第5期研究費部会(第19回) 議事録

1.日時

平成22年12月2日(木曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省13F1~3会議室

3.出席者

委員

有川部会長、佐藤委員、鈴木委員、中西委員、家委員、井上(明)委員、
井上(一)委員、岡田委員、鈴村委員、谷口委員、宮坂委員

文部科学省

倉持研究振興局長、石田企画室室長補佐、保立企画室専門官

オブザーバー

独立行政法人日本学術振興会 学術システム研究センター村上主任研究員、
小山内研究事業部長

4.報告概要

 事務局より、参考資料1「平成23年度概算要求について」、参考資料2「総合科学技術会議による平成23年度概算要求における科学・技術関係施策の優先度判定結果について」、参考資料3「「事業仕分け第3段(再仕分け)」(競争的資金)の評価結果について」、参考資料4「科学技術に関する基本政策について(答申原案)」、参考資料5「日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究等)取扱要領の改正について」について報告を行った。

5.審議概要

(1)事務局より、資料2「学術研究の推進について(学術分科会審議経過報告)(素案)」、参考資料6「間接経費の主な使途例」について説明を行った後、審議を行った。

【有川部会長】
 事務局より、科研費の間接経費の主な使途の例などについて、詳しく説明していただいたが、先日開かれた学術分科会において資料2の「学術研究の推進について(学術分科会審議経過報告)」の審議の際、質問があったためである。
 一方、参考資料3の「「事業仕分け第3段(再仕分け)」(競争的資金)の評価結果について」であるが、2ページに、「間接経費一律30%の見直し」などの意見が出ているものの総合科学技術会議の資料も含めると、間接経費の重要性というのはしっかりと理解されていると思う。
 間接経費については、研究者や研究機関等がしっかり理解しておく必要があると思っている。ここが混乱すると、相当大きな問題としてはね返ってくると思う。
 一番大事なポイントは、先ほど事務局から説明いただいたが、参考資料6の3ページの一番下のなお書きであるが、「直接経費として充当すべきものは対象外とする」という部分が一番大事なことであると思う。私の印象を申し上げたが、補足なども含め、意見があればお願いしたい。
 例えば参考資料6の3ページの研究部門に係る経費の2つ目の-に「当該研究の応用等による研究活動の推進に係る必要経費」があり、競争的資金を獲得した研究者に対し、大学あるいは研究機関から配分される場合もあると思うが、さきほどの「直接経費として充当すべきものは対象外とする」というなお書きの部分との線引きが微妙だと思うので、注意しなければならないと思う。そのほかのことも含め、何かあれば意見をお願いしたい。
 学術分科会の審議経過報告には科研費のことなどについて数カ所記載されているが、現在審議中であり、会議はまだ何回か予定されているので、我々の研究費部会からの意見があれば、学術分科会で紹介をして反映させることができると思うがどうか。

(「異議なし」の声あり)

 それでは、次の議事であるが、第5期研究費部会は今回で最終回となるが、本部会の報告等において検討事項として残されている課題などについて、引き続き検討すべき事項として整理しておきたいと思い、そのことについて議論していただきたいと思う。
 最初に、資料3の第6期の研究費部会において引き続き検討すべき課題の案について、事務局から説明をしていただき、それから自由にご意見をいただきたいと思う。

(2)事務局より、資料3「第6期研究費部会において引き続き検討すべき課題(案)」について説明を行った後、審議を行った。

【有川部会長】
 資料3「第6期研究費部会において引き続き検討すべき課題(案)」において、我々が今年7月にまとめた報告で触れていたものをはじめ、そのほか、各方面で言われていることなども含め課題の例示をしていただいた。これから四、五十分程度時間があるので、科研費関係の委員会あるいは主査活動等の経験も踏まえてご意見をいただきたい。

