第3期科学技術基本計画に盛り込まれるべき学術研究の推進方策について(意見のまとめ)

平成17年1月17日
科学技術・学術審議会学術分科会

 学術研究は、研究者の自由な発想に基づき、新しい法則・原理の発見、独創的な理論 の構築、未知の現象の予測・発見からその展開までを目指すものであり、人類の知的資 産の拡充に貢献し、世界最高水準の研究成果や経済を支える革新的技術などのブレーク スルーをもたらすものである。
 このような学術研究は、国家的・社会的課題に対応した研究開発推進の基盤をもなす ものであり、両者は、いわば車の両輪としての重要性を持つ。積極的な投資が短期的に 大きな成果を挙げる分野もあり、速やかな対応が必要とされる国家的・社会的課題に対 応した分野に重点的に投資していくことも重要であるが、中長期的な観点から幅広い分 野に研究費を十分確保することが、知のストックの増大、新たな発展のための知のフロ ンティアの拡大、偶発的な事態に即応できる知のセーフティーネットの構築の意味にお いても極めて重要である。このような学術研究から生み出される新たな知識や知恵が世 界に向けて常に発信されていることによって、世界中の若者に科学への夢を与え、世界 に貢献する国としての地位を確立することができる。したがって、第3期科学技術基本 計画においては、中長期的な展望の下で検討されるべきことを十分念頭に置きつつ、大 学等(大学及び大学共同利用機関)を中心として基礎から開発・応用まで幅広く行われ ている学術研究への研究費配分の重要性が明確に位置付けられることが必要である。
 また、独創的・先端的で多様性に富んだ研究は、日常的に研究活動を行う中から偶然 に生まれることも多い。特に大学等は、独立行政法人研究機関等とは異なり、教育と研 究が一体に行われる独自の場であり、世界的な活躍が期待される研究者の養成や次世代 の最先端分野の醸成が日々行われている。大学等における学術研究活動に対する資源配 分の在り方は科学技術基本計画の成否をも左右する重要性を持つ。

 科学技術・学術審議会学術分科会及び同分科会学術研究推進部会では、平成13年7 月24日の「学術研究の重要性について」(学術分科会見解)、平成16年6月30日の 「これからの学術研究の推進に向けて」(学術分科会基本問題特別委員会報告)等や様々 な審議を通じて学術研究の推進の必要性を繰り返し提言してきたところであるが、第3 期科学技術基本計画において学術研究の推進の重要性を明確化し、大学等を中心に行わ れている学術研究に対する研究費の配分を抜本的に拡充する必要があるとの立場から、 以下の事項が盛り込まれるべきであると考える。

 第3期科学技術基本計画の策定に当たっては、平成16年10月から科学技術・学術 審議会基本計画特別委員会において調査検討がなされ、同年12月には総合科学技術会 議基本政策専門調査会での調査・検討も開始されたところである。
 本分科会としては、これらの場において、本分科会の意見が適切に反映されることを 期待する。

 物的資源に乏しい我が国において、独創的・先端的な学術研究活動により知を創造し、 重厚な知的基盤を構築していくことは国家存立の基本である。
 我が国の研究開発における国際競争力をさらに強化し、我が国が持続的な発展を遂げ るためには、既成の学問構造にとらわれずに独創的・先端的な研究が次々と生み出され、 多様性に富んだ豊かな研究ストックが常に存在する、ダイナミックな研究環境の構築が 不可欠である。また、そのような研究環境においては、国際的な協力と競争が活発に繰 り広げられることが必要である。大学等は、このような研究環境の構築に自ら努力する とともに、豊かな知的ストックを国民・社会、さらには国際社会に広く還元し共有して いかねばならない。
 そのためには、知的基盤としての学術研究に対する十分な研究費の配分を確保しつつ 国民・社会とのコミュニケーションを推進するとともに、多くの萌芽的な研究が発展し ていくようなファンディングシステムの構築、学術研究の推進を支える基盤の充実、国 際競争力のある優れた研究拠点の整備、学際・融合領域の推進、主体性のある国際活動 の展開が必要である。

