資料4 科学研究費補助金の基金化に向けた日本学術振興会・学術システム研究センター科研費WGでの検討状況

平成23年2月18日

科学研究費補助金の基金化に向けた日本学術振興会・学術システム研究センター科研費WGでの検討状況

 平成23年度予算案において、科学研究費補助金のうち、基盤研究(C)、挑戦的萌芽研究、及び若手研究(B)の新規採択課題については、独立行政法人日本学術振興会に造成される基金(学術研究助成基金)により研究費が交付される仕組みとなることが盛り込まれている。予算が成立し、また日本学術振興会法の一部改正が成立した場合に、速やかに研究費を助成できるよう、あらかじめ準備しておくことが必要と考え、本ワーキング・グループで、実務を担当する立場から制度運用に当たっての留意点等について検討している。なお、この資料は、文部科学省科学技術・学術審議会での円滑な議論に資することを期待し、検討状況を中間的に整理しているものであって、最終的なものではないことを申し添えさせていただく。

 今回の基金化は科学研究費補助金の一部の研究種目を対象としており、基金化されない研究種目(科学研究費補助金)と一体的に制度運用されることを前提とし、また、既に日本学術振興会で運用されている先端研究助成基金での事例も参考に検討している。

 科研費は長い歴史・経験を活かし、公正かつ透明性の高い審査の仕組みが構築されており、ピア・レビューが適正に機能していることで高い信頼を得ているものであり、基金化された後であっても、研究種目の目的・性格に照らして優れた研究課題をピア・レビューにより選定することに変わりはない。また、既に、多くの競争的資金の中でも柔軟な研究費の使用が可能になっているものである。これらのことから、今回の基金化により可能になるとされている事項に関連した審査や研究費の執行における課題を抽出し、現時点における本ワーキング・グループとしての考え方等について、以下のとおり中間的に整理している。

1.今回の基金化により可能になると考えられる事項

 基金化により、日本学術振興会には、2年目(平成24年度)以降の配分に必要な予算を含め、全額初年度(平成23年度)に交付され、日本学術振興会で基金として保有することから、以下のことが可能になると考えられている。なお、基金による研究費も補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律の適用を受けることが、独立行政法人日本学術振興会法の中で明文化されることが予定されている。

(1) これまでは、毎年度の予算による研究費補助という性格から、複数年度にわたる研究計画であっても、毎年、年度当初に交付予定額の通知(内定通知)を受けた後に、交付申請書を提出し、交付決定を受けていた。基金化によって、日本学術振興会では複数年度分の予算を全額保有するため、複数年度にわたった交付決定を一括で行うことが可能になる。

(2) 毎年、交付請求(研究費の請求)を行い、6月中下旬頃に研究費が送金されていた。基金化後も、毎年の交付請求は必要と考えられているが、複数年度にわたった交付決定により、2年目以降は、交付内定・交付申請・交付決定の手続きを経る必要がなくなるため、配分時期の早期化が可能になる。

(3) 毎年度提出を求めている実績報告について、基金化後は研究期間終了後の1回となる。ただし、毎年度の研究状況は実施状況報告として提出を求めることが考えられている。

(4) 研究期間(補助事業期間)中は、未使用額の翌年度への柔軟な繰越や、予定外の研究進展に伴う研究計画の前倒し、及びこれに伴う研究費の前倒し請求・執行が新たに可能になる。

(5) 年度をまたいだ契約、複数年度契約・一括支払い、翌年度に繰り越した研究費と翌年度分の研究費の合算使用など研究費執行の柔軟性が大幅に高まる。

2.検討課題の抽出

 上記「基金化により可能になると考えられる事項」を踏まえると、単年度予算の制約の下で科研費の抱えていた執行上の課題を概ね解消できるものと考えられるが、主に以下の点について、あらかじめ検討しておくことが必要と考える。