【佐藤委員】
 具体的な話が1つ、少し抽象的な話が1つある。具体的な話は、今期、随分時間をかけて若手研究者の科研費をどうするかについて議論をして答申を出し、それに沿って概算要求もしていただいた。ただ、予算は大変怪しい状況にあるということなので、結果を受けて、来期、報告の内容についてどうするかという考えは一つあると思う。結論として、あれだけ議論をしたので、次期にテーマとして引き継がなくてもいいのではないか。むしろここに書いてあるような新しいところに集中した議論をしたほうがよく、必要に応じて議論をして、今後のあり方のサジェストをするのはいいと思うが、あえて載せなくてもいいと思う。ただ、大変長い時間をかけてきて、予算が成功すればいいが、若干怪しいという状況の中でこのことをどう考えるかという観点が一つあると思う。
 もう一つは、研究費部会の審議事項は科研費に限られてはいない。しかし、現在は科研費について非常に詳細な、現場と密着した議論があり、大変いい審議になっていると思うので、この場は非常に貴重であり、科研費に集中した議論を続けることはいいと思う。ただ、一方で研究費全体をどのような形で確保するかという大きな課題があり、それについて、学術分科会で議論するといってもなかなか議論にならない。ほかの分科会で議論する部会もないようなので、何か議論しなくていいのかということが気になる。
 そのときに、一つの考えは、我々は研究費というのは皆、公費でどれだけ出すかを焦点に置いて考えているが、普通は、財政というのは自助、共助、公助とあって、研究費について公助、パブリックでどれだけ持つかという議論をしている。しかし、コモン、共助で何が行われるべきかということもあってもいいような気がする。しかし、これは作戦の問題で、将来的に科学研究・学術のお金を公財政の中でどれだけ増やしていくかに焦点を絞るとすれば、公財政としてもっと必要だと言うという判断が一つあるが、コモンでどのようなことができるか、あるいはできないかも一つの論点になるような気がする。作戦として非常に難しいところで、そのことはやらないほうがいいという考えも十分成り立つが、これは論点として考えていただきたい提案である。

【有川部会長】
 研究費部会においては、若手研究、基盤研究等についてはかなり議論してきた。佐藤委員からご指摘いただいたように、科研費についてはかなり精緻な議論はできているが、今日の参考資料等での説明にもあったように、ボトムアップ的なものとトップダウン的なものと大別されることに関しては、事業仕分けなどでも理解が得られてきていると考えられる。そうすると、もう一つのものについても我々は議論しておく必要があると思う。少なくとも科研費以外の研究費についてどうあるべきかなどを議論するのは非常に大事なことではないかと思うし、我々のこの議論に期待されているところでもあるのだろうと思う。少し踏み込んで議論をしなければならないと思う。

【谷口委員】
 研究費部会のミッションというのは当面、科研費が抱えている諸問題について適切な検討を行い、提言をすることがあろうかと思う。しかし、これからの研究費部会にどういう課題を残すか、提案するかといった視点も重要だということを今、承ったので、この機会に、研究費部会の中の科研費だけではない全体の研究費をめぐる流れをしっかりと把握し、大学、学術、あるいは社会とのかかわり合いといった流れをもう一度しっかりととらえて、これからの施策に文科省として、国としてどう対処してもらうか、少し骨太の課題のようなものを投げかけてもいいのではないかと思う。
 一つには、やはり科研費をめぐる問題としてあるのは、時代の潮流というか、科研費もそれほど歴史が長いわけではなく、当初は大学等での学術研究というのは科研費で支援されてきたわけではないと理解している。研究を補助するということで科学研究費補助金が創設され、それが現在、2,000億円に達しているということであるが、この間に世界の学術研究のあり方といった流れが大きく変化していることは認識すべきだと思う。
 その一つの要因として、サイエンスの巨大化が挙げられる。例えば医学の分野で100万円を10人の若手研究者に配分しても役に立つのか、それよりは1名でもいいから1,000万円与えたほうがいいのではないかというベクトルを異にした議論もあり得るほど、社会のサイエンスをめぐる潮流が大きく変わっているということを認識する必要があると思う。取り巻く社会の変化もあり、先ほど意見があったように公的財政をどのようにして科学研究、学術研究につぎ込むかといった議論についても、税収が大きく落ち込む中で、それでも公的財政の支出を伴うことが国の将来のためになるということをいかに訴えていくかということもあるので、非常に重要であると思う。より社会にビジビリティーが高くなっており、社会に対する責任も重いという状況になっていることがあると思うので、時代の潮流を把握していくことが、現状分析も踏まえて重要ではないかと思う。
 同時に2点目は、研究費の歴史があると思う。今、横並びになっている科研費や戦略的創造研究推進事業といったものも、それなりのパーソナルヒストリーがあり、文部省、科学技術庁といったころからの研究費の配分の行政のあり方という背景があることも事実で、この研究費の歴史ももう一度しっかりと把握して、ボトムアップ型の研究と、ある程度政策型の研究の両輪が大切だという認識を持って検討することも重要だと思う。
 だから、科研費については、常にこの会議で議論をして、当面どうするかという重要な課題がある一方で、そこにはおさまり切らない重要な課題が投げかけられている。国全体に投げかけられている問題でもあるが、学術分科会等で学術のあり方や大学のあり方、ひいては国のあり方にそれがどう貢献するかという議論がなされている根幹にあると思うので、その辺をしっかりととらえ、今後の日本の国家のあり方はというぐらい大きくとらえながら学術研究あるいは研究費のあり方をもう一度とらえ直すことは、今の時期にこそ重要ではないかと思う。