◆ 知を基盤とする国の基本として、高等教育に対する公財政支出の対GDP比を 欧米諸国並みに近づけるよう努力し、学術研究への継続的な研究費の確保を推進。
◆ 国民・社会とのコミュニケーションを推進し、研究活動・成果への理解を得る ような体制づくりを促進。
◆ 基盤的経費を確実に措置しつつ、基盤的経費を基礎研究や大学院生等の教育に 確実に措置できるよう配慮。国・地方公共団体のプロジェクト、産学連携等では 間接経費の確保を促進。
◆ 科学研究費補助金については、競争的資金全体の数値目標をも踏まえつつ、平 成17年度予算額の大幅拡充を目指す。また、審査・評価体制の整備を推進。
◆ 卓越した研究教育拠点の整備、老朽化した施設の再生など施設設備等の着実な 整備を図るとともに、有効活用を推進。
◆ 「21世紀COEプログラム」後の「ポストCOE」の計画を検討。また、大 学、大学共同利用機関の連携強化による共同利用体制を発展充実。
◆ 優れた若手研究者への経済的支援を充実。また、「助教」等の若手教員の活躍の 場を確保し、教育研究活動のために必要な環境を整備。
◆ 自然科学と人文・社会科学との学際的・学融合的研究を一層推進。
◆ 最先端の国際共同研究プロジェクトに取り組む体制づくりを推進。アジアでは 日本のリーダーシップを発揮。また、我が国の研究活動・成果に関する国際的な 情報発信を戦略的に推進。

1.学術研究への研究費の確保と国民・社会とのコミュニケーションの推進

○ 学術とは、科学や技術にとどまらず、文化や芸術の発展にも貢献する、人類の幸 福に資する知の体系であり、国の知的・文化的基盤であるとともに、中長期的な視 点から人類共通の知的資産を築くものである。
 このような学術研究への継続的な研究費の確保は、知を基盤とする国の実現の基 本であり、一層推進する。
○ 学術研究は、その本質においてどのような成果が生まれるか予見できないもので あり、さらに近年研究の細分化が進み全体像が見えにくくなっていることから、国 民一般には学術研究が理解しづらい状況が生じている。学術研究に対する国民の信 頼と支持を得るためには、研究内容についてわかりやすい言葉で説明しつつ、研究 の成果を速やかに社会に還元し、積極的に社会貢献していくことが必要であり、大 学・研究者等自らが出来る限り多くの機会をとらえて国民・社会とのコミュニケー ションを推進し、研究活動・研究成果に対する理解を得るような体制づくりを促進 する。

2.多様性に富んだ研究を生み出すファンディングシステムの構築

(1)大学等への研究開発投資の拡充

○ 世界最高水準の研究を実現していくためには、まず学術研究の中核的機関であり、 研究の担い手の養成機関である大学等そのものの国際競争力を高めることが必要で ある。国際競争の基礎的な条件を等しくする観点から、第3期科学技術基本計画の 期間中に、欧米諸国の約半分である高等教育に対する公財政支出の対GDP(国内 総生産)比を欧米諸国並みに近づけていくよう最大限の努力が払われる必要がある。
○ 大学等においては、高度な人材養成や競争的資金の獲得にいたるまでの揺籃期に ある研究など、日常的な教育研究活動を支える基盤的経費と、優れたものを優先的 ・重点的に助成するための競争的資金との二本立て(デュアルサポートシステム) によって研究体制が構築されることが必要である。
 このため、国立大学法人・大学共同利用機関法人に関しては運営費交付金を確実 に措置するとともに、私立大学に関しては私学助成の充実を図ることとし、各大学 等における様々な補助金や国内外の外部資金及び間接経費とあいまって、基盤的経 費を基礎研究や大学院生等の教育に確実に措置できるよう配慮する。

