国際的に注目を集めている研究領域数は増えているのですが,日本の参画領域数は少し頭打ちであるという様子が見えます。したがって,サイエンスマップにおける参画の割合を見ますと低下傾向にあります。
 比較としてですが,英国とドイツを御紹介します。こちらは両国とも,参画の割合を見ていただきますと,その割合が変わっていません。このことから,サイエンスマップで見られるような世界で注目される研究領域の増加に対し,英国,ドイツは同じように動いていることが分かります。それに対して日本は,割合を若干低下させています。
 また,下の方の左図になりますけれども,これらの参画領域にどのように参画しているかを分析したものです。赤い部分は「が国内の論文のみで参画している場合」,青い部分は「国際共著論文も含む形で参画している場合」です。このように分けてみますと,日本,英国,ドイツで赤いところはほとんど差がなく,どこで差を付けられているかというと青い部分で,国際共著論文も含む形での研究領域での参画というところで大きく差を付けられていることが見えてきます。
 また,8ページでは,研究領域の山頂部分と中腹部分での日本の参画状況を御覧いただけます。上の表を御覧いただきますと,サイエンスマップ2012において,日本の場合,コアペーパーの部分は274ですが,サイティングペーパーTOP10%,いわゆる山腹の状況を見ると607の研究領域に日本の研究者の方が参画していらっしゃることが確認されました。
 ここで英国,ドイツと比較しますとその数はまだ若干水をあけられている状況ではございますが,山頂(コアペーパ)に比べれば山腹(サイティングペーパTOP10%)の方では日本の参画数があるということが確認されました。しかしながら,下の表から山腹(サイティングペーパTOP10%)対山頂(コアペーパ)のバランスを見てみますと,日本の場合は607分の274で45%に対して,英国,ドイツは約70%ですので,せっかく山腹のところに日本の方いらっしゃるのですけれども,山頂を目指すところで割合を減らしてしまっていることも明らかとなってまいりました。
 また,9ページでは,どのような内容のところで英国やドイツと差を付けられているのかを見てみます。研究領域を左の方の絵に従って分けているのですが,研究領域の中の6割以上がある分野の論文から成り立っていれば「その分野に軸足を持つ研究領域」,そして,それ以外を「学際的・分野融合的領域」と分けまして,参画数を詳細に見てみます。日本の場合,英国やドイツと差を付けられている領域は臨床医学の研究領域です。また,学際的・分野融合的領域で大きく差を付けられているところが目立つところでございます。
 10ページを御覧いただきますと,更にサイエンスマップが6時点そろってまいりましたので,日本がどのようなところでより参画しているのかを明らかにするため,今回はSci-GEOチャートを新たに導入し分析を行いました。こちらは,今回のサイエンスマップに出ている研究領域を,前回出ていなかったのか,前回もあったのかという継続性の軸を横にとりまして,縦軸は,他の研究領域との関与の強さをとっています。先ほど骨組みを御紹介しましたが,自分の研究領域の周りに研究領域があるのか,離れ小島のような状態なのかというところを縦軸の強い,弱いの二つに分けました。このように4象限に分けて,コンチネント型,ペニンシュラ型,アイランド型,スモールアイランド型という四つの分類を行いました。
 その結果は11ページで御覧いただけます。サイエンスマップ2012で得られました823の研究領域をこの四つの象限で分けてみますと,左図になります。まず世界の領域数823のうち331がスモールアイランド型です。継続性はなく,他の研究領域とも関与が弱い研究領域が多いことが見えてまいります。一方,コンチネント型のように,継続性があって,ほかの研究領域との関係性もかなり強いという研究領域数は160ということになります。
 しかし,その中にどれだけの論文数が含まれているのかを隣のバーで見ていただきますと,コンチネント型は研究領域数が少ないのですけれども,そこに含まれている論文数という意味ではすごく多いことが御覧いただけます。一方,研究領域数という意味では331と多かったスモールアイランド型ですが,ここではその中に含まれている論文数としては少ないことが分かります。それを模式化したものが右図になりますが,スモールアイランド型はこのようにいわゆる小さい研究領域,コミュニティとしてはまだ小振りである研究領域が多く存在すること,コンチネント型のようにかなり規模的に大きい研究領域つまりコミュニティは,数は少ないけれども,やはりそこにはかなり多くの人が集まっていることを定量的に表すことができました。
 同じように,12ページでは主要国がどのようなところで研究領域に参画しているかを示しております。参画領域数で表しておりますが,まず世界を御覧いただきますと,先ほど御紹介したように,スモールアイランド型が331ということになりまして,日本は上から70,59,55,90になります。これをウエートで見ていただきますと右図になりますが,世界の中でのウエートでいくと,スモールアイランド型は約4割を示しています。一方,日本を御覧いただきますと26%ということで,スモールアイランド型の占める割合がかなり少ないことが分かります。一方で,コンチネント型は,世界的には2割のところが日本は33%ということで,日本の存在感を示している研究領域はコンチネント型であり,つまり継続性があり,大型の研究領域の方に日本の研究活動の少し重きがあるのが見えてまいります。
