学術の基本問題に関する特別委員会(第3回) 議事録

1.日時

平成21年4月23日(木曜日) 15時~17時

2.場所

ルポール麹町3階「マーブル」

3.出席者

委員

佐々木主査、谷口主査代理、石井委員、小林委員、柘植委員、家委員、鈴村委員、磯貝委員、古城委員、中村委員、沼尾委員

(科学官) 
喜連川科学官、高山科学官

文部科学省

倉持研究振興局担当審議官、土屋政策評価審議官、藤原会計課長、山口学術研究助成課長、門岡学術企画室長 その他関係官

4.議事録

【佐々木主査】 

 お待たせいたしました。ただいまから、科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会の第3回会合を開催いたします。
 それでは、まず、配布資料の確認を事務局からお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 資料につきましては、お手元の議事次第2枚目に資料番号を付した一覧がございます。欠落等ございましたら、お申し出いただきたいと思います。
 また、前回の資料、報告等につきましては、左手にドッチファイルがございますけれども、そこに適宜追加しておりますので、ご参照いただければと思います。
 以上です。

【佐々木主査】 

 それでは、議事に入ります。
 まず、本日の議事でございますけれども、主として研究費の在り方についてご議論いただこうということでありますが、本委員会では、繰り返すまでもございませんが、学術の意義や特性について、それから学術と社会の関係について、学問の特性を踏まえた我が国の学術の振興施策の方向性についてという、3つの事項について審議をすることになっております。あわせて、第4期科学技術基本計画の策定を視野に入れた議論を進めることが求められているわけであります。
 本委員会の第1回目におきましては、学術の基本目標に関する論点整理ということで、大学等における研究を取り巻く現状と課題につきまして、委員の皆様から自由にご意見をいただきました。そこでのご意見を踏まえまして、第2回目の会合で今後のスケジュール案を示し、当面の論点を学術研究の意義、役割、学術の研究環境基盤の在り方、研究費の在り方、研究評価や研究支援体制の在り方、人材養成の在り方を整理した上で、6月までの審議におきましてこれらの議論を深め、課題を抜き出していく形で作業を進めていくこととしました。また、第4期科学技術基本計画の策定を視野に入れた議論が求められていることにつきましても、繰り返し述べたところでございます。
 第2回目の会議におきまして、これらの論点を踏まえ、論点のうち学術研究の意義、社会的役割という、いわば総論についてご議論をいただくとともに、個々の論点として学術研究の推進に向けた学術研究基盤の在り方を取り上げて、ご議論をいただいたと認識しております。
 本日は第3回目になりますが、先ほどの論点のうち、研究費の在り方、特に大学等の研究者を支える研究費の在り方について議論を深めたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 また、中村委員のほうから、人材養成というテーマでご発表の申し出がございましたので、研究費の在り方に関する議論が一段落したところで、中村委員からご発表をお願いして、意見交換をしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 主査、委員のご紹介をお願いいたします。

【佐々木主査】 

 きょう、初めてのご出席ということで、石井委員です。

【石井委員】 

 よろしくお願いいたします。

【佐々木主査】 

 それでは、研究費の在り方についてということで審議に入ります。
 これまでの審議会の議論の中で、自由な発想に基づく研究を支える基盤的な資金の重要性や、競争的資金の課題に関する意見がいろいろ述べられたわけです。このような研究費の在り方に関する問題は研究費部会でも議論を進めておりますが、言うまでもなくこの問題は学術振興を考える上での基本的な問題でございます。本委員会には、研究費部会の委員をお務めになっている先生方が何人かいらっしゃいますので、本委員会にて適宜、部会の動向についてご紹介をいただければと思います。また、部会での審議に資するような形で、ここでもより広い観点から議論が進めることができれば非常に望ましいと、座長として考えております。
 事務局で資料を用意しておりますので、それを使いつつ審議を進めてまいります。質疑の際、このほかに研究費の在り方について重要な論点がございましたら、事務局からの説明の範囲に限定されることなく、幅広くご意見をいただければと思います。
 それでは、まず、山口学術研究助成課長からお願いします。

