第6期研究費部会(第5回) 議事録

1.日時

平成24年1月26日(木曜日)15時00分~17時00分

2.場所

三田共用会議所3階大会議室(B~E)

3.議題

  1. 学術ネットワークの強化について
  2. 新学術領域研究における重複応募制限の在り方について
  3. 研究成果公開促進費の改善について
  4. その他

4.出席者

委員

平野部会長、深見部会長代理、甲斐委員、鎌田委員、小林委員、佐藤委員、鈴木委員、田代委員、岡田委員、北岡委員、金田委員、小安委員、鈴村委員、谷口委員、野崎委員

文部科学省

吉田研究振興局長、岩本情報課長、渡邊学術研究助成課長、鈴木情報課学術基盤整備室長、岸本学術研究助成課企画室長、他関係官

オブザーバー

独立行政法人日本学術振興会 小山内研究事業部長

5.議事録

(1)学術ネットワークの強化について 

 事務局より、資料2「学術研究ネットワークの強化に向けた検討事項」に基づき説明があった後、審議が行われた。

【平野部会長】  
 大変お忙しいところ第5回の研究費部会に出席くださいまして、ありがとうございます。もう1月も終わりになってきておりますが、昨年は一言では言えない大変ないろいろな問題がありました。本年は、少なくとも前を向いていけるような基盤づくりができればと願っております。この部会は、学術の基盤を支える大変重要な部会でございます。是非活発な御意見をいただきまして進めていきたいと思っておりますので、御協力よろしくお願い申し上げます。

 それでは議事に入らせていただきます。本日は、前回に引き続きまして、研究ネットワークの強化について及び前回見直しの必要性について議論がありました新学術領域研究における重複応募制限の在り方について、それぞれ議論を進めてまいりたいと考えております。また、本日、資料として配付していただいておりますが、平成21年7月の本部会においてまとめてありますように、学術情報基盤作業部会での議論も踏まえながら引き続き検討すべきであるとされておりました、研究成果公開促進費の改善について、昨年12月に学術情報基盤作業部会において取りまとめをいただいておりますので、これを受けて本部会でも議論をしていただきたいと考えております。

 新たな方向性を打ち出していくときには、いろいろな、事務的にも調整をすることが必要になることはわかっておりますが、ここでは特に、学術研究振興という観点に立ったとき、本来どうあるべきかというこれまでの議論を踏まえて、委員の皆さん方から積極的な御意見をいただきたいと思っております。これまで事務局に貴重な御意見をお寄せいただきましてありがとうございました。それでは、自由に御発言をいただき、できればその次のステップの方向性を出していければと思っております。御自由にどうぞ。

【岡田委員】  
 口火を切るというほどのこともありませんが、今事務局から御紹介いただいた中に私も意見を申し上げておりますが、それをうまくそれぞれ3つのパートに分けて書いていただいていると思いますし、見た限り、ごく一部はありましたが、それほど矛盾した意見や反対した意見は、ほとんどないと思います。ですから、かなり一方向に向かって、皆さんお考えがまとまっているのではないかと伺いました。ただ、一点気になったのは、資料2の1ページ目の一番下のポツのところで、講義負担云々という意見があります。確かに講義が非常に多いところや、各大学それぞれの先生によって負担の大きさは全然違うと思いますし、大変に負担の多い、重いところは本当にそれが大変だというのはわかりますけれども、しかし、研究者が教育を避けていると、又は、教育と研究は関わりがないなどと考えているように受け取られるのは非常にまずいと思います。教育と研究は両輪といいますか、むしろ、教育することによって自分の研究を深める場合や、研究の新しい分野を考える機会になることも多いわけです。検討事項をまとめた資料としてはこのままで良いと思いますが、今後本部会の意見として出るときには、教育と研究は相反するというか、それぞれの努力が分かれてしまうといった意見は少しいかがかという印象があります。

【平野部会長】 
 そのほかいかがでしょうか。

【小林委員】  
 ネットワークや共同研究という観点からいくと、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点があるわけです。そのようなものをどれだけ十分活用した上でこのような議論になっているのか。要するに、このようなことを考える上で、共同利用・共同研究拠点の位置付けを考えなくていいのかというのが、少し気になるところです。

【平野部会長】 
 今、御指摘のあった共同利用・共同研究拠点をどのように位置付けて、その上でいかに考えるかということについても、ある意味、少し触れておかなければいけないかなと思いますがいかがでしょうか。

【家委員】 
 前回欠席したもので、少し議論に乗り切れていないところがありますけれども、おまとめいただいたものを拝見すると、先ほど御指摘があったように、皆さん考えていることは大体一緒かなと思います。ネットワークの支援についても、支援のパスが増えることは歓迎するけれども、一方、限られた全体的な予算リソースの振り分けの問題ですから、それによって、犠牲とは言わないまでも、本来もっと増強すべきところがそちらの方に移ってしまうと、その辺のバランスのところを皆さん計りかねているのではないかという感じがいたします。ですから、今後、このような精神でもって、具体的にどのようなスキームでやるかということが出たときに、またいろいろな意見が出てくると思います。それで、ネットワークということに関しては、余り固定化すべきでないというのは、皆さんおそらく意見は同じだと思います。そのことで今の大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点との関係、それと、今の新学術領域研究の場合は、5年間という、昔に比べるとわりに時間をとった設定になっているわけで、5年ぐらいのタイムスケールでダイナミックに動かしていくというのは良い線ではないかなという気がします。しかしながら、実際に領域を運営している者の立場からすると、5年は短いというのがおそらく、多くの方の実感なのであろうと。その辺のバランスの問題じゃないかと思います。とりとめもないお話ですいません。

