第7期研究費部会(第2回) 議事録

1.日時

平成25年4月24日(水曜日)

2.場所

文部科学省3階1特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,奥野委員,髙橋委員,柘植委員,濵口委員,平野委員,北岡(良)委員,金田委員,小安委員,谷口委員,鍋倉委員,上田委員,伊神科学技術政策研究所主任研究官,阪科学技術政策研究所主任研究官,西田日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員,佐久間日本学術振興会研究事業部長文部科学省

文部科学省

袖山学術研究助成課長,山口学術研究助成課企画室長,他関係官

5.議事録

(1)我が国の論文生産の科研費の関与状況等について

事務局より,資料2及び3に基づき説明が行われた後,質疑が行われた。

 

【佐藤部会長】
 まず,第1回部会において,科学技術政策研究所により,トムソン・ロイターのWeb of Scienceと科研費のデータベースを連結しまして解析していただきました結果を踏まえて,我が国の論文生産への科研費の関与状況について議論したいと思います。事務局に論点を整理していただきまして,一番目の「学術研究を取り巻く様々な状況を踏まえた我が国の論文生産における科研費の果たす役割について」と,2ページ目の「研究種目や研究分野ごとの論文産出状況などを踏まえた科研費の在り方について」,この二点について議論を進めたいと思っております。本日は,科学技術政策研究所の方から伊神研究官,阪研究官に御出席いただいております。データベースにつきまして御質問があればお答えいただけるのではないかと思っております。
 資料3に基づきまして,この場で積極的に議論を進めていきたいと思っております。議論をしやすくするために,まず,第一点の「学術研究を取り巻く様々な要因を踏まえた我が国の論文生産における科研費の果たす役割」,これにつきまして最初に議論を進めていきたいと思います。前回の資料を見ながら皆様から御議論いただきたいと思います。どなたかからの御意見をお伺いできればと思いますが,いかがでしょうか。

【小安委員】
 これは政策研の方への質問になるかもしれないのですけれども,今の,1の二つ目の丸で,90年代後半から2000年代前半の伸びに比べて2000年代前半から後半にかけての伸びが低下しているという分析結果があるのですが,これは,一つの可能性として,90年代後半から2000年代前半,このころには論文を書かれた方がきちんと科研費をアクノリッジしていなかったというようなことがないのかということがちょっと気になったのですけれども,何か分析があったら教えていただきたいと思います。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 御質問ありがとうございます。今回の分析の方は,科研費のデータベースと論文のデータベースをマッチングさせております。したがって科研費のデータベースに皆さんが出した成果を書いていただいていればマッチングされるということです。ですから,その成果を書く行動が完璧にされていたかどうかについてはこちらでは捕捉できないので,その当時,余り皆さんが,まだ全部を書くという習慣がなくて,だんだん皆さんの意識が高まってきて,科研費で出たものは全てきちんと書くというふうな行動に移ったという可能性も否定はできません。ですから,今後,こういう分析を進めていく上では,先生の御指摘のように,科研費を頂いた方が,そこで出た成果をきちんとまとめて書くということをしていただくと,こういう分析もクオリティが高まっていくかと思います。
 もう一つのやり方としては,学術論文にはアクノリッジメントという一番下に謝辞を書く部分がございますが,そこに科研費の番号を書いていただくというのももう一つの方法としてはあります。トムソン・ロイター社の論文データベースの方も,謝辞に関する情報のところ整備が進んできていますので,そういう分析も世界的には進められつつあります。ただ,こちらに関しましても,科研費を頂いた方による記述方法が様々であり分析が容易ではありません。記述を統一していただくということを皆さんの方から指導していただけますと,今後この情報についても分析していくことができるのではないかと思っております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。科研費の成果を声高々に言うとすれば,それだけの総計的な根拠がないと駄目ですので,これは大事なことだと思います。小安先生がおっしゃったことにつきまして,サンプル調査などをして,どれくらい昔,漏れている可能性があったとかということを把握することは難しいのでしょうか。全部は難しいのは分かっていますけれども,サンプル調査で割合がどうなっているのか,つまり,欠落しているのが何%だったのかというのは把握が難しいのでしょうか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 補足ですが,まず,成果報告書に成果が記入されているかはチェックしておりまして,今回,分析対象としたデータに関しては,少なくとも,成果を全く書いていないということはないということは確認しております。ただ,過去にわたって,科研費をもらった方が成果を全て書いているかというのは,もしかすると,後から確認するのは難しいかもしれないです。
 ただ,まだ御紹介していないのですが,今,時系列での生産性の変化を分析しつつあって,それを見ると,年によって課題辺りの論文数が大きく変わっていないので,研究者が報告する論文の数が,例えば,昔と比べて倍増しているなど,書き方によって大きく変わっているということは余りないのかなという印象は持っております。ただ,なかなか確かなことは言えないという状況です。

【佐藤部会長】
 そういう疑問が出てきますので,私はサンプル調査と言いましたけれども,何かちょっと論点を強化することをお考えいただければ有り難いと思います。どうぞ。

【奥野委員】
 前回,欠席しまして初めての会なのでちょっと的外れなことを言うかもしれません。私の専門は経済学なのですけれども,今,二つのやり方でこのデータをお作りになったという御説明がありました。一つは,科研費の報告書に業績を出して,それでマッチングされているという話をされたわけですが,それは,少なくとも,私の分野ではかなりタイムラグがあるケースがあって,報告書を書いた段階ではまだペーパーにパブリッシュできていないのだけれども,それが,時間がたってからパブリッシュしたということはたくさんあるはずで,その段階でマッチングするというのはかなり無理があるように思います。
 それから,逆に,ペーパーにアクノリッジメントするというのは,次第に最近増えていますけれども,昔は余りそういう習慣がなかったということもあります。ですから,そういう意味で言うと,部会長が言うように,サンプル調査というようなことに近いのかもしれませんけれども,今から研究者に聞き取り調査をして,かつて科研費をもらったことがあるのか,それに対して業績は,ペーパーとしてパブリッシュしたものはどのぐらいあるのかということを過去に遡って聞き取り調査をするというようなことをやられると,もう少しはっきりとしたデータが出てくるのではないかと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。科研費がこのように順調に成果を出していくことを強く訴えるためには,やはり,そういう反論も出てきますので,より強固なデータにしていただければ有り難いと思います。

【北岡(良)委員】
 科研費の果たす役割,最初の丸のところですけれども,論文数が増えている原因の背景には科研費が毎年増大していっているということがあって,かつ,内訳で見ますと,直接経費は余り増えていなくて間接経費で科研費が増大していっているということと論文との相関があるということですけれども,実際,運営費交付金の中で,各研究者,各大学は間接経費で研究アクティビティを補填しているというところもあって,今後,問題になるのは,科研費の増額を要求する場合について,科研費が論文生産,あるいは引用の高い論文をどれだけ生産しているかということがあるのですけれども,ここでのデータでちょっと知りたいのは,2010年度に一気に600億,民主党政権の時代に科研費が増えた。そのときのギャップがあって,それ以後の科研費が2.600億円近くになった段階の生産性はどうかというデータを,もしできれば出していただきたいというのがオプションです。
 それと,問題なのは,科研費の過去三,四年の間に,基盤C,挑戦的萌芽研究,若手Bが30%の採択率を達成したと。それは2,600億円に増えて基金化もできたということで,今後,科研費の最も重要な個人の自由な発想に基づく基盤研究,特に多様性を確保するのに,どうサポートしていくかということなのですけれども,国の今の大きな流れでいくと,最近の研究力強化促進経費というのは,あれは間接経費の補填になっていて,上から20大学程度,ある程度大学を選別して措置することになっていて,そうするとますます,全国的なレベルを見たときの中小,その20に入らない大学に関しては,どうやって研究アクティビティ,この運営費交付金が減る中でサポートしていくのかと,非常に重要な問題です。その中で,やはり科研費の採択率に関しても,基盤C,あるいは若手B,挑戦的萌芽研究と,非常に幅広く対応した科研費の採択率が30%のままでいいのかと,そういう議論も,そういう論文生産性と科研費の増大,その増大の中は間接経費が増えていっているということなので,直接経費をどのように確保していくかとか,そういうことを全体の予算の枠組みで,このまま2,600億円程度の額が確保されて,基金化も実現した中で,基金でプールしたお金をどう使うかということも踏まえて議論をする必要があるのではないかというのが,私のこのデータを見たときの意見です。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。このような意見が出ましたが,お答え願えますか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 一点,最近の分析ができるかということですが,今回使ったのは,2012年の春時点で更新されたKAKENデータベースです。そこには1985年から2009年度の成果報告書しか入っていません。科研費予算が増えた後の分析は,どうしてもタイムラグが出てくるので,そこはまだ分析できない状況です。

