学術の基本問題に関する特別委員会(第4回) 議事録

1.日時

平成21年5月28日(木曜日) 14時~17時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

佐々木主査、谷口主査代理、石井委員、柘植委員、三宅委員、樺山委員、平尾委員、磯貝委員、郷委員、古城委員、中村委員、沼尾委員

(科学官) 
喜連川科学官、高山科学官、福島科学官

文部科学省

磯田研究振興局長、奈良振興企画課長、土屋政策評価審議官、戸渡政策課長、舟橋情報課長、勝野学術機関課長、山口学術研究助成課長、松川総括研究官、門岡学術企画室長、星野基盤政策課企画官 その他関係官

4.議事録

【佐々木主査】 

 それでは、時間になりましたので、ただいまから、科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会の第4回会合を開催いたします。
 まず、配付資料の確認を事務局からお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 それでは、資料につきまして、お手元の議事次第2枚目の資料一覧をごらんください。資料1から9を本日ご用意させていただいております。欠落等ございましたら、お知らせいただきたいと思います。
 また、前回の資料とこれまでの報告等をまとめました資料をドッチファイルにご用意させていただいておりますので、適宜ごらんいただきたいと思います。
 以上です。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございました。
 それでは、これより議事に入りますが、今後の審議の方針の確認を少しさせていただきます。本委員会では、学術の意義や特性についてと、学術と社会の関係について、それから、学問の特性を踏まえた我が国の学術の振興のための施策の方向性についてという、3つの事項について議論をするよう求められているわけでありますが、あわせて、第四期科学技術基本計画の策定を視野に入れた議論を進めていくことも求められているところでございます。そのための会合も来週あたりから動き出すことになっておりまして、私も参加せざるを得なくなっているという状況にございます。
 本委員会の第1回目の会議におきましては、ご案内のように、学術の基本問題に関する論点整理ということで、大学等における研究を取り巻く現状と課題について、皆様から自由にご意見をいただいたところでございます。第2回目、第3回目におきまして、それらの論点のうち、「学術研究」の意義・社会的役割、学術研究の推進に向けた学術研究基盤の在り方、研究費の在り方を取り上げて、その現状や課題について説明を受け、議論をしたところでございます。
 4回目となります本日は2つのテーマを取り上げたいと思います。3時間という長丁場になってまことに恐縮でございますが、まず、前半におきましては、人材養成、特に研究者養成についてご議論いただきたい。そして、後半におきましては、研究支援体制の在り方についてご議論いただきたいと、こういうふうに分けたいと思っています。間に休憩を入れることも考えたいと思います。
 なお、現在、国会において平成21年度補正予算案及び関連法案が審議されております。本日のテーマにかかわる施策もその中には盛り込まれておりますので、まず、事務局から、冒頭、この補正予算案の内容につきまして簡単にご紹介をいただき、今後の議論の材料にしたいと、このように思います。
 それでは、まず、平成21年度補正予算案につきまして、事務局から簡単に報告をお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 資料の1をごらんいただきたいと思います。資料1の4ページまでにつきまして、これが文部科学省関係分ということでございますけれども、4月上旬に閣議決定をされ、政府全体で15兆円の補正予算が国会で今、審議されております。その中で文部科学省分といたしまして、約1兆3,000億円分をまとめたものが、この4ページでございます。
 なお、大学における研究に関する部分についてご紹介をさせていただきます。2ページをごらんいただきたいと思います。「底力発揮・21世紀型インフラ整備」というところの(2)大学等における教育研究施設・設備の高度化・老朽化対策の推進というところで、先端的教育研究施設・設備の整備、基盤的教育研究施設・設備の整備、それから、教育研究高度化のための支援体制整備50大学、これは研究支援者の活用、設備等の整備。それから、(4)世界最先端研究支援強化プログラム、これは研究者最優先の研究システムによる研究の実施のための経費です。それから、(5)成長力強化のための高度人材の活用。それから、3ページにいきまして、(8)先端分野の国際競争力強化と世界最高水準の研究環境整備ということで、世界トップレベル研究拠点、それから、素粒子・原子核物理学の振興、地震・火山観測基盤の構築等が盛られております。
 それから、4ページのほうをごらんいただきたいと思います。健康長寿・子育ての中の(3)健康長寿社会の実現に資する研究開発の推進として、iPS細胞等を用いた再生医療の実現。脳研究加速のための実験設備整備等、こういったものが今回の文部科学省の補正予算の中で大学研究関係として盛られているものと思われます。
 5ページ以降、先ほどの事項に該当するものとして概要と、それから、6ページ以降で、ポンチ絵としてその事業を簡単に説明した資料がついております。時間の関係もございますので、具体の説明は省かせていただきますが、18ページをごらんいただきたいと思います。この補正の中で、新しい制度といいましょうか、日本学術振興会に基金を2つ創設して、この補正予算を5年間、基金として管理する、5年間で実施するプログラムを設けております。1つは、2,700億円の基金を設ける世界最先端研究支援強化プログラムです。研究者自らが研究しやすい研究環境を整えるということで、制度的には総合科学技術会議に設置した有識者会議により、中心研究者及び研究課題を設定するものです。中心研究者が研究に専念できるとともに、指定された研究課題を効果的に実施するための研究支援担当機関を独法、大学、企業等に公募し、中心研究者が指名するということで、その5年間で実施するプログラムを用意する。制度の詳細につきましては現在、検討中ということでございます。
 それから、300億円の基金につきましては、若手研究者海外派遣事業といたしまして、海外の大学や研究機関に将来、研究を目指すもの、その学生も含めて、その機会を設けるというものでございます。
 19ページ、20ページに、それぞれのプログラムについてのポンチ絵がついておりますけれども、説明は省略させていただきたいと思います。
 以上です。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございました。いろいろご質問あろうかと思いますが、後の議題と関連づけてできればご発言なり、ご質問をいただきたいと思っております。
 それでは、まず、本日1つ目のテーマであります研究者養成についての審議に入りたいと思います。
 研究者養成は、研究環境基盤、研究費などのテーマと同様、学術振興を考える上での基本的な問題なわけでありますが、これまでの審議会の議論の中でも、研究者の教育システムの問題から、博士号取得者の社会的役割に至るまでいろいろ議論がなされてきたところであります。本日は、事務局で用意した資料を用いるほか、中村委員、及び高山科学官から、研究者養成についてご意見をご発表いただく段取りとなっております。理工系、人文学という具体的な分野について論点をご提示いただくことにより、分野の特性に応じた研究者養成のあり方を視野に入れたご議論をいただけるものと期待しているところであります。また、各委員のご専門分野での研究者養成の特徴、課題など、いろいろあろうかと思います。そういった点につきましても積極的にご意見、ご発言をいただければと思います。
 それでは、まず、事務局のほうで用意した資料の説明から入らせていただきます。よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 それでは、資料2から資料5までの説明をさせていただきます。
 まず、資料2でございますけれども、現在、文部科学省の科学技術・学術審議会、または中央教育審議会大学分科会等でもさまざまな人材養成の議論がされているかと思います。そのそれぞれの委員会において、その人材養成がテーマとなっているということでいろいろなところで同じような議論がされておりますが、研究者の養成について次のような論点が多く指摘されているところだと思います。
 最初のところでございますけれども、大学院等において研究者としての資質をいかに養成するか。大学における研究者養成と高度専門職人材養成を分けるべきか。コースワークは必要か。分野の特性に応じた養成のあり方、教員の教育と研究のロードのバランス。それから、研究者としての将来のキャリアパスが不明確である。大学等における若手研究者のポストの減少、任期制、テニュア・トラック制、研究者のキャリアパスとしてのポスドクの位置づけ、大学院学生に対する経済支援。それから、欧米に比して博士号取得者に対する社会的評価が低い。博士号取得者へのニーズ、「研究」という営みに対する社会の認識など、本日の議論をしていただく上でのきっかけになればと思いまして用意させていただきました。
 続きまして、資料3をごらんいただきたいと思います。これは現状について少し、いろいろなところにデータがございますが、整理したものでございます。まず、1ページ目、大学院在籍者数の推移ということで、平成20年度現在、博士課程在学者数は7万4,231人ということになっております。修士課程は16万5,422人、専門職学位課程が2万3,033人。平成3年から平成12年のころに急激に伸びておりますけれども、平成3年のころからしますと12年のころは約2倍に増えているというものでございます。
 2ページ目をごらんください。これは、博士課程修了者の数と、その就職者数の推移でございまして、平成20年におきましては、就職者の割合は6割程度となっております。この場合、就職者とは、給料、賃金、報酬、その他の経常的な収入を目的とする仕事についたものということで、これは学校基本調査上の定義でございます。
 それから、3ページ目、これは学校基本調査、教員統計調査、あとは科学技術政策研究所の雇用状況調査等から1つの図を基盤政策課のほうでつくっていただいたものでございます。「博士号取得者のキャリアパス・イメージ」ということで、学部から大学院、それから大学院の博士課程、博士号取得者と下からのぼっていくわけですが、医師等のほうに2,000人、博士号を取った中から4,000人は企業等の研究開発職、大学等の教員のほうに2,000人、それからポスドク等のほうに2,000人、非常勤職・不詳、わからないというあたりに4,000人と、こういった流れが調査によって少し見えてくるというものでございます。
 4ページをごらんいただきたいと思います。これは、ポストドクター等の在籍機関別の内訳ということでございまして、合計で1万6,400名のポスドクの方々で、多くは大学と独立行政法人にいらっしゃる。国立大学法人において8,000人、独法において5,000人、これが一番大きな塊となっております。
 それから、5ページ、これは属性として分野別ですけれども、ライフサイエンスが一番多く、あと、人文社会科学のほうも1,600名程度はいらっしゃるというものです。
 6ページをごらんいただきたいと思います。これは、その1万6,400人を財源別で見たものでございまして、右半分、競争的資金・その他の外部資金等において46%の方々が経費として賄われている。それから、左のほうに運営費交付金・その他の財源、それから、フェローシップ・国費留学生等ということで、日本学術振興会の特別研究員は、このフェローシップのところに分類されているという形になります。
 それから、7ページに進みますと、これは大学における若手教員の状況ということで、これは国公私全体をまとめたものです。真ん中の折れ線グラフのところで、平成10年度で25.2%というのが37歳以下の若手教員数の率でございます。それが平成19年度におきましては21.3%まで割合を減らしてきているということでございます。
 8ページ目、最後のページをごらんいただきますと、それを国公私、設置者別に分けております。国立大学法人につきましては、それがより顕著になっておりまして、平成10年当時37歳以下の若手教員数は28.2%だったものが、平成19年度では21.4%に割合を減らしているというものでございます。
 続きまして、資料の4をごらんいただきたいと思います。資料4につきましては、日本学術振興会の「特別研究員-PDの就職状況調査結果」でございます。これは、直後と1年経過、5年経過、10年経過で常勤の研究者についた率を見てみますと、日本学術振興会のPDは5年経過段階において83.2%が常勤の研究職についているということをあらわしております。これが、いいのか、悪いのか、多いのか、少ないのかというのはまたご議論があると思います。資料の4は以上でございます。
 資料5をごらんいただきたいと思います。柘植委員も、この委員会にご参画されているのですが、日本学術会議のほうで昨年まとめられました「新しい理工系大学院博士後期課程の構築に向けて」というものの要旨を参考に配らせていただきました。これは新しい時代の大学院の、特に博士課程の新しい理念と制度を早急に構想することが求められているという日本学術会議の問題意識のもとに提言としてまとめられたものでございます。提言の内容といたしましては、大学院の教育体制について改革すること、あと、大学院制度の隘路を改善すること、そのために財政上の支援を強化すること。それから、産業界などの社会の関係部門は博士号取得者の積極的な活用と採用条件の改善を図ること。また、大学においては、積極的にそれに対応するようなことを提言としてまとめられたものでございます。これは、ご参考に配らせていただきます。
 事務局からは以上です。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございました。5までの資料に基づく説明を伺ったところでございます。
 それでは、先ほど申し上げましたようなことで、次に中村委員、引き続いて高山科学官のほうからご発表というか、ご意見をお出しいただきたいと思います。
 それでは、中村委員から、どうぞ。

