参考資料1 参考資料集 関連報告等

  • 「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」に係るこれまでの審議経緯
  • 東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点【平成23年5月31日科学技術・学術審議会】
  • 基本論点(会長の指示に基づき、各分科会等の審議状況や審議会委員の意見を整理)
  • 学術振興上の重要な取組について(これまでの意見のまとめ)【平成23年7月15日学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会】
  • 学術研究の推進について(審議経過報告)-抜粋-【平成23年1月17日学術分科会】
  • 人文学及び社会科学の振興について(報告)-概要-【平成21年1月20日学術分科会】

「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」に係るこれまでの審議経緯

○平成23年5月31日科学技術・学術審議会総会(第36回)
・「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」(以下「検討の視点」という。)を決定。→各分科会において、「検討の視点」に基づく審議。

○平成23年7月21日学術分科会(第44回)
・「検討の視点」を踏まえた各部会等での議論に基づき、東日本大震災を踏まえた学術政策の在り方について審議。

○平成23年10月5日学術分科会(第45回)
・「学術分科会における東日本大震災に係る主な意見の整理」に基づき審議。

○平成24年2月14日学術分科会(第46回)
・「学術分科会における東日本大震災に係る主な意見の整理」をとりまとめ。

○平成24年2月29日科学技術・学術審議会総会(第38回)
・「検討の視点」を踏まえた各分科会等における検討状況や、「検討の視点」に係る基本論点(野依会長の指示に基づき、各分科会等の審議状況や審議会委員の意見を整理したもの)に基づき審議。

東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点

平成23年5月31日
科学技術・学術審議会決定

 第5期に設置された基本計画特別委員会では、S(科学)とT(技術)に、I(イノベーション)を加えたSTIへの転換が提言された。しかしながら、我が国観測史上最大の地震やそれに伴う原子力発電所事故等による未曾有の災害を踏まえ、新たにR(リコンストラクション(再建)、リフォーム(改革))を加えたSTIRを政策の基調とすべきである。
 こうした考えのもと、今後、科学技術・学術審議会においては、東日本大震災の現状を踏まえ、科学技術・学術の観点から真摯に検証を行う。その上で、国家的危機の克服と復興、環境変化に強い社会基盤の構築への貢献を視野に入れ、我が国の存立基盤である科学技術・学術の総合的な振興を図るために必要な審議を進めていく。
 その際、総会及び各分科会、部会、委員会等においては、これまで以上に「社会のための、社会の中の科学技術」という観点を踏まえつつ、以下の視点に留意し、検討を行う。特に、科学技術・学術の国際連携と、自然科学者と人文・社会科学者との連携の促進には十分配慮することとする。

1.東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証

 震災下において、科学技術・学術の観点から、適確に機能した面、機能しなかった面、想定が十分でなかった面はどういうところか。
 これらの検証により判明した震災からの教訓や反省を踏まえ、今後の科学技術・学術政策を進めるにあたって、改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点は何か。また、研究開発を推進するための環境や体制を変化に強いものにする方策として何が必要か。

2.課題解決のための学際研究や分野間連携

 社会が抱える様々な課題の解決のために、個々の専門分野を越えて、様々な領域にまたがる学際研究や分野間の連携がなされているか。特に、自然科学者と人文・社会科学者との連携がなされているか。
 また、社会が抱える様々な課題を適確に把握するための方策は何か。課題解決のための学際研究や分野間連携を行うためにはどのような取組が必要か。
 さらに、これらを支える人材育成のための方策として何が必要か。

3.研究開発の成果の適切かつ効果的な活用

 様々な研究開発の成果が、適切かつ効果的に結集され、社会が抱える様々な課題の解決に結びついているか。
 また、研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるためには、どのような取組が必要か。

4.社会への発信と対話

 研究者、研究機関、国等が、科学技術・学術に関する知見や成果、リスク等について、情報を受け取る立場に立った適切な表現や方法で、海外を含めた社会へ発信し、対話できているか。
 また、社会への発信や対話を一層促進するとともに、国民の科学リテラシーを向上するためにどのような取組が必要か。

5.復興、再生及び安全性の向上への貢献

 被災した広範な地域・コミュニティの様々なニーズや、復興、再生にあたって直面する問題をきめ細かく捉えているか。また、それらを踏まえ、科学技術・学術の観点から、復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のためにどのような貢献ができるか。その際、国土のあらゆる地域で自然災害への備えが求められる我が国の地学的状況を踏まえることが必要である。

基本論点

(※会長の指示に基づき、各分科会等の審議状況や審議会委員の意見を整理)