【鈴村委員】
 3点ほど申し上げたいことがある。1点は、資料も出てきたことであるが、基盤研究についての考え方、つまり研究種目の分類のし直しについても少し発言しておきたいと思う。 さきほど谷口委員から意見があったように研究費の規模、スケールにもかかわることである。
 研究助成の規模の大小は分野によって違う。応募総額の見直しの議論についてであるが、従来であれば、比較的小規模で、比較的チャレンジングな若い研究課題についても参入できたが、応募総額の上限が上がることによって、実際には研究の中身に対してもかなり影響が及ぶような分野が必ずあると思う。
 具体性を持たせるために人文社会系の研究のことを申し上げると、大きな規模の科研費が提供されるようになり、例えばCOEやGCOEまで登場してくることになった際に何が起こってきたかというと、アンケート調査や、実験として、学校の教室に学生をアルバイトで雇い、そこでゲームをさせる。そのゲーム結果の解析が社会実験となる。これは確かにお金もかかり、時間もコミットさせないとできないことであるが、方法論としては借りてきてできるし、しかも対象が違ってくると、異なるカルチャーのもとで、例えばアメリカで行われた研究が日本ではどうなのか、悪く言えば非常に安易に研究の翻訳ができるようになる。そうではないものを超えて初めて創造的な研究になるわけだが、例えば研究の助成期間があり、しかも研究の途中でもいろいろな評価が入るために、何か手っ取り早く成果を出す必要があるということで、やはり「日本はこういう違いがある」ということを言うと、キャッチーであるので、そのような研究は比較的人々の目が向きやすい。
 そのようなことが進むことにより何が起こるかというと、日本が強かった非常に地道な理論的研究については、紙と鉛筆でできるため見向きもされなくなる可能性があり、科学の長い目での発展のために、日本が本当に基礎的な貢献をできるような地盤がおざなりになっていく危険性があるように思われてならない。かつてのクラゲの発光の研究が数十年後に大きな成果を持つようになって、「やはり基礎研究は重要ですね」と言うわけだが、非常に地道にやっている研究が制度によって促進されなくなるような仕組みをつくっていくことには、それに対しての補完的な措置や理解が必要だということを第1点として申し上げたい。

 2点目は若手研究者に対しての助成である。今、佐藤委員からも意見があったように、随分いろいろな議論があり、そのこと自体は理解が進んだ。制度についてもいろいろなフィードバックがこれから実現していくことを期待したいという状況にあると思う。ただ、やや怖くなってくるのは、温室化、ガラパゴス化が起こる可能性が表裏一体になっていることだと思う。若い人たちが留学し、チャレンジして自分たちの可能性を、国際的な意味での競争的なバトルフィールドで自分の力を発揮して成長していくということについて、わざわざ国外に出るというリスクを冒さなくてもいいという意識になってしまうことは、長い目で見ると、絶対に学問の発展に対してはマイナスの効果も持つ。そういう側面を念頭に置いておく必要は必ずあると思う。できるだけそういうチャレンジを後押ししてあげるような意味での制度が重要であるが、チャレンジに耐えて成功した人たちが戻ってきたときに、その人たちを日本で助成されて育った研究者と同等あるいはそれ以上に処遇するような受け皿が制度としてできていることが非常に重要だと思う。

 3点目は評価の問題である。人文社会系においても、評価は数値化しないと客観的に同じ土俵の上で比較できないという話はそれなりに浸透してきている。自然科学分野でも、数字評価ばかりが評価ではないという認識は浸透していると承知しており、自然科学のみならず、人文社会科学の場合はなおさら、その問題をまじめに議論しないといけないところに差しかかっているように思う。人文社会科学は違うということを言いたいわけではなく、自分たちの評価を当然持っているはずなので、しっかりと議論し、引き続いてその議論が正面からテーブルに乗るように配慮してもらいたい。

