参考資料5 科学技術イノベーション総合戦略2014~未来創造に向けたイノベーションの懸け橋~(抄)(平成26年6月24日閣議決定)

平成26年6月24日
閣議決定


目次

第1章 科学技術イノベーション立国を目指して
 1.この1年間の科学技術イノベーション政策運営
 2.科学技術イノベーション政策の基本的方向性
 3.科学技術イノベーションで拓く日本の未来
 -2030年に実現すべき我が国の経済社会の姿(長期ビジョン)

第2章 科学技術イノベーションが取り組むべき課題
第1節 政策課題について
[1]クリーンで経済的なエネルギーシステムの実現
 1.基本的認識
 2.重点的に取り組むべき課題
 3.重点的取組
[2]国際社会の先駆けとなる健康長寿社会の実現
 1.基本的認識
 2.重点的に取り組むべき課題
 3.重点的取組
[3]世界に先駆けた次世代インフラの構築
 1.基本的認識
 2.重点的に取り組むべき課題
 3.重点的取組
[4]地域資源を活用した新産業の育成
 1.基本的認識
 2.重点的に取り組むべき課題
 3.重点的取組
[5]東日本大震災からの早期の復興再生
 1.基本的認識
 2.重点的に取り組むべき課題
 3.重点的取組

第2節 産業競争力を強化し政策課題を解決するための分野横断技術について
 1.基本的認識
 2.政策課題解決への視点
 3.取り組むべきコア技術

第3節 2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の機会活用

第3章 科学技術イノベーションに適した環境創出
 1.基本的認識
 2.重点的に取り組むべき課題
 3.重点的取組
 4.「イノベーションに最適な国」の構築に向けて

第4章 総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能の発揮
 1.基本的認識
 2.総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能の発揮

(別表)第2章 科学技術イノベーションが取り組むべき課題 詳細工程表

※以下、第3章抜粋。

 


 

第3章 科学技術イノベーションに適した環境創出

1.基本的認識

(1)持続的な発展性のあるイノベーションシステムの実現

 本格的な人口減少・少子高齢化社会が到来し、厳しい資源・エネルギー制約や国際経済環境が予想される中で、我が国の繁栄と持続的発展を実現させるには、科学技術イノベーションを基軸とした政策を強力に展開する以外に有効な方途はない。
 安倍内閣はこうした危機感を共有しながら、日本を「世界で最もイノベーションに適した国」へと変貌させることを決意し、昨年6月に閣議決定した総合戦略に基づく政策運営を進めてきた。特に、昨年は総合科学技術会議の司令塔機能強化の一環として、政府全体の科学技術予算の予算戦略を主導する新たなメカニズムの導入・推進を進めた。さらに、府省・分野の枠を超えた横断型プログラムである「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)や、ハイリスク・ハイインパクトな研究開発を推進する「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)を創設するなど、強力な「カンフル剤」による取組にも着手した。
 しかしながら、「世界で最もイノベーションに適した国」の実現に向けた動きをさらに加速し、より実効性のあるものとするためには、これら強力な「カンフル剤」を楔として、国を挙げて持続的な発展性のあるイノベーションシステムを実現する、いわば「体質強化」の取組を進めていく必要がある。なぜなら、イノベーションそのものが予想を超えたアイデアやその組合せの中から生まれるからである。「何を」や「いかに」を政府として具体的に予見し、研究テーマ、研究体制として網羅的に設定していくには自ずと限界がある。逆に、その範囲を遥かに超える多様な「挑戦」と「相互作用」の中にこそ、さらに大きなイノベーションの可能性がある。

(2)多様な「挑戦」と「相互作用」の機会の拡大

 多様な「挑戦」と「相互作用」の担い手は、「人」である。
 「世界で最もイノベーションに適した国」の実現に向けた政府の役割は、予算措置や規制・制度のありようなどを通じて、民間企業を含む、科学技術イノベーションの実現に意欲的な人材の多様な「挑戦」や「相互作用」を促すとともに、それらを積極的に受け入れることができる社会風土を実現することである。
 これまでにも科学技術システム改革の一環として様々な政策が検討され、関連する多くの施策が展開されてきた。府省の縦割りやセクター間の連携不足、政策意図が現場に浸透していないことによる効果の減退、科学技術コミュニティに留まらない制度改革の困難さなどによって、残念ながら必ずしも十分な効果を生んでいない。とはいえ奇をてらった政策運営、単に目新しい施策や隙間を埋めるための細切れの施策は必要なく、そこには全体俯瞰、イノベーションシステムの最適化という視点による政策運営こそが求められている。
 現行の科学技術基本計画は、我が国のイノベーションシステムに対して、大きく分けて3つの機能を想定している。すなわち、1)イノベーションの源となる多様な「知」、さらにはイノベーションを担う人材を育み、2)様々なスキル・ノウハウを持った人材が共創する中で「知」を磨き、3)実証と社会実験、事業化などを通じて、新たな経済的、社会的・公共的価値として結実させるという機能である。それぞれの場面で、政府は「挑戦」と「相互作用」に係る多様な機会を提供することによって、科学技術イノベーションの可能性の飛躍的向上を目指す。

 昨年閣議決定された総合戦略では、「イノベーションの芽を育む」、「イノベーションシステムを駆動する」、「イノベーションを結実させる」という3つの重点的課題を挙げた。この章では、前述の機能に対応するものとして、この3つの重点的課題による構成を引き続き踏襲する。その上で、民間企業を含む国全体の取組を俯瞰し、かつ時間軸を考慮した戦略的な政策運営を目指して、重点的取組を一部再構成するとともに、この総合戦略の下、特に重点的に推進すべき施策や継続的に推進すべき主な関連施策を挙げた。

