資料2-2 平成26年度「特設分野研究」の審査について

1. 特設分野研究の概要

 「特設分野研究」は、審査希望分野の分類表である「系・分野・分科・細目表」(別表を含む)とは別に平成26年度より新たに設けられた審査区分であり、文部科学省の科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会(以下、審査部会という。)からの検討要請に基づき、日本学術振興会の学術システム研究センターが、その役割として行っている学術動向調査等を踏まえて、候補分野を提案し、審査部会において設定されている。
 なお、採択予定課題数は、30件程度である。これは、重複申請を認めていることから、他の種目とは異なり、応募件数や応募額に応じた採択方式をとらないことにしたものである。

2 .新しい審査方式の導入

(1)細目の枠を越えた学術研究に対応した審査方式
基盤研究(一般):書面審査と合議審査を別の審査委員が実施する二段合議審査

特設分野研究  :書面審査と合議審査を同一の審査委員が実施する新しい方式の二段合議審査

(2) 基盤(B)と基盤(C)を区分せず実施
・基盤研究(B)と基盤研究(C)の応募課題について研究種目で区分することなく、同一の審査基準により審査を実施。
 但し、同じような評価の場合には、基盤研究(B)においてはアウトプットについても考慮する。

(3) 審査結果の所見を開示
・採択されなかった研究課題のうち、特に必要と判断したものに対して、審査結果の所見を開示する予定。
→60課題程度に絞り込まれた研究課題のうち、最終的に不採択になったものについては、委員会の所見を通知(30課題程度)。
→それ以外は、基本的には個別審査の結果を開示。

 



【参考】特設分野研究
○平成26年度公募における設定分野

分野

内容

 ネオ・ジェロントロジー

  現在、わが国は、65歳以上人口の全人口に占める比率が23%を超えており、世界一の超高齢社会の様相を呈している。日本が経験するこれからの社会は人類にとって未曾有であり、日本の抱える課題は、現在、世界の最先端に位置する。
 エイジング(個人の加齢、社会の高齢化)に関する諸問題は、これまで老年学(ジェロントロジー)によって探究されてきた。しかし、65歳以上を一律に高齢者、即ち、衰えていく者、としてとらえ、研究することには限界も指摘されている。高齢者の実態を調査すれば、経済的にも、生理的にも、指導力や文化的な存在としても、変わらず存在を維持している層と、社会的に弱い立場におかれ支援や援助を必要とする層など、いくつかの層に分かれることが様々な指標によって指摘されている。すなわち、高齢者も一様ではなく、極めて多様であるとの認識の上で行う基盤的研究である。また、これらの諸指標間の関連が単なる疑似相関なのか、因果関係を示すものなのか、個別に生じていることなのかといった点については、詳細な学術的検討が待たれる。
 このように、多様な高齢者像の視点に立った「ネオ・ジェロントロジー」ともいうべき、新しい研究が、様々な分野で始まっている動向を捉え、本分野を設定した。
 今後さらに進むことが確実視されている高齢者数の増加と社会の高齢化の現実に人類が適応するためには、社会構造全体における高齢者の役割を再確認し、その再割り当てを含めて分析する必要があり、高齢者を含む社会の側の変容にも注目されるべきものがある。そもそも老いとは何なのかを思想的に問うことも必要である。たとえば、〈老い〉の豊かさや価値についての歴史的・思想的・比較文化的分析、蓄積された経験が大きな資産となる暗黙知の伝承の民俗学的・文化人類学的考察、海外の高齢化に関する国際比較的分析、平均値ではとらえることのできない〈老い〉の個体差に関する心理学的究明、寿命の延長にともなう男女のライフコースの変化や年齢役割の変化、さらには人間の終末としての死に対する態度に関する死生学的研究、今後の社会政策が前提とすべき高齢社会の構造に関する研究、高齢社会の新たな段階における倫理に関する研究など、また、医学や工学分野においても、多様な高齢者像の視点のもとで、これまでにない高齢の構造の解明を企図する他分野との連携に立った研究など、あらゆる分野からの研究課題を募集する。