 また,13ページはそれをコアペーパー数で御紹介したものでございますが,このような形にすれば,コアペーパー数ではコンチネント型の方が多いということになります。今後の議論のポイントとしては,世界において日本の存在感をどのように考えるかでございますけれども,研究領域数の方をまず大事にするのか,つまり研究領域をどれだけカバーしているかという「多様性の広さ」をとるのか,若しくは研究領域に含まれる論文数,つまり量をとるのかで国の政策を考える際に優先する指標が変わってくるということになります。
 14ページでは,Sci-GEOチャートの中での研究領域群の特徴をまとめております。やはりスモールアイランド型のところは小規模であって,それがどのように変化していくのかを見ますと,入れ替わり自体は一番大きいです。約6割は次回のサイエンスマップには検出されないということになります。一方で,3割や1割と割合としては少ないですけれども,アイランド型に移行したり,大きなコミュニティであるコンチネント型になっていくことも確認されております。リスク自体は大きいスモールアイランド型になりますけれども,やはり世界的にはこのようなところが活発に動いているということが今回示されました。
 一方で,コンチネント型のように大きなコミュニティは,次回になっても継続されている確率は非常に高いです。しかし,このようなところもいかにコミュニティの中で競争力を持って維持していくかでは,スモールアイランド型とはやはり違った観点で推進していく必要があるだろうということが見えてまいります。
 そして,15ページからは,科研費論文とJST論文のオーバーレイの分析結果をお示ししたいと思います。ここでは,サイエンスマップ2008を使っておりますが,こちらの部会の第7期第1回のときに御紹介しました,我々の研究所で行いました科研費データベースとWeb of Scienceを連結しました論文の結果をこのサイエンスマップ2008の上にオーバーレイさせたものでございます。左図がサイエンスマップ2008に科研費論文が含まれている研究領域をマークしたものであり,右図がJST論文,こちらは著者所属がJSTになっている論文が含まれている研究領域をマークしたものです。まず科研費論文の参画領域数の方が,JST論文の参画領域数より多いのが見て分かるかと思います。
 16ページでは,サイエンスマップ2008でそれらの参画領域数がどのようになっているかを見てみますと,日本の参画領域数は263でございますが,科研費の参画領域数は203で77%を占めております。ここから,科研費が日本の研究の多様性の源泉を支えていることが示唆されます。また,JST論文との関係を見ますと,共通領域数がJSTの論文参画領域数とほぼ同じということで,JST論文の参画領域数を科研費論文参画領域が包含していることが分かります。特に,アイランド型とコンチネント型ではJST論文がより多く参画をしており,JST論文はいわゆる継続性の高い,大きな研究領域を推進しているということが見えてまいります。
 さらに,今のSci-GEOチャートを用いて,日本の参画領域,科研費成果論文の参画領域,そして,JST論文の参画領域がどのような配置になっているかと見てみますと,17ページの図のような関係になっています。これでよしとするのか,あるいは少し動かしたいと考えるのか,考えるのであれば,やはり科研費の参画領域について議論をしていく必要性が出てくるのではないかと思います。
 そして18,19,20ページになっていきますが,今回このサイエンスマップ2012の上に,日本の153機関がどのように活動しているのかという個別のシートも作成しました。それぞれの機関で見ていただくようになっております。19ページを御覧いただきますと,大学,公的研究機関153のうち,20機関以上が一つの研究領域に参画しているような研究領域が御覧いただけます。やはりコンチネント型の研究領域が多くなっています。コンチネント型の研究領域というのは,日本の研究機関としてもある程度集中をしていく必要性があるとも考えられます。
 また,20ページは,日本の研究機関1機関のみが関わっている研究領域のリストになります実は90領域あるのですが,日本のシェアが高い上位の方を持ってまいりました。スモールアイランド型やアイランド型といった,継続性が必ずしも高くはないけれども世界的には国際的に注目を集めているような研究領域において日本の研究機関が頑張っているところになります。このリストから,必ずしもどこかの大学だけというわけではなく,幅広く研究機関が並んでいるのが御覧いただけます。
 21ページでございますが,本調査で抽出された政策立案上の論点です。日本の存在感をこのような定量的な形で表してみますと,研究領域の多さ,いわゆる多様性の広さを問題視するのか,それとも,やはりTOP1%論文数,数を重要視したいのか,これによって狙っていく部分が変わってくることが見えてまいりました。研究領域数の多さ(多様性)を増加させたいのであれば,今回の分析結果を基にすると研究領域の中腹には日本の方もいらっしゃいますので,そこをより引き上げるという論点も一つあります。また,そもそも新規的かつ独立した研究領域が生み出されるような土壌を作るという観点もあるかと思います。今後は,我々は科研費については,研究種目,分野別などに着目し,サイエンスマップというリンケージをとって分析を進めてまいりたいと考えております。以上です。