【佐藤部会長】
 そうですね。当然だと思いますね。時間がかかると思います。

【平野委員】
 今,北岡委員が重要なポイントを御指摘されたと思いますが,管理というのは確かに必要,オーバーヘッドは大変重要ではありますけれども,トータルの実質的な研究費,研究の支援というのは,中におりながら言うのは大変言いにくいのですが,それほど充実されていないというのか,逆に言いますと,支援体制を含めて,現場は大変厳しい状況にある。特に運営費交付金の削減,それから,もっと言いますと人件費の削減が完全にボディブローとして効いているというのが私は非常に大きな問題だと思います。その中で科研費については,関係者に頑張っていただいた上で,論文も,私は論文だけが成果ではないと思いますが,科研費による論文は,数字で出やすいものですから,まずそれを比較にされるといいことなのですが,そういう中で相応に増加してきており,これは皆さんの努力だと思っております。
 一方で,これは現場を離れた人間は言いにくいのですが,定年延長が必要なので65歳までにしたのですが,若手と言いながら,今度は人件費の問題もあって若手も採用できないということが,また5年後,10年後に効いてくるのではないかと大変気にしております。これは年をとった者の戯言(たわごと)だと思っていただいてもいいかもしれませんが,これを早く対応しないと,大学の研究力強化策等に採択されなかった大学での非科研費論文数の低下が急激に起こることが危惧されます。もし論文数だけで判断しますと非常に大きく落ち込んで日本全体の底上げができないと思っております。これは科研費とちょっとまた離れたところでもありますけれども,併せて検討しなければいけないと危惧しているところであります。
【佐藤部会長】
 ありがとうございました。本当に,平野先生がおっしゃるとおり,大学をめぐる状況はそういう厳しい状況にあるわけです。でも,これは,若手の研究者の数という意味では,どうなのでしょうか。いわゆるポスドクレベルとか,いろいろな競争的資金で若手が十分雇用されていて,研究者,若手層全体としては,厳しい状況にあるにもかかわらず,人数は増えているのではないかと思うのですが,この点はどうなのでしょうか。つまり,この論文増加の寄与の原因ですけれども,そういう厳しい中にあるにもかかわらず,これだけ伸びているのは一体どうしてなのかというと,やはり,若手が増えているのではないか,それはちょっと甘いのでしょうか。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 まず,情報として,今日お配りいただいています参考資料3に,科学技術政策研究所で取りまとめました「日本の大学における研究力の現状と課題」というブックレットがございます。こちらの19ページの(2)を御覧いただきますと,科研費をもらっている対象者だけではございませんが,大学教員における若手の比率の減少が続いているという状況が御覧いただけます。全大学と国立と私立大学の本務教員の中での年齢構成をお示ししておりますが,時系列で見ていただきますと,25歳から39歳と言われる若手の教員が年々減ってきているということが御覧いただけます。

【佐藤部会長】
 この若手というときには,今,私が申し上げたポスドクとか,そういうものは全部入っているのですか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 これは,教員だけなのでポスドクは入っていないと思います。

【佐藤部会長】
 そうでしょう。だけど,今,論文生産で頑張っている人は結構ポスドクの人ですよ。これが入らないと生産率はフィットしませんね。いろいろ観点があろうと思います。

【鍋倉委員】
 先ほど,運営費交付金が減る中で一つの研究室全体の研究費に占める科研費の割合というのがどういうふうに推移をしているか。そこで,例えば,科研費の割合がどんどん増えているという状態であれば,その一つの科研費研究のプロダクティブティ,研究費当たりの生産ではなくて,研究室当たりの科研費の割合という指標で分析することも非常に重要だと思います。というのは,そのラボの研究費が取れない場合はラボ全体が非常に大きなダメージを与えるということです。だから,個人の若手が取る,それは非常に重要なことなのですけれども,やはり,ベースの研究を維持するにはどうするのか。取れる,取れないというのは非常に厳しい競争が科研費というのはありますので,取れなかった場合,数年間の研究がどうなるかということも含めて,研究室当たりの科研費の推移というものとプロダクティビティ,そういう観点での分析も大事だと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。これも大事な論点ですね。

【奥野委員】
 また,初回に出席していないので,既に議論されたことなのかもしれませんけれども,資料3の1で議論されていることは,我が国の論文生産における科研費論文の割合とか量,そういうものが議論されているわけで,それを科研費の研究費に占める割合で議論しているのだと思うんですけれども,論文の生産性ということから考えると,研究費に占める科研費の割合というだけではなくて,研究費全体の額,あるいは,研究環境の質,その裏に研究費の総額というものがあるわけですが,そこがどう関連しているのかということについてもう少し情報をいただけないか。つまり,単に,科研費の割合に比べて科研費論文の割合が増えてきたというだけではなくて,量,あるいは,論文の生産性,とりわけ国際的な論点が出てきていて,日本の論文生産数が下がってきているというようなことが議論されているようなので,日本全体の,例えば,研究費のGDPに占める割合とか,科研費の予算に占める割合とか,そういうものと科研費論文の全体論文に占める割合がどうなっているのか,その辺りをもう少し体系的に示していただくと,あるいは,少なくとも,統計的に処理してもう少し情報量をいただけるといいなと思うのですが,既にやられたことがあれば教えていただきたいと思います。

【佐藤部会長】
 いろいろデータはあると思うのですけれども,既に研究所の方でも,GDP比とか,そういうことはいろいろあったとは思うのですが。

【山口企画室長】
 補足ですが,前回資料の3-2の中で,若干詳細な予算の数値が載っております。例えば,今御指摘がありましたGDP比については,必ずしも高くない水準で推移しているということが1ページに載っております。

【奥野委員】
 分かりました。ついでですけれども,日本のGDPというのは,ずっとデフレが続いていて,世界的に比べると,世界における日本のGDPのシェアというのはずっと低下傾向にありますので,そういう意味では,GDPが下がるとともに,GDP比がコンスタントであれば,科学研究費とか研究費の割合というのは世界的には下がってきていると理解すべきだと思います。一応,一言だけです。

【濵口委員】
 1のところで,2000年代,後半にかけて論文数が下がっているというところ辺りとか,非科研費論文が下がっている。気になりますのは,非科研費論文の研究費の中身は分かるのでしょうか。科研費を使っていないでどうして研究できるのかということがあります。何を資金としているのか。多分非常に多様だとは思うのですけれども。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 先生の御指摘のところは,まさに分からないところでございます。一つとしては運営費交付金も考えられますし,また,今回は科研費だけを区別できただけですので,もう少し大型の研究費なども入り交じった状態としか今お答えすることができません。科研費の成果についてここまで分析できたのは,科研費の成果がきちんとデータベース化されているからできたもので,他の研究費に関しましても科研費のようにその成果がきちんとデータベース化されますと,科研費の分析に統合していくことができます。他の研究費に関する成果データベースが出てくるということが次のステップになるかと思います。

【濵口委員】
 ということは,科研費に比べてもっと巨額の研究費の成果がはっきりと統計的に出されていないということですか。ちょっとナイーブな話ですが。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 このような分析に用いる形で成果がきちんと整理されているデータベースという意味では,科研費が今のところ一番整理されていて,オープンにされていると認識しています。

【佐藤部会長】
 こういう調査に限界があるのは,今回は特に二つのデータベースを連結させたことで何が分かるかという解析ですので,分からないことも多いと思います。

【小安委員】
 ここには直接は出ていないのですけれども,野依先生が最近おっしゃるのは,日本の研究はコストパフォーマンスが悪いということです。私は余り好きな言葉ではないのですけれども,科研費とそれ以外のものを比べたときに,実際に,例えば,トップ1%とか10%の論文を生み出すのに,実は,科研費がこれだけいいとか,あるいは,それほど変わらないというようなデータがあるのか,あるいは,そういう分析が可能なのかということをお伺いしたいのですけれども,いかがでしょうか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 現時点では非常に難しいと思います。研究を進める中で,当然,科研費を主に使っている可能性もあるのですが,それと併せて運営費交付金とか他の研究費も使っている可能性があります。今回お示ししているのは,飽くまで科研費が関与した論文です。ですから,科研費の純粋のパフォーマンス,今,実は我々は分析しようとはしているのですけれども,恐らくそれで意味があるのは,その中の時系列の変化,そういうものは見ていいと思うのですけれども,例えば,科研費で生産性を計算して,JSTなど他の研究資金について生産性を計算して,それを単純に比較するというのはちょっと危ないのかなという印象を,今の時点で私は持っています。

