学術研究推進部会 人文学及び社会科学の振興に関する委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成19年7月6日(金曜日) 13時~15時

2.場所

尚友会館8階 1、2号室

3.出席者

委員

 伊井主査、立本主査代理、井上孝美委員、白井委員、中西委員、西山委員、家委員、井上明久委員、石澤委員、伊丹委員、猪口委員、今田委員、岩崎委員、小林委員、谷岡委員、藤崎委員

文部科学省

 徳永研究振興局長、吉川科学技術・学術総括官、伊藤振興企画課長、戸渡政策課長、江崎企画官、門岡学術企画室長、高橋人文社会専門官 他関係官

4.議事録

【伊井主査】
 それでは、ただいまから人文学及び社会科学の振興に関する委員会を開催することにいたします。
 まず、本日の傍聴登録状況につきまして、ご報告お願いいたします。

【高橋人文社会専門官】
 本日の傍聴登録状況でございますが、傍聴希望の方が10名いらっしゃいます。
 以上です。

【伊井主査】
 ありがとうございます。
 それでは、これから議事に入ることにいたします。
 毎回申し上げて恐縮ですが、初めに、審議事項全体の中での本日の位置づけを確認して進めていきたいと思っております。その前に資料のご確認をお願いします。

【高橋人文社会専門官】
 資料につきましては、お手元の配付資料一覧のとおりでございます。欠落等ございましたら、お知らせいただければと思います。配付資料一覧は議事次第の2枚目についております。
 なお、本日、追加の資料として、封筒に入ったものとは別に、2つの資料が置いてありまして、平成19年度科学研究費補助金 系・分野・分科・細目表、それからもう1つ、専門職大学院設置基準につきまして、配付資料とは別に机上に配付させていただいております。こちらの資料につきましては、本日、意見交換の際に、科研費の分類の仕方でありますとか、あるいは、前回、伊丹委員のご発表がありました専門職大学院の研究機能のお話がございましたので、そういったことも踏まえ、参考になる資料ということで用意させていただいたところでございます。
 それから、毎回のことでございますけれども、基礎資料につきまして、ドッジファイルで机上に用意させていただきましたので、適宜ごらんいただければと思います。
 以上でございます。

【伊井主査】
 どうも失礼いたしました。資料につきましては、よろしゅうございましょうか。
 それでは、先ほど申し上げておりましたことですが、本日の委員会の位置づけを申し上げることにいたしますが、毎回申し上げておりますように、3つの審議事項をここでは諮っているわけでございます。1つ目は、「人文学及び社会科学の学問的特性について」でございます。自然科学との違いを留意しながら、研究内容とか研究手法の面から、人文学及び社会科学の学問的な特性とはどういうものであるかというふうなことをご審議いただいているところでございます。
 2つ目につきましては、「人文学及び社会科学の社会との関係について」でございまして、ここでは、人文学及び社会科学の社会的意義だとか、研究成果の社会的な還元のあり方というようなことをご審議いただいているところでございます。
 3つ目でありますけれども、「学問的特性と社会との関係を踏まえた人文学及び社会科学の振興方策について」という、かなり具体的なことでございます。
 そういうふうな人文学及び社会科学の学問的特性とか、社会的な意義につきまして、各委員の専門の観点から、これまでプレゼンテーションを進めてまいりました。第1回目は、人文・社会科学の全体的なことでありますとか、猪口委員からは、社会科学の意義というようなことにつきましてご提言をさまざまいただいたところでございますが、2回目以降は、研究内容とか研究手法などの面から見ました人文学及び社会科学の学問的な特性ということ。あるいは、社会的な意義。さらに、3つ目の支援方策といった観点から、各委員のご意見、専門分野に特化した形でご発表いただいているところでございます。これまで、立本委員、今田委員、そして前回は伊丹委員からご発表いただいたところでございます。
 お手元にも資料があると思いますが、5回目の本日は、岩崎委員から「心理学の特性と課題」、文理融合の関係だろうと思いますけれども、このプレゼンテーションを30分ばかりしていただきまして、その後、ご出席の委員からご意見、あるいはご質問をいただければと思っているわけでございます。
 なお、本日は、もう1つ議題がございますものですから、そして、できるだけご参加の皆様方のご意見を賜りたく思っておりますので、要点をまとめてご質問、ご意見等を賜ればと思っております。
 それでは、まず、プレゼンテーションをお願いいたします。よろしくお願いいたします。