【小安委員】 
 ネットワークの支援ということに関してですが、これはやはり、やり方が結構難しいのではないかと思います。現在、かつての特定3領域に対する支援を行っておりますので、それがどうだったかということをよく見きわめて、良い方法を考えていくということが必要ではないかと感じました。また、人件費云々という話が出ていましたが、これもやはり、どの程度でやるかということは結構難しく、たしか特別推進研究のときに、非常に多くのポスドクを雇われる方がおられて、そのようなやり方が本当に良いのだろうかという議論があったと思いますので、少し考えたほうがいいのかなと思います。3つ目は、資料2の3ページ目の2段落目ですが、私は個人的に少し違和感を覚えました。科研費ですから、基本はやはりボトムアップの考え方でやっていくのが良いのではないかというのが私の意見で、この御意見からはトップダウン的な印象を持ったので、この点は、正直言って若干違和感を覚えました。

【谷口委員】  
 その違和感を覚えたと言われた文章は、私が書いたところでございます。あえて、そのような御批判も覚悟の上で書かせていただきました。これは皆さんで御議論をいただいて、適切な方向性に向かっていくということが基本でありますから、あくまでたたき台というようなことで考えていただければ良いと思います。その上の文章を読んでいただきたいのですが、研究投資が競争的資金に偏るというところがありますけれども、ちょうど科研費は、いわゆるトップダウン型の研究費と、いわゆる基盤的校費と呼ばれる運営費交付金等の、ある一種のはざまのような存在ではないかと思います。それをこれからどうとらえていくかというのが1つの問題だと思います。確かに、トップダウンのやり方は、決め方が悪いということで大きな批判があり、私もそれは非常に困ったことだと思っております。それは1つには、科学者コミュニティーの力が弱いということもあって、適切な政策提言などが十分になされていないというところに、1つ大きな原因があるのではないかと思って、これはむしろ行政側の問題というよりは、科学者コミュニティーの問題ではないかという点が1つございます。

 それからもう1つは、いわゆるボトムアップですが、基盤的校費がかなり削減されている。競争的資金である科研費等が増えると学術は守ることができると思っている方もいらっしゃるかと思いますが、必ずしもそうではなくて、いわゆる――これは私、実はここにいらっしゃる鈴村委員から以前に教わったことですが――いわゆる専門知と暗黙知があるわけです。その暗黙知の部分が、なかなか競争的資金では醸成されにくい。今の個人をサポートするという形ではなかなか醸成されにくい側面があるのではないかと思います。それは決して、論文の業績等には直接あらわれてこない。研究者の中で、お互いに伝心されたり、あるいは学生に伝わっていったりという、そういうものではないかと。また、そういうものがかなり疲弊しているのではないかと。科研費の議論をするこの部会の文脈に合うかどうかはともかくとして、それこそが、ある意味では、これからの日本の本当の学術の根幹を枯渇させていくのではないかという心配がございます。

 ですから、そのようなものも視野に入れて行っていかなければいけない、ということを申し上げた後で、あくまでこの「研究者の自由な発想に基づく個人研究を推進するだけでなく」と書いてありますのは、トップダウンにしろと言っているわけでは必ずしもなくて、適切な科学者コミュニティーとそれから行政に携わる方との上手な連携があれば、より良い策が考えられるのではないかと。つまり、いつまでも科研費を守り、そしてそれは学者の自由な発想で何をやってもよろしい、細分化された今の状況でそれなりの個人研究をサポートするということで、果たしてこれからの学術がさらに発展するかどうかという視点を、もう一度、あえて議論していただいても良いのではないかと。かなりこれはいろいろ反対の意見もあることは承知しておりますが、コミュニティーがしっかりしていれば何か打開策があるのではないかと思いましたので、あえてこのようなことを書かせていただきまして、皆さんのどうぞ忌憚のない御批判をいただければありがたいと思っております。

【平野部会長】 
 谷口委員の御意見だということを、今しっかり御説明をいただきました。そのほかどうぞ。

【小安委員】 
 今、御指摘のあった、前半におっしゃった部分に関しては、全く同感です。私の理解が間違っていなければ、科研費は、本来は大学の基盤的な校費で賄っていた知的生産部分を補うという目的で最初つくられて、それが競争的に配分されるようになった。ところが、後者がどんどん伸びていって前者がなくなってきてというところに関しては、全く同感でありまして、基盤的なところをやはりしっかりするということが本来であり、無から生まれてくる新しいアイデアを支えるものだということは、そのとおりだと思います。ただ、それをここが議論する場かどうかというところが、私もよくわからなくて、突っ込まなかったのですが、その点に関しては全く同意します。また、科学者コミュニティーの問題というのは確かにあると思いますが、その問題はその問題で、前に進むいろいろな議論ができればよろしいのではないかと思います。

【家委員】 
 先ほどの御発言、議論を触発する言葉を持ち出していただいたと思いますけれども、1つ少し気になりましたのが、ボトムアップということと、個人研究ということは、また少し異質のもの、別の問題かと思います。科研費の中には、コミュニティーやグループでいろいろ発想して、ボトムアップだけれども集団でやるという、それが正に新学術領域研究だと思います。ですから、トップダウンで、これは大事だからといってテーマと予算がついてきてそれに群がる、といったものではないということを非常に大事にしたいという発想は、皆さん共有されているのではないかと思います。おそらく同じことをおっしゃっているのだと思います。

【谷口委員】 
 正に同感でございます。それを認識した上でのことであります。

【平野部会長】 
 大変重要なところの意思の確認ができてきたかなと思っております。コミュニティーを通して基盤として出すものは当然、ここの中に入っておるという意味で、相互連携の上で、勝手ばらばらにやるといった意味ではないということは、御理解をいただいたのではないかなと思います。

【谷口委員】 
 つけ加えで申しわけないのですけれども、余り過敏になってもいけないとはいえ、先ほど御指摘があったように、日本が未曾有の大震災を受けて、経済的にもかなり逼迫した状況になっている一方で、科学不信が芽生え始めている傾向があると。この前、私、テレビを見ていて大変ショックだったのは、とにかくもう、国や企業の言うことは信用できないといったことを言っている人がいるわけです。そこで、私が一番ショックだったのは、大学という言葉が全く出てこない。学術コミュニティーということも出てこない。そのような難しい専門用語は出てこないのは当然かもしれませんが、科学、学術の力ってどこにあるんだろうというところが問われているのではないかと思います。その厳しい中で、一方では科研費は、紙切れ二、三枚書くと何千万円ももらえるような、研究者が好き勝手なことをやっているというような批判も、このコミュニティーではないにしても、一歩外に出るとそのような意見があるのも確かです。それを余り過敏に考えていくのもいけませんが、しかし、そのようなことを視野に入れながら、これからのこのボトムアップ型の研究をどうあるべきかということを考えていかないと、やがてどこかで大きな揺れが来たときに、私たちが果たしてそれに対峙できるかどうかという基本的な問題が、私はあると思っています。ですから、そのような問題をより深く議論していただくためにも、あえてこういうことを申し上げたということを、少し補足させていただきます。