【中村委員】 

 中村です。ご指名に基づいて少しお話ししたいと思います。それでは、厚い空色の冊子、その上には黒いサマリーがありますが、これをもとにお話ししたいと思います。
 サマリーを上に3ページほどつけました。厚いもの、これは委員の方にはご配付してあります。それから、傍聴の方には、この黒いほう、薄いほうをお配りします。これはもうどこにも配っていいということになっておりますので、必要でしたら、まだたくさんありますのでお配りしたいと思います。
 まず、このサマリーの3ページを見ていただきたいと思います。この調査というものは、東京大学GCOE「理工連携による化学イノベーション」、これは私が今、リーダーをやっておりますので、それを開始するに当たって、三菱総合研究所と一緒に調べたものです。
 その(1)目的、方法。グローバルCOEを実際に私が担当して始めるときに、この事業はそもそも何のために行うのか、そしてこれは最終的にどういう形になるのかということを考えました。東大理学部の化学と工学部の化学3専攻は研究面では世界的にもトップを行っているというふうに理解しておりますので、アメリカのトップ、実はドイツの上のほうあたりと比べてみて、我々の立ち位置はどういうものかということを調べてみたいと考えるに至りました。いいところは真似をする、改善する、そういうことを考えてみたいと思ったからです。
 調査方法は、三菱総研と打ち合わせの上、現地インタビュー、これは教員、学生、事務職員のインタビュー、それから文献及びウェブ調査、これを三菱総研にやっていただきました。半年、予備調査をして、調査内容は何をやるのかということを確定した上で、次の年度にまた半年、現地調査をし、さらに半年ディスカッションをしてまとめたものです。文科省の担当課にも、どういう問題があるかということをお聞きした上で行いました。
 調査対象はどこにするか。アメリカはいろいろな意味で学科ごとにランキングができていますので、トップ10とされる学科から3校、MIT、Stanford、UC Berkeley、それに続く化学科から2校、U Penn(ペンシルバニア大学)、UCのSanta Barbaraを選んで、約20名の教員、それから約20名の学生、これを米国人と留学生の両方をやりました。事務職員も面接しました。同様のインタビューを日本人の留学生と先生方にもやりました。それから、アーヘン工科大学、立命館アジア太平洋大学、早稲田大学留学生センター、東工大の博士一貫教育プログラム、筑波大学の大学院の先生、萬有製薬、三菱化学、これらの面接を行ってもらいました。
 トップグループの3校は、ほとんどすべての分野でトップが張れる大学です。次のU PennとUC Santa Barbara、トップを目指している大学です。こういう大学では、大学として全面的にすべての学科をサポートすることはできないので、それぞれ強いところをサポートしている。多分、U Pennは、例えば、化学が余り強くないのは、ほかの学部を非常に強くサポートして、化学は少し手を抜かれている。UC Santa Barbaraは全体に余り強くないということだと思います。
 論文発表数、設備など点から判断すると東京大学の化学系というのは、研究レベルではトップ5と同水準だと結論されます。一方で、教授陣の世界的知名度(露出度)、建物、衛生安全、教育環境などの観点を含めるとトップ10ぐらいではないかというふうに思えます。さまざまな調査によって日本の化学研究は研究レベルではトップであるということが言われておりますけれども、それと符号していると。
 現状の研究レベルを保ったまま、給与や生活条件、研究条件をそろえることができれば、世界から相当トップに近い教員、ないしはトップの学生を引き抜いてこられる可能性があると結論できました。最近、我々の学科でも外国人の先生を引っ張ろうという努力、それから、欧米の学生を大学院に引っ張ってくるという実績を更に強化しよう、そういうことを始めました。
 データの一例を下に示してあります。これは三菱総研に調べてもらったものです。下に「米国トップ大学並みの実績と国内誌への貢献」と書いてあります。『Angewandte Chemie International Edition』、それから『Journal of the American Chemical Society』、これはドイツ及びアメリカ化学会が持っている雑誌で、この2誌がトップだと言われています。その中での占有率を見ました。縦軸が論文の数です。『Angewandte Chemie International Edition』だと、東大全体の化学系で40報から50報毎年出している。GCOEの推進者21名だけで30報ぐらい。これはBerkeley、MIT、Stanford、Harvardの化学科全体とほとんど変わらない。
 では、アメリカ化学会誌はどうかというと、東大が黄色い線ですが、Berkeleyと大体同じぐらいで80報ぐらい。MIT、Stanfordよりは多い。推進者21名だけ取ると少し低くなっていますが。日本の雑誌というのも大切ですからこれも調査しました。『Chemistry Letters』、これは日本化学会の雑誌で、『Chemistry-An Asian Journal』というのは日本化学会、中国化学会その他で最近創設した国際誌です。その中での占有率を国内で調べてみると、我々の東京大学の化学系も十分にコントリビューションしているというようなことがわかります。
 この厚いほうの冊子、概要版ではなく空色の冊子を見ていただいて、どんなことをやったのかということをざっとお話しします。15ページまでは概要版と同じ内容です。折り目で入った大きな紙が16ページのところにくっついていますけれども、これが以下に書いてある、かなり細々したものを1つのものにしたものです。それが図表3-1で、調査結果の概要です。見ていただきますと、1が教育組織、2が教育資源、それから3が教育プロセス。それから、次の裏をめくっていただくと、戦略、その他と、このような構成で、各項目について、先ほど申しましたように、2回の現地調査を行っております。
 次が19ページです。実例を挙げたほうがわかりやすいと思いますので、19ページから34ページまでの部分、MITの調査についてざっとかいつまんでご説明します。MIT、スタンフォード等、5校やっていますけれども、どこもほとんど同じ、驚くほど同じでありますので、MITのみ、どういうことをやったかをご説明申し上げます。
 19ページで、調査対象は、MITのケミストリー・デパートメント。情報源はA教授、Bプログラム・シニア・アドミニストレーター、C化学教育アシスタント・ディレクター、D教授、E教授と書いてあります。
 次に書いてあるのは、アメリカで我々が調べた大学院はどれも修士課程というのがなくてすべて博士しかない、ということです。修士号はありますが、これは博士課程をドロップアウトした人に修士号をあげるということです。
 次、20ページ、組織です。学科の意思決定をどういうふうにやっているかということを調べました。これは日本と同じで、皆さんが合議して決めるということです。ただし、チェアマンが重要役割を持っている、たとえば教員の給料も含めて資金面は全部コントロールしていることはご存じのとおりです。
 そして、21ページの下がまとめです。これは、図表3-4です。教授が24、准教授が5、助教授が3と、アメリカでは基本はみんな教授です。准教授と言われる人は、だいたいテニュアを持っており、助教授はまだテニュアがない人です。事務職員が16名、技術職員が9名ということで、これもご存じのように、事務職員、技術職員のサポートが厚いということになっております。
 それから、次の22ページには、具体的に事務、技術系にはどういう人がいるかという表です。上からAdministrative Assistant to the Department Head、司書。またAdministrative Officerから始まって、下のDirector of URIECA Initiativeと書いてありますが、こういう人まで含めて先ほどの数になるということです。
 23ページ、図表3-5、これは学部の学生が化学専攻で100人いて、博士が200人いるというわけです。スタンフォードなどは化学科の学部学生は各学年二十人程度しかいないですね。MITは学生が多い方です。私立トップ校としては学生が多いほうだと思います。
 真ん中あたり、教員の人事制度。教員のポジションに空きができると公募するということ。それから、助教授の初年度の給与は決まっていること、人事評価、テニュアのことが書いてあります。ジュニアは公募ですが、シニア教員はヘッドハンティングです。これも細かいことは今、申しませんけれども、よく言われるとおりのことが書いてあります。
 24ページ、サバティカルは8年ごとに一年間。これは、大学によっては4年ごとに半期ということもあります。それから、テニュアトラックの助教授陣にテニュアを取ってもらうためにメンタリングを実施しているということが書いてあります。それから、3.2.2、教育資源、運営コストは700万ドル、規模によると思いますけれども、ほかのところも大体700万ドル、500万ドル、それくらいの規模です。これは教授の9カ月分の給与も入っている、TAの報酬も入っているものです。ただし、トップ私立の教授の給与は大学の資金からでなく、お金持ち人などからのエンダウメントから出ていることが多いです。大学が給与を出しているのは若手教授だけかもしれません。それから、24ページの一番下、学生、留学生の比率は、大学院においては228名全員の中で45名しかいない。トップスクールでは大学院での留学生は1,2割しかいないと言うことがわかりました。日本で流布している常識とは違います。一方で、トップ10を下ると、留学生比率は半分くらいになることもわかりました。日本の常識はこのあたりから来ているのかもしれません。
 25ページ、教育プロセス、学生の選抜。これもよくご存じのように、学生を大学に集めて一斉に試験するという仕組みはありませんから、GREの点数、GPA、推薦状、入学目的のステートメントで選抜。130人に合格通知が発送され40人が入学する。余り高くないと思います。どの受験生も10から15校くらい応募するでしょうが、MITに受かるような学部生は、他の大学院もみんな受かってしまいます。中で3割の人がMITを選ぶということです。この歩留り率が学校の名声と直接関係するというものです。それから、MITの内部からは進学を認めていない。アメリカでは同じ場所にずっといる人は社会の評価が低いので、内部進学を許すと学生にとっても大学にとっても良いことがないのです。日本の風土とは全く違う。
 学生の支援について。大学院生全員にTAをやらせる。あと、RA給与を全員に出して大学院生が自活できるようにしているということが書いてあります。 その金額は、25ページの下のほうに、2年目、つまり、日本で言うマスター二年生全員に、月額2,100ドルくらいを出している。月々の生活費ですね。この額は大体ほかのところもほとんど同じです。2万から2万5,000ドルくらいの生活費が出ていると思います。大学院生は、MITは授業料が3万4,000ドルですが、この3万4,000ドルは全部、学科が負担している。学科と言っても実際上は、先生の獲得した競争的研究資金から出て学科を通って支給されているという意味です。逆に言うと、研究資金のある先生だけが大学院生をもてるわけです。MITはかなり先生の負担が多い学科です。全体として学生一人あたり6万ドルぐらい先生が自分の研究費から学生の支援をしているということになります。学費の高い私立大学では、学費を払わなくて良いポスドクの方が、学生より安上がりと言います。学費と生活費は、先生の研究費の大半を占めています。
 次の26ページの後、カリキュラムのことが書いてあります。あたりを見ますと、東大の化学系で教える授業と根本的に同じで、優劣はないということがわかりました。
 それから、31ページの(4)教員が教育に割く割合(教育プログラム運営のための会議も含める)。アメリカでは教員によって役割が全く異なるので、これはなかなか難しいのですけれども、教育担当の教員から研究ばかりやっている教員までを含めると10%から90%と、大きく変わる。だから、もう、授業ばかりをやっている人もいるし、ほとんど何も授業はしていない人もいる。人によってさまざまであるということです。D教授は1年当たり330日、大学にいる。いろいろな人がいる。単なる平均値の調査では実体がわからないと思います。
 それから、単位の認定法が一番下に書いてあります。これはそれほど特殊なことはありません。基本的に試験で単位認定をします。
 それから、32ページ、これはどれくらいの人がドクターを取れるか。それから、コースワークはいつやるか。32ページの真ん中ですけれども、コースワークは基本的に大学院1、2年生、つまり、日本でいうマスター1年、2年ですべて終了して、それ以後は授業はない。つまり、いわゆる日本の博士課程で授業を取ることは行われていない。昨今、授業と試験を減らしてリサーチに重点を置く方向に向かっており、いろいろな問題がアメリカでも議論がされているということです。
 それから、33ページの戦略です。これは全部の学科に聞きました。トップ学科専攻である意義と使命は何かと。どの学科も「特にない」「戦略はない」といっています。よい研究をしていれば、よい学生が自然と集まるというような、そういう戦略だそうです。優秀な教員の獲得、特にトップシニア教員の場合は、ジュニア教員を全部完全に公募でとるのとは違って、シニアのほうはヘッドハンティングと条件交渉でとっている。日本の人は教員に受け入れるか、という質問に対しては、どこの大学でも、アメリカできちんと研究生活ができる人だったら誰でも採りますということです。
 次のページ、34ページです。ここは外部評価はどこでもやっているようです。外部評価はどこも5年に1回くらいやっているそうですけれども、トップの大学は、特に外部評価の評価内容を気にするまでもないと思っています。
 ほかの4校も先ほど申しましたように、多かれ少なかれ同じ結果です。違いがあるとすると、留学生の数で、トップ校では1,2割の留学生しかいませんが、下になってくると半分くらいが外国人学生となります。そうしないと大学院の質が保てないという、大学内部からの要求があるからだと思います。
 次に100ページです。これは学生を調査しました。延べ20人ばかりやりました。留学生とアメリカ人です。100ページに、大学院生、ハーバード、テキサスとか、いろいろ書いてありますけれども、これは三菱総研のエージェントの人に調べてもらいました。おもしろい結果と思いますので、ぜひ、お読みください。ずっと繰っていっていただいて、110ページが第1回目の留学生、アメリカの学生の意見の聴取です。110ページのところに、(8)が日本の大学に対する評価。8-1留学生の意見。「アメリカに来た理由は何か」。「日本ではサマーインターンで滞在したことがある」「人が親切だったが、深いコミュニケーションがしづらかった」「言語が理由なのか、日本社会の構造が理由なのかわからないけれども、大学内部に独特の序列があって、外部の人はなかなか入りづらいという印象を受けた」と。一番下ですけれども、「日本の大学はよく知らない、アメリカの大学しか調べていなかった。入ってみてから化学分野でよい研究をしていることを知った」。
 それから、8-2、アメリカ人学生の意見。「余り知らない」。「いい研究もやっているようだ」と。それから、次の学生は、「日本の研究業績はすばらしい。アメリカ人にとっては国内に十分な選択肢があるため、海外の大学が魅力的ではない」「有機化学では有名である。おそらく、アメリカ、ドイツに次いで第3位ではないか」。私たちはアメリカ、日本だと思っていますけれども、これを見ると、アメリカ、ドイツに次いで第3位だということです。「日本に留学するとしたら言語の違いが心配である。語学研究などは外国人学生に好まれるだろう」と。
 一番下にも同じことが書いてありますが、「大学院を探しているときに、論文の数の多さから、すぐに化学分野での日本レベルの高さに気がついた」というのが日本の大学に対する認識の現状だと思います。
 インタビューは2度目もやっております。122ページまでです。第2回目のインタビューのときに大学入学のことも少し聞いてみようと思いまして、111ページの(2)大学で、大学入試に向けて行っていた課外活動を調査しました。つまり、「大学入試に役立つと思って行っていた活動は何ですか」と聞くと、「試験の勉強以外特にない」。だけど、「ボールルームダンスクラブ、科学の大会参加」。それから、科学研究を行う、テコンドーをやりましたとか、柔道クラブを週20時間やりましたというのもあります。これが大学入試の勉強であると書いてあります。日本の大学入試ではおよそ評価されない活動です。
 その次、112ページを見ていただくと、どういう相手から推薦状をもらったか。ハーバードあたりは推薦状が3通必要ですから、高校の先生から2通、MITの教授から1通もらったとか、歴史の教師からもらって、数学の教師からももらった。進学カウンセラーと、MITのチャンセラーからもらったという、大学とあらかじめ強いコネクションをつくってやっていた人。それから、物理の教師、高校の進学カウンセラー、自転車屋の雇用主と、これは多分、社会経験を積んでいるということを証明したのだと思いますが。ハーバードあたりは成績がよくてもリーダーシップがないと入れないと明言しています。学生さんは、高校のときにただアルバイトをしているわけではない、いい第三者評価を得るためにアルバイトをしているのだということがわかります。
 その後、124ページ、東大の学生のインタビューをやっています。こういうものをずっとやりまして、133ページは出口調査で、三菱化学と萬有製薬、2社やっております。138ページは、留学生招致に熱心な大学ということで、立命館アジア太平洋大学を調べ、早稲田大学を調べました。それから、東京工業大学、それから筑波大。筑波は昔、博士一貫制があって、今はやめてしまったのです。それで博士一貫制の実体はどうだったかということを聞いております。あと、147ページあたりからはずっとインタビュー、いろいろな人を比較的アドホックにインタビューを行いました。このような内容です。
 そして、最後に、3枚物の2ページを見ていただきたいと思います。2.1、2.2というのは概要版に書いてあるセクション名を使っております。米国社会の認識は、化学系のPhDは修士の卒業生の1.5倍の給料をもらえるというように、博士号取得はちょうどMBAと同じで、研究者としてライセンスを取るということです。博士一貫単線教育の米国大学院に対して、日本では修士と博士、教育目標が混在している。この差は三菱総研がすぐさま指摘したことです。「日本の先生は大変ですね。教育目標が定まっていませんね。アメリカの先生は博士を取らせるだけでいいので随分楽ですね」と言われました。アメリカの流動的な労働市場が要求するのは流動性が高い人材であるということがベースになって、人的コネクションがきわめて大切となります。その社会的要請があるから、同一大学には進まない。同じところにいるとコネクションが減ってしまいますから、大学にとっても、学生にとっても将来的にいいことはないという考えだそうです。
 2.2教育従事時間と学生教員比です。化学科はもともとサービス学科の性格を持っています。つまり、メディカルスクールに行く学生なども教えています。そのために9カ月分の給料が大学から出ています。一方で、研究機関としての機能もあわせ持っている。労働時間ですが、サバティカルと夏休みを合わせると、例えば、6年間で2.5年間ぐらいは自由裁量時間だということがわかりました。一方で、このような休暇、ではないところだけ見ると、大体皆さん、やはり週70時間ぐらい働いていて、大まかに見ると東大の教員と同じぐらいの仕事時間です。しかし、休暇が長いから米国の教員は日本よりずっとゆったりとした生活を送れます。学生の比は先ほど出ましたし、教員の採用は先ほど申し上げました。
 それから、教育プロセス、大学院のコースワークはいろいろな大学から学生が来るので粒がそろわないから、きっちりやる必要があるというような考えだということがわかりました。授業は1年目だけでやっていて、日本で言う博士課程のときは授業はやっていない。学生からの不満としては、アメリカでは研究室に教授が1人しかいませんから、直接の指導を受ける時間が少ない。日本では、逆に助教、准教授の先生とかが研究室に張り付いていますからそういう批判はなかった。
 その下は、PD、博士後期、博士前期の日米比較です。アメリカの博士課程を前期後期に無理やりわけると、三者の比は2.5:3:2、つまり1:2で、PDがかなり多い。東大ではPDが17%で、学生の多くは修士です。ですから、PDや博士後期学生の少ない部分を若手教員で補って闘っているというような感じだと思います。
 学生への支援は先ほど申し上げたとおりです。大体、先生の研究費から負担で学生に払う経費が五、六万ドル。化学科5学科のどこを調べても大学院入学時から学生全員が、学費と生活費を大学に出してもらって授業を受け研究をしています。
 3ページです。2.6の戦略で、これは先ほど申し上げたように、特に学科としてのトップ戦略は何もない。あるとすれば、「すぐれた教員を雇うとすぐれた学生が集まる、研究費も集まる」という単純な戦略。学科を学生がどうやって選択するかというと、研究テーマがいい、教員の知名度が高い、学生の水準が高い、研究設備がいいということです。シニアのヘッドハンティングだと、大体今、給与や研究費など数億円ぐらいの異動費というのですか、異動インセンティブを出していると思われます。その下に書いてあるのは、以前に総合科学技術会議の方がCOE事業を訪れられたときに私たちがまとめたものです。アメリカでは、名声向上、教育向上、と収入向上が、個人、学科、大学単位でカップルして、研究が向上するとすべてが向上するというよいスパイラルになってくる。日本ではこのスパイラルがうまく回っていないということが書いてあります。
 2.7の外国人留学生。これは、先ほど申しましたように、トップ10の大学だと、大学院生の留学生は10%から2%ぐらいである。20位ぐらいになってくると、アメリカ人では学科の水準が低下するので、半分くらい留学生をとっているということです。パフォーマンスの悪い学科は大学内で評判が悪くなりますから、とにかくも良い学生を集めて学科を隆盛にしようという考えです。
 我々、東京大学の研究水準が高いということはアメリカの大学院生は知っていますけれども、これはみんな大学院に入った後に初めてわかる。高校生や大学生は知らないので、東大の学部や大学院に来るというインセンティブにはなっていないということがよくわかりました。
 それから2.8、トップ大学では、博士号取得者の半数程度が大学に残る。スタンフォードで55%、バークレーは42%、大学教員になっています。東大の化学専攻は六十数%です。工学部の応用化学系でも博士学生の60%ぐらいが大学教員になっています。ですから、我々のところのミッションはアメリカのトップ大学のミッションと同じだということです。
 結論です。米国大学院制度は、オープンで流動性の高い米国社会の要請に最大限にこたえるように発展してきた。日本の歴史・文化及び日本社会が大学院に求めるものは何かを十分に把握した上で、米国大学院の精神を生かして日本に移植できる事項はあると思われます。それは、例えば、「名声好循環」とか「昇進基準の明確化」、「博士一貫制」です。その後、最後に、米国にはなくて日本にある強みは何かと考えると、やはりそれは勤勉、協調、例えば、グループ(講座)制みたいなもの、そういうグループ制ではないかと思います。
 以上です。本当はトップ20だけではなくて、トップ50とか、いろいろなところを調べてみたいと思ったのですが、グローバルCOEの趣旨からいって、我々と関係のないところを調べるわけにはいきません。そのためトップ同士を比べましたが、おそらく、いろいろなレベルで比較調査をすると、よく平均値で語られている内容とは全く違う結果が出てくるのではないかというふうに考えました。
 以上です。