【山口学術研究助成課長】 

 学術研究助成課長の山口でございます。
 私のほうからは、研究費につきまして、科研費を中心に現状と課題、それから、先ほど主査からもお話しございましたが、今、研究費部会でどのようなことをご審議いただこうとしているのかということについて、資料1と2に基づきまして簡単にご説明をさせていただきたいと思います。
 まず、資料1でございます。A4横長の資料をご用意させていただいております。科研費の現状と課題という資料でございます。
 1枚おめくりいただきまして、1ページをごらんいただきたいと思います。ここでは、科学研究費補助金の概略の説明を記述させていただいております。科研費は、研究者の自由な発想に基づく研究である、学術研究を対象とする競争的資金でございます。特に最近、研究者の自由な発想に基づく研究ということをご説明いたしますと、そういうものなら何でもよいのかと時々言われたりいたしますけれども、そうではなく、研究者の自由な発想に基づく研究で、人類にとっての新たな知の発見とか、文化の継承につながるものを、研究者同士の審査の仕組みであるピア・レビューを通じて審査し、採択し、支援していくという仕組みと言えようかと思います。
 予算規模でございますが、ここに書いてございますように、平成21年度は1,970億円になっております。政府の競争的資金の中では、最も予算規模が大きくなります。
 採択率につきましては、20年度で約23%という状況になってございます。
 2ページをお開きいただければと思います。これも概略図でございますけれども、さまざまな競争的資金がある中で、大きく分ければ、研究者の自由な発想に基づくボトムアップのものと、ある一定のテーマを決めて、それを集中的に支援していくというトップダウンのものがあるわけでございますけれども、先ほど申し上げましたように、科研費につきましては、右の下のほうに色をつけてございますけれども、研究者の自由な発想に基づく研究を支援する。それも、トップダウンではなくボトムアップで、公募審査を通じて採択し、支援するという仕組みになっております。ほかの制度とは大きく異なっております。
 次に、3ページでございます。ここの部分は、科研費に幾つもの研究種目がございますが、その体系を示すイメージ図でございます。中央に、緑色のピラミッドと申しましょうか、三角の部分がございます。これが、科研費の中核でございます基盤研究の部分でございます。この基盤研究の部分は、その規模、あるいは研究期間によって、基盤(S)という一番大きいものから基盤の(A)(B)(C)、(C)が一番小さいわけでございますが、3年から5年で500万円といった形で一番小さいものまで、さまざまなレベルで区分されております。このうち、規模が最も大きいものは特別推進研究ということで、3年から5年で、規模的にはとりあえず5億円程度と言っておりますけれども、制限なしという形で、国際的に高い評価を得ている研究を推進するという仕組みがございます。
 左側に、水色の、これまたピラミッドがございますが、これが若手研究の部分でございます。基礎研究の体系とは別に、若手研究者の自立支援を目指す若手研究の体系がございます。これも、規模の大きいものから順に、若手(S)(A)(B)といった研究種目に区分されております。それ以外に、若手研究(スタートアップ)、あるいは特別研究員奨励費といった研究種目もございます。
 右側に、ピンク色で四角に囲んださまざまな研究種目群がございますが、これは新たな領域の開拓、あるいは挑戦的な研究の推進を目指すといった意味での体系でございまして、新学術領域研究、あるいは挑戦的萌芽研究といったものがこれに当たるところでございます。詳細につきましては、4ページに少し詳しい資料をつけておりますので、後ほどお目通しをいただければと思います。ここでは、ご説明を省略させていただきたいと思います。
 5ページ以降で、研究費、特に大学を取り巻く状況につきまして少しご説明をさせていただきたいと思います。
 5ページは、国立大学法人運営費交付金の推移でございますが、ここに書いてございますように年々削減されております。基盤的経費が年々削減されているという状況が国立大学法人に見られるところでございます。
 6ページ、私立大学等における経常的経費と経常費補助金額の推移ということでございますが、一番下の青い部分が私学の経常費補助金の部分でございます。これは、残念ながらなかなか伸びておりません。というよりも、この3年ほどは、少しずつではございますが、減っておる状況でございまして、なかなか厳しい状況でございます。
このように、大学などにおける基盤的経費は削減が続いておりまして、経営環境も非常に厳しいものがあると思います。
 こういう状況を踏まえまして、科研費に対する応募は非常に増えております。7ページをお開きいただければと思います。ここでは、科研費に対する新規、あるいは継続を含めたものもグラフとして入れておりますけれども、応募者の伸び、採択件数の伸びをグラフにしております。濃い青い折れ線の部分が新規と継続を合わせた応募件数、ピンクの折れ線が新規部分のみの応募件数を示しております。いずれにしても、増加傾向にあると見ていただけるものと思います。
 8ページでございます。応募件数が非常に増えておりますけれども、予算、なかなか厳しい状況もございます。採択率につきましては、現在、新規の採択率は20%台の前半にとどまっているところがございます。
 9ページをお開きいただければと思いますが、これは科研費の採択件数を棒グラフで示しております。それから、平均配分額がどのぐらいになるかを折れ線グラフで示したものでございます。平均配分額につきましては、ここ数年、一貫して減少しておりまして、これについては一つの大きな課題ではないかと考えているところでございます。
 次に、10ページをお開きいただければと思います。先ほども申し上げましたように、科研費の中核の研究種目でございます基盤研究の部分について、グラフをご用意させていただきました。応募件数が増えていると申しましたけれども、すべての研究種目について、一律に応募件数が増加しているわけではございません。一番上の青い線がございますが、これは基盤(C)というものでございまして、3年から5年で500万円という最も小さな研究種目の部分でございます。比較的小規模な研究種目である基盤(C)において、応募件数の増加が顕著であることがおわかりいただけるかと思います。
 11ページでございます。これも、既に皆様ご承知のところだと思いますけれども、科研費の審査の流れ、特にJSPSでの審査の流れについて簡単にお示ししたものでございます。研究者同士の審査、ピア・レビューと申しておりますけれども、2段階に分かれて行われております。第1段階は書面審査ということで、1課題当たり、大きなもので6人、小さなものですと3人の審査委員の方々に個別に評点をつけていただきまして、それをもとに順位をつけていき、その資料をもとに第2段階の合議で、委員会で話し合いながら交付決定をするという仕組みになっております。先ほど、基盤(C)のお話も申し上げましたが、応募が非常に増えておりますけれども、比較的少額だからといって審査について別の仕組みをとっているわけではございません。同じように、3人の書面審査、それから合議といった形で審査をしておりますので、応募がどんどん増え続けるわけでございますので審査に携わる方々の負担をどうするか検討しなければならない。これについては、後ほどもう少しご説明させていただきます。
 12ページは、科研費の予算がどのようになっているかについてお示しをしております。
12ページ、一番右に少し濃い青の部分がございますが、これが今年度の部分でございます。昨年から38億円増の1,970億円という規模になっております。これを見ていただきますと、平成13年、あるいは14年ごろ、1年で百数十億円増えた時期もございますけれども、平成18年から3年ほどの間は、十数億円という伸びになっておりました。昨年は、4人の先生方がノーベル賞を授賞されたこともあり、38億円の増ということになっておりまして、今年度は1,970億円の予算規模になっているところでございます。
 次に、これをもう少し詳しく見てみましたものが13ページでございます。科研費と一言で申しますけれども、研究者の方に直接わたる直接経費の部分と、研究機関に渡っていく間接経費の部分がございます。間接経費についても増を目指しておりますけれども、これを見ていただきますと、ここ数年、特に19年、20年は残念ながら直接経費が少し減っております。研究者の方に渡る部分が減って、科研費の間接経費の部分は少し増えているという状況でございます。21年度は、直接経費、間接経費ともに増やしていただいたという状況でございます。
 14ページでございますけれども、これが今年の予算、先ほど申しました1,970億円の大きな内訳でございます。主に基盤研究(C)、あるいは基盤研究(S)の増を認めていただきましたのと、新学術領域研究の拡充、あるいは若手研究者支援という面から若手(S)、あるいは(B)の充実をお認めいただいたところでございます。差し引きございますので、先ほど申しましたように、対前年度38億円増となっているところでございます。
 以上が、科研費の現状につきまして簡単にご説明させていただいたものでございます。
 引き続きまして、こういった状況を踏まえて、今、研究費部会ではどういうことを議論しようとしているのかということにつきまして、資料2に基づきましてご説明をさせていただきたいと思います。
 資料2、A4の縦長の資料がございますが、これは第5期の研究費部会、これはまだ始まったばかりでございますけれども、第1回に配付させていただいた資料でございます。第5期の研究費部会として、何を中心にご検討いただきたいのかをまとめたものでございます。もちろん、これは事務局として検討をお願いしたい事項ということでまとめておりますけれども、部会のご判断で別の課題をご審議いただく、あるいは、これをもとにもっと大きな課題をご検討いただく、これも当然あり得ることと考えております。一つの議論の材料として研究費部会の第1回で配らせていただいたものでございます。
 順に、項目をご説明させていただきたいと思います。
 まず、1でございますが、今後の科研費が目指すべき方向性(目標や対象、規模など)についてというところでございます。先ほどもご説明させていただきましたように、大学等への公財政支出が基盤的経費から競争的な資源配分へという方向にシフトしてきております。こういった中で、科研費に対する期待が高まっているわけでございますけれども、科研費側でもこれまでさまざまな形で制度改正をし、また、研究機関や研究者の範囲を拡大してきているところでございます。
 研究機関、あるいは研究者の立場も多様化しておりまして、応募件数の増加も一途をたどっているところでございます。先ほど申しましたように、予算の規模も平成8年に1,000億円を超えて、今や2,000億円近くまで達しようとしております。こうした中で、もう一度、これからの科研費をどうすべきかについて検討し直していただきたいというのが1でございます。
 具体的には、1ページの真ん中で例えばということで書いてございますけれども、あるいは、その上にも検討課題例として幾つか書いてございますけれども、今後の大学等における基盤研究、研究者の自由な発想に基づく研究の意義と役割、今の研究の環境をどうとらえるかという現状認識、課題も含めてでございますが、それをどう考えるか。競争的資金の果たすべき役割をどう考えるか、特に科研費をどうしていくかについての意義をお願いしたいと思います。
 それから、例えばの部分でございますけれども、研究者が所属する機関の性格、あるいは役割などによって取り扱いを変える必要はないか。予算が伸び悩む中、応募件数が増えていることについてどう対応していくべきか。あるいは、分野、領域によって研究支援のあり方を見直すべきところがあるのではないか。それから、研究者と一言で申しますけれども、範囲も拡大しておりますし、多様化しております。これについて、もう少し明確な要件とか、認定の手続で見直すべきところがないか。あるいは、ファンディングのあり方として見直すべきところはないかといったことをご検討いただきたいと思います。
 1ページの一番下の○でございますけれども、現行の科学技術基本計画は平成22年度までの5年間の計画でございますので、今後、平成23年度からの次期科学技術基本計画の審議が予定されております。こういった中でも、大学等における学術研究のあり方でございますとか、科研費の役割といったものが議論されると思いますので、そういったものも踏まえて、科研費として想定されるべき規模等についてご検討いただく予定としております。
 次に、2ページをお開きいただければと思います。第2点は、若手研究者の支援の在り方という問題でございます。科研費による若手研究者の支援ということで、先ほどのイメージ図で申しますと、一番左の若手研究という体系の部分でございます。この若手研究者支援というのは非常に大きな問題でございまして、研究費部会以外でも、例えば総合科学技術会議、あるいは日本学術会議などでも議論の対象となっているところでございます。また、大臣がノーベル賞を受賞された方などにお集まりいただきまして、基礎科学力の強化のための総合戦略の構想をまとめるということで取組がおこなわれておりますけれども、その中でも若手研究者への支援というのが一つの大きな柱になっております。研究費部会では、これを議論していただこうと予定しております。
