平成26年7月1日
○ 「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)(科学技術・学術審議会学術分科会、平成26年5月26日)は、学術研究がその役割を十分に発揮するためには、学術政策、大学政策、科学技術政策が連携し、基盤的経費、科研費、科研費以外の競争的資金のそれぞれの改革と相互の関連性の確保による「デュアルサポートシステム」の再構築が必要と提言。
○ 学術研究は水準の高い研究活動を通じて新しい知の創造を行うだけではなく、大学院教育等を通じて「人」を育成。科研費以外の競争的資金についてはこの点に留意した政府全体の立場からの改善が必要。また、大学院教育の充実など大学改革も重要。
○ これに対し、科研費は研究者の間で最も信頼されているが故に、その研究成果の水準は広い分野にわたって高く、我が国の学術研究の重要な基盤を形成。競争的資金のリーディングな存在。
○ 他方、厳しい財政状況の中、財政支出の「成果」に対する国民の期待はさらに高まっている。その期待に対しては、既知の「出口」に向けた技術改良といったレベルではなく、研究者の独創性や知的創造力を最大限発揮して、これまでの慣習や常識では思いもつかないアイディアにより出口のないところに新たな出口を創出したり、新次元の出口を示唆する入口を拓いたりすることで、既にある強みを生かすにとどまらず、新たな強みを創ることを可能とするという形で応えてこそ、社会と学術研究との間の信頼と支援の好循環が確立。
○ このような学術研究の本来的な役割や機能を十二分に果たすためにその基盤をしっかり支えるという観点から、科研費についてはその不断の見直しが必要。
・「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)(平成26年5月26日科学技術・学術審議会学術分科会)
・「科学技術イノベーション総合戦略2014」(平成26年6月24日閣議決定)
○ 科研費は、公正で透明性の高い審査・評価システムを確立するために独立行政法人日本学術振興会の学術システム研究センターの主任研究員や専門調査員として、あるいは年間6000人規模の審査委員として、多くの優れた研究者がその制度設計や審査委員の選任、具体的な審査の過程に主体的かつ積極的に参画。本部会の審議を踏まえて、文部科学省、日本学術振興会(学術システム研究センター)、大学関係者、学術界が連携しつつ議論を重ねる必要。
(成熟社会における学術研究)
○ 「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)において整理された学術研究の役割
(1)人類社会の発展の原動力である知的探究活動それ自体による知的・文化的価値の創出・蓄積・継承(次代の研究者養成を含む)・発展
(2)現代社会における実際的な経済的・社会的・公共的価値の創出
(3)豊かな教養と高度な専門的知識を備えた人材の養成・輩出の基盤
(4)上記(1)~(3)を通じた知の形成や価値の創出等による国際社会貢献
○ アジアで最大の成熟社会である我が国の学術研究に強く要請されるのは、挑戦性、総合性、融合性、国際性。
(我が国の学術研究の現状)
○ 「サイエンスマップ2008」(科学技術・学術政策研究所)等からは、我が国の学術研究についての以下の課題が顕在化。
・ 物理学、化学、材料科学、免疫学、生物学・生化学など我が国が世界の先頭を競っている分野の持続的な発展をどう確保するか。
・ 例えばイギリスやドイツとの比較において存在感が低い学際的・分野融合的領域の研究をどう推進するか。
・ 国際的に注目を集めている研究領域への参画という観点から相対的に低い我が国の学術研究の多様性をいかに高めるか。
(新しいパラダイムの形成と学術研究)
