参考資料1 人文学及び社会科学の振興に関する委員会(第6期第3回)における主な意見

1.「人文学・社会科学の学問的発展」について

(1)異分野融合研究の現状

  • 政治学と脳神経科学の融合研究の場合は、科研費の研究領域として認められるようになったが、異分野融合研究はどの分野に属するのか不明確な場合が多く、研究継続が困難になりやすい。
  • 他の研究者から共同プロジェクト等の依頼が多くあったため、専門分野の研究を続けながら、プラスアルファで何とか異分野融合研究を続けることができた。
  • 自分の専門分野の研究を行いつつ、異分野融合研究のための実験を行う場合、文系だとそのための資金は極めて少ない。
  • 大学の教養課程では、日常的に文理が知り合ったり語り合ったりすることができるが、専門課程では、同じ学部の中でも個個の専門分野の間の交流ができないほど狭い世界で研究が行われている。
  • 日米を比較すると、日本の方が異分野融合研究を進めやすい。米国では、すぐに成果が上がらなければ研究をやめてしまうが、日本ではいろいろな研究をすることに寛容性がある。異分野融合研究では、このような日本の研究システムの強みを生かすことができる。
  • 学位取得のための論文審査において、外部審査員に他分野の先生を入れることにより、評価が可能となった。異分野融合研究には、周りの関係ある教員の理解と協力も不可決。
  • 政治学と脳神経科学の異分野融合研究の論文を、政治学者が主要著者となって発表しても、ジャーナルの査読に回してもらえないことがほとんどである。
  • 土木技術と制度(ルール、規則)など、社会基盤の分野では、理系にとって文系の要素は不可欠になってきている。

(2)異分野融合研究の可能性

  • 政治学と脳神経科学とが融合研究を行うことにより、人間が政策や政党をどう考えているかという認知心理過程をデータで示すことが可能となり、政治学的な知見が深まることが期待される。

(3)異分野融合研究を進めるためにできることは何か

  • 学際研究を始めるきっかけは、偶然の人脈に頼っているのが現状。研究業績だけではなく、どういう人柄かというところまでの情報を持っている人が身近にいれば、きっかけになる可能性がある。
  • 人文・社会科学から、理系の研究者に、解明してほしい事例を提供することで、新しい技術や新しい学問を生み出すことができるのではないか。
  • ツールとしての融合だけではなく、学問的発展のために、相互に持ちつ持たれつ関わっていくことが、これから期待されるのではないか。
  • 異分野融合研究の成功事例の蓄積や情報交換ができるような場が必要。
  • 異分野融合研究への資源の配分については、パイロット研究に成功した研究者やグループを伸ばすべきか、これから挑戦することを重視すべきか、検討が必要。
  • 異分野融合研究では、予想外の結果が出てくることを前提として、柔軟性がある程度高い研究支援制度となるように改善を検討すれば、異分野融合研究をする研究者が増えるのではないか。
  • 両方の分野の違いを分かって、専門用語を通訳のように話せる人材も求められる。
  • 学部横断的な履修や、学際的プログラムを促すことにより、異分野融合の意義について判断できるようになるのではないか。
  • 留学することによって、自分が今いるところと違った視点があることを知り、そこから何かを眺めてみようということができるようになる。自分の今いる世界だけではない価値基準があることを理解できるので、異分野融合の可能性が高まるのではないか。