 (1)科研費による「若手研究者支援」の目的や支援の対象となる「若手研究者」の範囲をどのようにとらえるべきか、ということでございます。これまで若手研究者支援ということで説明、あるいは予算要求というのは、非常にやりやすかった面もあるわけでございますけれども、もう一度見直してみますと、若手研究者支援のために具体的にどういうことをやっていくべきか、もう少し議論が必要だったのではないかと考えているところでございます。例えば、アプライに未熟な若手の研究者の支援をして、通りやすくするという面もございましょうし、独立していく若手研究者の後を押してあげるという面もあるかもしれませんが、もう少し具体的に考えていく必要があるのではないかというのが若手支援の検討の中心でございます。
 その観点で、(1)の面では、例えば研究者の構造的な変化が続いている中、あるいはポスドクの増加といった現状を考えたとき、何に重点を置いて若手研究者の支援を考えていくべきかというご議論をお願いしたいと思っています。2番目といたしまして、若手研究者の独立を支援するという方向も必要ではないか、そのためにどうやっていけばいいか。3番目として、そもそも支援の対象となる若手研究者について、実は今は年齢だけで切っておりますけれども、その要件として、支援の対象となる若手研究者の範囲をもう一度議論していただくことが必要ではないか。職、立場といった検討も必要ではないかというようなことをご議論いただく予定としております。
 (2)でございますが、根本論でございますけれども、現在、基盤研究とは別の体系で若手研究のスキームというものを構築しておりますけれども、これについて見直すべき点はないかどうかということをお願いしております。研究者という面からいえば、本来は、若手かどうかということは別にして、同一の土俵、条件で切磋琢磨すべきではないかというご議論もあろうかと思います。そういうご意見もあろうかと思いますが、今のところ基盤研究とは別に若手研究の体系がございます。その結果、若手研究で一番年齢の高いところは、若手(S)は42歳までアプライできます。5年間やりますと47歳までということになってまいりますが、若手の体系でアプライできなくなった段階で基盤研究にアプライすると非常に厳しい状況で、なかなかとれなくなる。そこの時点で大きなギャップが生
ているというお話も時々承るところでございます。これは、基盤研究の充実を図ることにより解決すべきものだというご意見もあろうかと思いますが、若手研究者の体系を議論していただくことも必要ではないかということで、このような問題設定をさせていただいております。
 それから、(2)の下2つでございますけれども、特に若手研究(S)というのは研究者の自立支援という目的で設けられておりますけれども、これが果たして目的どおり運営されているのか。それから、若手研究(スタートアップ)という研究種目もございます。これは年間150万円以下の研究費を2年間措置するものでございますが、果たしてスタートアップとしてこの内容でほんとうに役に立つのか、見直すべきところはないのかということについてもご議論いただく予定でございます。
 2ページの下でございますが、今後の基盤研究の在り方についても、かなり踏み込んだご議論をお願いしたいと思っております。先ほどの若手研究の種目の関係で申しますと、比較的若いといいましょうか、少額の研究費目でございます若手(B)については、ある意味すそ野を広げるということでも説明しやすいですし、若手(S)が研究者の自立を促進するという面でも一つの理由があるのかもれませんが、真ん中の若手(A)が基盤研究(A)、(B)とどういう関係になるのか。これは、一つの検討課題ではないかと思っております。
 また、大学等の基盤的経費が減少している中、先ほど申しましたように、特に基盤(C)という比較的少額の科研費、私学でございますとか、地方の国立大学から非常にご要望の高い研究種目でございますが、この応募が非常に多くなっております。こういった応募について、審査に携わる方の負担を考えますと、これについてどういうふうに考えていくべきかということについてご検討いただくことを予定しているところでございます。
 3ページでございます。科研費の研究成果を社会に還元していくための方策についてということで、学術研究がこれから伸びていくためにも、国民に理解していただく努力をやっていくべきではないかということが考えられます。また、科研費の仕組みの中で、研究成果の公開促進費という項目がございます。学術図書の出版助成もこの中に入っておりますけれども、最近、残念ながらこの部分の予算が非常に減っております。これまでのご議論の中でも、学術図書の出版が難しくなっているのは非常に問題だというご指摘をいただいておりますので、こうした課題への対応についてもご議論いただこうと思っております。
 以上、簡単でございますけれども、科研費の状況、あるいは研究費部会の検討状況について簡単にご説明させていただきました。ありがとうございました。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。
 それでは、門岡室長からお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 それでは、参考資料1と2と3を簡単にご説明させていただきます。これは、過去にもお配りした資料ではありますけれども、データが新しくなった部分がございます。いろいろとご議論いただく上で、直近の状況や傾向について少し触れさせていただきたいと思いますので、この傾向が悪いとか、そういったことを導くものではございません。客観的にこうなっているというものでございます。
 まず、参考資料1ですけれども、2ページをごらんいただきたいと思います。棒グラフと折れ線と競争的資金の一覧がございます。平成12年のころの政府全体の競争的資金は、7省で22制度、総額として約3,000億円という規模だったものが、平成17年に一気に1,000億円ぐらい増えております。これは、大学の法人化も含めて、さまざまな制度が競争的資金として立ち上がっているという大きな影響があったと思われます。現在、政府全体の競争的資金の額は4,913億円、8つの府省で47の制度がございます。4,913億円のうち、文部科学省が出しております競争的資金は約78.7%、8割ということでございます。右側に一覧がございますけれども、科学研究費補助金がそのうちの半分ぐらいになるわけですけれども、それ以外に、最近、グローバルCOE、世界トップレベル研究拠点(WPI)というものが大きなものとしてできています。
 3ページは、重点投資、集中投資されている分野でございます。ライフサイエンス、情報通信以下、こういったものについて、この程度の規模で研究費といえるものが投資されているというのが現状でございます。
 4ページ以降につきましては、科学技術関係経費の研究主体の構成、6ページに行きますとステージ、大学の基盤的経費や科研費補助金の基盤的経費、それと政策対応型、システム改革型という予算の性格に分けて棒グラフを出したもの。あとは、研究の分野別に棒グラフであらわしているものがございます。
 8ページに、科学技術指標の国際比較ということで、日、米、独、仏、英、中、韓と並べたものがございます。日本の研究費総額については、従来からいろいろなステージで、GDP比とか言われてきておりますけれども、主要先進国等の中では米国に次いで第2位です。しかしながら、研究費のうち政府負担割合は欧米諸国に比べて低いというのが今の状況だと思います。ちなみに、日本の場合、18.9兆円の研究費総額のうち政府負担は3.3兆円、17.4%、米国は27.7%というのが直近の数字になっています。
 参考資料1、経費的な部分については以上でございます。
 参考資料2をごらんいただきたいと思います。これは、世界の科学技術政策の動向ということで、内閣府で情報収集をしてまとめているものです。
 お開きいただいて、まず3ページ、米国は競争力強化法といった法律ができて力を入れてきています。中国、インドの急速な発展に対抗して予算を増やしている。それから、新興国の発展により、海外からの有能な研究人材の獲得が困難になりつつある。
 1枚おめくりいただいて、4ページにまいりますと、2007年8月9日、当時のブッシュ大統領の署名で競争力強化法が成立しています。内容としては、米国の競争力優位を確実なものとするために、研究開発の推進、及び理数教育の強化を図る包括的なイノベーション推進法というものが米国の戦略としてあります。
 5ページに、具体の科学技術予算の大幅な増ということで、NSF、NIST、DOEの予算の目標値として、2007年から2010年に向けての強化ということで具体的な数字として盛り込まれています。あとは、理数教育の強化ということで、教師の質の向上、研究成果に基づいた効果的な理数教育の支援、中高生や一般国民を対象とした教育プログラムの拡充というあたりに力を入れていくことを表明しているところです。
 6ページ、先般、大統領になられたバラク・オバマ氏の就任演説のコメントです。ブッシュ前大統領は、科学技術といったものについてあまり言及していないのですが、オバマ大統領の場合、我々の学校や単科大学、大学を新たな時代の要請に合わせるようにするということで、仕組みの改革についても表明しています。
 7ページは、具体的に経済的なところについて、非常に重点的な投資にも伺えるような表現があるのと、あわせて小、中、高という広いところにまで整備していく。最新式の教室にしたり、実験室、図書館を整備するというあたりまで盛り込んでいます。
 8ページに、オバマ大統領の基本方針(抜粋)がございます。新聞等にも取り上げられましたけれども、真ん中あたりに科学への投資ということで、基礎研究への投資を10年で2倍にする。大学における研究費の投資として、若手研究者の新たな研究資金を創設する。それから、科学的根拠に基づいた政策判断という表現ぶりがございます。
 9ページ、イギリスの状況について紹介した文がございます。ブラウン首相になって省庁が再編されて、名前はイノベーション大学・技能省、役割としては大学への二元的助成制度の維持ということで、運営費助成及び競争的研究資金という形をとっております。
 1枚おめくりいただきまして、EUになります。これは、第7次フレームワークプログラム(FP7)と言われていますけれども、R&D費の対GDP比の向上ということで、2000年1.9%を2010年に3.0%まで引き上げて予算を投下していくというあたりがうたわれております。
 11ページ、2.のところでは、欧州研究会議(ERC)を新設して、75億ユーロ(約1兆円)程度のボトムアップ型による基礎研究の支援を開始するという動きがございます。3.では人材育成、4.では基盤整備ということで、さまざまなお金が積まれています。それがEUの動きでございます。
 参考資料2は、以上でございます。
 最後に、参考資料3として、これは3月5日に、科学技術政策研究所で研究者の方々にインタビューといいましょうか、アンケート調査をする形で取りまとめているものでございまして、2006年から始まりまして5年間実施するということで、今回が3回目の調査でございます。基本的に400名程度の教授クラスの方々、科学技術政策立案に携わったことのある方とか、日本の全体像を俯瞰的に把握できる方、研究の現場にいる方等々、400名程度の先生方にアンケート調査をして、今回、3回目として、傾向としてどういったことが改善されてきているのか。日本の科学技術政策を考えるシステムについて、いろいろな改革が行われているんですけれども、それを研究者がどう実感しているかというあたりを研究者にアンケートで聞いているものでございます。
 内容について簡単に触れてみますと、7ページをごらんいただきたいと思います。帯のようにやっているところについては、不充分にだんだんと傾いていっている。上が2006年、真ん中が2007年、白い丸がついているところが2008年ということです。傾向としては、科学技術に関する政府予算は、日本が現在置かれている科学技術のすべての状況をかんがみても十分とは思えない、不十分であるという気持ちが研究者の方々には増している、増えているということになるのではなかろうか。
 8ページは、世界トップレベルの成果を生み出すために拡充の必要がある研究開発費という言い方をしているのですけれども、これは自然科学系を分野別に見ているものです。ライフ、情報通信、環境、ナノ、エネルギーでは、研究者の自由な発想による公募型研究費の必要性が第1位と位置づけられていて、ものづくり技術分野では基盤的経費、社会基盤分野では基盤的経費と政府主導の国家プロジェクト資金、フロンティア分野では政府主導の国家プロジェクト資金の必要性が第1位で、分野ごとに先生方が求めていらっしゃるものが違うということが、分野で見るとわかるような気がします。ただ、多くの分野で、基盤的経費を必要とする意見がどんどん大きくなってきていると言えると思います。
 18ページに、大学で基礎研究を行うための環境という質問肢がございます。研究資金の状況については変化はあまり大きく見られないのですが、研究スペースの状況については改善してきていると思っている方が結構おられるようです。ただ、研究支援者の状況については、相変わらず非常に不十分、著しく不十分と感じていらっしゃる先生方が多いと思われます。
 最後に、20ページ、競争的資金の使いやすさについての質問がございます。科学研究費補助金制度における研究費の使いやすさについては、この3年間でかなり中心のほうに戻ってきているということで、使いやすさについてはかなり改善されているということが、研究者の方々のアンケートからもわかるのではないかと思います。
 以上でございます。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。
 それでは、これから、おおむね4時半をめどに、いろいろご意見をお出しいただきたいと思います。できるだけ全員の方からいろいろご意見を伺いたいと思いますので、お一人当たりのご発言についてはその点をご留意いただければありがたいと思います。
 それでは、質問、あるいは確認も含めて、何かございましたらどうぞ。高山科学官。

