第5期研究費部会(第8回) 議事録

1.日時

平成21年9月30日(水曜日) 13時00分~14時45分

2.場所

東海大学校友会館 「望星の間」

3.出席者

委員

 有川部会長、小林委員、佐藤委員、鈴木委員、中西委員、家委員、岡田委員、甲斐委員、金田委員、水野委員、宮坂委員

文部科学省

 山脇振興企画課長、中岡科学技術・学術政策局政策課長、柿田計画官、松川総括研究官、山口学術研究助成課長ほか関係官

4.議事録

(1)次期科学技術基本計画の検討状況について

 事務局より、資料2「第4期科学技術基本計画の策定に向けた文部科学省における検討状況」について説明を行い、意見交換を行った。

【家委員】
 今回はイノベーションという言葉が至るところに出てくるのが特徴だと思うが、このイノベーションという言葉の定義はどこかにあるのか。つまり、一般的な刷新や新基軸というような意味と、もう少し限定された技術革新というような意味と、いろいろな場面で様々に使われると思うが、ここで言っているイノベーションというのはどのようなものを指すのか。

【柿田計画官】
 特別委員会で実際に議論していただいている参考1という資料の9ページをご覧いただきたい。下のほうの参考2で科学技術・イノベーションの概念を絵で示すとともに、四角の囲みの中で「科学技術・イノベーションとは」ということを言っている。ここでは、科学技術・イノベーションを、科学的な発見、発明等による新たな知識を基にした知的・文化的な価値の創造、またそれらの知識を発展させて新たな経済的価値や社会的・公共的価値の創造に結びつける活動全体と書いている。もう少し分かりやすく言うと、イノベーションとして、純粋な研究活動そのものに加えて、成果を社会に還元していく様々なプロセスがある。これまでもそういうことを念頭に置いて科学技術基本計画が策定されているが、これからの政策の方向性としてより社会的な課題への対応、そこに向けて科学技術が貢献していくという役割が高まっている。そのような状況の中で、社会とのかかわりあるいは成果を社会に還元していくという部分において、研究活動そのものに加えて、例えば規制の改革をはじめとする様々な科学技術を取り巻く隘路の解消など、いろいろやらなければいけないことがある。今回は、科学技術の成果を社会に還元していく部分を特出しした形で、科学技術政策をしっかり取り組んでいくとともに、そのプロセスをより良く進めていくため、イノベーション政策として一体的に進めていこうということで、このような表現にさせていただいている。

【佐藤委員】
 逆にあまり出てこないので不思議だと思うのは、サスティナビリティという言葉である。安心・安全や地球的な課題についてはいろいろと出ているが、一般的にサスティナビリティというのは、包括的な概念としてかなり行き渡っていて、これからの学術研究の中でも一つの大きなポイントになるのではないかと思う。そういう言葉が出てこないのは非常に不思議に思う。科研費を考える場合の一つのよすがとなる気もするので、何か情報があればお願いしたい。

【柿田計画官】
 冒頭で5つの目指すべき国の姿を示しているが、少し詳しく紹介すると、参考1の5ページでも目指すべき国の姿を説明している。下のほうの1番から始まるが、サスティナビリティというのは、結果としていろいろなところに関連している。例えば、地球規模課題の解決を先導というところでも、地球温暖化、気候変動、貧困など、あるいは生物多様性といった問題を解決することは、サスティナビリティという言葉自身は出てこないとしても、趣旨としては持続可能な世界あるいは地球を維持していくということにつながっている。また、6ページの「様々な制約の中で」というところでも、世界のモデルとなるような社会像を掲げていくということも、結局価値としては持続可能な世界あるいは社会をつくっていくことにつながっていくので理念的に含まれていると思うが、もちろん最終的にはきちんと全体をまとめる中で重要なキーワードはしっかりと検討していきたい。

【宮坂委員】
 「科学技術・イノベーション」について、もう少しお聞きしたい。普通、中黒は物事を並列にするときに使うと思うが、これは科学技術のイノベーションということか。

【柿田計画官】
 イノベーションというのは非常に概念の広い言葉で、その中には科学技術に間接的にもあまり関係しない部分もあると思うが、あくまでもここは科学技術基本計画なので、イノベーションとして、社会変革を伴うような事柄のうち、科学技術と関連する部分について取り扱うこととしている。

