資料1-2 人文学及び社会科学の振興に関する委員会報告案(反映版)

(案)

 リスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について(報告)

平成24年○月○日 

 科学技術・学術審議会学術分科会
人文学及び社会科学の振興に関する委員会

目次

はじめに
1.人文学・社会科学の振興を図る上での視点
(1)諸学の密接な連携と総合性
(2)学術への要請と社会的貢献
(3)グローバル化と国際学術空間
2.制度・組織上の課題
(1)共同研究のシステム化
(2)研究拠点の形成・機能強化と大学等の役割
(3)次世代育成と新しい知性への展望
(4)成果発信の拡大と研究評価の成熟
3.当面講ずべき推進方策
(1)先導的な共同研究の推進
(2)大規模な研究基盤の構築
(3)グローバルに活躍する若手人材の育成
(4)デジタル手法等を活用した成果発信の強化
(5)研究評価の充実

はじめに

 平成23年3月11日に起きた東日本大震災は、わが国の社会に激甚な被害をもたらしたばかりではなく、これとともにあった科学技術や学術に対しても、未曾有の衝撃と反省をもたらすものであった。地震とそれに起因する巨大な災禍の下にある人類社会に対して、どのような対応の方途がありうるのであろうか。
人文学・社会科学は本来において人間・文化・社会を研究対象とし、知的社会の推進に向けて注力すべきものであり、そこに重大な責任を負っている。はたして、人類と国民の安寧と幸福に貢献すべき学術として、起こってしまった災害や今後にあって憂慮される災害がある中で、どのように人間・社会等に向き合い研究活動を構想することが可能であろうか。この設問は、人文学・社会科学に従事・関与するすべての研究者等にあっても、回答への努力を強いるものである。
私たちはこの責務に応えるべく、従来の活動への反省と、今後のあり方についての真摯な検討を要請されている。人類と国民から寄せられた負託に正面から応えることで、その責任を遂行したい。

 既往の諸研究はもとより、新たに提起される研究はどのような性格を持つであろうか。リスクの増大に直面する現代にあって社会のシステムにどのような問題が内包されているのか。それは根本的な解明を求められるであろう。また、リスクへの対処のためには、どのような対応がありうるのか。それは、多様な研究の蓄積によって推知、解明することができるであろう。あるいは、災害などの歴史的資料の収集や精査、それに直面した過去の人間活動や、そこに込められた経験知や英知の事例調査などは、重要なヒントとなるであろう。 

 私たちは、社会に内包される問題に向き合うことを特に当面する緊急な課題と考え、3つの視点から課題を抽出・整理して検討を進めてきたところであり、本報告で提起する5つの推進方策について、今後真摯に取り組む覚悟である。そうして知的社会の成熟を目指し、リスク社会への対処を図ることに全力を尽くしたい。このことを平成24年の現在にあって、明言し、人文学・社会科学研究に従事・関与する研究者等からの、国民に対するメッセージとさせていただく。

平成24年○月
人文学及び社会科学の振興に関する委員会
主査
樺山紘一

本報告の構成

 人文学・社会科学(※1)の研究には、広大な分野と領域が包摂されている。こればかりではなく、日本における研究の営みは、日常的な活動においても分厚い成果をもたらしてきたが、本報告においては、現時点にあって新たに、もしくは強調して要請される方向性について、考察したい。
まず、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」(※2)を踏まえつつ、現在の我が国における人文学・社会科学の振興を考える上で最も重要と思われる3つの視点
(1)諸学の密接な連携と総合性
(2)学術への要請と社会的貢献
(3)グローバル化と国際学術空間
を『1.人文学・社会科学の振興を図る上での視点』の中で提起する。
次に、これまでの学術分科会における議論(※3)を参考としつつ、戦略的に人文学・社会科学研究を推進する上での4つの課題
(1)共同研究のシステム化
(2)研究拠点の形成・機能強化と大学等の役割
(3)次世代育成と新しい知性への展望
(4)成果発信の拡大と研究評価の成熟
について、『2.制度・組織上の課題』の中で論じたい。
最後に、上記の「視点」を踏まえながら「課題」に対する5つの方策
(1)先導的な共同研究の推進
(2)大規模な研究基盤の構築
(3)グローバルに活躍する若手人材の育成
(4)デジタル手法等を活用した成果発信の強化
(5)研究評価の充実について、
『3.当面講ずべき推進方策』の中で提起する。
これらをとおして意図するのは、人文学・社会科学を、本来あるべき文化の創造と継承の重要な一環と捉え、人びとが共同で追求すべき人文的、社会的理想を検討し提唱して、人間・社会・自然の全体像のなかで未来を展望することである。この営みをとおして、私たちは国民と歴史の負託に応えたいと念願する。

1.人文学・社会科学の振興を図る上での視点

(1)諸学の密接な連携と総合性

 人文学・社会科学にあっては、従来ややもすれば、個別の分野の精緻化に固執するあまり、急速に進む専門化を優先させて細分化に陥り、知の統合や分野をこえた総合性への視点を欠落させることにより、結果として自然・人間・社会の全体的理解を等閑に附しがちであった。
 それの路線転換は容易ではないが、すでに試みとして進行しつつある密接な連携の方法を精査して、より可能性の高い方向性を模索することにしたい。人文学・社会科学にあっては、それ自体が開発してきた独自の視点を展開するのみならず、後に見るように、生命科学やさまざまな分野での新しい工学技術など、関連する理工学の進展によって新たに直面する学術への広汎な要請に対応すべく、諸学との適切な連携をも視野に入れて戦略的に挑戦することを目指したい。極度の細分化の克服は、その結果として視野に入ってくるはずである。こうした試みの結果として、知的社会の成熟化が実現できるものと考える。