 連携探索型数理科学

  数学は、その抽象性と普遍性により、科学における基盤的地位を有しており、記述言語としての数学を必須としている分野は、物理学など数多く存在する。一方、既に数学と密接な結びつきが確立されている分野以外でも、新たな数学的構造が見出される余地は大きいと考えられる。本分野では、自然現象・生命現象・社会現象・人間の感覚・心理現象などの複雑な現象や機能の中に潜む数学的構造を発見することを目標とする個人型研究の申請を募集する。共通の数学構造の発見は、一見無関係に見えた諸問題の関連性を浮かび上がらせ、既存の細目を超える新しい研究分野を切り開くであろう。その可能性は無限にある。従って、数理科学とそれ以外の研究分野の研究者が、個人の自由な発想に基づいて、ボトムアップ的にそのような連携を探索することが重要である。その結果、双方にとって全く予想もしなかった研究展開が生まれ、新たな学問創造のきっかけとなることが期待される。そのため、どちらが研究代表者になるにせよ、数理科学とそれ以外の研究分野の研究者が連携して提案することが望ましい。また、自らの元来の専門の細目で採択されている研究者が、より野心的な連携研究に乗り出すことも期待される。あらゆる分野から現行の細目の中で申請することを躊躇するような、新規性、意外性、革新性のある研究課題を募集する。

 食料循環研究

  食料の生産と安定供給とは、人類の生存と繁栄に必須である。人類は、太陽と水と耕地とを利用して、循環する自然を巧みに使いながら、持続的に再生する食料生産を行ってきた。我が国は、太陽にも水にも耕地にも恵まれている。しかし、地球規模での気候変動の影響、異常気象や自然災害、水資源の枯渇、漁場の変調、水産資源の激減など、食料生産を困難にする要因の増加が懸念されている。また、人口の急増は、グローバルにみた食料供給が需要を下回るリスクを増大させている。一方、休耕地の増加などの農業施策の問題、フードマイレージに象徴される流通や販売におけるエネルギー問題、国際関係上の食料安全保障の問題など、食料に関わる国際的および社会的な課題も顕在化してきた。
 食料は、我が国から動くことのない耕地と水資源などによる安定生産が前提となる。しかし、今や、食料生産を困難にする要因の研究をはじめ、耕地や水資源の利用、飼料を含む食料生産の実際と潜在的な生産力に関する学術研究が必要とされている。例をあげれば、森林、耕地、河川、湖沼、そして海を一体とした物質循環に関する研究、土壌の質を確保する水と森林がもたらす有機・無機物質の循環等の研究や、動植物・昆虫・微生物等の食料生産環境での役割等の研究がある。また、循環からだけでは不足する窒素をはじめとする肥料の持続的供給手段の開発や、自然の循環を断ち切ってしまう可能性のある農薬をはじめとする諸要因のフィールドでの複合的研究や、諸分析を実験室に移した研究等、さらなる研究がある。
 他方、食料生産と供給にかかわる課題として、食料需給に関わる国際関係や、国内の法的制度的課題として、耕地権や水利権、農業経営などに関する社会システムの学術的な研究がある。また、食料の価格維持や生産調整などの政策や、それに関連した備蓄の方法とそれを管理調整する行政などの課題にも学術的関心が深まっている。
 以上のことから、食料生産に関わる植物、動物、微生物の生命活動の研究と、それを育む自然環境を長時間軸での物質循環システムとして捉えなおす農林水産生態学をはじめとする、自然科学分野および環境学分野と、食料供給システムの実態を研究する社会科学分野の研究者とが一堂に会することが出来る、新たな分野「食料循環研究」を設定し、食料生産と供給に関連する、あらゆる分野からの研究課題を募集する。

 

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研究振興局学術研究助成課企画室企画係