【佐々木主査】 

 はい、どうもありがとうございました。大変興味深い情報をありがとうございました。
 それでは、引き続いて高山科学官にお願いします。

【高山科学官】 

 今、中村委員からお話を伺って、本当なら人文に関してもアメリカの状況がわかれば非常にありがたいのにと思ったのですが・・・。私もエール大学でPh.D.を取り、アメリカに結構長くおりましたので、ある程度は予想できるのですけれど、もしかしたら、人文の場合も割と似たような結果が出るかもしれないなと思いました。
 私の報告は、日本の大学における人文学の現状についてですので、多くの方を失望させてしまうことになるかもしれません。それぞれの学問分野には、歴史的に形成されたものも含めて、他の分野と異なる特性がありますので、それを、ある程度、意識しておく必要があるだろうと思います。最初に「学問分野による違いと共通点」を整理しておきたいと思います。いずれの分野であろうと、基本的に我々は今、共通の教育制度、つまり、大学、大学院の制度を利用しています。また、ディシプリン内の競争があるという点でも同じだと思います。しかし、それ以外の点ではかなり違いが大きいのではないかと感じております。
 もちろん、研究対象が千差万別であるということもありますが、研究が目指しているものも非常に抽象的なところから具体的なものづくりまで、かなり差異があるのではないかと。教育の仕方にしても、大人数の講義に非常に親和性が高い、そういったところから、ほとんど個人指導によらざるを得ないといった分野まである。また、社会への影響に関しても、研究成果が即座にあらわれるところから、長い時間を経て徐々に社会に浸透していくというところまである。さらに、研究成果を評価しやすいところから、評価軸設定そのものが難しい分野まで、これもさまざまである。また、今回のテーマである人材養成に関しても、その就職状況は、分野によって全然違いますし、研究にかかる費用という点でも分野によって比較できないぐらい差があります。
 そういう中で人文学の特徴を挙げるとすれば、研究対象としては、人間の精神活動や文化、制度、社会など、基本的に人間がつくり出したものを対象としている。そして、目指しているものは、具体的に手に取ってさわったり、その効果を直接感じることができるようなものではなくて、どちらかと言えば、新しい理解の仕方や見方、新しい認識の枠組み、いわば、人類の知的認識領域の拡大としか言えないような抽象度の高いものだということです。
 研究成果の評価に関して言えば、人文学の場合、一般の人がわかりやすいような形で評価するのがかなり難しい。研究成果の予測も難しい。このような点は基礎学問と言われている学問分野に共通のものかもしれませんが、費用と時間をかければ一定の成果が上がるという性格のものではない。それから、人文学の場合、研究にそんなにお金はかからない。基本的に個人研究であって、必要とされるのは、才能は別としまして、多くの時間と必要な情報への自由なアクセス。これに関連して言いますと、当然、図書館が充実しているかどうか、データベースや原資料に自由にアクセスできるかどうか、などが問題になると思います。就職に関して言えば、人文学の場合は博士課程修了後の就職先が非常に限定されている。大学か小中高のような教育職、予備校のような教育産業にしか就職できない。このような点が、さまざまな学問分野の中での人文学の特性なのではないかと思います。
 では、次に、人文学の大学院教育の現状についてお話したいと思います。私の専門である西洋史を中心にお話しさせていただきますが、どのレベルの研究者を育成すると考えるかで、大学院が抱えている問題も状況も全然違って見えてくるのではないかと思います。中村委員の化学の分野であれば、国際競争が大学院教育の前提条件となっているようですが、私たち西洋史の分野では、国際的に活躍できる研究者を育てるのか、それとも国内向けの教育者を育てるのか、あるいは、もっと広く、趣味の大学院、趣味で勉強を続けたい人たちが行く大学院教育を行うのかが、必ずしも明確ではありません。大学院の目標をどこに置くかで当然、教育内容も抱える問題も異なってくるはずです。
 当委員会が検討の対象として想定しているのは、国際競争力を持つ研究者養成を行うような大学院だと思いますが、明示的に、意識的に国際的に活躍する学者を育てようとしている人文系の大学院は日本の中にはほとんどありません。大部分は国内向けの教育者養成か、大学卒業後に専門の勉強を続ける場所となってしまっていると思います。
 西洋史専攻の大学院生の現状については、東京大学と京都大学の今年度の学生の内訳を紹介しましょう。東京大学の場合は、オーバー・ドクター(博士号を取っているが定職についていない者)と博士論文執筆中(ただし、すでに学籍は切れている者)の者を含めて、22名です。そのうち、博士課程3年以上が16名、博士課程2年が5名、博士課程1年は0です。修士課程2年(2年目、3年目の合計)が10名、修士課程1年が4名です。京都大学の場合は、オーバー・ドクターを含めて19名。博士課程3年以上が5名、博士課程2年が1名、そして博士課程1年が東京大学と同じく0です。そして、修士課程2年(2年目、3年目の合計)が6名、修士課程1年が3名です。東京大学、京都大学とも、今年度の博士課程進学者は0となっています。東京大学の場合、志望者はありましたが、全員が不合格となりました。京都大学の場合は、大学院志望者の数が近年著しく減少しているという話はうかがっていますが、今年度の博士課程進学者が0となった理由はよくわかりません。
 では、次に、私が直接、指導している学生たちの一覧表をごらんください。私も基本的には国際的に評価される仕事を行う研究者を養成することを教育の目標としていますが、研究者養成の環境は悪く、障害が非常に多いというのが現状です。西洋中世史の場合、外国語だけに限定しても、研究文献を読むための英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、史料を読むためのラテン語、ギリシャ語、アラビア語の語学能力が必要ですし、国際的に競争するためには、手書き史料を読むための古書体学・古文書学を習得して、欧米の大学院で訓練を受けなくてはなりません。国際競争力をもつ研究者になるためには、これら以外の多くの障害も越える必要があり、長い訓練期間が必要となります。
 しかし、長い期間を費やし、多くの障害を乗り越えても、なかなか定職にはつけないというのが現実です。就職状況が非常に悪くなっているからです。ポストの減少が最大の理由だと思います。少子化による教員ポストの減少、学部組織改組による歴史系のポストの減少、それから教養部、教養学部改組による歴史系ポストの減少というのがあります。
 私が指導している学生たちの一覧表をもう一度ごらんください。博士課程の上のほうはほとんど留学経験を持ち、年齢もかなり高くなっています。オーバー・ドクターは30歳以上、博士課程が大体20代後半です。優秀だけれども就職できていない若手研究者が大勢いるわけです。
 若手研究者たちは、少ないポストをめぐって厳しい競争をしていますが、採用人事について、次のような話を聞いたことがあります。外国語で論文を発表するすぐれた研究者よりも、論文はなくてもいいから教育熱心な人の方が欲しいというものです。その大学にとっては、研究者ではなく教育者がほしいという率直な意見だと思いますが、私たちはジレンマを抱えることになります。国際競争力を持つ研究者を厳しく育てなければならないが、そのような教育をすることによって、彼らの就職をいっそう困難なものにしてしまうというものです。
 近年では、優秀な学生が大学院に残らないケースが増えてきました。理系も同様の状況にあるというお話ですので、これは私たちの分野に限らない現象なのでしょう。大学院の途中で研究者への道を断念する学生も出てきました。これは、なかなか定職を得られないという先行きに対する不安、定職を得るまでの期間が非常に長くなっているという問題、さらには、大学院時代・ポスドク時代の生活に対する経済的不安があるためだと思います。
 最後に、学術政策と助成のあり方という問題に移りますが、どのレベルの研究者養成を想定するかで対処法は異なってくるのだと思います。優秀な学生が研究者の道を選択するようインセンティブをつけるということであれば、彼らが思い描けるキャリア・パスを、クリアに示してあげる必要がある。競争や克服すべきハードルは当然あるにしても、その経路とゴールが、ある程度見えるようにしてあげなければいけない。また、日本の学問を牽引することが期待されている優秀な学生、国際的に活躍できるような学生に対しては、定職につくまでの間、経済的サポートをしてあげる制度が必要だと思います。これがなければ、優秀な学生たちは大学院、特に博士課程には来てくれないでしょう。
 近年、アメリカの有名私大の多くは、博士課程の学生すべてに奨学金などの経済的支援を与えて、彼らが生活に不安を抱かず勉学に専念できるような制度を導入しました。博士課程に優秀な学生を確保するためです。日本の大学院生を一律に補助する必要はないと思いますが、将来の日本の学問を牽引してくれる人たちに対しては、きちんとサポートすべきだと思います。その際に重要になってくるのは、もちろん選別をどのようにして行うかということでしょう。
 選別や評価をするにあたって最も注意すべき点は、学問分野のくくり方だと思います。異なる学問分野に優劣をつけるのはほとんど不可能に近いからです。たとえば、20世紀COEでは、人文学というくくりで、つまり、心理学、歴史学、文学などのプロジェクトが、同じ土俵で相対評価され、優劣をつけられたのですが、心理学のプロジェクトと日本文学のプロジェクトを相対評価して優劣をつけるのはどう考えても無理な話で、競争は同じ学問分野、ディシプリンの中でなされるべきだと思います。そうしなければ、意味のある公正な審査をすることはできないでしょう。各ディシプリンへの配分は、相対評価とは別のところで、別の基準で判断すべき問題だと思います。
 最後に、大学院博士課程の学生支援のために、研究・教育の基盤となるシステムを維持・機能させるために必要な部分の経費を削って回すというようなことは、絶対にすべきではないということを申し添えておきたいと思います。この基盤的なシステムに問題が生じれば、大学全体が機能不全をおこし、支援される若手研究者たちを含め、大学のほとんどの人たちの活動が阻害されることになるわけですから。
 以上で、私の報告を終わります。