【佐藤部会長】
 どうもありがとうございました。大変面白い結果をありがとうございました。
 それでは,委員の皆様から質問をお願いしたいと思います。まず私から伺わせていただきたいのですけれども,このマップの上に点を打っていくわけですが,これを見ると,右下が素粒子や宇宙で,左の上ががん等になっています。この間の間隔とか,点同士の分布のさせ方は,どのように分布させたのでしょうか。密度とか細かなことではありますが。

【伊神NISTEP主任研究官】
 このマップですが,まず位置はある種自由度がありまして,基本的には相対的な位置関係を見る必要があります。その相対的な位置関係,その距離関係が何で決まっているかというと,先ほど阪の方から説明がありましたように,研究領域を構成する論文が第三者からよく一緒に引用されれば,距離が近くなるような形になっておりますので,研究領域の距離にも意味があるということです。今,素粒子,宇宙論のところはほかのところと若干離れているように見えますが,これは動きを見ると,実は物性の間に研究領域ができて,片方は素粒子の方に動いて,片方は物性の方に動くというような形で,知識のやりとりの様子も時系列で見えますが,基本的にはここは引用関係で決まっている位置関係を見ていて,その距離にも意味があります。

【佐藤部会長】
 それだけでこのマップを描けるのですか。距離はそのようなことで決まるとしても,どの場所に描くというのはどのように決まるのでしょうか。

【伊神NISTEP主任研究官】
 そこは任意性がありますので,今回,右下が素粒子で,左上がライフという絵を持ってきているということです。

【佐藤部会長】
 数が増えたりするときの配置も,引用を相互に行えば近くに増えるということで,その場所に配置するということでしょうか。

【伊神NISTEP主任研究官】
 そうです。各回独立にマップを作ると独立な配置になってしまうので,これは実は前回のマップとの間にも引力を働かせて,前回の情報も残すような形で位置を決めているということになります。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。

【甲斐委員】
 7ページの左の下,参画領域数の関係のところですけれども,国内論文は国内の共著者のみという意味でしょうか。国内にあるジャーナルという意味でしょうか。

【阪NISTEP主任研究官】
 国内の研究機関の単独若しくは国内の研究機関間の共著論文という意味です。

【甲斐委員】
 そうしますと,その上の国際共著論文というのは,たくさん共著者がいた場合,入ってさえいれば載ってしまうということでしょうか。

【阪NISTEP主任研究官】
 はい。ここも著者所属機関を見まして,違う国・地域に属する機関が入っていれば,国際共著論文ということになります。

【甲斐委員】
 そうしますと,日本,英国,ドイツを見ますと,日本は国内での共著者で書いた論文数でいくとほぼ同じだけど,英国,ドイツは国際共著論文が多いから領域数も増えてしまっていると考えられ,これは単なる国際共著論文の数の比較みたいにも受け取れてしまうかと思うのですけれども,いかがでしょうか。

【阪NISTEP主任研究官】
 おっしゃるように,現在,英国,ドイツは国際共著論文自体が多いというのも別の調査で御紹介しております。ここはどのようにとるかですけれども,英国,ドイツをこのような形で見ますと,共同研究をすることで新たな知識へのアプローチの機会を多くしているとも捉えることができるかと思います。日本もそのような形でのアプローチの数をもう少し多くするなどの議論はあってもよいかと思っています。