(1) 審査に関することとして、研究計画の前倒し執行と大幅な研究計画の変更への対応

(2) 研究費の執行に関することとして、
 1大幅な使用内訳の変更(費目間流用の制限)の運用基準
 2補助事業期間中における研究の中断、廃止
 3柔軟な研究費の執行

(3) 上記以外に、研究成果の公開や適正な研究費の管理の徹底

3.検討に当たっての基本方針

 補助金から基金による助成金に変わることで、あらかじめ予想できない事態にも対応できる、研究の進展に応じた柔軟な研究費の使用が可能になることが期待されているものであり、現状よりも規制が厳しくならないように、また研究現場での混乱が極力生じることなく、適正な研究費の管理が徹底されるよう配慮する。

4.検討状況

(1) 研究計画の前倒し執行と大幅な研究計画の変更への対応
 研究費の前倒し請求、執行が可能になることで、研究期間の短縮を伴うような計画の前倒しや、研究期間の短縮を伴わないまでも、大規模な前倒し執行がなされるおそれがあり、その対応について検討を行った。

○ これまで、研究計画の大幅な変更を行おうとする場合は再審査を受けることになっている。大幅な変更とは、当初採択になった研究課題と変更後の研究課題が同一のものと考えることが困難なものなどが該当し、1研究目的の変更・研究課題名の変更、2内約を受けた研究経費の年次計画の変更、3研究経費の減額・研究期間の短縮等が挙げられている。

○ 基金化により、複数年度にわたった交付決定がなされ、研究の進展に応じた研究費の前倒し請求が可能になることが挙げられている。このため、上記「2内約を受けた研究経費の年次計画の変更」は可能になるものと考えられ、研究者にとって非常に有益なことである。しかし、研究期間の短縮を伴うような前倒し請求については、研究が予想以上に進展したとはいえ、例えば2年間で研究費を使い切って研究が終了した場合は、基盤研究の公募対象(3~5年の研究計画)に該当しないばかりか、研究計画の妥当性や研究遂行能力等について慎重に審査した結果を軽視することになる。このため、研究目的の変更や研究課題名の変更と同様、研究期間の短縮は大幅な研究計画の変更に該当し、基本的に認めるべきではないと考える。予想外に研究が進展し、研究期間の短縮が必要となった場合には、研究計画の大幅な変更や、研究完了の届出などの既存の仕組みを活用し、再審査に付すことが考えられる。

○ 既に導入されている最終年度前年度応募、研究完了に伴う新規応募の仕組みとの整合性についても検討が必要である。研究費が途切れる不安を解消することを狙いの一つとした「最終年度前年度応募」の仕組みの趣旨に照らせば、基金化されたものも同様に扱うことが妥当と考えられる。しかしながら、最終年度の前年度までに前倒し請求により研究費の大半を使い切った上で応募してくる事態を容認することは適切ではないと考える。また、研究完了に伴う新規応募についても同様である。このため、前倒し請求については、例えば、「各年度交付予定額の50%までは承認を得ることなく必要に応じて行えるが、これを超える場合はあらかじめ承認を得る」とすることが考えられる。

参考1 最終年度前年度応募
 研究期間が4年以上のもので、当該研究の進展を踏まえ、研究計画を再構築することを希望する場合は、重複制限の特例として新規応募が可能。

参考2 研究完了に伴う新規課題応募
 原則として、継続課題を辞退して新しい研究課題を応募することは認めない。ただし、研究が予想以上に進展し、当初目的を達成したため、研究種目を変えて更なる発展を目指す場合は、完了届・理由書を提出した上で、新規応募が可能。(なお、理由書により完了していないと審査会が判断すれば、新規課題は審査に付されない。)

 

(2) 大幅な使用内訳の変更(費目間流用の制限)の運用基準
 交付申請書の記載事項を変更する場合は、承認手続きを要する事項、承認手続きを要しない軽微な変更、届け出を要する事項のいずれに該当するかの判断基準を補助条件として定めている。複数年度での交付決定がなされることに伴い、特に承認を要する事項について検討を行った。