【佐々木主査】 

 はい、どうもありがとうございました。
 大体3時5分ぐらいでありますが、これから50分近く時間を取りまして、きょう、話題を提供していただきましたことを含め、また、それぞれの分野の特性に応じた研究者養成のあり方についてご発言をいただきたいと思っております。お二人も、もちろん追加的にご発言をしていただくことは結構ですが、そういうことで有効に使わせていただきたいと思いますので、お願いいたします。
 ただ、皆さんからお聞きしようとなると、そう長い演説というわけにもいかなくなりますので、その辺はおのずから、ひとつよろしくお願いしたいと思います。
 それでは、ご発言があれば、どうぞ、樺山委員から。

【樺山委員】 

 恐縮ですが、最初に発言させていただきたいと思います。今お二人から報告がございまして、領域分野によって随分違いはありますが、かつ、その上でもって相互に対応が可能な部分もあると、あるいは、共通な調査研究を行う部分もあるという感じがいたしました。実は、人文学の部分は、高山科学官と私は同じ分野におりまして、この報告はよく承知しておりますが、他方で、先ほどございました中村委員のご報告は、かなりあちこちで聞いてはまいりましたけれども、積極的に、あるいは、説得的なデータに基づいているということで、十分にこれからも吟味させていただきたいと思います。
 このような形での調査が、実は、人文社会科学分野にほとんどないというのが現状です。私どもも、こういう形で行うことができればとは思っております。余りお金にならない調査なので、多分、三菱総研も乗ってくれないだろうと思うのですが、いずれにせよ、何らかの形で、この委員会かどうかは別にいたしまして、人文社会科学系についても、これに近い形で調査を行いたいと思っております。この分科会に並行した形でもって近い将来、別の集団、グループも立ち上がると聞いておりますので、そこで考えたいと思います。
 ただ、おそらくそのときには、私どもとして、異なった方向、あるいは方法が必要だという感じがしております。1つは、中村委員のご報告、文字通りアメリカを中心とした、きわめて徹底した調査ですが、私どもの場合には、アメリカ合衆国だけではなく、ヨーロッパ各国、あるいは、アジア系研究の場合には近隣諸国といってもかなり広い範囲にわたって研究、あるいは教育の実情を調べなければならないということがあります。したがって、その分だけ困難度が高いのです。しかし、説得的なデータに基づかないであれこれ言ってきたという側面もありますので、今後、可能な範囲内でもって、こうした形での調査を、人文社会科学についても行いたいと、そのように考えておりますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。ほかに、どうぞ。中村委員。

【中村委員】 

 高山科学官の最後のほうのことに関連したコメントです。さっき説明しなかったのですが、この冊子、概要版の11ページ、三角形の絵が載っております。アメリカのトップ10ならある程度の研究分野が支えられますけれども、トップ10以後はもう全分野は支えられないです。どこを中心に大学として重点を置くかを大学が決める。この分類によると、我々の化学や工学は右下で、研究依存型、つまり、研究費を取ってきて、その中で自分を支える。自給型というのは例えばビジネススクールです。要は、MBAは自分の金儲けの取得するのだから支援する必要はありませんというわけです。上の組織依存型のところ、教育とか文理が上のほうに書いてありますけれども、これは自分ではもう到底、収支が成り立たないので、それは大学が自分でお金を集めてきて、大学のプレステージを保つために努力するというものです。こういう重点分や作りは、アメリカでは、大学ごとに自分で決めてやっているわけです。経営方針がちゃんとある。アメリカほど余裕のある国でさえ、重視する分野を自分で決めないと大学は持たないということになっているわけですから、日本の大学ですべての大学が全分野をカバーできるわけはないというのが、私の印象です。

【佐々木主査】 

 大変よくわかる発言でした。それでは、ほかの分野の見方も含めて、あるいは、お二人に対するご質問もあれば出していただいて結構です。柘植委員。

【柘植委員】 

 資料2のきょうの論点メモの順序で2点、問題提起といいますか、私の見方も開陳してご意見を伺いたいと思います。
 最初の○の大学院における研究者養成と高度専門職人養成を分けるべきか。その中に当然、コースワークは必要かと、これとリンクしている話なのですが、実は、私、人材委員会の中で中間提言に、やはり、日本の大学院の教育の現状ならば、分けなければ答えはないのではないかという中間提言でまとめています。一方では、今、中村委員のお話を伺いまして、米国、特に、水色のレポートの32ページで、コースワークは基本的に修士1、2年で修了する。つまり、博士課程はないと。しかし、博士課程の、もちろん研究職と産業等も含めて、ミスマッチが日本ほどないのではないか。そこは何かというと、基本的に、私の仮説は、アメリカのドクターコースで研究をしていく中で、教授とのコントラクト、その後ろには産業とのコントラクトがある。したがって、自動的にドクターコースにおいて一種のコースワーク、あるいは研究職、研究者養成と社会に出ても産業人としてやっていかれる素養も、アメリカのドクターコースでは自然と身についている。そうすると、そのような道を日本のドクターの教育の研究において実践したならば、教育研究者養成と高度専門職養成と分けなくてもいいのではないか。大学は、旗幟鮮明なるどちらかの選択肢を迫られているのではないかというふうに、まず、認識をします。
 2点目の話なのですけれども、ちょっと別なのですが、資料2の2つ目の○の研究者としての将来のキャリアパスが不明確であると。これで、事務局が説明した資料3の関連データの下のページ、3ページで、「博士号取得者のキャリアパス・イメージ」、これは、本当に私は社会的犯罪ではないかというぐらい深刻に受けとめることがビジュアライズされています。すなわち、博士課程の修了者は左の「進路が不明確」という形では30%、それから、ポスドクで非常にテニュアに対して少ないチャンスの者が15%、つまり、合わせますと45%のこれだけの逸材が、非常に社会的に不合理に巣立って出ていっている。つまり、45%というのは、もうとんでもない、教育の間違いと言っても過言ではないことが起きています。これをこれからの施策の中で、この45%をきちっと大学の研究職か企業の研究開発、あるいは企業経営、これに必ずおさまっていくような仮説の施策を立てて、それは5年か10年はトレースが必要かもしれませんが、必ず経時変化でその施策の効果をはかると。これをしない限り、これは本当に、私にすると、3ページの絵は国家的な財産の損失といいますか、犯罪的行為ではないかというふうに言ってもおかしくないのではないかと思います。
 今の2点でございます。最初のほうは、中村委員のご意見を伺いたいと思います。

【佐々木主査】 

 どうぞ。

【中村委員】 

 全く同意します。細かいところは、また分野によって違うと思いますけれども、全くもっともだと思います。

【佐々木主査】 

 それは、第2点に関するような予算は、この膨大な補正予算の中にはないのでしょうか。それでは、ほかのご発言をどうぞ。どうぞ、磯貝委員。

【磯貝委員】 

 今、研究者養成、研究者と高度専門職人材という議論が出ましたけれども、これの境目が、教育する側から行くと、実は、私どもの大学の場合はよくわからないと言うと変なのですが、やはり、中村委員の調査をアメリカの大学でやったので、日本の大学だと、理系だと修士が非常に多い。そのシステムがアメリカと相当違う。現実に専門職、あるいは高度専門職人材というのは、修士課程の卒業生を意味するのか、あるいは、ドクターの課程の卒業生を意味するのかというあたりがあまりよくわからない。自分たちでやっていてよくわからないという意味です。
 「研究者」という言葉がアカデミックなポジションということに限定してしまうのであれば、そこの境目は非常に明快なのですが、現実には研究者は企業にもかなりたくさんいる。そうすると、企業での研究者も含めて「研究者」という言葉を使うとすると、実際に現実的に研究者の需要というのは一体どのくらいあるのだろうか。それに比べて、我々は育て過ぎているのだろうかというあたりをいつも悩ましく思っています。
 もう1つは、高度専門職人材といっても、今、申し上げましたように、修士課程で日本の場合は十分であるという、ある意味での社会的な要請の分野も大変多くて、そういうところでは研究者は要らない。でも、専門職の人間が要る。現実には、ドクターをとった学生も、場合によっては専門職の職業につかざるを得ないというような矛盾もあって、この境目を現場で見ていると、なかなか境目をきちっとつけるのは難しい。特に、マスターコースとドクターコースを大部分の大学は並立して持っているわけで、その辺の扱い方が大変難しいといつも思っています。
 もう1つ、ついでに申し上げておきたいのですが、分野の問題ということになるでしょうか、私どもにはバイオサイエンス研究科というのがあるのですが、そこでもかなりポスドクの人たちがいます。その人たちが将来どうなるのだろうかということを大変気にしているのですが、現実的にはなかなかアカデミックポジションにつくことができない。そうすると、その人たちの現実の行き先というのは、ある意味では、研究者を諦めるということが大変多いわけで、今、柘植委員が言われたように、私たちとしては育ててきた甲斐がないと言うと変ですが、もったいない使い方をされているなというふうに思う一方で、そういう人たちはそういう人たちで、今、申し上げました高度専門的な職業につくという形がもう1つの道に結果的にはなってしまっている。
 そうすると、私たちが育てている目的と現実に学生たち、あるいはドクター修了者たちが行く道が必ずしもマッチしていないというところが現場では大変悩ましいことだといつも思っています。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございました。じゃあ、ほかにいかがでしょうか。

【中村委員】 

 今の柘植委員のご質問と磯貝委員のお話は実は同じことではないでしょうか。アメリカでは、大学院を卒業すると自分はケミスト、化学者であると本人が認識する。その人が化学者として、大学で教員になったり、会社に行ったりするのです。日本では就職すると化学者ではなくなったような雰囲気になってしまう。「就職した人は化学者ではありません」というふうになるので、そこが混乱するのだと思います。アメリカはいつまでたってもケミストはケミストです。

【佐々木主査】 

 ほかのご発言、どうぞ。

【平尾委員】 

 私、中村委員のお話を聞いて、まさにそのとおりで、多分、現実をそのままあらわされていると思います。アメリカの場合は、やはり、ドクターでいるのが当然で、修士で終わる人はドロップアウトという感じでありますが、日本の場合は、修士を出た人がピカピカで、ドクターへ行くと、もう3年たってしまって少し年が行き過ぎているという感覚を皆さん、持っておられると思います。ドクターの年限を、短縮するというのはいろいろ試みられているのですが、機構的に大きく2つに分けて、一般的な博士課程と、修士1回からドクターコースに入る5年制などに来る、そういう試みが幾つかの大学でされています。それがもう少しうまくいけばいいなということと、やはり、教授のあり方ですね。やはり、アメリカの場合と違って日本では大々的に、産業界の仕事をやらせられないというのは、学生が月謝を払ったりとか、育英資金をもらったりしている。アメリカの場合は、コントラクトがあって、企業の研究をやらせているということに罪悪感が余りないということもありますし、そういうところを少しうまく分けて、基礎をやりたいドクターのコースと、企業に向かって今後やっていきたいためのドクターコースとか何かそういう制度的なところから、高度専門職人材と基礎研究人材要請、そういうものが整理できればと。
 特に私が危機感を持っているのは、博士号をどんどん増やすということで、日本は今、かなり増えてきていたのですが、ここ一、二年、特に今年はドクターコースの進学者がほとんどいなくなりそうです。これは経済の危機で、親が、もうとてもじゃないけど経済的支援できない、ということがありますが、先ほど柘植委員がおっしゃったポスドク問題が、今、特にクリティカルになってきたと思います。
 以上です。