【宮坂委員】
 それを並列にしているというのはどういう意味か。

【柿田計画官】
 並列ではあるが、科学技術とイノベーションとの中身は異なる。科学技術というのはまさに研究であり、そのための人材を育成するということであるが、イノベーションというのは、どちらかというとそのプロセスということで捉えている。つまり、科学技術という活動の中で、例えば研究をやる、あるいは人材を育成していくというようなことに関連して、より社会に貢献していくために必要となるプロセスをイノベーションとしてとらえている。例えば、科学と技術であれば比較的並列概念になると思うが、言われるようにそれと同じような意味での並列とは異なる。科学技術と、それをうまく進めていくプロセスをきちんと進めていくという意味で、政策的により目立つようにしていくという意思を表現している。

【岡田委員】
 科学技術の発展のためには、様々な施策が必要である。特に大学等に関しても、科研費を充実させなければいけないと書かれている。それは非常に大事なことで、そのとおりであるが、同時にもう一つ大事なことは、研究する人に新たな発想を考えるための時間をいかに与えるかということである。前回の学術分科会でもそういう話をした覚えがある。研究費についてはどんどん応募して獲得していこうということは非常にわかりやすいが、研究している人に時間をどのように確保するのかということについては、どこかに集中的に書く必要がある。簡単なことではないかもしれないが、そこはやはり重要なので、お金と同じように時間が重要だということを強調することが大事だと思う。

【柿田計画官】
 まさにそういうご意見が特別委員会でも出ている。お金だけではなく、実際には研究する時間がない、あるいは教育する時間がないという意見がある。これから特別委員会で、お金の話だけではなく、研究者を支えるサポート体制を含めて、どういう研究体制を構築していくべきか、研究環境をつくっていくべきか、そのための具体的な方策はどうあるべきかということを議論していかなければいけないと思っている。

【有川部会長】
 研究環境ということについては、少し制度的なことも考えなければいけない。組織やグループあるいはチームも含めて、研究をやる基本的な単位についても議論していかなければいけない。

【金田委員】
 資料3の一番上に学術の意義ということが論点例の中に入っているが、今説明していただいた資料2や参考1の中には、学術一般的なことがあまり入っていない。例えば参考1の16ページなどでは、知的・文化的価値、あるいは多様性ある知の資産など、そのような用語が少し入っているだけで、知的・文化的や科学技術・イノベーションということについては、今のようにたくさんの議論があるのに、研究とその知的・文化的というところのつながりや、またその重要性がほかにはほとんど見られない。そういうところがないと、一点突破型の技術だけが偏重されるように受けとめられかねないという危惧を持つが、そのあたりはどのような議論になっているか。

【柿田計画官】
 まさにそこは、日本学術会議でも長期展望を議論していただいている。また、学術分科会でも議論していただいているが、これから特別委員会の中で、そのようないろいろな場での検討の提言を受け、いわゆる学術というものの重要性を次期の科学技術基本計画の中にどのように入れていくかということをしっかり考えていかなければいけない。

【有川部会長】
 今の話は参考1の9ページの上の3つのマルの中の1つとして出ているが、この辺をどう表現していくかということだと思う。

【鈴木委員】
 資料2の4ページに基本認識が書いてある。この全体の中身は、我が国の方向性を示し、世界と協調しつつ先導するとか、あるいは国際的優位性を保つとか、我が国の中だけに目が向いているものが強いが、もはや日本は単に自分の国だけの科学技術ではなく、アジアや世界全体の中でも全体をマネジメントするとか、全体をまとめて進めていくという役割を期待されているところは大きいと思う。例えばアジアなどで、日本学術振興会が前から行っているいろいろな協定に基づくプログラムをどんどん進めて、アジアからの期待、あるいは世界からの期待に沿えるような複数の国の指導的な役割を担う面がこの中にあっても良いと思うが、そういう面が見られないのではないかという気がする。

【有川部会長】
 これも4ページのところに、検討の方向性という中で解決を先導するとか、国際的優位性を保ちつつといった表現はあるが、もう少し指導性というような踏み込んだ言い方があるのではないかということである。

【柿田計画官】
 参考1の5ページの下半分の、「このような中にあって、我が国においては」というところであるが、まず一つは、質の高い国民生活を実現するために科学技術を活用していくという視点があり、もう一つは、我が国の科学技術を世界あるいは地球さらには人類生存のための手段ととらえ、それらの課題解決に向けて積極的に貢献していくという姿勢を明確にすることで、我が国の科学技術を世界貢献のための手段として一層強めて、世界貢献のために役割を果たしていくという視点は、基本的なところで持っている。