分野間の相互理解と研究継続の重要性

 人間・社会・自然の全体的理解を目指して研究を進めていくには、我が国においては、研究分野のたこつぼ化により、専門の外に出て交流することが非常に難しい状況にある一方で、地道な研究を行うことに対する寛容性があることを踏まえ、分野間の相互理解を促すことが大切である。
 分野が違うと、同じ概念、言葉でも、全く違う意味で使われることがしばしばあるため、分野間で「認識枠組み」や「用語法の認識」を相互に理解しようとする姿勢が極めて大切であり、分野による方法論や価値観の違いが存在することを相互に理解し、お互いに補完し合うよう、十分に議論を行いながら研究を進めることが肝要である。そして、自らの分野のアイデンティティと方法論を最大限に提供するなど、分野間の連携をしながら研究をすすめ、別の認識枠組みを作っていくことが重要である。
 研究者同士が同じ目的・関心を共有していれば、全体のストーリーの中での研究の位置づけ等についてコミュニケーションを図ることによって、自律的な活動が活性化するとともに、共同研究で得た成果を自身の専門分野に還元することも期待できる。

 なお、分野間連携の研究は、研究者間の刺激をきっかけにして自律的に研究が成長するため、ある一定の研究分野・領域として確立するまでは、既存の専門分野の中での位置付けが不明確になりやすく、研究継続が困難になりやすい。研究者間の接触と追求によって自律的に成長しているものを評価して、安定的・継続的に支援するという観点が重要である。また、研究を継続していくには、他分野の研究者との共同プロジェクト等の機会を創出していく努力も求められる。

(2)学術への要請と社会的貢献

 人文学・社会科学にあっては従来では、研究者の側の契機・モチベーションが極めて重要視されてきた。このことは、依然として否定しうべくもない。しかしながら、今般の災害や社会の高度化・複雑化を背景に、研究の社会的機能の発揮が期待されるようになり、研究者への要求も水準を高めている。
 こうした状況のもとで、私たちはどのように思考を進めたらよいのであろうか。少なくとも、研究者にあって自己満足とも受け取られかねない孤立化は、避けなければならない。
 必要なことはといえば、社会からの強い要請を正面から受け止めつつ、その理由と根拠を的確に見極め、主体性をもって判断する論拠と機能を整備することである。そのためには、政策立案からそれの批判的検討に至るまで、研究者が多様な社会的活動に参画するとともに、社会の側に研究への参加を求めることで、社会的要請への積極的な応答を試みる必要がある。なかでも、深刻な事態を迎える社会的リスクへの対処のために、みずから研究課題を探索し発見する行動を促したい。
 いわゆる課題設定型の研究推進は、有意義な結果につながってきており、今後の方向のひとつを指し示している。しかもそれらの研究成果は常に、要請の母胎としての社会に対して、明瞭かつ迅速にアウトリーチ(※4)していかなければばらない。デジタル手法の開発を含めて、成果発信のための技術や方式は無限に開かれている。

目標設定と共同研究の重要性

 研究の社会的機能への役割が期待される中で、社会的貢献を目指す研究を行うにあたっては、目標・ターゲットの設定が重要である。
 個々の実証研究の積み重ねにより、政府や自治体等の政策形成や実施のために選択肢を提供することを研究の本務ととらえ、価値選択は政治の役割とする考え方や、政策形成・実施に係る価値判断にまで踏み込むという考え方など、多様な考え方があることに留意しつつ、様々な観点から実社会のあり様を捉えていく目標・ターゲットの設定が関係者に対し強く求められる。(※5)

 課題解決を目指す上では、エビデンス(※6)に基づく研究をさらに推進していく必要がある。その際、エビデンスや研究成果を一面的にとらえすぎると本来の社会貢献の目的や内容を狭めてしまう危険性もあることに留意が必要である。

 また、研究者が社会的貢献を目指していくには、NPO、NGO、行政、司法、シンクタンク、企業等における実務の専門家やジャーナリストなど研究と実務の間を橋渡しできる研究者以外の者(以下「実務者」)も含めた共同研究も有効である。

(3)グローバル化と国際学術空間

 20世紀末からの急速なグローバル化が、研究に大きな変革を強いたことは、いまや周知の事実である。この事態のもとで、我が国の人文学・社会科学が十分に周到な対応と発信を達成してきたかどうかは、疑問の余地がなくはない。しかし、21世紀の現在にあっては、社会の高度化・複雑化などさらに広範な問題が提起されるにいたっており、迅速な意思形成が必須となっている。ことに、自然科学一般と異なり、人文学・社会科学にあっては、えてしてその研究上の特性から母国(語)特性に固執するあまり、外国籍や外国由来の活動に対して、冷淡な対応を行うことも稀ではなかった。
 しかしながら、事態の進行とともに、吟味と参照に値する成果が蓄積され、国際学界をはじめとする学術空間にあっては、いわば世界標準のもとでの競争や協同が一般化しつつある。いまや、ごく少数の例外を別にすれば、人文学・社会科学の領域にあっても、内外の水準差や機構的な孤立化はありえないようになった。
 こうした状況のもとで、諸外国との競争や協同はいかに推進されるか、またその成果をいかにして我が国の研究状況に導入することが可能であるかが、問われなければならない。しかも、日本には、今般の災害や少子・高齢化など世界に先んじて直面する多くの課題があり、たんに受身の形でグローバル化に対応するだけではなく、日本由来の学問領域を国際的な交流の場に引き出すことを責務の一つと考え、リーダーシップを取ることで貢献・寄与することが要請される。