【佐々木主査】 

 減っているというのは、あらゆる領域でそうなのですか。ドクターへ行く人がもう急速に減っていると、先生は工学ですか。

【平尾委員】 

 ええ、工学です。

【佐々木主査】 

 理学もそうですか。

【中村委員】 

 理学もそうです。

【佐々木主査】 

 西洋史もそのために減ったのかどうか、ちょっとよくわかりませんが。どうぞ。

【三宅委員】 

 少し小さい分野の話になるのかも知れないのですが、教育、心理、などの社会系、それから言語学などの人文系の学部や、大学院では、先ほどの中村委員のご発表の中で出てきた、トップでは日米で余り差がないという話が、トップのところで既に日米で簡単には埋めがたい差があるという気がしています。
 私の経験では、留学させていただいた先というのは、先ほどお話にあったようなシステムと非常によく似ています。しかし日本の人文系で、この形で運営できているところというのはほとんどないのではないかと思います。まず組織の大きさそのものが全然違います。例えば、アメリカの研究大学の心理学部は多岐にわたる分野をカバーするためにファカルティ・メンバーが30人以上いて、それを1つの学部組織として集めて、トップの人が研究費を取ってきて、入ってきた院生を全部カバーするということをやっていますが、この形の組織は日本の大学にはないと思います。心理学が学部になっているところがそもそも私立にひとつしかありません。
 この差を見て問題だと思うのは、実は、より大きな科学の進展の中で何か新しいブレークスルーが起きて、先ほども柘植委員が犯罪とおっしゃったような問題が解消されようとする時、そこに人文科学が必要でもそれだけの機能を果たせるところがないのではないか、ということです。新しい科学の進展が自然科学系の研究領域と人文科学系の研究領域の融合を要請しても、そういう要請にこたえられる経験を持った人材がリーダーレベルにいないので、新しくセンターなどを作ることそのものが難しい。大学院教育でもそういうリーダーが育たない。院生が海外に行って融合のほうがおもしろいとなったら日本に帰ってこない、というのがまだ現状のような気がいたします。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。まだ、ご発言いただいていない方で、もしありましたら、どうぞ。

【古城委員】 

 きょうのお話を伺って、まず、高山科学官がおっしゃった人文系のことですが、私、社会科学系で、数学に近い経済学ではない分野、政治学の分野からしますと、抱えている問題が同じではないかというふうに思いました。特に、ここでもきちんと議論してくださるということですが、分野の特性に応じた制度構築が必要ではないかと強く思っているところです。  例えば、学振の援助にしましても、私の分野では理系と違いまして、トレーニングだけでなくフィールドリサーチなども必要なため、博士課程3年で論文を書き上げることはほとんど無理なのです。さらに最近は、修士課程の間口が広がっていて、修士に来る学生の学力にばらつきがあるので、修士でのコースワークといいますか、それにも時間がかかるようになってきています。ですから、3年で書き上げるのは、分野が非常に数理的なもの以外は難しいという状況があります。  ですから、学生は、経済的な負担ということがあって休学をしたりしますが、休学をするといろいろな、例えば、TAとかRAの補助は受けられない。ですので、文系ではある程度長くかかるということも見込んでいただいて、それに応じた適切な支援をしていただくと優秀な人材は育っていくのではないかと思っています。  というのは、やはり、短い期間で非常にうまくできるということを見せないとなかなか支援が受けられないので、かなり早い段階で、例えば、私の分野ですと、小さな論文を幾つか書いてしまう。そうすると、そちらの子のほうが支援を受けやすい。論文の本数が決め手になるということなので、じっくりと博士論文を書き上げた子のほうが実は支援されないという状態も出てきています。つまり、「きっちり博士論文を書くように」と指導すると、実は、支援を受けるような形にうまくマッチしないということも出てきていますので、人文社会系と理系の間の大学院生の支援の仕方を、少し特性に応じて変えていただくと、もう少しうまい人材育成ができるのではないかと感じております。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。どうぞ。

【沼尾委員】 

 先ほどの柘植委員の資料3の3ページ目の絵について、質問させてください。先ほどの45%の議論、かなり難しい状況だという議論があったのですが、分野によってかなり違うような気がするので、その辺が知りたいです。
 また、先ほどの学振の特別研究員の就職状況の調査もそうですが、どうしても不明者が出てきてしまうので、3割の不詳というところは一体何なのかということが少々気になるところです。なお、学振の特別研究員の場合は、就職状況は非常によく、多くが常勤の研究職になっていると思います。
 博士課程において、所定の年限では小粒の研究しかできないという問題について、工学の観点から意見を述べさせてください。理学と工学でまた違うと思いますが、工学の博士課程の学生ですと、指導の仕方として、大きなテーマをバックグラウンドにしつつ、最初には割と小さな研究にまず取りかかってみるというアプローチを取ることが多いです。工学では、短い雑誌論文や、国際会議の会議録が成果になりますので、取っかかりになる小さなテーマで小さな成果を早めに出していき、それらを組み合わせて、大きな博士論文の形にしていくという形で指導しています。それに比べると、人文系では事情がかなり異なっているという感想を持ちました。

【佐々木主査】 

 その、よくわからない不明というのかな、その辺は何か特に事務局のほうからありますか、あったらどうぞ。

【門岡学術企画室長】 

 実際にデータとしては、個別にもう一度それを調査するしか手がないかと思います。現実、学校基本調査などではやっていますが、これは特に国立大学で昔から不明者が多いのです。それはやはり、先生方と学生の方々との間の連絡というか、情報が昔からかなり疎遠の部分があったりして、実際に就職したところまでは把握していないということが実態としてあるようです。経験上も、昔は本当に4割くらいは「わかりません」という大学からの申告がありました。

【佐々木主査】 

 喜連川科学官、どうぞ。

【喜連川科学官】 

 私は、IT系の科学官として参加させていただいております。IT系は微妙にほかの分野と違うかもしれないのですが、国力を維持するという意味におきまして、IT系の研究者をどう養成していくかという観点では、これは極めて重要であるということは言うまでもないことだと思うのですが、例えば、化学のように、ドロップアウトしたのが修士であるとのことですが、情報系ですと、ドロップアウトした学生がGoogleをつくっていて、ドロップアウトした学生がマイクロソフトをつくっている。ですから、ドロップアウトしたほうがいいのかもしれないというような、何だかやや矛盾を感じるところが1つございます。必ずしも博士号をとることが重要となっておりません。
 それから、ここの論点整理の中では、専門職ということがございますけれども、経団連を含めまして、現在、内閣官房がまとめております新IT戦略では、「2015年までに高度IT人材1万人を養成しましょう」ということがあります。私は自分の学生にも「ドクターを出て大学に行け」ということを言ったことは今まで一度もなくて、少なくとも、企業で経験を積みましょうということを強く推奨しています。
 アメリカの大学の先生も企業に、つまり、大学の中にじっといたいというようなITの先生は、そんなにいない。ということで、ほかの分野と大分違うのですけれども、日本がワールドワイドに冠たるものとして今、見えていますのは、例えば、新幹線のシステムとか、あるいはSuicaのシステム、ああいうものをつくれるというのは、やはり大学の教育だけでは、もうほぼ不可能ですので、専門職としての教育とのバランスが非常に重要になっているのではないかという気がいたします。これが専門職に関しての意見でございます。
 キャリアパスに関しましては、今、ITが酷い境遇と言われていまして、4k、10K、32Kとか、「k」が山のほうに、エクスポネンシャルに増えていますので、ぜひ、ここはしっかりしていただきたいと思いますが、ITでは、逆の現象も出ておりまして、いわゆるダブルメジャーということで、米国では「アイスクール(i-school)」と呼んでいるのですが、今、of ITよりもby ITのほうが,価値が高い。つまり、ITをほかのところに転用する能力というものの教育観が非常に重要なっておりまして、そういう意味でも、単なるキャリアパスというデザインとは異なり非常に難しい側面がございます。余りまとまった意見になっていなくて申しわけないのですが、ことITに関しては広がりが非常に多いことを、少し意見として述べさせていただきました。

【佐々木主査】 

 はい、どうもありがとうございました。ほかの方、いかがでしょうか。谷口委員、何かございませんか。

【谷口主査代理】 

 特に、ないと言えばありませんし、あると言えば余りにも大き過ぎてあり過ぎてしまうという感じがいたします。全体的に何かもう、大学全体に元気がないのですね、私の個人的な印象ですけれども、活力がない。若い人が希望を持って活躍しようという意気込みがないというのが、これは統計学的に見ても、ほかの国と比べましても明確に出ています。そこを議論し始めると、幾ら基本問題に関する特別委員会とはいえ、あまりにも基本的過ぎてしまうので、そこまで議論するわけにはいかないと思いますが。しかしながら、各論を統合して、きょうお二方の先生からせっかくこうやって大変貴重なご発表をいただいたわけですから、ケミストリーや西洋史に横たわる問題から一体何をジェネラルな基本問題として抽出するかということが非常に重要なのではないかと思います。その抽出した問題を、この基本問題検討委員会でどうやって取りまとめていくかというのは、非常に重要になるかなと思います。
 もう少し言わせていただくと、やはり、基本的にあるのは社会全体の活力の問題ということで、より現実的な問題を申しますと、日本の大学院の教育の制度が非常にまだ不十分であると言わざるを得ない。大学院重点化政策というのを文部科学省がどういう長期的な哲学を持って決められたのかわかりませんが、大学がみんなそれに乗ってしまって、それに乗りおくれると、何か二流大学だと言われんばかりに、結局、大学院生の数を一生懸命に増やしてしまった。では、それに見合った充分な教育が果たして行われているかというと、もちろん、立派にされているところもあるかもしれませんが、全体的にみるとかなり厳しい状況にあるのではないかと思います。PhD、いわゆる、ドクター・オブ・フィロソフィ、の意味と、日本語になると突然、理学博士、工学博士、医学博士になってしまうわけですけれども、その意味の違いは実際はかなり大きいのではないかと私は思います。つまり、十分な教育がされていないので、企業とか、ドクターをとってもいろいろなところから求人が来ないといいますか、魅力ある人材が育っていないということが1つにはあるのだと私は思います。ですから、やはり、これは、重点化を受け入れた大学の責任でもあるので、私たち教官が、どうやって大学院教育を充実させるべきか、ということを深刻に考えることは1つ重要であろうと思います。
 もう1つ言いますと、しかしながら、オーバードクターの人の就職口がないというのを、どこまで私たちが、どの程度、検討しなければいけないかということも、あえて申し上げますと、あると思います。やはり、学生の時代に、『ネイチャー』とか『サイエンス』とかいう一流誌に論文を書いた経験のある学生は、そんなに就職に苦労しないと思います。それなりのポストはちゃんとある、あるいは、フェローシップを出してもちゃんともらえるような仕組みは、日本の国内、国外にも私は存在していると思います。したがって、ある意味では、それは自由なコンペティションであって、大学院に入学してきた学生がどの程度、自分を磨けるかという、その学生自身が選択の意思を持って選択したわけですから、やはり、学生自身に課せられた責務もあるのだと思います。
 それから、先ほどのご意見にもありましたように、大学に残ることが何も研究者としてすぐれているという、その価値観が日本の中に根づいている限り、なかなかこれは難しい問題があると思います。もう少し多様な研究者としての発展のあり方があると、そういうことを認識できる社会というのをやはりつくっていかないと、オーバードクターの問題はなかなか解決しないのではないかというようなことを少し思います。
 指名されてしまったので、つい長々といろいろ申しましたが、やはり、基本問題を抽出してどういうふうに端的に、かつ、非常に強いメッセージとしてここでまとめていけるかということが非常に重要ではないかと思います。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。ほかにございませんか。