【鈴木委員】
 貢献というとき、ある程度それに加わっていくという面と、トップに立って引っ張っていくという姿勢がある。ニュアンスの違いかもしれないが、もう少し強い指導性を示す表現がここに入っても良いのではないかという気がする。

【有川部会長】
 そこは先導という言葉があるので、その中で読んでいけば良いと思う。指導という言葉をここに書いてしまうと、指導される側から見たときにどうかという問題もあると思う。

(2)科学研究費補助金の在り方について

 事務局より、資料3「第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ【論点例】(平成21年9月8日 科学技術・学術審議会学術分科会配布資料)」、資料4「科学研究費補助金の在り方について(御検討いただきたい課題例)」及び資料5「科学研究費補助金の在り方について(御検討いただきたい課題例)【参考資料】」について説明を行い、意見交換を行った。

【家委員】
 大変興味深い資料をいろいろ見せていただいた。7ページの研究論文数等の統計について、文部科学省調べで実績報告書の報告数を集計と書かれているが、これはダブルカウントもある統計データと思ったほうがよいか。つまり、論文数は大体16万件ということで、年間、継続も含めて科研費を受けている研究者は5万人ぐらいなので、単純に割ると、年間3点何報というのは悪い数字ではないと思う。これは合計しているからダブルカウントもあると理解しておいたほうがよいか。

【山下企画室長】
 可能性としてはあると思う。科研費の場合、何人かの研究者が共同して研究されているケースもあるので、共著論文が複数の研究課題で報告される可能性もある。そういうものを全部合計したものと考えている。

【有川部会長】
 資料4の課題例の一番上にある科学技術基本計画における科研費の取り扱い等についてどのように考えるかということであるが、これまでの第1期から第3期までの科学技術基本計画における科研費の記述については、資料5の1ページ、2ページに掲載されている。これを見ると第1期、第2期の基本計画において、科研費については、他の競争的資金とあわせて、競争的資金全体の拡充という形で取り上げられている。それから、第3期では非常に踏み込んだ表現になっている。科研費について、引き続き拡充が提言されており、さらに、基礎研究の推進という中で、科研費において行われる研究者の自由な発想に基づく研究については、政策課題対応型の競争的資金とは独立して推進すべきということを明確化して、理解の徹底を図るということが触れられている。そういうことを踏まえ、第4期の科学技術基本計画の検討に向けて、科研費の意義、役割としてどのようなことが考えられるかご意見をいただきたいと思う。

【甲斐委員】
 資料の中に米国のNSF、NIHのグラントの棒グラフがあるが、NSF、NIHそれぞれの内訳がわからない。これは科研費と同じようなボトムアップ型のグラントがメインだとは思うが、この中に政策的なトップダウン型のグラントは含まれているか。

【山下企画室長】
 例えばNSFのプログラムは、ボトムアップ型のプログラムが多いと思うが、例えばソリシテッド・プログラムのような、ある程度こういう内容の研究をこういう条件でやってもらいたいというようなプログラムもある。そういう内容のものを仕分けして示すのはなかなか難しいので、これら2つの機関については、いずれも研究グラントに関する予算額、採択率等をまとめて示させていただいている。

【甲斐委員】
 ほかの国もそうだが、サイエンスは基本的に個人からの自由な発想に基づいた研究がベースになっていて、すべての発展はそれに支えられていると思う。そういう意味で、科研費の重要性を、第3期以上にもっと明確に打ち出していただきたいと思う。
 科研費が競争的資金全体の大体40%程度は超えていると言うが、ボトムアップ型のほうがトップダウン型より常に少ない状態というのは少しおかしいのではないかと思う。これだけたくさんの研究者の頭脳がもったいないし、科研費をもっと充実してほしいと思うので、それを何らかの形で入れていただけると良いと思う。

【水野委員】
 同じページのアメリカとの比較を非常に興味深く感じた。給付される科研費の金額そのものと、科研費の審査にかかる審査費用の差というものも興味深いところがある。アメリカでは日本よりもはるかに多額の資金をかけて審査手続をしていると伺っているが、その点についてこの表の中で読み込むことができるのであれば教えていただきたい。