【髙橋委員】
 これを見ると,若手の問題がかなりシビアで,運営費交付金がどんどん減らされる中で,助教は採用できない,そしてシニアなプロフェッサーたちが膨大な量の雑務に追われて教育と研究で大きく疲弊しているというのは前回も申し上げたとおりなのですけれども,このデータを見ると,明らかに若手の研究者が張り切って研究をすることこそが,私たちが将来,死ぬか,生きるかを分けるということはもう明らかなわけです。
 助教の若手の数も減っている,教員も減っている。一番問題は,ポスドクたちが非常に苦しい状況に置かれていることなのです。ポスドクたちを雇うために,私も含めて,シニアのプロフェッサーたちは巨大な科研費を求めてさまよい歩いています。そういう負のスパイラルがありまして,何とかして若手の研究費を,若手が自分たちを養うために使えるような,かなりラディカルな発想かもしれませんけれども,そういうふうにすれば,腰を据えた研究が行えます。つまり,大きなラボを,やはり家族を養っていくためにどうしても生活費が必要で,研究が二の次になってしまうわけです。そして,巨額な科研費を持っているラボを転々とします。そうすると,ポスドクたちはそうやって雇われますからプロジェクトを変えなければいけないのです。そうすると研究が続かないのです。結局,ひどいところはプロフェッサーから「これをやってくれ」と言われるままのプロジェクトをやらなければいけない。これではどうにもこうにもならない状況です。
 ですから,一生懸命に論文を書いている若者がいたら,彼らが自分で科研費を取って,自分たちの生活費を得られる,全額かどうかは分かりませんけれども,そうやって,この流浪の民たちを何とか救う方策を考えないと,学術の世界が本当に衰退するのです。他の省庁で動かないのだったら,この科研費で何とかならないかなと,このデータを見て思いました。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。本当に日本の研究システムの根源的な,本質的な問題でございますね。
 1番の観点に関しての議論,ほかに何かございますか。やはり,増加していることはうれしいことではあるけれども,正確な根拠を示すことはまだちょっとデータは不足で,今回の二つのデータベースをリンクしたことだけではとてもできないことでございます。

【小安委員】
 前回も出たのですけれども,科研費の割合が上がっているということは,逆に言うと,他からのサポートが下がっているということの裏返しなので,やはり,運営費交付金に代表されるような基盤的な経費というのは確実に下がっていることが反映されている数字のような気がして仕方がないのです。そこはきちんと,科研費がこれだけ貢献しているのだけれども,例えば,それ以外のところがきちんとないと若手は育てられませんよというような論調はきちんと伝えていくべきではないかと私は思います。

【佐藤部会長】
 そうですね。特に文科系の方は,やはり研究費はほとんど運営費交付金の中でやっている方が多いのではないかと思いますし,運営費交付金が減って,科研費が競争的には増えてきていることでは,やはり,科研費の割合が増えるのは,ある意味では当たり前と言えるかもしませんし,若手が厳しい状況にある中で頑張らざるを得ないという状況の中で,ポスドクレベルで一番生産性が高い世代が,人数が増えて,かつ厳しい状況にあるので,その生産性を落とすわけにはいきませんからね。

【濵口委員】
 データを正確に知りたいのですけれども,これはWeb of Scienceベースでやっていますよね。ということは,文系の発表論文はほとんどここではカウントされていないですね,もう一回確認したいのですが。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 はい,Web of Scienceの,主には自然科学系の論文との分析です。

【濵口委員】
 先ほどからの論点になっている運営費交付金が減ってきて文系の論文生産が厳しいというのは,ここでは分析できないですね。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 はい,いわゆる文系というところ,人文社会科学のところでは計測できていないというふうに考えております。

【佐藤部会長】
 そうですね,どうも失礼いたしました。

【上田委員】
 前回欠席しましたので完全に議論についていっていないところがあるのですけれども,この1の丸の部分を見たときに,概括的に言うと,確かに科研費が論文生産に貢献しているというふうには見えます。ただ,科研費というのは当然,組織に来るわけで,それでエフォート何%とやれば,額当たりどれくらいの論文を出しているかというのは統計が出せると思うのですがどうなのか。それから,先ほど貴重なコメントがあったと思うのですが,結局,国立大学が法人化されて,科研費というファンドで研究をやっていくという大学の体制になったという状況が本当に論文生産を上げているのか。つまり,科研費を増やせば,それだけもらう組織も増えるわけですから,単調に論文数が増えて当たり前。だけど,額当たりに本当に質の高い論文が増えて,むしろ,科研費を出すための作文に追われて研究をする時間がないという先生がたくさんいます。変な話で,むしろ,「科研費を通すためには」みたいなセミナーをやっている。研究ではない,そういうところのスキルを上げるようなことも行われている。これは本末転倒で,科研費を上げると論文が上がるという誘導ではなくて,科研費を上げたことによる弊害みたいな負の側面もきちんと分析しないと本質的な問題が解決しないような気がします。以上です。

【佐藤部会長】
 競争的資金の割合が増えるということは,結局,先生がおっしゃったことが起こらざるを得ないという状況になるわけです。運営費交付金が減れば,やはり,自分の研究のためには科研費を獲得しなければやっていけないとなってしまいます。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 額当たり,課題当たりの分析は,前回の資料4で36ページ以降に,2005年から2007年の一時点だけを調べた結果を紹介しております。先生が今おっしゃったように,これは時系列で見ていくべきものだと思いますので,今後,時系列の変化を見ていきたいと考えています。ただ,この一時点でも,種目や分野によってかなり様相が違うということが分かってきたということは,ここでお伝えできると思います。
 あと一点補足ですが,先ほど科研費の割合がどう変わっているのかということですが,これは科研費ではないのですけれども,先ほど御紹介したブックレットの4ページを御覧ください。右下の絵は,特に国立大学の研究に占める外部資金割合です。自然科学系に絞っていますが,1990年代初頭は外部資金割合が10%程度だったものが,最近は30%くらいには上がってきています。このようなマクロな状況は把握できています。ただ,この外部資金の中身がどうなっているかというのは,残念ながら分からないという状況になっております。

【佐藤部会長】
 この1の項目につきまして御議論いただくことは,本当はまだまだあると思うのですが,先生方からの御意見は,もうよろしいでしょうか。それでは次のページ,研究種目や研究分野ごとの論文産出状況につきまして御意見を賜れればと思いますが,いかがでしょうか。

【小安委員】
 前回も出た論点だと思いますが,若手が非常に頑張っていることはそれで非常にいいことなのですけれども,これが本当に,先ほど言ったように,若手が自分で頑張って,自分のテーマで科研費を取って,それで頑張っている成果なのか,それとも,いわゆる非常に大きな研究室に属していて,その中の一部のテーマとして論文を出していて,それがこういうところで光っているのかという辺りは,実は大きな論点だと私は思います。前回もこの話は出ましたけれども,その辺りがもう少し分析できるといいのかなということを感じました。
 それから,種目や分野によって違うというのは,ある意味当たり前であって,これはそうだと思います。恐らく,生物系なんかだと,先ほど奥野先生からお話がありましたけれども,その科研費を頂いている間に論文が出るというよりも,頂いた後になって出る。つまり,頂いていた期間から論文が実際に出るまでの間って結構長くて,私も自分でアクノリッジメントに書いているときに,大分前に終わった科研費の番号だなと思いながらアクノリッジメントを書くことが多くて,そういう意味でいくと,そういう時間がどのくらいかかるのかという要素も少し入れた方がいいのではないかなというふうに感じました。

【金田委員】
 私も前回お話ししたのと同じことを同じ発想で申し上げるので恐縮ですが,前回も,特に文系の場合は,小規模なもので継続的なものが大事だということを申し上げたつもりなのですが,今,この2の分析結果の例の最初に,「基盤研究Cのような研究費の規模が小さい種目において,研究費当たりの論文数が多くなっている」という傾向の分析がありますが,その理由というのは何か分かるのでしょうか。つまり,これは小規模だというから,個人の研究テーマに近いから,それが結果的にそういう論文の生産性に直結しているということもあり得るかもしれませんし,他の理由もあるかもしれませんが,どのように考えたらよろしいのでしょうか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 種目によってかなり論文生産性に差がある理由については,我々も理解したいと考えています。例えば,関わっている研究者の数や国際共著の度合いについては種目による違いが見えています。また,トップ1%論文やトップ10%論文が生み出される割合は大きな種目の方が高いので,研究の内容も少し違う可能性があると思います。ですから,その辺りを総合的に見ていかないと,種目による違いを,正確には把握できないのかなというところだと今は考えております。