【柘植委員】
 EUの動きで気になっているところがあります。今の話ですけれども,EUは,御存じのとおり,イギリスもドイツも,自分のところのファンド以外にEUの共通ファンドがありますね。あれを取れば,当然イギリス,ドイツは共同でカウントされますよね。対して,私は日本のリサーチャーも当然参画というのは,日本も持っていかないと駄目だと思うのです。参画するバリアがあって,そのバリアを破るためには我々がどのようなインセンティブをしたらいいのかと,そこのところを見える化してリサーチャーが入りやすいようにしてあげることがすごく大事なのではないかと思うのです。お金の話だけではなく,ネットワークを作るのに,EUのファンドとのバーターといいますか,その辺りがずっと気になっています。この数字は多分それではないでしょうか。

【阪NISTEP主任研究官】
 EUについてですが,本日の資料では御紹介しておりませんが,報告書本体に記載しております分析結果を一つ御紹介いたします。現在国際共著論文が増えていて,EUの取扱いについては非常に難しいと私も感じています。そこで今回,EUを1国として扱って,EUの中での国際共著はカウントしないような計測手法を行ってみたのですが,結果は余り変わりませんでした。したがって,英国,ドイツがEU内で国際共著論文を増やしているというよりは,英国,ドイツと,米国や中国などEU域外との国際共著の方がサイエンスマップ上では利いているのが確認されております。
 EUのFP(フレームワークプログラム)ファンドへのアプローチについては,米国に関してはEU域内でなくてもアプローチすることができるという話も聞いておりますので,そのようなところでEU域外との国際共著論文が増える一つの要因になっている可能性はあるかと思っております。

【佐藤部会長】
 大変面白い結果をお聞きしました。ありがとうございました。

【髙橋委員】
 これは1年前のこの部会でも少し意見を申し上げたのですが,国際的な学術的融合を,その深い意味を考えずにいたずらに強調すると,データだけが一人歩きして,学術の現場では逆効果になるんですね。というのも,生命科学の分野で何が起こっているかというと,一本の論文に10人も20人もコオーサーを入れるようなことが最近増えてきています。なぜなら一人一人のCVの業績欄の発表論文も増えますし,また国際論文も増えるでしょう。確かに国際共著論文数というデータとしては良いのですが,これって実は,特に私のように理学研究科にいる者が一番大切にする学術マインドからすると逆効果で,学術的には余り意味をなさないといってもよいかもしれません。というのも,例えばシングルオーサーで書くことって,すごく格好良いわけです。ただ,生命科学の実際では,現実的に一人で全部仕上げることがなかなかできないため,仕方がないから複数人かコオーサーとして入るわけです。ですから私など,できるだけコオーサーを少なくして本当の意味で格好良い論文を書きたいというプライドを持っているわけです。そのようなマインドと,10人,20人のオーサーが平気で一本の論文に入るような流れは,ちょっと逆のような気もします。
 今度,京都大学の総長になられる山極先生はゴリラの研究者ですが,山極先生がおっしゃるには,人類学の伝統では,たとえ教授や准教授が学生の研究を一緒にやったとしても,学生にはシングルオーサーで論文を書けという教育をするそうです。このマインドは,数学の分野でも同じであると,数学者から聞きました。このようなことは,実は学術マインドの原点なのですね。こういうことを私たちは忘れてはいけないと思います。
 一方で,生物科学の分野では,電気泳動を1回やっただけでコオーサーに入ったり,ひどいときには何もやってもいないのにコオーサーに入る場合も多く見られます。論文の数や国際共同研究の数だけを表面的に議論する昨今の社会が,このようなゆがんだ形態を生んでいるのかもしれません。ですから,いろいろなものを数だけで短絡的な議論をするのは良くないと思います。加えて国際共同研究をやりさえすればよいというのもおかしな話です。例えば国内の研究者だけでしっかりやって,一発,日本魂でやってやろうというのも良いのではないでしょうか。私自身は国際共同研究のすばらしさをよく分かっているつもりです。でもだからといって,表面的な数の議論になると,かなり違和感を持つわけです。
 もう一つ違う例を言わせてください。京都大学理学研究科の数学の教授と話をしました。私に向かって「『ネイチャー』や『サイエンス』誌のインパクトファクターはどのぐらいあるのか」と聞いてきたので,「20や30で,すごく高い」と言ったところ,数学は一番高いもので2ぐらいだと言っていました。本物の数学はそのような世界なのです。しかし,では数学は駄目かと言ったら,そうではありませんよね。数学は自然科学全ての下支えをしているどころか,全てのサイエンスを引っ張る学問です。ですから,今回のデータ作りの労力はすばらしいと思うのですけれども,学問の分野には,一つの物差しで測れないものがたくさんあるという多様性を忘れてはいけません。よく言われることに,数学は壁(黒板)に向かって一日中ぶつぶつ言っているらしいのですが,先ほど先生もおっしゃったように,純粋数学者は,例えば30分,1時間,5時間,10時間どころでは駄目で,あり余るほどの時間がないと定理の証明はできないそうです。そのような中で真剣勝負をかけているわけです。
 そうやって壁や黒板に向かってぶつぶつ言う数学者は,口は余り達者じゃないですから,このような会議などでの発信は余りなさりません。そのようなことも私たちはしっかりと考えていきたいなと思います。生命科学の現場は私がある程度説明できるとはいえ,この会議では,学術のあるべき姿の一般論とともに,学術の多様性が先ほどからも強調されておりますので,実際の現場の様子をしっかり見つめながら,議論の中に盛り込んでいければと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。本当に分野の多様性というのは大きいと思うのですけれども,このサイエンスマップで例えば数学は載っているのでしょうか。