【山下企画室長】
 それぞれの研究グラントの審査費用については、こちらの資料にも出ていないし手元にも持ち合わせていないので、もし何かそういうデータがあれば次回以降お示ししたい。

【水野委員】
 私も研究者の自由な発想に基づく研究ということが科研費においては一番重要で、何かの役に立つようなものをということでは、おそらく新しいものは出てこないのだろうと思う。自分が何をやっているのかわからないが、とにかくおもしろくて仕方がないので一生懸命やるというところから一番良いものが出てくると思うし、そういう中から生まれてくる新しい萌芽的なものは、評価をすることさえ既存のメンバーには難しいのではないかという気もする。前回、若手研究についていろいろ審議をしたが、評価というものにどれだけお金と手間をかけられるのかということと、お金と手間をかけずに満遍なく最低限のものができるような機会を与えることが、結果としては効率的な領域もあるのではないかと思う。
 そういう意味では、我が国の研究者の自由な発想に基づく研究が一番効率的に行われるような仕組みを考えることが、科研費の仕組み全体をどのように設計するかということをきめ細かに考えていくことと結びつくだろうと思う。総額が増えればよいというだけではないような気がする。

【有川部会長】
 今の話は、競争的ではないものと考えてよいか。

【水野委員】
 競争的な資金というのはもちろん非常に意味があると思う。ただ、ある程度若い人々はそれほど激しい倍率ではなくするとか、あるいは競争の審査の部分をどのようにするかということをきめ細かく考えていくことによって、一番効率的な研究費の配分ができるのではないかと思う。

【金田委員】
 資料5の14ページのグラフで、第2期計画における倍増目標のラインがあるが、第3期にはそういう数字がない。これはどのように総括してそういう目標がなくなったのか。

【山下企画室長】
 その部分について正確なところは把握してないが、おそらく第2期のところで目標を達成できなかった。それから、2005年度以降の第3期以降のところで、競争的資金そのものの数が幅広く追加されたというような状況もあると思う。そういう中でなかなか具体的な数字が示しづらくなったのではないか。

【金田委員】
 それが競争的資金に占める科研費の割合をどう考えるのかということや、科研費の在り方がどうあるべきなのかということとも基本的なところでかかわると思う。

【小林委員】
 多少乱暴なことを言うかもしれないが、先ほどの水野先生の発言と関連して、科研費にしろ、競争的資金にしろ、格段に拡充しろというのは、本当にそうなったときにどういうことが起こるかということは考えなければいけない。先ほどの岡田先生の発言に関係すると思うが、競争的資金という形でしかお金が出ていないことと、先ほどの研究者の時間がなくなっているということと現実には裏でつながっている。
 それから、審査のことについても、本当に今科研費が倍増したら、おそらく審査は対応できないのではないかという気がする。統計を見ても、1件当たりの科研費の金額は少ないのに対して、例えばNSFの場合であれば、件数が少ないということでおそらく成り立っているのだろうと思う。従って、今の科研費の少額の基盤研究(C)のような競争的資金をそのまま拡充することが正しい方向なのかどうかということには若干の疑問がある。水野先生が言われたように、そういう部分については、むしろ大学の自由な裁量など、本当は基盤的経費でカバーするべきということが根本的な問題なのではないか。ただ、現実的な主張としてなかなかそういう方向に踏み切れないという感覚はわかる。

【有川部会長】
 非常に大事なことを指摘していただいたと思う。国立大学法人でいうと運営費交付金であるが、基盤的経費との関係があると思う。運営費交付金が第1期中に700億円強が削減されており、京都大学1校分以上に相当する運営費交付金が国全体としては削減されている。それから、研究機関が統合により少なくなっているというデータがある。国立であれば運営費交付金に相当する部分、私学や公立においてもいわゆる基盤的な経費が減少しているのではないかと思う。そこを強化することによって、先ほど言われたようなところはかなり回復できるのではないか。要するに、昔の校費、今であれば基盤的経費や運営費交付金によって支えられてきた非常に大事な研究というのはいろいろな分野に数多くある。そして、芽が出てきたところで科研費や競争的なところへいくので、その大もとのところをどうするかということは、非常に根源的なことなのではないか。
 そして、すべて競争的ということにすると、公平ではあるし納税者に対する説明はしやすいが、手間の問題などいろいろなことが生じてくる。その辺もあわせて研究費部会で議論していく必要があると思う。

