6.若手研究者の育成に向けた取組の充実

委員の意見

【若手研究者への支援の必要性】

○ 第4期の科学技術基本計画では、人材の問題は非常に大きなテーマであり、柱として立てるべきではないか。【第4回】
○ 博士課程の修了者については、「進路が不明」という形の者が30%、ポストドクターで非常にテニュアに対してチャンスの少ない者が15%、合わせると45%の逸材が社会的に不合理に巣立っている状況にある。この45%が、大学の研究職、企業の研究開発や企業経営に必ず就いていけるような施策を立てて、経時変化で施策の効果をはかる必要があるのではないか。【第4回】
○ アメリカ社会では、化学系のPhD取得者は修士号取得者の1.5倍の給料をもらえるため、MBAと同じように、研究者としてのライセンスとして博士号を取るという認識がある。【第4回】
○ アメリカの大学では、大学院生全員にTAをやらせ、さらにRAとして処遇する。2年目で月額2100ドルくらいの生活費を全員に出しており、年額で2万5000ドルくらいの生活費が出ていることになる。MITの事例では、授業料の3万4000ドルは、全部大学側が負担している。教員の負担が多く、教員が6万ドルぐらい自分の研究費を学生支援に充てている。【第4回】
○ 西洋中世史の研究者となるためには、資料を読むのにラテン語、アラビア語が必要になっている。また、研究文献を読むために、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語をマスターしておくのが基本ということになりつつある。そして、留学して訓練を受けるということも前提条件となっており、ハードルが非常に高くなっている。このため、研究者になるための期間が非常に長くなっている。【第4回】
○ 優秀な学生が大学に残らないのは、定職を得られないという先行きに対する不安、定職を得るまでの期間が非常に長いこと、さらには、大学院在学中、あるいはポストドクター期間中の経済的問題をどうクリアするかという問題にある。【第4回】
○ ポストドクターの位置づけが社会科学と自然科学とで異なる。社会科学の場合であれば、ポストドクターをインディペンデント・リサーチャーとして考え、研究プロジェクトで雇用する場合には、彼らに少なくともその期間は安定したサポートを与えて、テイクオフの機会を与えるという、人を育てるために使うという認識で雇用している。【第5回】
○ いろいろな課題を考える中で、博士学位取得者の社会的役割をどうするのかは重要な問題ではないか。研究教育の成果の方向は、社会が、博士学位取得者をどう受け入れるかで決まってくる。博士学位取得者が社会的にたくさん受け入れるように社会の在り方を変えるのかどうか、変える方向に学術の方向から働きかけをするのかどうかについて、徹底的に考えておく必要があるのではないか。【第1回】

【キャリアパスの多様化に向けた取組】

○ 優秀な学生が研究者の道を選択するようにインセンティブをつけるのであれば、競争やハードルは当然あるとしても、経路とゴールがある程度見えるキャリアパスを考えていかなければいけない。また、日本の学問をリードすることを期待されている若手研究者や国際的に活躍できるような研究者に対しては、定職に就くまでの間の経済的サポートがどうしても必要である。【第4回】
○ アメリカのドクターコースでは、研究をしていく中で、教授とのコントラクト、その背後には産業界とのコントラクトが必要となり、研究者養成が行われる中で社会に出ても産業人としてやっていける素養も自然と身につく。そのような道を日本のドクターの教育研究において実践したならば、教育研究者養成と高度専門職養成と分けなくてもいいのではないか。【第4回】
○ 基礎研究を担うドクターコースと、企業での研究を担うコースというように、制度的なところから、基礎研究人材養成と高度職業人養成を整理できないか。【第4回】
○ 日本の大学では、理系だと修士が非常に多い。そのシステムがアメリカと相当違う。現実に専門職、あるいは高度専門職人材は、修士課程の卒業生を意味するのか、あるいは、博士課程の卒業生を意味するのか。【第4回】
○ アメリカでは、大学院を卒業するとケミスト、化学者のままで、大学にいたり、会社に行ったりする。日本では企業に就職すると研究者ではなくなったような雰囲気になる。【第4回】
○ 大学に残ることが研究者として優れているという価値観が日本の中に根づいている。多様な研究者としての発展の在り方があることを認識できる社会をつくっていかなければならない。【第4回】

【優れた若手研究者への支援】

○ 大学院生を一律に支援するのは無理としても、将来の日本を支える人たちに対して何らかのサポートをするべきである。その際には、支援対象となる学生の選別・評価をどのようにして行うかが重要となる。【第4回】
○ 人文系と社会科学系の多くの分野では、抱えている問題が同じで、この分野の特性に応じたシステムが必要。この分野では、数理的なもの以外は、3年で博士論文を書き上げるのは難しい。短い期間で成果を見せないと支援が受けられない状態では、小さな論文を幾つか書いた学生が支援されることになり、腰を据えて博士論文を書き上げる学生が支援されない状態になっている。ある程度時間がかかるということも見込んで、特性に応じた支援ができれば、よい人材育成ができる。【第4回】
○ オーバードクターの就職口がないことを、どこまで検討しなければいけないか。『ネイチャー』や『サイエンス』に論文を書いた人間は、就職に苦労しないのではないか。それなりのポスト、あるいはフェローシップを出してもらえる仕組みが、日本の国内、国外にも存在している。【第4回】
○ 日本経済団体連合会のデータでは、民間企業に採用された博士号取得者は高く評価されているが、これは、採用を厳選している結果である。実際に企業の博士号取得者の採用率は低い。【第5回】
○ ポストドクターが滞留するシステムではなく、働ける環境を醸成すべき。大学の教員職だけでなく様々な研究職のポストがあって可能になる。【第5回】