【平野部会長】 
 そのほかいかがでしょうか。

【鈴木委員】 
 このような見直しを行う背景に何があるかといったことを少し考えてみますと、3年や5年の研究期間の期限が来てしまって、ばたばたやるようなことはやりたくない、3年や5年で研究を行うものもあるけれど、もっとゆっくりと息の長い研究も必要ではないかというのが、この背景にあると思います。例えば、5年で研究期間が終わり、非常に成果が上がった。けれどもそこでぱっと切られて、また新しい研究を考えなければいけないと。これに対する1つの解として、5年が終わった後に評価をして、非常に良いものは、例えば2割か3割かわかりませんけれども、継続を認めるなど、先があるということで問題のいくつかは解決される気がします。

 それからもう1つは、この方向でやるかどうかわかりませんけれども、先ほど御指摘のあった基盤的な資金が今ほとんどなくなってきているといったことに関連して、例えば10年は長過ぎますが、5年、6年、7年ぐらいの、例えば基盤研究(C)ぐらいの規模で、金額は少なくとも、基本的なところの研究はできるような、非常に息の長い研究種目があっても良いのではないかといったことも、背景にあるような気がします。それがネットワークを保持して欲しいといった要望の形になって出てきているのではないかという気もいたします。

【平野部会長】 
 今御発言のあった点も、ここで議論されておりまして、その背景を踏まえていることも確かであります。

【佐藤委員】 
 先ほどからのコミュニティーの議論ともかかわりますけれども、資料2の1ページ目の3つ目のポツは私が出した意見で、学術分科会でかつて発言しましたが、ほとんど無視されたので、再チャレンジしているところでございます。学術分科会に集まっていらっしゃる先生方は、基本的に研究と教育が一体的に行われる大学像を中心に考えておられます。私もそれはそうありたいと思いますが、現実はそうはいかなくなって、中教審、大学分科会などでも大学の機能分化といったことが言われ、科学技術・学術審議会の中でも、研究所も機能分化といった言葉が使われ始めています。大学の進学率が56%ですが、OECDの平均以下ですから、量的にはまだエキスパンドすることは十分考えられます。そうなりますと、大学の機能がさらに分化していって、研究活動と直接かかわらない高等教育機関も出てくることは予想されるところであります。

 そうなりますと、研究者コミュニティーをどう繋いでいくかが1つの大きな課題になるわけで、大学院まで深く専門を研究なさった方が、その研究と密接に結びつく分野に「いる場所」を定めるということが難しいことは当然考えられて、そうなりますと、「属する場所」と「いる場所」という言葉を私は使っているのですが、その「属する場所」、つまりコミュニティーと密接に繋がっているといった仕掛けをつくっておくことが必要であると思います。そうしますと、「いる場所」がたとえ教育を専門とする大学であっても、知恵を提供することができて、それを集めることもできますし、あるいはカッティングエッジな研究とずっと繋がっていれば、いつ戻ってきても人材としては活用できるということですから、そのような密接な、密度の濃いネットワークをつくっておくというモデルがこれで示されないかどうかということを言っているわけでございます。ですから、ネットワーク型研究の中身というよりも、むしろ、研究者養成の1つの道筋としてもそのようなことが有効になるので、是非これを打ち立てるときにモデルになっていただけないものかどうかと考えております。ただ、谷口委員のおっしゃるようなタシットナレッジをネットワークだけで形成するのは難しいかもしれませんから、それはそれで別の工夫が要るのかもしれませんが、いずれにしても、モデルとなるようなものを今回、いくつかでも打ち出していただければ、今後の研究者養成とも関連してうまくいくのではないかといった意見でございます。

【深見部会長代理】 
 ネットワークといった言葉がいろいろな意味に使われていまして、そのとらえ方をどのように考えていくのかといったところを少し考えていました。ここは研究費部会ですので、新学術領域研究によるネットワークをこれからどのように維持していくのかという議論で進めていると思いますが、もう少し大きく考えれば、新学術領域研究だけでなく、科学者のコミュニティーというのは、先ほど御発言がありましたが、大学共同利用機関のネットワーク、また、附置研究所のネットワークといったいろいろな形での連携が、どこでも模索されている状況だと思います。そのような状況の中で、研究費部会でのネットワーク、また別のネットワーク、そのように区別をして考えるのではなくて、科学者のコミュニティーという本当に広い意味での考えの中でネットワークの在り方をもう少し考えていくのは重要な視点ではないかと思いました。

【金田委員】 
 先ほど少し話が出ておりましたところ、また戻るような形で恐縮ですが、資料2の2ページ目の3つ目のポツのところに、私が非常に了見の狭いようなことを書いたのですが、人件費の充当が主目的となるプロジェクトが増加する恐れはないかといったことなのです。つまり、先ほどから御議論ありますように、基本的な基盤的な、基礎的なと申し上げても良いのかもしれませんが、研究のインフラストラクチャーは研究機関が準備すべきだと考えたいところだけれども、現実には競争的資金にどんどん移行している現実があるので、そうすると科研費が人件費の部分あるいはその基本的なインフラの部分も担うという話になり得る。もちろん必要やむを得ない、研究にとってそれが意味のあるケースもありますから、全てがだめだと言っているわけではないのですが、それがフォーマルに一般化してしまいますと、基盤的な部分がよりしぼんでしまうのではないかという恐れを感じるので、少し了見の狭いことを書かせていただきました。その点も先ほどから一般的にいろいろな懸念をお話しいただいておりますけれども、そのような文脈の中で位置付けてお考えいただければありがたいと思います。

