資料4 「学術研究の推進について(審議経過報告)」(概要)及び関連部分抜粋

 「学術研究の推進について」(審議経過報告)
 【概要】
(科学技術・学術審議会 学術分科会)

第1章 学術研究の現状・課題等と目指すべき方向

 1.学術研究の意義、特性等  

  (1)学術とは 

  • 学術は、真理の探究という人間の基本的な知的欲求に根ざし、これを自主的・自律的に追求する研究者の自由な発想と研究意欲を源泉とした知的創造活動とその所産としての知識・方法の体系

  (2)学術研究の意義、必要性

  • 学術研究は下記の意義を有するものであり、学術研究の推進を基盤として、社会・経済・文化の発展を図りつつ、世界の知を先導し、人類社会の課題解決に貢献していくことが必要
  1. 人々の知的探究心を満たすとともに生活の質を向上させ、文化の発展や文明の構築の基盤となるもの
  2. 新たな知の創造と幅広い知の体系化により、科学技術の推進や社会・国家の発展の原動力となるもの
  3. その成果は人類共通の知的資産として蓄積され、人類全体への貢献が期待されるもの

  (3)学術研究の特性

  • 学術研究は、研究者の長期の試行錯誤や多様な研究活動の積み重ねを通じて、独創的な新たな知が生み出されるものであり、研究者の自主性と研究の多様性の尊重、学問の全分野にわたる均衡のとれた研究体制の確立による知的資産の形成・承継、教育機能と研究機能との有機的な連携等が必要

 2.学術研究を巡る現状と課題

  (1)国際的な研究活動の活性化の中での、我が国の存在感の発揮

  • 国際的な研究活動の活性化の中で、我が国が存在感を発揮するためには、長期的な視点や明確なビジョンを持って学術研究を推進していくとともに、国際社会においてイニシアチブを発揮できる学術研究体制を整備していくことが必要

  (2)国際的存在感を発揮するための学術研究環境の課題

  • 国際的存在感を発揮するためには、1学術研究の基盤的なシステムの整備、2研究者の研究環境の改善、3学術研究職の魅力の確保、4学術研究における国際化の推進、5学術研究における社会との関わりが課題

 3.今後の学術研究の振興の方向性

  • 研究者の自主性と研究の多様性の尊重は、国家の知的基盤の形成の基盤として、社会や時代の変化に関わらず不可欠の前提・原則

-学術研究の基盤的なシステムの充実は学術研究の振興に不可欠な国の役割
-研究者の視点に立った研究環境の構築や研究活動の推進こそが、学術研究の振興さらには国家発展の原点
-特に、若手研究者が将来への見通しをもって国内外で研鑽を積むことは、我が国の学術研究の発展の源泉であり、アカデミックポストをはじめとする若手研究者のキャリアパスの構築が不可欠

  • 国際的な存在感の発揮や発展のためには、戦略的な視点を持って学術研究の振興を図ることも重要な課題

-学術研究体制の在り方の検討や国際的な競争・協調のための戦略的な取組
-我が国全体の資源が限られる中で、学術研究の現状や課題を踏まえた取組の改善

第2章 学術研究の振興方策 

 1.学術研究体制の整備  

  (1)我が国の学術研究体制の目指すべき方向

  • 我が国全体として学術研究の多様性を確保するための各大学等の学術研究へのスタンスの明確化や個性・特色の発揮
  • 新たな研究者コミュニティの育成も含めた研究のネットワークの形成
  • 戦略的な視点を持って学術研究の振興を図るための関係機関の機能及び連携の強化

