これまでの審議を踏まえた論点整理(たたき台)

1研究力強化のための研究環境の整備

○すべての研究活動の基盤となるのは研究者の自由な発想に基づいて行われる学術研究であり、我が国の大学等における学術研究は、研究の多様性を維持しつつ、独創的・先端的な研究活動を展開することにより、我が国における重厚な知的基盤の形成に貢献するとともに、将来のイノベーションの芽を育てるという大きな役割を担っている。
○我が国の将来の発展と文化の継承をもたらす学術研究は、現在の様々な課題に対し、適切に対応していくためにも必要不可欠であり、その効果的な支援を図ることが必要。
○大学等における学術研究を効果的に行うためには、多様かつ恒常的な教育研究活動を支える基盤的経費と、優れた研究を優先的・重点的に助成する科研費等競争的資金の双方による支援(デュアル・サポート)が必要である。また、基盤的経費により教育研究環境が確実に整備され、研究の芽が育てられてこそ、競争的資金による研究を効果的に行い、よりよい成果を早期に創出することができるため、公的財政支出において基盤的経費から競争的資金への単純なシフトを進めることは適切でない。
○しかしながら、近年、大学等の教育研究活動を支える様々な基盤的経費が削減されていることにより、基盤的な研究設備の購入等研究の裾野を広く支えるインフラストラクチャーの整備や、大学院生の指導等の研究人材養成に支障が生じているのが現状である。このままの状況が続けば、科研費等競争的資金による研究を行うための前提となる学術研究基盤が脆弱化し、科研費も含めたデュアルサポートが効果的に機能しなくなることにより、ひいては我が国の学術・科学技術全体の活力が失われていくことが強く懸念される。
○このため、デュアルサポート体制の強化を含め、特に研究面において、基盤的な環境整備を支援するための経費を確保していくことが必要となっているのではないか。

○一方、大学等における研究資源や研究成果について、社会と十分連携できていないという指摘や、我が国の大学等の研究者が十分に能力を発揮できておらず、結果として国際社会における我が国の知的存在感が低下しつつあるのではないかという指摘もあり、社会的責任や国際発信力を意識した研究活動を行うことが求められているのではないか。

○なお、応募された研究課題をピア・レビューによって採択することにより、人文・社会科学から自然科学までのあらゆる分野にわたる学術研究を支援するという科研費の意義はますます重要となっており、今後とも着実かつ的確に制度を運用していくことが求められる。

2基金化の拡大

○「審議のまとめその1」においては、「最先端研究開発支援プログラム」において基金化のメリットを活かした成果が既に現れていること、2600億円を超える科研費(平成23年度予算額)が効率的に使用されればメリットが多大であること、基金化は様々な変化に柔軟に対応できる強い研究費制度であること等から、科研費の基金化を計画的に進め、できるだけ早期に基本的にすべての研究種目について基金化することが必要であるとの提言を行ったところ。
○平成24年度予算においては、平成23年度の3種目に加え、基盤研究(B)、若手研究(A)の2種目についても、総額500万円を上限として基金化の対象とされ、複数年度での研究費の使用が可能となった。まだ使用されてはいないものの、研究現場からは、性格の異なる経費が混在することにより、煩雑な研究管理や研究費の執行管理が必要となるのではないかとの懸念が示されている。
また、科研費全体でみると、新規採択件数の9割は基金の対象となったものの、新規採択課題の配分額で見ると4割にとどまっている。
○基金化については、昨年秋の最先端プログラム中心研究者へのアンケート調査において、研究成果創出上の効果が2~3割あったとの回答が6割以上あるなど大きな効果が認められている。科研費についても、現在、23年度の対象種目の交付件数に基づくサンプリング調査を実施しているところ。
○今後基金化の対象とすべきと考えられる科研費の研究種目は、総額5000万円~十数億円という比較的大型の種目であり、これまで基金化してきた種目同様の総額500万円を上限とした基金では、研究費の年度をまたいだ柔軟な執行による研究の効率化、効果化という所期の効果を期待できない。また、基盤研究(B)や若手研究(A)同様に総額の3割程度の金額を基金化するとすれば多額の予算措置が必要となる。
一方、現下の厳しい財政状況において、これらの研究種目において後年度に必要な研究費を積むような方法で基金化を進めることは困難とも考えられる。
○このため、今後基金化を進めるに当たっては、後年度に必要な研究費全てを予め措置しなくとも、既に基金化された種目に係る研究費として相当額が措置されている「学術研究助成基金」を柔軟に活用することにより、他の種目においても研究者が必要な研究費を年度をまたいで弾力的に使用できるような仕組みを構築することも検討すべきではないか。