【鈴村委員】 
 資料2の1ページ目の一番下の論点ですが、先ほど、研究と教育は一体に考えるといった御議論があり、これは正に、本来的に私はそう考えております。ただ、ここに書きましたことは、A4の1枚にびっしり書いた意見を2行にまとめられておりまして、ややポイントがずれているかなという気がしますので、くどいようですけれども、少しだけ発言させていただきます。

 学術研究ネットワークという際に、きっかけとしてここで検討のテーブルに乗るのが、科研費の新学術領域研究という入り口であることはよく承知しておりますけれども、学術そのものはやはり領域横断的にどうしても進出していくし、影響を受けてくるし、また同様に、国際的なバリアもないわけであって、むしろ日本の学術の国際的な意味での共同研究への貢献ということが、やはり問われるべき事柄が当然あると。それを前提として申しますと、日本の学術研究の仕組みと、非常にコンペティティブな外国における先端的な学術研究の基地との間で、制度的な意味でのギャップが非常に大きいと日々感じているところですし、おそらくそれは共有しているのではないかという気がするのです。例えば、非常にリーダーシップを持っている研究者が、さまざまなその国における学術研究をリプレゼントしながら、外国の学会のいろいろな招待講演等々を通じて、今我々の国での学術コミュニティーがどのような活動をしているかということを情報提供しながら、またそれによって将来の共同研究の根を張るということも、非常に大きな学術的な貢献だと思うし、それを持ち帰ることによって、むしろ教育の実も上がるということが、私はあると思います。そこで、教育という際に、そのような意味でのエクスターナリティーも含めてリーダーシップをとるような人が、国際的な活動を、時間数の制約等々で足をがんじがらめにされるということは、非常に大きな損失だと思います。おそらく、先ほどおっしゃったように、学術と教育は一体であるということで、問題がバイパスできるということでしたら、おそらくそのような問題は解決されておられるのでしょうけれども、必ずしもそればかりが学術コミュニティーの現実ではないわけでありますから、我々はそこに配慮して、リーダーシップという非常に希少性のある資源が、いたずらに疲弊しないような配慮をしておかないと、国際的な意味での競争的な場において、日本の学術コミュニティーがきちんと役割を果たすということに、1つの障害になり得る懸念を私は持ったので、やはりこのコンテクストでも、一応そういう意見は申し上げておく義務があると思って申しました。

 学術研究の成果が教育に対してポジティブなフィードバックを持つべきことについて、私は異論を唱えるはずはありません。ですから、それをむしろ効果的にするために、制度の方で配慮できることがあるだろうし、それがまた国際的な意味での学術コミュニティーの、いわば制度格差を埋める上で必要な配慮であろうと信じますということであります。書いた意見についてまだ全部言っていませんけれども、時間もございますのでこの辺にさせていただきます。

【平野部会長】 
 時間の制約をお考えの上、趣旨を御説明いただきました。そのほか、御意見ありますか。

【北岡委員】 
 新学術領域研究の位置付けについて、先ほど御発言のあった資料2の3ページ目の一番上のポツの2段落目ですけれども、「社会を先導する新たなアイデアを生み出すため、縦型でない相互連携のコミュニティーの構築も重要である」とあります。その「社会」という言葉を、「より普遍的な知」とか、「社会の中の学術」とか、そういった俯瞰的な意味で物事を考える機会として、新学術領域の研究が重要で、そのときに縦型でない相互連携をどうするかというときに、今までのシステムですと、わりとそのコミュニティーの偉い先生が音頭を取って人を集めるという形も多いと思います。私が2ページ目で少し意見を書いた、新学術領域研究ライトというのは、先ほど御発言もあった、予算規模は少なくともわりとロングタームでできる、そういった新たな種目を設けるとか、新学術領域研究の中を余り大きく変えずに、縦型でない相互連携のコミュニティーをどのように生み出していくのか、構築していくのかといった具体的なことを考えていく必要があるのではないかと思って書いています。それで、暗黙知といった、俯瞰的に物事を考える機会を設けることによる、コミュニティーの醸成は非常に重要でないかと思いましたので、一言申し上げさせていただきました。

【谷口委員】 
 その点に関して補足させていただきます。御指摘の件、おっしゃるとおりだと思います。縦型でないと私が書いた背景には、先ほど御発言のあったリーダーシップの問題と、それから国際性の問題、この2つがありますけれども、端的に言わせていただきますが、国際性といったときに、どうもこういうところで議論をすると、日本が遅れてしまうとか、これではどこかの国に抜かれてしまうとか、そのような議論になりがちです。私は国際性というものを考えるとき、そのような方向で考えるのは実は間違いであって、国家の利益を無視しろとは申しませんが、やはり世界で今何が起きているか、世界規模でどのような学術研究が発展しているか、それに対して日本が何を期待されているかという視点で物を考えることのが、本当の国際性を育んでいく重要なポイントではないかと、私は思います。

 もう1つはリーダーシップの問題ですが、残念なことに、日本の社会は縦型社会が横行していますので、細かいことは申しませんが、どこの分野でもそうなります。これは大学においてもそうです。したがって、リーダーシップというと必ず上意下達的な話になってしまう。そこに問題の根幹があるというところも言えなくもありません。これは一朝一夕には解決しない問題です。私の専門の分野ではありませんが、たまたまお正月にロバート・グリーンリーフという人の書いた『サーバントリーダーシップ』といった本を読んでおりまして、真のリーダーというのは、公共のために、皆さんのために奉仕する、いわゆるサーバントであるということを基本としたリーダーシップなのですね。そういったリーダーシップを発揮することこそが、これからの日本の学術の連携やコミュニティーの構築といったときに必須の出来事であるのに、相変わらずボスが研究費集めてだれかに、子分に配ったという、このようなパターンを想像するから、私のような意見に対して大きな反発が出る1つの要因ではないかと、私は思っております。