国際交流と成果発信の重要性

 世界標準のもとでの競争や協働が進む変革の中にあっては、日本の研究に関心を持つ優れた外国人研究者が日本に来て研さんを積んでいるように、海外の事象に関心をもつ日本人研究者が、海外の研究環境の中で、研究者と切磋琢磨し、国際的に成果を発信することが求められている。また、国内に世界の優秀な研究者が集まる環境を整備することで、我が国の人文学・社会科学のさらなる発展が期待できる。その際、大学等においては、研究の国際化を支援する体制の充実も求められる。

 人文学・社会科学の研究対象は国内外に共通する事象である場合も多く、本来的に国際的な研究活動を進める素地がある。例えば、少子高齢化に対応した社会システムに関する研究など我が国において行われている様々な研究は、他国にとっても貴重なものであり、国際的な発信と国際交流が活発になれば、日本固有の研究とは異なる知見を有する海外の研究者との対話が生まれ、比較により顕在化する価値の発見をもたらすだけでなく、予期しない分野間連携、国際的なリーダーシップの発揮も期待できる。

2.制度・組織上の課題

(1)共同研究のシステム化

 人文学・社会科学が長らく、個人的モチーフに即して展開されてきたことは事実としても、近年にあっては研究水準の向上に伴って、多数の研究者や機関の参画による大規模な共同研究の必要性も、認識されるようになって久しい。また、その間にあって、引証される価値のある共同研究の実例が存在したことも事実である。しかしながら、この方法は必ずしも広く共有されず、個性的な実例として称揚されるにすぎないことが多かった。近年にあっては特に効果的・効率的な研究が訴求されるという側面もあって、共同研究の質的・量的な向上が強く要請されている。異なった分野間の交流は、偶然的なあるいは属人的な触れ合いから生起することがしばしばであるが、加えて、経験に基づくシステム化の追求も不可欠である。人文学・社会科学の共同研究の新たなシステムに関する検討が、専門的な方法と機関において実施されることが望ましい。そのための人的支援を行う必要もある。

研究推進制度構築の方向性

 これまで、我が国においては、人文学・社会科学の「他者との対話」という研究方法上の特性を踏まえた共同研究事業(※7)が展開されてきた。
 今後は、人文学・社会科学をさらに発展させるために、これまで個別に実施されてきた事業の特色を活かしつつ、総合性、実社会対応、グローバル化への視点を踏まえた共同研究推進の枠組みを構築して、事業・制度を安定的・継続的に運営していく必要がある。
 特に、研究成果を着実に社会実装までつなげていくためには、研究の将来の発展可能性等に応じて、個々の支援事業の枠組みをこえたプロジェクトを展開していける仕組みの構築が期待される。

 分野間連携による共同研究には手間と時間がかかることが多いので、継続的に意思疎通を図る場を積極的に設けることが重要である。その際、分野間の接点となる事例を見出すことができる実働的な研究者等の確保や、学問分野と社会との間で相互交流できるような研究コミュニティを作ることが必要である。また、研究と政策をつなげる役割を担っているシンクタンク等と連携を深めていくことも重要である。大学等においては、共同研究に意欲的な研究者が、学内外の様々な分野の研究者・実務者に直接会えるような環境を作っていくことが重要である。これらの取組により、共同研究を志向する研究者が増加すれば、人文学・社会科学全体に変化をもたらすことも期待できる。
 なお、実質を伴った分野間の共同作業や大規模な研究計画は、個別の研究分野における課題が深まっていくことにより効果的に成り立つと考えられるので、共同研究の奨励の大前提として、ボトムアップ型の基礎研究のさらなる充実も必要である。人文学・社会科学分野における科研費への新規応募は比較的少ない状況にあるので、独創的な研究に一層意欲的に取り組むことも併せて求められる。

(2)研究拠点の形成・機能強化と大学等の役割

 すでに見たとおり、従来、人文学・社会科学においては、その研究営為が個人的なモチベーションに依存する度合いが強く、また成果の評価も個人の責任を問うものであったため、研究資源への重点投資を控えがちであった。むろん、個人の小規模だが、特徴的な学問成果には尊重すべきものが多い。しかしながら、問題の巨大さや広範さのゆえに、多数の研究者の組織的な参画を求めるべきテーマが存在することも軽視できない。自然科学における場合と同等とはいえないまでも、拠点を設置することによる集中的な研究システムの構想は、これまでも試行されてきたし、かなりの成果も収められている。これらに参照を求めたうえで、連携と集中の研究体制の新たな方向性を探査することが重要であろう。その際、人的ネットワークや地理的条件を吟味して、効率的に機能しうる拠点を設定することが現実的でもある。とくにその試行にあっては、従来にあっても拠点として機能することの多かった大学等を想定しつつ、従来の経験にも学びながら、優れた研究がより活性化するよう新たな可能性を探索することが必要である。