【阪NISTEP主任研究官】
 補足させていただきます。参考資料で御紹介しました25ページですが,サイエンスマップ2008,2010,2012と国際的にどういう内容のものが増えているかを御紹介します。サイエンスマップ2008から2012にかけて研究領域が647から823に増えておりますが,この中で数学と社会科学・一般の研究領域数は,この間に2倍になっています。したがって,数学はやはり国際的な流れの中でも,研究者コミュニティをきちんと作っていることがお分かりいただけます。
 また,サイエンスマップ上で数学の論文がどのように散らばっているかを見ますと,髙橋先生がおっしゃったように,非常に大きく広がっております。サイエンスマップ上どこかに固まっているわけではなく,いろいろな研究領域に含まれているということが確認できております。

【髙橋委員】
 だから,点にならずに天の川みたいになっているわけですね。

【甲斐委員】
 それは単に数だけで測れるものではないと思うのです。今,コンピューターがこれだけ進んできていて,数学的な考え方は全分野に必要になってきているため,数学者を入れないとできなくなってきているということであって,数学が分野融合をやらなくてはいけないとか,国際共著論文を書かなければいけないから増えてきているわけではありません。だから,流れはそうかもしれないけれども,数学はやはり大もとのコアの定理を解くようなところは,髙橋先生のおっしゃるように変わってないと思うのです。

【阪NISTEP主任研究官】
 そこに関しては同意です。各分野,やはりそのコミュニティの活動の仕方が違いますので,国際共著論文も,私自身は全分野でやればいいとは思っていません。例えば自然科学系の中でも化学合成のところは,研究者の論文の共著者数もかなり少ないですし,国際共著自体非常に少ないです。臨床医学も同様です。生命科学の中でもそのように差があることは私も確認しております。ここでどこの分野も一律に同じように国際化をすべきであるとか,学際研究をしなければいけないという論点ではなく,世界の科学の流れ,国際的に注目を集めるような研究領域の流れとして報告した結果がモニターできるということです。また,各分野によっては状況が違うということに関しては,報告書では全て分野別に国際共著論文数の割合なども記載しておりますので,そちらを御確認いただければよいかと思います。

【上田委員】
 このようなデータは,もちろん論文の実データですので,極めて重要な情報を持っています。しかし,これを偏った分析により極端な結論を出すと,それが一人歩きしてしまう危険性があります。やはり分析屋の立場としては十分な可視化をしてもらうということで結構だと思うのです。
 そのときに重要なのは,例えばこのような領域数と言ったときに,2010年から2012年にかけて約60件増えていますけれども,対応関係がないと,単純に60件増えたのか,何かが消滅して更にもっと増えたのか,あるいは融合したのか,分化したのかが分かりません。このような分野のダイナミクスが世界の動向を知る上で非常に重要になるのですが,今回の分析は全体的にスタティクな分析ですね。
 したがって,もう少しダイナミクスを考慮した可視化をしていただくと,それでもって各委員の方々が,自分の分野がどうなのかとか,本部会の議論にどのように反映させるかとかが,恐らく部会で議論されることになると思います。そのため,このような可視化は非常にインフォマティブなので,是非進めていただきたいと思いますが,静的な分析に終わっている点が少し残念だと感じました。