【家委員】
 今の小林先生のご指摘も考えなければいけないことだと思うし、科研費の審査に関して日本学術振興会に多大な労力をかけてやっていただいているが、仮に科研費の予算が倍増して対応できないかというと、私はそうではないのではないかと思う。予算を倍増されたからといって、応募件数がすぐに倍になるかといえば多分そうはならない。今より少し多いだけであれば、応募件数に対して全部審査をしているので、結局ボーダーラインが変わるだけで、その分新規の採択率が大幅に伸びるということは非常に結構なことではないかと思う。

【有川部会長】
 お手元のこれまでの審議のまとめの資料にあるのではないかと思うが、最近は採択率が20%そこそこになってきているので、予算を倍増すると、単純に言えば採択率が40%ぐらいになる。当然応募者も増えてくるとは思うが、手間が直ぐに倍になるということではないと思う。20%という採択率が問題で、少し前までは3分の1ぐらいはあったが、20%ではそれを当てにした研究計画がつくりにくくなるのではないかという気がする。

【甲斐委員】
 資料5の4ページに、年度別、年齢別の採択率が出ているが、これを見ても、19年度と20年度の採択率を比較するとほとんどの年齢で落ちている。採択率が落ちて20%を切るということは、応募者にとっても大変ディスカレッジであるし、サイエンス全体の伸びを考えてももう少し採択できると良い。外国の例を見ても25%程度は採択されている。いろいろなアイデアがあるので、最低限4分の1ぐらいはカバーしてあげるべきではないか。全体の予算を上げようということを強く言っても何とかなるのではないかと思う。
 最初に部会長が言われたように、運営費交付金を下げていることに対して、この部会でこれをやめていただきたいということはぜひはっきり明言していただきたい。すべての大学が1%シーリングで下げなければいけないという理論がよくわからない。科研費による研究がなければ大学院生を教育することもできないような状態に大学が追い込まれている。それを何とかするために競争的資金を増やそうというのは少しおかしいので、運営費交付金を元に戻すべきである。それは当然研究費部会で言ってもいいと思う。こういうことは研究費に負わせるのではなく、大学の教育を充実させるためということは基本計画の中にサイエンスの充実という項目でうたっていただいて、それとは別に競争的資金の倍増計画ということを言っていただく。それは第3期では出ていなかったと思うが、21ページの最後にあるように、オバマ大統領がこの10年間で基礎研究の予算の倍増ということを言っているので、ちょうどいい機会として、既に我々よりも何倍も予算額の多いアメリカが倍増と言っているのに、日本は10%増やそうなどということでよいのかということを高らかにうたっていただければと期待する。

【有川部会長】
 科研費は、大学の国公私を問わず、民間の研究機関も含めた制度になっている。そういう意味で、運営費交付金ということでは国立大学だけになってしまうので、表現の仕方は工夫しないといけないと思う。国立大学の運営費交付金に相当する基盤的経費をもう少し充実させる必要があり、それがあっての科研費だというようなことを言っても良いのではないかと思う。

【山下企画室長】
 例えばこの研究費部会においても、本年の1月に取りまとめた「基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について」という提言の中で、基盤的経費の充実と、科研費の拡充との両方が大切で、デュアルサポートが重要であるということは言っていただいているので、そういうことを訴えていくということはあると思う。

【有川部会長】
 科研費がこれまでに果たしてきた役割や現状等についてどのように考えるかということについて、資料4に○が2つあるが、まず1つ目の○の、科研費の役割として若手研究者をはじめとする研究者の育成や大学等の研究機関における研究活動の活性化による我が国の経済社会の発展や国民生活の発展との科研費の関係などについてまず議論していただきたい。
 先ほど議論していただいたことにも関係があるが、これまで果たしてきた役割、現状について評価しておかなければいけない。その結果、科研費がますます重要であるというようなことになってくると思うが、それを言うときに、現状についてどう考えるかということは議論しておかなければいけないと思う。

【家委員】
 同じことを繰り返すことになると思うが、資料5の4ページにある年代別の新規採択率は、非常にショッキングでディスカレッジングな数字である。特に40代後半から50代、この年代は自分で研究室を主宰している層であるが、その方々が20%に満たない採択率だということは、その研究室に所属する人たちの研究活動にも支障が出ているということになる。競争的資金などなくても基盤的経費でやれるというぐらいの十分な運営費交付金があるならそれでよいのかもしれないが、全くそうはなってないので、残りの80%の研究室はどうなっているのだろうという疑問がある。これは新規なので継続も含めればもっと率は高いと思うが、それにしてもこの数字では半数以下なので、こういうことは現状として声を大にして言わなければいけないと思う。