  (2)大学、大学共同利用機関、学術関係機関の在り方等

  • 各大学が重点的に取り組む分野・課題を設定・推進するための、大学間の状況・方針の共有や分野毎のネットワークの形成
  • 各大学が将来像に向かって持続的に個性・特色を発揮するための、若手研究者の活躍を促進するための組織運営の在り方の検討
  • 各大学の個性・特色の発揮のための、個々の研究室の枠を超えた新たな研究領域の開拓
  • 各大学の特色や研究分野の特性に応じた評価の在り方やファンディング・システムの構築の検討
  • 大学共同利用機関における国公私立大学の共同利用の研究所としての機能の強化(共同研究の推進、新たな学問領域の創成に向けた戦略的取組の推進、大学との組織的な連携の強化等)、機構法人の在り方や新たな学問領域の創成に対応した適切な組織の在り方や整備の検討
  • 日本学術振興会における、学術研究の特性を踏まえた支援機能や運営体制の強化、学術研究動向の調査分析機能やPD・PO制度の強化
  • 日本学術会議における研究者コミュニティの意思の集約や発信、学会における様々な研究機関の研究者ネットワークの形成の推進
  • 学術研究体制と課題設定型の研究体制をそれぞれの役割・特性を踏まえて整備した上で、関連分野の機関間の連携・協力を推進

 2.基盤的経費の確実な措置と科研費等の充実  

  • 基盤的経費の確実な措置による研究の多様な芽の育成
  • 科研費による学術研究の支援の充実

-新規採択率30%の確保、配分額の充実
-優れた研究者の育成に資するような研究助成の枠組みの構築(「若手研究」及び「基盤研究」の充実)
-科研費の基金化による研究費の複数年度執行を可能とする仕組みの構築      

 3.研究者の研究活動の推進のための環境整備

  (1)研究者の研究環境の改善と研究支援体制の強化

  • 研究者が研究に専念できるよう、競争的資金全体のルールの見直しや審査・評価の在り方を改善
  • テクニシャンやリサーチ・アドミニストレーターの配置等、研究支援体制の確立
  • 研究支援スタッフとしてのRAの充実

  (2)大学等における研究基盤の充実

  • 次期5か年間の国立大学等の施設整備計画の策定等、研究施設・設備の整備
  • 学術情報ネットワークの整備充実や学術雑誌の国際競争力の強化等、e-サイエンスを支える研究情報基盤の整備

 4.優れた研究者の育成・確保  

  (1)若手研究者の育成の取組の充実

  • 大学院生が複数の研鑽の場を経て専門分野の枠にとらわれず創造的な研究活動を自立して遂行する能力を取得できるような取組の推進(異なる専門分野の複数教員の研究指導、研究室のローテーション等)
  • 大学院生や若手研究者に対する経済的支援の充実
  • 若手研究者のポストの確保

 -基盤的経費の拡充による、若手研究者の安定的なポストの整備や研究室の立ち上げ等への支援の充実
 -教員の年齢構成等の各大学の状況・課題に応じた、若手研究者の活躍を促進するための組織運営の取組(高齢研究者の人事の在り方の見直しなど)

  • 研究支援者の育成・定着に向けたシステムの整備やキャリアパスの確立

  (2)頭脳循環を推進するための世界に通用する人材の育成・確保

  • 若手研究者等が海外で研鑽を積むことができる環境の整備や経済的支援の充実
  • 大学等における組織的・戦略的な海外派遣等
  • 国際的な研究ネットワークの中で存在感を発揮する海外への研究機関への派遣等、我が国の学術研究の発展に有効な交流の枠組構築の検討
  • 若手研究者のポストの整備・拡充、積極的な国際公募、海外経験をはじめ異なる機関や環境での経験や挑戦の評価
  • 大学教育の国際化をはじめとした留学生の受入・育成の環境の充実、国際的な研究拠点の整備

 5.学術研究の飛躍・発展  

  (1)共同利用・共同研究の推進

  • 大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点間の協働・連携による、異分野融合型研究の推進や世界トップレベルの研究の牽引

  (2)学術研究の大型プロジェクトの推進

  • 大型プロジェクト(大型施設計画、大規模研究計画)の戦略的・計画的な推進のための日本版「ロードマップ」の適時適切な改訂(研究者コミュニティの意見集約やプロジェクトの評価方法の一層の確立等)
  • 安定的・継続的な財政措置に関する検討

  (3)海外との研究協力の推進

  • 各大学における特色や強みを活かした戦略的な研究協力の推進
  • 国際的な役割分担が必要な大型プロジェクト等における推進すべき分野の明確化
  • 我が国の先進的な研究成果のアジア等の課題解決への活用  