研究体制整備の方向性

 我が国の人文学・社会科学の魅力や国際的存在感を高めるためには、従来の枠をこえた新たな学問領域の創成を促す機能を強化するとともに、潜在的な研究ポテンシャルを備えている学問分野なども加味した拠点の形成が必要である。
 平成20年度の共同利用・共同研究拠点制度の創設以来、人文学・社会科学系の拠点としては国立・私立大学合わせて18機関が認定されている。研究の活性化と発展のためには、さらなる拠点の形成を図るとともに、拠点をもつ国公私立大学や大学共同利用機関が、それぞれの有するあらゆる資源を活用して相互補完を図ることが有効であり、多様な研究者がチームを組んで共同研究を推進し、評価する機能を発揮することが期待されている。

 連携と集中の研究体制により国際的な学術空間における成果発信機能を強化するためには、窓口となる拠点の機能(※8)を活性化するとともに、データベース等の共通基盤整備に向けた拠点間の相互連携が不可欠である。各大学においては、人間文化研究機構や関連の深い共同利用・共同研究拠点との連携を強化しながら、大学院における教育研究を活性化させつつ、国内外の研究者や実務者に対する成果発信機能を高めていくことが求められる。

(3)次世代育成と新しい知性への展望

 人文学・社会科学にあっては、従来でも適正な次世代育成のシステムが存在してはいた。しかしながら、それらは現場の知恵によって運営されるという側面が大きく、結果として環境条件が変化するなか、従来のシステムが円滑に機能しがたくなるという現状が、指摘されるに至った。人事構成のゆがみ、「内向き」志向や現状肯定に向かう精神的保守化などの課題が指摘されるなかで、客観情勢は困難に溢れているが、このなかで次世代育成に向けて、どのような改善策が取られうるであろうか。従来の慣例によって生じた障害を排し新たな知性の芽を伸ばすためには、これまで、ややもすれば、個別ケースに託されてきた次世代育成を、人文学・社会科学に通有の場に引き出し、可能性を探ることが必須であろう。その際には、制度上の改編や強化はもとより、関係者の意識転換をも大胆に要請せざるを得ないであろう。さらには、近年のいわゆる「内向き」志向を克服すべく、次世代研究者への支援・育成の方向性を模索することも、視野に収めたい。

人材育成の方向性

 分野間連携の意義について理解し、行動できる人材を育成するためには、大学等において学部、研究科横断的な履修や実社会と学術の関連性を追求する教育プログラムを実施することが求められる。また、分野間連携による研究の学問的・社会的価値を適切に検証する方法や評価に基づく研究の継承方法等を確立するとともに、広く社会の人々と対話し、分野間連携の実践を重ねる意欲ある者を評価することが求められる。また、留学や社会経験によって自分と異なる視点や価値基準を理解し、新たな挑戦を志す人材を育成するため、大学等における専門的な教育研究を通じて、留学等の目的意識を高めていくことが重要である。
 また、学問分野において、人材育成上優先して評価すべき項目を検討するとともに、その違いについて分野間で共有する必要もある。例えば、理論経済学や計量経済学など一部の分野では、博士論文を書く前に、査読付き論文雑誌への掲載を義務づけている大学もある。しかしながら、論文より研究書の執筆を重視し、業績として高く評価されてきた分野も多い。このような分野の学問的特性を踏まえれば、分野によっては、査読付き論文雑誌への掲載を奨励するだけではなく、大きな主題の博士論文に挑戦・専念させ、学術書の出版の際に外部のレビューを行うことが、若い世代への学問的な性質に合致した動機付けとなることも考えられる。
 なお、いずれの分野においても、研究が外部のピアレビューによって評価されなければならず、そうした適正な評価制度に基づいて人材育成を行うことが重要である。

(4)成果発信の拡大と研究評価の成熟

 国立大学の法人化や社会一般の関心の増大もあって、研究の成果拡大への要請はいやがうえにも、高まっている。そのなかで、国や社会からの支援に対して、研究者からの責任ある応答の必要性もますます強調されるようになった。そこでは、研究活動への財政上・人事上の助成に対しては、これに対応する成果発信が必須になっている。
 従来、理工学・生命科学等にあって成熟した評価の方式が存在する一方で、人文学・社会科学にあっては、評価は内在的なものであり、また定量的ではない定性的なものでもあるとして、大規模で客観的な評価制度に消極的であった。しかし一般的にいって、助成や支援については事前・事後の評価は不可避のものであり、人文学・社会科学の当事者にあっては、その独特の方式をみずから積極的に提起すべきところであろう。
 むろん、他の分野と比べて技術的な困難の度合いが大きいことは当然のこととして、社会的に説得力のある評価法を提唱することは、当事者にとっては義務というべきであろう。

成果発信と研究評価の充実の方向性

 研究を通じた社会的貢献のインセンティブを高めるためには、研究成果としての社会提言が具現化され、その評価がプロジェクトに関わった研究者への影響として結びついていくことが求められる。研究が社会とどのような結節点を持つのかという観点を踏まえて、評価を行う必要がある。

 分野間連携により課題解決を目指す研究においては、技術開発や課題解決の水準で評価が求められるが、人文学などの研究においては、認識枠組みの提示が評価されることが多く、具体的な技術水準の達成等による評価は難しいことが多い。理工系のプロジェクトの中に人文学・社会科学が積極的に参画することとあわせて、分野間で成果の求め方や評価の視点が異なることに留意しつつ、実社会からの視点を意識することが必要である。

