資料3 研究費部会「審議のまとめ(その1)」(案)

3 科研費において当面講ずべき制度・運用改善方策

 本部会においては、標記について、「我が国の研究開発力の抜本的強化のための基本方針」(平成25年4月22日科学技術・学術審議会決定。以下「基本方針」という。)に基づき、学術研究の現状を踏まえつつ、多岐にわたる事項について審議を実施した。その結果、科研費において当面講ずべき制度・運用改善方策は次のとおりである。

(1)研究活動の国際化の進展に対応した科研費の在り方

(経緯・現状)

○ 大学等における研究活動の国際化が求められ、その進展に伴い、外国人研究者等が増加している現状に鑑み、世界水準で切磋琢磨する研究環境が国内に醸成され、我が国を核とする国際的な人材・研究ネットワークの構築に資するための環境整備の必要性が高まっている。
 基本方針では、「優れた…外国人が、労働力として使われるのではなく、研究を自ら主導する、“LaborからLeaderへ”施策を推進するためのファンディング等の推進」、「新たに着任した優秀な研究者が独立した研究を円滑に開始するための資金等の援助や、研究資金申請を行う際の英語対応を含む負担軽減の方策の実施」が求められている。

○ 科研費における手続上の英語対応の現状は概ね以下のとおりであり、従前から「英語で応募できる数少ない競争的資金」として、先進的に取り組んできていると評価されている。
・応募書類(研究計画調書)の英語での記入は、全ての研究種目において可能であり、その旨公募要領において明文化(なお、「特別推進研究」においては、海外の研究機関に所属する審査意見書作成者等が審査する必要上、研究計画の英語版概要の作成が併せて求められている。)。
・公募要領についても、原則として英語版を作成・公開。

○ ただし、以下のことが外国人研究者にとって障害となっており、外国人研究者の事務手続については、周囲の関係者がサポートしている実態があると指摘されている。このため、英語で対応できる範囲が広がれば、外国人研究者が、研究グループの一員としてではなく、独立した研究代表者として応募がしやすくなるとともに、周囲の関係者の負担軽減にもつながることが期待できる。
・応募手続上必要なウェブ入力部分については、注意書きが日本語のみとなっているほか、一部の研究種目では、原則として日本語による入力が求められており、各欄には英訳の併記がなく、入力要領も日本語のみ。
・研究期間中毎年度提出が必要となる交付申請書及び研究実績報告書(研究実施状況報告書)や、研究期間終了後に提出が必要となる研究成果報告書では、原則として日本語による記入(なお、研究成果報告書の「研究成果の概要」欄等については、英訳の記入が併せて求められている。)。

(今後の対応方針)

○ 科研費の研究種目である「研究活動スタート支援」は、我が国の研究機関に採用されたばかりの研究者等が行う研究をサポートするものであり、来日した外国人研究者も申請できることから、その性格上、比較的短期かつ少額(2年以内・単年度当たり150万円以下)ではあるものの、海外から来日した外国人研究者の当座のスタート支援に資することが期待されるところであり、英語版公募要領が作成・公開されており、英語による応募が可能であることなどを含め、一層の周知を図ることが適当である。また、研究活動の国際化の進展に伴い増加を続け、今後益々増加することが期待される外国人研究者等のスムーズな研究活動スタートの支援を充実させるため、現在20%台半ば程度で推移している新規採択率を向上させることが必要である。

○ なお、科研費に現行とは別の外国人研究者のスタート支援のための申請類型を設けるべきではないかとの意見もあったが、国費による制度であることや審査実態等を踏まえた慎重な意見もあり、現行種目の今後の状況を踏まえた更なる検討が必要である。

○ 我が国において優れた外国人研究者が独り立ちして研究を進めていくための環境整備の一環として、英語による応募がより行いやすくなるよう、手続上必要なウェブ入力関連部分についても、英訳を併記するなど一層の便宜を図る方向で検討することが適当である。
  また、研究期間中、毎年度提出が必要となる交付申請書及び研究実績報告書(研究実施状況報告書)において英語での記入を認めることは、当事者及び周囲の関係者にとって影響の大きい重要な配慮であると考えられることから、内容確認等に必要な事務的体制を整えつつ、できるだけ早期に可能とする方向で検討することが適当である。