○ 現在の交付の補助条件のひとつに、交付申請書の記載事項の変更を行う場合に承認を要する事項を定めており、1研究組織の変更、2大幅な費目間の流用(交付決定額(直接経費)の50%を越える流用を行う場合。ただし、300万円以下の流用は該当しない。)、3研究の廃止がある。

○ 「大幅な費目間の流用」については、これまでは各年度の交付決定額を基準にしていたところ、これまで基盤研究(C)や挑戦的萌芽研究、若手研究(B)で該当する課題が生じなかったが、複数年間分の交付決定額を基準とすることから、交付決定額の300万円という基準は現状に比較すると規制強化になる。しかし、今回基金化されるものは、申請総額が500万円以下と小規模なものであり、当面はこのままとし、今後の状況をみて検討することが考えられる。

参考3 費目間流用の制限
 直接経費の内訳について、各費目の額を、交付する直接経費の総額の50%未満(直接経費の総額の50%の額が300万円以下の場合は、300万円まで)を超えて変更しようとする場合には、承認を得なければならない。

 

(3) 補助事業期間中における研究の中断、廃止
 補助事業期間が複数年度になることに伴い、研究の中断や廃止の扱いについて見直すべき点はないか検討した。

○ 現行制度では、研究代表者が産前産後の休暇及び育児休業を取得する場合は研究の中断が可能になっているが、例えば、急な病気により当該年度の研究目的の達成が困難になった場合は、研究廃止の手続きがなされ、翌年度以降の継続の内約も消滅する。また、補助事業期間中に研究代表者が申請資格を失った場合や、欠けた場合(死亡・失踪)は研究を廃止しなければならない。

○ 基金化後も、育児休業等に伴う研究中断の仕組みは必要であり維持されるべきものと考える。他方、基金化後は補助事業期間が複数年度となることから、病気等により一時的に研究の遂行が困難となっても、補助事業期間内に研究目的を達成できる場合も十分に考えられる。1年以内の期間であれば研究の中断を認めるような柔軟な対応が望まれる。ただし、いずれの場合においても、研究分担者は研究が可能であり、研究目的達成のためには、分担部分の研究は中断せずに実施する必要があると研究代表者が判断した場合は、研究を継続できるようにすることも考えられるのではないか。

 なお、研究者としての身分を喪失するなど、研究代表者が申請資格を喪失した場合は、仮に一時的なものであり、複数年度の補助事業期間中に復帰する場合であっても、現行制度と同様に研究の廃止とすることが考えられる。

参考4 研究の廃止
 研究代表者が応募資格を有しなくなる場合、研究代表者が欠けた場合(死亡・失踪)には、補助事業を廃止しなければならない。

 

(4) 柔軟な研究費の執行
 複数年にわたった補助事業という考え方から、柔軟な研究費の翌年度への繰り越しが可能になることが考えられているが、その運用やその他研究費の執行に関することについて検討を行った。

○ これまでは、繰越事由に相当する場合に限り、文部科学省に承認申請を行い、財務省との協議を経て承認された場合に繰り越すことができたが、研究費を繰り越すためには、繰越分の補助金を、一端、日本学術振興会を通じて文部科学省(国)に返還し、承認後に支払い請求を行う必要があった。また、翌年度に繰り越した研究費と翌年度の研究費の合算使用はできず、繰り越し分をさらに翌年度に繰り越すことはできなかった。

○ 基金化されたものについては、この様な事前承認を得ることなく、また研究費を研究機関で保有したまま繰り越すことが可能となれば、無理に研究費を使い切るような必要もなくなり、そのことを理由とした不正使用の防止にも効果が期待されるものと考えられる。また、研究者にとって、会計年度をあまり意識することなく研究活動に専念できるものであり、非常に有益なことである。なお、手続き面においては、理由を問わず、補助事業期間中であれば何度でも繰越を行えるようになることが重要と考える。
 ただし、補助事業期間の延長を伴う場合にあっては、補助事業期間の変更(補助条件の変更)を伴うことから、あらかじめ、変更承認申請手続を経ることが必要と考えられる。他方、1年の延長に当たっては、現状の繰越よりも柔軟に承認されるように配慮することが望まれる。