【大学院教育の充実】

○ アメリカの基礎研究が素晴らしいのは、企業や社会が基礎研究でトレーニングされた人を高く評価するという風土があるからである。アメリカのシステムをつまみ食いしても仕方がない。また、アメリカは、大学院は博士を育てる場所だというミッションが非常にはっきりしているが、日本では、誰が博士に行くのかもわからない状態であり、大学の教育ミッションが成立しない。【第1回】
○ 研究者養成とは異なるが、例えば、企業側が要求するようなドクターを生み出す教育システムをある程度つくる、また、外交官養成に必要な教育システムをつくるというような機関があってもいいのではないか。【第1回】
○ 大学院教育が私費負担で賄われている我が国と異なり、欧米においては、院生に対し研究費の中から対価として給料が支弁されており、大学における研究と教育が表裏一体となっている。国として院生に対してお金を出し、それによって教育が行われ、国に対してリターンが返ってくるというのが、本来の大学院教育、博士・修士の養成の理念ではないか。【第3回】
○ アメリカの大学院教育においては、学生の粒がそろわないため必要との考えで、コースワークが実施されている。アメリカでは教授が1人で教育を担当しているので、学生の間に、ほとんど指導を受ける時間がないという不満がある。一方、日本では、助教、准教授が研究室にいるため、そういう批判はない。【第4回】
○ アメリカの大学院生は、基本的に1、2年生ですべてコースワークを終了して、それ以上続けない。授業と試験を減らしてリサーチに重点を置くべきかどうかなど、アメリカでもいろいろな問題について議論がある。【第4回】
○ アメリカの大学院をいくつか調査したところ、修士課程がなく博士課程しかない。修士号は博士課程をドロップアウトした人に授与するものとなっている。【第4回】
○ アメリカの大学院においては、学生の選抜は、GREの点数、GPA、推薦状、入学目的のステートメントで行う。合格通知を出したうちの何割が実際に入学したかという歩留り率が学校の名声と直接関係している。内部からの進学を認めていない大学がある。【第4回】
○ PD、博士後期、博士前期の学生の比率を見ると、アメリカでは、2.5:3:2で、大学院生の約50%の数のPDがいる。東京大学ではPDが17%で、残りのほとんどが修士であり、PDの不足部分を若手教員で補っている感がある。【第4回】
○ 西洋史に限定して言えば、国際的に活躍できる研究者を育てるのか、国内向けの教育者を育てるのか、趣味で勉強を続ける場なのか、大学院の目標をどこに置くかでその大学院の教育内容も抱える問題も異なる。意識的に国際的に活躍する学者を育てようとする人文系の大学院は日本の中ではわずかであり、大部分は国内向けの教育者養成か、大学卒業後に専門の勉強を続ける場所となっている。【第4回】
○ 日本の大学院教育は不十分で、博士課程で十分な教育がなされていないし、企業などからみた魅力ある人材が育っていない。どうやって大学院教育を充実させるべきか大学教員が深刻に考えることは重要である。【第4回】
○ 東京大学の研究水準の高さについては大学院に入学してから知る留学生が多く、外国の学生が東京大学の学部や大学院に留学するというインセンティブになっていないようだ。【第4回】
○ アメリカの大学院制度は、オープンで流動性の高いアメリカ社会の要請に最大限にこたえるように発展してきた。日本の歴史・文化や日本社会が大学院に求めるものは何かを十分に把握した上で、アメリカの大学院の精神を生かして日本に移植できる事項があるのではないか。「名声好循環」とか「昇進基準の明確化」、「博士一貫制」などはそれに該当するのではないか。アメリカにはなくて日本にある強みは勤勉、協調であり、例えば、グループ(講座)制ではないか。【第4回】
○ アメリカの大学のトップ10のどこを調べても、大学院生のうち留学生の割合は10%から20%ぐらいである。20位ぐらいになると、アメリカ人学生だけではカバーできず、半分くらいは留学生である。【第4回】
○ ポストドクターの質は均質ではない。ポストドクターの議論は、博士号の資格がしっかりとしたものになっているかどうかの問題であり、現状を追認しても仕方ない。【第5回】
○ ポストドクターの質を高めるためには、前提にある教育が重要になる。教育を高く評価するフレームワークが必要ではないか。現在では、教員の評価は研究業績で評価される。教育での貢献を正当に評価すべき。【第5回】
○ アメリカのテニュアでは5年で厳しい評価をされる。5年間に研究の状況は変化するが、その変化にも適応した論文を書かないと生き残れない。これは、基礎学力があって対応できるものである。【第4回】
○ 博士課程の定員充足率が予算と連動されることになると、充足率を高めることになる。この結果、教育の質の問題が生じてくる。これを防ぐための議論が必要。【第4回】
○ 博士課程の定員充足率を高めようとする結果、学生の質が落ちていく。実力的に無理だと思われる人でも入れざるを得ない状況になっている。しかし、こうした状況で大学院に入ることは本人にとっても良いことではない。【第4回】
○ 例えば定員充足を半数にして、しかし予算はもとどおりくださいというのは、納税者に対して説明が難しい。質の問題も含めてどういう理論的な説明ができるのかということは、文部科学省というよりもむしろ大学あるいは研究者にとって重要な問題である。【第4回】
○ アメリカの大学院では、トップ10クラスでは自国の学生が集まるため留学生比率は10~20%だが、トップ20クラスになると50%くらいが留学生で、世界中から学生を集めて大学院のレベルを保とうとしている。アメリカの感覚で言えば、日本でもアメリカのトップ20クラスの大学はいくらでもあるが、留学生を受け入れないとその質が確保できない。【第4回】
○ 留学生を採る仕組みができていない。中国、ヨーロッパ、アメリカ、韓国、台湾は修士課程から大学で学生に資金援助している。修士課程からサポートを充実しなければ、外国からいい人材は来ない。【第4回】
○ アメリカの博士課程修了者が、研究職として大学に残ることもでき、産業界に行ってもやっていけるのは、三位一体のシステムがスパイラルアップで動いているメカニズムになっているからではないか。日本の大学院は、博士課程教育を一生懸命にする、社会に役立つための研究のほうが大事と考える、イノベーションが大事と考える、といった具合に、それぞれの組織が独立して動いている。教育と研究と社会貢献を三位一体で推進する構造が日本にないため、博士課程のキャリアパスの問題が出てきているのではないか。【第4回】