【北岡(良)委員】
 先ほどの件で,基盤Cというのは割と文系の方々が出されるような状況で,かつ,金田先生が前回おっしゃったような,研究室の規模が小規模で長期間継続した研究が重要であるということで,例えば,期間をCの中で3年から5年に増やすとか,そういうようなやり方とか,一番下の若手研究は被引用度が10%,1%で,全種目よりも平均が高くなっているということで,若手B,あるいは若手A,そういうところでの今後の採択率をどうするかとか,特に若手Bでは,日本学術振興会の方で複合領域に出すと,ちょうどボーダーになったときに,複合領域,ほかで出していると割と優先度が上がるとか,そういうことを工夫されているので,そういうことを踏まえた中で,やはり,基盤的な種目である基盤C,あるいは若手B,挑戦的萌芽研究ですけれども,基盤Cの中の研究期間を分野によっては変えるとか,そういう,できる範囲の工夫の中で,より息の長い研究を,どうやって多様性を踏まえて科研費で処置していくか。あるいは,若手研究者に対して,大体,若手Bだと代表者は若手の人がなっているという傾向だと思うので,そういうところの研究に対して,もうちょっと採択率を上げるとか,具体的な政策を考えていく必要があるのではないかと私は思います。

【小安委員】
 今の件なのですけれども,実際に採択率30%になったのは,この2年ぐらいなので,多分,データは出ていないと思います。ですから,その前の基盤Cの部分と,30%になってからのものを比べてみるというのは非常に大きな意味があるのではないかと思いますが,ちょっと時期尚早なのではないかと思います。

【奥野委員】
 文化系ですし,前回出ていませんのでまたずれたことを言うかもしれませんが,基盤研究Cのようなものに比べて,例えばSとか,大型のものというのは,先ほどから話題になっている運営費交付金が足りなくなってきたので,そういうものを補填するために大型の研究費を大学で取ってこいというような形で一生懸命に,その予算の補填のために取ってくるというようなことを文化系では時々するのです。そのようなことをすれば,当然,論文にはなかなか結びつかない,研究には結びつかない,単に赤字の穴埋めに使われてしまうというようなことが起こる傾向が強い。
 その辺りをどのように調べるかということなのですが,本音ベースでどこか大学に聞き取り調査をしてみるとか,あるいは,大型の研究費をもらった人に,どういう形でお金を使ったのかということを聞くと,データを単に処理するというだけではなくて,もう少しヒアリングとか,そのような調査をされてはいかがかなと思います。
 それから,1の方に戻ってしまうかもしれないのですが,国際的な話で論文の数が減っていて,科研費論文もどうなのかということが問題になっているわけで,外国の場合に,例えば,アメリカのNSFに関連した研究論文の割合と,日本の科研費が関連している論文の割合等はどうなのかとか,あるいは,国際共著論文というのが最近非常に問題になっているわけですが,そこのところの仕組み,科研費が国際共同研究にお金をつけられるというのは,外国と比べてちょっと弱いのではないか。あるいは,例えば,NSFの基金と科研費とを一緒にしてジョイントでやるということも考えてもいいと思うのです。ちょっとこれは制度に絡む話ですけれども,これは文科省だと思いますが,後で議論になるのかもしれませんが,もう少しそういうことまで考えないと,もう日本だけでやるというローカルな時代ではだんだんなくなりつつあるというふうにも思います。

【佐藤部会長】
 はい,特に最後の方は大事な観点だったと思います。

【濵口委員】
 少し外れますけれども,前回資料の37ページのところで気になったところは,若手研究におけるアクティビティが高いという議論が先ほどから出ておりますけれども,その中で,やはり,問題は,ビッグラボによって,ラボのアクティビティで出ているところとどれくらい本人の力で出ているかというのをこのデータから分析できるとしたら,種目間の論文のダブり,特にSと若手とのダブりというのはどれくらいあるのか,そういうのは見られないんですか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 種目間がどう重なっているかは調べることはできます。まだ分析はしていませんけれども,一つの方法としては,一つの論文に複数の課題が絡み合っている場合もありますので,その関係性を見ると,先ほどの若手が独自に出したものなのか,大きなプロジェクトの一部で出たものなのかということの様相が少しかいま見えてくるのかなと思います。

【髙橋委員】
 それに関して,特に生命科学系の場合は,今,共著者がどんどん増える傾向にあるのですね。変な言葉で言うと,それによって論文数を稼いでしまうと。これは余り建設的な方向ではなくて,例えば,20名,30名の共著者で,最後がビッグボスで大きな論文が出る傾向があります。少なくとも私が関係している分野では,評価はファーストオーサーとコレスポンディングオーサー,よくラストオーサーにつきます。30人の中の15番目についている人は,どのように研究に関わったのだろうかと思います。これは分野によって異なると思いますが,物理とか数学は全く違う文化を持っておられますし,殊に生命科学に関しては,若手Bで研究論文数が増えたというのは,その陰の部分も分析しなければ表面的な議論に終わる可能性があります。分析が難しいかもしれませんが,例えば,ファーストオーサーと,ラスト,あるいはコレスポンディングオーサー,それ以外という統計は,少なくとも私たちの分野では非常に大きな意味を持ちます。申請書を見てもよくありますが,ひたすら真ん中の方に名前が入っているけれど,ファーストが0ではないかというのは評価が下がります。こういう現場の事情も踏まえていただければと思います。

【佐藤部会長】
 解析という意味では,その辺りは詳しくは分からないですね。

【鍋倉委員】
 少し議論は違うのですけれども,ここで基盤Cのような研究費の規模が小さい種目において,研究費当たりの論文数が多くなっているのは当たり前の話で,一生懸命にそこで論文を書いて,また次に取ろうということです。問題は,若手から基盤Cに移る,基盤Cから基盤Bに移る,基盤Bから大型に移っていくときの追跡調査,一人の方がどういうふうに伸びていくのか,伸びるという言葉は少しおかしいのですが,どういう分野に広げていくのか,その場合,論文数が増えるのか,又はトップ被引用度論文に移っていくのか,多分そういう調査が一番必要かと思います。それぞれ縦とか横割りで比較するのではなくて,その人たちがどう,インパクトファクターを私は全然評価していないのですけれども,そういうものを出すとするとたくさんのお金が要るというのが現状なのです。そうすると大きな方になって絞っていくということもあるのですけれども,問題は,一人の研究者がどう育っていくかという過程をもう少し時系列的に評価するということもやっていただきたいと思います。

【佐藤部会長】
 研究所の方では,今,鍋倉先生がおっしゃったような個別のサンプルで,人のキャリアでどのぐらい上がっていくとか,そういう研究をするゆとりはないでしょうか。また,髙橋先生がおっしゃったような,ファーストオーサーに着目して解析するといったことはいかがでしょうか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 KAKENデータベースでは研究者個々にIDがついておりますので,個々の研究者がどういうステップを経てキャリアを積んできたかというのは分析可能な形にはなっていると思います。ただ,同じ方でもIDが変わっている場合があるので,その名寄せ等が技術的には必要になってきますが,NIIがかなり努力されてデータベースが整備されていますので,土台としてのデータはあると思います。
 もう一つ,髙橋先生から御指摘があったファーストオーサー,ラストオーサーなのですけれども,そこはかなり難しいです。今は論文レベルでマッチングしているので,個々の人がファーストかラストかというのは著者を同定する作業が必要になります。技術的にはできないことはないのですけれども,かなり手間な作業にはなると思います。ただ,非常に重要な御指摘ですので,何かしらの方法でそういう視点も今後考慮していく必要があるのかなという気はしております。

【奥野委員】
 一言だけですが,髙橋先生がおっしゃることは大変もっともだと思うのですが,学問分野によって非常に違うということだけは確認してほしいのです。経済学の場合には,単著論文が非常に重視され,共著論文が非常に軽視されている。でも,今は国際的には共同研究がどんどん流れていて,共著論文の方が評価される。ただし,三人から四人くらいまでで何十人ということはないのですが,そういう共著論文を日本では非常に軽視するという文化的な流れがあって,これはむしろ,経済学の学問的な勢いをとめることになりかねないので,学問別,分野別に処理していただきたいと思います。

【佐藤部会長】
 素粒子論とか,そういう分野は全くA,B,C順にしますから,全くファーストオーサーは分からないようにしますし,全ての分野で使いこなせてはないのですけれども,ほとんどの分野はファーストオーサーが大きなコントリビュースをされた方であることは確かです。