○視点1 東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証

【1】社会の要請を十分に認識する必要性

  • 一般社会と専門科学者集団の対話が不足しているため、研究者等が社会からの要請を十分に認識していないのではないか。研究者等は学術の深化と科学技術の進展に努めるにとどまらず、多様な手段により自ら積極的に社会から学び、社会リテラシーを向上させることが必要ではないか。
  • また、国民の負託を受け公的資金を得て研究を行う者は、その意味を十分に認識するとともに、機会を捉えて社会に対し自らの研究の意義を説明する責任を負う。
  • 我が国の将来を支え、社会が要請する多様な人材の育成が必要。

【2】地震・防災に関する従来の取組方針の検証

  • 今般の大地震発生の可能性を追究できなかった理由について十分な検証を行うことが必要。常に研究体制の見直しが求められる中で、これまでの取組について不十分なところはどこか(焼け太りと言われないこと)。地震、防災にかかわる直接の専門家のみならず人文・社会科学分野も含め、総合的、学際的取組の強化が必要ではないか。
  • 国民の生命や財産を守るために真に何が必要かを追求。一般社会の声を十分に取り入れる。

【3】日本の科学技術のシステム化の必要性

  • 日本の科学技術は、要素技術の開発に偏りがちで、社会における実際の運用までを考慮したシステム化が行われない傾向があり、この結果、科学技術の成果が課題解決、社会実装に結びつかない場合があるのではないか。例)ロボットショック

○視点2 課題解決のための学際研究や分野間連携

【1】問題解決のための政策誘導

  • 課題解決のために、学術の世界においても、学際研究や分野間連携を進めるための政策誘導的なメカニズムの構築が必要ではないか。

【2】学際研究や分野間連携を支える人材育成

  • 学生や若手研究者が、社会の多様な視点や発想を有するようにするための取組が必要ではないか。

○視点3 研究開発の成果の適切かつ効果的な活用

【1】社会的ニーズの把握と研究課題への反映

  • 研究課題を設定する段階で、ユーザー、応用分野の研究者、人文・社会学者等との広範かつ積極的連携などにより、社会的ニーズを掘り起こし、それを適切に課題に反映する取組を強化することが必要ではないか。

○視点4 社会への発信と対話

【1】科学的助言の在り方

  • 科学技術に関する専門的助言と政府の意志決定の関係の明確化が必要ではないか。広く科学者の意見を求めることが重要である。科学者の見解が分かれる場合には、複数の政策オプションに集約、提示し、それらを踏まえ政策を決定するというプロセスを確立すべきではないか。

【2】リスクコミュニケーションの在り方

  • 科学技術の限界や不確実性に関する認識を踏まえ、政府は、科学技術のリスクに関して社会とどのように対話すべきか。すぐに「地震予知」ができるとか、「ゼロリスク」が可能と誤解させたりしないことが重要。
  • また、科学技術への信頼を得るため、どのように取り組むべきか。社会との双方向のコミュニケーションを強化し、科学技術の社会的得失(リスクとベネフィット)の均衡を適切に判断しなければならない。国民のリスクリテラシーと研究者等の社会リテラシーの双方を向上することが必要ではないか。

○視点5 復興、再生及び安全性への貢献

【1】安全社会の実現や防災力向上のための研究開発の在り方

  • 安全・安心を念頭に置いた研究開発や、災害に強い社会基盤を構築するための研究開発として、どのような取組を行うべきか。

【2】研究機関の復興支援

  • 研究機関の成果や人材を、更に被災地の復興に役立てるため、どのような取組が必要か。

学術振興上の重要な取組について(これまでの意見のまとめ)