 さらに、海外に向けて、我が国の文学や歴史・芸能などの研究や日本特有の経済・社会論に関するデータ等を提供することや、論文等の研究成果を英語等に翻訳するなど、国際的な発信力のさらなる強化を図るとともに、海外の研究者との公開ゼミナールの開催や、英語論文の執筆などが必ずしも十分評価されているとはいえない状況を改善していく必要がある。

 なお、人文学などの研究においては、対話的な方法や科学的・実証的な方法を通じて、様々な視点から分析を加えつつ、自らの言葉で認識枠組みを提示し、大成するという面がある。短期的に評価される研究とともに、成果が出るまでに長い時間を要する研究への挑戦も一定の評価をすべきである。

3.当面講ずべき推進方策

 これまで見てきたのは、人文学・社会科学の振興を図る上で現時点において特に重要な視点と、戦略的に研究推進を図る上での課題である。
 これらは、スピード感をもって検討されることが望ましく、できるだけ早期に改革の提唱と実行が要請される。それらのうち、現在にあって考え得る具体的な推進方策を、ここでさらに強調して掲げておくことにしたい。

(1)先導的な共同研究の推進

課題設定による先導的人文・社会科学研究の推進

 人文学・社会科学が参画する共同研究には、大別して、【1】諸学の密接な連携によってブレイクスルーを目指して研究方法の革新を目指す「領域開拓」、【2】現実の人間社会における様々な問題に係る解決案の創出を目指す「実社会対応」、及び【3】国際的な研究の場に参画し、リードしていく「グローバル展開」の3つの目的がある。今後これらの目的に沿って研究を支援する仕組みを構築する際には、次の諸要件を踏まえる必要がある。

【1】「領域開拓」を目的として諸学の密接な連携を目指す研究

 異なる学問分野の研究者の参画を得て、新たな研究領域への予想外の飛躍をもたらすような課題の追求や方法論の継続的な改良が求められる。

【2】「実社会対応」により社会的貢献を目指す研究

 研究成果と実務を橋渡しできるような実務者の参画を得て、研究の推進から成果の発信までの連携を確保するなど、社会的貢献に向けた実効的な体制作りが必要であり、社会からの視点を取り入れることについての検討も求められる。
 実務者の役割や業務内容は、研究内容により変わりうるが、関連分野の知見や実社会での経験を有する実務者を含めた審査・評価を試行することも重要であると考えられる。実務者を含めた共同研究においては、研究者の研究のサイクルと、実務者が想定する需要のサイクルは必ずしも一致しないため、知識の共同生産という観点から、実務と研究のバランスをとるプロジェクト・マネジメントが不可欠である。なお、関係する分野によって共同研究へのインセンティブが異なることも留意しておく必要がある。

【3】「グローバル展開」を目指す研究

 人文学・社会科学の様々な分野を対象とした国際共同研究の推進と、国際的なネットワークの構築による海外の研究者との対話やグローバルな成果発信が求められる。

 これらの共同研究は、いずれも、人文学・社会科学、自然科学から実社会までの様々な知見をもって対象を捉えることが強く要請されるという共通の特性があり、分野間連携による知識の共同生産を正面から捉えたプロジェクトの実施が求められる。プロジェクトの運営においては、人文学・社会科学の特性を踏まえることが求められ、知識の共同生産等に優れた成果が期待できるものについては、短期間のプロジェクトで終わらせるのではなく、長期的な視点をもって継続できるようにする必要がある。日本学術振興会においては、人文学・社会科学分野におけるこれまでの共同研究事業の実績を踏まえて、評価結果に基づいて延長を可能とする支援の枠組を構築することが必要である。
 さらに、科学技術・学術審議会等における基本的な方針や議論を踏まえて、推進すべき共同研究の課題を定めることにより、政策の実現性を高めていく課題設定プロセスも必要である。その際、日本学術振興会の調査機能を活用するなどして、海外における人文学・社会科学の諸分野の学術動向を継続的に把握することも重要である。
 公募にあたっては、あらかじめ課題や要件を示すとともに、関連分野を広くとらえて応募できるようにすることや、共同研究を促進するためのレビューシステムを構築することも考えられる。
 なお、知識の共同生産のすそ野を広げる観点からは、小規模でもよいので若手研究者が、横断的なプロジェクトを推進できるような支援枠の導入を検討することも必要である。

設定すべき課題の例

 平成21年1月の学術分科会報告(※10)においては、近未来における全地球的な課題の例(貧困問題、エネルギー問題、人口問題、環境保全と経済成長、価値観の異なる文明の共存)及び近未来において我が国が直面する課題の例(少子・高齢化、生活の質の向上、東アジアの環境問題、我が国経済の成長制約条件の解明と打破、科学技術の成果を社会に適用する場合の倫理や合意形成の課題)が掲げられており、今なお重要な課題である。

 これらに加え、現在、分野間の連携や社会とともに進めることが求められる研究領域としては、例えば以下のようなものが考えられる。これらは、現時点における例示であり、今後、継続的に見直していく必要がある。

◎非常時における適切な対応を可能とするための社会システムのあり方

 震災後や新たな感染症が流行した場合などの非常時には、既存の社会システムでは対応しきれない問題が生じ、都市・交通機能の麻痺や社会秩序の混乱を招く可能性がある。起こりうる非常時に備えた社会的リスクの管理と価値判断を行うことが求められていることから、現代の「リスク社会」に対応した新たな社会システムのあり方について検討を行う。(※11)