2.重点的に取り組むべき課題

 科学技術イノベーションに適した環境創出のため、先の総合戦略の構成を踏襲し、「イノベーションの芽を育む」、「イノベーションシステムを駆動する」及び「イノベーションを結実する」を重点的に取り組むべき課題とし、これらの課題ごとに重点的取組を以下のように設定する。

<科学技術イノベーションに適した環境創出>

重点的課題

重点的取組

 イノベーションの芽を育む

 1)多様で柔軟な発想・経験を活かす機会の拡大

 2)研究力・人材力の強化に向けた大学・研究開発法人の機能の強化

 3)研究資金制度の再構築

 イノベーションシステムを駆動する

 1)組織の「強み」や地域の特性を生かしたイノベーションハブの形成

 2)「橋渡し」を担う公的研究機関等における機能の強化

 3)研究推進体制の充実

 イノベーションを結実させる

 1)新規事業に取り組む企業の活性化

 2)規制・制度の改革の推進

 3)国際標準化・知的財産戦略の強化

3.重点的取組

(1)「イノベーションの芽」を育む ~研究力・人材力強化に向けた取組の戦略的展開~

 ここでは、イノベーションにつながる可能性を秘めた本質的な「知」の多様性をいかに担保するか、民間企業を含む各組織での担い手をいかに確保するのか、その仕組みを持続的なものとしてどう維持・発展させるかということが重要な視点である。これらの視点は、将来の製品やサービスの基盤となる「イノベーションの芽」を生み出すということだけでなく、我が国のイノベーションシステムの担い手を育むということから、国の発展基盤の維持・向上、産業の国際競争力などにも直結している。
 具体的な取組としては、「知」の創出に向けて強い意欲を持った人材に対して、多様な「挑戦」の機会を提供することが必要となる。その際、若手・女性などの柔軟な発想や経験を活かす「挑戦」の機会を確保することや、異なる分野や組織を超えた「相互作用」を促すことが特に重要である。また、研究者・技術者といった個人に着目するだけでなく、イノベーションシステムの強靱性・持続的な発展性を確保する観点から、人材育成や研究開発といった、組織としての大学、研究開発法人の機能強化に取り組む必要がある。これに加え、研究資金の配分のあり方についても抜本的な改革を進める必要がある。
 なお、第4期科学技術基本計画で示された、我が国が取り組むべき課題の解決・達成に向けた取組が、基礎研究の推進という方針と相容れないのではないかとの見方が一部にある。同計画で、こうした社会的課題の解決・達成に向けた取組は、産学官の多様な機関の参画を得て、分野横断的に、基礎から応用、開発、さらに事業化、実用化の各段階に至るまでの活動を相互に連携させていくものと位置付けられている。独創的な研究成果を生み出し、それを発展させて新たな価値創造に繋げていく方法論と合わせて、科学技術イノベーション政策における本質的な「知」の創出を担う基礎研究の重要性は論をまたない。

1)多様で柔軟な発想・経験を活かす機会の拡大
 イノベーションの可能性を高めるには、多様な発想や経験を有する人材が主体性を持って活動し、柔軟な発想や経験を活かし、互いに切磋琢磨し合う機会を確保・拡大していくことが必要である。特に若手・女性、外国人といった多様な人材、異なる分野・専門性が出会うことは知的な触発を誘引し、新たな「知」の創造に大きく寄与する。
 ノーベル賞受賞者の受賞業績と年齢の関係などのデータは、若手の柔軟な発想を生かすことの重要性を示唆している。また、我が国の研究者全体に占める女性の割合は増加傾向にあるが、主要国と比較するといまだに低い水準に留まる上に、特に指導的地位に就いている女性研究者が少ないという現状にある。国際共著論文の国際比較は、知識生産のグローバル化が進展する中、世界の潮流から取り残されつつある我が国の現状を示している。政府は「知」の創出に向けて強い意欲・能力を持った人材に着目して「挑戦」の機会を提供する取組を、これまで以上に加速し、強力に推し進めていく必要がある。併せて、意欲と能力、経験に富む人材が、年齢、性別、国籍などを問わず、リーダーシップを発揮できる環境を整備すること、社会人の学び直しの機会を確保し、その能力を活かす機会を拡げることも重要である。
 この総合戦略では、特にイノベーションの芽を育むための若手や女性の「挑戦」の機会の拡大に、重点的に取り組む。併せて、リスクの高い挑戦的な研究開発機会の提供という観点から「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)を強力に推進するとともに、他の関連施策を着実に進める。

<主な関連施策>
・大学におけるインターンシップのさらなる促進と、中長期インターンシップの導入を積極的に促進【文部科学省、経済産業省】
・公正・透明な評価制度に基づく若手研究者の安定的な雇用と流動性を確保する仕組みの拡大【文部科学省】
・既存の組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制の構築による異分野融合の機会の拡大と、若手研究者等が独立して研究可能な競争的資金による独創的な研究の促進【文部科学省】
・公的研究機関(研究開発法人に加え、公設の試験研究機関などを含む。以下、この章において同じ。)や大学において女性幹部の登用目標等を含む具体的なプログラムの策定や女性のロールモデルの確立に取り組むなど、女性研究者の活躍を促進するための環境整備及びリーダーとしての育成・登用の促進【文部科学省、経済産業省、研究開発法人所管府省】
・民間企業に所属する研究者・技術者の再教育の機会の拡大【文部科学省、経済産業省】
・より多くの高度人材外国人を受け入れる観点から、永住が許可されるための在留歴の短縮といった高度人材に対する優遇制度の見直し【法務省、経済産業省、厚生労働省】
・帰国・外国人児童生徒に対する公立学校への受入れ体制を整備するなど、諸外国の先進的事例を参考にしつつ、海外からの研究者等とその家族が居住しやすい環境整備の促進【文部科学省】
・優秀な若手研究者の海外との間の戦略的な派遣・招聘による国際研究ネットワークの強化【文部科学省】