○ 一方、科研費における研究成果報告書は、研究課題ごとの研究成果の概要を、国民に分かりやすく説明することを主眼に置いて、専門外の研究者を含め、幅広く社会に発信する性格のものであり、新たな研究や産業における応用への進展、科学技術に関する国民の理解増進などにも寄与するものである。したがって、我が国の国民全般における英語のリテラシーの現状を踏まえると、研究成果報告書については、原則として日本語によるという方針を維持することが適当である。

(2)若手研究者の更なる活躍を促すための科研費の在り方

(経緯・現状)

○ 優れた若手研究者は、将来の研究の中核となるばかりでなく現在の研究現場において研究推進の原動力となっており(注1) 、その更なる活躍を促すことで、我が国の研究力の持続的かつ飛躍的向上がもたらされることが期待される。このため、若手研究者の研究活動への一層の支援が重要であり、科研費においても、若手研究者向けの中核的な研究種目である「若手研究(B)」について、平成23年度に新規採択率30%の達成や基金化の導入が図られている(注2) 。また、研究グループ間の切磋琢磨を通じて新分野の形成や異分野連携の進展が期待される「新学術領域研究(研究領域提案型)」においても、若手研究者の育成に配慮することとされており、一定の効果が上がっている。

○ しかしながら、若手研究者を取り巻く環境は、研究機関における基盤的経費の削減や任期付雇用の増加・改正労働契約法への対応、研究支援者の不足等、依然として厳しい状況が続いており、基本方針においても、「大学等の研究の原動力である「優れた若手研究者」を、世界標準モデルに則り、できるだけ早く、独立したLeaderとして登用するため、平成17年の学校教育法改正(平成19年施行)趣旨の徹底」、「優れた若手…が、労働力として使われるのではなく、研究を自ら主導する、“LaborからLeaderへ”施策を推進するためのファンディング等の推進」、「若手研究者の自立を支援し、キャリアパスの展望を開くため、フェローシップ等の更なる充実」等が求められている。

(日本学術振興会の特別研究員制度について)

○ 独立行政法人日本学術振興会の特別研究員制度(参考資料○参照)は、PDの進路状況追跡調査においても、1年経過後で約8割、5年経過後で9割超が常勤の研究職に就いているなど、将来を担う若手研究者のいわば登竜門的存在として高く評価されてきている。同制度は、優れた若手研究者がモチベーションを持って研究の道に進み、異なる研究環境の経験等を通じて自立的・主体的に研究を行うための資質を養うとともに、将来優れた研究者として独立するために、更なる充実を図ることが効果的であると考えられる。このため、独立行政法人日本学術振興会においては、同制度の在り方全般に関する検討が進められているが(「特別研究員制度の改善の方向性について」(参考資料○)参照)、本部会としても、科研費の他の研究種目への応募とその受給を認めること等について検討を行った。

(ア)現状
○ 現在、特別研究員には、採用時の申請書に記載された研究計画に専念する義務があるため、「特別研究員奨励費」以外の科研費への応募は認められていない。一方で、様々な競争的資金等により雇用されるポスドクが増加しており、それらのポスドクは科研費を含む他の競争的資金等に応募できることが多いなどといった実態も踏まえ、平成23年度から、PD(SPD、RPDを含む。以下同じ。)については、特別研究員としての研究課題が更に進展すると考えられるなど一定の要件を満たす場合には、科研費以外の競争的資金等を受給することを可能としている。

(イ)科研費の他の研究種目への応募とその受給を認めることにより期待される効果・留意点
○ 科研費以外の競争的資金は特定目的の達成に趣旨が限定されるのに対し、科研費は多様な研究分野や研究形態をサポートする観点が重視されているため、当初計画に関連する想定外の研究着手を可能とし、研究活動の幅を広げることで、更なる研究の発展が期待できる効果が高いと考えられる。

○ 競争的資金に挑戦する訓練の機会が大幅に拡充されることとなり、科研費の他の研究種目への応募プロセスにおいて、本格的な評価(ピア・レビュー)を通じて研究内容も磨かれ、自信や実績ともなり、正に独立した研究者としてのキャリアパスにつながる一歩を踏み出すこととなる。