【鈴木委員】 
 大学共同利用機関の話が出てきましたので、少し補足します。確かに、大学共同利用機関は今のいろいろなコミュニティーをくし刺しにして、うまく機能していると思いますが、私はこの新学術領域研究で出てくるコミュニティーというのは、そのような現在の大学共同利用機関がやっているものを超えた、新たなコミュニティーのような気がします。これまでと違ったものが新学術領域研究によって非常に成果があがったと、さらに成果があがったものをまたサポートする。そのように、必ずしも今の大学共同利用機関のコミュニティーのネットワークではなく、新たなものが新学術領域研究からは出てくるような気がします。研究といった意味においてはですね。ですから、そういった意味では、大学共同利用機関のコミュニティー、ネットワークと、新学術領域研究で出てきたものとを、一緒にできるものは一緒にしてもよろしいですが、また新たに別個のものをつくり出すといったことも考えられますので、そのようなものはここで十分サポートしなければいけないという気がします。

【田代委員】 
 資料2の2ページ目の、どのような支援という具体的な例になりますと、総括的に全ての学問を並べてここで諮るということはとても難しい部分があるのではないかと思います。例えば人件費や研究会の費用をどうするか、これはおそらく分野によって相当違ってくるのではないかと思います。ラボを形成して、共同で研究実験を行わなければいけない、そういった形で行う研究と、個別の発想でもって、広くコミュニティーをつくりながら個々の研究が寄せ集まってやっていく、これはどちらかというと文科系に多いわけですが、分野別によってこの具体的な支援の在り方は大分違ってくると思うので、是非その辺の違いを少し勘案してくださって、分野における支援の在り方を議論していただくとありがたいと思います。

【平野部会長】 
 それでは、まず基本的な考え方や方向については、ここで意見を出していただいた件と、本日新たに御意見あるいは補足の説明をいただいたところを踏まえて、少し整理をもう一度させていただきます。そして、その整理に基づいて、また御意見をいただいていこうと思っております。

 基本的には私は、ネットワークの構築の大切さということについて反論はないだろうと理解しております。問題は、そのネットワーク、引き続くネットワークのために、新たに派生すべきところが抑え込まれないようにしてもらいたいという御指摘であると理解しております。そのためにはどうあるかというのが、また次のステップだろうと思いますので、そのような観点に立って、本日いただいた留意点を含めて整理をし、皆さん方にあらかじめ事務局から整理した結果を出していただいて、御意見をお寄せいただいた上で再度詰めていきたいと考えますが、よろしいでしょうか。

(「はい」の声あり)

【平野部会長】 
 ありがとうございます。大変貴重な、熱心な御討論をいただいて感謝しております。

(2)新学術領域研究における重複応募制限の在り方について 

 事務局より、資料3「新学術領域研究における重複応募制限の在り方について」に基づき説明があった後、審議が行われた。

【平野部会長】
 それでは次も、また新学術領域研究の件でありますが、これもまたいろいろな御意見があることはよくわかった上であります。重複応募制限の在り方についてです。ただいまの説明に関しまして、御意見等ございましたら御自由にどうぞ。

【小安委員】
 出ていた御意見の中には、賛成の意見も反対の意見もありましたけれども、重複制限は少し緩和したほうが良いのではないかということに関しては共通しているという印象を持ちました。その一方で、いつも思うのですが、研究費の過度の集中が何を意味するかというのが非常にわかりにくいと感じております。科研費の中では非常に綿密にといいますか、厳しい重複制限をかけられていますが、少し違ったシステムになると全く野放しになっている。e-Radがありますが、科研費との重複によって応募ができないというのは科研費しかないわけです。事前の意見に書いて無視されてしまったのですが、最先端研究開発支援プログラムの採択者はいくら重複しても構わないと言った瞬間に、この問題は全て破綻していると思っています。ですから、もう1回しっかり考え直して、過度の集中とは何を意味するのかをはっきりさせていただかないと、皆さんもやもやとした気持ちが除けないのではないかと思っております。

【平野部会長】
 これは大事なポイントでありますので、過度の集中とはということも含めて、御意見を賜ればと思います。そのほかでも結構です。

 私も資料を見せていただいて、緩和方向でよろしいのではないかというように理解しておりますが、今の議論のもとになるのは、ただ今御発言があったように、過度の集中とは何であろうかと。何度も話題に出ていますから、もうここで言うつもりはありませんが、他省庁等との問題もありまして、大変厄介なところであります。まず、科研費についての過度な集中とは何かということも含めて、それをベースにした制限の緩和という点で御意見いただければと思います。

【家委員】
 大変興味深いデータをお示しいただきまして、少し教えていただきたいのですが、資料3の4ページ目の重複応募採択件数の統計で、平成22年度現在でもこれだけの重複応募ができ、またこれだけの重複採択ができるということは、認識していなかったのですけれども、どのような例でしょうか。

【岸本企画室長】
 例えば、平成22年度で7件応募されている方が1人いらっしゃるのですが、この方は、特別推進研究と特定領域研究の公募研究を3つ、それから新学術領域研究の公募研究を1つ、基盤研究(S)、基盤研究(A)と、これで計7つということになっております。

【家委員】
 なるほど、分かりました。特定領域研究の残滓ですね。

【岸本企画室長】
 はい。それが採択の方にもあります。また、このデータは採択ベースでカウントしておりまして、採択後の交付辞退は反映しておりませんので、それで少し件数が増えているところもあるということでございます。

【家委員】
 分かりました。

【谷口委員】
 先ほど御発言があったことに関係しているのですが、皮肉った見方をしますと、先ほどから議論が出ておりますように、科研費の基本は個人の自由な発想を尊重するというのが基本で、大変結構だと思うのですが、個人の自由な発想はしても良いけれども、1つしかしてはいけない、1つしか応募してはいけないと言っているようにも聞こえなくもない。それはやはり、応募をするときに縛りをかけられてしまうと、個人の自由な発想さえ縛りを食ってしまうという側面もあると思います。研究費に係る具体的な問題はともかくとして、縛れば縛るほど、学際性がますます乏しくなっていくという側面もあると言えるのではないかと思います。