【有川部会長】
 39歳までは20%を超えているが、それ以降40歳からは全部20%以下になってしまっている。これは相当問題で、若手枠というのが特別にあるのでその影響もあると思う。前の研究費部会でも議論していたところであるが、今の家先生のご指摘は、研究を立ち上げるあるいは維持する上で、科研費が非常に重要な役割を果たさなければいけないのに、これでは8割ぐらいに対しては機能していないのではないかということで、もう少し充実させなければいけないということだと思う。継続分も含めたデータはあるか。

【山下企画室長】
 これは新規分であるが、分析をすれば新規、継続両方を含めたデータも出せると思うので、また別途ご用意させていただきたい。

【鈴木委員】
 科研費の役割に関しては、もう何も言うことはないと思うが、昔、この席でJSTがなくなっても困らないが、科研費がなくなるとみんなが困るという話があった。ただし科研費も、必ずしも今のままでよいかというと、やはり問題はある。1つは、日本の研究者は、良い結果を出そうと高性能の最新の外国製の装置・機器を購入する傾向が特に近年強い。日本製のものを工夫・改良しようとしない。例えばアメリカの場合では、外国の機器を購入する場合は厳しい審査を受けることになる。科研費でも、日本の技術育成に貢献する観点が導入されるべきである。単に外国製の機器を買うだけでは、日本の基幹技術が落ちていく。例えばレーザー、冷凍関連技術、真空蒸着技術等の日本が得意であった基幹技術がなくなってしまっている。科研費の経費査定の重視と外国製品購入の精査を取り入れる必要があると思う。

【宮坂委員】
 それはとても難しい。例えば、敵と戦うために武器を幾つか用意しておくとき、誰でも一番良い武器で戦いたい。それとほぼ同じ性能の武器が日本のものであれば、もちろんそれを使うが、個々の研究者に、外国の武器ではだめだから、少し性能は落ちるかもしれないが日本の武器で戦いなさいと言っても、とても戦えない。それは少し筋が違うのではないかと思う。

【鈴木委員】
 分野にもよるだろうが、既にある武器を使って成果が出るようなものは、そう大した成果ではないとの見方もある。今ないような武器をつくって、初めて世界を凌駕するような成果が出ることもあるので、そこの試練が徐々に日本からなくなっているということを言いたい。

【有川部会長】
 非常に大事なご指摘である。生命科学の方はご存じだと思うが、生命科学関係の場合には、90%ぐらいがそういったことになっているという話を聞いたことがある。一方で、物理のほうでは、実験機器や観測機器をつくるということも非常に大事で、理論物理の方が並列マシンまでつくっている。実験機器を自分たちでつくることは、物理としては非常に伝統的なやり方で、鈴木先生が言われたように、世の中にないものをつくるとそこでやった研究が一番進んだ研究になる。ただ、そういったことに取り組む時間的な余裕がない。制度的な面もあるのかもしれないが、そういう意味で基盤にかかわるところに科研費などが使えるようになると良いのではないかと思う。

【家委員】
 鈴木先生が指摘されたのは、物理でもそういう傾向が徐々に薄れてきて、逆に言うと、既存の装置でできる研究しかしないという傾向が強くなってきているということで、私も大変憂いている。ただ、それを科研費に期待するかというと、また難しい問題で、やはり競争的資金の場合はある研究期間の中で成果を出さなければといけないということがあるので、開発という息の長いものはなかなかできない。そういう意味でも、また話は元に戻って、基盤的な運営費交付金で息の長い開発ができるということが非常に大事だと思う。
 それから、日本の科学機器の底上げというのは非常に大事なことだと思うが、それをやるためには科研費の予算ではあまりにも少な過ぎる。そういうインパクトは何か別のことを科学技術基本法でうたって組織的にやってもらわないと、科研費のような競争的資金では手に負えない問題ではないかと思う。

【有川部会長】
 これはどのような資金で対応したら良いか。最近では非常にお金のかかることが多くなっているが、そうでなくても、例えば少し前までは試験研究というようなもので、比較的小規模なものを自分たちでつくってみたり、情報の分野でもシステムをつくって運用してみたりということができた。その辺が最近ではやりにくくなっていると思う。