「我が国の未来を創る基礎研究の支援充実を目指して」(平成20年8月1日 日本学術会議 科学者委員会学術体制分科会)

【キャリアパスの多様化に向けた取組】

○ 次世代の研究者を育成するためには、研究・教育環境の充実に加え、経済的支援や将来のキャリアパスについてさらに検討し具体策を立てるべきである。博士号取得者等の高度な専門性を有する人材が、大学等の研究機関のみならず多様な方面へ進み、その能力を活用することを可能とするため、組織的・政策的な支援と環境整備を行うことが重要である。

【優れた若手研究者への支援】

○ 若者が夢とチャレンジ精神をもって研究を遂行できる教育研究の環境を充実させるため、基盤的研究の支援を図りつつ、理系、文系の壁を越えた教育・研究を促進する体制を充実させるべきである。

「基礎科学力強化に向けた提言」(平成21年8月4日 基礎科学力強化委員会)

【優れた若手研究者への支援】

○ 教員に職位別定年制や再雇用制を導入するなど大学等の年齢構成を若手が多いピラミッド型に改善し、切磋琢磨する環境とするとともに、若手研究者の登用ポストの拡充を図ることが必要である。

【大学院教育の充実】

○ 高度な人材の育成の観点から、修士課程・博士課程共にTA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)等を活用した実質的給与型の経済的支援の拡充を図るべき。具体的には、特別研究員事業の拡充、大学院に対する競争的資金において、TAやRAの雇用を義務づけることや、優秀な人材に対してフェローシップ型のRAとして支援することが考えられる。その際、給付者と受給者の間には契約関係が生じ、奨学金とは異なり、TAやRAには十分な職業的義務の遂行が求められる。

「基礎研究強化に向けた長期方策検討ワーキンググループ」における審議経過について (平成21年5月27日 総合科学技術会議 基本政策推進専門調査会 「基礎研究強化に向けた長期方策検討ワーキング・グループ」)

【キャリアパスの多様化に向けた取組】

○ PD期間の長期化は、その後の進路の選択幅を狭めることから、大学や研究機関では早期に個々のPDの適正を見極め、進路について適切に相談。その際、大学等における研究支援者や教育担当者などへの進路も考慮。また、PDの民間企業への進路を高める取組みを推進する。

【優れた若手研究者への支援】

○ 国は国内外から優れた若手研究者を募集・採用し、人件費と研究費を支給するという新たな仕組みを検討。これにより採用された若手研究者はテニュアトラック制を実施する機関が受け入れ、そこで研究を行い、その後は、その機関において次の安定的なポストに移っていくことができることとする。
○ 大学や研究機関において、年齢に比例して給与のアップが行われるような硬直した給与体系を見直 し、研究教育活動の実績とその評価に応じた給与制度を導入することや、高齢教員の非常勤化を求める等の取組みを進めることにより、給与費全体の合理化・効率化を図り、それにより若手研究者へのポストを拡充。

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)