「学術研究の大型プロジェクトの推進について」(審議経過報告)に関する意見 -人財とネットワーク利用による学術研究の活性化-(日本私立大学団体連合会)

平成22年1月15日
日本私立大学団体連合会

 学術研究の大型プロジェクトは、わが国の学術界が有する最先端の技術や知識を結集して人類未踏の研究課題に挑むという国家的なプロジェクトであり、新しい知を創造し、幅広い研究分野や産業への展開が期待できるなど、わが国の発展はもとより、人類社会に大きく貢献することができる重要な政策である。
 一方、近年の厳しい財政状況の下、今後の大型プロジェクトの円滑な推進に当たっては、〈1〉その推進の意義を人類が直面する諸課題解決に向けてより幅広く捉え、〈2〉課題選定に当たっては私立大学も含むよりオープンな形で議論を行い、〈3〉大型装置の建設・利用に限らないより多様な展開を図ることが必要であろう。そのため日本私立大学団体連合会としての意見を以下に述べるので、今後の審議へ十分反映されるよう配慮いただきたい。

1.今後の位置づけ

 今後は、従来の大型プロジェクトの特徴を活かしつつ、〈1〉日本ならではの視点に立ち、〈2〉国際的な協調・競争の中での意義を認識しつつ、〈3〉100億円以上に限らず数10億円規模も視野に入れ、〈4〉安定的・継続的な財政措置を行い、〈5〉国民の科学への関心を高め説明責任を果たす、などの方策を立てることが重要である。
 特に、これまで大型プロジェクトは、大型光学赤外線望遠鏡(すばる)、Bファクトリー(電子・陽電子衝突型加速器)、大強度陽子加速器(J-PARC)等、大型装置の建設に依存するプロジェクトが中心であった。しかし、基礎科学の発展のためには大型装置を必要とする分野のみではなく、多くの学術分野で各種の手法や装置、人財の活用を含めた多様な大型プロジェクトの形態が望まれる。
 また、今後の学術には、環境研究に見られるように一つの学術分野にとどまることなく複数の学術分野からなる融合領域の開拓が必要であり、大型プロジェクトもそのような狙いを考慮すべきである。

2.私立大学の積極的参画を促す配慮

 これまでの大型プロジェクトについては、主として国立大学、その附置研究所及び大学共同利用機関の教員を中心に、関係学会等において構想が検討され、推進されてきた。今後は、多くの学術分野で活躍する私立大学の教員(わが国の教員数の57.2%※1)の意見をより有効に反映し、学術界全体として取り組んでいく必要がある。
 また、私立大学の大型共同利用施設の利用人数や、日本学術振興会DC(大学院博士課程在学者を対象とする特別研究員)の採用人数には、国立大学と比べ格段の格差が存在する。そこで、公募共同利用の不利の是正や、利用しやすい環境整備、具体的には宿泊施設の整備や交通費等の物質的補助を含む私立大学研究者の大型プロジェクト参画への配慮、大学院学生への補助を含む参画への配慮等サポート体制の充実を図り、私立大学研究者が利用しやすいシステムの確立を希望する。

※1 文部科学省、2009、『平成21年度学校基本調査報告書』より当連合会算出。

3.分散ネットワーク型大型研究の導入

 従来の大型装置建設・利用を中心にした大型プロジェクトだけではなく、今後の一つの方向性として、大型装置の導入を必ずしも必要とせず、私立大学を含む多数の多様な分散研究拠点をネットワークで結んでコミュニケーションを取りながら、効率よく研究を進めていく分散ネットワーク型大型研究の導入が必要であろう。その際、学術情報ネットワーク等の研究情報環境のさらなる拡充も必要である。

4.人文・社会科学も含んだ新学術分野・融合分野の開拓

 基礎研究の新たな発展には一つの学術分野にとどまることなく複数の学術分野に立脚した新たな学術分野や融合分野の開拓が必須である。また、今後の人類的な課題解決に資する基礎研究には、人文・社会科学的課題との連携を行うことが大切である。例えば、経済と環境の両立、自然共生・循環型社会の実現、脳科学と人文科学の連携等が考えられるが、課題の選定に当たっては複数の研究コミュニティ間の議論を積み重ねることが必要である。私立大学には国立大学に比べて圧倒的に人文・社会科学分野の研究者が多い。その研究コミュニティの力を大いに利用したオールジャパン体制を確立することによって、我が国の学術研究の国際的なプレゼンスのさらなる向上が期待される。

5.有効な検証・評価と社会への説明責任

 大型プロジェクトは多額の税金で賄われる以上、将来構想をとりまとめた「ロードマップ」を策定して推進し、その成果の有効な検証・評価がなされるべきである。その際、プロジェクトの意義と内容を熟知したピアによる評価が不可欠であり、そのための国際的な枠組みが必須であろう。また、新たな分野や融合分野での評価には未経験な課題が多く、そのあり方については着実に経験を積み重ねていく必要がある。
 一方、巨額の国費を投入して進める意義については、折に触れて国民や国際社会に対して研究進捗状況や成果を説明して理解を得るともに、人文・社会科学を含む科学技術の最先端の知識を広める努力を行うことが必要である。そのためにも、研究内容や成果をわかりやすく定期的に根気強く説明する機会の創出や人財の育成が求められる。

以上

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