【柘植委員】 

 時間があれば。

【佐々木主査】 

 どうぞ。

【柘植委員】 

 きょうの命題、研究者の養成、すなわち博士課程取得者と、現状はもう先ほどの資料3の3ページにあらわれていますように、これは放置できない。そうすると、私は、今までいろいろな施策を打ってきたし、これからも打つし、補正予算のほうで打ちますが、やはり、センターピンは何なのか。この資料3の3ページの問題を直すためのセンターピンは何なのかということを、もう少しこの基本問題に関する特別委員会の中で描いて指摘すべきだと私は思います。それに関して私は、次のような見方を持っています。反論があるかもしれません。
 センターピンは何かというと、やはり、学術分野で2つに分けざるを得ない。1つは、産業論理に委ねてはならない学術の領域に対するセンターピン。これはもう、逆に言うと国が何としても支えていかなければならないということの学術領域である。もう1つは産業論理と学術論理とを両輪が回るべき学術領域。私の工学の分野などはむしろそうではないかと思っております。後者の話について、すなわち、産業論理と学術論理との両輪で進めなければならない学術領域については、私は、人材委員会の中でも中間報告で言っているのですけれども、「教育」と「研究」と、「イノベーション」と言いたいのですが、「社会貢献」と言いますが、この大学の持っている3つの使命をリンクさせているかどうか。三位一体的に進めているかどうかということの、あるいは、それを促進するような施策。あるいは、この施策が三位一体で推進構造になっているかということの評価基準なり、成果の評価基準をもっと明確にすべきである。
 そういう目で見ますと、先ほどの私の最初の発言にありましたように、米国の博士課程修了者は、研究職、大学に残ることもできるし、産業に行ってもどこでもやっていけるというのは、この三位一体がスパイラルアップで動いているメカニズムがある。日本はどうしてないのか。日本は博士課程の教育を一生懸命にしようとか、社会に役立つための研究のほうが大事だとか、イノベーションが大事だとか、それぞれ独立の話でどうもそれぞれ皆さん、発言しているし、施策もそうされている。つまり、教育と研究と社会貢献の三位一体推進構造が日本にないために、この博士課程のキャリアパスの問題が出てきている。私は、これを直すことがセンターピンだと思います。
 したがいまして、私の提案は、そのクライテリアで施策のプライオリティを決めていく。しかも、5年、10年かけてやっていくと、米国と同じように、どこに出してもやっていける博士課程を生み出していける割合がかなり高くなってくるのではないか、こういうことでございます。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。大体予定された時間に近いところまでいろいろお話を伺いました。ありがとうございました。重要な点は、各領域に応じてやはりいろいろ違いがあるということで、それが分かったとしてどうするかというのが容易になったと言いにくいところも、これありということが正直なところです。しかし、逆に言うと、これは、施策の問題でもあるのだけれども、大学のほうはそういう多様性をどう考えているのかという問題が結局落ちてしまうと、今、柘植委員が言われたような話も、「どこかでやっているね」という話になってしまいはしないかと思います。弾を投げ返すわけではないけれども、大学は内部の多様性という問題を一体どのように受けとめて、それを、先ほどのキャリアパスの問題ではないのですが、人事制度も含めてどういうふうにこなしていくのかというあたりが補完されないと、施策はあるのだけれど、というだけで、「やってくれなきゃ、おれたちはやらないよ」という話だと、またすき間が続きそうな感じも、正直言っていたします。
 ですから、例えば、人文系と工学部が同じような仕組みでやる必要が本当にあるのかというようなこと、あるいは、工学部と言われた中にだって、中にいろいろなものが入ってはしないだろうか。この辺のことも、実は、特にキャリアパスみたいな話になってくると、大学の組織の運営の問題をやはり、まだまだこなし方が足りないようなことも、私は、非常に大きなテーマとしてあるのかなと思います。だから、ここでもう少し議論を詰めていくことについては私も賛成なのですが、同時に、では、すべての大学が同じようにやるのですかと。また、この国は、すべてとかナッシングになるので、これは非常にまずいので、先ほどの中村委員のお話も、結局、ある範囲内でのデータであるから非常に大事な意味を持っているという面も、これありなのです。そうすると、全部一律で、どこもかしこも同じ話で、「皆さん、やりましょう」という、こういうこと自体を、まずどう考えるかということが実は、根っこにある。そして、施策はするのだけれども、では、みんな一緒にやり出すというのも、考えただけでも恐ろしい話なのだけれども。「余裕がない」とか、「リソースがない」とか、独自の考えがあって、「これはやりません」とか、そういうことがあってもよろしいと思うのですが。しかし、余りにもただ漫然と何となく、「動かないね、困った、困った」というのを、もう少し、どこで、どのような割合で受けとめるかというあたりで行くと、この領域の多様性を出せば出すほど、大学なら大学の組織の問題というのを、本当は少し考えないといけないという面が出てくるような感じがしますので、そういった観点も少し頭の片隅に置く必要がある。もっぱらそれで押そうというつもりでもないのだけれども。それから、本当に全国一律みたいなイメージで物を考えるということがどこまで説得的であるのか。
 つまり、リソースが無限に広がっていくような前提で物を考えることができないということであるとすれば、どういうふうな整理をそれぞれがするかということも、正直言って、出てきていると言えると思います。ですから、多様性の問題は、逆に、組織の多様性の問題、経営の多様性の問題、運営の多様性の問題というのにも跳ね返る面があるということも、ちょっと余り横に置いてしまうと、ぐあいが悪いのではないかということも踏まえて、この多様性の問題を、言うだけではなくて、柘植委員が言われるように、何かピンポイント的な妙案があれば良いのですが。私たちにとっては、先ほど柘植委員が言われたことは、それが解決できたら政治にしても何にしても、何の苦労もないのですね。これができないからいつも話が変なところへ行って、わけのわからないと言っては悪いけれども、ややこしい話が次々と再提案されてくるメカニズムがこの国はなかなかなくなりませんが、ただ、目標を掲げること自体は、十分それはあり得ることではないかなと私自身は思っているところです。
 そういうところでは、やはり、「一事が万事」という面があります。たまたま大学という世界で事が起こっていることは、全部つながっているというようなことがあるような感じがします。そういう意味で、事務局にきょうの論点をまとめていただくことはお願いしまして、それで、どのような絞り方をするのかについては、また、もちろん私も相談をしたり、代理とも相談をさせていただいて提案をさせていただきたいと思います。
 それから、何人かの委員から出ていますが、野依先生のところの強化策のところでも、きょうと同じような議論がかなり出ております。基礎化学力強化委員会のほうでも同じような話が出て、ここでもやはりドクターの問題が中心テーマになっております。やはり、基本的に今までの、先ほど磯貝委員が言われたマスター問題とか、ああいう問題も、もうそろそろ踏み込んで整理をすべきだろうという話が出ていますが、これも先ほどの話と同様に、全国一律かどうかという話になると、またこれややこしいです。それから、領域一律化とかいう話になると、これもなかなか厄介な話ですが、きょう伺った議論の、ある部分は、そこでの議論ともかなり近いものがあったという認識を私はしておりますし、私自身、今度の第4期の科学技術基本計画では、人材の問題は非常に大きなテーマに柱として立てるべきではないかという個人的な意見を持っておりますので、今後ともサポートをお願いしたいと思います。谷口委員、どうぞ。

【谷口主査代理】 

 今、佐々木主査がおっしゃったことには全く同感で、大学の独自性とか、力というのが非常に弱くなっているのではないかということを非常に強く感じます。これは各論的にいろいろ要素を詰めればきりがありませんけれども、やはり、大学の力に活気がなくなると社会に活気がなくなり学生の活力も低下すると、私が最初に申し上げたように、ここは1つの大きな問題ではないかと考えられます。ですから、人材養成ということを考えたときに、やはり大学の独自性とか、主体性とか、そういう問題は非常に重要な要素になるのではないかと非常に強く思いますし、どう話を展開させるかは、またいろいろと検討をしたいと思います。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございます。それでは、何はともあれ休みましょう。4時5分再開ということで、少々お休みさせていただきます。よろしくお願いします。

 

( 休憩 )

 

【佐々木主査】 

 それでは、よろしいでしょうか。
 2つ目のテーマに入りたいと思います。研究支援体制でございます。この研究支援体制の問題につきましては、既にいろいろなところで取り上げられ、多くの意見が出てきております。特に、我が国の大学における現在の研究支援体制に対する危機感というものについては、最近、大変目立つようになってまいりまして、これは学術振興を考える上で大変重要な論点であると考えるわけであります。そういう意味で、きょう、これから皆さんのご意見を集中的にお伺いしたいと思います。
 それでは、まず、資料の説明を門岡室長のほうからお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 はい。それでは、資料8の2ページ目をごらんいただきたいと思います。「我が国の研究関係従事者数の推移」ということで、これは総務省統計局で毎年まとめております「科学技術研究調査報告」というものでございます。上の表ですけれども、ブルーの折れ線が研究者、19年で82万7,000人。よくいろいろなところで日本の研究者が多いと言われるところについてでございますけれども、これは企業とか非営利団体とか、あと、大学も含めてトータルとしての数が82万7,000人となっております。また、大学の研究者というふうに見たときにも、本部者、教員、教授、准教授とか、そういう教員の方々以外にも、大学院の博士課程の在籍者、医局員等の方々も入ってきておりまして、大学院博士課程の在学者が7万3,000人、医局員等が2万5,000人ぐらいはそこに入ってきているという数字です。
 オレンジ色のほうが研究支援者ということで、これが22万8,000人ということになっております。この研究支援者を3つの区分で分けたものが下の折れ線です。研究補助者、これは研究者を補佐し、その指導に従って研究に従事する者。それから技能者、研究者、研究補助者以外の者であって、研究者、研究補助者の指導、監督のもとに研究に付随する技術的サービスを行う者。それから、研究事務その他の関係者ということで、今までの2つ以外のもので庶務的なもの、あとは会計、雑務的なものに従事する者ということでございます。
 最近の傾向としては、研究者数は増加傾向にある一方で、研究支援者は横ばい傾向ということでございます。
 3ページに、「国立・私立における研究関係従事者数の推移」ということで、平成3年以降で、これは実数のグラフですけれども、ブルーが研究補助者、赤が技能者、黄色が研究事務その他関係者ということで、①として上が国立大学ですが、研究支援者総数、あとはそれぞれの区分においても、これは増加傾向にあります。ただ、ここで言う数の中に、これは調査の定義としてあるのですが、1カ月以上採用されている非常勤の方とか、そういった方々もカウントされておりますので、大学での運営交付金でやっている方以外にも、いろいろな競争的資金で採用されている方とか、あとは、1カ月以上非常勤として採用された方についても、全部この数字に入ってきております。そういうことで、国立大学の場合には増え続けているといいましょうか、多分、いろいろな研究費の使い勝手をよくすることによって人件費が払えるとか、あとは競争的資金とか、いろいろなものでそういう研究補助者の方々は増えてきているのではなかろうかと思います。それから、私立大学のケースにつきましては、若干、減少傾向にあるのではなかろうかと思われます。
 4ページ目をごらんいただきたいと思います。その研究関係従事者について、国立と私立で分けておりますが、分野別で見た場合にどういうふうになっているか。構成比は、余り大きな変化はなかったのですが、これは、国立と私立の大学の構成の違いを見るようになってしまいました。やはり、国立の場合は理学、工学、農学、保健。私立の場合には人社の部分、その他教育関係も含めて、そこがかなりの部分を占めているという構成になっています。
 それから、5ページ目、主要国における研究者1人当たりの研究支援者数ということで、このグラフは、日本のところが、研究者の総トータルが105万となっておりますが、先ほどの研究者八十何万となっておりましたが、ここにはまた兼務者の分も含めた形の数字になっておりますので105万という数字が出てきております。それで、研究支援者が日本の場合、22万8,000人ということで、0.28という数字です。よその国との比較は右のとおりに、ドイツ、フランス、英国、日本よりもかなり高い。3倍、4倍の数字ということで、日本の場合には4人に1人というぐらいの率になるということでございます。
 次に6ページ目をごらんいただきたいと思います。これは科学技術政策研究所のほうで定点調査をしており、その調査項目の中の1つです。代表的研究者や有識者のほうからヒアリングをした結果として、特に研究支援者については「著しく不十分である」との認識が示されているということで、これについては3年間、ずっと定点でやっておりますけれども、「不十分」というところで推移してきているというものです。
 それから、8ページ目をごらんいただきたいと思います。これは同じく科学技術政策研究所のほうで3期の基本計画のフォローアップの調査としてパネル討論及びアンケート調査を実施したものでございます。何分、サンプルについては多くのサンプルを取っておりませんので、傾向として全分野に信頼性がどこまであるかという問題はありますが、9ページ以降に、「職務時間の増加と研究活動時間比率の減少」ということで、分野によって偏りがあるわけですが、9ページの図の左、一番上が全分野のトータルの平均という形になっております。その下に応用物理、化学、科学、基礎生物、機械工学、数学・理論物理等に分けた形で、各活動時間の積み上げ、教授、准教授、講師についての積み上げという形を、これは平成15年と平成19年で比較しているというものです。
 それで、左側のブルーの帯のところが研究に関する活動の時間ということで、各分野ともに、分野ごとに活動時間の多寡はありますけれども、15年と19年を比べると19年において研究に関する活動の時間は減っている。それに比して、組織運営に関する活動の時間というものが、どの分野においても増えているというのが出てきております。それは、割合についても同じような傾向が言えるかと思います。
 それから、10ページをごらんいただきたいと思います。これも大学の形態ごとにあらわしたものでございます。これで見ても同じようなことが言えるかと思いますが、国立の単科大学におきましては、各活動時間に占める研究に関する活動時間は約4分の1というふうに減ってきている。それ以外にかける時間のほうが増大してきている。特に組織運営に関する活動の部分というものがやはり多くなっているというのが、このアンケート調査でわかるものでございます。
 資料は以上でございます。

【佐々木主査】 

 はい、どうもありがとうございました。それでは、ただいまのデータなどもご参考にしながらでも結構ですので、この研究支援体制の問題についてのご発言をいただきたいと思います。終了時刻は大体5時の終了を予定しておりますので、できるだけ多くの方からご発言をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

【福島科学官】 

 研究支援者の研究者に対する割合が、先ほどの5ページのグラフで主要国と比べて低水準というと、普通には、「では、研究支援者を増やしましょう」というような話に大体行くと思います。ですが、気をつけなければいけないのは、もし、ゼロサムであるとすると、つまり、トータルで使える人件費の総額が決まっているとすると、果たしてどういう割合にするのかベストかというのは、また別の話ではないかという点です。私が前にいたところでは、定員削減への対処方法として技術支援職員から削減することになったとき、「そんなことをすると、研究者はみんな忙しくなって大変だ」との反論に対して、トップの人は「助手には技術支援職の仕事はやれるけれど、技術支援職に助手の仕事はやらせられないでしょう」といって、結局、教員の数は余り減らさないで、事務職、それから技術職の数を減らしてきた。
多分、各大学も同様かと思います。その結果がここに現れている。ただ、こんなに大きな比率にはなっていないと思いますが。
 しかし、果たして本当に、全体の人的資源が限られている場合に、どういう配分をするのがいいかというのは、また少々違う議論だと思います。一律に海外と比べて、では、欧米並みに比率をしましょうといったときに、それがいいかどうかということには、十分気をつけなければいけないと思っております。

【佐々木主査】 

 福島科学官、どうもありがとうございます。ほかの方、どうぞ。三宅委員。

【三宅委員】 

 数の問題が出ているのですけれども、実際には、どのレベルの質の人がどういう形で補佐に回ってくれるかということが大変大きくて、日本ですと多くの場合、人件費が使えても、質をうまく選んで人を雇えるかというと、そういうふうになっていないということがあるような気がいたします。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございます。磯貝委員、どうぞ。

【磯貝委員】 

 はい。研究支援者の問題ですけれども、今もお話がありましたが、質の問題はかなり深刻で、研究支援者も1つは、研究の現場で巣立ってくるわけですけれども、今の雇用体系で行くと、現実的にはその研究支援者をずっと雇用し続けられないと。やってやれないことはないのかもしれませんが、今のやり方だと、どうも長くは雇用できないというような問題があって、現場では、またどこかに行かせなければいけないという問題が1つあります。
 もう1つは、先ほどの研究支援体制の関連データが出てきましたが、ここにもあるように、現実に今の教員は、組織運営にかなり時間が割かれている。組織運営について、例えば、それではそういう専門家を大学として雇って、教員の負担を減らそうと思うと、今のシステムで言うと、人件費1%削減というような問題があって、なかなかそういうところにきちっとした定員のレベルで人を割くことが難しい。
 今、22年度まで約束されているという話ですが、先般、23年度も延長しろという話も出てきているようにも聞いていますので、その辺は大学の人件費抑制という枠を、ある時期には撤廃していただいて、大学が必要なところに必要な人材を確保できるような施策をとっていただけないかなと、いつも思っております。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【中村委員】 