【岩崎委員】
 それでは、資料1をごらんいただきたいと思いますが、「心理学の特性と課題」、これは心理学というものが世間一般で言われているものと実態は少し違うということをちょっとお話ししたいということと、課題を幾つか抱えていますので、そういったことについてお話ししたいと思います。
 私、現在、いわゆる新興大学といいますか、大学に勤めておりますけれども、3年前までは国立大学におりまして、国立大学と私立大学の違いというものを若干体験しております。
 そんなこともありますが、まず、心理学というのはどういうものかお話ししたいと思います。1番の心理学の特性ということですが、もともと心理学は、ご承知のように、哲学から誕生しておりまして、約120~130年前に誕生して、心理学という分野ができたわけです。これは、広い意味では実験心理学というものが誕生したと。哲学の思索から、それを実証的に確かめていくという自然科学的な方法をとっていこうということから、心理学という学問分野が生まれたということでございます。
 したがって、哲学に近いということもあったと思いますが、多くの心理学科は文学部に所属しております。ただ、現実には、日本においては、大きな大学等では教育学部の教育心理学科という形が多いと思いますけれども、そこに存在していることも事実であります。
 しかし、2番目に、生物学的観点の導入ということですけれども、哲学から独立しまして、独立したときが生理学的なものの考え方、それから、その後、これは当時のアメリカの時代風景があったと思いますが、進化論的なものの考え方で、人間も動物の一つであるという考え方ですね。そういうことを踏まえて、生物学的観点の導入と表現したんですけれども、したがって、アメリカなどでは、心理学が生物学の一つという考え方があろうかと思いますけれども、いわゆる理学部に心理学がある大学も結構ございます。
 生物学的観点といいますのは、要するに、人間特有の部分というのは実際たくさんございますけれども、まず、生物としての人間ということで、したがって、人間の原型というのは、ほかの哺乳動物にもあるという考え方で、動物を使いまして基本的な研究を行ってきたというのが、大体、心理学の歴史が始まって現在にまで至っているわけです。
 ただ、動物も生き物ですから、無生物を扱うわけではございませんので、生き物を扱うということは、そこに生きるという観点、つまり、動物を含め、人間は環境への働きかけを行う。その働きかけに関してどういうふうな存在があるかということを実際に研究してきたということが言えると思います。
 それから、心理学においては、基本的にデータをとるということから、実証主義といいますが、実証していくことを重視してきております。ただ、実証するといっても、そこには観点といいますか、多くの場合、仮説と言いますけれども、その仮説を立てて、それに従ってデータを収集して、それを分析して、その仮説の検証を行うというやり方で、そこには基本的にいろいろな要因がございますので、統計手法の重視というのが心理学の一つの特徴になっております。実際には、検定に使うとか、あるいは多変量解析を行うとかいった意味で、一つの大きな心理学の方法として統計的な手法が入れられているというのが特徴かと思います。
 2番目の心理学の研究対象と分野ですが、これは今申しましたように、歴史的には、主として個人と書いてありますけれども、動物となると個体と言いますけれども、個体の心理現象。実際には、心理現象といっても観察できない部分がございますので、主に行動を観察対象として、その行動のあり方と変わり方、変容過程と申しておりますけれども、変容過程がどういうふうになっているのかを研究しておりまして、ここでは、いわゆる価値観というものは入っておりませんので、できるだけ自然科学的な考え方でいこうということで、Seinとしていう言い方をしておりますが、価値中立性を保とうということでございます。
 これは具体的にどんな分野があるかと申しますと、基礎系心理学の括弧の中にございますけれども、感覚や知覚、我々がどういうふうに外界をとらえるのか、認知とか記憶ということも似た部分ございますが、我々が取り入れた情報をどのように保持しているのか、それから、それを含めて行動がどのように変わっていくのか、これは学習ということですが、それから、人間を含めた発達、それからパーソナリティーとか、社会というものが基礎系の心理学と言えると思います。すべてこれに心理学がくっつけばそういう分野になるんですけれども、社会心理学というのも重要な部分ですが、この場合、社会がメーンの対象ではなくて、社会における個人がどういう心理的な規制を持っているのかという、そういった観点が主でございます。
 もう1つ、2)ですが、これは望ましい心理状態とか、望ましい行動への誘導と書いてありますけれども、導きと、その方法の開発。これは結局、人間社会を営む中で、よりよい適応をしていくにはどうしたらいいか。不適応状態等があった場合に、どういうふうにそれをやっていけばいいかということですね。これは最近の一つの大きな流れとして出てきております。これを、表現としては、価値観が入っておりますので、Sollenとしてと表現しております。
 実際にはいろいろな分野がありまして、先ほどちょっと申しましたけれども、応用系心理学としては、教育心理学、これも実際には、もともとは子どもを教育するときにどういうふうな子どもの心的規制に働きかけて教育していけばいいか、例えば、どういう教材を開発するほうが理解しやすいかとか、しかし、最近では、学校現場では不登校とか、いじめとか、発達障害とか、いろいろな問題がございますので、そういったことも最近では対象にしていると思います。
 それが、1つ飛んで臨床という場面でも、はっきり言って、現代の神経科、精神科のお医者さんは、非常に薬に依存しておりますので、薬だけではいろいろな精神病理が完全に治癒できませんので、そこに心理療法といった形で、心理学の応用部分として心理学者が入っていると。そこがまた現代的な大きな心理学の分野になっているというふうにも言えると思います。いわゆる、コ・メディカルな分野と言えるわけです。実際には、これは1990年ぐらいから非常に盛んになってきた。それまでももちろん、ある程度はありましたけれども、ここ20年ぐらいの流れでございます。
 産業のほうは、簡単に言えば、それまでは製品というのは使えるかどうかが主だったと思いますけれども、いわゆる使えるだけではなくて、使いやすいものとか、あるいは、航空機の計器とか、あるいは原子力のミスとか、そういう計器上の配置がどうなっていれば人間はより早く事態を認知できるかという、そういった分野として心理学が応用されていると言えるかと思います。
 健康というのは、これこそまさにSollenといいますか、社会の価値観として健康状態というものがあるわけですから、こういった分野を研究対象にしているということもございます。
 ちょっと書いたんですけれども、20世紀は基礎系心理学が中心であったわけで、もう一度繰り返しますけれども、これは基本的には自然科学的なものの考え方で、価値観を排除して、人間の心理現象、あるいは人間の行動というのはどういうものかを動物との進化論的なものの考え方の中で研究してきたわけですが、今世紀に入って、いわゆる心の時代と言われることもございますけれども、応用系の心理学の需要が非常に増えております。
 ただ、その場合、基本的な行動原理といいますか、そういったものが、ともすると、いわゆる技術というものが中心になりまして、いわゆる基礎的なものの考え方、あるいは知識が十分でなくて、応用系に非常に特化しているような人たちが増えていることも事実であります。