【高山科学官】 

 研究費の比較がございましたけれども、その研究費の定義がどのようになされているのかわかりますでしょうか。といいますのも、前回までの議論で、研究の基盤部分、つまり、研究を支えるシステムといっていいかもしれませんが、そこの部分にかなり大きな問題があるということが指摘されてきました。その基盤的な部分の経費を削って研究費に移せば、形の上では研究費は増えていても、実質的には研究環境が前より劣悪な状況になっているということもありうるわけです。そのようなことを考えると、研究費の定義、つまり、どのようなものが研究費に分類されているのか、どういうふうにして各国の研究費を相対比較しているのかを知りたいと思うのですが、それはわかりますでしょうか。

【佐々木主査】 

 高山科学官、どの資料で。

【高山科学官】 

 国際的な比較がどこかにあったように思いますが、その場合、どの程度まで研究費として認めているかということです。

【門岡学術企画室長】 

 参考資料1の8ページですか。表になった部分でしょうか。

【高山科学官】 

 そうですね。これでも構いません。

【門岡学術企画室長】 

 国際比較をやる上で、一つのテーブルに数字を全部詰め込むというのはそもそも無理があるわけです。注)にもありますように、韓国を除き各国とも人文社会科学を含むと大くくりになっていますけれども、人文社会科学のデータ自体も、フランスとかイギリス、アメリカ、日本では拾えている数字自体が横並びになっていないので、これはかなりマクロな比較になるかと思います。また、皆様方よくご存じだと思いますが、研究者数が何万人と載っておりますけれども、日本で研究者を把握する場合のカウントの仕方、アメリカ、他の国での研究者のカウントの仕方は違うところがございます。実際に比較する上で、ほんとうに分野で見たときにどうなのかとか、そういったところまで見るようなデータはとるのがなかなか難しい現状かと思います。あくまでも大きな、相対的に見る場合の参考にしていただくぐらいしか、国別比較というのはなかなか難しいと思います。

【佐々木主査】 

 高山科学官、何かあればどうぞ。

【高山科学官】 

 様子は大体わかりました。そうしますと、例えば日本の研究費は、科研費を含めて競争的資金が増えているけれども、現実には運営費交付金が減っているから、研究の基盤的部分を削って、それを競争的資金のほうに回しているとも理解できるわけですね。つまり、研究を支える一般的な基盤そのものは状況が悪くなっているが、その上の研究費として分類されている部分は厚くなっている、そのように理解してよろしいのでしょうか。

【佐々木主査】 

 どうでしょう。

【門岡学術企画室長】 

 マクロ的に、国全体としての数字で見ればそういう傾向だと思います。ですから、多分、文部科学省やいろいろなところが、今の概算要求の仕組みの中で、少しでも研究者の方々に経費が流れるようにするために、プロジェクト型や、5年ものの競争的資金などを要求して、予算をとっていくという手法が現実的になっているということのあらわれではなかろうかと思います。

【佐々木主査】 

 では、ほかの方から。どうぞ。

【磯貝委員】 

 磯貝でございます。私もシステムセンターの研究員をしていたことがあるので、いろいろなことがあるのですが、科研費そのものについては先ほどの書類の中にかなり書かれているので、科研費とその周辺のことについて少しだけコメントさせていただこうと思います。
 1つは、現場にいますと、科研費というのは、研究費というより教育費がかなりの部分であるという現実です。大学院生をかなり抱えていると、大学院生の実験経費というのは今の校費、運営交付金では全然足りない。そうすると、科研費をとってこないと教育できない、継続的に科研費がとれないと教育を継続的にできないという実態が起きている。そういうことをご理解いただきたい。
 そういう意味では、教育をしていない研究者と、教育もしている研究者、つまり大学という教育と研究を一緒に行っている研究者と同列で競争していいのかというのは、私、かなり前から思っております。申請資格が広がったというのは、ある意味では現場から要請というよりも政策的な要請で広がったのですが、私自身、申請資格が広がったことはあまりいいことではないのではないかと判断しております。
 もう一つは、運営費交付金が減ってきたこともあって、あるいは大型の機械が大学として入れられなくなったということで、科研費に大型機械を申請する傾向が非常に多くなってきた。それも一方では、科研費自体の性格を相当変えているのではないかという気がしております。
 もう一つ、間接経費の問題ですが、現場の感覚で言いますと、間接経費というのは入ってくると運営費交付金の不足を補うものという感覚がありまして、いわば運営費交付金とどんぶりで使ってしまう傾向がある。そうすると、間接経費とは一体何だろうという話が出てきております。しかも、間接経費については、各省庁の研究費の使途が必ずしも同じでないような書き方がされていて、現場では間接経費をどうやって使えばいいのだろうかという混乱がやや起きているような気がいたします。
 最後にもう一つ、研究成果公開促進費の話もここに書いてありますので、学会の会長をやっていた立場で若干申し上げますと、いろいろな学会の公開促進費はこの二、三年で3分の2ぐらいになっていると思います。配分されないということで、学会の雑誌が出版できないところが随分出てきております。これについては、研究費そのものではないけれども、学会活動の支援、あるいは研究活動の支援という意味で、このままでいいのかという危惧を持っております。
 以上でございます。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。
 柘植委員、どうぞ。

【柘植委員】 

 柘植です。1つは質問で、1つは問題提起です。
 質問は、参考資料1、学術の状況についての8ページの国際比較で、政府負担分を比較すると明らかに少ないのですが、ここで人件費を含むか含まないかという議論に少しきちんと答えられるようにしておきたい。産業のほうの負担は、米国においても日本においても間違いなく人件費は入っている。
 問題提起は、大学の現場の先生たち、研究者、教育者に聞きますと、2つのほとんど同じことを言われます。1つ目は、研究費をとればとるほど雑務が増えると言われます。ここのところの実態、ほんとうにいい研究費をとる研究者はやはり補助をつけて、教育も含めて研究に専念度を上げてもらわなければいけないのに、逆に負のスパイラルになっていないか。
 2番目は、前回も議論されましたけれども、せっかく第3期科学技術基本計画の中で、研究者の自由な発想に基づく基礎研究の多様性と継続性を担保し、同時に政策誘導型のものをしますとされながら、一方で大学の先生たち、研究者たちの中でも、一体それは何に役に立つのかという議論があり、結局、ディベートでそちらが勝ってしまうようなメカニズムがある。
 この2つは、データベース、エビデンスベースというのは出せないのですが、どなたに聞いても同じことが起こっているように思います。参考資料2の調査などで、どこからか読めるのか、それは実態ではないのではないかというあたり、やはり少し話を掘り下げる必要があるのではないかと思います。

【佐々木主査】 

 何かございますか。

【門岡学術企画室長】 

 人件費の関係は、私が十数年前にこのデータに少しかかわっていたときには、トータルで、当時、国立大学特別会計でしたけれども、そこに人件費を繰り入れた形で、日本の総額を出すようなことはしていた記憶があります。今の数字の出し方が当時のものかどうか確認をする必要がありますので、それはまた改めてご報告いたします。

【山口学術研究助成課長】 

 研究費をとればとるほど雑務が増えるという面について言うと、先ほど少し申し上げましたけれども、申請を受ける立場からすると審査の負担が非常に増えてしまうという面もありますが、申請を出すほうから言うと、どうしても3年ごとに毎回出さなくてはいけないという話になってまいります。
 私ども、課の中で少し議論しておりますのは、例えば研究の期間といいましょうか、申請の期間を少し長くしていくことは考えられないだろうか。あるいは、書類の簡便化を図ることがもっとできないだろうかと考えております。やはり期間を少し長くする工夫をこれから考えないといけないという議論はしております。

【佐々木主査】 

 何の期間ですか。

【山口学術研究助成課長】 

 例えば、先ほど申しました基盤(C)でございますと、以前は2年から4年で500万円ということだったのですが、数年前に3年から5年で500万円といたしました。結果、1年で割りますと、5年で500万円だと1年100万円になってしまいますけれども、3年で500万円だと170万円になりますので、皆さん、どうされるかというと3年のほうにアプライされて、170万円ずつのほうへなっていく。ここを少し工夫すれば5年のほうがいいという選択肢をとられる方もあるのではなかろうか、もう少し工夫できないかという議論を、今、事務局方の中でやっております。

【佐々木主査】 

 小林委員。

【小林委員】 

 1つは、今の点を申し上げようと思ったのですが、済みました。
 もう一つは、科研費の審査の問題です。書面審査の委員は3名と6名というシステムでしたけれども、今年度から3名のところは4名にしようとしておりますので、その分、審査委員の数の負担は増えます。何百名か増える。
 もう一つは、資料が出てこないので後ほど。