 先ほど福島科学官がおっしゃった支援者の問題です。私たちのグローバルCOEでお金がついたので、「特任助教でもいいし、支援者でもいい。どちらでもよいですよ」と皆さんに申し上げたら、皆さん、やはり助教を採られました。私たちの学科では、実は、器械のメンテナンスをやってくれる人をとりました。それによって助手の人や学生さんの負担が減りますから研究に専念できる。やはり、メンタリティの問題だと思います。アメリカの先生は、そんなもの、自分でやるのだったらテクニシャンがやればいいと思うにちがいないのですけれども。その差の原因がどこにあるのかよくわかりませんが、やはり、教員のほうの考え方が反映しているのだと思います。

【佐々木主査】 

 石井委員、どうぞ。

【石井委員】 

 私の分野は数学でありまして、数学は個人プレーなのです。ですから、ほかの実験科学と違って、自分は理学部長をやりながら、助手の皆さんに指示をして実験をやってもらって研究がどんどん進むという分野ではないのです。自分の体が拘束されると、その分、2時間、3時間、研究がおくれるというような分野です。そのため、研究は自分でやるしかない。じゃあ、何を助けてもらうかというと、事務的な仕事を助けてもらうしかないのです。ですから、事務支援員というのですか、それに助けられているところが大変多いわけで、割と最近、競争的資金から事務支援員を雇えるという制度になりまして非常に助かっております。ところが、問題は、5年間しか雇えないということです。そういうところは皆さんどうしていらっしゃるのか、お聞きしたいと思っているのですが。

【佐々木主査】 

 はい、谷口委員、どうぞ。

【谷口主査代理】 

 研究基盤の強化というのは非常に重要な問題で、先ほどの人材育成の問題とも関係がありますし、今、中村委員がおっしゃったように、どちらでも取れると、どうしても日本だと特任助教の形でとってしまうという、その背景にあるのは何かと考えますと、日本では、研究者というと、もうドクターを取ってノーベル賞をもらうか、あるいはドロップアウトをするかと、わかりやすく言うとそういう単一的な評価なのです。多様な評価ができないような世の中になってしまっているというところが、非常にこういう膠着状態を生み出しているというところがあります。
 例えば、外国ですと、テクニシャンというのは非常にプライドのある、非常に立派なポストです。テクニシャンにはテクニシャンのプライドがあり、それなりの経済的なサポートをしっかりされていて、それでもって自分は、言われたことをちゃんとやるというところが自分のプロとしての責任だと、そういう考え方がしっかりしているわけです。私はやはり、そういう多様な研究基盤、研究を支える人材を、それなりの価値観でもってきちんとリスペクトすることを、まず、研究者コミュニティの中でそういう社会をつくらなければいけない。もう一方は、経済的にもそういう支援体制を強化するなど真剣に検討するべきだと思います。
 1つあるのは、先ほど石井委員がおっしゃった、5年しか雇用できないとか、これはやはり、科研費とか競争的資金とか、国民の税金を直接使って何とかすることになると、どうしてもそういうルールにのっとってしまう、乗っからざるを得ない。長期的に見れば、やはり、もう少し豊かな多様性のある研究費のサポートのシステムとか、そういうことを考えていくことも1つ、重要なのかなと思います。ですから、やはり、研究者、あるいは研究全体を支える人たちの多様な価値観をもう少し見直していくということを考えることが根本的に重要ではないかと思います。

【佐々木主査】 

 はい、柘植委員。

【柘植委員】 

 サポート要因を増やすという見方と、もう1つ、9ページに出ています、研究者の研究に充てる時間が平成15年から19年に向けて全体として減っているという問題に対する打ち手を、補助者を増やすという点の分析と同時に、私は、この減っている理由のメカニズムをもう少し分析すべきだと思います。1つの私の仮説は、科研費も多分、2,000億円にまで増加されて、ほかの競争的資金も増えてきています。増えたときに、今、100万円の国の予算を取ったときに、途中のファンディングエージェンシーや評価も含めて、研究にわたる金額は一体幾らなのか。つまり、逆に言うと、その途中の間接経費といいますか、研究もしないのに研究費を食ってしまっている、こういう構造の分析を、企業で言うと、一種のコスト分析になるのですが、これをまじめに行政側はすべきではないかという思いが私にはあります。
 別な言い方をすると、よく、アメリカだと、ファンドを与えると、5年なら5年という形で、審査の入り口は非常に厳しいかもしれないけれども、5年間の間に、本当の研究以外に使われる間接経費というのは率が少ないのではないかと私はにらんでおります。そのしわ寄せがすべてこの研究者の研究時間の減少にも来ていると。そういうことで、ぜひ、そういう一種の、だれがむだなお金を使ってしまっているかということの分析をし、そのむだなことに使っているために、研究者にさらに研究の時間を圧迫しているという負のスパイラルの構造を仮説として置いて、一度それを何らかの形で調査すべきであると私は思います。

【佐々木主査】 

 研究費部会か何かであれば。ほかに、どうぞ。

【平尾委員】 

 少し前に戻るのですけれども、研究支援のことですが、第3期科学技術基本計画で非常に科学技術予算がふえたということで大学が豊かになり、装置が非常にたくさん入ってきている。ところが、一方、それを教育とか研究でいろいろ使う段になると、やはり、先ほどのドクターコースの学生が専門の、どんどん深化したところに使うために、外に開かれていないというのが事実で、産学連携でそれを使えないということがあり、外からみるとどんどん装置が私物化されているような感じがするわけです。それは、ともすれば、オペレーターというような装置のテクニシャンがいないからそういうことが起きている。やはり、いろいろな、人にも使ってもらうようなシステムをつくらなければいけない。しかも、その装置を買って、最初のメンテナンスから全部、研究者がやっているわけですから、ほとんどの時間、それに費やすといっても過言ではないし、修理もしなければいけない。そういうことを考えると、ある程度、技術的なテクニシャンが高収入で名声も高く、その人でなければ、例えば、透過電子顕微鏡はとれないとか、そういう文化も日本に必要ではないかと思っております。もっと装置をこれから有効利用して、世の中に使えるようなことが期待されます、もちろん、そういう施策、たとえば共有装置のネットワーク構想とか共通設備論があるのですが、今のところ、そういうオペレーティングのところが少し手薄になっているのではないかと思っています。

【佐々木主査】 

 どうぞ。

【沼尾委員】 

 数の比較の中で、先ほどもお話がありましたが、非常勤の方と、従来だったら、すごく長くきちんとおられる方がおられて、その割合がわかるのか、そこら辺が一番の問題で、我々としては、本当は長くおられる方にはいていただきたいのですが、それなりに予算が限られるので、そこで非常勤の方を雇うと、例えば、いろいろな規定で余り長く雇えない。例えば、最長6年とかいうことになると、そこで技術が途切れますし、事務方にしても、やはり、長くおられる方はよく知っておられるのだけれども、途中でクーリングオフしなければいけないとか、その辺が今、非常に厳しい問題かなと思います。あと、そうすると助教の方がサポートに入らなければいけないとか、そこら辺が厳しい問題だと思っております。

【門岡学術企画室長】 

 データのとり方の問題、それはもう一くくりでしかとれていないので、何年もずっといらっしゃる方と非常勤の方との区別はつけられないです。それはまた、個別に調べるとか、例示的に調べるとか、そういったことでしか対応はできないと思います。

【沼尾委員】 

 事務の方でも、例えば、派遣の方で、1カ月か2カ月来られて、繁忙期が過ぎると出られる方とか、いろいろおられるみたいなので、かなり柔軟にはなっているのですけれども、いろいろそこで難しい問題はあるのかなと思います。

【佐々木主査】 

 はい、どうぞ、中村委員。

【中村委員】 

 一言で言うと、大学においては、事務も技術的なことも一番よく知っているのは教授、准教授ですよね。一番知らないのが事務で、だれもいないのが技官です。事務の辺の人はグルグル回るばかりで、ずっと同じところにいてすべて知っているのは教員。だから、事務組織が支援組織にも何もなっていないんです。支援組織というのは、盤石なものがそこにあって、つまり先ほど谷口委員がおっしゃったような、ずっと学科にいる人がいて、教員がその上に乗るのが支援組織というのです。もう今は完全に逆転していますから、その辺に尽きると思います。

【佐々木主査】 

 古城委員、どうぞ。

【古城委員】 

 今、中村委員がおっしゃるとおりだと思います。結局、短期的に雇っても、その方に仕事を覚えてもらうのに、教員がいろいろと指図をするので教員の時間が取られる。ようやくある程度になると、また別の方になって、また同じようなことを繰り返さなければならない。文系のほうですと、事務量がものすごく増えているにもかかわらず、事務的な職員の方が減らされているという現状で、その事務を、今まで事務の方がやっていたのを教員がやっている、そういう状況なので、研究時間が減っていくというのは、事務的なものに時間が割かれているということが多いと思います。ただ、それを短期的な方にやってもらおうと思うと、大学のことをよくご存じない方とか、そういう方ですと、いても余りサポートにならない。ですから、そのあたりのことをもう少し何か恒常的に、あるポジションで、例えば、評価の問題とか、そういうものを専門的にきちっとやってくださる方を1人つけていただければ、大分助かると思います。そのような専門的なポストをつくれるしくみにしていただくと大分違うのではないかという気がします。 【佐々木主査】  私立大学などは、柘植委員、何かそういう工夫はされているのでしょうか、サポートを。国立の事情は大体、押して知るべしで、私もわかるのだけれども。

【柘植委員】 

 まあ、とにかく、もちろん国の税金からの補助金をもらってやっていますからおろそかにできないのですけれども、私の実感は、やはり、評価、あるいはフォローアップ、そういうものを含めて、こういう事務を起こしているメカニズムをもうちょっとコスト分析して、行政側がみずからここは緩めようとすれば、本当の真水が研究者に行く。結果的に先生たちの研究率も上がる、こういう設計しかないと私は思いますね。今、雇用しても確かに、私学でも同じですし、科研費をきちっと企画するのは先生が一番よく知っているわけです。ですから、補助費を増やそうというだけでは、対処療法で、私は効果が薄いと思います。研究者に行く真水を増やす構造をつくるということが早いと思いますね。

【佐々木主査】 

 三宅委員。

【三宅委員】 

 これは諸刃の剣である可能性はあると思うのですが、先ほどの中村委員のアメリカとの比較のお話が出たので付け加えさせてください。アメリカで私が知っているところでは、どの程度の事務ができるか、研究のプロポーザルならどの部分が書けるかなどで、ランクが一応、きちんと決まっていました。A、AA、3Aというような秘書のレベルがあって、「何々大学の何プロジェクトでAAAだった」という資格があると、その金額で雇ってもらえるシステムが動いているように思います。日本にはそういうシステムがないので、外部資金でIT系のテクニシャンを雇った時、「この人はこの金額以下では雇えません」ということを示すために膨大な資料を集めてこなければならなかったという経験もしています。ランキングシステムとか資格システムは好きではないのですが、ある程度の技量やできることによって給料を保証して次に渡していくというシステムができると、研究者の時間が確保できるようになるかもしれないと考えます。

【佐々木主査】

  なるほど、ほかにいかがでしょうか。喜連川科学官、どうぞ。

【喜連川科学官】 

 補助員に関しましては、多分、テクニシャンと呼ばれている、いわゆる技術系の人と、会計事務をしている人とを一緒にして議論するのは少々難しいのではないかと思っております。テクニシャンに関しましては、IT系は非常に努力をしておりまして、今、IT系で買うものは基本的に安価なコンピュータしかなく、他の物質科学のように、いろいろな高価な装置を買う必要が全くなくなってしまったという状況があります。そうしますと、基本的にコンピュータ機種は違っても概ね同じですので、コンピュータの維持管理というものを各研究室でやること自身にほとんど意味がなくなってくる。面倒くさいだけで、それ自身が研究のコンピタンスにならないということから、いわゆる、クラウドとか基盤センターというところに全部アウトソースしてしまうということが成り立っています。これは大学だけではなく、企業でも全部そうです。したがいまして、集約化された分人数は減っています。しかしながら、テクニシャンの給料は、下手すると教授並みになっている、そういう状況がアメリカではないかと思っています、それが1点です。
 それから、研究に割く時間と組織運営に割く時間という面に関しましては、私の個人的な印象からは、組織の運営でも、だれでもできるような、つまり、どこの大学でも考えなければいけないような運営は、基本的に、できる限りアウトソースできるような環境を日本全体、大学全体でデザインするということがきわめて重要で、同じことを各大学でリピィティティブにやっているというのは、全くむだではないかという気がします。ITが相当に貢献出来ると思います。実際企業でもそうしております。それが第2点。
 それから、組織運営の中で時間が増えている要因は、主としてコンプライアンスに起因しているのではないかと思います。大学で今、困っていますのは、研究費をあっちからもらう、こっちからもらうということをやりますと、こっちの研究費の旅費でこっち側に行くとどうのこうのとか、うるさいことを山のように言われて大学の事務と複雑なやりとりをしなければいけないということが発生しています。それから、評価のために何かレポートをつくれというリクエストが山のように来るので、もう勘弁してくれというような状況も出ております。 実は、このコンプライアンスいうのがITビジネスの一番の大きな根幹にはなっているのですけれども、我が身を締めているといいますか、ここは少し大学などで、もうちょっとおおらかになってほしいということが3点目です。
 最後ですが、真水の部分に関しましては、アメリカに比べて日本のほうがはるかに真水が多い。つまり、アメリカのほうがオーバーヘッドがはるかにでかい。しかし、その大きい部分というのが、先ほど言いましたようなコンプライアンス系の部分に効果的に投入されている。例えば、日本でも私立大学の場合、科研費のドラフトは先生が書く。しかし、清書は全部事務官がやる。そういうところに真水でない部分が投入されるのは決しておかしいことではないわけですので、真水分が多くなるということを最適化する必要はないというふうに感じます。