2)研究力・人材力の強化に向けた大学・研究開発法人の機能の強化
 研究開発における我が国の国際的優位性が薄れつつある。この危機感を共有し、科学技術イノベーションの源となる本質的な「知」を生み出すことができるよう、研究力強化に向けて大学・研究開発法人の機能強化を推進する。また、研究機関における、組織としての責任や法人の長のマネジメントに対してこれまでになく関心が集まっている。いかに優れた人材を有していようとも、優れたトップマネジメントが行われなければ成果の最大化を図ることはできず、宝の持ち腐れに終わってしまう。このため、法人の長が卓越したリーダーシップや研究開発マネジメントを発揮できるようにする必要がある。さらに、我が国のイノベーションシステムを担う人材力を強化するために大学改革を推進するとともに、研究開発法人の活用を進める。併せて、我が国のイノベーションシステムにおける研究力・人材力の発揮を妨げる要因の分析と、その解決を図る。
 大学については、「国立大学改革プラン」などに基づき、分野の多様性、組織運営の主体性を確保した上で、学長のトップマネジメントにより、各大学の強み・特色を踏まえつつ、学内資源配分の最適化等の改革に取り組み、その機能の強化を図る。また、産学官を問わず、あらゆる分野でグローバルに活躍できる優れた博士人材の育成に向けて、博士課程教育の抜本的な改革と強化を推進する。
 また、研究開発法人については、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)に基づき、研究開発の特性(長期性、不確実性、予見不可能性、専門性)等を十分に踏まえ、グローバルな競争環境の中で優位性を発揮できるよう制度改革を推進する。中でも、国家戦略の中で、科学技術イノベーションの基盤となる世界トップレベルの研究開発成果を生み出す創造的業務を担う法人を「特定国立研究開発法人(仮称)」として位置付け、我が国の科学技術イノベーションの強力な牽引役とすることが特に重要である。また、大学や公的研究機関が我が国の研究力・人材力強化の中核的な拠点として必要な役割を果たすことができるよう、クロスアポイントメント制度などの活用によるセクターを超えた人材の活用と流動化の促進、分野融合の推進、魅力的なソフト・ハード両面での研究インフラの整備や国内外に開かれた施設・設備の共用等を進める。
 この総合戦略では、特に以下のような国立大学改革、研究開発法人改革に係る先行的な取組を重点的に推進するとともに、他の関連施策に着実に取り組む。

大学改革については、これまで大学が果たしてきた持続的なイノベーション創出の基盤となる基礎研究や人材育成の中核としての機能を引き続き充実・強化するとともに、世界水準の教育研究を担う大学が卓越した大学院を形成することが必要である。さらなるイノベーションの連鎖的創出を目指して、国内外の大学や研究開発法人、民間企業など様々な人材が結集・交流ができるような人事給与システムの弾力化などの環境整備も重要である。文部科学省は、特に国立大学については、「国立大学改革プラン」を進める中で、当該国立大学の強みや特色を踏まえ、国際的に競争力ある世界最高水準の分野やそれを基盤とした新領域を対象として卓越した大学院の形成を進める。このため、「国立大学改革プラン」に掲げるガバナンス機能の強化や学内資源配分について恒常的に見直しを行う環境の醸成等を強力に推進するとともに、大学による大胆な発想に基づく取組を後押しするために所要の制度の見直しを含め、第3期中期目標期間が開始する平成28年度に向け、新たな仕組みの構築を検討する。
研究開発法人改革について、関係府省は、新たな制度や運用に係る見直し・改善を機に、各研究開発法人の使命・役割に応じた国際的な拠点化や国内外の関係機関との連携を進める。研究開発法人は、現在、国家安全保障・基幹技術を含む研究開発の推進、成果の実用化・普及のための国内外での実証、競争的資金の配分、施設共用など研究開発における基盤整備、国際標準化等への対応などの事業を推進しているが、拠点化や連携によって、これら各法人の取組をさらに強化する。内閣府は、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」等に基づき、「特定国立研究開発法人(仮称)」に係る新制度を、総合科学技術会議で決定された「特定国立研究開発法人(仮称)の考え方について」(平成26年3月12日総合科学技術会議決定)に基づき、可能な限り早期に創設するとともに、この新制度なども活用しつつ、関係府省の拠点化に向けた取組や、研究開発法人と国内外の関係機関との連携強化を促す。

<主な関連施策>
・我が国の産業政策にとっては重要な基盤技術でありながら、学術研究活動の縮小や人材の減少が懸念される技術分野において、産業界の積極的な取組と連携しつつ、民間企業の研究ニーズ・雇用ニーズの明確化と、認識を共有するための産学官の対話の場の設置・活用等を推進【文部科学省、経済産業省、国土交通省】
・優秀な博士課程の学生を俯瞰力と独創力を備え、広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーとして養成するため、産学官の参画により国内外の第一級の教員を結集し、専門分野の枠を超えた体系的な教育を構築するなど、博士課程教育を抜本的に改革【文部科学省】
・大学及び研究開発法人において、国際化に向けた取組(国際研究者公募の実施、英語の公用化、事務支援部門の強化等)を先導し優れた成果を上げ国際的な評価を行っている世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)や世界の学術研究を先導している大型プロジェクト等を踏まえ、海外で活躍する日本人を含む世界トップレベルの研究者を呼び込む魅力あふれる研究環境を整備【文部科学省、研究開発法人所管府省】
・「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」に基づき、平成27年4月からの改革実施に向け、報酬・給与、目標設定、業績評価、物品・役務の調達、自己収入の取扱い、経営努力認定、中期目標期間を超える繰越し等の柔軟化といった運用改善事項について対応可能な措置を速やかに実施【内閣官房、内閣府、総務省、研究開発法人所管府省】
・世界最高水準の研究開発インフラの開発・整備を促進【文部科学省、研究開発法人所管府省】
・博士人材データベースの構築を通じた博士課程修了者のキャリアの継続的な把握と、若手研究者のキャリアパス等の改善への貢献【文部科学省】