【谷口委員】
 確かに,論文の発表状況等で評価をするというのは,全てではないにしましても非常に重要な側面であるということは分かるのですが,科研費等によく問われることとして,社会貢献とか,実際,この科学技術学術審議会の基本方針等にも述べられていますが,そういうことに対して,つまり社会に対してどうやって科研費の存在価値というのをアピールするかといったような視点からの分析とか,そういうものはなさっているのでしょうか。あるいは,これからされる予定はあるのでしょうか,なかなかこれも難しいことだと思うのですが。応用開発研究ですとやりやすいところがあるのですが,これが,言ってみれば科研費の内在的なというか,だからこそ科研費が重要だというところにもなると考えられますけれども,大変難しいことだと思いますが,いかがですか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 社会的貢献というところは,我々の分析手法からは難しいです。今,KAKENデータベースに何が入っているかと申しますと,まず,論文等のパブリケーション,次に,会議での発表,本や特許,商標,その他ということになっていて,社会的貢献というのを成果として書くような体裁には成果報告書がなっていないので,我々では分析はなかなか難しいと思います。

【谷口委員】
 大学というのは,親方日の丸だったころは,とにかく自由な発想で自由な研究をして,それで,一度,教員になればずっといられると,よくも悪くもそういうシステムがあって,その中で研究というのは進められてきたわけですけれども,今はそういう時代ではもうなくなっているという時代なのだと思います。その時代に,やはり大学がどうやって研究を推進するかという文脈で考えていきますと,今のような視点を,つまり,社会からの理解,支援をどうやって得るかということは非常に重要な視点になってくるだろうというふうに思います。
 そういう似たような文脈で,これは研究費部会で適しているかどうか分かりませんが,先日,安倍首相がNIHのグラントがすばらしいというようなことをテレビで話していまして,NIHのシステムの紹介までやって,日本もこういうようなことをすべきだというような論調のニュースがありました。下手にそれが,例えば,政治の力か何かで日本がそれで動き出してしまうと,途端に科研費を守らなければ,大学を守らなければという発想では,到底あらがうことができないような状況が生まれかねないということをふと思ったのです。そういうときに,論文も出しています,自由な発想が大切ですという論調だけではなかなか難しいのではないかというような印象を持ったものですから,私は現実にどうなっているのか全く分かりませんが,やがてそういうような時代が来ないとも限らないという気はします。ですから,そういう視点からも,やはり,文科省の科研費がどういう位置付けであるかというのをいろいろな側面からきっちりと検証し,かつ,社会の理解を得るような,そういうことを考えていくことが大切だと思います。ただ,これを研究費部会で議論するべきものかどうかというのは問題であります。
 最後に,長くなりましたけれども,この研究費部会で何を目的にして議論をしているのかということが私にはよく分からないので,先ほどからどのような意見を言っていいか分からないところがあります。つまり,科研費が立派にやっていますということを内外に示していかないといけないので,研究費部会としては,こういう調査の分析結果をいろいろ議論して,更に外に対してアピールしていくことを目的として議論しているのか,それとも,科研費のよりよい在り方を考えるために,今の様々な研究種目に関する見直しをそろそろ考えなければいけないから,そういう文脈で議論をしているのか,その両方なのかといったようなところをお聞かせいただけると有り難いのですが。

【袖山学術研究助成課長】
 今回の分析について,今,谷口委員がおっしゃった両方の目的でお願いをしたいということでございます。資料3の一番冒頭にも書いてありますように,今,我が国の論文産出状況が諸外国に比べて低迷している主因が科研費にあるのではないかという疑念が一部で示されているのも事実でございまして,こういった原因に対して,まず答えていかなければいけないという状況があるということ。それとともに,もちろんこういった論文産出状況が全て科研費による成果を示しているのではないということは十分承知しておりますけれども,現時点で分かることからでも,その改革,改善の方向というのが見えてくるのであれば,それを踏まえて今後の科研費の種目や配分といったところに反映をさせていく。その両方の目的で御議論をお願いしているものでございます。
 それから,社会的貢献についての評価,これについては現状で十分できていないというのはおっしゃるとおりだと思っております。科政研の方には,今回,論文指標という観点からの分析に多々お骨折りいただいているところでございますけれども,科政研のみならず,文科省本省,あるいはJSPSの方でも今後様々な分析をしていかなければならないと思っています。
 科研費につきましては,大方の種目については第三者評価の仕組みを導入しておりますし,全ての種目について自己点検評価を実施しており,そういった中で,不十分ながらも社会貢献についても一定の記載をしていただいているところですので,今後そのようなものをどう分析していくかということについても,十分検討していきたいと思っております。

【佐藤部会長】
 谷口先生,基本的には,この部会は科研費の制度,大きくは研究費の制度の話をするところですけれども,例年,夏前にレポートを出しているわけですが,特に今回は大きく制度を変えるというよりも,科研費がいかに大きな寄与をしているかとか,そういったことを訴えることが重要になるのではないかと思うのです。そういう趣旨で今議論をしているものだと私は理解しております。

【小安委員】
 今の谷口委員のお話にも少し関係して,課長が今,評価のことをちょっとおっしゃいましたが,もう一つ非常に重要な論点は,この科研費というのは,ピアレビューで,お互いの分野の人たちが評価をし合ってやっているというところが非常に重要な観点だと思います。先ほどの谷口委員のお話に出てきた首相のお言葉とか,そういう流れでもう一つ,時々出てくる批判というのは,我々がお互いにきちんと評価し合って運営しているにもかかわらず,なれ合いでばらまいているのではないかという批判が常に出てきます。これに対してきちんと答えていくということをやらないと,仕組みそのものが疑いを持たれるということだと思います。ですからこの部会が,どうやって科研費を運営していくかということに関してきちんとした意見を出していくということが大事であって,そうじゃないと,全く違う方向に持っていかれる可能性があるのではないかということを私は非常に危惧しておりますので,きちんとしていただきたいと思います。

【佐藤部会長】
 はい。科研費の重要性とか,寄与を言うときには,やはり社会的にも寄与していることを示すことは非常に大事な観点だと思いますね。その点が今まで弱かったのかもしれませんけれども,その点はやはり加えてすることが必要だと私も思います。当面は,やはり,このようにデータが出ているように,日本の学術研究に対する科研費の寄与がいかに大きいかということを訴えることが大事だと思います。

【上田委員】
 ちょっと,話題がまた1に戻ってしまうのですけれども,そういう意味で言いますと,やはり,重要なのは,科研費が関与していない論文数が減少しているというのが,要するに,科研費が増えていることに統計的に独立なのか,従属なのか。もし従属だとすると,やはり,何が問題なのか,その辺はもう少し統計的な分析を時系列でしていただいて,つまり,科研費が増えた分に対して,非科研論文数が減っている,つまり全体の論文数が減っている,これは因果関係があるのかどうかというのはもう少し調べていかないと,科研費の部分だけで論文数が増加したといっても全体としてはどうかと,その辺は分析できないのでしょうか。

【佐藤部会長】
 これは,データベースではできないことですよね。結果だけしかこれは見ていません。いろいろな理由は考えられるけれども,運営費交付金が減って,競争的資金である科研費が増えているのは明らかですから,その理由として,絶対にあるとは思うのですけれども,その原因として何が何%寄与しているというのは,なかなかできないと思うのですがどうでしょうか。

【伊神科学技術政策研究所主任研究官】
 今,日本の論文全体の調子が悪いという状況について,我々は一生懸命に何が要因かということを分析したいと思っているのですけれども,それでもやはり非常に難しいです。運営費交付金の話,若手の話,研究時間の話,あと,他国との相対的な関係など,いろいろな要因が絡まっていると思います。恐らく,要因としては,この部会で御議論されているいろいろなことが絡み合っているとは思うのですけれども,これがずばり原因というのは,なかなか現段階でははっきりと言うことはできないという感じがしております。

【佐藤部会長】
 レポートを出すときには,いろいろな可能性があることは挙げるべきだとは思いますけれども,やはり,運営費交付金が減っていることは,明らかに大きな原因だとは思いますよね。

【上田委員】
 私の質問は,原因まで言っているのではなくて,要するに相関があるかどうかということで,仮に相関がないとしたら原因はほかにいろいろあると思いますけれども,そこのレベルでと言っている意味なので,減っている本質論を言っているわけではございません。

【阪科学技術政策研究所主任研究官】
 ありがとうございます。論文生産には,科研費と運営費交付金というのが関わっているのではないかというところまでは示唆できるのですが,運営費交付金については論文につながるような研究に使われているのか,それとも教育なのか,そこはきちんと分けられていないので,そこをまず統計的にとるのがなかなか難しく,簡単には相関を求められないという現状がございます。