○ PDの採用期間を超える形で科研費の他の研究種目へ応募することを所属機関が認めないといった運用がなされないよう、公募要領に明記する等の配慮を行うことが適当であるが、所属機関にとっては間接経費が入ってくることが強いインセンティブとなるため、むしろPDがテニュアポストを獲得していく上で有利に働く側面も大きいと期待される。なお、現在研究機関が有期で雇用しているポスドクなどについては、改正労働契約法の影響により、かえって有期雇用化が進みかねないとの強い懸念があるが、本制度では、機関雇用ではないことに由来するデメリットもある反面、受入研究機関と雇用関係が生じておらず、労働契約法の影響を受けないことも、大きなメリットであると考えられる。

(ウ)今後の対応方針
○ 上記を踏まえ、PDには、「特別研究員奨励費」以外の科研費への研究代表者としての応募を可能とし、その具体的な内容は以下のとおりとすることが適当である。
〈1〉応募資格の付与
独立行政法人日本学術振興会は、PDが科研費の他の研究種目に応募できるよう、受入研究機関に対して、受け入れたPDに当該研究機関の科研費応募資格の付与を依頼する。なお、平成26年2月から募集を予定している平成27年度採用分のPDからは、受入研究機関に対して、科研費応募資格の付与を義務付ける。
〈2〉重複応募を認める研究種目
PDの年齢や研究者としての経歴に着目した場合、ほとんどの者が若手研究(A・B)に応募すると考えられるが、平成26年度採用予定の特別研究員からは、申請資格の年齢要件が廃止されることから、若手研究(A・B)と同程度の研究費規模である以下の研究種目・区分への応募も可能とする。なお、これら研究種目間の重複制限については、他の応募者と同様とする(例えば、「若手研究」と「基盤研究」はどちらかしか応募できない)。
・若手研究(A・B)
・基盤研究(B・C)
・新学術領域研究(研究領域提案型)の公募研究
・挑戦的萌芽研究
〈3〉「特別研究員奨励費」との重複受給について
PDには、「特別研究員奨励費」により行う当初計画に関連する想定外の別の研究も、上記〈2〉の研究種目により行い得るようにする。また、現行では、「特別研究員奨励費」以外の科研費を受給している者が、PDに採用された場合には、当該科研費を一律辞退しなければならないが、今回の取扱いの変更に伴い、一律に辞退を求めることはしないこととする。なお、PDは、採用率が近時向上したものの、なお2割弱の狭き門となっており、また「特別研究員奨励費」の受給額は実態として年間90万円程度であることから、上記のとおり重複応募・受給を認めても、過度の優遇とは言えず、研究費の過度の集中にもつながらないと考えられる。
〈4〉審査での対応
現行で他の外部資金等との重複受給を認めている場合の要件を踏まえ、他の科研費への応募に当たっては、以下の点について研究計画調書への記載を求め、審査において確認することとする。
・受給する他の研究費が「特別研究員奨励費」の研究課題と同一でないこと。
・「特別研究員奨励費」の研究課題の研究遂行に支障が生じないこと(特別研究員としての活動時間のうち、「特別研究員奨励費」の研究課題に係る研究活動時間が、年間を通じて概ね6割を下回らないこと)。

○ PDの採用期間が5年化される場合、「特別研究員奨励費」の研究期間もそれに対応して5年とすることが適当である。また、PDの受入研究機関間での研究環境に差が生じないようにするとともに、重複応募・受給が認められることにより、研究機関における事務手続が増加することから、PDに交付する「特別研究費奨励費」についても科研費の他の研究種目と同様、間接経費を措置することが適当である。

(エ)制度全般についての意見
○ なお、特別研究員制度の在り方全般についても、以下のような意見があったことから、今後、独立行政法人日本学術振興会において、これらを参考にしながら適切に検討されることが期待される。
・出身研究室からの移動という現行の要件を一歩進めて研究機関の移動を要件化することについては、例外となる場合も十分検討すべきではないか。
・海外の研究機関等において研究活動を積極的に行うことが奨励されていることは(採用期間の2分の1まで可能)評価できる。
・我が国の現行の博士課程の年限(3年間)は、人文・社会科学分野において学位を取得するために必要な期間の実態から乖離しているため、満期退学者の扱いについては一定の配慮が必要ではないか。
・DCに3年次以上で採用された場合、支援期間を博士課程在籍期間に限定することは、制度の魅力を失わせるのではないか。