3)研究資金制度の再構築
 我が国のイノベーションシステムをより強靱で持続的な発展性のあるものとしていくためには、多様な「知」から絶え間ないイノベーションの連鎖が生み出されるように、研究資金の配分についても「挑戦」や「相互作用」を軸に改革を進める必要がある。
 これまで政府は、科学技術基本計画において、競争的な研究開発環境を整備することを目指して、競争的資金を拡充することや間接経費を確保すること、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せについて検討すること、教育研究を支える基盤的資金を確実に措置することなどの方針を示し、この方針の下、関係府省が所要の施策を推進してきた。しかしながら、近年、論文数や優れた論文に占める我が国の国際的なシェアの低下などの傾向が確認されており、こうした施策が我が国の研究力強化に必ずしもつながっていないのではないかとの指摘がある。
 こうした状況を踏まえ、研究資金の配分の面から、我が国のイノベーションシステムが効果的に機能するよう、研究資金制度の改革に着手する。総合科学技術・イノベーション会議は、国立大学改革や研究開発法人改革の動向も踏まえつつ、関係府省の協力を得て、研究資金の配分のあり方について検討し、次期科学技術基本計画において取り組むべき施策の基本方針を示す。特に、我が国の代表的な競争的資金制度である科学研究費助成事業(科研費)については、より簡素で開かれた仕組みの中で、「知」の創出に向けて、質の高い多様な学術研究を推進するとともに、各分野の優れた研究を基盤とした分野融合的な研究や国際共同研究、新しい学術領域の確立を推進するための審査分野の大括り化や審査体制などに係る改革を目指す
 この総合戦略では、科研費をはじめとする競争的資金について、研究者が研究活動に専念でき、研究開発の進展に応じ、基礎から応用・実用段階に至るまでシームレスに研究を展開できるよう、制度間のつなぎや使い勝手に着目した再構築を進める。その際、全体として研究者にとってわかりやすい制度体系を保ちつつ、分野の大括り化や新陳代謝等が可能となるよう留意するとともに、資金配分機関におけるマネジメントの強化や、研究成果を最大限把握・活用するための府省の枠を超えたデータベースの構築・統合、競争的資金で購入した研究施設・設備の共用の取組などを進める。

<主な関連施策>
・府省で実施している競争的資金制度について、一部で実施している複数制度の研究費の合算による共用設備の購入の仕組みを、他にも広げるとともに、研究終了後に、購入した研究施設・設備を広く共用し有効活用するなど、運用面での整合性や使い勝手を改善するとともに、優れた研究に対して基礎から応用まで切れ目ない資金供与を可能とするための府省・制度の枠を超えた制度のあり方を明確化【内閣府、競争的資金制度所管府省】

(2)イノベーションシステムを駆動する ~分野や組織の枠を超えた共創環境の実現~

 この機能は、様々な知識・技術、アイデアやノウハウを持った担い手が、積極的にイノベーションが生まれる過程に関与しながら、研究開発の成果を経済的、社会的・公共的価値に転換していく機能に当たる。優れた成果をより効果的に新たな価値に転換するためには、基礎研究、応用研究、開発、実証といった各過程を柔軟につなぐことが重要である。同時に、研究者のみならず、異なる分野、役割、専門性を持つ人材や組織が、成果等の情報を共有し、それらの枠を超えてそれぞれの能力を互いに補完しながらチーム力を発揮し、イノベーションに向けて「相互作用」を起こすことが極めて重要である。
 こうした「相互作用」を促すには、組織の枠を超えて人材の流動性が向上し、適材適所の人材配置が容易でなければならない。と同時に、様々なアイデアやノウハウを持った人材・組織が、共通のビジョン・目標の下に連携し切磋琢磨する多様な「場」やネットワークが必要となる。組織やセクターの枠を超え、国内外に開かれた「場」やネットワークが自然発生的に形成されることは容易ではなく、またそれを待っていてはイノベーションを巡る国際競争で後塵を拝することになりかねない。
 また、我が国ではいずれのセクターにおいても、伝統的に長期雇用によって優秀な人材を確保・育成する考え方が基本となっており、組織の縦割り構造が支配的である。結果として研究者が所属組織を変更することが、その研究者にとって経済的な不利に働く面が多く、他国に比べて流動性が高まらない要因となっている。また、研究者とともに研究を支える人材が、適材適所に配置されることを妨げることにもつながっている。このような構造的な要因を取り除き、必要な環境を整備していくことは政府の重要な役割であり、府省の枠を越えた連携の下で取り組む。