 2枚目に行きまして、心理学の研究方法ですけれども、今までちょっとお話ししましたけれども、基本的にはいろいろなものを観察する、人間の行動について観察するということがありまして、これだけですと、記述をして、そういったことかという了解で終わるわけですけれども、ここから先ほど申しましたいろいろな仮説が生まれてくるわけでございます。そして、人間を対象にする場合には、どうしても、いわゆるアンケート、質問紙調査を多く行いまして、その場合にはいろいろな件数がたくさんございますので、変数をなるべく絞るということ、それから、その変数間の相関関係を同定するということで、できれば独立変数、要するに原因となる変数を推定できることが望ましいわけですので、そういった試みを行っております。
 ある程度、独立変数がわかってきた場合に、実験、これは質的というよりは量的研究になりますけれども、この独立変数を操作して実際の測定変数である従属変数がどう変わるかということで、変数関係の同定を行っていくわけであります。実際に心理学においては、一言で言えば、この原因である独立変数を探すことが大きな目的になっております。そういう意味で単純に言えば、人間の心理を対象にしなければ、ほかの研究もすべてそうなのかもしれません。最終的には、因果関係を実証して、法則に当たるものをつくっていこうという考え方でやっております。
 いうなれば、仮説をつくるということが非常に重要なわけで、これは実際には物理学でも同じようなことをやっていると思います。ただ、いわゆる科学の発達段階としてどこまで行っているかということを考えてみますと、全体的に言えば、できれば最後は科学としては独立変数をはかれば制御できるわけですが、完全に制御というところまで至っているとは言えない、まだまだ説明の段階というのが現状であると思われます。
 心理学の課題と対応策と書きましたけれども、課題なんですが、これは最近の課題としては、いわゆる大学を主に書いておりますけれども、大学における心理系の学部とか学科というのは、ここのところ人気があるわけです。ただ、その人気の対象が、いわゆるカウンセリング、実は私も心理カウンセリング学科というところにおりますが、昔はカウンセリングというのは学科にならなかったわけですけれども、最近は心理学科と名乗っていても、実際にはほとんどがカウンセリングなり、臨床心理学なりということが中心となった中身になっておりまして、ちょっとこれはあまりいい表現じゃなくて誤解を招くとまずいんですけれども、それに伴う教員の劣化と書いて‐‐劣化というのはちょっとまずいんですが、要するに、一時、心理学系の学科が新しい大学を含めてたくさんできたわけです。これは主として、今申しましたようにカウンセリングという分野に人々の関心が集まったことから、いまだにある程度の応募者というのは確保できているわけですが、最近はこれでほとんど打ちどめになりつつありますけれども、そういうことから、いわゆる現場で心理学の基本的なことをあまりやってこなかった人たちも多く教員になっておりますので、一つ大きな問題にもなっております。
 それはどういうことかと言いますと、これはどこの分野でも、医学の分野でもそうだと思いますけれども、確かに臨床的な研究というのは非常に重要だとは思いますが、しかし、問題は、仮に個々のクライアントがいても、いろいろな問題を抱えているわけで、だれ一人として同じ問題でないわけです。これに適切に対応していくことを考えますと、やはり心理学的な基本的なことをある程度把握していませんと、新しい問題に対応できないということがしばしば起こるわけでございます。そういった点で、若干、問題といえば問題が起こっているというわけでございます。
 それから、大学院なんですけれども、実際、大学院も、やはりその流れの中で、どうしても臨床系といいますか、応用系の分野が中心になりつつあります。マスとしてそういう形になっております。それはそれで重要で、まあ、いいんですけれども、そのかわりとして基礎系がどんどん縮小されていっているのも実態であります。これは、広く見て、学問分野がそういうふうになりつつあるのと、心理学の中でも同じことが起こっているとも言えるかと思います。
 それから、大学院を修了しても、それを受け入れてくれる、要するに常勤職があまりないのが実態でありまして、文科省のスクールカウンセラー制度というのは、それ相応にカウンセラーの職場が増えたという点では非常にいい面があったわけですが、実態として、非常勤でございますので、なかなかきちっとそういった受入先とはまだなっていないということが問題かと思います。
 対応策ですが、これはなかなか議論のあるところだと思いますけれども、私はやっぱり、アメリカがすべていいとは思いませんけれども、いわゆる研究大学と、それから職能を含めた教育大学はある程度分離して役割分担していくという、種別化という話があったと思いますけれども、そういったことをある程度推進していきませんと、日本の国から発信する研究成果が先細りになる危険性はあるんじゃないかと危惧しております。
 ただ、そうは言いましても、ちょっと飛びますが、3番目のCOEとか、その他、これまで心理学の他分野との関係も含めて、心理学は結構、京大の霊長研にもいろいろ研究者はおりますし、それから理化学研究所にもおりますし、それから、今は経済産業省になっていますけれども、産業技術総合研究所にも心理学出身者の研究者がおりますし、あと、最近では、放射線医学研究所等にもおりますし、こういった形で他分野に入っていって研究していくというのを見ますと、心理学を文系と見れば、文理融合型の実際の研究ということが行われているというわけでございますので、こういった共同利用研究拠点というのをどう考えるかにもよりますけれども、こういった他分野との共同研究ができる研究所の数がもうちょっとあってもいいかなというふうに思うわけでございます。
 それから、2番目に戻りますけれども、職能教育大学の場合には、一つの考え方としては、6年制化して、いわゆる職能、特に心理学の場合には精神神経科を含めて、医学との関係もありますので、そういった教育をするためにはきちっと大学院だけでカウンセラーを養成するのではなくて、きちっと6年制化を図っていく必要があるかなと思っています。これも薬学の6年制化の経緯を少し見なければ、すべていいかどうかというのは非常に難しいところではありますけれども、ある程度、そういう方向性はあるかと思っています。
 それから、職能資格というのは、実は心理学にきちっとしたものがありませんで、今、構想されておりますのは、医療心理士とか、臨床心理士を含めて‐‐今の臨床心理士というのは、文科省認可の法人が実際に資格認定をしておりますけれども、看護師とか、その他の国資格と同様な国資格になるということも、心理学の中では大きなテーマであります。そのことによって、コ・メディカルのスタッフとしての確立ができるだろうということで、現在、種々検討しているところです。
 それから、もう一つは、仮称ですけれども、心理技術士という、産業界にもう少し明確な形で参加するためには、心理技術、これからの製品というのは、先ほど申しましたように、製品自体の品質がよくなるということは、ある程度マキシマムが来ておりますので、やはり人に使いやすいとか、人を考えた上での製品開発が進んでおりますので、そういった意味で心理技術士というのが必要になってくると判断しておりまして、現在、そういった検討を進めております。
 ただ、基本的には、私は社会に役立つ学問というのももちろん必要なんですけれども、それ以前に、まず、教養あるといいますか、これはいろいろ異議があると思いますけれども、あるいは、センスのある市民を育成する学問というものはきちんと残しておく、あるいは確立させておくことは必要なのではないかと。このことは、結局、人文系なり何なりの日本の国としての確保ということになっていくのではないかと思っております。
 簡単ですが、以上でございます。