【鈴木委員】
 そういう装置の開発だけを目標にした研究費だけではなく、それによって研究の成果を出すという目標を持った研究費も重要である。今、家先生が言われたように、いろいろな競争的資金においてこのような措置を講じることは必要であるが、他を期待するのみではなく科研費でもやれるところから始めることが重要である。

【家委員】
 この問題は、予算的な問題よりも多分人の問題が大きくて、今企業の側でそういう技術伝承が全くできていない。私の身近なところでも、前の装置が古くなったから設備更新をしたいと言っても、それをできる人がいないということになっている。そういうところは、日本の社会全体として考えなければいけない。

【山下企画室長】
 例えば、資料5の中に科研費によるこれまでの成果として、7ページ以降で、ある意味わかりやすい成果の事例みたいなものを示させていただいているが、こういうものに限らず、これまで科研費を拡充してきた中で、こういう成果や影響があったのではないかというようなことがあればご発言いただければと思う。

【中西部会長代理】
 科研費のデータはいろいろなところに出されているが、それとの関連で、デュアルサポートを考える際、基盤的経費が一体どれぐらい配られているかというデータがあまりないのではないかと思う。
 最近、科研費の配分の20番以内の大学の方に聞いて非常に驚いたのは、年間の校費が12万円だということである。実際はもっともらっていることになっているが、そこから大学に共通経費を払っているので、これでは研究できないと言っている。もう一人の方も8万円ということである。ただ、それとは別に学生が1人あたりの校費もあるということではあるが、実際に幾ら配られているはずだという数字と、末端の研究者が実際に使える金額との間にはかなりの差がある。そのデータがあると、いかに科研費が大切かというのがよくわかると思う。
 科研費がもらえない場合は年間数十万円で過ごしている人が増えてきているということも、もっと考えなければいけないのではないかと思う。もちろん予算を配分して、最先端の研究を伸ばすということも大切であるが、それはそれで何年間かたつと終了してしまうかもしれない。次の研究の芽を出していくためには、広くあまねくいろいろな研究がサポートされ続けることが重要である。毎年運営費交付金が減っていることもあり、現時点で個人が自由に使える研究費のデータが出れば、研究費の議論をする際の良い判断材料になるのではないかと思う。

【有川部会長】
 これはそれぞれの大学ではデータを持っていると思うが、全国的なものはなかなか集めにくいのかもしれない。相当時間はかかると思うが、適当なやり方でデータを用意してみることは意味があると思う。
 それでは、科研費の将来の規模やそれによる成果についてどのように考えるかということを議論していただきたいと思う。
 資料5の13ページの予算の現状について、科研費は微増であるということになっているが、これは間接経費込みということか。

【山下企画室長】
 間接経費が入った金額で示している。

【有川部会長】
 それから、16ページから18ページにかけて、競争的資金の配分2007年度版がある。アメリカに比べて日本の場合はトップグループから急激に落ちてしまうということであるが、これは私学や公立を含めたようなデータはないか。

【山下企画室長】
 このデータは、ご指摘のとおり、国立大学及び共同利用機関法人への配分を集計したものである。既に公表された資料をそのまま活用して提示させていただいていて、私学等は含まれていない。私学まで含めた分析はされていないかもしれないが、もしそういうデータがあれば次回以降で提示したいと思う。

【水野委員】
 本日の最初に伺ったイノベーションという言葉がずっと気がかりになっている。家先生からも質問していただいたが、イノベーションという言葉で役に立つものを引っ張っていくということになると、全体がおかしくなってしまうのではないかという気がしてならない。特に私は文科系なので余計にそう思うのかもしれないが、昔から文科系では、飢えた子どもの前で文学は何の役に立つのかというような議論がある。具体的にこれに役に立つということを超える意義は、研究者であればわかるが、それを絶えず説明しなければならないようでは困る。私のやっている社会科学などでは、今そこに飢えた子どもがいるということを認識することができる力というのを社会科学がもたらすというように思っている。何を知覚して何を考えることができるのかということ自体を生み出していくのが科学だというところがある。既存のアイデア論で、だれでもわかるようなことだけをこういうことに役に立つだろうという発想で引っ張るのではなく、一体何ができるのか、何があるのか、一体どういう認識を我々は将来有することになるのかということまで含めたものが科学だと思うので、そういう意味で、イノベーションという言葉と科学を底上げするということとはすごく遠いような気がする。そういうことを科研費の将来についても盛り込んでいただければという気がする。

