4.大学・大学共同利用機関における研究支援体制の強化

委員の意見

【研究環境の重要性】

○ 学生を教える教員の問題として、法人化以降、教員の総勤務時間が増えているものの、研究時間が以前よりも相対的に減っているという状況になっている。また、勤務時間のうち、組織運営に関わる時間が増えている。大学の教育システムや研究システムが組織力による競争という形になっており、これを、現場の教育者や研究者に担わせる現在のシステムの状態に無理がある。ただし、総人件費管理政策による定員管理が有る中で、事務機構を拡充するような方策がとりづらい。こういう条件設定が有る中で、どういう工夫をしてくのかという大学運営の難しさを抱えている。【第1回】
○ 教員が非常に多忙になっており、自分の研究がきちんとできない状況にある。また、大学は研究と教育が基本となっており、両方が混在しているため、これを整理して機能的に運営できない状況にある。教育には、人間教育や教養教育、専門知の次元があり、研究にも、自分のやりたいことをやるのか、人類が共有する知にどう貢献するかという次元があり、それぞれで対応の仕方が違う。この点を議論してわかりやすい形でまとめられないか。【第1回】
○ アメリカの大学の例では、サバティカル・リーヴが8年ごとに1年間あるところや、4年ごとに1学期間とするところがある。また、サバティカル・リーヴと夏季休暇を合わせると、6年間で2.5年間ぐらいは自由裁量の時間がある計算になる。労働時間は週70時間ぐらいで、東京大学の教員と同じくらいになっている。【第4回】
○ 教員が教育に割く割合は、教育プログラム運営のための会議も含めて、教育担当の教員を含めると10%から90%と、授業の担当数によって変わる。教育ばかりを担当する人もおり、ほとんど教育を担当しない人もいる。【第4回】
○ 研究者が本務とする教育と研究に加えて、余計なアドミニストレーションが増えるということは根本的に問題だと考えている。事務は事務がやる、テクニックのことはテクニシャンがやる、教育と研究は教員がやると明確に分けるべきであり、そこが損なわれていることが問題である。【第4回】
○ 数学は、ほかの実験科学と異なり、助手に指示して実験を進めることで研究が進むという分野ではない。研究者自身の体が他の業務に拘束されれば、その分研究が遅れる。サポートの在り方としては、事務的な仕事を助けてもらうことが重要となる。【第4回】
○ 研究環境は「大学」が考えることであり、研究室レベルの問題ではない。大学自身が考えるということがないといけない。【第4回】
○ 大学でできることも限られている。大学は装置産業ではなく、人的資源で動いているところであるにもかかわらず、定員を削減しろと言われるのはおかしい。【第4回】
○ 今問題となっていることは、研究における人的な配分がうまくいっていないことや、研究を支える基本的なところが欠如しているということである。【第4回】
○ 調査結果では、組織運営において一番時間が取られているのは評価対応である。これともう一つ、組織が研究費を獲得するための作業、これら2つが従来なかった作業であり、増えてきている。【第4回】

【高度な研究支援体制の構築】

○ 研究においても、アメリカではリサーチアドミニストレーターが学部レベルでいる。【第1回】
○ 事務体制は、MITの例では、教授が24名、准教授が5名、助教授が3名、事務職員が16名、技術職員が9名となっており、事務職員、技術職員のサポートが非常に多い。【第4回】
○ 研究環境基盤という点では、物的資源だけでなく、研究を支援する技術者、事務職員などの人的な研究支援体制も重要な論点であり、我が国の水準が相応のものであるか否か実データに基づいて検討する必要がある。また、当該分野の研究に精通した経験豊富なコーディネーターは大学のインフラとして重要であり、その鍵となる「人材の定着」をいかに図っていくかが重要である。【第2回】
○ 資源は有限であって、どのように予算を使い、支援を行うのが効果的かという観点から、現在のバランスの悪い支援のあり方を見直すべき段階にあるのではないか。特に重要な人的サポートの問題も含めて、第3期科学技術基本計画への評価も踏まえながら、第4期科学技術基本計画に向けた議論を進めていくべきである。【第2回】
○ 獲得した研究費が多ければ多いほど、それに伴う事務量も増えるという負のスパイラルが生じている。研究費を獲得してくる優れた研究者には、しっかりとしたサポートを行い、教育研究に専念してもらうべきではないか。【第4回】
○ 研究基盤の強化というのは非常に重要な問題である。日本では、研究者というとドクターを取ってノーベル賞をもらうか、ドロップアウトをするかという評価しかない。多様な評価ができない世の中になっているところが、膠着状態を生み出している。外国であれば、テクニシャンは非常にプライドのある立派なポストになっている。こういう多様な研究基盤、研究を支える人材を、それなりの価値観できちんとリスペクトするという文化を、研究者コミュニティの中でつくらなければいけない。また経済的にも支援をきちんとすべき。【第4回】
○ 盤石な支援があって、その上に研究者が乗るというのが、研究支援組織の形であるべき。【第4回】
○ 第3期科学技術基本計画のもとで大学が豊かになって、装置が非常にたくさん導入されてきたが、それをドクターコース専門の先端的なところで使うため、外に開かれていない、産学連携でも使えないというように、装置が一部の研究者によって私物化されたような感じになっている。これは、オペレーターとなるテクニシャンがいないから起きている問題である。横に展開するシステムをつくらなければいけない。テクニシャンを置いて、その人でなければ装置を扱わないという文化も日本に必要ではないか。装置をこれから有効利用するような施策などもあるが、オペレーティングが手薄になっているのではないか。【第4回】
○ IT系のテクニシャンは相当努力していて、コンピュータの維持管理を各研究室でやるのではなく、クラウドや基盤センターに全部アウトソーシングしている。このような取組は、大学だけでなく企業も実施している。【第4回】
○ どこの大学でも考えなければいけない運営の要素は、我が国の大学全体でできる限りアウトソースできる環境をデザインすることがきわめて重要ではないか。同じことを各大学でリピィティティブにやるのは無駄ではないか。【第4回】