【伊井主査】
 ありがとうございました。心理学という分野における発生から問題点に至るまで、さまざまな観点からご発表いただいたわけでございますけれども、とりわけ心理学の研究対象で応用系心理学というものが今日的な意義を持っているということだとか、心理学の研究方法としての仮説の重要性、あるいは、それに基づきました、最後加えていただきました心理学の課題と対応策ということでございますけれども、結果としましては、教養ある学問といいましょうか、そういうものが必要であるということもおっしゃってくださったと思います。
 先ほども申し上げましたように、できるだけ多くの方々にご意見、ご質問をいただければと思っておりますので、どうぞ、活発にご意見とともに、簡潔にご発言いただければと思います。どうぞ、どなたからでも結構でございますけれども、よろしくお願いいたします。

【今田委員】
 どうもありがとうございました。社会学の今田ですが、心理学と社会学は近いところもあるので、随分参考にさせていただきました。
 最近気にしているというか、気になっているのが、社会学でも、臨床社会学というのが言われるようになって、要するに、スティグマで傷ついた人とか、それから、偏見を植えつけられた人とか、アイデンティティーの危機に陥った人たちにどういうふうに対処していけばよいのかという、人助けみたいな側面、臨床医学とパラレルな感じで。臨床心理学のこともおっしゃいましたけれども、社会がこれだけ高度化してきて、心の病を持つ人が多いわけですから、心療内科ってあるんですけれども、あれも実はお医者さんがやっているのか、心理学のカウンセラーがやっているのかよく知らないんですけれども、ものすごい需要が多くて、 1カ月以上先でないと予約がとれないぐらい大変だと。その臨床ということが、社会科学、人文科学でもとっても重要になってきている。それは、単に社会に役立つというよりは、やむにやまれぬ人を助けるための学問として、やはり存在意義があるんじゃないか。もちろん、基礎医学、基礎社会学、基礎心理学もあって、それは学術研究に専念していけばいいと思うんですが、基礎と臨床というこのペアをどうにかうまくバランスよく発達させる、特に人文・社会科学のほうは臨床のほうをどういうふうにしていくかというのは大きな課題だと思うんですけれども、心理学ではどうなんですか。そういうのは、もうマイナーな感じなんでしょうか。

【岩崎委員】
 おっしゃるとおりだと思いますけれども、私は、確かに現実に病気の場合も、病気になったらそれを治療することが医学の最大の目的だし使命だと思うんですが、やはり大事なことは、どうして現代において心の病とされるものがこれだけ増え続けている、非常に増えているのか。それは、きょう資料をぱらぱらっと見てみましたら、後のほうでおそらく議論すると思いますけれども、これは広い意味で教育という‐‐何も学校教育だけではなくて、家庭内教育も含めて、非常に大きな問題があるのではないかと。簡単に言うと、それは社会的な規範が緩み過ぎているというのが大きな問題だと。私、全然右翼ではないんですけれども、やはりそこに成熟社会の弱さというのが露呈されているので、それを予防するためには、私は逆に規範意識というものを、親も含めてどうやって植えつけるといいますか、復活させていくかということが大きなテーマだと思っております。もちろん、問題を抱えた場合に、それに対処することはそれはそれで非常に重要ですけれども、やはり、マスとして考えれば、その原因を探ることのほうも非常に重要なんじゃないかと考えております。

【伊井主査】
 ありがとうございます。私もちょっと1つ岩崎先生にお聞きしたいんですが、私、素人でわからないんですが、臨床医学というのと、臨床哲学も同じように看護だとか、終末医療だとかということをやっているんですけれども、そこらとはどういうふうに重なって、違いがあるんでしょうか。

【岩崎委員】
 臨床医学……。

【伊井主査】
 臨床哲学。

【岩崎委員】
 臨床哲学ですか。やっぱり、それは簡単に言えば応用だと思いますので、哲学のことはわかりませんが、倫理学的なものが多いと思うんです、医療倫理とかですね。これは哲学の中でも、やはり価値観なくして存在しないと思いますので、そういう意味では応用ですので、これは心理学にも非常にかかわっているといいますか、重なっていると言えるかと思います。