【佐々木主査】 

 なるほど。ほかにいかがでしょうか。特に追加的なご発言はございませんか。どうぞ。

【中村委員】 

 興味で質問するのですが、9ページの職務時間の表ですが、これは年間ですか、3,000時間というのは。

【門岡学術企画室長】 

 年間です。

【中村委員】 

 そうすると、年間3,000時間とか、化学はわかりますが、3,500時間とか働いた、こういうのは表に出して平気なのでしょうか。

【門岡学術企画室長】 

 働きすぎではないかと。

【中村委員】 

 大学では40時間以上、働いてはいけないと言われていて、エフォート管理のときは40時間にするので、形式から見ると全然もう研究も何もできないですね。40時間以上働いていると書くのは大学では止められています。

【磯貝委員】 

 少々よろしいですか。実は、私はこれのワーキング・グループに、委員として入っており、このデータをつくったときは知っているのですが、やはり、今の問題が出てきて、これは実数をこのまま出していいのか、あるいは、もう少し別に全体をノーマライズして、どのくらいの比率でという格好にするのかという議論をしたはずで、これが最終報告かどうか、正確には知らないのですが、今、この最終報告がウェブに出ていますので、それにどこまで出ているのか。原案の段階ではこういう資料になっていますが、最終的にこれはという話は当然、出ていました。ただ、一応、調査としては、実時間を調べて統計をとったという調査をしました。
 もう1つついでに、その統計のときの事情を少々知っているものですから申し上げますと、組織運営にかかる時間で、やはり、一番時間が取られているのは、調査した中では評価対応、もう1つは組織が研究費を取ってくるための作業、この2つが従来なかった作業で増えてきているというのがヒアリングや何かのコメントで出てきております。

【門岡学術企画室長】 

 整理としては、職務時間ではなくて、家でやった研究も含めて活動時間というふうなことで言葉を使い分けて、現在、報告書でまとめられて公表されているということのようです。

【佐々木主査】 

 谷口委員、どうぞ。

【谷口主査代理】 

 先ほどの人材育成の問題とも絡むのですが、とにかく余りにも研究者が忙し過ぎる、この現実は、もういかんともしがたいほど深刻な状況になっていると思います。ここは学術に関する基本問題を検討する会ですから、あえて原則的なことばかりで申しわけありませんが、独創性というのは、やはり、先ほど私も少々資源のコンテクストで申し上げたような、多様な価値観、多様性を認める社会といいますか、それとやはり、寛容性に富んだ社会が非常に重要なのだと思います。競争のみを重視する社会から、本当に独創的な研究が生まれるのかどうか。何が何でも競争で、コンプライアンスという言葉に代表されるように、もう圧倒的な事務に追われて、それでもうすり減らされて、さらに競争して、本当に独創的な研究が我が国で長期的に次の世代を担う人たちが担っていかれるかどうかという根本的な問題があると思います。
 日本の中の人たちは基本的には大学も社会もみんな直面する与えられた課題のために一生懸命にがんばっていると思います。しかし、一生懸命にやればやるほど、こういう複雑かつ悩ましい状況になってしまう、いわば悪循環的な状況を生んでいるのではないか、ここが最大の根幹で、残念ながら簡単な解決方策をみつけるのは困難です。しかしながら、やはり、先ほど申し上げたような学問の本当の発展を考えたときに、寛容性とか、価値観の多様性とか、そういうものが何とか復権をしていかないと、若者の元気も含めまして、我が国の学術の上に大きな影を落とすのではないかと非常に危惧いたします。

【佐々木主査】 

 ほかにいかがでしょうか。郷委員、どうぞ。

【郷委員】 

 今の谷口委員のご意見、大変大事なことだと思います。要するに、研究者養成といっても、今の大学で教員が研究に時間を十分使えない。不思議に教育は少々時間が増えているのですが、これはなぜか私は理解しにくいところでもあります。今のこの状況、きょうのこのデータ、活動時間数のデータ、それから第1回だったかと思いますが、中村委員が、たしか論文の数とサイテーションを法人前と法人化後でいろいろな分野が落ちているということをお見せになったような気がするのですが、違いましたか。

【佐々木主査】 

 どなたかほかの委員でした。

【郷委員】 

 委員のどなたかがお示しになったと思いますが、こういう客観的データは、案外、余り出てこないのですが、これは非常に大事だと思います。国立大学の法人化で、第1期の中期目標・中期計画期間の評価が出てきましたけれども、評価のやり方という問題もございますが、それ以前に、この評価のために評価をされる側も、する側も、非常に大きな資源を使っている。そのことが、今日のデータとか、この前の論文数、論文サイテーションにあらわれてきているというデータは非常に大事だと思います。余り出てきていないので、ぜひ、そういうまとめをしていただきたい。第2期の中期計画・中期計画期間の予算に、どういうふうに評価が反映されるかということもありますけれども、今の疲弊を続けていたら、次の第2期が終わったときには、日本中の大学が研究どころではない、研究者養成どころではないということがあり得ると考えています。教育、研究に本当に大きなしわ寄せが来ているということがあると思います。先ほどの研究支援者の問題もありますが、一番大事なことは、今、申し上げたようなことを、もう少し大きな声で表明していくことではないかと思います。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございました。今のデータの話については、何か門岡室長、ありますか。

【門岡学術企画室長】 

 1回目のときに福島科学官のほうからご指摘があり、日本の論文のシェアの問題と質の問題についてご発言がありました。そのあと、福島科学官と少し議論もしながら、トムソンのデータとか、あと、最近では日本とイギリスの論文の関係とか、その費用対効果的な部分を調査したデータとかも出たりしております。それも含めて、今、福島科学官と少し議論をしていて、何かしらまとめられれば、この会議でも、福島科学官のほうからご発表でもと思っておりますが、先生、何かコメントはございますか。

【福島科学官】

 実際に、我々が目標とするもの、例えば、学術を進めるのであれば、学術のプロダクトといいますか、出てくる研究の質と量が実際にどうなったのかということのほうが重要です。私はいつも少々あまのじゃくなのですが、職務時間が減った、研究に専念できる時間が減ったというのは、本当に悪いことなのかどうか。つまり、「研究している」と言っている時間が減っているのだけれど、実際に研究のプロダクトはどうなのかということを一緒に吟味しないといけない。つまり、研究者が研究時間に比例して研究成果が出ているのであれば、研究時間が減ったのはゆゆしきことなので、研究時間を増やす必要があります。でも、人によっては、集中したほうが仕事ができる人もいます。ダラダラやっていればいいというものではないと思います。「大統領のように働き、王様のように遊ぶ」という台詞がありますが、忙しいとかえって仕事ができる人もいるので、一概に、例えば、8、9ページに出ている、組織運営に関する時間活動が多くなって、これはゆゆしきこととは言い切れない。例えば、組織運営に忙殺されて、でもその結果として、研究費が倍増した結果、たとえ自分は研究現場で働いていないとしても、新たに雇用したポスドクが研究した結果、トータルでグループとしての研究成果が増加しているかもしれないのです。
 ですから、ある一面的な結果だけを見てどうのこうのと議論するのは、実は非常に危なくて、実際に我々が追求すべき目標、プロダクト主義なら研究成果の質と量、人材養成なら育てた研究者の質と数が重要です。個人的には、ドクターを数多く出せばいいというものではないと思っています。私にとって、博士論文は研究者としてのドライバーズ・ライセンスだと思っていますから。ちなみに、私の所属する大学共同利用機関では、大学からドクターがたくさん出てきても、それらをさらに一流の研究者にするのにどうしたらいいか、そういう意味での研究者養成のほうが頭が痛い問題で、出てくるドクターの質がどんどん悪くなっていると私は思っています。
 最終的に、我々は何を目標とするのか。研究に割かれる勤務時間を増やすことが目標ではなくて、学術を進めることが目標だとすると、実際に最終的な研究のプロダクトが増加するのかどうかということを、きちんとデータをとった上で議論しなければ危険だという気がしています。

【佐々木主査】 

 ぜひ、ひとつ、その方向で、本委員会に材料を出していただくということが非常に切実に求められておりますので、よろしくお願いいたします。どうぞ。

【中村委員】 

 私は少々違う見方をしております。それは、つまり、大学教員というのは、教育と研究をするのが本務であって、アドミニストレーションをやるのは事務がやるべきだと。そういう意味で、我々本務としている教育と研究の部分に余計なアドミニストレーションが増えるということは根本的に問題だというふうに考えます。教員に事務をやらせるのはもったいないです。また、そのようには選抜されていない。事務は事務がやる、テクニックのことはテクニシャンがやる、教育と研究は教員がやると、こういうふうにきっちり分けるべきである。そこが損なわれているところが問題なのだと思います。

【三宅委員】 

 今の話で1つ伺いたいのですけれども、今の日本の中堅どころの大学で、来年ちゃんと受験者が必要な数来てくれるかどうかが問題というところでは、研究と教育を担っている人たち大学のビジョンを自分たちで作り上げる時間がない、あるいは大学の経営陣だけで方向が決められてしまう時に、研究を進める元気がなくなってしまうということも起きているように思います。大学という組織そのもののビジョンをつくる仕事は、今のお話ですと、特に中村委員のご意見では、どこが担うべきでしょうか。

【中村委員】 

 それは大学の経営者が考えることだと思います。

【三宅委員】 

 だとしますと、そこの反りが合わなくなってきているということが、日本の大学のある種の部分で研究の質が落ちたり、研究者の元気がなくなってきたりしていることの原因かもしれないという気がいたします。

【佐々木主査】 

 理屈はまあ、いろいろあるのですが、データはまたよろしくお願いします。そういうことも含めて、本委員会としては、この際、見るべきものをきちっと見た話をしたということにしなければいけないと思いますので、また、次回なり、その先なり、情報提供をお願いいたします。
 時間がなくなってきつつありますが、柘植委員、何かございますか。どうぞ。

【柘植委員】 

 今、配っていただいた資料ですが、右上に「机上資料柘植委員提出資料」と書いてあります。表題に書いてありますのは、これは日本学術会議の日本の展望委員会の理学工学分科会の提言の案でございまして、「知識基盤社会を支える、市民が持つべき新リベラルアーツ教育の構築に向けて」ということの提言を、これはまだファイナル案ではございません。この文章に入る前に、なぜきょうの中で参考資料として、机上資料として提出したかと申しますと、この学術の基本問題にかかわるということで、私は、その審議事項に、「学術と社会との関係」という項目があると認識します。特にそうなってきますと、学部教育に対して、特に、この本特別委員会は今からブリーフィングします問題を取り上げるべきではないかというご提案でございます。
 現状の問題と認識をサッと見てみますと、「21世紀の科学技術的知の創造の成果が、学術面にとどまらず、社会経済的価値として社会に深く浸透し、経済的価値だけではなく市民の心と生活を支える社会システムまで及んでいる。市民は、その光と影の部分に対する理解力と、みずからの意思をもって実践できる力としての教養(知識基盤社会を支える市民が持つべきリベラルアーツ)を持つ必要がある」ということでございます。
 2パラグラフに書いていますように、全入時代を迎えつつある大学での学部教育において、非常に大事な伝統的なリベラルアーツ教育と同時に、ますます細分化する専門教育に対する学生の理解力の低下が顕在化しています。この背景には、まさに今、説明したような、基盤として21世紀に求められるリベラルアーツ教育の不十分さが存在すると考えているわけであります。その結果、生じているいろいろなさまざまな社会問題がここに書いてございますが、緊急提言の上の4行の提言は、「この問題の解決には、学部教育における一般教養教育と専門教育との間に広がりつつあるギャップを橋渡しする科学技術リベラルアーツ教育の構築が必要である」と。換言しますと、知識基盤社会を支える市民が持つべき新リベラルアーツ教育の構築が急務であるということで、当然、この素養を具備した教員の教育現場への配置等によって初等・中等教育の現場の問題の解決も急務であるということで、緊急提言としまして、一番下に2点ございます。
 1つは、人文社会、自然科学系学部共通教育の視点においても、21世紀型の科学技術リベラルアーツ教育カリキュラムというものを構築すべきではないか。例えば、知識基盤社会と技術というものは、人文社会、自然科学関係なく身につけるべきではないか。同時に、理学、工学分野においては、専門教育の導入部においてなされるべき科学技術リベラルアーツ教育のカリキュラム、私はたまたま工学部ですので、例えば、全入時代の工学部教育のあり方等、こういうことを学部教育のカリキュラムの改革を目指した教育研究活動を国は支援すべきである、こういう提言でございます。これはまた、学術と社会との関係という部分のセッションのときに議論を深めていただけたらと思っております。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。それでは、これはご意見として受けとめさせていただくということです。

【磯貝委員】 

 これは大変大事なことだと思いますが、ここだと「理学工学」となっていますが、現実的には「生物学」も今、物をつくる時代になっておりますので、生物学も含めて自然科学という理解でご提言いただけると大変いいのではないかと私は思います。

【柘植委員】 

 申しわけございません。言いわけになってしまうのですけれども、日本学術会議は生命科学なので、これは、学術会議、忘れずに私もメンバーとしてそこは入れますので。

【磯貝委員】 

 よろしくお願いいたします。

【佐々木主査】 

 はい、ありがとうございます。
 それでは、きょうもいろいろご意見をいただきまして重要なご指摘をいただいたと思います。
 中村委員と高山科学官にはいろいろご発言をいただきましてありがとうございました。もしよろしければ、本日の会議はそろそろ終わらせていただきたいと思います。次回の予定等について、事務局から何かあればお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 本日、ご用意させていただきました資料につきましては、封筒に入れて机上に置いていただければ郵送させていただきます。
 以上でございます。

【佐々木主査】 

 はい、それではありがとうございました。これできょうの会議は終わりにします。どうもありがとうございました。

 

                                ── 了 ──

 

 

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