2.「政策的課題や社会への貢献を視野に入れた人文学・社会科学の機能の強化」について

(1)社会貢献の現状

  • 社会貢献の研究プロジェクトにおいて、何を目標・ターゲットにするのかが大きな問題。社会課題の解決を目標にするのか、課題設定を目標にするのか。
  • 社会貢献のプロジェクトを進めていくにあたっては、制度設計、政策提言等といった「課題解決」は、社会への説明責任という観点からも、遠い目標として大事である。
  • 人文学の社会的貢献とは何なのかということ自体について、人文科学者の中でイメージを持つことが重要。
  • 「プロジェクトたこつぼ」「学際たこつぼ」と言われることがあるように、「学際」といって切り取ると、それ自体がまた殻に籠もってしまう。
  • 研究者と実務家との距離感が難しい。研究者の研究のサイクルと、実務家の需要のサイクルとが一致する保証はない。両者のバランスをとるプロジェクト・マネジメントを、誰がどこで行うかが課題。
  • 若手研究者が課題設定型プロジェクト研究を行うことが重要である。博士論文を書いた分野とは違う分野も含めて勉強することは、キャリアの上でも意味がある。一方で、そういった若手研究者をきちんと評価していくことが重要。
  • 分野によって、課題設定型プロジェクト研究に参加することへの研究者のインセンティブが異なることに留意する必要がある。どのような分野の研究者を巻き込んで、どのようなプロジェクト研究を行うかというのは、一様ではない。

(2)社会貢献の可能性

  • 課題設定型プロジェクト研究のメリットは、普段それぞれの分野でやっていた研究では気付かなかった対象を見つけたり、気付かなかった視角に出会えることである。
  • 従来であれば、研究室で違う分野の人と話をすることや、メディアの編集者が担ってきた「お見合い機能」を、課題設定型プロジェクト研究が果たすことができる。
  • 人文・社会系でも比較的大規模な研究プロジェクトでは、ポスドクを雇うことができ、発展の可能性がある。一方で、長期的なスパンでポスドクのキャリアパスを考えておく必要がある。

(3)社会貢献を進めるためにできることは何か。

  • 課題設定型プロジェクト研究には手間と時間がかかる。継続的に会う場を設けて、コミュニケーションをとることが重要。
  • 大学の産学連携本部などが研究者に関する情報を持っているので、それを学内の人が利用できるようなシステムにすればどうか。また、その際に、そこでプロジェクト・マネジメントも行って、ノウハウを蓄積することが大事。
  • いろいろな分野の人に直接会えるような環境を、あまりコストをかけずに作ることが実効的。義務だと思ってやっても生産的ではない。
  • 個人研究が中心である文系と、チームプレーが中心の理系との共同研究では、研究の進め方の違いに配慮した組織運営を心がける必要がある。
  • 脳科学プロジェクトなどでは、人文系であっても理工系と同じように技術開発や課題解決が求められるが、そこまでの成果の達成は難しい。理系のプロジェクトの中に人文社会系との共同研究を入れることは、起爆剤になるのでよいことだが、成果の求め方には配慮が必要。
  • 社会課題に寄与しようとする研究を、ある程度まとめて括るようなプロジェクト型研究を設定してはどうか。マネジメントには、通常の研究者のピアレビューだけではなく、実務家を含めたピアレビューを試みることも検討が必要。また、科研費だと主要研究分野を1つに決めなければいけないが、それは難しいので、関連分野を広く指定できるようにしたり、また、そのためのレビューシステムを作ったりするなどの工夫が考えられる。
  • 分野横断的社会連携型プロジェクト研究を制度化するためには、単発のプロジェクトで終わらせるのではなく、長期的な視点をもって継続できるように、プロジェクト・マネジメントを工夫する必要がある。
  • 若手研究者や実務経験のある研究者に、小規模でもいいので、横断的な社会連携型プロジェクトをできるような研究支援が必要。
  • 分野横断的社会連携型プロジェクト研究への志向性を持つ研究者が15%程度いれば、人文・社会科学全体として変化が現れるのではないか。全員がする必要は全くないが、一定比率いることが重要。
  • 若手研究者や実務経験のある研究者が、相互交流できるような分野横断的な社会連携型の研究コミュニティをつくることが必要。
  • 全然違う分野の研究者と一緒に研究をした方が、お互いに協力活動をしたことによって得たものをそれぞれの分野に持ち帰ることができ、相互に発展の可能性がある。
  • 分野が違うと、同じ概念、言葉でも、全く違う意味で使うことがあるので、お互いの文法を理解することが重要。

 

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