3新学術領域研究の見直しについて

〈※以下前回の資料2と同じ〉

○平成20年度に発足した「新学術領域研究」において構築された学術研究ネットワーク等の成果を踏まえ、研究のさらなる発展を図るためには、どのような支援が適切と考えられるか。

  • 「新学術領域研究の在り方に関するアンケート調査」(平成23年9月)においては、「既存分野の深化、新展開、水準向上を目指す研究や学術的重要性から推進すべき研究について支援すべきである」、「成果が認められた領域については、5年間の研究期間終了後も期間延長や発展的な再申請を認めてほしい」等、継続的な支援を求める意見、要望が多数あった。
  • また、最適な人材による研究グループ編成の必要性、(若手)研究者の情報交換や研究連携推進の必要性、安定した研究継続の支援の必要性から、特に公募研究の重複応募制限の緩和を求める意見も多数あった。

【検討の方向性】

  • 新学術領域研究の対象に既存分野の新展開、水準向上等が含まれることを公募要領等において明確化し、応募する研究者、評価を行う審査員双方に周知するとともに、既存領域の継続的支援については、次の2案について検討してはどうか。

支援方法

メリット

デメリット

(1)優れた研究成果を創出したと評価される領域については、領域の再申請も可能であることを明確化する
(この場合、研究期間の中断が生じないよう「前年度応募」を認めるかどうか、前年度応募・採択を認めた場合、実施中の研究(特に公募研究)の扱いをどうするか、審査基準をどうするか(領域設定時と同様でよいか)について検討する必要がある)

  • 構築された既存領域のネットワークを活かしつつ、実際に研究を継続することができ、研究の深化、新展開が期待できる。
  • 領域全体としては成果が出ていても、個々の計画研究の成果が芳しくない場合の当該計画研究の排除が困難。
    領域メンバーが固定化し、領域の固定化につながりかねない。
  • 前年度応募の場合、計画研究は「廃止・再交付」、公募研究は「継続」とすることが考えられるが、その場合、初年度の公募研究の分の予算が必要となり、新規領域の採択を圧迫しかねない。
  • 新規領域の採択を圧迫しかねない。

(2)科研費から若手研究者等の人件費を支出可能とし、複数PIの活動拠点として継続的な研究が行えるような組織を整備できるようにする。(25年度からの適用を前提としない)
(この場合、どのような場合に使用できることとするか、総額をどの程度に設定するか(他の領域とは別の総額、研究期間、審査基準等とするか)、大学等の研究機関に対し何を求めるか、審査体制をどうするか、について検討する必要がある)

  • 若手研究者等の育成に資する。
  • 目に見える研究拠点となり、研究の発展や国際発信力の強化が期待できる。

 

  • 科研費から人件費を措置することについて、他の事業との整理が必要(研究代表者本人の人件費や新規採用教員の人件費を科研費で充当することが原則となるおそれがある)。
  • 相当の予算が必要となり、当該領域の研究費や新規領域の採択を圧迫しかねない。
  • 研究期間経過後の研究者の処遇が不安定である。
  • 公募研究の重複応募制限の緩和については、多数の研究者に研究に参画する機会を広げるという観点から、次の2案について検討してはどうか。

(1)複数課題の応募を(上限あり(例えば3件程度)・なしで)可能とするが、受給制限を課し、1件のみ受給可能とする。
この場合、交付内定後の需給調整において混乱が生じないよう、予め優先順位を申請者に記載させ、審査においてはそれを踏まえて補欠採択課題を決め、交付申請辞退があった領域において補欠の課題を採択することとする。

(メリット)

  • 採択の可能性が高まり、安定した研究環境の確保につながる。
  • 受給を1件とすることにより、多様な研究者が領域研究に参加できる。
  • 受給制限により、不合理な重複や、研究費の過度の集中が排除できる。

(デメリット)

  • 受給制限のため、審査の際、公募研究の補欠採択課題を決定することが必要。
    成果を上げている研究者でも公募研究を1件しか実施できず、領域研究における情報交換等の機会が制限される。