【髙橋委員】
 谷口先生がおっしゃった社会的貢献,全くそのとおりだと思うのですけれども,何をもって社会的な貢献とするかというところです。例えば,今よく評価の対象というか,みんなもよく分からないまま評価していると思うのですけれども,大型予算を取ってくると,一般市民への公開シンポジウムとか中高生向けの教育とか,地域への貢献とかいろいろ求められます。全部非常に立派なことなのですが,そういうことが余りにも増えると研究する時間がなくなってしまうわけです。恐らく大切なことは,そういうことよりも,例えば,山中さんのiPSの発見が実は細々とした基盤Cから始まったのだとか,谷口先生のすばらしい研究成果も実は少額の科研費から始まったのだとか,そういうことのアピールだと思います。今,iPSと言えば,もうイノベーションです。でも,「科研費」という言葉は全然世の中に浸透していなくて,先ほど小安さんが言われた,何か,なれ合いでとか,ということを聞くと,これはやはり袖山課長に頑張ってもらわなければいけないことで,闘わなければいけないわけです。科研費が悪いのではないかと言われること自体が言語道断であります。
 今,絶対的に研究の時間を確保しつつ,社会の貢献度,アピール,存在感をどう上げるかというのにちょっと知恵を絞って,「はやぶさ」でも,最初は科研費だったのではないですか。そういう国民的なもう少しウェーブをつくるようなことを,私たちも頑張りますけれども,文科省もそういう発信力をつける,そういう知恵はいかがなものでしょうか。

【佐藤部会長】
 はい,ありがとうございました。多分,今おっしゃっていただいたことは文部科学省も随分今まで努力されてきていることではあるとは思いますが,一段の強化がやはり必要ではないかとは思います。

【谷口委員】
 髙橋委員がおっしゃるとおりだと思いますし,私が申し上げた社会貢献というのは,シンポジウムや市民公開講座をやるとか,そういうことももちろん大切ですが,それだけにとどまらず,科研費がサポートしている研究分野というのは,私たちのように直接医療に結びつくような研究のようなものは割合にアピールしやすいですが,そうではない分野というのがたくさんあるわけです。例えば,日本文学とかです。あらゆる分野を学術という文脈で文部科学省がサポートしているという分野ですから,何か新しいベクトルといいますか,そういうものを導入して論理構築をしていかないと,単にこれもやっています,あれもやっていますということではないと思います。底流にあるのは,日本のこれからの将来がいかにあるべきかという大きなビジョンを,科学者コミュニティを中心とした,そういう学術を推進する方がどういうふうに提示していくかというくらいの大きな議論をしていかないと,なかなか社会にアピールするといいますか,浸透することにはならないのではないか。

 もちろん,今,経済再生やイノベーションと言われていますし,そういうことが大切ではないとは決して申しませんが,でも,それだけで日本という国家がこれから成り立つかというとそんなことはないわけです。そこを抜きにしていろいろなことが今流れているということに対して,私たちは学術を担っていると思っているわけですか,その私たちがどういうふうにアピールしていくか,その中で,それをサポートしている唯一の競争的資金である科研費をどう位置付けるかと,その考え方をいかに浸透させていくかということがすごく重要なのではないかと思うのです。

【佐藤部会長】
 はい,先生おっしゃるとおりだと思います。ただいま頂いた意見を事務局で整理していただきまして,この夏のまとめにつなげていっていただければ有り難いと思っております。

(2)新分野支援のための新たな仕組みの導入について

日本学術振興会より,資料4に基づき説明が行われた後,質疑が行われた。

【佐藤部会長】
 次に,日本学術振興会から科研費の改正について報告を受けて議論をしたいと思います。先ほども申し上げましたけれども,本日は学術システム研究センターの主任研究員で科研費ワーキンググループの主査をされている西田先生と研究事業部の佐久間部長により,新分野支援のための新たな仕組みの導入について御説明いただき,議論をしたいと思っております。
 それでは,西田先生,佐久間部長,よろしくお願いいたします。

【佐久間研究事業部長】
 本日は現在,振興会の学術システム研究センターにおいて検討を行っております「新研究分野支援のための新たな仕組みの導入について」,御説明したいと思います。資料4を御覧ください。2枚めくっていただきまして,4ページでございます。参考資料として添付しております「系・分野・分科・細目表」の仕組みについて,既に御案内の方も多いかとは思いますが,まずは御説明させていただきます。
 御覧のとおり,公募要領の関連部分が抜粋されております。科研費制度のうち,基盤研究等への応募者は,応募に際して審査を希望する細目の細目番号とキーワードを選定することとなっております。科研費制度の審査は,ピアレビューにより成り立っておりますが,細目ごとにその研究分野に精通した審査委員が選考されておりまして,その細目に応募があった研究課題について審査を行っていただいております。この仕組みによりまして応募された研究課題について,研究分野に精通した審査委員により適切な審査が行われると同時に,年間10万件近くある応募研究課題の審査を迅速に行うということに役立っております。
 この「系・分野・分科・細目表」は数年ごとに定期的に見直しを行っているところですが,学術研究の動向に柔軟に対応するため,3年から5年と設定期間を限って流動的に運用する細目を毎年度,新分野候補について検討し,「時限付き分科細目」として,「系・分野・分科・細目表」の別表として設けております。基盤研究Cに限って応募時に「時限付き分科細目」を選定することができるという制度になっております。
 この別表につきましては7ページ以降につけてございます。この「時限付き分科細目」につきましては,毎年度,文部科学省の依頼に基づきまして,学術システム研究センターにおいて新分野候補の選定のための検討を行います。その結果を科学技術・学術審議会科研費審査部会に報告いたしまして,同部会において審議・決定が行われているところです。
 本日の報告内容は,文部科学省より,平成26年公募から設定する「時限付き分科細目」の検討及び「時限付き分科細目」の改善について依頼がございまして,センターにおいて検討を行う過程で出てきたものでございます。その検討状況につきまして,西田主任研究員から報告したいと思います。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 日本学術振興会学術システム研究センターの西田でございます。よろしくお願いいたします。
 検討の件につきましては,先ほど佐久間部長から説明いただきましたが,資料4の1ページから3ページまでが検討状況の報告となっておりますので,まず,1ページ目から御覧ください。この新たな仕組みの導入につきましては,「時限付き分科細目」の改善に関する検討過程において出てきたものでございまして,新しい研究分野の候補とともに,それを支援するための新しい仕組みの検討も行っております。これまで科研費制度においては,新しい研究分野への要望については,主に「時限付き分科細目」で対応してきており,ある程度,有効に機能してきていると考えられますが,一方で,以下に述べるような様々な意見もございます。
 例えば,学術研究の動向に柔軟に対応できるが,応募総額500万円以下の基盤研究Cに限定しているため,小規模な研究計画にならざるを得ないこと。新しい試みに挑戦するためには,基盤研究の重複制限が障害になっていること。細目ごとにあらかじめ審査委員を決めて,書面審査と合議審査を別の審査委員が審査を行う現状の2段審査方式では不十分な部分があること。「時限付き分科細目」では,ある程度の応募件数があれば,「系・分野・分科・細目表」本表に細目が追加されるため,系・分野・分科・細目表の細目数が増える方向に働くことで制度として研究の細分化を担保することになるため,研究分野の細分化・蛸壺(たこつぼ)化を招いてしまうのではないか等々の議論がございます。
 現在,学術システム研究センターで検討している新しい研究分野の候補については,「時限付き分科細目」の運用では収まり切れないと思われ,これまで,ある程度有効に働いてきた従来の「時限付き分科細目」の制度は維持しつつ,現在検討している新たな研究分野については新しい仕組みにより支援することがイマージングな,ただいま起こっている新しい研究分野を確保していくことになるのではないかと検討しているところでございます。
 この新しい仕組みの特徴としましては,まず,従来の分野の枠を超えた学術動向調査に基づき,新しい研究分野について設定する。応募課題の内容を広い視野から深い議論を行う必要があり,第1段審査,書面審査の審査委員が第2段審査,合議審査も担当するという審査方式がよろしいのではないか。応募額の上限を基盤研究Bまで拡大する。新しい試みへの挑戦をしやすくするために重複応募を可能とする。ある程度のまとまりを持った研究者がチームを形成して,領域として応募する現行の新学術領域研究,研究領域提案型とは異なり,本仕組みは,個々の研究者の自由な発想に基づく研究に対して,個々の研究者に着目して支援するということを想定しております。現行の「時限付き分科細目」では対応できない研究に道を開くものとして新しい仕組みと新しい研究分野の候補についても引き続き検討を行いたいと思っております。
 また,従来の「時限付き分科細目」と新しい仕組みの主な違いについて,3ページにある別紙の表のとおりにまとめておりますので,こちらも御覧いただければと思います。
 以上,学術システム研究センターでの研究状況について御報告させていただきます。