1)組織の「強み」や地域の特性を生かしたイノベーションハブの形成
 大学、公的研究機関の「強み」や地域の特性(当該地域の民間企業の技術・人材、地域的な産学官のつながり、研究機関など関連機関の物理的な集積状況など)を生かして、産学官の積極的な参画の下、イノベーションハブ(※20)の形成に取り組む。
 この総合戦略では、研究開発法人改革が進展しつつあることを踏まえ、また「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」(平成26年4月14日経済再生担当大臣)に基づき、特に、研究開発法人を中核とした国際的なイノベーションハブの形成に向けた次の取組を強力に推進する。また、府省・分野の枠を超えた共創環境を提供する取組としての「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)を推進するとともに、他の関連施策を着実に進める。
・国際競争が激しいナノテクノロジー等の分野において、研究開発法人を中核として、行政機関の縦割りや産学官相互の垣根を越えた連携体制を構築し、世界に伍する国際的な産学官共同研究拠点及びネットワーク型の拠点の形成を進めることとし、総合科学技術・イノベーション会議もこれを支援する。特に、大学、公的研究機関、民間企業が集積している地域において、イノベーションハブの形成を加速することで、我が国のイノベーションシステムを変革するエンジンとする。
・研究者の流動性を高めるため、年俸制の導入促進や、医療保険・年金や退職金の扱いの明確化などにより、大学と研究開発法人等との間でのクロスアポイントメント制度(大学等と他の機関の双方に身分を置いて、それぞれで業務を行うことができる制度)の積極的な導入・活用を進めるとともに、共同研究や連携大学院制度の一層の活用に取り組む。また、大学教員や研究開発法人の職員による兼業、民間企業への出向や研究休暇制度(サバティカル・リーブ)の整備・活用等を進める。
・イノベーションマインドを有する研究人材の育成に資するよう、学生に対して、民間企業からの受託研究や産学官の共同研究に参画できる機会を積極的に提供する。
・法人の増収意欲を増加させるため、自己収入の増加が見込まれる場合には、運営費交付金の要求時に、自己収入の増加見込額を充てて行う新規業務の経費を見込んで要求できるものとし、これにより、当該経費に充てる額を運営費交付金の要求額の算定に当たり減額しないこととする。また、法人の事務・事業や収入の特性に応じ、臨時に発生する寄付金や受託収入などの自己収入であってその額が予見できない性質のものについては、運営費交付金の算定において控除対象外とする。加えて、各法人への寄付の促進方策、受託収入の増加など、自己収入に係る検討を進める。

<主な関連施策>
・イノベーションを誘発するため、府省横断の目標を提示して、多様なプレーヤーが参加する先進的な研究開発・実証環境のプラットフォームを構築【関係府省】
・国自らが長期的視点に立って、継続的に、広範囲かつ長期間にわたって研究開発を推進し、成果を蓄積していくべきコア技術について、国家戦略に基づいた研究開発及び人材育成を行う、研究開発法人を中核とした産学官連携拠点の形成【文部科学省】
・世界最高水準の研究開発インフラの共同利用の促進【文部科学省、経済産業省、研究開発法人所管府省】
・地域の大学、公的研究機関、民間企業などが連携した共同研究開発、国際科学イノベーション拠点の構築等の推進【内閣府、総務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省】
・産学官連携活動に関する評価指標の活用の促進【内閣府、経済産業省、文部科学省】
・若手研究者や大学院生が起業家マインド、事業化ノウハウ、課題発見・解決能力等を身につけ、イノベーションに挑戦するための実践的な人材育成を実施【文部科学省】

2)「橋渡し」を担う公的研究機関等における機能の強化
 革新的な技術シーズが生み出されても、それを革新的な製品に結びつけていくことができなければイノベーションは実現できない。そのため、革新的な技術シーズを事業化に向けて磨き上げていく「橋渡し」が極めて重要であるが、我が国においては、従前より、先行する欧米と比べて「橋渡し」のシステムが脆弱であり、その抜本的な強化が必要である。
 このため、「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」(平成26年4月14日経済再生担当大臣)に基づき、ベンチャー企業や産学連携による「橋渡し」に加え、公的研究機関等による「橋渡し」機能の強化を進める。
 具体的には、(2)1)など関連する他の取組に加え、特に「橋渡し」機能の強化に先駆的な役割が期待されている産業技術総合研究所(以下、「産総研」という。)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」という。)において、産業構造審議会の下での議論も踏まえて、必要な事項を中期目標の改定にも反映させつつ、次の取組を先行的に実施する。
 今後、こうした先行的な取組について、総合科学技術・イノベーション会議は適切に進捗状況の把握・評価を行い、その結果を受け、「橋渡し」機能を担うべき他の公的研究機関等に対し、対象分野や各機関等の業務の特性等を踏まえ展開する。

・産総研の主要ミッションとして「橋渡し」業務を明確に位置付け、その評価として、産業
界からの資金獲得を最も重視した資源配分の実施や、「橋渡し」研究の後期段階における民間企業からの受託研究等外部資金の受入れを基本とする。また、「橋渡し」研究に携わる研究者・チームの評価においても、企業から研究資金受入れ等を重視するなど、論文や特許といった一般的な指標を基本としない評価・処遇を進める。外部資金の受入れについては、ドイツのフラウンホーファー協会等海外の事例も参考にしつつ、産業界からの受託研究額・ライセンス収入等が当該年度の運営費交付金額に占める割合などを数値目標として定める。こうした取組を通じて、産総研の新技術が事業化に結びつくとともに、産総研の橋渡し機能の強化にもつながるといった同協会をモデルとした好循環の実
現を目指す。
・産総研において、応用・実用化を念頭に置きつつ根本原理の追求を行う目的基礎研究を行うとともに、「橋渡し」研究の前期段階で将来の研究ニーズに先んじた研究を行うため、マーケティングの専門部署を設け、適切な規模で専門性を有する人材を配置するなど、将来の産業や社会のニーズ等を予測するマーケティング機能の強化を図る。
・産総研は、受託研究の成果も含め自ら知的財産を所有し、民間企業に対して事業化分野における独占的実施権を与えることを基本とする知的財産権管理に取り組む。
・産総研において、優れた技術シーズの汲み上げや実践的研究人材育成の観点から、大学との連携強化を図るため、研究の主たる基盤を産総研に置き、大学教員と産総研研究者を兼務する優れた者に係る定量的な目標を定め、クロスアポイントメント制度を導入・活用する。また、優秀な博士課程学生を職員として積極的に受け入れるため、研究の主たる基盤を産総研に置く優秀な博士課程学生に係る定量的な目標を定め、所要の取組を進める。
・NEDOにおいて、中小・中堅・ベンチャー企業、に対し技術面・事業面一体支援を行う体制について外部機関とも連携・活用しつつ強化するとともに、毎年度の新規採択事業における中小・中堅・ベンチャー企業の参画・支援割合に係る数値目標を定め、中小・中堅・ベンチャー企業の育成・支援に取り組む。
・NEDOにおいて、大幅に権限を付与されたプロジェクト管理を行う人材の下で、適切な
ステージゲートを設定し、複数の選択肢を並行的に取り組み、有力技術の取捨選択や技術の融合、必要な実施体制の見直し等を柔軟に行うマネジメントの導入・拡大を図る。また、挑戦的なテーマに対して多数の主体の競争の場(コンテスト)を設けるアワード型の手法を先行的に導入する。