【伊神NISTEP主任研究官】
 補足しますと,報告書自体は,2008,2010,2012と研究領域がどのように動いてきたかというデータも載せております。そちらを御覧いただくと,融合がどのように起きているかとか,どれが分裂しているかとか,新しくどのような領域が出てきたかというのは御覧いただけると思います。
 また,髙橋先生から御指摘いただいた,一人で書くような論文が格好良いというのは,まさにこのスモールアイランドをどのように作るかというところだと思います。スモールアイランドというのは,ある種,新しく出ては消える,出ては消えるようなところで,ほかの領域とも余りつながりがない,ある種独創的な研究ではないかと我々は踏んでいて,そのようなところに日本の参画領域が少ないというところがまさに多様性の問題と関わっているのではないかと思います。
 一方で,日本は,コンチネント型という,領域としては大きく,恐らく著者数も多いようなところで比較的シェアが高いです。そういうところをどう考えるかという土台としてサイエンスマップをお出ししています。したがって,我々としてこれをこうですと言うわけではなく,このデータを見て,いろいろ御意見を頂きたいと思っております。今,上田先生から頂いたように,いろいろ御議論をいただけると我々の分析も進化していくのだと思います。ありがとうございます。

【髙橋委員】
 そうですね,全くそのとおりだと思います。
 あともう一つは,例えば幹細胞やがん研究などについては,増えるに決まっていると感じます。なぜならば,これだけの予算が投入されると,ここに一気に研究者が入ってきますから,増えるのは当たり前なのです。しかも共著者がどんどん増えるとなおさらです。
 この現象そのものの是非論は置いといて,このデータと日本の研究費の推移がぴったりリニアに比例すると思われますので,そのようなデータがあると,このサイエンスマップを巡って議論がもっと深まるのではないかと思います。
 つまり,私が申し上げたいのは,例えば,このデータだけを見て「幹細胞やがんは,これだけインパクトがあるからすごいでしょう」ではいけないということです。大型予算が入ったら,このデータ上の数値が増えるのは当たり前からです。とはいえ,せっかくこれだけのデータがあるのですから,例えば点の数や引用文献の数だけではなく,それを生み出した科学政策も一緒に複合的に考えれば,とても有意義な議論ができると思います。

【佐藤部会長】
 そのようなデータも可能でしょうか。

【伊神NISTEP主任研究官】
 はい。今,1点,先ほど上田先生からあった研究領域の動きについてですが,例えば29ページを御覧いただくと,これは二つ研究領域があって,鉄系超伝導とIGZOの研究なのですけれども,鉄系超伝導は,これはStream128というもので,2008年ぐらいから出始めたのが,2010で大きくなって,2012に継続しています。ほかの超伝導の研究領域ともつながりを持っているのが分かります。一方で,IGZOの研究は,小さいですけれども,アイランドとして継続しているのが分かります。このような動きを各研究領域について示しているということでございます。
 次に,研究費との関係というところです。

【阪NISTEP主任研究官】
 続いて28ページを御覧いただきますと,髙橋先生の御指摘のように,iPS細胞の研究領域は,サイエンスマップ2008では山中先生の論文が☆印のところで検出されました。サイエンスマップ2008,2010,2012と見ていただくと,新たに現れた研究領域が,合体していくというのが時系列で確認されております。
 このような研究領域の流れを示したトラジェクトリーマップ上に,髙橋先生がおっしゃるように,今後ファンディングの情報を可視化していきたいと考えております。その際に我々が非常に使っていきたいデータが一つあります。近年,トムソン・ロイター社が謝辞情報(Acknowledgements)をデータベースの中に入れ始めました。
 21ページの最後のポツを御覧ください。日本の競争的資金に関しては,基本的には謝辞情報(Acknowledgements)に書いてくださいと指示が出ております。研究者の皆さんはそれに対して非常に真面目に謝辞情報を書いていらっしゃるのです。しかし,その提示している表記例の文章が非常に長く,スペルミスを起こしやすい状態になっております。そのため,科研費を受け取った研究者の方も書いてらっしゃるのですけれども,バリエーション自体が1,000も2,000も実はありまして,我々でまずは,どれが正しいのか手作業でリストを作ることをしなければ分析に入れない状態でございます。
 我々としては,もしできれば謝辞コードのようなものを作っていただいて,皆さんでそれを共有化していただきますと,髙橋先生がおっしゃったように,例えばiPS細胞研究のところにどんな種目がどのようにいつから重なってくるかというのも可視化できますし,また,このようなものが広がれば,日本の中で,科研費だけではなく,ほかの競争的資金との関係性も分析可能となると考えております。例えば,同じ論文の中に二つ入っているのか,三つ入っているのか,それがうまく機能している,そういう数が増えているのかなどもいわゆるリアルタイムでモニタリングしていくことができていくということになります。
 せっかく研究者の方々が,一生懸命書いている形跡が見える分,分析できずにもったいないのです。私たちとしてもそこを是非分析して皆さんの議論の土台にしていきたいと思いますので,一つとしてはこのような謝辞コードも御検討いただけると大変有り難いと考えております。