(2)大学等による社会貢献と資金源の多様化

○ 大学等には、その知的資産を活用して、国・地方公共団体のプロジェクトや産学 連携等に積極的に参画し、社会的要請に応えることが期待されている。
 一方、プロジェクトを委託する側である国の各府省・独立行政法人や地方公共団 体は、大学等に過度な財政的負担を強いることのないよう、委託経費に間接経費を 予め組み込むものとする。また、産学連携においては、企業等との間における受託 研究や共同研究に伴い必要となる間接経費の確保を促進する。
○ 大学等が自ら財政基盤の強化を図るとともに、教育研究活動を確実に実施できる よう、大学等に対する寄付金控除額を米国並に高めることを目指す。

(3)競争的資金の拡充

○ 創造的で質の高い研究活動を創出するためには、研究機関の内外で競争原理が働 き、研究者の能力が最大限に発揮されるシステムの構築が不可欠であり、このよう なシステムの根幹をなす競争的資金についてはその効率的な運用を図りつつ、引き 続き拡充する。特に、間接経費は大学等における研究機能の向上に資するものであ り、引き続き着実に拡充する。
○ 研究分野や研究の段階等に応じて多様な競争的資金制度の中から研究者が最適な 制度を自ら選択できる環境の整備、公正で透明性の高い評価システムの確立、プロ グラムオフィサー(PO)やプログラムディレクター(PD)の配置や配分機関の 体制整備等による競争的資金のマネジメントの強化などの制度改革に積極的に取り 組む。
○ 競争的資金のうち、科学研究費補助金は、研究者の自由な発想に基づく研究を支 える基幹的な研究経費であり、年齢を問わず、少額の萌芽的な研究から大規模な研 究チームによるプロジェクトまで、様々な段階・規模の研究を支え、競争的資金の 中核をなしている。このような科学研究費補助金がより多くの優れた研究に配分さ れることは、研究の多様性を確保する上で欠くことができない。
 このため、科学研究費補助金については、採択率の向上等のため直接経費を拡充 するとともに、研究種目のうち必要なものにはすべて間接経費を配分することとし、 第3期科学技術基本計画における競争的資金全体の数値目標をも踏まえつつ、平成 17年度予算額の大幅拡充を目指す。
 その際、科学研究費補助金の審査・評価体制の一層の効率化・透明性を確保する ため、審査・評価体制の将来像及びその実現のための年次計画を策定するとともに、 科学研究費補助金総額のうち一定割合を事務体制の抜本的強化のため確保できるよ う措置し、十分な数の審査員の確保や業務の電子化を進める。
○ 競争的資金により実施された研究成果の公開を促進するため、各研究者が研究成 果を公開できるようなインターネット上のポータルサイトや研究成果の検索サイト の構築について検討する。

3.学術研究の推進を支える研究基盤の充実

○ 大学等における学術研究を推進し、優れた人材と研究成果を生み出すためには、 これを支える施設設備等の研究基盤の充実を図り、魅力に富んだ研究環境を実現す る必要がある。このため、卓越した研究教育拠点の整備を図り、老朽化した施設の 再生や設備の更新などを中心とした施設設備等の着実な整備を図るとともに、共同 利用も含めた施設設備の有効活用を図るなど戦略的な運営に取り組む。
○ 大学等において基本的に整備すべき設備については、共同利用のみならず、重点 配置、競争的資金による研究終了後の設備の再利用等の観点から、効率的・効果的 な導入・活用の在り方を検討する。
○ 私立大学においては、個性豊かな研究活動を展開するため、その研究施設や設備 の整備を積極的に進められるよう、補助率の引き上げを含め、財政支援の質的充実 を図る。
○ 学術研究に不可欠な研究基盤である図書等の文献・資料、研究用材料(生物遺伝 資源等)やデータベース等の体系的な整備を促進する。
○ 研究者が研究に専念し存分に活躍できるよう、欧米諸国に比して格段に少ない研 究支援者の一層の確保と優れた研究支援者の養成を図る。