【伊井主査】
 どうも申しわけございません。
 どうぞほかに、関連することでもほかのことでも、どうぞ。

【猪口委員】
 ありがとうございます。政治学の猪口です。岩崎委員の発表されたこと、同感できることが多いんですけれども、ただ、あまり基礎心理学からみると、学問の分野自体の人口動向がもう圧倒的にそうじゃないほうに移動しているんですね。ニール・スメルサーとポール・バルテスがやった、全26巻の『international encyclopedia of the social and behavioral sciences』なんかを見て、何千人も動員されているんですけれども、それはここで言う人文系と社会科学系のほとんどの分野を網羅して、プラス医学がかなりいっぱい入っている、領域を扱っているんですけれども、心理学系を見ると、やっぱり岩崎先生の言うような心理学の人もかなりいるけれども、生命科学とか、医学とか、神経科学とかというのがものすごく多いですし、それから、それに劣らず多いのがメジャメントですね、どういうふうに分析するかとか、はかるかというところの統計的な手法なんかについてもものすごく項目が多いので、ちょっと、これは別に心理学に注文するわけじゃなくて、日本の大学教育の重点の当て方として、心理学が過度に抑圧されてきているんじゃないかという気がしているんです。
 結局、大きな大学を見ると、心理学科というのは、いやにちっちゃかちっちゃかしているんですね。何かいじけた感じの小さい感じになっていて。それで、いろいろな学部にニール・スメルサーその他が編集してカバーしている分野の人がいるんだけれども、日本の特徴なのかよくわかりませんが、あまり交流もなさそうで、医学部とか、薬学部とか、理学部とか、農学部なんかとも関連ある部分があるんだけれども、心理学はもともと兵隊の数が極端に少ないので、今言ったような医学部、理学部、農学部、薬学部、その他教育学部なんかと比べても圧倒的に小さくて、やっぱり我々は純粋だ、基礎をやっているというので頑張るしかないのかなと。僕は文科省でも何でもないんですが、ほんとに聞いていて申しわけない感じがして、何とかならないかなと私は思いました。
 そうじゃないと、アメリカでも、イギリスでも、ともかく心理学はものすごく大きいんですよ。学会の数も会員の数もものすごく多い。百科事典を見ても、ものすごいきれいに、ある程度しっかりした体系で、中の交流も日本なんかよりはずっとしっかりしているので、ほかの人文系、あるいは社会科学系のいろいろなディシプリンにも影響度が高いんですね。日本は何か縮こまっているみたいな‐‐私の偏見かもしれないですけれどもね。
 僕自身も、いろいろな意味で興味を持っているんですが、一番よく学べるのは、結局応用系の心理で、医学とか、教育とか、ほかのところの心理系の人が政治学なんかでは非常に交流があるし、役立っていると言ったら申しわけないんですが、こっちが学んでいるという感じがしているんですね。何とか僕は、文学部に所属するという、もうどうしようもない、早く解放されたらいいんじゃないかなといつも思っているので、そういうときに、あまり臨床系のほうの拡大がよくないというんじゃなくて、何かそれをきっかけに再編成というか、学問体系が変わるようなふうに行ったらいいのかなと勝手に思っている次第であります。
 それから、対応策のこれですけれども、やっぱり分離するのが正しいと思いますよ。研究大学と職能教育大学、これはほんとうに研究大学は小さくてもいいけれども、ある一種の基準を持ってつくらないとどうしようもない。職能教育大学は、これは市場の需要とか、社会の需要とかに従って頑張っていけばいいんですけれども、研究大学はもうちょっと学問水準を高めることに、まず、プライオリティーを置かないとだめなので、ちょっとあまり役立つばっかり言っていると、ほんとうの基礎研究がだめになるというか、弱くなる、劣化する、そういう可能性があるので、この点については非常に賛成です。
 それから、3番目のCOE等、研究拠点の創出ですけれども、これはちょっと難しいのがあるんですね。政治学とか心理学というのはちっちゃかちっちゃかしているんですよ。どこかのでっかいところにくっついた付録みたいになっている場合が多い。それで、いじけた心を持っている人が多いから、研究拠点をつくるとき、でっかくしようと思って、あまりディシプリンとしても関係ない人もぐちゃっと入れて、何をやっているかといったら、やっぱり話が進まないものだから、まず、しゃべることが肝心、討論が肝心で、立本先生の説明されるように、まずごはんをしょっちゅう食べないと、話が動かないんですよね。それはわかるんですが、ただ、そういう感じの拠点をつくろうといったって、話が時間がかかり過ぎるから、やっぱり学部というぐらいのばかでっかい組織を全部廃止して、教授だけ10人、20人で気が合う人、ディシプリンでどーんとやれる人を拠点とするような学科単位ぐらいのことを考えないと、21世紀の学問の進化というか、展開にほとんど対応できないで、ごはん食べて毎日頑張るのもいいんですけれども、まず、非常にディスカッションがもたもたしている。概念的なソフィスティケーションにも大して行かないうちに何かやるかということになって、研究会だ、フィールドワークだということになって、いいと言えばいいんですけれどもね、なかなかそうでない分野でも、そういうわけにもいかないのは政治学なんかでもそうで、何とかCOEというのはセンター・オブ・エクセレンスというなら、外国からポストドックが百万と来るぐらいのところかと思うと、そうでもないみたいな感じになっているので、僕はやっぱり、この学部、学科単位の再編成を真剣に考えるところと一緒にやらないと、何かそこらにある同じ大学とか近くの大学でぐちゃっとくっつけて、何かやれやみたいな感じ以上のものをやらないと、センター・オブ・エクセレンスっていう名前が泣いちゃうと思います。
 失礼いたしました。

【伊井主査】
 ありがとうございました。今、3つの問題点を挙げてくださいましたが、心理学の他の分野との関係を含めての、心理学というものの学問のあり方とか、大きくどういうふうにしていくかということと、そして、2つ目が、これは非常に大きな問題だと思いますけれども、研究大学と職能大学ということでございますけれども、2つに分けて方向であるということ。3つ目が、今、グローバルCOEもできておりますけれども、拠点という意味、それぞれの学問における拠点をどうするかというあり方ということで、3つの点をお問いかけになったわけでございますけれども、岩崎委員、何かお答えできるところがございましたら、よろしゅうございましょうか。

【岩崎委員】
 心理学はいじけているというお話も確かに‐‐いやいや、まさにほんとうにそういう部分があると思います。私、心理学をやっているからと言いますか、私自身は今日はそういう自己PRはしませんでしたけれども、基礎医学的な、生理学的な研究、脳の研究をしてきているので、あまり心理学の本流ではないんですけれども、いじけているというのは、これは心理学側にも責任があるわけで、人間というものを視野に入れますと、すべてにかかわってくる分野で、しかも、はっきり言えば、我々は心はなくして何もできないわけですから、そういう意味ではすべてにかかわっているものでありながら、やはりそこは、おそらく欧米との違いは、民度として、心というよりは物を大切にしてきたという経緯もあるのではないかなと、そういうことも一つあるのではないかなと思っております。
 ここへ来て、要は問題として心の問題はいろいろ取り上げられてきているので、それだったら、もっと始めからまともな心を取り上げるというのは変な言い方ですけれども、そういう文化であったら少しは違ったのかなと思いますけれども、それは言ってもせんないことですが、その辺が少なくとも欧米とは違うところかと私も思っております。