【宮坂委員】
 今まで出たこととかなりオーバーラップするかもしれないが、この第5期の研究部会は科研費のあり方や仕組みを中心的にやってきて、それはどうしても必要なプロセスだったと思うが、先ほど佐藤委員からも意見があったように、この先にはどうしても研究費の確保の問題があり、例えば先ほどの事務局からの説明で基盤研究の案が幾つも出たが、どの案をとろうとも、結局、予算増がない限り絶対に実現できない。そういう意味では、今後は研究費の確保をどうするのかという課題について議論しなければならないと思う。ただし、そのためには、先ほど谷口委員から意見があったが、もう少し大所高所から、現在の科学研究のトレンドはどう変わってきて、なぜ研究費の予算増が必要なのかをもう少しきちんと話した上で科研費のあり方や仕組みを論ずるようにしないと、次の部会は少しまずいのかなという気がする。
 もう一つは、確かに予算増は必要であり、研究費を充実させる必要があるが、絶対に避けて通れないのは、サイエンスの中にもいろいろなサイエンスがあって、例えば大きく分ければ人文社会系と生物科学系とは明らかに研究の形態も中身も変わってきている。その全体をスケールアップしようとしてもなかなかうまくいかない。今も意見があったが、私たち生物科学系の研究者から見ると、人文社会系の方が例えばアンケート調査をする、あるいはそういうのをみんな外部委託していて、私たちから見ると、少し言い方は悪いが、お金を使うためにやっているようなところがないわけでもない。そのように、それぞれの分野によって多少研究の中身が変わってきている。特にメディカルサイエンスや生物科学は何を研究するにしても高額の研究費を要するようになってきており、そういったことを考えないで、ただ一律にスケールアップするというのはちょっといかがなものかと思う。その点については、次の部会でぜひ検討いただきたいと思う。

【家委員】
 先ほどから出ているように、科研費に関しては一応制度としての位置づけは理解されているように思う。それは大変喜ばしいが、事業仕分けなどでは科学技術振興調整費はかなりやり玉に上がって、ばっさりやられそうだということである。検討すべき課題にもある「国民の理解を得る」というのは非常に大事なことで、科研費制度の中では、例えば研究成果公開促進費や研究費から国民の理解を得る活動に経費を支出してもいいということになっているが、私の理解では、科学技術振興調整費の中でそういうグッドプラクティスを支援していた部分がかなりあると思っている。削減されるとどういう影響が及ぶのかということについて非常に心配しており、暗澹たる気持ちになる。一方で女性の社会進出の促進ということを言いながら、科学技術振興調整費を十把一からげでばっさり削減するというのは、あまりにも乱暴であるという気がしているが実際どういう影響が及ぶと考えられるか。

【倉持研究振興局長】
 科学技術振興調整費は、研究費というより総合科学技術会議の方針のもとでいろいろなシステムを変えていくためのツールとして、ここ数年、活用されてきた。今回の再仕分けの主たる議論は、どのような効果があったかというよりは、むしろその行き先がほとんど大学であるなど形式的な議論がかなりあった上で、何も科学技術振興調整費でなくていいのではないかという議論だった。もともと科学技術振興調整費は各省のいろいろな施策をまさに調整するために設けられた制度だが、特に国立研究所がなくなって独立行政法人になったため、文部科学省から直接委託契約を行ったりしており、システム改革物で大部分が学に流れているという行き先の議論から、もう文科省の予算でそもそも本来の運営費交付金が大事だと言っているのなら、そちらでやるべきじゃないかという議論があり、施策の一個一個の効果についての議論があったとは思えなかった。
 したがって、我々としては、もちろん調整費であるので、未来永劫、継続する施策というよりは、先駆的に取り組むという目的でやっていたので、その効果を見ながら、必要なことについてはどのような形で手当てをしたらいいのか、仕分けの結果は仕分けの結果としてあるが、それを受けてまさにその評価も含めて、あるいは総合科学技術会議とも相談して、これから対応を練るという段階である。