【平野部会長】
 そのほかいかがでしょうか。

【甲斐委員】
 質問ですけれども、資料3の4ページにあるのは、科研費全体の重複応募のデータであると今、ようやっとわかったのですが、いろいろと重複応募できて、採択された場合に1つしか選べないという場合は多くありますので、その点はよく理解できたのですが、前の重点領域研究だったときの重複応募は何件ぐらい、何%ぐらいあったかというデータはないのでしょうか。

【岸本企画室長】
 申しわけありませんが、データが残っていないという状況でございます。

【甲斐委員】
 重複応募を認めた場合の、申請件数の増大等、いろいろなデメリットについて挙げてありますけれども、例えば、重点領域研究、特定領域研究のときに公募研究の代表者の重複応募が可能だったことは、研究費の過度の集中には当たらないのではないかと思います。金額的にも公募研究であれば多大ではないですし、件数の増大についても、以前より多くなることは考えにくいので、以前行われていた重点領域研究や特定領域研究で可能だった重複応募を、新学術領域研究でも可能としたときのデメリットは、余り考えられないのではないかと感じました。

【平野部会長】
 部会長として、これは言ってはいけないのかもしれませんが、今御発言のあったように、重点領域研究や特定領域研究の枠の中での比較をしながら見たときに、以前、いろいろな審査をやっていた経験から申しますと、応募件数が少し増えるのは大変ですが、基本的には、それよりもしっかりと事が動いたほうがよろしいのではないかというのが、現場に対しては望みたいわけであります。問題は、ある研究者に集中したときに、エフォートといいますか、気配りといいますか、しっかり研究の中を把握しながら、本当に動いておるかどうかは、審査員が見てくださると、私は性善説的に立つものですから、制約も難しいと思いながらであります。少し緩和の方向でということは基本的な考えとしながら、もう一段進んだ議論として、手続きについても含めて御意見があったらお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。

【野崎委員】
 そもそも、重複応募を厳しくしようという議論がおそらく何年か前にこの場であったのではないかと思いますが、そのときには、何が理由で厳しくなったのかを教えていただけますか。例えばエフォート管理がしっかりと数字として出てこないからとかでしょうか。

【平野部会長】
 事務局からお答えいただきますが、資料3の2ページ目にもありますとおり、平成20年の7月に、審議のまとめとして基本的な考えがまとめられております。ここで皆さん方で議論をし、懸念を抱いているところがこの背景にあったと私は理解をしておりますが、事務局それでよろしいでしょうか。

【岸本企画室長】
 はい、そうでございます。研究費についての府省共通のシステムであるe-Radができまして、そこで研究費の過度の集中や不合理な重複があると指摘されている状況であったことと、新学術領域研究がちょうど立ち上がるところで、重点領域研究や特定領域研究での採択状況を踏まえた形で、新しくどのようなルールをつくるのが適切なのかを検討する時機であったということで、このような形になったと把握しております。

【平野部会長】
 この当時の私の記憶をたどってみますと、御理解いただいておりますように、他の省庁からの費用を研究費も含めて全て書き出すということがありましたし、限られた予算の中では、重複をしないでエフォートの集中が必要ではないかといった議論もあったと思います。一方で、良くない場合があるのは、他省庁等を含めた申請の一覧を示すと、審査のときにフィルターがかかり、それぞれの独立した委員会で審査をしたときに、別のところへ応募しているからそちらで採択されるであろうといった予測のもとで、その方が不採択になると、非常にせっかくよく仕事をやられる方の部分が切られることが起こり得るということについての懸念もありました。等々を含めて、最終的にはこのような方向に来たと、私は理解しております。何か今の点について御意見がございますでしょうか。

【北岡委員】
 資料3の1ページ目の、新学術領域研究の項目を見ますと、例えば上から5番目の項目ですが、「公募代表の応募・採択は1領域のみ」でバツとなっているのですが、左を見ると、「A領域の公募代表&B領域の公募代表」は可能となっている。公募研究というのは、それぞれの領域が責任を持って採択を決めるわけですから、新しいアイデアを全く異なる領域に応募するということを最初から門前払いするのは、機会の多様性の確保等の観点からも、やはり問題ではないかという気がします。

 一方で、新学術領域研究の、上から4番目の項目の「A領域計画代表&B領域計画分担は不可」とあるのですが、これについては少し微妙で、A領域の計画研究の代表者であるということは、必ずその研究の非常に重要な分野になっているわけで、先ほど御指摘もありましたサーバントリーダーシップをとるという意味では、かなり代表者の責任があるので、こちらに関しては議論が要ると思うのですが、公募研究の代表者に関しては、A・B領域の重複応募を認めるといった方向も検討する必要があるのではないかと思いました。

【平野部会長】
 次のステップへの重要な議論のもとだと思います。そのほかございますでしょうか。

【野崎委員】
 おそらく、このように重複応募を厳しく制限した結果、研究の能力としてはそれほど高くはないけれども、若い人にチャンスが広がったという現実があると思います。そのようなことが目的の中にあったのかなと思って、先ほど少し質問したのですけれども、重複応募を少し緩和することによって、より研究能力の高い人がより多く研究するのだろうなと感じました。

【平野部会長】
 懸念ですね。分かりました。そのほかいかがでしょうか。

【深見部会長代理】
 過度の集中というところが非常に問題になっていますけれども、本当に多額の研究費を取っている人のことを考えれば、公募研究の採択で研究費をいくらもらっても過度の集中にならないことはわかります。ただ、限られたところで、より多くの人にお金を分けようというのが、重複制限をかけた一番の理由だったと思います。こうした重複制限によってどの層が有利になって、どの層が不利になったかというと、一番打撃を食らったのは、そこまで大きな研究費は取れないけれども、ある程度は取っていた方、小金持ちというか、その辺の方が一番打撃を受けたのだと思います。重複制限を厳しくすることによって、ラボの普通の規模のPIをやっているぐらいの人たちが、非常に影響を受けて、ラボの運営に対しても非常に厳しくなってきているのが現状なのだと思います。そこで、私としては少し制限が厳し過ぎるだろうと思っていますので、これを少し緩めるということに対しては非常に賛成します。ただ、以前と同様に、公募研究を6件や7件などいくらでも採択されるようにまで緩くすることに対しては、やはりそれは良くないのではないかという気がします。そのようなところも加味して、どの辺まで広げるのが良いのか、これをもう少し考えていくことが一番、今の路線としては妥当なところではないかと思います。