(研究種目「若手研究」について)

○ 科研費の若手研究種目における被引用度トップ10%論文やトップ1%論文の割合は、同規模の基盤研究種目より高いとの調査分析結果(注3)も踏まえ、優れた若手研究者が早くから自立できるためのチャレンジ機会を拡充することが必要である。特に、「若手研究(A)」は、研究規模の大きい「基盤研究(A)」を上回る質の高い研究成果を生み出していることなどに鑑み、現在20%台前半程度で推移している「若手研究(A)」の新規採択率を向上させ、独立した研究者として、より多くの者に機会を付与することが必要である。また研究種目「研究活動スタート支援」についても、研究機関に採用されたばかりの優れた若手研究者のスムーズな研究活動スタートの支援を充実させるためにも、現在20%台半ば程度で推移している新規採択率を向上させることが必要である(再掲)。

○ なお、科研費における若手研究者に対する支援の在り方に関連して、以下のような意見があり、これらは引き続き検討していくことが適当である。
・特別研究員制度において年齢要件が廃止されたことも踏まえ、科研費の若手種目における現行の年齢要件(39歳以下)についても、年齢のみを絶対的な基準とするのではなく、欧米諸国の若手研究者を対象とする研究費制度の基準を参考とし、学位取得時期に着目した基準についても早急に検討すべき。
・若手研究者のポスト不足が深刻な中、キャリアパス形成、ひいてはリーダーとしての独立促進等の観点から、科研費の研究代表者等の人件費支出を可能とすることについて検討すべき。

(3)新研究分野支援のための科研費の在り方

(経緯・現状)

○ 科研費では、公正かつ円滑な審査を行うため、「系・分野・分科・細目表」(以下「分科細目表」という。)を設け、「基盤研究」等への応募者は、分科細目表から審査希望分野を一つ選定するとともに、一定の場合には更に、選定した細目内で最も関連が深いと思われるキーワードを「付表キーワード一覧」から一つ選定することとされている。これまで分科細目表は、その時々の学術研究の動向を適切に反映するため、5年ごとに見直されており、最近では、平成25年度の公募から適用されている分科細目表について、10年に一度の大幅な見直しが行われ、〈1〉「総合系」の創設、〈2〉「人文社会系」・「理工系」・「生物系」における総合領域分野の創設、〈3〉新興・融合的な研究課題への試行的な対応として「若手研究(B)」における2つの審査希望細目の選定可能化等が行われ、細目数は319に充実されることとなった。

○ 分科細目表についても、上記の定期的な見直しのほか、学術研究の動向に柔軟に対応するため、設定期間を原則3年間に限り、流動的に運用する「時限付き分科細目」(以下「時限細目」という。)をその別表として設けている。時限細目は、既存の細目では対応できない新たな研究分野、あるいは既存の細目で対応することは可能であるが別の体系でまとめた方がより適切な審査を行うことができる研究分野を毎年度数分野設定し、「基盤研究(C)」に応募する場合に、審査希望分野として1分野を選定できることとしている。

○ また、新研究分野支援の観点では、〈1〉既存の分科細目を前提としつつも、特に独創的で意外性のある発想に基づく芽生え期の研究を支援する「挑戦的萌芽研究」(注4) 、〈2〉研究領域の設定自体を提案することができ、関係する研究者グループ間での切磋琢磨を通じて領域全体としての発展が期待される「新学術領域研究(研究領域提案型)」等の研究種目を設けることでも対応してきている。

(問題意識)

○ しかしながら、近年、急速に既存の分野を超えた異分野融合が必要とされる研究が増加する中で、科研費においてもこれらの研究をより適切に支援していくことが強く求められている。現行において、その中心的な役割を担っている時限細目の制度・運用については、以下のような課題が指摘されるようになってきているとともに、基本方針においても、「新規分野の開拓や、研究者の分野間連携・融合による研究を促進するための支援の充実」が求められている。
・分科細目表に採用するだけの需要を見極めるための試行的な設定であるため、応募総額が比較的少額(500万円以下)である「基盤研究(C)」に限定されており、小規模な研究計画にならざるを得ない。
・新しい試みに挑戦し、既存の分科細目から脱皮して研究分野を発展させていくためには、「基盤研究(C)」の広範な重複制限(注5)が障害となる場合が多い。
・現行の2段審査方式(書面審査と合議審査を別の審査委員が行う方式)では、幅広い見地からの審査等には適してしても、意見が割れる可能性も高い新しい研究分野に対しては、十分に専門的な審査を行うことがかえって難しい。
・時限細目は、設定期間内に一定数以上の応募件数があれば、分科細目表に追加される扱いとしてきているため(注6) 、研究分野の細分化が進み、細目数を増やす要因ともなっている。