3)研究推進体制の強化
 科学技術の進展とともに、研究体制の複雑化、研究インフラの高度化、複数機関の連携が進展している。このような状況の中でイノベーションの可能性を高めていくには、技術支援者などの研究者の活動を支える人材や、いわゆるイノベーションの「触媒」、「目利き」の役割を担う人材(ニーズを適時的確に把握し、ニーズに応える提案ができる人材など)、研究開発の目標実現に向けて柔軟かつ機動的なプロジェクト管理を行う人材など、社会と科学技術イノベーションとの橋渡しを担う人材の層を厚くすることが不可欠となっている。
 また、研究不正や研究費の不正使用の防止、さらには研究の倫理的・法的・社会的問題や科学技術コミュニケーション、アウトリーチ活動など研究者や研究者が所属する組織の社会的責務、科学技術と社会の関わりのあり方に関する業務を担う人材の果たす役割も増大している。こうした人材を育成・確保することはもとより、適切なガバナンスの下に支援体制を整備し、社会の要請に応えていかなければならない。
 今後、高い専門性・スキルを持った人材の重要性は益々増大することが見込まれる。他方、各機関が、単独で高い専門性・スキルを持った人材を育成することは必ずしも容易ではなく、提供できる研鑽の機会にも限りがある。また、各機関が優れた人材を囲い込むことで、国全体として適材適所の配置を阻害してしまうことも懸念される。
 この総合戦略では、関係機関との連携の下、資金配分機関が中核となって、研究マネジメントや研究支援に係る人材を国全体で継続的かつ安定的に育成・確保し、一人一人の持てる能力を活かせる活躍の場を提供できる仕組みの整備を重点的に推進する。また、こうした人材の適材適所を目指した流動化の促進、キャリアパスの多様化に資するよう、各機関の研究支援に係る人材の全国的なネットワーク化の推進に取り組む。その際、支援の類型ごとに求められる知識やスキルを明確にして、研究支援に係る職種を研究者と並ぶ専門的な職種として確立し、社会的認知度を高めることに留意する。

<主な関連施策>
・科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構などにおけるプロジェクト管理を行う人材などを育成する新たな仕組みの構築及び同人材への大幅な権限付与【文部科学省、経済産業省】
・情報通信研究機構において、特定の研究開発目標を目標期間内に達成したものに相応の資金を支出するプライズ方式等を検討し、民間による周辺技術の研究開発を促す新たな方法を導入【総務省】
・研究設備利用に係る技術補助に留まらず、最先端設備の機能と研究課題の双方に精通し、研究課題の対応策の提案が可能な優れた技術支援者等の育成・確保と、流動化やキャリアパスの構築に向けたネットワーク化・プラットフォーム化の推進【文部科学省】
・競争的資金申請時に、研究支援者名・分担、研究支援体制についても併記することを推進し、当該職種に関する認識・位置付けを改善【競争的資金制度所管府省】
・研究不正対応のガイドラインの見直し及び周知徹底により、実効性のある研究倫理教の徹底を図るなど、若手研究者等の自主的・独創的な研究活動を阻害することのないよう留意しつつ、研究組織としての研究不正に対する事前・事後のガバナンスを強化【内閣府、関係府省】

(3)イノベーションを結実させる ~新たな価値を経済・社会に活かすための諸活動の支援~

 この段階における主役は民間企業である。政府の役割は、事業化の支援やイノベーションの促進に向けた規制・制度の活用など、自らリスクをとって新しい価値の創出に挑む民間企業の意欲をさらに喚起し、多様な「挑戦」が連鎖的に起こる環境を整備することが中心となる。
 特に、中小・中堅・ベンチャー企業は、事業化決定の前提となる市場の大きさや意志決定スピードの速さなど大企業とは異なる特性があり、イノベーションの担い手として重要な役割を果たすことが期待されている。他方、先進諸国と比較して、我が国は政府から企業へ提供された研究開発資金における中小企業の割合が低いなど、十分な活躍の「機会」を提供できていない。したがって、研究開発型の中小・中堅・ベンチャー企業の「挑戦」の機会を提供する施策の充実、規制・制度の改革などに取り組み、社会の閉塞感を打破するイノベーションを生み出すことが重要な政策課題となっている。

1)新規事業に取り組む企業の活性化
 研究開発成果の社会実装には、新規事業に挑戦する民間企業、特にイノベーションのシーズを産み育てる研究開発型の中小・中堅・ベンチャー企業(以下、本節において「ベンチャー企業等」という。)の果たす役割が重要である。我が国では、新たな価値創造は多くの失敗の上に成り立つという社会的コンセンサスがないことなどから起業家精神が育たず、新規産業やベンチャー企業の興隆が見られない。他方、我が国では、行き過ぎた技術の自前主義・自己完結主義から脱却し、必要となる研究開発能力、技術的知見、人的資源及び資金を広くオープンな外部市場から調達し、効率的なイノベーションを目指すオープンイノベーションの必要性が高まっていることから、これらベンチャー企業等との連携に対する期待は高まっている。
 ベンチャー企業等の活性化のためには、ベンチャー企業等の技術性・ビジネス性の目利き機能を有し、ハンズオンによる経営・事業化のサポートも行えるリスクマネーの供給者の存在が鍵となる。このような、ベンチャー企業等とリスクマネーの供給者が活動し易く、研究開発や事業化に係る活動が継続的に行われる環境を構築する。また、初期段階での資金調達、需要創出を円滑化する観点から、税制・調達などの制度を有効に活用していくことが重要である。
 以上を踏まえ、この総合戦略では、特に府省連携による中小企業技術革新制度(SBIR)などを活用した「挑戦」の機会の拡大を図るとともに、政府が行う研究開発プロジェクトへのベンチャー企業等の参加促進などに重点的に取り組む。