【平野部会長】
 いくつか御提案がありましたけれども、ここで少し整理をさせていただいて、これまでの重複の制限について資料がもう少し加えてあれば、それも少し出していただきながら、引き続き次回以降、最終的な判断に入っていこうと思っております。この件について、御意見があれば、事務局へ是非、具体の意見も含めてお出しいただきたいと思います。

(3)研究成果公開促進費の改善について 

 事務局より、資料4-1及び4-2「日本の学術情報発信機能を強化するための科学研究費助成事業(科学研究費補助金(研究成果公開促進費))の活用等について」に基づき説明があった後、審議が行われた。

【平野部会長】
 ただいまの御報告に対して、御質問、御意見等ございましたらお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

【鈴村委員】
 手短に2つだけお尋ねしたいのですが、キーワードとして国際情報発信力強化への取り組みに係る事業計画というものが出てくるのですけれども、事業計画という際に、具体的に何を考えておられるのか、少し例でも挙げていただかないとイメージがよくわかりません。それから、スタートアップ援助というコンセプトが出てきて、これはこれでおそらく、スタートアップなのだから時限的というのはよく分かるのですが、そうすると、継続的に補助を受けている、非常に基幹的な役割を持っているジャーナル、これは一体どうなるのかということは、スタートアップ援助というコンセプトが強調されるほど、ややわかりにくい。その2点、お願いいたします。

【鈴木学術基盤整備室長】
 まず、第1点目でございますが、国際情報発信力強化に関する取り組みということでございます。これにつきましては、例えばですが、いくつか想定しておりますのは、まず、学協会によっては、専任の編集者の必要性はあるのだけれども、なかなか雇うことができないということで、例えば目標に、これは誤解されるとまずいのでわかりやすい例としてですが、インパクトファクターを1ポイント上げる、2ポイント上げるといったことを目標にして、編集力を強化することで専任の編集者に相応しい、その能力に見合った人を雇って、そのような取り組みをする。若しくは、新たな編集企画を計画する際に、どこの学協会も、外国の著名な方が編集委員に参加されているかと思うのですが、なかなか経費の関係で一堂にお集まりいただくことはできないという場合、ほとんどメール会議等になっているという状況があります。そのような部分に関して、年に1度くらいはお集まりいただいて、合宿形式で徹底的に討論して、新たな企画を打ち出すといった取り組みをしていただく。さらに、これは人文・社会系が中心になりますが、いまだ電子ジャーナル化されていない学協会の場合には、これを使って紙から電子ジャーナルに切りかえていくといった取り組みをしていただく。そのほか、学協会に対するヒアリングでもいくつかの取り組み例は出ております。

 それから、2点目の、オープンアクセスのスタートアップでございますが、もちろん現在の有料での購読誌モデルで、ある程度の我が国を代表するジャーナルといった形をつくっている学協会の学術誌もございます。それらの学協会に関しましては、オープンアクセスへの切り替えといったような、新たな国際情報発信力の強化の取り組みを行っていただく。それを審査して助成する仕組みでございます。オープンアクセスに関しては、報告書にも記述があるのですが、まだオープンアクセスジャーナルのしっかりとした位置付け、価値が固まってはいないわけではございますが、1つ、そのオープンアクセスジャーナルという形態の中で、我が国のジャーナルの発信力を高めるということに挑戦するという形で、有料購読モデルからオープンアクセスに切りかえることを検討されている学協会がいくつかあると聞いております。そういった学協会の場合でも、やはり全く無料になると、全て投稿者側からの負担ということでは、購読も伸びないといったことも考えますと、その立ち上げの部分だけでも支援していただければといった意見がございますので、そこを支援するということです。決して、有料購読誌のモデルを否定するということでは全くございませんで、オープンアクセス誌のスタートアップも、重点支援ということは掲げておりますが、その対象は1件か2件を想定しているところでございます。

【平野部会長】
 よろしいでしょうか。

【鈴村委員】
 時間がございませんので、結構です。

【平野部会長】
 そのほかいかがでしょうか。

【鈴木委員】
 資料4-2の19ページですが、下の(3)に「当面の主な検討課題」とあって、その中に科研費の研究成果公開促進費の改善の方向性の検討とあります。ここだけを取り上げて見ると、少し何か違う気がします。例えば、科研費による助成だとどうしても期間が限定されていて、立ち上げしかサポートできない。しかし、いったん立ち上がったもので、良いものは継続しなくてはいけないとなると、ではそれをどうするのかというのが次に出てきます。ですからやはり、ここの検討課題では、例えばJSPSとJSTとが連携して、国際情報発信の日本の戦略のようなものをつくった上で、その中で科研費の役割とJSTの役割とをはっきりさせないと、なかなか応募するほうもはっきりしないと思います。今後のスケジュールも含めて、その辺はどのように考えておられますか。

【鈴木学術基盤整備室長】
 おっしゃるとおりだと思います。学術情報基盤作業部会でも、本来はそちらを議論した上で科研費の改善を議論するのが筋であるということは、何度も、委員の方々からも意見が出ておりました。ただ、科研費の改善ということを考えますと、先ほども御説明差し上げましたとおり、審査体制、審査委員の選定から改善を御検討いただくことを考えますと、時間的に見ますと、来年度の公募、25年度の公募をにらんでも、今ごろこのような形でまとめるのが、時間的にぎりぎりの線に近いという事情がございます。そこで、先ほど資料4-2の7ページの「その他」を引用させていただきましたが、先に個別論が来るのですが、科研費の改善をこのような形でまとめて、研究費部会に御議論いただく。それとあわせまして、学術情報基盤作業部会で、JSTやNIIの支援の仕組みとあわせて、全体的に議論をしていくということで、夏ごろをめどに、それらを含めた全体の報告書を取りまとめる予定にしております。順番が逆というのは、おっしゃるとおりだと思っておりますが、後から検討することにはしております。