【伊井主査】
 どうぞ、小林委員。

【小林委員】
 私、皆さん何系、何系、社会学とか言っておりますけれども、私は学校経営系ということでお話しさせていただきますけれども、私どもも医療系と心理系の学部とか学科とかがあるんですけれども、心療内科というのは、大体、精神科のお医者さんですね。それで臨床心理士であって、クリニックもあって、臨床心理相談室もあるんですけれども、精神科と臨床心理士の決定的な違いは、やっぱり精神科とか心療内科のほうは薬が出せるところが決定的に違うわけで、やっぱり薬でないとだめなところもいっぱいあって、特に躁うつなんていうのは、どうしたって薬を飲まないと自殺したりすることも起こりますので。ところが、臨床心理士はそれは出せないというところがあって、だけれども、そこの境目をどうつなげていくかというのが一番大事じゃないかなと思うんです。薬がいらない人は臨床心理士がどのぐらい、どういうふうにやっていって、薬がいる部分のところへどうつないでいくのか、そのつなぎの部分をどういうふうにしていくかが一番大事なものですから。
 ところが、私、話を聞いていますと、臨床心理学会と精神科の学会というのは水と油みたいな、全然相いれないというようなことなんですけれども、そこはほんとうは相いれなくちゃいけない、一緒になってやらなくちゃいけない。医者の支配のもとにおける医療心理士ですか、何かそんなようなのはやっぱりいかんと思うんです。だから、その両方が並び立つような形のものをやっていくというのが、これは学術振興の上でも、共同研究では最も大事なところじゃないかなということを思いましたので、ひとつ発言させていただきました。
 それと、もう一つは、私どもも私学ですから、大学院でこの心理系だけはものすごく集まるんですけれども、ほとんど基礎のものは来ません。ですから、対応策であります研究大学と職能教育大学は分離するというのは、もう絶対必要じゃないかなと、そんなふうに思います。

【伊井主査】
 ありがとうございます。
 今の研究大学と職能大学だとか、COEの拠点とかいうのは、吉川さん、何かご発言ありますでしょうか。国として何かお考えになるようなことは。

【吉川科学技術・学術総括官】
 私、高等局じゃないものですから、大学の機能分離ということについては、はっきりしたことを申し上げる立場にないと思うんですけれども、研究面から見て、こういう分離というものを考えていかないと、学問自体が成り立たなくなってきているという、あるいは発展を阻害しているというご指摘はよくわかります。
 それから、拠点についても、どういう形での拠点をつくるのかというのは、やはり教育組織をベースにしたそういうものであれば、今の高等局の持っているプログラムに乗っていくということは考えられると思います。
 ただ、ほんとうの意味で、先ほど猪口先生がおっしゃったように、海外からものすごくどんどん来るかというようなことになると、今のプログラムでそこまで考えているかというと、それはちょっと届かないような気はいたしますが、そんなところでございます。

【伊井主査】
 ありがとうございます。どうぞ。

【伊丹委員】
 今のご報告をお伺いしていて、基礎系の研究というものについて、ある一定の、ちょっと言葉は悪いですけれども、バウンズがあるんじゃないかという気がいたしました。現代社会の人間が抱えているさまざまな深い心理的問題についての基礎的考察をきちんと行うという意味での基礎系の研究と、自然科学系の方法論にのっとって、脳の整理とかいうこととなるべく結びつけて研究しようとする意味での基礎系の心理学の研究と、何か2通り、ごく素人が考えてもありそうな気がするんですけれども、どうも後者の自然科学系に近寄るタイプの話が多過ぎるんじゃないのかと。私、学振のポスドクやPFやさまざまなドクターの学生の審査員をやったときに、人文・社会系でひとまとまりであると心理学が入ってくるんですが、彼らだけやっぱり異質でしたね。何か、脳の神経の動きが何ミリセカンドで何とかというタイプの研究がものすごくたくさん出てくるんですよ。ですので、私はそういう研究がまずいと言うつもりは全くございませんが、現代社会が抱えている多くの心理的な問題をきちんとアカデミックに研究するという全体の体系というのを考えれば、私は職能大学と研究大学が分かれちゃうというのは、とってもぐあいが悪いように思います。職業大学の人は、一体何をベースに教えるんだと、何をディシプリンにして、そういう問題が出てきちゃうので、その辺の私にとっては偏りと見えるようなことを是正する大きな視野が必要じゃないかと思いました。

【伊井主査】
 今、基礎と臨床という問題で、まさに文と理と、文理融合というようなこともかかわってまいると思いますけれども、何かそのほかのことでもよろしいですけれども、ご質問‐‐どうぞ、中西先生。

【中西委員】
 私は、今、心理学の話を伺って、あまり自然科学と問題の差はないような気がしました。今、脳の研究とおっしゃったのですが、心理学というのは広い意味でのバイオサイエンスの一部ととらえて、それを強くアピールしていくべきではないかと思います。脳の研究というのは医学とか生理学の面から随分研究されていますが、やはりマクロにとらえれば心理学ではないかと思っています。現在あまりにも医学的な面が大きく出すぎていますけれど、ほんとうは心理学の一部であって、医学系で行われている脳の研究も、心理学系で行われている脳の研究も、境がないはずです。これらの研究を一番隔てているのは、やはり文理の壁だと思います。そう考えますと、心理学の問題は、文理を融合させる突破口になるのではないかと思われます。脳研究はすべて心理学としてとらえ直して、医学系もその中に入れていくような、そんなスタンスが必要なのではないかと思います。

【伊井主査】
 ありがとうございます。どうぞ、井上委員。

【井上(明)委員】
 私、少しおくれて来ましたが、心理学は、文学に所属すると思っていましたが、文部科学省の分科・細目において社会学に属している。このことは、心理学が学際的な文理融合的な側面があり、先の指摘にございましたが、一番最後の文章で、「社会に役立つ学問も必要である」と表されており、これはうらやましい事だと思います。基礎の心理学から、今度は社会に役立つ学問になってきているということを意味していますから、もう少しポジティブにとらえたほうがいいような、そういう印象でお聞きしておりました。
 それと、我々、工学分野に属していて、自動車会社の研究者と一緒に車の開発研究をやらせていただいていて、最終的にはデザイン、色調および音などの視点から、心理学の専門家が、ああ、この車はだめ、理由は心理学的にこうだという、このような人間活動の根幹をなす最終決断が、心理学を修めた人によって行われている。そういう感覚が今は非常に重要になっている。これはグローバル視点でもそのようになっていると思われます。教養ある、センスのある市民となり得る学生を育成し、しかも社会に役立つことができる心理学の充実さが、細かなことで欧米をしのぐよりも、全体的なトータルとしてキーになると思います。そういう役割を持つ非常に重要な学問と位置づけております。
 我々、少々良い金属を使用しても、最後は心理学者にそれはだめだと言われたら使用されない。愛される車作りに心理学は重要であると自動車会社も考えている。この点からも科研費において心理学が社会学分野にしていることを納得した次第です。従って、もう少し、この分野がエンカレッジされるような結論であったほうがよいように、私、分野外ですけれども、感じました。