【岡田委員】
 特に研究費部会として今後どうしていくかというときに、研究者になりたいという人が少なくなったり、あるいは今研究者になっている人もどれだけ研究者としてやっていくことができるかと非常に不安を持ってきている時代になっている。だから、そこにどう対応するかをしっかりと見ていく必要があると思う。
 その面での研究費部会の問題としては、いかに採択率を下げずにやっていけるのかという点が非常に大きなポイントだと思う。もう一つは、主な研究種目の研究期間が3年から5年となっており、それをだんだん長くしようという意見もあるが、同時に研究者の側からすると、例えば3年ごとに切れてしまうということであれば、せっかく作り上げた自分の研究チームが続かないという不安感は非常に強くなってきているので、研究期間を長くすることがあると思う。どんどん研究費が上がっていく必要はないが、ある一定の金額の部分は何年間か続けられる。特に宮坂委員から発言のあった生物系の研究は非常に大がかりになっているという問題があり、中でも、ポスドクの研究員や、そういった人たちをうまく配分して使いながら一つの研究チームとしてやっている場合に、その中の重要な人たちの雇用についての問題が非常に深刻になってきていると思う。そこが不安定なままだと、これからPIとしてやっていくこと自体に対する不安感が非常に強く、若者たちの研究者離れの理由にもなってきているが、そのような問題についての手当て、あるいはその対応をどうするかを、研究費部会として次の期にはぜひしっかり考えていただきたいと思う。

 もう一つは、ある意味では今、申し上げたことと矛盾するかもしれないが、今後、日本の収入がどんどん上がっていくことは期待できないので、新たな計画というのは常に大きな予算の増加を見越した計画なり申請だけではもはや成り立っていかないと思うので、そこをいかに腹を据えて、痛みを伴いながら、割り切りながらでも、この部分は大事だということのしっかりした仕組みや提案がないと、常にそういう点を仕分けなり何なりで見透かされてしまい、だめだと言われてしまうのではないかと思う。

 もう一つは、事業仕分けなどの結果を見ても、いわゆる科研費がボトムアップ型の研究費としてしっかり認識され、それが重要であることが認められたのは非常に大事なことであるが、常にトップダウンとボトムアップの両方が必要だという議論がある中で、科研費だけがボトムアップ型の対象になっており、将来もこれでいいのかという点を考えるべきではないかと思う。今、科研費の枠の中でやっていること以外に、もっとボトムアップ型のものをしっかり認めてもらうようなシステムをつくる。例えば、現在、研究環境基盤部会で大型プロジェクトの件について議論しているが、そういうものも一種のボトムアップ型としてこれからしっかりした制度に持っていこうという議論がずっとある。そういった点も含めた上で、トップダウンとボトムアップという2つに分けて、それが大事だという議論が政治家の方々にも一応認められてきたことは非常に大事なことだが、ボトムアップの中にもっと別の枠のものも入ってくるのではないか。実際に研究者の中からそういうものをしっかりと意見をまとめてやっていくという制度をつくることが一方では大事だが、同時にボトムアップの研究費という枠をもっと広げていくことを考えていいのではないか。
 最後に、一般に広報、研究の成果を広げるということで、ニュースレター等々を出しているが、例えば英語版など、日本国内の納税者に向けることと同時に、もっと世界的に国際的に広げていくことが必要ではないかと思う。

【有川部会長】
 本日はなるべく意見をいただき、それを何か方向づけることは次期にゆだねることにしたいと思っている。

【鈴木委員】
 引き続きの課題として、今、意見があった研究者の不安などについてであるが、それをすべて競争的資金でカバーしようとするのは無理だと思う。競争的資金と、もう一つは継続的な基盤支援、研究費部会では両方議論したほうがいいと思う。いろいろなところでデュアルサポートと言っているが、ではデュアルサポートをどうするかというのはどこも提言していない。やはり、この研究費部会でデュアルサポートとして基盤的経費と競争的資金をどう組み合わせるかをむしろ提言したほうがいいのではないかと私は提案したいと思う。

 もう2点あり、国民の理解に関して、参考資料7にいろいろなことが書いてあるが、これをやってもまず無理だと思う。無理というのは、やってもいいが、やるわりには効果は少ないだろうと思う。国民が何を情報源としているかというと、マスコミであるわけで、いかにマスコミにこういうことをきちんとやらせるかということが、国民が一番早く知る手法だと思う。そのためには、例えば研究が取り上げられた場合に、これはどういう財的支援を得たかを必ず書かせる。マスコミは文章が長くなるのは嫌うが、「科研費の支援を得ました」など、最後の1行は必ずそういうものを書かせることを義務づけると、国民は、この研究はこういうものかとわかると思う。そこまでいかなくても、今、研究者で非常にひどいのは、科研費であっても論文の中にそれほどアプリシエーションしておらず、アクノリッジに書いていないことが多い。最低限そこから始めて、その次は新聞記事などについて、支援を受けた経費について、明示を義務づけることをまずやったほうがいいのではないかという気がする。