【平野部会長】
 今、御発言ありましたように、ここで大もとのところを議論いただいて、改善の各個別事項については配分機関である日本学術振興会において御検討いただければと、考えております。そのほか、御意見あったら伺います。

【家委員】
 科研費について、このような方向で進めていただくのは大変結構だと思いますけれども、御承知のように、今、どこの学協会でも学術誌の出版に関しては、どのようなビジネスモデルをとるかは非常に悩ましいところで、一方で海外の大手の商業出版社の圧倒的な力の前に苦慮しているところですが、この科研費の公募・審査に当たっては、母体となる学協会の財務状況はそのファクターに入るのでしょうか。少し答えにくい質問をしてしまったかもしれませんが。

【鈴木学術基盤整備室長】
 学協会そのものの財務状況というよりは、今年度から学協会の出版事業における財務状況をしっかり把握した上で審査を行うということになっているようでございますので、そこの部分はある程度把握することは必要ではないかと思っています。具体的な審査の基準等につきましては、先ほど御指摘いただいたとおり、実際の配分を行う日本学術振興会で御検討いただくのがよろしいのではないかと考えているところでございます。

【谷口委員】
 このような地道な、かつ継続的な努力をなさっておって、大変敬意を表します。一方で、私は生命科学、医学の分野が専門ですので、それ以外の分野はよく存じませんが、日本からこのような雑誌を発信するというのは、何回も何回も話が出たのですが、実際、ある程度いくつかの雑誌はあるのですけれども、なかなか国際性といったレベルに達しない現実もあろうと思います。それはなぜか、という分析は非常に重要ではないかと思いますのと、もう1つ、どうしても日本が日本がという考え方でやっていきますと、国際性を取り込むといった、例えばエディターインチーフに外国人を呼んでくるなどという発想がどうしてもできないのです。エディターインチーフが外国人でなくても、シニアエディターの中のほとんどが外国人であったり、国際的な様相を呈しておったり、あるいはどこかのジャーナルと提携したり、そのような考え方の思い切った発想もできると思います。日本が日本がといった発想だけで進んでいくと、限界があるのではないかという印象を持ちますが、ほかの分野では違うのかもしれませんので、いろいろ御意見など承れればと思います。

【平野部会長】
 関連するかどうかわからないのですが、私が聞いているいくつかの学協会では、日本がより主体性はとるけれども、日中韓を中心にして、アジアの学協会が連携して、電子ジャーナル化をしたらいかがかという検討も進んでということを聞いております。例えばそのような場合も、この中の検討事項に入るのでしょうか。

【鈴木学術基盤整備室長】
 学術情報基盤作業部会でもいろいろ議論がありまして、「我が国の」と言っておりますが、日本の学術コミュニティーを基盤とすることで、編集機能の核の部分が日本の学協会にベースを置いていれば、場合によっては外国の大学に限らず、外国の商業出版社と組んで行うといった取り組みも、十分あり得るのではないかと思っています。ただ、1つだけ、日本の学術コミュニティーを基盤とするというところだけ守られていれば、逆に日本の中のものを利用するといった縛りはかけないほうが良いだろうというのが、学術情報基盤作業部会での議論でございました。

【平野部会長】
 念のために、今少しお伺いしました。そのほかいかがでしょうか。

【鈴村委員】
 日本語のパーセントという話が先ほどございました。実際、私の経験として、英文誌として出しているものでも、学会誌であると、学会に関する情報などが日本語で出ているということがあります。例えば私はスタンフォードで実際に見たのですが、どう探しても雑誌がないので、探し当ててみたら東洋学のコーナーへ行っている。逆に今度は、日本の、例えば文学に関する雑誌などで、無理をして50%を超えて英文誌などとすると、下手をするとどこへ行くかわからない。学問の分野ごとに、例えば文学であれば、勉強したい人は日本語で勉強して、アクセスを求めてくるわけですから、余り中身にかかわらないことで、機械的な基準によって一様にはしないでいただきたいという気がいたします。

【平野部会長】
 先ほど御指摘いただいた、国際発信性とは何かというところの問題ではないかと思っておりますので、そのあたりもまた検討いただければと思います。

 それでは、本日の御意見を参考にして、学術情報基盤作業部会及び配分機関である日本学術振興会において、関連事項について御検討いただきまして、次回、この部会で報告をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

(4)その他 

 事務局より、参考資料1「平成24年度予算案について」及び参考資料2「複数の科研費による共同利用設備の購入について」に基づき説明があった。

【平野部会長】
 御質問をどうぞ。

【家委員】
 厳しい予算の状況の中で基金化を可能な限り進めていただけること、大変感謝しています。テクニカルな質問ですけれども、総額が500万円を超えるものについては、基金の分と補助金の分が混在するわけですが、各年度の配分額は、どのようにまぜて配分するのでしょうか。

【岡本企画室長補佐】
 500万円は複数年の研究期間全体で500万円になります。既にこの基盤研究(B)、若手研究(A)については、応募をいただいております。年度ごとに必要な額が応募されておりますので、これから審査で査定をしていきます。そうすると、全体の課題に対する研究費の額が各年度決まってきますので、その割合などに応じてこの500万円を各年度に割り振るということが1つのやり方として考えられるのではないかと思います。

【家委員】
 それからもう1つ、参考資料2の共用設備が買えるというのは、大変フレキシブルにしていただいてありがとうございますと言うしかないのですけれども、少し取り越し苦労かもしれませんが、研究者がその機関から転出するときに、持って行きたいと言ったときに若干問題が生じる感じがします。それは研究者の問題ですので、研究機関でよく検討する必要があるかと思います。

【平野部会長】
 私もこれをお伺いしたときに、学長をやっていた立場からすると、問題が起こらないよう、あるいは事務手続上、余り研究者に過重な負担がいってしまわないよう、良い形で適正な措置をお願いしたいというのが、加えての望みであります。

 本日は大変熱心な御議論をいただきまして、ありがとうございます。次回は4月16日に設定されておりますのでよろしくお願いします。 

―― 了 ――

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課