【佐々木主査】 

 では、また後で。
 どうぞ、ほかに。古城委員、どうぞ。

【古城委員】 

 基礎研究(C)の問題で、理系ではなくて文系の立場から少しコメントさせていただきます。今、運営費交付金が減っておりまして、図書などは買えない状況にだんだんなってきています。文系の研究者の場合、わりと1人でやる研究が多いわけですが、今の状況では、図書を購入したりするための割と少額の研究費が必要になっています。統計的に数字がどうかわかりませんけれども、文系のほうからすると、基礎研究(C)のカテゴリーがなくなるのは困ると思われる方は多いと思います。(B)とか(A)は、わりとグループになってやるという大がかりな研究に向いているわけですが、1人でやっていく研究というのは、今、運営費交付金が減っている関係で非常にやりづらくなっているということは、いろいろなところから聞いています。ですので、今の状況では、文系では基礎研究(C)のカテゴリーが必要になっているという面があることをコメントしたいと思います。

【佐々木主査】 

 石井委員、どうぞ。

【石井委員】 

 最近、科研費が大変使いやすいものになったおかげで、研究がとても進んだという現状があります。私自身も、それは個人的に大変感謝しております。以前、海外出張の旅費は出ませんでしたが、今は当然のように出ますし、事務補佐員を直接経費で雇えるようになって非常に助かっております。
 ですが、まだまだ使いにくい面もあります。現状を申し上げますと、運営費交付金が減らされて、それを補う役割も出てきているわけですので、もう少し使いやすいものになるといいと思います。例えば、TAの経費は研究費ではありませんので、科研費からは出せないのですが、研究時間を確保するということでTAも雇えたら非常にうれしい。具体的な話ですと、そういうことになります。
 以上です。

【佐々木主査】 

 中村委員、どうぞ。

【中村委員】 

 幾つか質問とコメントです。
 質問ですが、参考資料1の9ページ、EU-15というものがどんどん伸びております。⑩主要国等の政府負担研究開発費の推移の表で、アメリカのすぐ下にEU-15とあります。これはどういうものですか。もし、私の解釈が正しければ、ドイツその他、国からの補助はほとんど変わってないのですが、実はみんなEUに行って、EUから出している。だから、ヨーロッパでは研究費は増えているということを意味しているのでしょうか。

【門岡学術企画室長】 

 今、中村先生が言われたように、ヨーロッパは、EUにまとめて、配るという傾向になっていっていると聞いております。

【中村委員】 

 私の印象もそうで、実際、自分の国のお金とは別に、研究者が寄り集まってEUから取っていると思います。ですから、この表から何がわかるかというと、中国、韓国、ドイツ、フランス、米国、EUを含めて、何も増えていないのは日本だけで、ほかのところは大幅に増えていると言っているわけですね。私の印象もそうです。ヨーロッパの人は、研究資金をEUからもとるようになったのですね。わかりました。
 それから、科研費の直接経費は実質上減っているわけですよね。文部科学省の方はだんだん増えているとおっしゃるのですが、実は研究者の手取りは減っている。増えていると言われると誤解を招くと思います。このところ、直接経費は1,500億円前後で漸減していますよね。ご努力はわかるのですが、実際は間接経費に回っているので研究者の手取りでは減っている。にもかかわらず、申請件数は大幅に増えているから、採択率も平均金額も減っている。これが実感と合うわけです。いつも少しずつ増えているとおっしゃるから、実感と合わないと思います。
 私の感じでは、全体としてよい傾向に来ています。ご努力によって非常にいい傾向には来ていて、ただし、この10年ぐらい後、世界の状況が激変しているわりには何も起きていない。今までの10年はすごくよくなっていると思いますけれども、このままでは十分ではないという議論ではないかと思っています。
 それから、科研費も含めて使いづらさの原因は、単年度主義に尽きるわけです。私、きょう、大学で保守契約3年と出したら、だめだ、1年にしろと言われました。こういうつまらないことがたくさん積み重なって、使いづらくなっていると思います。
 これは一番大事な問題ですけれども、磯貝委員がおっしゃったことと同じことを申し上げます。科研費の中に、実際には教育経費がかなり入っている。つまり、大学院というのは研究と教育の両方が入っていますから、少なくとも修士課程ぐらいまでは教育経費または人事育成費としての費用がかなり入っている。ほんとうの意味の最先端研究は、PIがドクターコースの学生と行ったり、ポスドクと行ったりする部分だと認識されます。先ほど磯貝先生おっしゃった、もう一つの点の機械の購入ですか、多分、半分ぐらいは機械の購入になっています。設備の購入と、教育経費の部分と、先端研究の部分が渾然一体としてきたために話がこんがらがっている。その手の話は学振の学術システム研究センターレベルで話ができるような問題ではなくて、そもそも科学技術・学術審議会のレベルで、どうあるべきかという議論をしていただかないといけない問題ではないかと思っております。
 以上です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございます。
 それでは、沼尾委員、どうぞ。

【沼尾委員】

 私は情報系の研究をしております。研究では、特別なコンピューターも使いますが、普通のパソコンに研究用のソフトウェアを組み込んで使うことも多いです。文部科学省は大丈夫ですが、省庁によっては、パソコンは直接経費で買えず、間接経費で買ってくれと言われる場合があります。文部科学省の科研費はその辺は非常に自由に使わせてくるので、非常に使い勝手がよいです。
 日本学術振興会学術システム研究センターの仕事で、大学で説明会を開催した時に、いろいろなご意見を頂きました。科研費を始め、学術振興会の事業すべてに関して話をします。その中で、先ほどからお話しが出ているように基盤研究(C)に関する質問が多いです。たとえば、数学関係の先生からは、今の基盤(C)では研究費が多過ぎるので、少し少なくして採択率を上げてほしいというご意見を頂き、分野の異なる私は少し驚いたことがあります。質問された先生はかなり真剣で、科研費がなかなかとれなくて困っておられるようでした。
 また、最近の研究費は大体5年間以内のプロジェクトになりますが、10年間サポートしてくれるとじっくりやれるというご意見も頂きました。以前は、国際事業などで10年間サポートしたものがありました。個人的には、必ずしも長いプロジェクトがよいとは思いません。ただ、最近は5年以内のプロジェクトばかりになって、早く成果を求められるようになっているのは、確かだと思います。それに対して、金額は小さくても長く支援してくれる研究費でじっくりやりたいという希望が出ているわけです。

【佐々木主査】 

 高山科学官。

【高山科学官】 

 科研費に関して、2つだけ申しあげたいことがございます。
 1つは、審査についてですが、先ほど基盤(C)の審査委員は3人から4人になったと伺って、非常によかったと思っています。私も学振の学術システム研究センターの研究員をやっていまして、3年間、審査の結果をチェックしておりました。基盤(C)の場合は、審査員が3人でしたので、1人が低い評点をつけると、それだけでもう通らないのですね。審査員が4人になったということは、そのような1人の審査員の低い評価で落とされる危険性が弱まったわけで、本当によかったと思います。
 しかし、今後は、審査する側の負担が増えるわけですね。矛盾したことを言うようですが、かつて私が審査委員として約200人分の審査をしたとき、審査に丸3日間かかって体を壊してしまい、結局、大学に行けなくなってしまったことがありました。きちんとていねいに審査すれば、多くのエネルギーと時間をとられます。より公正で適切な審査を求めようとすれば、審査員の負担が大きく増してしまうわけで・・・。この問題について、私自身、回答をもっているわけではありませんが、一つだけ、言えることがあります。審査の基準といいますか、重点を少し変えたらどうかと思うのですね。今は、基本的に研究計画に対して審査をしていますが、この研究計画を審査するのが非常に難しくて、計画書を何度読み返しても、結局のところ、いい研究成果が予測できるかどうかわかりません。このよくわからないことのためにものすごく多くの時間とエネルギーを使うのですが、これをもう少し成果主義に傾ければ評価はずっと楽になると思いますが、いかがでしょうか。

【山口学術研究助成課長】 

 成果主義に傾ければというのは、これまでの実績を重視するということでしょうか。一応、審査の資料の中には、これまでの論文、実績等も入れていただいて、それも議論の対象としていただくことになっていますが、もっと比重といいましょうか、重視すべきだということでしょうか。その場合、実績のある人が強くなっていくことは間違いないだろうと思うのですけれども、それでいいのかどうか。

【高山科学官】 

 結果としては、そうならざるを得ないと思います。これは助成のあり方としてですが、我々研究者であれば、自分の若いころを考えると、お金がなくて非常につらい生活であっても、自分が目標とするスーパースターというか、すごい研究者がいると何とか頑張ろうと頑張れるんです。幾らお金をもらって生活水準が上がっても、それが研究のインセンティブになるかというと必ずしもそうではないと、私は個人的に思っています。今の学生を見ていても、それは同じじゃないかと思います。ほかの先生から、助成金をもらって裕福な生活をしているけれども、勉強はしていない学生がいるという話も伺います。研究助成の在り方も審査も難しい問題ですが、やはりもう少し工夫が必要です。

【佐々木主査】 

 もちろんお話は伺いますけれども、若手研究というカテゴリーのお話で、事務局から出された問題についてお考えがあればぜひお聞きしたい。基盤(C)の話は大分出ましたが。
 それでは、谷口委員、次に喜連川科学官。

