資料5 「人文学及び社会科学の振興について(報告)」 概要

平成21年1月20日 学術分科会

第一章 日本の人文学及び社会科学の課題

第一節 「研究水準」に関する課題

 欧米の学者の研究成果を学習したり紹介したりするタイプの研究が有力な研究スタイルとなってしまっている。日本の歴史や社会に根ざした研究活動が必ずしも十分でない。

第二節 「研究の細分化」に関する課題

 「認識枠組み」の創造という人文学及び社会科学の役割・機能を果たしていくためには、研究分野や研究課題の細分化と固定化が進みすぎている。「歴史」や「文明」を俯瞰することのできる研究への取組が期待されている。

第三節 学問と社会との関係に関する課題

 日本の社会的な現実を欧米の学説の適用によって説明するにとどまらず、独自の学説により理解していくことへの期待が大きい。また、最先端の課題は、社会の側にあることからも、学問と社会との対話が必要。

 また、学問が社会的存在として認知され支持されるためには、社会全体に対して文化を醸成していく様々な活動についても積極的に考慮すべき。

第二章 人文学及び社会科学の学問的特性

第一節 対象

 基本的に人間によって作られたものや「価値」それ自体が研究対象。社会科学では、構成主体の行動の相互作用に関する因果関係のみならず、行動の背後にある「意図」の形成に関する因果関係の解明が必要。

第二節 方法

 人文学及び社会科学は、証拠に基づき事実を明らかにするとともに、論拠を示すことにより意味付けを行う。このため、対話的な方法(相対化の視点を前提とした「総合」のプロセス)による「普遍性」を獲得するとともに実証的な方法(意味解釈法、数理演繹法、統計帰納法)により「現実」を明らかにすることができる。

第三節 成果

 人文学及び社会科学が「分析」の学問であると同時に「総合」の学問であることから、「総合」による「理解」が、社会の側から成果をとらえた場合に意味を持つことを指摘。また、成果には「実践的な契機」が内包されていることに留意が必要。

第四節 評価

 人文学及び社会科学の評価に当たっては、学問の特性に起因する多元的な評価軸の確保の必要性、学術誌の査読の限界の認識の必要性、及び定性的な評価の重要性について留意が必要。

第三章 人文学及び社会科学の役割・機能

第一節 学術的な役割・機能

 人文学及び社会科学の役割・機能として、個別諸学の基礎付け(理論的統合)、実践や社会の中で生起する最先端の課題への対応がある。

第二節 社会的な役割・機能

 異文化コミュニケーションの可能性の探索や多文化が共存可能な社会システムの構築に向けた考究、個別諸学の専門性と市民的教養との架橋、政策や社会における課題の解決という役割を担っている。

 また、人文学の役割・機能として「教養」の形成がある。さらに、社会科学の役割として、「市民」における政策に関する基礎的な判断能力の涵養に向けての取組、人文学及び社会科学における、高度な「専門人」の育成という役割・機能がある。

第四章 人文学及び社会科学の振興の方向性

第一節 「対話型」共同研究の推進

 国際共同研究の推進、異質な分野との「対話」としての共同研究の推進。

第二節 「政策や社会の要請に応える研究」の推進

 政策や社会の要請に応える研究を積極的に推進する必要がある。その際、研究プロセスの中で経験的な妥当性を一定の証拠に基づき立証していくことが要請されるため、実証的な研究方法が不可欠。

第三節 卓越した「学者」の養成

 独創的な研究成果を創出できる人文学者及び社会科学者の養成が必要。そのために、幅広い視野を醸成するための基礎訓練期間の定着や独創的な研究成果を創出した学者の評価が必要。

第四節 研究体制、研究基盤の整備・充実

 国公私立大学を通じた共同研究の促進や研究者ネットワークの構築、並びに学術資料等の共同利用促進など、研究体制、研究基盤整備を抜本的強化が必要。また、現地調査を中心とした研究、シミュレーションの手法を用いた研究、実験的な手法を導入した研究の支援が必要。

第五節 成果の発信 

 読者を社会において獲得する視点とその延長として、大学等における教養教育の充実が必要。また、海外の理解と関心の獲得が必要。

第六節 研究評価の確立

 人文学及び社会科学の評価に当たっては、多元的な評価軸に基づいた評価が必要であり、特定の専門分野内部のみの評価にとどまらず、外部の視点も踏まえた評価が必要。また、定量的な評価指標を可能な限り設定しつつも、定性的な評価指標が評価の実質を担うべきであることを確認。

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