 平成23年7月15日
学術分科会
学術の基本問題に関する特別委員会

1.検討の経緯

 第5期学術分科会が本年1月にとりまとめた審議経過報告(「学術研究の推進について」)では、今後の学術研究全般にわたる振興の方向性や具体的な振興方策を提言しているが、その中で、「戦略的な視点をもって学術研究の振興を図るためには、個々の研究者が行う研究や組織的に行われている研究を結集して我が国の知の発展を図ることも必要である」と指摘している。
 また、現在策定に向けて検討が行われている第4期科学技術基本計画では、分野を指定した研究開発の重点化(重点推進4分野及び推進4分野)から、重点課題の設定と達成に向けた施策の重点化への方針転換が図られようとしている。
 一方、本年3月11日に発生した東日本大震災は、我が国観測史上最大の地震とそれに伴う津波等による未曾有の災害や原子力発電所事故を引き起こし、我が国のみならず全世界に大きな波紋や影響を与え、第4期科学技術基本計画に関して東日本大震災を踏まえた再検討が行われるなど、科学技術や学術の役割が改めて問い直されている。科学技術・学術審議会においても、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点について」を決定し、必要な審議を進めていくこととしている。
 このような状況を踏まえ、学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会においては、第5期学術分科会の審議経過報告で示された課題のうち、「戦略的な視点」をもった研究推進の在り方に焦点をあて、学術研究全体を俯瞰した上での学術振興上の重要な取組について5回にわたる審議を行い、この度、これまでの審議における意見をとりまとめた。
 その際、学術研究の更なる発展のためには、研究者が高い志をもって結集しながら、新しい知の開拓と集積をもたらすことが重要であり、そのような挑戦が社会の理解と支援を得られることが必要であるとの認識の下、検討を行ったところである。
 今回の意見のまとめは、学術振興上の重要な取組について検討の観点と当面の検討課題を整理したものであり、今後、具体的な取組等について更に審議を深めることとしている。関係部会等においても、この意見のまとめを参考として、必要な検討を行うことを求めたい。

2.検討の観点

(1)学術研究の意義と社会的役割

 学術研究は、研究者の自発的な知的探究心を尊重しながら推進されているが、社会・経済・文化の基盤形成と発展の根幹を担い、社会により支えられていることから、学術研究の意義が広く社会に理解されるとともに、その成果が様々な形で還元されることが求められている。
 特に、大学は、「学術の中心として、(中略)深く真理を探究して、新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」(教育基本法第7条第1項)とされており、大学共同利用機関を含め、広く社会の信頼を得ながら、社会の負託に応えていくことが求められている。
 このため、「社会のための、社会の中の学術」という観点から、東日本大震災からの復興への貢献を含め、学術研究とそれを担う研究者の役割を検討することが必要である。

(2)個々の学問分野の枠を超えた検討

 学術研究の多様化や深化の中で、学術研究の更なる発展に向けて、個々の研究者の知を集積し新たな知の創出につなげることが必要となってきている。
 このため、個々の学問分野の枠を超えて主体的に取り組むべき課題や方向性の検討や、分野を超えた研究の体制づくりが必要である。

(3)諸外国の動向を踏まえた取組

 現在、世界的な潮流として、各国は社会・国家の発展の基盤である独創的・先端的な知の創出を進める取組を強化している。
 例えば、研究者の自由な発想に基づく研究の支援を行っている米国の国立科学財団(NSF)や英国の研究会議(RC)においては、研究者の自由な提案とピア・レビューによる研究助成を基本としつつ、研究者の意を汲みながら、特定課題や分野横断的な課題についてテーマを設定して募集する取組も行われている。
 諸外国におけるこのような状況も参考として、我が国においても、研究者の自主性を尊重しつつ、学術研究を推進するために、新たな知の結集のための独自の取組について検討することが必要である。

3.当面の検討課題

【1】社会貢献に向けた研究者の知の結集

 学術研究が社会の発展にさらに貢献していくためには、個々の専門分野ごとの取組に加え、新たな研究者ネットワークの形成など、分野間の連携を推進することが重要である。特に、社会の課題解決のためには、社会事象の分析に基づく仮説や制度設計等の提言といった人文学・社会科学の機能が重要であり、人文学・社会科学者と自然科学者との連携を促進するための具体的な方策を検討することが必要である。
 また、研究者は社会の負託を受けて学術研究を推進していることから、学術研究の課題や方向性(学術研究の置かれている状況がどのように変化し、どういう方向を目指しているか)をより積極的かつ主体的に社会に発信することが必要である。後述する「【3】知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等の共有」においても、このような観点を踏まえた検討が求められる。

【2】東日本大震災の記録保存や総合的な学術調査の実施

 東日本大震災を踏まえて科学技術や学術の役割が問い直される中、学術研究の社会的役割として、東日本大震災からの復興に向けた、研究者の知を結集した様々な取組が必要である。例えば、災害や人間活動に関する歴史的な記録の発掘も含めた震災の記録保存や、科学的分析に基づく社会提言等を行うための総合的な学術調査が考えられる。調査の実施に当たっては、取り組むべき方向性を学術関係者が共有した上で、分野を超えた様々な研究者の取組を集約・統合するための手法や体制の整備が必要である。

【3】知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等の共有

 学術研究の更なる発展を図るためには、知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等を研究者コミュニティが検討して共有化した上で、新たな研究分野の創成等に取り組むことが必要である。
 このため、学問分野全体を俯瞰した研究テーマ等の設定方法と推進方策を検討することが求められる。その際、我が国の国際的な状況を含めた国内外の学術研究動向の調査分析の推進や、分野や所属機関の異なる研究者のコンソーシアムの構築等による共同研究等の企画や準備調査の促進が必要である。
 さらに、分野を横断する新たな研究分野を創成するための研究体制の構築やそれを通じた若手研究者の育成、国際的な連携の強化、中長期的観点からの評価や支援に取り組むことも必要である。