【佐藤部会長】
 大変ありがとうございます。これはJSPSでしっかり書くようになっており,きちんと例も示していますよね。それに従ってない人が結構多いということですか。
【伊神NISTEP主任研究官】
 科研費はかなりしっかり書いてあります。問題は,科研費以外がものすごく表記揺れしています。科研費は,日本の競争的資金で一番大きいものなので,そこで何かフォーマットを決めてしまえば,ほかにいろいろ応用展開できるのではないかというのが今の阪の問題意識でございます。

【阪NISTEP主任研究官】
 科研費に関しても,KAKENHIと書いてある場合とGrant-in-Aidと書いてある場合などがあり,またそこにAとかBとかも書き込んでいくという意味でバリエーションが非常に多いということになります。

【佐藤部会長】
 Grant-in-Aidをきちんと書くようになっていますよね。

【甲斐委員】
 書いていますけれども,基盤Aとかは書かないのです。英文には書いていないのです。だから,科研費をもらったことを英文にしろKAKENHIにしろ書けばよいということになっていますよね。基盤幾つでナンバーがとは言っていないです。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
 ID番号はしっかりあります。

【甲斐委員】
 例文にはないですよね。

【渡邊JSPS理事】
 最近は,ローマ字でKAKENHI,グラントナンバーを記載いただくよう義務付けしておりますが,昔の論文を見ると以前は種目名などを書いていたり,スペルミスもあったようです。ただ,KAKENHIという謝辞も100%書いてもらっているかどうかというと100%ではありません。そういう意味で,今,統一謝辞コードのお話は相談を頂いていて,科研費だけではなく,ほかのグラントについても分かるような記号化をと思います。記号もきちんと書いてもらわないと仕方ないのですけれども,そのようにやっていただければ,多少手間にはなりますが,いろいろな分析ができて良いのではないかと思っています。

【斎藤NISTEP総務研究官】
 今の点,補足させていただきます。科学技術・学術政策研究所でございます。今まさしく御指摘があったとおりで,科研費に関しては謝辞情報の記載についてパイオニアとしてかなり進んだ取組をされています。逆に,先ほど申し上げましたように,科研費以外のお金,特にスモールアイランド型からスタートして大きな領域に発展させていく上で,例えばJSTとか,あるいはNEDOのファンドがどのように効果をもたらしているのか,あるいは新しい領域を発展させていくためにどのようなファンドが有効なのかという分析をするためには,やはりJSPS以外のところとも連携して仕組みを作っていくことが重要だということで,今,我々のところも参画してやっておりますが,「政策のための科学」というプログラムがございまして,その中でデータ・情報基盤を作っております。
 ここにはいろいろな関係機関に御参画をいただいておりまして,JSPSはもちろんですが,JSTとNEDO,農水省の機関の農研機構,総務省のNICTにもお入りいただいて,できればそこで科研費を一つのモデルとしながら,謝辞情報を共通のコード化して記載するようなルールをみんなで申し合わせて作れば,ファンド情報と,それがどのように成果に結び付いたかのまさしく可視化に役立つのではないかという協議をしております。
 ちょうど第5期の科学技術基本計画の議論も進んでおりますので,その際に,謝辞をある程度きちんと体系的に書くような文化を作っていくことができ,基本計画の中に盛り込むような流れになれば,これが次のファンディングの在り方を議論する上でも大変有用な情報になると考えていますので,是非その議論は継続していきたいと思います。その際には,JSPSの取組を是非参考にさせていただきたいと思います。

【甲斐委員】
 大変良い情報をありがとうございました。いろいろな提言ができてとても良いデータだと思います。先ほど山中先生のデータを出してくださいましたけれども,突然iPSがコンチネント型に出てきたでしょう。しかし,本当はそんなわけはなくて,私,スモールアイランド型の研究こそが本当のイノベーションの素であって,本当のサイエンスの発祥のところだと思うのです。科研費だったら追えるのではないかと思うのです。iPSという名前を付けて出たら突然そこが出てきたけれども,それの基になった研究は科研費でやっていたわけですよね。いろいろと知ってはいるのですけれども,そのようなところを多分追えると思うのですよ。その上で,いつ頃どんな研究費で現れて,それがコンチネントまで来たというのを出していただけると有り難いと思います。
 もう1点ですが,TOP1%とか10%とか,みんな,トムソン・ロイターでやっていますよね。ほかにはないのかなというのが1点。1%といっても,そうではないものが,スモールアイランドのところがいきなり1%にはなかなかならないですね。でも,こうやって見ると,6年間をずっと,かなり長いチャートでやってらっしゃるじゃないですか。そうすると,それも追えるのではないかなと思うのです。大昔にTOP1%の大もととなったようなものはどこのスモールアイランドから出てきたのかというようなものが,例示でも現れたらすごく面白いと思います。