◎社会的背景や文化的土壌等から発想する新たな科学技術や制度の創出・普及

 今後、社会的価値を含む様々な科学技術や制度が創出・提示されることが想定される。人間社会が求める新技術・新制度の創出・普及のあり方について、工学的・経済的検討とあわせて、民俗学、宗教学、心理学等の観点から検討を行う。(※12)

◎アジアの協調的な発展を目指した科学技術の制度設計

 アジア地域においては、技術開発等の不均等な発展による国家間の摩擦やイノベーションによる競争も激しい。それは、紛争の原因にもなりかねない。歴史学・経済学・政治学・法学等の観点から、地域のたどってきた長い歴史や宗教の相違、植民地化と国家形成の違いなどを考慮して、科学技術の制度設計について検討を行うことにより、アジアの協調的な発展方策を求める。(※13)

事業・制度の枠組みをこえた展開

 課題設定型の研究プロジェクトは、自然科学を中心に大規模に推進されている。今後、基礎的な共同研究を社会実装レベルにまで引き上げていくには、自然科学中心のプロジェクトの中にも人文学・社会科学の研究者の参画を要件として取り入れることが求められる。人文学・社会科学が中心となった小規模で基礎的な共同研究である「課題設定による先導的人文・社会科学研究推進事業」のプロジェクトにおいて、人文学・社会科学そのものが発展するのみならず、その成果が自然科学に裨益する場合には、社会の具体的な問題解決に向け様々な分野の知見を活用する「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)」などの、より実装段階に近い共同研究へ波及していくことも有益であり、事業・制度の枠組みをこえた展開も必要である。
 また、人文学・社会科学と自然科学による共同研究によって領域開拓に進展がみられるプロジェクトについては、異分野連携による意欲的なグループ研究を支援し、新たな発展の芽を育む科研費の「新学術領域研究」等において適切に評価し、さらなる展開につなげていくことが望まれる。

(2)大規模な研究基盤の構築

研究拠点の充実・強化・連携

 人文学・社会科学の分野において独創的な研究を推進するためには、国公私立を問わず、研究者間のネットワークや大学間の協定によるネットワークとその中心となる研究拠点の形成が必要である。このため、既存の共同利用・共同研究拠点の取組状況等も踏まえながら、大学が特色ある設備・資料等を有する場合は、必要に応じて拠点化への支援を行うことが必要である。その際、私立大学等の研究機関を充実するための取組みは必ずしも十分とは言えないため、規模は小さくとも特色ある研究が実施される大学間ネットワーク拠点の充実にも配慮していく必要がある。

大型プロジェクトの推進

 学術研究の大型プロジェクトは、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点等が実施主体となり、最先端の技術や知識を結集して人類未踏の研究課題に挑み、当該分野を飛躍的に発展させ、世界の学術研究を先導する重要な役割を担っている。
 「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」(※14)においては、日本文化の根幹をなす日本語の歴史的典籍のデータベースの構築や持続可能な社会づくりの先端研究を推進するための社会科学統合データベース・ソリューション網の形成など、人文学・社会科学分野の拠点を活用して研究基盤の構築等を行う大規模研究計画が掲げられている。
 これらの大規模研究計画については、人文学・社会科学分野の基盤形成に資するのみならず、日本文化の国際発信や社会諸科学の分野横断的な研究を推進するものであり、研究者コミュニティの合意、実施主体、共同利用体制、計画の妥当性等を踏まえ、社会や国民の幅広い理解を得ながら、長期的な展望をもって戦略的・計画的に推進する必要がある。

(3)グローバルに活躍する若手人材の育成

 国際的な研究環境の中で、様々な国の研究者と切磋琢磨し、積極的に研さんを積む機会を若手研究者に提供することは、我が国の学術の将来を担う国際的視野に富む有能な人材を育成・確保する観点から極めて重要である。
 そのためには、優れた資質を持つ若手研究者が、特定の大学等において自らの研究計画に基づいて長期間研究に専念できるような研究者個人の海外派遣を支援する取組や、研究組織の国際研究戦略に沿って、若手研究者を海外へ派遣し、様々な課題に挑戦する機会を提供する大学等を支援するような取組を組み合わせて進めることが効果的である。

 また、優秀な人材が希望を抱いて人文学・社会科学の研究の道に進むことができるようにするためには、若手研究者が、国内外において多様なキャリアパスの展望を描くことができるようにすることも必要である。若手研究者が、新たな道を切り開く自由な発想と幅広い視野を身に付け、様々な分野で活躍できるよう、大学や研究機関において、キャリア開発のための講義やセミナー、長期インターンシップ等の機会を提供するなど、多様なキャリアパスの確立に向けた組織的な取組を広げることが求められる。

 なお、グローバルに活躍する次世代の人材を育成するため、学部段階から目的意識を持って海外留学の経験を積めるよう、教員のグローバルな教育力の向上、学生の留学促進のための環境整備を進めるとともに、海外の大学との間の国際的な質保証を伴う教育連携を進めることも重要である。
 そして、俯瞰的視点から物事の本質を捉え、危機や課題の克服を先導し、人類社会の持続的発展・成長にリーダーシップを発揮する高度な人材を養成するため、専門分野の枠を超えた質の保証された学位プログラムを構築・展開し、優秀な学生を産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くための取組も必要である。