【4】コアグループの形成による知の集積

 我が国の学術研究においては、大学共同利用機関、共同利用・共同研究拠点の整備等により、様々な研究者ネットワークが形成されてきた。
 一方、このような組織整備による取組以外にも、各分野において、個々の研究者による連携は行われているが、分散的な連携にとどまっている場合もある。
 このため、世界に発信できるような知を創出するコアとなる研究グループを研究者の自発性に基づき形成するなど、知の集積を図っていくための方策について、中長期的観点から総合的に検討することが必要である。
 その際、大学共同利用機関、共同利用・共同研究拠点の整備等のこれまでの取組のほか、例えば、科学研究費補助金の「新学術領域研究」等について、更なる発展に向けた検討が求められる。

「学術研究の推進について(審議経過報告)」(平成23年1月17日学術分科会)-抜粋-

第2章 学術研究の振興方策 5.学術研究の飛躍・発展 (4)人文学・社会科学の振興

(人文学・社会科学の意義・役割)

○人文学・社会科学は、人間の営みや様々な社会事象を省察し、あるいは既存の社会システムへの批判や新たな制度設計の提示を行う学問としての基本的な固有の役割があり、また、人間の精神生活の基盤を築くとともに人間生活の質を向上させるものとして文化の継承と発展において重要な役割を担っている。

○このような人文学・社会科学は、その多くが個人研究中心の学問であるため、その進展は研究者個人の意識に負うところが大きく、また、着想を温め成熟させる過程や長年の学問的蓄積が重要な意味をもつ場合も多いなどの学問的な特性を有する。また、研究成果の発信についても、自然科学のような論文や学術誌の査読という形態だけではなく、単行本等の書籍が用いられることも多い。

○人文学・社会科学はこのような学問的特性を有するものであるが、社会貢献をはじめとして学術研究と社会との関わりが求められる中で、社会の価値観に対する省察・批判や社会事象の正確な分析、それらに基づく仮説や制度設計等の社会への提言といった人文学・社会科学の機能の重要性が増している。
 また、グローバル化が進む中で研究協力を推進するにあたっては、どの研究分野においても、自国や他国・他地域の文化的・社会的基盤の理解が必要である。このため、人間社会を探究してきた人文学・社会科学の機能の発揮が必要であり、さらに人文学・社会科学分野における国際交流・発信の推進も重要になっている。
このような人文学・社会科学の機能の重要性を踏まえ、その意義・役割を踏まえた振興の在り方について検討することが求められる。

(政策や社会の要請に応える研究の推進)

○現在、地球環境問題や生命・倫理問題、科学技術の負の側面などの現代的課題への対応が求められる中で、人類の根源的な課題について批判的に問い続けてきた人文学・社会科学が、その強みである分析力を活かして解決への示唆を示すなど積極的に取り組むことが必要である。
 その際、近年、人文学・社会科学の分野においても、共同研究の推進や新しい研究手法の導入により一定規模の施設・設備を必要とする大型の研究が展開されているが、これらをさらに発展させるとともに社会の実際の取組や政策への反映に活かすためには、シミュレーションの手法を用いた研究や実験的な手法を導入した研究等の実証的な研究を、研究基盤や組織体制を整備しつつ推進していくことも望まれる。
 さらに、人文学・社会科学と自然科学との学融合的協働も重要であり、社会のニーズや自然科学をはじめとする他の学問分野からの要請を把握した上で人文学・社会科学の貢献の在り方を検討することが重要である。

○人文学・社会科学の研究全般については、学問の進展に伴い、各分野・領域の専門化・細分化が進み、教育・研究活動がそれぞれの体系の中で行われているのが現状である。人文学・社会科学の学問的発展のみならず広い視野と識見を有する若手研究者の育成のためにも、自然科学をはじめとした他分野との協働による異分野融合型研究、政策や社会の要請に応える研究等を推進することが必要である。

○文部科学省では、平成18年度より「政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業」として地域研究や実証的研究を大学等に対する公募により実施しているが、今後は、少子高齢化問題や地球環境問題等の全地球的な課題をはじめとした学融合的協働が必要な政策的・社会的課題への対応など、目的の明確化や実施手法の工夫も含めた改善・充実が必要である。

「人文学及び社会科学の振興について(報告)」概要(平成21年1月20日学術分科会)