<主な関連施策>
・ベンチャー企業等のニーズに合わせた技術開発支援等や研究開発型ベンチャーの創出支援の推進(ベンチャーキャピタリストや、ベンチャー企業を指導・支援する専門家等を国の施策に取り込んで、その目利き機能や経営・事業化等のノウハウを活用する新たな方式の推進等)【経済産業省、文部科学省、総務省】
・国立大学法人等による大学発ベンチャー支援会社等に対する出資【文部科学省、経済産業省】
・金融仲介の仕組みの整備や、産業革新機構や政府系金融機関(日本政策金融公庫、日本政策投資銀行、商工組合中央金庫等)の参画によるリスクマネー供給の強化【財務省、金融庁、経済産業省】
・エンジェル税制の運用改善等によるベンチャー企業に対する投資環境整備や、研究開発税制の活用促進等による民間企業の研究開発投資・設備投資環境及び大学・公的研究機関・他企業との連携等を促進する環境の整備【経済産業省、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省】
・プロジェクトの応募時に、異なる規模や異業種の民間企業との連携等を提案の要件とするなど、市場に存在する技術の活用を促進【総務省、経済産業省】
・透明性及び公正性の確保を前提に総合評価落札方式等の技術力を重視する入札制度の一層の活用【関係府省】

2)規制・制度の改革の推進
 イノベーション創出の隘路となる規制・制度については、優れた研究成果の創出や得られた研究成果の円滑な社会実装の促進を目指して、人材の活用と流動化の促進、手続の簡素化などの観点からの見直しを進めるとともに、特区制度の活用、社会実装を目的とした実証実験などを通じた見直しを進めていくことが必要である。こうした規制・制度の改革について、総合科学技術・イノベーション会議は経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議等と連携・協力を進め、政府一体となって「世界で最もイノベーションに適した国」に相応しい規制・制度のあり方を実現する。
 この総合戦略では、国立大学改革や研究開発法人改革、研究開発法人を中核とした国際的な産学官共同研究拠点の形成に向けた制度改革を強力に推進するとともに、「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の成果を社会実装する際の規制・制度の改革に取り組む。

<主な関連施策>
・「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)において、出口(実用化・事業化)までを見据えて、例えば以下の規制・制度改革を推進
 -次世代パワーエレクトロニクス
  エネルギーロスの少ないパワーデバイス(電圧等を変換する素子)の研究開発の進展に合わせて、パワーデバイスを搭載する電気機器の省エネ基準(省エネ規制)を見直す。
 -エネルギーキャリア(水素社会)
  水素を安全かつ効率的に運搬・貯蔵するため、液体水素の長距離輸送や荷役等の技術開発に合わせて、その安全基準等を策定する。
・規制改革会議との連携により、例えば以下のような、科学技術イノベーション創出を促進する規制・制度改革を推進
 -革新的な医薬品・医療機器の価格に関する制度の改善
 (医薬品・医療機器のイノベーションを適切に評価するとともに、企業から見た価格予見性を高める仕組みを検討【厚生労働省】)
・総合科学技術会議の関与により平成20~24 年度まで取り組み、早期からの規制当局による薬事相談や研究資金の柔軟な運用を目指した先端医療開発特区の成果を踏まえ、規制改革により研究開発の実用化、事業化が促進される制度を構築【内閣府】

3)国際標準化・知的財産戦略の強化
 イノベーションの創出を戦略的に進めるためには、研究開発に着手する当初から、将来的な国際標準化や知的財産の取扱いを見据えた産学官の連携・協働が重要である。また世界的に成長が期待され、我が国が優位性を発揮できる新たな産業分野について、国として共通基盤となる科学技術の確立を図るとともに、国際標準化や知的財産マネジメントに関する戦略的な取組が必要となる。
 総合科学技術・イノベーション会議は、知的財産戦略本部や関係府省と協力し、国際標準化・知的財産に係る取組に関する施策の誘導、効果の把握、施策の改善を推進する。特に「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の各対象課題の成果を社会実装する際の国際標準化や知的財産の取扱いに関する取組を強力に推進する。

<主な関連施策>
・大学等に散在する知的財産や死蔵されている知的財産の戦略的な集約、パッケージ化等による活用の促進【文部科学省】
・国の研究開発の成果を最大限事業化に結び付け、国富を最大化する観点から、研究開発の受託者が活用していない知的財産権を第三者が活用するための指針等、日本版バイ・ドール制度の運用を含めた国の研究開発プロジェクトにおける知的財産マネジメントのあり方を検討【経済産業省】
・「世界最速・最高品質」の特許審査の実現、知財システムの国際化の推進、中小・ベンチャー企業等の海外知財活動に対する支援の強化、これらを達成するための任期付審査官の維持・確保を含めた国の審査体制の一層の整備・強化、職務発明制度の抜本的見直しの前倒し、営業秘密保護の総合的な強化と迅速な対応【経済産業省】
・我が国の高度な技術を生かした工業製品など、日本の優れたものづくり技術による新市場の創出と海外展開を強力に推進するため、標準化・認証獲得に関する官民戦略を策定し、戦略的な取組を強化【経済産業省】