【伊井主査】
 岩崎委員、どうぞ。

【岩崎委員】
 ありがとうございます。それは確かに、心理学のほうでもう少し社会に役立つという意味でのアピール努力が足りなかったことは、これは率直なところおっしゃるとおりです。ただ、現実、ほんとうにあちこちに心理学を修めた者が進出しているというか、職を得てやっていることは事実なんですが、まだまだ我々のほうの努力及び社会の心理学の有用性の認知がまだ少ないかなということで、最近は学会等でもいろいろとシンポジウム、講演等、学会の中だけではなくて、世の中に問うような形で始めつつありますので、そのような形では産業界にも貢献できていくのではないかと思っております。
 ただ、問題は、そういう基本的な理工系のセンスというか、基礎学問も心理学の中でやっていかなければいけないということで、ちょっとそういうふうになってくると、人文学部にあるのか、社会学部にあるのか、そんなことはむしろどうでもよくなってしまうので、なかなかどこに位置づけるかというのは難しくなるんですけれども、私はそういう意味では、あまり心理学というのは特定の分野と言いにくいところもあるかなと思います。
 ありがとうございました。

【伊井主査】
 どうぞ。

【猪口委員】
 今の中西委員の意見、全く、普通の学術研究という観点から見ると私もそういう意見でありまして、ニール・スメルサーとポール・バルテスのああいうエンサイクロペディアの陣容みたいなものに合致するように、日本の学術世界が発達すればいいんですが、結局、根幹の一番の障害になっているのは、心理学科というのは文学部に所属するということになっているものですから。それで文学部というのは伸びないんです、何だか知らないけれども。だれの責任だかわかりませんが、全然伸びなくて、何ていうか、非常に小さなトライブズがいつも戦争しているみたいなもので、梗塞しているから心理学科はもっと縮まっているわけですよね。ただ、要するに、その出身というかオリジン、起源が人文だとか哲学だという思い入れが強いものだから、何か全然皮をはげないでいるというところがあって、そこを気にしていたら発展しないから、もう研究は心理学みたいなのをやって、あと職能では教育心理学とか、社会心理学と臨床心理学と、それから医学なんてもう20ぐらいわっとそうだし、神経何とか科学も全部そうだし、生物生命何とかも全部それみたいなところがいっぱいあるんですよ。それはそれで自由に発展させるようにしたほうが、心理学の大将みたいな基礎心理学に任せておくと何も発展しなくなるから、僕はそのためだけを考えて研究大学と職能大学は別にして発展させないと、日本の大きな意味での、中西委員の言う意味での心理学は、てんで恥ずかしい感じになるという思いで言っているだけです。

【伊井主査】
 ありがとうございます。どうぞ、井上委員。

【井上(孝)委員】
 心理学について、今、いろいろご意見をお聞きしながら思ったんでございますが、特にいじめ問題が起こってから、教育現場でカウンセラーを大量に採用するようになりましてから、臨床心理士の養成ということで、大学院のマスターコースでは、高度専門職業人としての臨床心理士の養成がかなり各大学で盛んに行われてきています。基礎的な心理学の研究というのは、やはり心理学の本来のあり方の、主として個人の心理現象を分析し、それを研究するという分野と、実際の社会現象として、子どもなり人間のいろいろな行動、あるいは科学技術の応用の面でも、安全安心を確保するためにどういうふうに人間の心理状態、あるいは精神状態の安定に期するか、そういうところも含めて、現在、かなりこの心理学というのは幅広い分野、社会現象にも影響があるわけで、それだけに、心理学の基本的な研究テーマ、人間の心の心理状況とか、そういうものについての研究と、それから、先ほどからお話があるように、医学的な大脳発達学とか、あるいは精神科学とか、そういう点との関連、そういうものが総合的に連携した研究が行われなければ、ほんとうの心理学というのは生きてこないんじゃないかというような感じがいたします。
 今、特に、子どもの発達の状況の問題とか、あるいは、社会のいろいろな事象に対する安全安心を求める社会一般の心、そういうものの安定をもたらすのは、やっぱり最終的にはそういう人間の心理状況を安定させる心理学の研究成果というのは期待されているんじゃないかと思うわけでございまして、そういう意味で、文理融合的に心理学の研究をもっと進める必要があるのではないかと強く感じました。

【伊井主査】
 ありがとうございました。心理学は社会的にも強く求められているわけで‐‐藤崎委員、どうぞ。

【藤崎委員】
 社会学の藤崎です。これまでのご意見と重なる部分があると思うのですが、私は、心理学という分野は人文科学、社会科学、自然科学すべてにすそ野を広げている、内容的にも方法論的にも非常に奥深く、幅の広い学問だと思っております。
 社会学とも非常に近いところにある分野なんですけれども、部外者の目から見まして、あまりに広くて、心理学としてのアイデンティティーというんでしょうか、それを確認し合意を得ることが非常に難しいように思えます。実は、社会学もその辺がよく問われるところではあるのですが、心理学の場合、学としてのアイデンティティー問題はどのように議論されているのでしょうか。というのも、前回あたりから議論になっております文理融合とか、学際ということの重要性を考えたときに、ある意味では心理学の内部だけで文理融合とか学際とかいうことが可能であるように思えます。ただ、ひょっとしたら失礼な言い方になるかもしれないんですけれども、心理学のさまざまな分野の内部、つまり基礎と応用、そしてそれぞれの領域での諸分野での連携とか、アイデンティティーの確認というのが、実は非常に難しいのかなとはたから見て思う節もあります。例えば、臨床に限っても、その中でさまざまな流派とか学派が細分化していて、内部でもコミュニケーションが難しいような印象を持っています。もしも、心理学の内部において、アイデンティティー問題に関する合意とか、内部における文理融合とか、そういうことにつながるような取り組みが一定の成果をあげているなら、複数の学問分野における文理融合、学際的な取り組みの参考になるのではないかと思います。そのような取り組みがなされているかどうかなど、お聞きできればと思いました。