 もう1点、細目表の大くくり化の議論があるが、大くくり化をやればいいというものではなく、もともとの基盤のところをしっかりとやらなければいけないので、これまでの系・分野・分科・細目もきちんと守るべきだと思う。現在でも、全体の系をまとめたような総合領域や複合領域があり、これはこれでもちろんいいのだが、もう少し小さなところ、系の中のくくり、例えば理系であれば理系の中の幾つかの分野をまたがるものや、理工でまたがるもの、あるいは文とどこかでまたがるものなど、大くくりの中の多様なくくりがあってもいいと思う。そういうものを含めてやるのであって、大くくり化だけをやればいいというのは反対で、もっとくくり方の多様性をきちんと系・分野・分科・細目の中に入れたらどうかという気がする。

【井上(一)委員】
 先ほどから何人かの方が発言していることであるが、ボトムアップということが言われるが、研究者の側は、黙って上からおりてくる競争的資金という意識があり、どのように自分たちの研究の中で使っていくかという議論が現場の研究者の中で行われた上で出てきているものではないように思う。本当は一度その議論がされて、このような競争的資金ができていると世の中にアピールするにしても、我々はこういう位置づけで、このように成果を出そうとしているということがもっと伝えられるところがあると思う。
 そういう意味でいうと、今の状況で科研費に期待する使い道は分野で随分と違っていると思う。例えば私どもの分野でいえば、物を作ることが多く、新しい道具立てができるところに研究費が使えるといいわけだが、多くの審査員にアピールするということになると、わかりやすいサイエンスのテーマや成果が最後に出ないといい評価を受けられないということで、地道なものづくりが後ろへ回ってしまうところがあり、一度、それぞれの分野できめ細かい制度に対する要望がここへ出ればいいのではないかという気がする。

【中西部会長代理】
 今、発言があったことと関係するが、研究する側から見ると、もし、うまくいけば科研費は自然に来るものだという感覚があるのと同時に、何かお金というものの額が価値判断の中にものすごく入ってきた気がする。100万円の研究、1,000万円の研究、1億の研究というのではなく、ほんとうはこういう研究をしたい、しかしそれを達成するためには費用がものすごくかかるというのが本来の姿で、100万円を要求したから100万円を全部使ってきたという風潮があると思う。どうすればいいかわからないが、ほんとうはこういうことをやるということを中心に、もう一度、応募するときと採択されるときに考えるような仕組みがあってもいいのではないか思う。
 もう一つ、さきほど発言があったことと同じであるが、若い人ということで、育てることは非常に大切だが、競争の中で生きていくということ、どうすればそういう意識をうまく持ってもらうことができるかわからない。どうも若い人を保護してしまうような面があり、強く育つという施策が必要ではないかと思う。

 【宮坂委員】
 先ほど事業仕分けの話が出たが、あのように仕分けされる一つの理由は、我々がまだ社会に対して科研費が必要だというメッセージを十分に送り届けられていないということはあると思う。さきほど、参考資料7の中で、一般向けに「研究成果報告書」をインターネット上で公開という内容があったが、見られるようにはなっているが、では一体それを一般の人がどのくらい使っているのか、アクセス数はどのくらいなのかというと、おそらくそれほどのアクセスはないと思う。
 もう一つは、一般の方はこういう「研究成果報告書」を見てもわからないし、理解できないと思う。前にサイエンスライターの話も出たかと思うが、そういうことも考えながら、一般に我々がやった成果をわかりやすくかみ砕いて話をする。これは文部科学省の政策なんかもおそらくそうだろうと思うが、それを一般に言ってもなかなか理解してもらえない。私たちが常識だと思い使っている言葉が一般の方にとっては非常識な言葉ということは幾らでもあると思う。今日のこの会議を聞いていても、一般の方がわからないことは多い。だから、そういうものをかみ砕いて伝えることも、やはりもう少し考えなければいけないと思う。ニュースレターの話も出たが、あれもどのくらい役立っているのかの評価もされておらず、やっていると一方的に言っているが、一般の方から見れば、それは大して何にも役に立っていないという見方もできると思う。だから、我々がやっていることを社会にかみ砕いて話す方法、すべ、やり方ももう少し考えてもいいのではないかと思う。