4.「イノベーションに最適な国」の構築に向けて

(1)全体を俯瞰した施策の評価と改善

 イノベーションを国力に繋げようとする取組が各国で急速に進展する中、人口減少、エネルギー・資源の制約といった課題を抱える我が国の国際競争力を維持・発展させていくためには、関係府省はもとより、研究者数で我が国の75%、研究費で我が国の70%を占める民間企業の活動や、海外との連携・協力も視野に入れた戦略的な政策運営が求められる。
 他方、イノベーションに適した環境を作り出すために政府が講じる施策は、その効果が浸透し、実際に効果を上げるまでに時間を要する場合も少なくない。また、場合によっては、それぞれの担当部署が独自に講じる施策相互の関係が互いの効果を減じてしまう可能性もある。
 現在、研究開発法人改革や国立大学改革が進展しつつある。これを機に、我が国のイノベーション創出を担う大学、公的研究機関、民間企業といったアクター相互の関係や、それらを取り巻く人材や資金の循環、規制・制度などを一つのシステムとして捉えて、これを国際社会にも開かれ、将来にわたって持続的な発展性を有するイノベーションシステムとして作り込むことは、総合科学技術・イノベーション会議の使命である。
 今後、総合科学技術・イノベーション会議は、我が国全体を俯瞰し、施策の目的や期待する効果を同じくする施策を府省横断的にパッケージ化し、その効果や状況変化をモニタリングしながら、政府一体となった政策運営を主導する。政策運営にあたっては、産業競争力会議や経済財政諮問会議、関係府省やシンクタンクなどと引き続き連携協力を進める。また、シンクタンク等によりとりまとめられたエビデンスや、民間企業や研究現場といった実際のイノベーションの担い手との対話を経て得られた意見を政策立案に活かすことにより、データに基づくことはもとより、現場の共感・共鳴を得て政策運営の実効性を確保することが必要である。

(2)総合科学技術・イノベーション会議によるフォローアップ

 総合科学技術・イノベーション会議は、限られた政府の研究開発投資を有効に活用することを目指して、関係府省の施策を、その目的などで類型化したパッケージに分類し、パッケージごとに進捗状況や効果を把握・検証するための指標を設定する。
 内閣府は、関係府省やシンクタンクと密接に連携して、大学、公的研究機関、民間企業といった多様なイノベーションの担い手の動向を的確に把握するための調査を継続的に実施する。また、その結果をはじめ、関連するデータベース(researchmap、府省共通研究開発管理システム(e-Rad))などの充実を進め、それを活用して、次の1)~3)の目標の達成状況などの分析、国際比較などを行い、所見を公表するとともに、必要な場合は関係府省に改善措置を求める。また、重点的な取組の障害の有無、イノベーション創出等の状況、さらには我が国全体の科学技術イノベーションに適した環境整備の状況を分析・評価し、民間企業における成功事例や関係機関・民間企業の意見等を把握した上で年報としてとりまとめ、他の調査・統計などとともに政策運営に活用する。なお、今後、研究開発法人改革の進展等も踏まえ、研究開発法人等の目標・指標の充実について検討を進める。

1)イノベーションの芽を育む
○ 大学及び公的研究機関において、若手・女性・外国人を含む多様な人材が互いに切磋琢磨することによって、国際的なイノベーション創出拠点となり、イノベーションの芽を次々育成
・大学及び公的研究機関における女性研究者の採用割合を自然科学系全体で2016 年までに30%に(※21)
・世界トップレベルの大学等と競争する十分なポテンシャルを持つ大学及び研究開発法
人の研究拠点等において外国人研究者の割合を2020 年までに20%、2030 年までに
30%に(※22、23、24)

2)イノベーションシステムを駆動する
○ 産学官連携・府省間の連携を含めイノベーションの連鎖による好循環を抜本的に強化
・大学における1000万円以上の大型の共同研究の件数を2030年までに倍増
・大学における3年を超える共同研究の件数を2030年までに倍増
・大学による特許の外国出願件数を2030年までに倍増

3)イノベーションを結実させる
○ 国際標準化機関における規格開発に係る幹事国引受件数を2015年末までに世界第3位に入る水準(95件)に増加
○ 技術輸出額は2020年までに約3兆円

 なお、これら目標に係る評価は、目標数値を達成したか否かはあくまでもチェック項目の一つであり、その第一義的な目的は、我が国のイノベーションを創出する環境が改善されているか否かを判定することである。総合科学技術・イノベーション会議は、現場における実際の取組の現実も勘案して、実質的かつ形成的な評価を行う。
 


※20 イノベーションに向けて知識・技術、アイデアやノウハウを持った担い手が集う「場」や、これら担い手をバーチャルに結ぶネットワークの結節点となる拠点を、ここでは「イノベーションハブ」という。
※21 2011年度時点に大学では24.2%(文部科学省調べ)、2010年度時点に研究開発法人では21.2%(内閣府調べ)。第3期科学技術基本計画においては、大学や公的研究機関における期待される女性の採用目標として、「自然科学系全体としては25%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、保健系30%)」と記述している。また、第4期科学技術基本計画においては、「自然科学系全体で25%という第3期科学技術基本計画における女性研究者の採用割合に関する数値目標を早期に達成するとともに、更に30%まで高めることを目指し、関連する取組を促進する。特に、理学系20%、工学系15%、農学系30%の早期達成及び医学・歯学・薬学系合わせて30%の達成を目指す」と記述している。
※22 数値目標のモニタリングに際しては、研究領域の特性等の観点を十分に考慮することとする。
※23 技術流出防止等の観点を十分に考慮することとする。
※24 全国の大学及び34の研究開発法人の平均で3.9%(2010年度実績)

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