(4)デジタル手法等を活用した成果発信の強化

国際情報発信力強化のための科学研究費助成事業の改善

 学協会等が定期的に発行するジャーナルは、学術論文を発表する場として、研究成果の発信・流通に大きな役割を果たしているが、電子化の進展とともに、国際情報発信力をより強化していくことが重要である。
 そのためには、学協会等のジャーナル発行を支援する科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の「学術定期刊行物」について、これまでの限定的な助成を見直し、国際情報発信力強化のための取組の評価や、オープンアクセス誌の刊行支援などの制度改善が必要である。その際、ジャーナルの学術的価値に加え、学協会等が設定する事業計画が国際発信力強化に向けた目標達成に向けて妥当なものかどうかを適切に評価することが求められる。

機関リポジトリの利活用等による教育研究成果の発信

 大学等においては、様々な知的活動により生産される成果を電子的に収集し、発信する保存書庫として機関リポジトリ(※15)が構築されつつある。機関リポジトリには、紀要論文を中心に人文学・社会科学の文献が多く収録され、研究者のみならず広く一般からも利活用される傾向にあることから、機関リポジトリを通じて、研究成果を迅速かつ広範囲に公開する機会が増大することにより、社会とのコミュニケーション活動が推進されることはもとより、研究者相互の交流がより活発化することも期待される。
 機関リポジトリを通じた新しい学術コミュニケーションの可能性を切り拓く意味からも、大学等が、機関全体として機関リポジトリの整備を積極的に進めるとともに、その意義について所属する研究者の理解を促し、教育情報を含む幅広い教育研究資源を機関リポジトリに収録するなど、利活用の促進に向けた取組の充実が必要である。

 なお、問題の発見から解明の表明に至る過程を自らの言葉でまとめあげる研究書は、学問的な水準を評価する一つの仕組みであり、成果発信の重要な手段であることから学術図書の刊行支援も引き続き重要である。

(5)研究評価の充実

 「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成21年2月17日)(※16)においては、学術研究の評価における配慮事項が掲げられ、人文学・社会科学の研究評価については、「人類の精神文化や人類・社会に生起する諸々の現象や問題を対象とし、これを解釈し、意味付けていくという特性を持った学問であり、個人の価値観が評価に反映される部分が大きいという点に配慮する」こととされている。

 独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う「国立大学法人及び大学共同利用機関法人における教育研究の状況についての評価」では、論文・著書等、学会での研究発表、海外の学術書・文芸作品等の翻訳・紹介、辞書・辞典の編纂や関連DBの作成、政策形成等に資する調査報告書の作成など広く教員の創造的活動を「研究活動」とした上で、その実施状況等を把握している。

 今後、学術研究の評価においては、まず、専門家集団における学問的意義についての評価(ピアレビュー)を基本としつつ、公平さと透明性の確保に努め、優れた研究を積極的に評価するなど、評価を通じて研究活動を鼓舞・奨励し、その活性化を図るという積極的・発展的な観点を重視することが肝要である。その上で、人文学・社会科学の特性を踏まえて評価の視点を増やしていくことが必要である。例えば、「教養」の形成に資する著書、公開講座、メディア等を通じた様々な成果発信やアウトリーチ活動や、漢学や日本学等における索引・目録の作成などの実績を一層積極的に評価することに加え、例えば、日本語希少原典や優れた文学研究の外国語への翻訳、国際共著論文、海外での研究活動等の国際的な活動なども研究活動として評価することが求められる。また、国際学会組織化の活動など、国際的な研究関連の活動への貢献について評価することも視点として重要である。

 研究を通じた課題解決への貢献を一層推進するためには、新たな領域開拓等を目指す分野間連携の研究が適切に評価される必要があり、当該研究を評価する際は、学問的な水準に加えて、共同研究から生み出される貴重なデータベースの構築等の研究者コミュニティに対する寄与、研究に参加した実務者との研究成果の普及に向けた協力等についても評価することが重要である。これらは、研究成果の発信活動の評価とも考えられるため、実際に研究成果を共有し活用する実務者等からの評価も重要である。なお、適切な評価者の設定については、今後も継続的に検討する必要がある。

 これらの項目や視点は、人文学・社会科学研究の将来的な発展可能性を評価するには十分とは言えないが、学問的特性の一端を示すことから「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」の改訂にあたって吟味されるとともに、研究プロジェクトの審査・評価の観点や大学での研究者の採用基準等において適切に取り入れられることが望まれる。


※1 広く人間・文化・社会を対象とする研究については、人文科学、人文学・社会科学、人文・社会科学など、様々な表現がなされるが、ここでは「人文学・社会科学」という表現を用いる。

※2 科学技術・学術審議会においては、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」(平成23年5月31日決定)をまとめている。この中で、「東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証」「課題解決のための学際研究や分野間連携」等の視点を掲げており、特に科学技術・学術の国際連携と自然科学者と人文・社会科学者との連携の促進については、十分配慮することとしている。

※3 学術分科会においては、「人文学及び社会科学の振興について(報告)-「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道-」(平成21年1月20日)及び「学術研究の推進について(審議経過報告)」(平成23年1月17日)をまとめている。
 また、学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会においては、「戦略的な視点」をもった研究推進の在り方に焦点をあて、「学術振興上の重要な取組について(これまでの意見のまとめ)」(平成23年7月15日)をまとめている。この中で、当面の検討課題として、「社会貢献に向けた研究者の知の結集」、「知の再構築や体系化が求められる研究テーマ等の共有」等が示され、関係部会に対して必要な検討を求めている。