【谷口主査代理】 

 この基本問題特別委員会のミッションは何かということとも関係するかと思いますが、現行の研究費のあり方の改善策を検討するということは非常に重要であると思います。しかしながら、一方で巨視的な視点から、我が国の研究がいかにあるべきかという視点に立って、その中での科研費の位置づけはどうあるべきか議論するということは、主査代理として僣越なことを申し上げるようですが、このような基本問題検討委員会に課せられたところがあるのではないか。そういう理解でよろしいのでしょうか。

【佐々木主査】 

 それは、もちろん大事なことです。

【谷口主査代理】 

 そういう観点から申しますと、科学研究費補助金というのは、ご存じのように我が国の学問の発展を担う最も重要な研究費と位置づけられます。科学技術の根幹を支え、敢えて言えば我が国の文化の一端を担ってきたと言ってもいい、最も重要な研究費だと思います。一方、科学研究費補助金というのは比較的地味な言葉で、かつ他の省庁にも同名の研究費があることから、混同されることもあります。従いまして、この補助金制度についてはやはり位置づけやより的確な制度名などを見直すべきところに来ているのではないかというのが、私の個人的な印象です。科学技術・学術審議会、あるいは総合科学技術会議等に発信をして、文部科学省の科研費の位置づけをしっかりしろというメッセージを出すことも重要ではないかと思います。
 今日、いただいた資料を拝見しましても共通して言えることは、科学技術というのは、今、多くの国で国家戦略として位置づけられているわけです。それにのっとって、骨太の政策のもとに進められているわけです。この前、ドイツのマックスプランクのヘッドクォーターに行ってきましたけれども、外務省まで絡んだ、政府の国際的な位置づけとして科学技術、学術と言ってもいいかもしれませんが、こういうものが位置づけられているわけです。我が国でも長期的視点に立った基礎的研究の重要性やその支援制度の在り方をしっかり議論し、実際の支援制度の改善やそれに基づいた研究費の増額などを図っていくことが大切ではないでしょうか。
 こういう文脈で、科研費をしっかりと位置づけていくことが非常に重要なのではないか。例えば、もう少し普遍的で魅力的な名前にして、なおかつ、NIHのファンディングと同じように、我が国の研究を主に担うのは今の科研費なのだと。そういう位置づけができるかどうかが非常に重要だと思います。今の科研費は一向に2,000億円を超えないという現状はなかなか打開できないので、やはり科研費の実績や重要性を示す統計的、数値的ものをしっかり提示し、一方では科学の重要性を社会にきちんと理解をしていただく。両方のアプローチが重要ではないかと思います。

【佐々木主査】 

 それでは、喜連川科学官、家委員、どうぞ。

【喜連川科学官】 

 今のお話でほぼすべて尽きたのかもしれませんが、科研費は私が若いころに比べるとほんとうによくなりまして、少なくとも人を雇えるようになった。アメリカの研究者の研究費の利用使途はほとんど人件費だったわけですけれども、それができなかった当時から比べますと極めてありがたい状況になってきて、私は、ほぼ問題ない状況ではないかと個人的には感じています。
 一方で、そういう改善を目指しアダプテーションをどんどんされていくがゆえに、過去のシステムはどんどん切り捨てていかれる形になっているような気がします。私どもが今、実行しております特定領域研究というものがあるのですが、新しい制度枠になったからということだけで、昨年、中間評価で一番いい成績を得たにもかかわらず1億円も減らされています。これは制度を変えるなかで、過去の制度でいいところがバッサリと切り捨てられているということもあるということもご認識いただきながら、丁寧な制度運用をしていただければありがたいというのが1点でございます。
 それから、私、情報系の科学官として申し上げますと、きょう、見ていて非常にインプレッシブであったのは、情報系のエンファシスが基盤というものに非常に大きくドリフトしているところが目立っていますが、米国のNFSはグーグルとかヤフーとした連携したプログラムを打ち出しておりますが、そういう研究が、日本では少なくとも100%不可能であることを反映しているのではないかと解釈されるように感じます。今、ITは大きな変革点を迎えておりますので、そういうものへアダプトしたもの、先ほどアダプトしていると申し上げているのですが、スパコンではない、巨大な情報処理インフラの利用基盤を企業と共同で利用可能にするなど、未だ日本がアダプト出来ていないところもありまして、ぜひ分野の固有性を汲み取ったフレームワークをお考えいただけるとありがたいと思います。
 以上でございます。

【佐々木主査】 

 ありがとうございます。
 それでは、家委員、どうぞ。

【家委員】 

 少し違った観点からですけれども、きょうのテーマが主に大学等の研究者を支える研究費ということですので、マクロに見た場合、参考資料1の10ページに研究者の数の国別比較がございます。これによれば、日本の研究者は80万人ぐらいいることになっているわけです。一方、科研費の申請資格である研究者番号を持っている数は、新規申請が10万件ぐらいですから、十数万人ぐらいですね。プラス、これは多分、大学院生もカウントされて、残りが産業界なのかどうか。ベースになるこの統計が80万というのは、我々が考える学術研究を担っている研究者の数としては、かなりオーバーカウントという感じがいたします。これは国別比較されていますけれども、こういう統計はなかなか難しくて、国によって統計のとり方が大分違っているのではないか。
 一方、次のページに論文のシェアが書いてあります。この2つのページを単純比較すると、イギリスは研究者の数が少ないのに論文シェアは日本と同じぐらいある、日本の研究者は何をやっているんだということに使われかねない感じがしております。マクロに見て、例えば日本の大学なら大学の研究者、あるいは所属する大学院生がいて、そこに対して投入されている研究費、あるいは教育費も含めて、そういうものがどうなっているかという国別比較はなかなか難しいでしょうね。

【門岡学術企画室長】 

 多分、細かくすればするほど難しくなると思うのですが、11ページの論文の関係については、最初の立ち上げのときに、福島科学官が日本の論文は量的にも質的にも長期低落傾向と見れるとおっしゃって、我々のほうでもデータを拾えるところは拾い、今、福島先生と意見交換をしながらやっているところですが、要は分野の影響もかなりあるみたいです。生命系、医学系を重点的にやっている国は、これでいくとイギリスとかカナダはそういう分野が非常に多いです。線が引いてあるところの下に来ているところは、理学系とか、工業とか、そういったところもバランスよく研究されている国が多そうだというところまでは、意見が少しまとまってきています。それは、今、分析をしております。

【家委員】 

 これなどを見ると、中国は研究者が急激に多くなったことになっていますけれども、研究者が急に降って湧くわけではないので、これは統計のマジックかなという気がしています。

【佐々木主査】 

 それでは、柘植委員、どうぞ。

【柘植委員】 

 私、人材委員会の主査をしているもので、ぜひご意見、教えていただきたいのは、きょうの資料2の2枚目、いわゆる若手研究者への支援の在り方です。今、人材委員会では、こういう見方を掘り下げています。いわゆる期限つき制度というのは、逆に若手研究者が研究所に就くことのインセンティブを欠いているのではないか。つまり、適正なプロセスながらも、テニュアトラックに若手のほうから早くしてもらうべきではないか、そういう制度をつくるべきではないか。
 そういう目で見たときに、今の科研費の競争的資金が有期限的な雇用を逆に助長し、今言いました、若手の研究者をテニュアトラック化させていく道を妨げているのではないかという視点があるのですが、皆さんの意見をぜひ伺いたいと思っています。もし、イエスならば、そこは人材委員会でもメスを入れるべきだし、ここでも入れるべきではないかという視点なのですが。

【佐々木主査】 

 今の点について、何かご意見ございますか。
 今のところはご意見なさそうですので、また何か機会を見まして。

【柘植委員】 

 はい。

【佐々木主査】 

 小林委員。

【小林委員】 

 1つだけ。特別推進というものがあるわけですが、これは一応制限なしということになっていますが、事実上5億円程度ということで、予算全体の総額から見てもその程度に落ち着いてしまっている感じがあります。これ以外に基盤(S)ができて、これは2億円ということです。この間の違いというか、区別があいまいになってきているということなので、ここは見直しの対象ではないかと少し感じています。
 それに関連してですけれども、事実上5億円の上限があったことによって、それより上に伸びているスペクトラムの部分をどうサポートするか。現在はシステムがない状況にあって、その点がもう一つ検討課題かという気がしております。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。
 4時半ごろまでという話でご意見を伺ったのですが、鈴村委員、何かございますか。どうぞ。

【鈴村委員】 

 1点だけ。研究活動では、多くの研究者が共有する共通資源が、重要な役割を担っているはずです。日本の大学に大きく不足している要素のひとつは、このような研究の共通資源のプールではないかと思います。国際共同研究などで日本から外国の研究機関を訪れる際には、オフィスの手配を始めとして様々な共通資源を利用できるように配慮してくれて、敏速に共同研究を軌道に乗せることができます。日本の多くの研究機関では、機動的に配分できる共通資源が不足しているのではないかと思います。オフィスひとつをとっても、外国では研究者の個室という意識は強くなく、オンリーブで出ている人の部屋を短期的な研究訪問者に配当して、機動的な研究活動を効率的に開始できるようにしています。日本の場合には研究室の持ち主は一国一城の主で、研究室を外部の訪問者に貸したりしたら大変なことになります。これでは、存在する設備施設の流動的な利用でさえ、機動的に行う仕組みになっていないように思います。セクレタリープールについても同様です。このような問題には、フローとしての研究費の充実だけではなかなか対処できないように思われます。研究機関の共通資源を機動的に利用するシステムを作るという問題が、かなりの重要性を持つという点を強調したいと思います。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。
 中村委員、何かありますか。