第一章 日本の人文学及び社会科学の課題

第一節 「研究水準」に関する課題

 欧米の学者の研究成果を学習したり紹介したりするタイプの研究が有力な研究スタイルとなってしまっている。日本の歴史や社会に根ざした研究活動が必ずしも十分でない。

第二節 「研究の細分化」に関する課題

 「認識枠組み」の創造という人文学及び社会科学の役割・機能を果たしていくためには、研究分野や研究課題の細分化と固定化が進みすぎている。「歴史」や「文明」を俯瞰することのできる研究への取組が期待されている。

第三節 学問と社会との関係に関する課題

 日本の社会的な現実を欧米の学説の適用によって説明するにとどまらず、独自の学説により理解していくことへの期待が大きい。また、最先端の課題は、社会の側にあることからも、学問と社会との対話が必要。また、学問が社会的存在として認知され支持されるためには、社会全体に対して文化を醸成していく様々な活動についても積極的に考慮すべき。

第二章 人文学及び社会科学の学問的特性

第一節 対象

 基本的に人間によって作られたものや「価値」それ自体が研究対象。社会科学では、構成主体の行動の相互作用に関する因果関係のみならず、行動の背後にある「意図」の形成に関する因果関係の解明が必要。

第二節 方法

 人文学及び社会科学は、証拠に基づき事実を明らかにするとともに、論拠を示すことにより意味付けを行う。このため、対話的な方法(相対化の視点を前提とした「総合」のプロセス)による「普遍性」を獲得するとともに実証的な方法(意味解釈法、数理演繹法、統計帰納法)により「現実」を明らかにすることができる。

第三節 成果

 人文学及び社会科学が「分析」の学問であると同時に「総合」の学問であることから、「総合」による「理解」が、社会の側から成果をとらえた場合に意味を持つことを指摘。また、成果には「実践的な契機」が内包されていることに留意が必要。

第四節 評価

 人文学及び社会科学の評価に当たっては、学問の特性に起因する多元的な評価軸の確保の必要性、学術誌の査読の限界の認識の必要性、及び定性的な評価の重要性について留意が必要。

第三章 人文学及び社会科学の役割・機能

第一節 学術的な役割・機能

 人文学及び社会科学の役割・機能として、個別諸学の基礎付け(理論的合)、実践や社会の中で生起する最先端の課題への対応がある。

第二節 社会的な役割・機能

 異文化コミュニケーションの可能性の探索や多文化が共存可能な社会システムの構築に向けた考究、個別諸学の専門性と市民的教養との架橋、政策や社会における課題の解決という役割を担っている。
 また、人文学の役割・機能として「教養」の形成がある。さらに、社会科学の役割として、「市民」における政策に関する基礎的な判断能力の涵養に向けての取組、人文学及び社会科学における、高度な「専門人」の育成という役割・機能がある。

第四章 人文学及び社会科学の振興の方向性

第一節 「対話型」共同研究の推進

 国際共同研究の推進、異質な分野との「対話」としての共同研究の推進。

第二節 「政策や社会の要請に応える研究」の推進

 政策や社会の要請に応える研究を積極的に推進する必要がある。その際、研究プロセスの中で経験的な妥当性を一定の証拠に基づき立証していくことが要請されるため、実証的な研究方法が不可欠。

第三節 卓越した「学者」の養成

 独創的な研究成果を創出できる人文学者及び社会科学者の養成が必要。そのために、幅広い視野を醸成するための基礎訓練期間の定着や独創的な研究成果を創出した学者の評価が必要。

第四節 研究体制、研究基盤の整備・充実

 国公私立大学を通じた共同研究の促進や研究者ネットワークの構築、並びに学術資料等の共同利用促進など、研究体制、研究基盤整備を抜本的強化が必要。また、現地調査を中心とした研究、シミュレーションの手法を用いた研究、実験的な手法を導入した研究の支援が必要。

第五節 成果の発信

 読者を社会において獲得する視点とその延長として、大学等における教養教育の充実が必要。また、海外の理解と関心の獲得が必要。

第六節 研究評価の確立

 人文学及び社会科学の評価に当たっては、多元的な評価軸に基づいた評価が必要であり、特定の専門分野内部のみの評価にとどまらず、外部の視点も踏まえた評価が必要。また、定量的な評価指標を可能な限り設定しつつも、定性的な評価指標が評価の実質を担うべきであることを確認。

 【学問的な特性を踏まえた上で、定性的な評価を中心に、評価の仕組みや指標を整えていくことが、人文学および社会科学の将来の発展にとって重要であるが、詳細な審議は将来の課題。(十分に議論を尽くせなかった事項として記述)】

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)