  (4)人文学・社会科学の振興

  • 学術研究と社会との関わりが求められる中での人文学・社会科学の機能の発揮
  • 自然科学との学融合的協働等による、政策や社会の要請に応える研究の推進

 6.学術研究と社会との連携強化   

  (1)学術研究による社会貢献の推進

  • 社会の課題解決のための異分野融合型研究の振興
  • 研究成果の社会還元等を促進するための産学連携の推進

(2)社会とのコミュニケーションの推進

  • 大学・研究者・学会等の学術コミュニティによる社会とのコミュニケーション(社会への発信や社会との対話)の推進
  • 研究者の研究活動への社会からの多様な支援の充実

「学術研究の推進について(審議経過報告)」
(平成23年1月17日 学術分科会)-抜粋-

第2章 学術研究の振興方策

5.学術研究の飛躍・発展

(4)人文学・社会科学の振興

(人文学・社会科学の意義・役割)

○ 人文学・社会科学は、人間の営みや様々な社会事象を省察し、あるいは既存の社会システムへの批判や新たな制度設計の提示を行う学問としての基本的な固有の役割があり、また、人間の精神生活の基盤を築くとともに人間生活の質を向上させるものとして文化の継承と発展において重要な役割を担っている。

○ このような人文学・社会科学は、その多くが個人研究中心の学問であるため、その進展は研究者個人の意識に負うところが大きく、また、着想を温め成熟させる過程や長年の学問的蓄積が重要な意味をもつ場合も多いなどの学問的な特性を有する。また、研究成果の発信についても、自然科学のような論文や学術誌の査読という形態だけではなく、単行本等の書籍が用いられることも多い。

○ 人文学・社会科学はこのような学問的特性を有するものであるが、社会貢献をはじめとして学術研究と社会との関わりが求められる中で、社会の価値観に対する省察・批判や社会事象の正確な分析、それらに基づく仮説や制度設計等の社会への提言といった人文学・社会科学の機能の重要性が増している。

    また、グローバル化が進む中で研究協力を推進するにあたっては、どの研究分野においても、自国や他国・他地域の文化的・社会的基盤の理解が必要である。このため、人間社会を探究してきた人文学・社会科学の機能の発揮が必要であり、さらに人文学・社会科学分野における国際交流・発信の推進も重要になっている。    このような人文学・社会科学の機能の重要性を踏まえ、その意義・役割を踏まえた振興の在り方について検討することが求められる。

(政策や社会の要請に応える研究の推進)

○ 現在、地球環境問題や生命・倫理問題、科学技術の負の側面などの現代的課題への対応が求められる中で、人類の根源的な課題について批判的に問い続けてきた人文学・社会科学が、その強みである分析力を活かして解決への示唆を示すなど積極的に取り組むことが必要である。

    その際、近年、人文学・社会科学の分野においても、共同研究の推進や新しい研究手法の導入により一定規模の施設・設備を必要とする大型の研究が展開されているが、これらをさらに発展させるとともに社会の実際の取組や政策への反映に活かすためには、シミュレーションの手法を用いた研究や実験的な手法を導入した研究等の実証的な研究を、研究基盤や組織体制を整備しつつ推進していくことも望まれる。

    さらに、人文学・社会科学と自然科学との学融合的協働も重要であり、社会のニーズや自然科学をはじめとする他の学問分野からの要請を把握した上で人文学・社会科学の貢献の在り方を検討することが重要である。

○ 人文学・社会科学の研究全般については、学問の進展に伴い、各分野・領域の専門化・細分化が進み、教育・研究活動がそれぞれの体系の中で行われているのが現状である。人文学・社会科学の学問的発展のみならず広い視野と識見を有する若手研究者の育成のためにも、自然科学をはじめとした他分野との協働による異分野融合型研究、政策や社会の要請に応える研究等を推進することが必要である。

○ 文部科学省では、平成18年度より「政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業」として地域研究や実証的研究を大学等に対する公募により実施しているが、今後は、少子高齢化問題や地球環境問題等の全地球的な課題をはじめとした学融合的協働が必要な政策的・社会的課題への対応など、目的の明確化や実施手法の工夫も含めた改善・充実が必要である。

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研究振興局振興企画課