【阪NISTEP主任研究官】
 二つとも御意見ありがとうございます。計量書誌学として非常に先端的な問題になりそうです。Sci-GEOチャートの方をもう少し深めていくという観点で,甲斐先生のおっしゃるようなアプローチは非常に面白いので,考えてみたいと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。是非そのような研究も進めていただきたいと思います。
 それから,科研費はじめ研究費のアクノリジメントの書き方,これは緊急の課題ですね。是非いろいろな場で発信していただいて,スタンダードで確実にきちんとサイトされるようになるようにしてほしいと思っています。

【髙橋委員】
 先ほどからずっと「引用1%」が気になっています。幹細胞ばかり例に出して恐縮ですけれども,研究人口の多い分野ですと,お互いの引用回数が増えるので,この数値は自動的に上がります。しかし,今議論しているスモールアイランドについては,また人類学の例を出しますが,先日人類学の教授と話していて,次のようなエピソードを聞きました。「江戸城跡から出てきた頭蓋骨を調べたら,室町時代に惨殺された人のもので,そこから歴史学的そして人類学的に多くの情報を得ることができてとても面白かった。しかしこれを論文にしてもきっと引用数ゼロなんだよね」というものです。この例にもあるように,たとえ引用回数ゼロの論文であっても,その価値が高いということは皆さんにもお分かりになると思います。
 つまり,研究人口が増えると,引用回数,引用度は増えますが,あるところの臨界点からその下は,引用回数はどんどん減っていき,限りなくゼロに近付きます。引用回数のみで学術を論じると,おかしなことになります。そこをどうすればよいか,私にも妙案がなく,悩んでいるところです。
 当面は,データに踊らされるのではなく,データの本当の意味をしっかりと考えて議論するしかありません,人文学・社会科学の方々の現状なども同様の扱いになろうかと思います。是非よろしくお願いします。

【奥野委員】
 経済学は領域数がゼロとのことでしたので黙っていたのですが,一つだけ,万が一に確認したいのですけれども,これは研究機関で国籍をとっているのでしょうか。

【伊神NISTEP主任研究官】
 これは国籍ではなく,組織がある国で決めています。

【奥野委員】
 経済学を例にとると,実は日本人の貢献というのはそんなに減っているわけではないと思うのです。何が非常に利いているかというと,経済学というのはライバルがいまして,要するに,雇用するときにどことライバル関係にあるかというと,ビジネススクールとライバル関係にあるのです。ですから,初任給がものすごく高いのです。アメリカやシンガポール,香港なんかでもそうですけれども,日本ではそれがなく,とにかく給料が余りにも低いため,若くて優秀で,それこそたくさんサイトされている人たちが日本に帰ってこないのです。
 つまり,日本人の研究はそれなりにあるにもかかわらず,それが恐らく日本の研究としてはサイトされないというようなところもあると思います。外国の研究組織にいるけれど,これは実は日本人の研究であるということを調査するのは難しいのは私もよく分かりますけれども,何か知恵があったならばやってみていただけると有り難いなと思います。

【佐藤部会長】
 奥野先生,大事なコメントありがとうございます。そのような事情は恐らくいろいろな分野であろうと思いますので,難しいところでございますね。

【小安委員】
 最初の話で奥野先生,柘植先生が言われたことが先ほどからずっと気になっております。本日柘植先生に頂いたこの経済財政諮問会議や産業競争力会議の資料の中にあった橋渡しという表現が,ファンディング後のことに関しての橋渡しということですけれども,やはり人材育成に関しては,単に大学の改革のことを言うだけではなく,橋渡しという意味を例えば人材育成のところにも当てはめて少し議論していただくとかですね。そして,例えば大学の高等教育なども巻き込んだ議論で実のある議論をどこかで持ち掛けていただくことを,ここの研究費部会だけでの議論ではないと思いますが,していただけたらなとお願いしたいと思います。

【常盤研究振興局長】
 今,小安委員から御指摘いただいたように,私も高等教育局から参りましたので,大学政策,学術政策,科学技術政策が一体的に運営されるように最善を尽くしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【佐藤部会長】
 時間になりましたので本日はこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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