【中村委員】 

 谷口委員がおっしゃったフレームワークで、こういうものを考えようとするときに、外の条件、お金の問題とか、いろいろな問題がものすごく複雑に絡まってくると思います。学術システム研究センターで、ここで出ているような個別的な話題を3年ばかり随分と議論しましたけれども、要は簡単には解決のしようがないということなのです。
 ですから、何を申し上げていいか少しわからないところがあります。大学においては、先ほども申し上げましたけれども、科研費というのは教育費にもなっています。けれど、今、博士課程の学生にRA支援をする資金は別の枠から来ています。アメリカやヨーロッパの研究費に人件費が多いというのは、実は学生の人件費が入っているからではないでしょうか。研究費があって初めて大学院の教育ができるわけだから、研究費のない学科や研究室には大学院生は存在しないわけです。日本でも校費というものが事実上無くなった今、外部からの研究費がないのに大学院生がいて、どうやって研究するのか、どうやってドクターを取るのかという疑問が生じますが、そういう問題は欧米ではもともとない。大学院における研究と教育は表裏一体となっています。
 もともと日本の大学院教育では、学生の生活費は親がかりまた学生自身の才覚で稼ぐことが前提になっていますから、この部分は研究費としてはカウントされていません。国のミッションで行っている基礎研究に参画する学生の生活費を親や本人にかぶせるというのは、国の政策のあり方としては望ましくないし、国際標準とはかけ離れている。科研費は基礎研究強化の国の政策として位置づけられています。そして、理工系の分野では、このような基礎研究に学生を参画させることで、学生に先端的研究がなんたるかを学ばせる、というのが世界の常識です。だから、そのような研究に参画している大学院生には国がお金を出す、これは世界標準の考え方です。そして、そこで行われた教育成果が国の財産になる。これが本来の大学院教育の、修士も博士も、理念だと、私は思います。
 このような概念を今の日本のシステムに組み込もうと思うと、よっぽど考え方を変えないといけない。これは、現場のレベルでは絶対不可能な問題で、まさにこういうところで議論しなければいけない。
 そうなってくると、状況は分野ごとに違ってくる。たとえば、医学部卒業の研究者は医者の免許を持っているわけで、ですから生活の基盤はあるわけです。ところが、理科文科を問わず普通の学部を出た人は免許も何もないですから、35歳のポスドクとか言われるとほんとうに行き先がない。だけど、議論は一つの枠組みで行われてきているように思います。理工系、文科系、お医者さん、今、日本では科研費一本でやっていますけれども、どこの国を見ても文科系から理科系、お医者さんまで全部一本の研究費なんて存在しない。分離していないために、先ほどの100万円でも多いという話とか、1,000万円でも少ないという話が出てくる。ここも、本来は分野別に特性を議論して、研究費を設計し直すことが必要だと思います。ここは、このあたりでやる問題なのでしょうか。

【佐々木主査】 

 とりあえず谷口委員がお答えになる立場に置かれていますが。

【谷口主査代理】 

 最初に各論的なことをお答えしますが、医学部も決して例外ではありません。MDを持っていても、医療行為を行っていない人もいますし、MDを持っていない人もたくさんいますから、基本的に共有できる問題で、同じだと思います。
 それから、先ほどの続きで言うならば、端的に言うならば、科研費を学術研究費と総合科学技術会議にちゃんと位置づけてもらう。その科研費をもう少し広くとらえて多様な研究を、もちろん基盤研究を中心として、国の中心的な文化や科学技術を担う位置づけをやってもらう努力というのは、できないと思ったらもうできません。でも、やろうと思えば、それでもできないないかもしれませんが、やらないよりはましという、なかなか厳しい状況だと思いますが、そういうことを議論するためのこの委員会が立ち上げられたのではないかというのが私の理解なのですが。先生、違うのでしょうか。

【佐々木主査】 

 話の方向がだんだん私のほうに向いてきたのですが、今のお話は非常に大事なポイントだと思います。それから、先ほど来出ていますように、機械を買うとか、いろいろな話が入り込んでいるということで、切り分けられるものはできるだけ切り分ける、この範囲内でもできる話が随分あるのではないかと思いました。今、谷口委員や中村委員から出たことは、もう少し舞台を広げないとどうにもならない話で、私のほうでも相談させていただきたいと思います。何もしないで事態が改善しないということであれば、何かやるにこしたことはないという見方もできると思いますし、第4次のときに何か新機軸を一つ入れるということであれば、大いに協力させてもらうということもあり得るかもしれません。これは検討させてください。
 あとは、細かいですけれども、重要な学術出版の問題とか、かなりベーシックなことについて、これもほかの委員会で検討されないわけではないと思います。磯貝委員から出た話などは結構深刻な問題があちこちで起こっている可能性がありますので、ぜひひとつ文部科学省のほうでも検討していただきたい。
 幾つか具体的な問題が出されたと思います。ただ、何せ奥の深い問題もたくさん出てきまして、十分絞れたかどうか自信はありませんけれども、科学研究費についての皆さんのご感触はいろいろ伺えたのではないかと思っております。
 この問題と関係ないというわけではないのですが、中村委員から問題提起のご要望がございましたので、それをやっていただいて、おそらくこれもいろいろ議論を呼ぶことになろうかと思いますが、残りの時間で議論したいと思いますので、中村委員のほうからお願いします。

【中村委員】 

 机上資料があります。これは、日本化学会の『化学と工業』誌の日本化学会の論説というものです。私は、6月号に人材育成の話を書けと頼まれました。6月のもう一つは、野依先生がもう少し全般的な政策のことを書かれるようです。
 ここでは、人材育成というタイトルになっております。しかし、人材育成の話をここで持ち出そうというわけではなくて、表1についてだけ、今回のテーマ、学術の基本問題について関係あると思って、問題提起をさせていただきたいと思います。
 工学部は、日本全国で進学希望者がどんどん減っています。それが一つ。それから、工学部では博士に行く人がどんどん減っている。東京大学の学部の卒業生で、博士を取る人は8%しかいない。東京大学の工学部の学部生は、まず博士は取らないということになっています。実は、工学部はポスドクも少なくなっています。ですから、学部の人気は減ってくる、博士に行く人は減ってくる。となると、将来の工学部における学術研究を支える人がどんどんいなくなっていると考えます。
 それから、工学部においては、企業から還流というのですか、企業から入ってこられる方、教授になられた方は歴史的にたくさんおられますけれども、企業はもう基盤研究をやっている状況ではないといわれています。工学系においては、学術研究の基礎、それから将来の後継者育成という基盤が失われていると言われております。
 それを私なりに、表1の学振特別研究員応募者数というものを使って例示しようと思いました。何が書いてあるか少しご説明します。化学会の論説ですから化学から書いてありますけれども、化学、工学、人文学と並べてあります。DC1応募者、PD応募者、PD/DC1比を計算してみました。DC1というのは、マスター2年のときに、これからドクターに行きたいと思う人が応募するものです。そうすると、日本全国で化学は280名、工学は400名しか応募者がいないんです。これはどの程度の割合の学生が出しているかわかりませんけれども、決して多くない。DC1応募者というのは、人文も200名、社会科学、数物、皆200名か400名くらいです。工学部は非常に大きな学部ですから、DC1応募者はかなり少なめのではないかと思います。
 PD(ポスドク)になると、化学は168名、工学は376名、それに対して人文、社会は700名、生物、その他は七、八百名いるわけです。比をとると、化学0.6、工学0.8、人文から下のほうは3.幾つという形で、ポスドクがたくさんいて困っているということで問題になっています。
 それはそれで結構ですけれども、上の工学というところを見ていただくと0.84しかない。この説明は、工学ではプロジェクトがたくさんあって、先生が自前のお金で雇っているという話もありますけれども、それはほんとうかどうかわからない。おそらく生物でもプロジェクトはたくさんあるでしょうから、先生方が自前のお金で雇っているPDが同様に沢山いるのかもしれないと思います。
 これが一つのデータですけれども、工学、化学も共通して、後継者不足があるのではないか。ないしは、大学の後継者間の競争が減っているのではないか。
 今回、大学の学術研究の将来を考える上で、全分野の平均値で議論するのは望ましくないのではないかという提言をしたいと思います。全部平均したら、ポスドクも結構いるではないかということになりますけれども、やはり日本の産業を支える分野においては学術研究の根本が細りつつあるのではないか。先端研究のレベルはますます高まっているので、もし理、工学部の学生が減るのだとしたら、少なくともトップが減っては困る。全体に相似形で減ってきて、トップもいなくなるのは、やはり日本の産業にとって好ましくない。産業はますます高度化しますから、少なくともドクター、ポスドクで残るような工学系の人はどんどん増えてほしい。裾が減っても上の人は残って、そういう人が世界水準の学術研究を行ったり、会社の先端研究で活躍するというふうに行くべきであると思うわけです。人口が減ってきた今、全体に先細りになるのは日本の将来にとって大変危険です。
 今回の学術の基本問題に関して、分野別の問題、特に工学部において後継者をきっちり養成していかなくてはいけない。それについてどうすればいいかという議論をしていただくことが望ましいのではないかと思って、今日、資料を提示しました。
 後ろのほうにいろいろ人材のことが書いてありますけれども、これは今回の議論と少し異なるので、ここではご説明申し上げません。
 以上です。