【佐藤部会長】
 はい,ありがとうございました。たくさん質問があるのではないかと思うのですが,この新しい分野支援ということで,分野を指定するのは,一体誰が決めるのですか。日本学術振興会の方で何かそういう提案を具体的に出されるわけなのですか。データに基づいて行われるものだとおっしゃいましたけれども,どういうふうにするのですか。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 基本的には,学術システム研究センターの動向調査に基づきまして,各学会でありますとか,全国の研究者のいろいろな意見を集めまして,学術システム研究センターでも独自の動向調査を行って設定していきたいと考えております。

【佐藤部会長】
 その分野を指定したときのその金額も,そこで決定されるわけですか。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 分野の総額ということですか。

【佐藤部会長】
 そうです。

【岡本企画室長補佐】
 補足させていただきます。新分野の設定の手続ですけれども,学術システム研究センターの方で検討いただきまして,最終的には文科省が審査部会の方で決定をした上で公募していくという手続になろうかと思います。
 それと,先ほど御説明いただいた資料の3ページ目に,「時限付き分科細目」と「特定新研究分野支援」の違いがございますけれども,金額につきましては,どの種目を対象にするかというようなことで,その応募総額というのは決まってこようかと思っております。

【佐藤部会長】
 はい,分かりました。審査部会できちんとされるということですね。皆さん,今回こういう提案が出ているということですけれども,2ページにもございますように,審査方式を1段,2段ではなくて,もう1段にしてしまおうとか,そういう提案が出ておりますので,皆様の御意見を賜れればと思いますが,いかがでしょうか。はい,どうぞ。

【鍋倉委員】
 多分,最終的には細かいところは審査部会ということですけれども,ここでの支援自体の評価というか,これがうまくいった,いかない,次にどういうところに移っていくのか,実際にこれが走り出した後に,最終的にはゴールというか,固定的なものになっていくのかというところについて,少し何かお考えがあればと思いますが。

【佐藤部会長】
 ゴールとおっしゃいましたか。

【鍋倉委員】
 例えば,この支援で新しい分野をつくった。そうすると,そこの中で多分それをまた細目というか,科研費の中に入れていくのか,これで支援してすごく活性化された新しい分野ができたと,それに対して今度はどうサポートしていこうとするのかとか,この新しい分野をつくったら,この分野で,この支援でずっと走っていくのか,この支援して新しくできた融合的な分野を次に持っていくのかということがあれば,それとも,これは開拓するという,そして,このコミュニティに返して,コミュニティより新しいものを提案していただくと,多分,幾つかコミュニティの支援に融合してくださいというサポートをするのか,それとも,この支援体制が次の分野の道筋をつくっていくのか,最終的なアウトプットはどういうものかということがちょっと疑問です。

【佐藤部会長】
 いかがでしょうか,どういうコンセプトになっているのか。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 基本的には,従来の「時限付き分科細目」の枠組みの有効性というものを踏襲しながら,そこに新しい研究分野を設定していく。その新しい研究分野を設定していくときには,同時に新しい仕組みも導入しながら,ということを考えております。また,新しい研究分野は新しい仕組みとセットになって動いていきますので,それ全体がどういうふうに動くのかということによって,それが,例えば,融合的,統合的になるように進めばいいかとは思いますけれども,それはまさに先生がおっしゃったように,コミュニティとの相互作用で物事が進められていければいいかなというふうに思っております。

【佐藤部会長】
 これはどのくらいの分野を考えておられるのか,かなり大きな分野を考えておられるのか,それとも,せいぜい三つか四つ程度のことを考えているのか,予算規模はどの程度まで考えているのか,もう一つ分からないのです。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 当面は二,三というくらいで考えております。

【小安委員】
 今日初めてなのでなかなか分かりにくいのではないかと思うのですけれども,要するに新しい学問分野を切り開くと,そういうことを一つの目標にされているのだと思うのですけれども,その意味で言うと,かつて新学術領域に課題提案型というものがありました。これは現在なくなっています。もう一つ,新しいものを開くためにつくった仕組みとして挑戦的萌芽研究というものがあります。これらとの関係を少し整理していただいて,先ほどもお話がありましたけれども,新しいシステムが,どこを目指して,どのような広さ,あるいは深さを持っているのかということをもう少し提案の中に入れていただけると分かりやすいのかなというふうに思いました。
 これは,「特定新研究分野」という名前になっていますけれども,広がりが,今までのものでいきますと,どうしても「時限付き分科細目」ですから,細目ということが非常に表に出ていてかなり狭い分野を皆さんは意識されると思うのです。それがどのくらい,最終的には,例えば,うまくそこが発展したときには,分科細目表の中最初に新しい分野として立つくらいのものをお考えになっているのか,それとも,どこかの既存の細目に一つ増えるぐらいのものなのか,そこら辺のところがもう少し分かると理解が進むのではないかと思います。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 挑戦的萌芽研究との兼ね合いで言いますと,挑戦的萌芽研究というのは,従来の細目のどこかに必ず当てはめて申請しなければいけないものですので,まさに当てはめるべき細目に新しいことを設定しようということですので,少し次元が違うと思います。どのくらいの規模を考えているか,どこが違うかという一番大きなところは,基本的にはボトムアップで,今,起こっているところを早く我々が吸い上げて,個々のボトムアップの研究者が,ここだったら申請しやすいという,そういう研究分野を動向調査に基づいて提案できたら一番理想的ではないかというふうに考えております。
 例えば,今,若い世代に定量生物学の会という非常に小さな会があるのですが,非常に活発な会があって,生物学に定量性を,あるいは数理科学を持ち込もうという非常に大きなうねりがあるのですが,例えば,それにフィットするような細目というのはございません。現状の動向調査に基づいてきっと応募しやすいであろうと思われる新しい研究分野を提案できればと考えております。

【小安委員】
そうすると,どうしても分科細目表というのがあるわけですけれども,この中で,例えば,総合系のところに分科として立つくらいの大きさを考えていらっしゃるのでしょうか。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 個人的な意見になるかもしれませんが,そうなってくれればいいのではないかと思っております。

【柘植委員】
 まず,この趣旨は生かすべきだと思います。そのときに二つほど検討していただきたいことがあります。3ページの別紙で,「特定新研究分野支援」が分野の設定数が研究期間内1から2件と書いてあるのですけれども,本当にこれで今,日本の学術の振興という面,それから社会から負託されたというところを含めたときに,特定新研究分野支援が期間内で1から2件というのは少ないのではないかと思います。一つ比較としては,きょうの科学技術・学術審議会が先期の最後に大臣に建議した内容,あれは相当重なると思います。もちろん,あの中では「政策誘導型」という言葉があったけれども,これはあくまでもボトムアップ型であるべきであることなのですが,それを考慮しながらも,あそこの建議でボトムアップ型で,あの建議に対応してやろうと。そうすると,今までの分科細目の場でやるとすると,非常に特定の狭いところと同じ土俵でやると負けてしまう,学術論争として負けてしまうものを,多分この特定新研究分野という土俵をつくって,その中で徹底的にバトルをしてもらうということで私は非常にいいと思うのですが,件数が少ないのではないかということ。
 この少ないというのは,ほかの研究を削るのではないと思うのです。つまり,今までの分科細目の一種,アメリカ流の言葉を使ってしまうと,「コンバージングテクノロジー」というようなコンセプトで,ほかの今までの分科細目を削るのではなくて,そういうコンバージングしていくようなことを促すという意味だとすれば,件数は1から2件という形で,ほかの分野が金額が減らされるという恐れということは除去できるのではないか。
 もう一つ,これも検討していただきたいと思います。2ページの上のところに,「新しい仕組みとは次のように構成される」と書いてあるのですけれども,審査方式として第一段審査,第二段審査を連続して担当する,これは必要だと思います。ただ,提案は,この審査プロセスと成果を第三者が評価するというスキームもあった方がいいのではないかと思います。これは,今日の話とは違うのですけれども,評価する方が,本当に適切な評価をしているのかということが,やはり私は「第三者評価」という言葉を使っているのですけれども,そういう重要性が別の場では議論されています。この試みに対しても,審査のプロセスと,審査のプロセス成果の第三評価は必要なのではないかと思います。それも検討してみたらどうかと思います。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 どうもありがとうございます。後者の方からですが,学術システム研究センターでは,審査委員の選考とともに,審査の検証も行っておりまして,今回,この新しい研究分野,仕組みが設定された際には,またその審査の検証,評価というものも,より一段と充実させて行いたいと思っております。
 それから,前段の論点に関しては,私どもの今回の提案を評価していただきまして大変有り難く,また,先生の指摘されたように大きく進むようになればいいと思っておりまして,まずは,この程度のところから始めながら,皆さんの支持,コミュニティの支持が得られれば大きくさせていきたいと思っております。