○ もとより学術研究の融合性はそれ自体を目的化するものではなく、学術が大きく発展するきっかけは、分野にこだわらず、新しい問題提起をした研究者個人の問題意識に興味を持つ研究者が交流する機会。個人の興味に対する自由な交流の機会のもとに集まった研究者集団は、やがて問題を具体的な課題にまで作り上げる強い連携に発展し、その周りに分野を越えて新しい研究者集団が形成され、個別の研究者では思いもつかなかったような研究が生まれるが、これが異分野融合による新しいパラダイム形成にまで発展するボトムアップを基本とする、学術の最も大きな知の創造。(例:分子生物学の誕生と発展)
(「デュアルサポートシステム」の再構築と科研費)
○ このような学術研究の特性を踏まえ、我が国が世界の先頭を競っている分野の持続的発展、優秀な研究者が学際的・分野融合的領域に取り組む環境の醸成、これから世界の先頭を走ることになる分野の苗床となるような学術研究の質の高い多様性の確保を図るためには、「デュアルサポートシステム」の再構築を図ることが必要。
○ 科研費以外の競争的資金の改革、専門性とともに総合的な視野をはぐくむための大学院教育の充実、大学の教育研究組織の柔軟な再編成を可能とするマネジメントの確立などとの連携に留意して、科研費改革を検討する必要。
(科研費制度の歴史的展開)
○ 学術に関する優れた研究計画に着目し、その推進を図るための研究助成制度は、第一次世界大戦を契機とする欧米諸国の科学研究動員計画のような重点研究課題に対応するため、大正7年に国が研究者に直接交付し独創的研究を奨励するために創設した「科学研究費奨励金」制度が嚆矢。昭和7年、御下賜金を基金として財団法人日本学術振興会が設立。昭和14年には、さらに「科学研究費交付金」制度が新設。
○ 昭和40年にはそれまでの「科学研究費交付金」、「科学試験研究費補助金」、「研究成果刊行費補助金」が「科学研究費補助金」制度に統合され、さらに昭和43年度から、書類審査、合議審査の二段審査方式によるピアレビュー審査など現在の科研費制度の基本的な構造が確立。
○ 第一期科学技術基本計画が策定された平成8年から現在に至るまで、我が国でも最も長い歴史を持つ最大の競争的資金としての科研費は、種目の新設・統合、不採択理由の開示や審査委員の公表、間接経費の導入、繰越明許費の登録と基金化、「学術システム研究センター」(日本学術振興会)の設置など様々な改善・充実。助成額も平成8年度予算の1018億円から平成26年度の2305億円へと2.26倍の増加。
(科研費制度の「不易たるもの」)
○ 現在の科研費は、昭和43年度に形成された基本的な構造により審査(資料3:1~2頁)。科学技術・学術政策研究所の研究者による定点の意識調査においても、科研費は、「公正で透明性の高い審査」、「研究費の使いやすさ」、「研究費の基金化」といった項目において極めて高く評価。このような評価は、これまでの科研費制度や公正な審査の積み重ねによる、言わば「財産」。
○ 以下の三点は、科研費の「不易たるもの」。
(1)専門家による審査(ピアレビュー)。学術は「知」の創造、蓄積、活用のすべての面において新しい課題の提案とそれらへの挑戦から始まることから、個人の自由は発想に基づくとはいえ、その提案が既に他によってなされていないことをチェックし、提案の合理性や妥当性について徹底して審査することが必要。学術研究上の価値や方法の妥当性などのほかに、その分野の発展の歴史と動向とに知悉し、提案が独創的なものであり、かつ新規なものであることを判断できる同じ分野で学術研究に切磋琢磨している専門家が審査すること(ピアレビュー)が最も重要な方策であり、不可欠。
(2)人文学、社会科学、自然科学及び新領域に至るあらゆる学問分野について、大学等の研究者に対して等しく開かれた唯一の競争的資金制度であること。実際に年齢や性別等で科研費の採択率に大きな差はなく、学問的重要性・妥当性、独創性・革新性、波及効果・普遍性などの観点による審査により、公正に配分。
(3)予見に基づく計画の通りに研究が進展せず、逆に当初の目的とは違った成果が生まれることが多かったり、当初の目的との関係では「失敗」とされたり予期せぬ結果に至ったりした膨大な研究結果やデータの先に既存の知識やその応用を超えるブレークスルーが生まれたりする学術研究の特性を踏まえ、基金化や繰越手続きの大幅な簡素化など研究費としての使いやすさの改善を不断に図ること。