【国際化時代に対応した事務組織体制の確立】

○ 日本には、アメリカのような研究者と社会・学生をつなぐ事務機構がない。例えば、留学生のリクルートから生活面での対応まで日本では全て教員がやることになっており、改めるべき。現場を知る留学生担当の戦略機構が学科レベルで必要。・・・(中略)・・・そして、各学部長が人を引っ張ってくる。このような研究者や教員と社会を結ぶ組織が、日本は完全に欠落している。【第1回】
○ 今後、我が国の研究所において共同研究を推進していく際には国際的な視野が求められる。国際共同研究を推進するうえでは、大学における受け入れ施設の整備、英語の出来るスタッフの配置、海外からの研究者が生活しやすいような環境の確保が求められる。また、国外からの資金を受け入れるようなシステムも作る必要がある。【第2回】

【大学運営の改善】

○ 学術研究のムダを省くには、組織のコントロールやマネジメントの細分化の問題といったところにメスを入れていくべきではないか。【第2回】
○ 日米の大学について調査したところ、東京大学の化学系は、研究レベルでは世界のトップ5と同水準だが、教授陣の世界的知名度(露出度)、建物、衛生安全、教育環境などの観点を含めるとトップ10ぐらいに下がる。現状の研究レベルを維持し、給与や研究条件、生活条件を整えることができれば、世界からトップに近い教員やトップクラスの学生が引き抜ける可能性がある。【第4回】
○ MITの化学系の運営コストは大体700万ドルの規模で(他の大学も700万、500万ドルほ ど)、ここに教授の9カ月分の給与、TAの報酬も入る。学生と留学生の比率を見ると、大学院においては228名中で45名しかいない。トップスクールでは、大体1、2割ぐらい留学生がいる構造となっている。【第4回】
○ アメリカの大学における学科の意思決定は、日本と同じく合議制であるが、チェアマンが教員の給料も含めて全部コントロールしている。【第4回】
○ アメリカの各大学院に、トップである意義と使命について尋ねると、どこも「特にない。」、「戦略はない。」と回答する。よい研究をしていればよい学生が自然と集まる、という考え方をとっている。【第4回】
○ アメリカの大学では、どこも外部評価を5年に1回実施しているようだが、トップの大学は特に外部評価の内容を気にしていない感がある。【第4回】
○ アメリカの大学の収支構造を分類すると、化学系は、自ら研究費を取ってきて研究する「研究依存型」に分類される。MBAは、学生が自らの経済的利益を得るために学ぶので、支援する必要はない「自立型」と分類される。人文学は、自力では到底収支が成り立たない「組織依存型」に分類される。例えば、研究依存型の分野で集めた研究資金の中から、浮いた額を人文学の分野に当てていくというように、大学が自ら資金を集めて、そのプレステージを保つために努力するという位置づけにある。アメリカの大学はこのような戦略を自ら決定し、実行している。【第4回】
○ アメリカほど余裕のある国であっても、トップ10以降の大学であれば、どの分野を支えるかを大学が自ら戦略的に決定している。日本においてすべての大学が全分野をカバーするのは難しいのではないか。【第4回】
○ アメリカでは、大学院の名声が高まり、教育が向上すると収入も増加して研究も向上するという形で、すべてが良いスパイラルに動く。日本ではこのスパイラルがうまく回っていない。【第4回】
○ 大学側が学問の多様性をどう考えているのかという問題が抜け落ちていないか。例えば、人文系と工学部が同じような仕組みで取り組む必要が本当にあるのか。大学の組織の運営の問題が非常に大きなテーマとしてあるのではないか。すべての大学が一律に同じようにやれるのか。リソースが無限に広がっていくような前提で物を考えることができないのであれば、そこをどう整理するかという問題がある。【第4回】

「基礎科学力強化に向けた提言」(平成21年8月4日 基礎科学力強化委員会)

【研究環境の重要性】

○ 大学と社会との関わりがより深くなっていることから、大学のフロントオフィス機能を強化するよう必要な人材の確保を図り、教員は、本来業務である教育研究に専念させるべき。

【高度な研究支援体制の構築】

○ 教員や研究者が教育研究により一層専念できるよう、研究資源・時間を最大限効率的に活用できる教育研究支援体制(研究支援者、技術支援者等の育成・確保を含む)を抜本的に強化すべき。

【国際化時代に対応した事務組織体制の確立】

○ 外国の優秀な学部の留学生、大学院生の我が国への受入れを促進するため、留学生の生活環境の整備や支援、英語の授業の導入や日本語指導の充実、ダブルディグリー、短期履修コースの導入、博士課程の教育の改善を図るべき。また、日本企業への採用等、日本で活躍できる方法を考える必要がある。

○ 大学等研究機関における国際専門スタッフの養成・確保及び外国人研究者の生活環境や家族のケアなど周辺環境の国際化が必要である。

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研究振興局振興企画課学術企画室

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