【有川部会長】
 これは科学技術基本計画ということで、非常に政策的なことだと思うので、役に立たなくてもというような言い方をした途端に話が通じなくなると思うが、実は先生の今の説明を聞いていると、やはり非常に役に立っているのだと思う。それを表現すればいいので、あまり役に立たないということを言う必要はないのではないか。そのようなことをあまり言うと、そういうことであれば個人でやればどうですかということになる。科学者は興味がある(インタレスティング)というが、そこを重要(インポータント)と表現するだけでも随分違う。そのくらいのことは納税者のことを意識して考えてもいいのではないかと思う。

【金田委員】
 科研費の採択率や総額の問題、それから運営費交付金のような基盤的な研究費の問題が先ほどからずっと話題になっているが、結局、科研費も採択率が低い状態だと、結果が目に見えるようなもの、プロセスが明確なものだけが採択される比率が高くなると思う。全部がそうであると言うわけではないが、どうしてもそうなってしまう。そうすると、いろいろな可能性のある広い基盤が失われていくことになると思う。運営費交付金のような基盤的な研究費であるとか、継続的なもの、あるいは採択率を広げることによって、役に立つか立たないかわからないようなものでも少し可能性のあるものまで基盤を広げることは、研究進展のためにぜひとも必要だと思うので、そこは強調するようにしていただければと思う。

【有川部会長】
 第3期のところに、研究者の自由な発想に基づく研究を支援するということが明確に書いてある。それぞれの分野で、その価値観をきちんともって審査されていると思うので、必ずしも社会に直接役に立つようなものが採択されているわけではない。例えば工学などであれば、社会に役に立つといったことを言わなければいけないが、基礎科学や人文社会系であれば、そういうことはないのではないかと思う。この時期、こういうテーマが学問領域として非常に大事だということで十分説得力があり、それで採択されているのではないかと思う。
 今回のイノベーションということであるが、資料2の参考1の9ページに知的・文化的価値とか、経済的、社会的といった表現がある。特に知的・文化的価値というのは第3期までは直接的には入っていなかったと思う。イノベーションといったときに、科学技術の中でのことだけではなく、それが生み出す知的、文化的なことあるいは社会的なことを考える中で、科学技術のイノベーションが起こるのだというようなことも入っていると思う。言葉遣いとしては少しわかりにくいところがないわけではないが、今期の科学技術・イノベーションという考え方は、そういう意味では非常に広がりを持ったものになっていると思う。

【家委員】
 最初にイノベーションという言葉について質問させていただいたのは、やはり今も出ているように、イノベーションという言葉を聞いたときに、一般的には技術革新や産業の活性化など、そういうことが前面に出ると思う。この9ページの先ほどの説明で一応納得したが、概念として納得するということからさらに一歩進めると、では、それをどのように施策に反映するかということが問題だと思う。少し乱暴な言い方をすると、例えばこの図で、知的・文化的云々のこの3つの丸が同じような大きさで書かれているのであれば、予算配分も大体同じ、例えば知的・文化的価値のところに3分の1ぐらい配分するというような具体的な考え方の反映があると非常に説得力がある気がする。

【鈴木委員】
 これまでの皆さんの意見と関連するが、アメリカと比べると日本の基本姿勢がよく見えてくる。日本の場合は「科学技術・イノベーション」で、21ページのアメリカの場合は「科学・イノベーション」となっている。日本では、科学が技術の形容詞になっていて、技術が主体である。第3期計画で、科学技術という言葉が盛んに使われたが、やはり技術が主体であった。その意味で、科学本来の意味がだんだん薄れてきている。水野先生や家先生のご意見と同じく、科学そのものの振興が重要であり、「科学・技術・イノベーション」とすべきである。第4期計画では、科学を強調して、間に中黒を入れるという提案もあっても良いのではないか。

【有川部会長】
 これは我々ではなくて、基本計画の特別委員会で議論していくということになると思うが、確かに科学というのがおまけでついているようなところがある。今回は先ほど言いったように知的・文化的というようなことも含まれていて、そういう科学の重要性、あるいは人文社会科学の重要性ということに関して、皆さんの認識が出てきていると感じている。

(3)その他

 事務局から、次回の研究費部会は10月13日(火曜日)13時00分から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

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