資料2 「人文学及び社会科学の振興について」審議のまとめ(案)
平成19年 月 日
科学技術・学術審議会 学術分科会 学術研究推進部会
人文学及び社会科学の振興に関する委員会
1.人文学及び社会科学の意義
1.英知の創造
- 人文学や社会科学は、人間の経済行動や社会の構造、機能といった「事実」の問題のみならず、人間が生きる意味や社会のあるべき姿といった「価値」の問題も研究対象としており、このような意味で、技術的な「知識」の獲得に加え、人間性や道徳も含めた「英知」の創造という役割がある。
2.文化や価値の継承
- 人文学や社会科学には、研究活動を通じて、人類が創出してきた「文学」や「歴史」などの文化や、「自由」や「民主主義」などの価値を時代を超えて継承していくという役割がある。
3.社会における批判的役割
- 人文学や社会科学には、地球環境問題や貧困問題などのグローバルな課題や、少子・高齢化問題など我が国が直面する課題などについて、大所高所から必要な批判を行い、社会をよりよくするという役割がある。
4.教育への貢献
- 人文学や社会科学には、人間や社会のあり方に関する見識や判断力を育成するという観点から、次代を担う人間を育成するという役割がある。
2.人文学及び社会科学の特性
(1)人文学の特性
- 人文学は人間を研究対象とする学問である。したがって、哲学や思想といった価値の問題それ自体が研究対象となり、一つの価値基準の下で研究を進めることのできる自然科学とは性質を異にしている。
(2)社会科学の特性
- 社会科学は社会現象を研究対象とする学問である。自然現象を研究対象とする自然科学とは異なり、社会現象を構成する人や集団の意図や思想を取り扱うことが不可欠であり、複雑な問題を取り扱っている。
ただし、人の(外形的な)行動を測定するなど、自然科学的な研究手法をベースにできる部分も大きい。
(3)研究方法の観点からの学問的特性
- 人文学及び社会科学は、自然科学のように客観的な証拠に基づき「真実」を明らかにするのではなく、説得的な論拠により「真実らしさ」を明らかにすることを目指すものである。一見科学的に見える方法でも、どれだけ多くの人が真実らしいと考えられるかという人々の主観に依拠していると言ってよい。
- 人々の主観に依拠し、研究方法の精密度に限界があるため、現実の人間の在り方や社会現象についての理解には不十分であることが多く、研究者の多くが、現実の解釈や現実への理論の適用という「結論」の段階で、一定の飛躍(「ジャンプ」)をすることは避けられない。
- 以上を踏まえ、研究方法の観点から人文学及び社会科学の特性を考えると、言葉による意味づけや解釈という研究者の見識や価値判断を前提とした伝統的な方法と、人間の行動や社会現象などの外形的、客観的な測定を行う科学的な方法とが併存することになる。
- 伝統的な学問観によれば、人文学及び社会科学の学問としての特性は、
- (数学ではなく)自然言語により記述する学問であること
- (外形的、客観的な事実を明らかにするのみならず)解釈を通じた意味づけの学問であること
- (研究対象に再現可能性がないという意味で)非実験系の学問であることの3点にある。
- 伝統的な学問観の一方で、人文学及び社会科学においても、自然科学類似の研究方法を活用すべきであるという考え方がある。この観点からは、
- 数理的研究手法
- 実験的手法
- フィールド研究
等の科学的なアプローチに基づいてなされるものとされる。
3.人文学及び社会科学の振興方策について
- 現在、自然科学分野の研究については、以下のような研究振興施策全体の体系の中で、支援及び推進を行っている。そこで、人文学及び社会科学の振興に当たってどのような方策をとっていくのか。
【参考】
(1)学術研究支援施策
- 科学研究費補助金(教員個人への研究資金助成)
- 教育研究一体型競争的資金(大学等の組織への資金助成)
グローバルCOEプログラム
「魅力ある大学院教育」イニシアティブ
現代的教育ニーズ取組支援プログラム 等
- 国立大学運営費交付金、私学助成を通じた教育研究組織の整備支援
(2)政策目的の達成に向けた研究開発推進施策
- 研究課題等を定め、公募、採択方式で実施する各種研究プロジェクト
新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
分子イメージング研究プログラム
橋渡し研究支援プログラム 等
- 科学技術振興機構による政策目的型研究推進のための事業
戦略的創造研究推進事業 等
- 研究開発型独立行政法人による研究開発の推進
理化学研究所、物質材料研究機構、放射線医学総合研究所 等
- 文部科学省以外の各省の政策に基づく政策的資金等
厚生科学研究費等
自然科学と同様の研究手法による人文学及び社会科学の振興の考え方
- 自然科学と同様の研究手法によらない人文学及び社会科学分野の研究については、今後とも継続的に研究のあり方を検討する
- 自然科学と同様の研究方法による人文学及び社会科学分野の研究については、自然科学分野における研究に対する研究政策をそのまま適用する
- 上記1.2の融合した分野の研究や、自然科学にまたがる分野の研究については、2と同様とする。
政策や社会の要請に応える研究の振興
- これまで、我が国の人文学及び社会科学の振興方策は、研究者の自由な発想に基づき行われている大学等における学術研究を主に対象としてきた。しかし、地球環境問題や貧困問題などのグローバルな課題や、少子・高齢化問題など我が国が直面する課題など、人文学や社会科学に対する政策や社会の要請は、今後ますます高まることが予想される。このため、学術研究に加え、「政策や社会の要請に応える研究」の振興を図ることが重要である。
また、「政策や社会の要請に応える研究」においては、従来からの人文学的な研究手法も重要であるが、一方ではより自然科学と同様の研究手法を援用することも考えられる。
国公私を通じた共同研究等の振興
- 人文学や社会科学の研究者は、国立大学のみならず、私立大学等に数多く在籍しているが、少数の研究者が多数の大学に散在しており、共同研究の実施などに課題がある。
このため、国立大学、公立大学及び私立大学等を通じた研究のネットワークを構築し、共同研究の推進や共同研究拠点の整備を図ることにより、我が国の人文学及び社会科学の発展の契機とすることが必要である。
- 研究ネットワークの構築に当たっては、調査データや資料等の集積がある大学や、規模は小さくとも特色ある研究が実施されている大学等をハブ機関とし、当該研究の拠点を育成していくという視点が重要である。
科学研究費補助金における人文学及び社会科学研究の支援のあり方
- 人文学や社会科学の振興のためには、科学研究費補助金のうち研究費の規模が比較的小さな研究を対象とした研究種目を充実することが必要である。
研究成果の海外発信
- 我が国の学術研究の優れた成果を世界で利用可能なものとすることが重要である。日本語で書かれた研究成果の中で質の高いものを大量に翻訳して、出版するといった取組が必要であり、そのための組織整備や人材育成が今後重要となる。