(今後の対応方針)

○ 学術研究の動向により適切に対応するため、毎年度分科細目表の構成や分科・細目名を見直すことは現実的に難しいとしても、必ずしも従来の5年ごとの定期的な見直しにこだわらない柔軟な対応を検討することが適当である。

○ また、従来の時限細目の仕組みも、その在り方については引き続き検討が必要であるものの、分科細目表に採用される割合も高くなりつつある(注7)など一定の効果が認められるため、当面維持しつつ、未開のまま残された重要な分野、技術の長足な進歩によって生まれつつある分野、分野横断的な研究から生まれることが期待される分野を対象とした以下のような新たな仕組み(参考資料○参照)を試行的に導入することが適当である。
〈1〉 一定期間集中的に支援するため、応募対象種目を比較的中規模である「基盤研究(B)」(2,000万円以下)にも拡大する。
〈2〉 大型の研究種目である「特別推進研究」、「基盤研究(S)」、「新学術領域研究」の計画研究の研究代表者との間にのみ、重複受給制限を設ける。
〈3〉 既存の種目である「基盤研究(B・C)」に、新たな審査区分を設け、より深い議論を行いやすくするよう、書面審査と合議審査を同一の審査委員が担当する。その際、新しい研究分野であるだけに、研究遂行能力についても担保できるよう、評価に際しては特に留意する。
〈4〉 対象研究分野は、学術コミュニティの要望や最新の学術動向等に基づき、毎年度3分野程度設定し、採択予定課題数は研究分野ごとに30件程度とする。研究期間は時限細目と同じく3~5年とするが、設定期間は原則5年、各研究課題の募集は原則3回(3年目まで各1回)とし、設定期間内に全ての研究課題が終了するようにする。独立行政法人日本学術振興会が研究発表会を開催するなどにより、   当該研究分野の振興を積極的に推進する。
〈5〉その他、審査の基本的考え方や本仕組みの評価等については、独立行政法人日本学術振興会学術システム研究センターからの意見を踏まえ、科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会において検討する。

4 研究者倫理教育

 本部会においては、研究者倫理教育の在り方についても、以下のとおり議論を行った。研究者の行動規範の問題は、様々な関係者によるそれぞれの立場における取組が必要な問題であることから、今後、関係する方面での更なる議論が望まれる。

(経緯・現状)

○ 研究上の不正行為(ねつ造、改ざん、盗用等)は、研究者の科学者としての存在意義の自己否定にほかならず、法的な規制に直接抵触するような場合を除けば、研究者倫理や社会的責任の問題として、基本的には、まずは研究に関わる者の厳しい自己規律に基づく自浄作用により対応されるべき問題である。

○ その上で、科学技術そのものや、研究活動への国費投入に対する社会的信頼を確保するため、関係府省や日本学術会議をはじめとする研究者コミュニティ、資金配分機関や大学等研究機関なども、それぞれの立場において、行動規範やガイドライン、関係規程の整備等、一定のルール作りに取り組んできている(注8) 。

○ しかしながら、研究上の不正行為は、我が国を含め諸外国でも後を絶たず、諸外国では、取締りだけでは限界があり、研究者倫理の教育が重要であるとの認識に基づく取組が進められつつある(注9)。一方、我が国では、研究上の不正行為を未然に防ぐためのこのような研究者倫理教育は立ち遅れており、基本方針等においても、その充実・強化が求められている。

(留意点)

○ 米国における研究者倫理教育が現状において最も進んでいると考えられ、これを参考にしていくことが考えられるが、米国では、実態上の必要性に応じて、生命科学系を中心に進められてきた経緯がある。しかしながら、例えば科研費は全ての分野を対象とした競争的資金であり、教育の履修を支給条件とするためには、各分野の実情を踏まえた教育プログラムが求められる。

