資料1-2 学術振興上の重要な取組について(これまでの意見のまとめ(案))(反映版)(1)

平成23年7月 日
学術分科会
学術の基本問題に関する特別委員会

1 検討の経緯

第5期学術分科会が本年1月にとりまとめた審議経過報告(「学術研究の推進について」)では、今後の学術研究全般にわたる振興の方向性や具体的な振興方策を提言しているが、その中で、「戦略的な視点をもって学術研究の振興を図るためには、個々の研究者が行う研究や組織的に行われている研究を結集して我が国の知の発展を図ることも必要である」と指摘している。

 また、現在策定に向けて検討が行われている第4期科学技術基本計画では、分野を指定した研究開発の重点化(重点推進4分野及び推進4分野)から、重点課題の設定と達成に向けた施策の重点化への方針転換が図られようとしている。

 一方、本年3月11日に発生した東日本大震災は、我が国観測史上最大の地震とそれに伴う津波等による未曾有の災害や原子力発電所事故を引き起こし、我が国のみならず全世界に大きな波紋や影響を与え、第4期科学技術基本計画に関して東日本大震災を踏まえた再検討が行われるなど、科学技術や学術の役割が改めて問い直されている。科学技術・学術審議会においても、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点について」を決定し、必要な審議を進めていくこととしている。

 このような状況を踏まえ、学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会においては、第5期学術分科会の審議経過報告で示された課題のうち、「戦略的な視点」をもった研究推進の在り方に焦点をあて、学術研究全体を俯瞰した上での学術振興上の重要な取組について5回にわたる審議を行い、この度、これまでの審議における意見をとりまとめた。

 今回の意見のまとめは、学術振興上の重要な取組について検討の観点と当面の検討課題を整理したものであり、今後、具体的な取組等について更に審議を深めることとしている。関係部会等においても、この意見のまとめを参考として、必要な検討を行うことを求めたい。

2 検討の観点

(1)学術研究の社会的役割

 学術研究は、研究者の自発的な知的探究心を尊重しながら推進されているが、広く社会・経済・文化の基盤を形成し、その多くは公費により支えられていることから、学術研究の意義が社会に理解されるとともに、その成果が様々な形で社会に還元されることが求められている。

 特に、大学は、「学術の中心として、(中略)深く真理を探究して、新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」(教育基本法第7条第1項)とされており、大学共同利用機関を含め、広く社会の信頼を得ながら、社会の負託に応えていくことが求められている。

 このため、「社会のための、社会の中の学術」という観点から、東日本大震災からの復興への貢献を含め、学術研究とそれを担う研究者の役割を検討することが必要である。

(2)個々の学問分野の枠を超えた検討

 学術研究の多様化や深化の中で、学術研究の更なる発展に向けて、個々の研究者の知が集積しさらなる知の創出につなげることが必要となってきている。

 このため、個々の学問分野の枠を超えて主体的に取り組むべき課題や方向性の検討や、分野を超えた研究の体制づくりが必要である。

(3)諸外国の動向を踏まえた取組

 現在、世界的な潮流として、各国は社会・国家の発展の基盤である独創的・先端的な知の創出を進める取組を強化している。

 例えば、研究者の自由な発想に基づく研究の支援を行っている米国の国立科学財団(NSF)や英国の研究会議(RC)においては、研究者の自由な提案とピア・レビューによる助成を基本としつつ、研究者の意を汲みながら、特定課題や分野横断的な課題についてテーマを設定して募集する取組も行われている。

 諸外国におけるこのような状況も参考として、我が国においても、研究者の自主性を尊重しつつ、学術研究を推進するために、新たな知の結集のための独自の取組について検討することが必要である。

3 当面の検討課題

(1)社会貢献に向けた研究者の知の結集

 学術研究が社会の発展にさらに貢献していくためには、個々の専門分野ごとの取組に加え、新たな研究者ネットワークの形成など、分野間の連携を推進することが重要である。特に、社会の課題解決のためには、社会事象の分析に基づく仮説や制度設計等の提言といった人文学・社会科学の機能が重要であり、人文学・社会科学者と自然科学者との連携を促進するための具体的な方策を検討することが必要である。

 また、研究者は社会の負託を受けて学術研究を推進していることから、学術研究の課題や方向性(学術研究の置かれている状況がどのように変化し、どういう方向を目指しているか)を主体的に社会に発信することが必要である。後述する「3知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等の共有」においても、このような観点を踏まえた検討が求められる。

(2) 東日本大震災の記録保存や総合的な学術調査の実施

 東日本大震災を踏まえて科学技術や学術の役割が問い直される中、学術研究の社会的役割として、東日本大震災からの復興に向けた、研究者の知を結集した様々な取組が必要である。例えば、災害や人間活動に関する歴史的な記録の発掘も含めた震災の記録保存や、科学的分析に基づく社会提言等を行うための総合的な学術調査が考えられる。調査の実施に当たっては、取り組むべき方向性を学術関係者が共有した上で、分野を超えた様々な研究者の取組を集約するための手法や体制の整備が必要である。

(3) 知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等の共有

 学術研究の更なる発展を図るためには、知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等を研究者コミュニティが検討して共有化した上で、新たな研究分野の創成等に取り組むことが必要である。

 このため、学問分野全体を俯瞰した研究テーマ等の設定方法と推進方策を検討することが求められる。その際、我が国の国際的な状況を含めた国内外の学術研究動向の調査分析の推進や、分野や所属機関の異なる研究者のコンソーシアムの構築等による共同研究等の企画や準備調査の促進が必要である。

 さらに、分野を横断する研究体制の構築、新たな研究分野を担う若手研究者の育成、国際的な連携の強化に取り組むことも必要である。

(4) コアグループの形成による知の集積

 我が国の学術研究においては、大学共同利用機関、共同利用・共同研究拠点の整備等により、様々な研究者ネットワークが形成されてきた。

 一方、このような組織整備による取組以外にも、各分野において、個々の研究者による連携は行われているが、分散的な連携にとどまっている場合もある。

 このため、世界に発信できるような知を創出するコアとなる研究グループを研究者の自発性と高い志に基づき形成するなど、知の集積を図っていくための方策について、総合的に検討することが必要である。

 その際、大学共同利用機関、共同利用・共同研究拠点の整備等のこれまでの取組のほか、例えば、科学研究費補助金の「新学術領域研究」に研究者ネットワークのコアとなる研究グループの形成という観点を取り入れることなどについても検討することが求められる。

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