【佐藤部会長】
 はい,ありがとうございました。ほかには御意見,いかがでしょうか。一段審査と二段審査担当ということで,二段審査は,ある意味では調整的な要素が強かったわけですよね。それが何かすごく障害になっていたのが,もう一つ,私は理解できないのですが,二段審査はほとんど点数に従って調整したくらいだったと思うのですが,どういう問題が大きくあったということでしょうか。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 例えば,文系とか,工学系とか,理学系とかで若干事情も異なるのですが,一方では,第1段審査の書面審査を非常に重視しなさいということから,第2段審査が非常に形式的になって,本当に第1段審査の点数の順序どおり決めるというような傾向も,ある分野ではございます。また,一方では,第1段審査を余り重視せず,2段審査ですごく大きく変化させるような分野もございまして,一概に,どちらにどういう弊害があらわれているかとは言いにくい側面もあるのでございますが,私が思うに,一番の弊害は,基本的に,第一段の審査は,個々の計画調書を全部必ず読みますが,現行の状態では,第二段の審査委員は,個々の研究の計画調書は基本的には読まずに,第一段の書面審査員の評価した書面を見て判断します。そこに一番大きな弊害があらわれるのではないかということで,第一段と第二段の審査を,同じ人が行えば,書面審査と合議審査が本当に有効に動いて,正しい審査が行われる方向に動くのではないかと考えております。

【佐藤部会長】
 それが可能なのは,小さな審査委員会でしょうか,またほかの分野でも可能だという認識なわけでしょうか。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 ほかの分野にも広げていかれればいいなというふうに個人的には思っております。

【小安委員】
 今の件ですけれども,二段審査が必ずしも全部悪いということではないと私は思っています。例えば,一つの細目で,皆さんがかなり近いところにおられれば,恐らく書面の評価というのは,それほどばらけない。しかし,ここは,まさに新しい分野をやろうという試みだと思いますので,かなり意見が割れるのではないか。そのときにはやはり徹底的に書面審査された方が,二段審査の場で議論を闘わすということが非常に有効なのではないかというふうに受けとめましたので,多分これは,それがうまくいけば,恐らくほかの分野でも,やるのは非常に大変だと思うんですけれども,有効に生きるのではないかと思いますので,是非進めていただきたいと思います。

【佐藤部会長】
 そうすると,試行してみて,システムがうまく動けばこれを広げていくという趣旨ですか。件数も1から3件で始めてこれがどう機能するか。

【髙橋委員】
 私も非常に前向きですばらしいと思います。確認させていただきたいのですけれども,数年前,新学術領域の研究課題提案型がありましたよね,なくなってしまったものですが。あれに私は実際に審査に当たったのですけれども,あれはなくなって当然だと個人的には思っていたその理由の一つは,今までの業績も書かなくていい,あるいは,書いてはいけない。そうすると,みんな夢物語を書いてきて,あれもできる,これもできると。正直,私の分野から違うところは分からなかったです。だけど,私の分野にピタッとはまったところで,これはいけないと思ったのは,もう何でもできると書かれて,このシステムはちょっと問題があるなと思った。
 確認は,西田先生にお伺いしたいのは,今回の「特定新研究分野支援」に当たっては,申請書の形式は,従来の科研費,つまり,その人が今までやってきた,本当にこの人だったらできるのだということがちゃんと評価されるようなシステム,言ってみれば,今までと同じような科研費のような形で考えておられるのかどうか,お伺いしたいと思います。

【西田学術システム研究センター主任研究員】
 それは従来の「時限付き分科細目」のよいシステムをそのまま使ってやりたいと思っております。

【北岡(良)委員】
 確認なのですけれども,7ページの,従来,時限付き分科細目表というのがあって,そこのところが特定新分野の支援という形に変わると同時に,分野と書かれているところが,もうちょっと大くくりな,5ページにあるような文化,あるいは何々学,新しい学問を生み出すような,そういうようなものに変えるということで理解してよろしいのでしょうか。

【佐久間研究事業部長】
 従来ある時限付き分科細目表に変えるのではなくて,これに加えてそういうものをつくるということです。

【佐藤部会長】
 はい,他にはよろしいでしょうか。サポートする意見が多かったと思いますし,今後,事務局と日本学術振興会で御相談いただいて,制度の改善に向けた議論を進めていただきたいと思っております。

【奥野委員】
 先ほど髙橋先生がおっしゃったことが非常に重要だと思います。新しい分野をつくるということは非常にいいことなのですけれども,逆に夢物語になる可能性が非常に強くて,やはり,何か取っかかりがあるということがないと,何もないところに新しいものをつくるというのは非常に難しいので,むしろ,今までの科研費の申請書どおりというよりは,これに関連する過去の研究,別にパブリッシュのものでなくてもいいかもしれませんけれども,とにかく何らかの書いたものをきちんとつけさせる。それでもう少し研究の可能性を担保させるということの方が,むしろ大事なのではないかと私は思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。今のコメントも生かして制度設計をしていただければと思います。
 一応,本日予定したものは大体終わりましたが,実は,科学技術・学術審議会総会において野依先生がお出しになった文章が参考資料1でございます。「我が国の研究開発力の抜本的強化のための基本方針(案)」ということです。事務局,何かありますか。

【山口企画室長】
 時間も余りございませんので簡単に申し上げたいと思います。参考資料として四点ございまして,そのうち参考資料1から3までが先日の総会における配付資料です。資料3については,先ほど議論の中でも実際に言及がございましたように,科政研において,エビデンスベースドで基礎的な状況をコンパクトにおまとめいただいた有用な資料かと存じますので,今回,併せて配付しております。
 参考資料1と2につきましては,総会の場で活発な御意見があり,決定という形にはなっておりませんので,現状報告ということになりますが,重要なものですので,簡単に触れさせていただきたいと思います。
 まず,参考資料1ですが,1月の震災を踏まえた総会の建議,これをベースにしつつ野依会長の問題意識を加味しまして,研究力強化のための基本方針ということで提案されているものでございます。
 1ページ目では,若手,女性,外国人について,「LaborからLeaderへ」という趣旨がうたわれているところです。
 2ページに参りまして,新規分野の開拓や,ハイリスク研究,分野間連携・融合等について言及がございます。
 3ページに参りますと,論文指標以外の評価法の確立という記述もございます。(4)では,今日の議論でも関連する言及がございましたが,研究者支援の重要性について一連の記述がございます。(5)では,研究開発機器について,国際競争力等の観点から,国産のものを一層普及させる工夫ができないかといった問題意識の論点も入っております。
 4ページに参りまして,(6)で研究者への倫理教育についても言及がございます。
 次に,参考資料2ですが,こちらは評価部会の方で御議論いただいている状況の報告です。昨年の12月に総合科学技術会議において国の研究開発に関する大綱的指針が改定されまして,文科省におきましても年内目途で指針の改定という作業をしており,中間的な基本的方向性について総会に御報告いただいたところです。二点だけ触れておきますと,1枚目の2の(b)で,論文指標についての留意点について言及がございます。
また,大事なところでは,一番後の6番で,今般の改定におきましては,競争的資金を含む研究資金制度そのものについて,研究開発プログラムという位置付けで工程表のような形で何らかの評価をしていくべきだということが大綱的指針でうたわれておりますが,文科省のこのペーパーでは,「基礎研究,学術研究等については,画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意することが必要であり,研究開発プログラム評価においても,その特性を十分考慮する」という点が,留意点として記載されております。
 参考資料4については,少々時期が遅れましたが,平成24年度科研費の,第3回の配分に関する状況報告でございます。

【佐藤部会長】
 はい,ありがとうございました。野依会長からは,参考資料1,これは改定されるとは思いますけれども,これが科学技術・学術審議会の基本方針であるということで,あらゆる分科会等でこれを生かしてほしいという要望があるわけでございます。何か御意見やコメントありますでしょうか。

【金田委員】
 教えていただきたいのですけれども,科学技術・学術審議会という科学技術とか学術政策とか,いろいろな定義は理解しているつもりなのですが,この場合の「研究開発力」というのは一体どういう定義なのでしょうか。

【山口企画室長】
 すぐにお答えできる用意がございませんで,恐縮でございます。

【佐藤部会長】
 時間も来ましたので,このような文章が総会の方で配付されているということを報告した次第でございます。
 それでは,これで会合を終わりたいと思います。どうも御苦労様でした。

―― 了 ――

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