○ 研究上の不正行為は、確かに絶対に許されないものであるが、研究者全体からすればごく一部の者により引き起こされているにすぎない。このため、研究者倫理教育が基本的に性悪説に立ったようなものになってしまうと、疲弊する研究現場の更なる士気の低下や、手続上実施してさえいれば事足りるといった形骸化を招きかねないとの懸念もある。

○ 研究者倫理教育の履修を求める場合、その内容や方法によっては、費用負担の問題も考慮する必要がある。

(今後の対応方針)

○ 研究者に、その社会的立場上、研究者人生を通じて必要とされる研究者倫理について自覚を促し、最新のルールについて理解を深める気付きの機会を担保することは、必要かつ有用であり、我が国においても、それぞれの立場において、研究者倫理教育に積極的に取り組んでいくことが重要である。

○ 研究者倫理教育の実施に当たっては、第一義的には、学協会による自浄作用や、研究者の服務監督者であり適切な資金管理を行う所属研究機関の果たすべき役割が大きい。なお、大学等研究機関や学協会が研究者倫理に関する教育プログラムを導入する際には、特に将来の科学技術を担う学生や若手研究者がモチベーションを損なわないような配慮が大切であり、例えば、科学はむしろ多くの試行錯誤によって進歩するものであり、不正と誤謬(honest error)の違いこそが重要であることを、科学の歴史上のエピソードを交えながら興味深く教えるといったアプローチが効果的であると考えられる。

○ 資金配分機関においては、例えば、研究者倫理やルールに関する一定のチェックリストを作成し、研究費の交付を受ける段階で、研究代表者等に内容の確認を求めることが考えられる。また、研究者倫理に関する一定の教育の履修を研究費の支給の条件とすることについても、先行的取組 の発展・普及状況を踏まえながら検討すべきである。

○ なお、論文指標を過度に重視した性急な成果主義傾向といった従来の研究評価の在り方や、若手研究者ポストの不安定さなど、研究上の不正行為を助長する背景となっていると考えられる要因について、必要な対応策を別途講じていくことが重要であることにも十分留意すべきである。

 

脚注

(注1)被引用度トップ10%論文を産出した我が国のトップリサーチャーの年齢は、平均39.9歳、中央値39歳であり、若手研究者が比較的多いとの調査分析結果がある(「優れた成果をあげた研究活動の特性」(2006年3月科学政策研究所)23-24項)。

(注2)なお、近年、「若手研究」の応募件数自体は低下傾向にあるが、これは主に受給制限の導入や採択率向上に伴う過渡的な影響と考えられる。

(注3)科学技術政策研究所「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」(2013年3月研究費部会資料4)37項(参考資料○)

(注4)「挑戦的萌芽研究」では、平成23年度から新規採択率の引上げや基金化の導入といった改善も図られている。

(注5)「基盤研究(S)・(A・B・C)(一般)」、「挑戦的萌芽研究」、「若手研究(A・B)」の研究代表者等。

(注6)分野の設定のためには100件程度の応募件数が見込めることが必要であり、更に分科細目表に採用する場合は100件程度の応募実績が必要。

(注7)本表への採用は累計15%(13/86)だが、時限細目の設定の設定について(独)日本学術振興会学術システムセンターが関与するようになった平成19年度以降に限れば30%(4/12)。

(注8)「研究上の不正に関する適切な対応について」(平成18年2月総合科学技術会議)、「競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン」(平成18年8月科学技術・学術審議会)、「競争的資金の適正な執行に関する指針」(平成18年11月競争的資金に関する関係府省連絡会申合せ)、日本学術会議声明「科学者の行動規範」(平成18年10月)等(参考資料○参照)。

(注9) 例えば米国では、国立衛生研究所(NIH)等から公的研究費の助成を受けるためには、一定の研究者倫理教育の履修証明が必要とされることが多くなってきている。

(注10)例えば、信州大学を中心とした「CITI Japan プロジェクト」による研究者倫理に関する国際標準のe-ラーニング教材作成・配信や、独立行政法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業等におけるその活用(参考資料○参照)。

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