4.国際競争力のある優れた研究拠点の整備

○ 国際競争力のある大学づくりを推進し、世界に伍する教育研究を積極的に展開す るため、高度な学術研究の中で、創造性・柔軟性豊かな質の高い研究者の養成が期 待される卓越した教育研究拠点に対する重点支援を一層強力に推進することが重要 である。
 このような観点から、現在、国公私立大学を通じて、世界的な拠点形成を重点支 援する「21世紀COEプログラム」が展開されているが、本プログラムの今後の あり方、具体的には平成19年度以降のいわゆる「ポストCOE」の計画を検討し、 より充実・発展した形で具体化する。
○ 最先端の大型研究施設・設備は新たな研究分野を開拓し当該分野の研究の質を高 めていることにかんがみ、国際競争力のある優れた研究拠点である大学や大学共同 利用機関をさらに発展させるため、大型研究施設・設備を活用して中・大型プロジ ェクトが機動的に実施できるようなファンディング等の仕組みについて検討する。
○ 大学、大学共同利用機関の連携を強化し、共同利用体制の発展充実を図り、新た な知の創造に向けた機動的・戦略的な研究体制を構築するなど、我が国における当 該分野の中核的研究拠点として引き続き各分野の特性に応じた研究が着実に実行で きるよう支援を図る。

5.優秀な若手研究者の養成

○ 大学には、その卓越した分野を活かして大学院教育を行い、優れた若手研究者を 養成することが求められている。このため、大学自ら、将来研究者としての活躍が 嘱望される大学院生に対して奨学金を始めとした経済的支援を積極的に行うよう努 めるとともに、国はトレーニーシップ的なグラントの導入等大学に対する支援の充 実を図る。
○ 大学院における教育研究活動を活性化し、若手の大学教員が教授等になるための キャリアパスについての見通しを持てるようにする観点から、各大学院において新 たな職としての「助教」を積極的に活用するとともに、研究教育拠点の形成を通じ た若手教員の活躍の場の確保、若手教員の競争的資金(研究費)の充実、助教をは じめとする若手教員のスタート・アップも含めた教育研究活動のために必要な環境 (研究費・設備の確保等)の整備、若手教員に配慮した組織的な教育研究を展開す るための施設マネジメントへの支援等について検討する。
○ 研究者の流動性を高め、国公私立大学、大学と民間、国内と国外との間の移動を 円滑に行えるよう、各大学等において雇用条件等に関する明確な情報提供に努める。

6.学際・融合領域の推進

○ 地球環境問題や生命倫理問題等の現代的諸課題の解決に向け、自然科学と人文・ 社会科学とが学際的・学融合的に取り組む研究を一層推進する。
○ 学際・複合・新領域の研究分野の発展と既存分野の再編等への期待が高まってい ることを踏まえ、科学研究費補助金の審査において、学際・複合・新領域の審査体 制の充実を図る。

7.主体性のある国際活動の展開

○ 世界中から優秀な研究者を惹きつけ、我が国が世界に先駆けて最先端の国際共同 研究プロジェクトに取り組めるような体制づくりを推進する。
○ 特に若手研究者が新たな知と出会う場として、国際的な研究活動を推進する。
○ アジアにおいては、これまでの知の蓄積を活かして日本のリーダーシップを十分 発揮し、主体性をもって研究コミュニティを構築する。
○ 学協会と連携しつつ、我が国の学術論文・雑誌の国際的な流通を推進するととも に、大学等研究機関の主体的な研究成果情報の発信機能等を強化し、我が国の研究 活動・成果に関する国際的な情報発信を戦略的に推進する。また、我が国の研究者 が学術成果の国際発信を行う場である学協会を積極的に支援する。

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