○ 研究費の使用制限については、1使用の制限、2合算使用の制限、3納品等及び支出の制限がある。これらについては、研究現場における執行の混乱を生じさせないことも重要であり、また、科研費の性格を変えるものではないことから、現状維持とすることが考えられる。しかし、納品等及び支出の制限については、補助事業期間内に行うという考えに照らせば、基金化されることにより、毎年度、3月31日までに納品等を完了し、実績報告書提出時までに支出する必要はなくなる(最終年度を除く)。例えば、年度をまたがった旅費の精算や支援者の雇用、複数年度契約は現行制度でも不可能ではないが、事務の繁雑さや研究機関における経理処理上の都合で実施しにくい実情がある。基金化により、その事務処理が容易になれば研究者にとって非常に有益なことであると考える。

参考5 繰越の事由
○ 当初計画の遂行に関し、直接又は間接的に付帯する問題点等を解決する必要が生じ、問題が解決するまで、研究を延期又は中断することが必要となった場合。
○ 当初計画通りに研究用資材を入手することができなくなった場合。
○ 当初計画の実施に際して、新たに事前調査が必要となった場合。
○ 当初計画の研究方式に替えて、新たな研究方式を採用することが必要となっ場合。
○ 豪雨や豪雪などの例年とは異なる気象条件により当初計画を延期又は中断することが必要となった場合

 

(5) 研究成果の公開や適正な研究費の管理の徹底

○ 現在、毎年度の補助事業に関する実績報告書の提出を求め、そのうちの研究実績報告については国立情報学研究所の科研費データベース(KAKEN)により広く公表している。
 基金化されたものについては、実績報告書は最終年度終了後に1回提出すれば良くなるが、毎年度の繰越額の確認や支出状況の把握を行う必要から、実施状況報告書の提出を求めることとされている。また、複数年度にわたる補助事業であるとはいえ、透明性を確保することは重要であり、これまでと同様に毎年度の研究実施状況を科研費データベースで公表することが考えられる。

○ 学術研究の研究成果は学会等における発表や論文等により公表されるものである。しかし科研費で提出を求めている研究成果報告書は、科研費による研究の成果を広く社会に公表していく上で極めて重要なものであり、その位置づけ・性格は基金化された場合にあっても変わるものではない。従ってこれまで同様に提出を求めることが適当であろう。

○ なお、挑戦的萌芽研究については、必ずしも期待どおりの成果がでないかもしれないハイリスクな研究が対象になっており、現状では研究成果報告書の提出を補助条件としていない。しかし、科研費の配分を受けて研究をしている以上、その透明性を確保することは重要である。科研費の成果に関する社会へのアカウンタビリティを一層推進していくためにも、基金化を機に提出を求めることが考えられるのではないか。

○ 研究費の不正使用、研究上の不正行為はあってはならないことであり、基金化されたものであってもそれは変わらない。研究成果報告書の未提出者に対する措置も同様であり、適正に対処することが重要と考える。

○ 研究費の不正使用は、不十分な機関管理の状態の中で生じていることから、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」が平成19年に文部科学大臣決定されている。基金化により研究費の柔軟な執行が可能となる反面、補助金との運用の相違から不適切な使用が生じることのないように、これまで以上に機関による適正な管理を徹底することが重要と考える。

5.その他

 文部科学省及び日本学術振興会においては、研究現場における混乱を生じさせないように、また、研究機関における研究費の執行に際して基金化によるメリットが最大限に活かされるように、可能な限り早い時期に、研究者や事務担当者を対象とした研修会、説明会を行い、基金化された研究種目の執行等について、補助金との相違点や留意点等の周知・徹底に努めることが必要と考える。

 

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課