○ 学術研究の基盤を支える科研費の在り方を見直すに当たっては、以下のような様々な要素を踏まえる必要。
(研究費をめぐる国際的動向)
○ 第一は、研究費をめぐる国際的動向。アメリカ、イギリス及びドイツのファンディングエージェンシーはピアレビューに基づく審査を行い(資料3:3~4頁)、学術研究を支援しているが、成熟社会における学術研究をどう支えるかという共通する課題に直面。
○ アメリカにおいては、「米国イノベーション戦略」(2009年策定、2011年改訂)を策定し、持続的経済成長と雇用確保の基盤としてイノベーションと研究開発投資を重視。しかしながら一方で、生命医学研究分野では、2003年から2013年の10年の間に研究予算が25%減少し、その結果、長期的研究や独創的発想に基づいた研究ができずに新分野を開拓しようとする気概が低下、権威の高い学術誌への投稿プレッシャーによるモラルの低下、博士課程学生や若手研究者の増加に予算やポストが追いつかない、研究機関が間接経費を目的に競争的研究資金の獲得とそれによる雇用を促進した結果、不安定な「ソフトマネー」による雇用が拡大する、といった我が国と同様の課題に直面(※1)。
○ 欧州連合においては、2014年1月より、新たな研究・イノベーションプログラムである”Horizon 2020”が開始され、7年間で約770億ユーロ(約10兆7800億円:対GDP比3%)の投資を予定して、先端的な基礎研究や新しくかつ有望な分野(脳やグラフェンなど)に対する研究支援を含む「卓越した科学」等の重点三分野を策定。
○ 中国では、「国家中長期科学技術発展計画」(2006-2020年)などで「2020年までに世界トップレベルの科学技術力を持つイノベーション型国家となることを掲げ、研究開発投資を拡充(2020年までに対GDP比2.5%)し、国際共同研究等を通じて先端科学技術を学ぶことを明確化。韓国では、科学技術とICT産業が融合した新産業創出により、質の高い雇用を生み出す「創造経済システム」に向けた取り組みとして、政府研究開発投資を拡充(前政権の1.5倍)し、その4割を基礎・基盤研究に充てることを目標。
○ このように学術政策や研究費の審査や配分をめぐって、我が国だけではなく世界各国の政府や大学が共通した課題に直面していることを一つの所以として、2012年に世界の学術振興機関の長によるフォーラムである「グローバル・リサーチ・カウンシル」(GRC)が設立。2015年5月には、東京で70国以上からの機関が参加し、「科学的ブレークスルーに向けた研究費制度」「研究教育に関するキャパシティ・ビルディング」をテーマとする第4回年次会合が開催される予定。
(科研費の在り方についての様々な指摘)
○ 第二は、科研費の在り方についての関係者からの様々な意見や指摘。本部会において、科研費の審査の在り方について外国調査や専門的検討を重ねている日本学術振興会学術システム研究センターや大学改革について議論を行っている中央教育審議会大学分科会からの参加を得た審議や、大学や経済界等の関係者からヒアリングを行ったほか、文部科学省においても200に及ぶ大学・研究機関に対するアンケート調査を行うなど広く意見を聴取。
(主として審査の改善に関する指摘)
○ 審査の質の向上など主として審査の改善に関する指摘。
(1)前述のとおり現状の基盤研究に関する二段階審査は、第一段階審査における各審査委員による書面審査と第二段階の合議がすべて異なる審査委員で行われ、かつ相互のコミュニケーションを図る仕組みにはなっていないので、例えば、一定規模以上の研究計画の採択については、専門分野が異なる審査委員同士がその目的、手段、期待される成果などの適切性等を時間をかけて議論する機会を確保し、既存の細目を土台としながらそれを越える創造的な研究が評価されるような仕組みを導入する必要。
(2)現在でも第一段審査において有益な審査コメントを付した審査委員を表彰するなどの取組が行われているが、(1)のような機会も含め「審査委員」を育成する場と過程を形成する必要。