【佐々木主査】 

 柘植委員、大変失礼ですが、何かご感想ありませんか。

【柘植委員】 

 私はかって博士課程を出て、産業界でいろいろ生き延びた立場から見ますと、先生のメモにもありましたが、化学、工学、エンジニアリングの部分と、下の人文社会とで、一見、数字は違うけれども、根っこが同じだと書かれています。私は、それはあると思います。化学、工学の部分は、決してヘルシーではないと思います。科学技術で身を立てていく、日本を支える人材を育成するという面で見ると、この数字はヘルシーではない。
 私、人材委員会の主査をしていまして、明らかに大学が生み出している、特にエンジニアリング分野が生み出しているドクターは、産業側が求めている企画力とか、創造力という幅広さも含めた、白紙に絵をかく能力という面での育成が低い。同時に、産業側も非常に認識不足でありまして、博士課程を取る必要はないという経営者トップの数字が非常に大きいのです。欧米を見たら、10年先を見たら、そういう人材を抱えない限り事業をやっていけないという認識が産業側のトップはまだ足りない。日本として両方のミスマッチはほんとうに不幸でありまして、ここをプラスのスパイラルに直していくメカニズムを、どういうふうに科学技術政策なり、学術の分野で組み立てられるか。そこは、今、人材委員会でももみつつあります。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございます。
 人文系あたりから、何かコメントありませんか。高山科学官、あるいは鈴村委員、お手を挙げられましたね。

【鈴村委員】 

 私自身は社会科学分野ですが、先だって人文学の方と話をしていて、この問題が非常にシリアスであることを強く認識しました。教養教育がほとんど崩壊状態にあり、人文学のPDの異様な高さはまさに病理的な状態です。先ほど、問題の根っこは同じだとおっしゃったのですが、その実感が私にはわからないのです。私は、人文学のこの問題は日本の教養教育の仕組みの問題と結びついていて、その観点から議論すべきだろうと思っています。

【佐々木主査】 

 高山科学官、今、鈴村委員からご発言ありましたけれども、何かございますか。

【高山科学官】 

 人文が非常に困った状態にあることは事実だと思います。学振にいたとき、人文のPDの応募者が自然科学に比べて多いのは、自然科学はほかに応募するところがあるからだという議論があったのですが、今のお話を伺うと必ずしもそうではないのかもしれません。いずれにしろ、人文の場合、今はほんとうに職がありません。優秀なポスドクの学生たちでも、職が見つからないという状況で、かなり深刻です。この人文の数字は、ある意味で現実を反映しているのだと思います。

【佐々木主査】 

 中村委員、鈴村委員から根っこが同じとは必ずしも思えないというご発言がありましたけれども、ご趣旨を説明していただけるのであれば。

【中村委員】 

 趣旨は、1ページに書いてあるとおりです。人文、工学を問わず、博士というのは、自分の道を自分で切り開くという人生を選択した人だと理解しています。
 工学系では博士がいない。工学系においては、人文系と違って社会で働けるポジジョンはたくさんあります。大学に残ってやろうが、会社に入って研究をしようがどちらでもいいわけです。しかし職がたくさんあるということから、工学系ではマスターのあたりで学生の多くが就職、そのためにはM1のときに就職活動に走りますから、「私も就職しなければいけない」ということで、自分の将来の道を考える間もなく流されて会社に行く。早く就職した方が安全、という考えかもしれません。そのために、有為の人材もドクターに進まない。
 化学系においては、特に製薬などはドクターを採りたいのですが、なかなか適当な人がいない。なだれを打って修士で企業に行ってしまう。自分の将来を見据えて考えれば、皆にあわせて修士で会社に行くまでもないし、一方、ポジションがないのに大学に残りたいと思う必要もないはずです。人生設計の問題です。そういう意味では、自律性が、自分を律する考え方が全体として薄いのではないか。そこで、根幹は同じだと結論しました。

【佐々木主査】 

 谷口委員、何か。

【谷口主査代理】 

 確かに、時代の流れといいますか、大学院生だけではなくて若者全体の考え方というのは、その時代、その時代を反映して、若干悩ましいといいますか、学生だけではない若者の考え方とか、そういうものがありますから一概に分析はできませんが。大学側から言わせていただけば、やはり根源にあるのは理念なき改革といいますか、大学院重点化で、重点化にならないと、二流大学と考えられては困るとか、少し言い過ぎかもしれませんが、そういう形でみんな重点化をして大学院大学になってしまったわけです。
 ほんとうに仕組みがきちんと成り立っていて、理念がきちんとなっていれば、ほんとうは優秀な人材が育つはずです。ところが、相変わらず名ばかりで、はっきり言って大学院教育はかなり貧弱だと思います。ほんとうに優秀な人材があれば、30歳を超していても企業は求めるのではないかと思うのですが、そのような人材育成を大学がしっかり行っているか、行える状況にあるのか、疑問に感じるところもあります。
 先ほど、タコつぼ現象と言いましたけれども、これは学生にも言えることで、自分の専門分野はわかっているけれども、ほかの分野は全然知らない。社会的な見識もない。こういう教育をやっている私たち教官に非常に大きな責任があるわけで、これは一般論で言っているわけですが、これが解決しない限りはなかなかポスドクの問題は解決しない。教官の責任は重く、充分に受け止めるべきで、大学院の改革を我々が中心になってやっていかなければいけない。このような認識を持ってこれから何が出来るのか、やらねばならないのか、反省の念を込めて検討し実践していくべきだと思います。

【中村委員】 

 多分、文部科学省の人はよくご存じだと思いますけれども、要は博士の定員が増えて、定員を充足するために博士が沢山生産されてきた。少なくとも人文の分野はこのメカニズムが働いているのではないでしょうか。

【佐々木主査】 

 そうですね。

【中村委員】 

 逆に、このまま行くと、工学部は定員に充足しないから減らそう、という方向に行くのだと思います。だとすると、日本の産業がますます高度化せざる得ない流れに逆らっているように思います。背景には文科省の大学定員管理問題があります。

【佐々木主査】 

 いろいろご意見いただきましたが、きょう、議論されていたテーマで、ほかに何かご発言ございませんでしょうか。

【磯貝委員】 

 一つだけよろしいですか。

【佐々木主査】 

 はい、どうぞ。磯貝委員。

【磯貝委員】 

 先ほど柘植委員が言われたポスドクの扱いとテニュアトラックの関係で、一つだけ感想を言わせてください。
 今の話にも出てきたのですが、育てるポスドクのコースといいましょうか、ポスドクを研究者として育てるという話と、プロジェクトの中に入れて一定の業務をやらせるという話は、やはり育て方として少し違うのではないか。私、1回目のときにそのことを申し上げたのですが、今、ポスドクの主な受け入れ口はプロジェクト研究だろうと思うのです。結局、大学に若い人のポストが基本的にない。育てていると言っているのですが、ほんとうに育てているのだろうかというのが私の感想です。

【佐々木主査】 

 喜連川科学官、何かご発言ございますか。

【喜連川科学官】 

 私は、非常によく機能していると思います。といいますのは、通常の大学の助手、あるいは助教になりますと、法人化後、非常に大きなオーバーヘッドがあります。山のように雑用をしなければいけない。一方、ポスドクは、私どものところでは相当数雇用しておりますけれども、基本的にそういう雑用は与えておらず、ある意味でテニュアトラックに結びつけてあげられるような、いい関係を醸成することができているのではないかと感じておりまして、あまりネガティブな印象はないということをお伝えしたいと思います。要は運用の仕方の問題ではないかと感じます。

【佐々木主査】 

 今のポスドク、人材問題については、野依先生の基礎科学力強化委員会のほうでも、今、議論していますよね。柘植委員も参加されていますが。

【柘植委員】 

 はい。

【佐々木主査】 

 あちらのほうでも、いろいろ議論されております。ポスドクだけではないのですが、人材全体の問題がそこでも取り上げられておりますので、きょうの議論は参考にさせていただきたいと思います。
 時間もそろそろ迫ってきましたので、このあたりで質疑を終わりたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 それでは、次回の予定等について、事務局からお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 資料3に、今後のスケジュールを載せております。実は、前回ご案内を申し上げたときには、5月11日月曜日に会議を開催するということでご案内しておりましたが、諸般の事情ございまして、5月11日月曜日の開催は中止させていただきたいと思います。次回は、5月28日木曜日、14時から17時ということで、場所は追ってご連絡をさせていただきたいと思います。できれば28日、もしくは6月11日あたりで、人材等を中心としたご議論をいただこうと思っております。よろしくお願いいたします。
 それから、本日の資料につきましては、お名前をお書きいただいて、机上に残していただければ郵送させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 以上です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。
 それでは、これにて本日の会議は終了といたします。ご苦労さまでした。

―― 了 ――

 

お問合せ先

研究振興局振興企画課