【谷口委員】
 基礎研究を中心とした学術研究の重要性を、ブダペスト宣言ではないが、社会のための大学であり、社会とともに歩む大学であるという文脈の中で努力することは非常に重要で、私どももしてきたし、皆さんもされていると思う。強制されてやるものではなくて、我々研究者が自助努力等を発揮して、そういう努力をいとわないという姿勢は非常に重要だと思う。
 それが重要であることは十分認識しているが、一方で、この研究費部会でぜひ留意いただきたいことは、先ほどからいろいろな委員の発言にも出ているように、幾ら説明しても説明できないところがやはりあるのが学問だと思う。なぜかといえば、それは明日の新しい知恵を生み出していく、新しい価値観を生み出していくことにこそほんとうの学術の意味がある。だから、内容を理解してもらうことと重要性を理解してもらうことは必ずしもイコールではないが、限りなく我々が努力する一方で、特に私ども医学系の研究は、社会の皆さんに理解してもらいやすい研究分野であると思うが、おそらく哲学など別の分野では、あるいは生命科学系においても、ある特定の分野ではなかなか理解してもらえない分野がある。先ほど発言されたクラゲの研究もそうだと思う。今だからこそノーベル賞に輝いたから評価されているが、日本ではあり得ない。アメリカのような幅の広い、懐の広いところだからこそできた研究で、どこかでそういうものは重要性があるのだということを高いところで判断しないと、競争的資金あるいはその評価、数値化といったところだけで学問が進んでいくことに関して非常に心配を覚える。だから、そこは根底に据えて、やはりどこかでそういうところは政策の中に、特に大学のこれからのあり方といった視点を踏まえて生かしてもらい、ぜひ検討していただきたいと強く思う。

【有川部会長】
 最初に事務局から資料3で少し方向づけしたことに加えて、研究費として大きく2種類のものがあり、ボトムアップとトップダウンという言い方をしてきたわけだが、ボトムアップにしても、大型研究をどうするかなどの観点もある。一般的にボトムアップは個人研究が多いわけだが、コミュニティーからくるボトムアップというものもある。それは研究環境基盤部会等で今、鋭意、やっているところであり、方向は一つ出ていると思う。
 もう一つ、鈴木委員の発言の中でデュアルサポートという言い方をされていたが、これまでいわゆる競争的な資金と、基盤的経費といった部分が果たしてきた役割は極めて大きいと思う。額は小さいけれども、人知れず、しかしその研究者はある種の信念を持って――まさにクラゲがそうだと思う。いろいろなことは言わないが、下村先生はちゃんとある信念を持っていたと思う。結果が出る前にはそれを言いにくく、科研費の申請書類にも書きたくないというようなものがあり、それはいわゆる基盤的経費、公費的なもので多くの人が研究してきて、芽が出てきたときに科研費とかへ移行するのだろうと思う。そういう意味では、基盤的経費も同じ土俵に一度上げて体系的に考えてみるということをしなければいけないのではないかという気がする。

 それから、評価や広報については、谷口委員が最後に発言されたが、ある意味で学問というか、科学技術、人文社会も含めた研究の大事さは、国民各層がひとしく理解してもらわないといけないし、そのための努力をしなくてはならない。これは研究の個々の成果で説明するというよりも、そういった知的な活動がいかに大事かということを理解してもらう必要がある。ある意味では、事業仕分けなどにはなじまないし、少しメタなところで理解を深めることもしなければいけないだろうが、我が国において研究の重要性についてある程度は理解されてきたのではないか。そして、いろいろなことを補うような形で各種の研究費が用意されてきた。そうすると、今度はあまりにも細分化されすぎていると言われてしまうが、少し引いて見ると、関係者でなくても理解はできるはずだと思う。そういった経緯もふまえると、どうしてももどかしさを非常に感じてしまうが、それは答えられるようにしておく必要があると思う。
 次期の第6期の研究費部会で検討すべき課題については、今回非常に幅広く議論したと思う。それをある程度整理し、それをもとに次期の研究費部会では議論していくことになるのではないかと思う。

(3)審議の後、最後に倉持研究振興局長から挨拶があった。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課