※4 アウトリーチ(活動):研究者等と国民が互いに対話しながら、国民のニーズを研究者等が共有するための双方向コミュニケーション活動(平成22年版科学技術白書)

※5 2010年代のEU諸国においては、“inter-disciplinarity”や“multi-disciplinarity”は科学の領域での融合をいい、他方、社会が関与する場合をTD(transdisciplinarity)として、両者を使い分けた議論も行われている。

※6 エビデンス:証拠、根拠(evidence)

※7 これまで文部科学省では、以下の観点から人文学・社会科学に係る研究推進事業を実施してきている。
○人類が直面している問題の解明と対処のための学際的・学融合的取組
○異質な分野の学者との共同研究
○日本と研究対象地域との「共生」に向けた研究
○近未来において我が国が直面する経済的、社会的な諸課題の解決のための研究
○海外に存在する「日本」に関係する資源を活用した日本研究の国際共同研究
 なお、文部科学省における競争的資金制度の見直し等を踏まえ、人文学・社会科学に係る研究推進事業は、平成24年度から日本学術振興会の「課題設定に基づく先導的人文・社会科学研究推進事業」に統合されている。

※8 現在、人間文化研究機構においては、地域研究に係る複数の大学と組織的に連携した拠点間ネットワークを構築する機能、海外の機関と協定を締結して、機構内の研究機関への研究者の割り振りなどの国際交流を仲介する機能、国内外の大学、研究機関、博物館等と共同して行う日本関連資料の調査分析等に関する国際共同研究の推進機能等を担っている。

※9 例えば、人文学の研究では、特定の解決策を提示するというよりは、何が問題であるのかという認識枠組みを創造し提示する研究が進められ、評価される。したがって、共同研究の計画当初に定めたそれぞれの役割分担の中で一定の成果を提供しあうだけでなく、知識を共同生産する過程で認識枠組みを重視したり、理解を共有するためのワークショップを重ねるなどのプロジェクト運営が求められる。また、政治学や社会学の研究では、国際ネットワークへの参加や、常に海外と交流していることによって、何が世界共通の課題となっているかという論点を作り出す場に参加し、その論点の中で研究を進めることが重要である。

※10 人文学及び社会科学の振興について(報告)-「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道-(平成21年1月20日/科学技術・学術審議会学術分科会)

※11 例えば、以下のようなものが考えられる。
○災害直後に緊急に外部の医療関係者が被災地において医療救護活動を行う際、被災地の医療機関等が有する大規模な個人医療データを共有するためには事前にどういった法的ルールを整備しておけばよいのか、といった非常時の社会システムのあり方についての、法学研究者や医療関係者等による研究。
○震災等の非常時におけるサプライチェーンの再構築に向けた、法的ルール等を含めたシステムのあり方の検討。
○非常時における、各現場での自律分散型の意思決定を想定した、行動経済学、歴史学、政治学、社会学、心理学等の観点からの、意思決定マネジメントの検討。

※12 例えば、以下のようなものが考えられる。
○遺伝子組換技術の利用、医療用ロボットによる手術、fMRIによる鬱病治療などの新技術の導入・定着を図る上で不可欠となる、人工物をもって生命を操ることへの本能的な拒否感や、宗教や土着信仰などの思想的背景など、個人的・社会的状況の把握。
○製品開発における芸術工学(デザイン工学)を駆使した、人間の感性・センスへの配慮や、デザイン、使いやすさの追求。このような観点は、自然科学の成果を社会に伝わりやすくするという理解増進にも資する。

※13 例えば、以下のようなものが考えられる。
○国境を越える汚染等の問題の処理にあたって、国ごとに異なる社会的影響について、国家形成、価値規範、社会制度等の歴史的変遷も参照した上で把握し、公害問題の情報と協調可能な技術システムの共有方法を検討する。

※14 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会(以下、作業部会という。)では、純粋に科学的視点から評価を行った日本学術会議の「マスタープラン2010」(※)を踏まえ、大型プロジェクト推進にあたっての優先度を明らかにする観点から、各研究計画について、評価結果と主な優れた点や課題・留意点等を整理した「ロードマップ」(平成22年10月27日)を策定した。(平成24年○月○日に「ロードマップ2012に改訂」)
(※)日本学術会議は、各分野の研究者コミュニティにおける大型研究計画の構想を集約し、純粋に科学的な視点から評価を行い、我が国の学術研究や科学技術の発展に真に必要と認められた7分野43の研究計画について、その意義や概要を取りまとめた「マスタープラン2010」(平成22年3月17日)を策定した。(平成23年9月28日に7分野46計画の「マスタープラン2011」に改訂)

※15 機関リポジトリは、研究者自らが論文等を登載していくことにより学術情報流通を改革すると同時に、大学等における教育研究成果の迅速な公開・発信を実現し、社会に対する教育研究活動に関する説明責任の保証や、知的生産物の長期保存などを図る上で、大きな役割を果たすものである。機関リポジトリに収録されるコンテンツは、論文、図書、研究報告書、教材など様々な知的生産物が含まれるが、現状では著作権処理が容易であることなどの理由から、紀要論文が全体の5割以上を占めている。現在、機関リポジトリの構築・運営にあたっては、大学図書館が大きな役割を担っているが、国立情報学研究所においても、共用リポジトリシステムの提供など、これらの取組を積極的に支援している。

※16 文部科学省の所掌に係る研究開発について評価を行っていく上での基本的な考え方をまとめたガイドライン。

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)