(3)(2)で示した審査コメントが現在、応募者に開示されていないが、応募者が自らの研究の進め方を検討する上で有益なコメントが多く、審査委員と応募した研究者のコミュニケーションの重要な手段として活用する必要。
(4)(1)~(3)の改善を進めるに当たっては、平成8年度78350件から25年度に97764件へと急伸した応募件数が大きな桎梏となっており、また、審査コスト(当該種目の研究費総額/(申請件数×第一段審査委員数))は基盤研究のA、B、Cと小規模になるほど大きくなっていることを踏まえれば、プレスクリーニングの導入や審査コストの再配分などの工夫の必要。
(科研費を活用する観点に立った指摘)
○ 応募のしやすさや研究費の使いやすさなど科研費を活用する観点に立った意見等。
(1)研究費の過度な集中を防ぐ観点から設けられている科研費の申請に関する種目の重複制限は、不採択による研究中断を避けるため、より小規模の種目に応募する傾向を生むとともに、これまでの研究業績を基盤にした新しい分野への発展的な移行を困難に。
(2)大規模科研費は分野を問わず学理の探究という学術研究の加速に必要であり、次世代研究者の発展の促進という観点から、グローバル化を含む審査や評価の改善を図る必要。また、(1)、(2)とともに、競争的資金全体の視野を持って検討する必要。
(3)学術研究の質の高い多様性の確保のためにも研究主体の多様性については常に留意が必要。
(4)国際共同研究の推進の他、例えば、若手研究者が国際的な研究者コミュニティの中で長期にわたる確かなネットワークを形成したり、国外からの最優秀な大学院生やポスドクを増加させたりすることを促す仕組みが必要。
(5)(4)の視点については、我が国の経験に基づいて伝統的な芸術を現代の世界で通用可能なものとして表現したり、近代化過程で得た組織技術や社会改革などにおける諸経験を国際社会に向けて発信したりすることも重要。
(「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)の提言)
○ 「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)は、「これまでも審査体制の充実や基金化の導入など学術の発展の観点から様々な改革を行ってきたところであるが、さらなる充実を図るため、
・より簡素で開かれた仕組みによる多様な学術研究の推進とそれを基盤とした分野・細目にとらわれない創造的な研究を促すための分野横断型・創発型の丁寧な審査の導入や応募分野の大括り化(その先導的試行としての「特設分野研究」の充実)等
・学術動向調査などの学術政策や科学技術政策への反映、イノベーションにつながる科研費の研究成果等を最大限把握・活用するためのデータベースの構築等
・グローバル・リサーチ・カウンシル等学術振興機関間の交流や連携も活用した国際共同研究や海外ネットワークの形成の促進
・卓越した若手や女性、外国人、海外の日本人など多様な研究者による質の高い学術研究支援の加速
などのための改革に、研究者としてのステージや学問分野の特性などにも配慮しつつ取り組むことが必要である。なお、平成23年度から導入された「学術研究助成基金」については、上記のような丁寧な審査の導入等により必要となるアワードイヤーの実現や、海外研究者との国際共同研究等の推進において、日本側の会計年度の制約が共同研究上の支障になることのないようにするなど研究費の成果を最大化する観点から、その充実を図る。」と提言。
(科研費改革の基本的な考え方)
(具体的な改革の方向性)
(大学改革との連携強化)
(科研費以外の競争的資金の改革の必要性)
※1 “Rescuing US biomedical research from its systemic flaws” Bruce Alberts, Marc W. Kirschner, Shirley Tilghman, and Harold Varmus, Proceedings of the National Academy of Sciences, April 22,2014, vol.111, no.16
研究振興局学術研究助成課企画室企画係