(2)複数課題の応募を(上限あり(例えば3件程度)・なしで)可能とし、条件付きで複数受給も(上限あり・なしで)可能とする。
この場合、応募者には予め応募状況と優先順位を記載させ、応募受付後は、複数課題応募者を採択しようとする領域は、交付申請辞退者が出る可能性があるという前提で、必要に応じ補欠採択課題を決めておく。
複数課題採択者については、事務局において交付申請時に複数課題実施の意思確認を行い、また、研究課題の不合理な重複があると判断される場合、研究計画を打ち切る可能性があることについて同意を得る。この際、交付申請辞退ないし交付減額申請があれば、領域によっては補欠採択を行うことを可能とする。

(メリット)

  • 採択の可能性がより高まり、安定した研究環境の確保につながる。
  • 複数課題の受給が可能となり、成果を上げている研究者が多様な課題に取り組み、情報交換等を行う機会を得られる。

(デメリット)

  • 不合理な重複や、研究費の過度の集中を排除するための確認が必要となる。
  • 新学術領域研究全体でみたときに、公募研究に参加できる研究者数が減る可能性がある。
  • 審査の際に公募研究の補欠採択課題を決定することが必要。

4研究成果公開促進費の見直しについて

○研究成果公開促進費の在り方については、これまでのまとめにおいて、学術誌のクオリティを高めるため、査読体制の国際化、外国人編集委員や国際的視野による専任エディターの採用、欧文校閲体制の充実等により、編集体制を強化すべきであり、そのため、研究成果公開促進費の大幅な拡充と重点的配分が必要であること、我が国の学術誌の電子化出版への対応等、情報技術の発展と研究成果公開促進費との関係については、学術情報基盤作業部会における学術情報の流通の仕方についての議論も踏まえながら引き続き検討すべきであるとされていた。
○学術情報基盤作業部会においては、日本の学術情報発信機能を強化するための研究成果公開促進費の改善等について審議が行われた結果、「学術定期刊行物」について、電子化の進展や国際情報発信力強化に向けた改善が必要であり、そのため、ジャーナルの発行に必要な経費の助成、国際発信力強化のための取組内容の評価及びオープンアクセスの取組への助成の必要性という改善の方向性について提言がなされたところ。
○これを受け、日本学術振興会において制度改善による影響を検証しつつ、具体的な検討を行った結果、
(1)種目名を「学術定期刊行物」から「国際情報発信強化」とし、助成対象を「定期的に刊行する学術誌」から、「国際情報発信力を強化する取組」とすること、
(2)査読審査、編集、出版及び電子ジャーナルの流通に係る経費等国際情報発信力の強化に必要な経費を助成の対象とすること、
(3)事業期間を5年間とし、実施計画が刊行物の国際情報発信強化に向けた目標達成に向けて妥当なものか、これまでとは異なる新たな取組であるかを評価すること、
(4)従来の購読誌については、応募総額により応募区分を設定した「国際情報発信強化(A)」、「国際情報発信強化(B)」により助成を行い、新たにオープンアクセス誌の育成を支援するための応募区分として「オープンアクセス刊行支援」を設けること、
等について報告があった。
○科研費等による優れた研究成果を広く国際社会に発信し、我が国の学術研究のさらなる展開を促進するためにも、また、国民の研究成果へのアクセシビリティを向上させるためにも、電子化やオープンアクセス化等学術情報流通形態の急速な変化に応じた支援が喫緊の課題となっている。
○このため、上記報告を踏まえ、ジャーナル発行に関する新たな取組に対し、効果的な支援ができるよう、種目名の変更、電子ジャーナルの発行等に必要な経費への助成、新たな取組に対する評価及びオープンアクセス誌への支援等、研究成果公開促進費の制度改善を図るべきである。

5その他

○学術研究は必ずしも短期間に明確な成果が現れるとは限らず、また、研究分野により研究成果として捉えられるものが異なるという特性があるため、画一的・短期的な指標による評価にはなじみにくいという性質を有している。しかしながら、国費を投入して行われる事業については、可能な限り科学的根拠に基づく指標を用いながら政策立案及び評価を行い、その結果をわかりやすく説明するという社会的責任がある。
○科研費により行われた研究についても、一般的に研究活動に関し論文数や論文の被引用回数などの定量的な指標が用いられることが多い現状において、科学的根拠に基づく政策立案という観点から、どのような指標を用いて評価を行い、対外的に説明をしていくことが適当であるのか、そのためにどのようなデータ構築が必要であるのかについて、今後引き続き本部会において検討を進めていく。
○また、若手研究の種目の見直しや、基盤研究における研究期間及び研究費総額の設定の在り方等についても、これまでの議論を踏まえながら、引き続き議論を行っていく。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課企画室企画係

小久保、神田
電話番号:03-5253-4111(内線4092)
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