【岩崎委員】
 ありがとうございます。今のアイデンティティーのお話は、ざっと言えば基礎系心理学ではかなり強いものがあると思います。ただ、今のお話の中で、とちらかというと臨床心理学は流派がそれぞれたくさんありまして、一国一城が多過ぎて、そしてその交流というのが非常に大切な分野でありながら、行われにくくなっているという。それをもって、私が言いたくはないんですけれども、新興宗教がたくさんできたような、宗派がたくさんできているみたいな、そういう様相もなくはないですね。そのことは、私はトータルとして是正というか、これは心理学の中でやっていかなきゃいけないと思っていますけれども、是正していかないとならない。つまり、最近、医学でもエビデンスド・ベースド・メディシンという、エビデンスを非常に強調するようになっていて、これは当然だと思うんですけれども、その辺のエビデンス感覚のない人たちもいないとは言えないので、はっきり言ってその辺が大きな問題で、また、逆に、そういう方々はお話がうまいので、何かそちらが主流かのように世の中がとらえてしまうという問題も実際あります。
 ありがとうございました。

【伊井主査】
 どうぞ、立本委員。

【立本主査代理】
 皆さんがおっしゃっています心理学の中での融合ということ、私も全くそのとおりだと思います。外から見ていると、ほんとうに水と油というようなものが同じ心理学の中にありまして、どうしても文理融合というのであれば、まず心理学の中で融合するか、あるいは、他分野ともう一度心理学というのを再統合するということが必要。バイオサイエンスという話も出てまいりましたけれども、そういうふうな形で、文理融合の期待が一番大きいけれども、現実にできるかというと、外から見ている限りクエスチョンマークが非常に大きい。
 その対応策といたしまして、お書きになりました、おそらくはこの3番のところがポイントだと思うんです。共同利用研究拠点があるかといえば、心理学という大きなくくりが名前だけ一応あるが、その中で、皆、分かれてしまっている現状だと思います。他分野との共同研究というのはたくさんありますとおっしゃっていますけれども、心理学の中での共同研究というのはない、それが非常な大きなネックとなっているのではないでしょうか。それは、一つは、たとえば拠点形成を目指すCOEにしても、科研の分科と細目を見ていただいたらわかるんですが、分科では心理学なんですが、細目では細かく分かれるんですよ。そうしますと、統合とか複合というのはどこに入るか。総合・新領域へ入っても、そういうものはバイオサイエンスか何かのところでつけ足しのようにしか入ってこないということがあります。もともと文系的なものと理系的なものとを心理学の中で分けていこうという流れが強いのではないか。
 心理学にエールを送るというのは非常に賛成なのですけれども、果たして今の心理学でそういうのができるかというのが非常に疑問で、もしできないとすれば、制度的な、組織的な、そういうものを考える必要があるのではないかという意見でございます。

【伊井主査】
 今田委員どうぞ。

【今田委員】
 臨床心理と基礎心理の2つの間の関係なんですけれども、私の感じでは、これは同じ大学にあったほうが、医学部と同じで、基礎医学は臨床医学のいろいろな事例から問題を発掘して、それを基礎的に研究する。その基礎的な成果を今度は臨床で応用するという、基礎と臨床のコラボレーションがとっても大事なわけですよね。
 こっちの心理のほうも、例えば心の病とか、そういうカウンセリングだとすれば、基礎と臨床のコラボレーションが必要だから、できるだけ近くに基礎の方と臨床の方がいて会話ができるほうがいいんじゃないかなという気がしています。それが1点です。
 それから、もう1点、心理学が相手にしている対象は人間であって、これは社会的な存在であると同時に、生物有機体でもあるという、集団とかそこら辺になればもういいんですけれども、個別の人間はそうなので、ここでやっぱり人文社会系と理工系というか、生物学的な意味のものとの接点のところの存在なので、まさにアプローチとしては文系・理系融合のアプローチをしないとうまくいかないんじゃないかという感じがしています。
 それから、3点目は、以前と違って、人の働き方やストレスのあり方が随分位相が変わってきて、昔は物が貧しかったから、何とか物の豊かさをつくれるようにというので働かされて、労働災害だって、何か病気になったり、けがをしたりというのが多かったんですが、最近はやっぱり知識集約的な働き方になってきたので、それが増えているので、やはり心理学的な心のストレスがとても多くなってきて、これは多分、今後、とどまることを知らないぐらい増えていくんじゃないかと思うので、今のうちからきちっとそれを手当てする段取りを考えておかないと、おっつかなくなるという感じがしておりまして、医者と臨床心理学者と臨床医学者のコラボレーション、先ほどお話が出て、薬が処方できるかできないかというのはあると思うんですが、それはそれで分野が違う唯一の境界線だと思うんですが、さっきおっしゃったように両方であいまいなところがあって、どちらに決断していいかわからないところは、やっぱり両者の間で十分議論して話し合って連携関係をつくっていくことが必要だから、そういう医学部と心理関係とも近いほうがいいような感じはしておりまして、そういう方向でのあれが必要なのではないか。
 今はもう、経営ではMBAができているし、法律では法科大学院ができているし、医学部はもちろん6年制になっているしということを考えれば、そういう方向でやるのも一つの方向かなという感じがしております。

【伊井主査】
 ありがとうございます。大事なことだと思います。‐‐どうぞ、西山委員。

【西山委員】
 私は全くの門外漢ですが、人間は基本的に心で成り立っており、心理学はその全部に関係していますので、文理融合というのは、ちょっと言い過ぎではないかなと思います。もともと、心というのは人間の全てに関わる性格のもので、意図的に文理融合ということをあえて言う必要はないのではないかと思います。心理学は本来的に哲学から発生しており、どんどんこの学問が細分化していった過程があっても、もともと心を対象としているのですから、ほかの学問の細分化よりも、どこにおいても必要なわけです。ですから、あらゆるところで取り上げているというのは、はっきり言えば発展しているというふうに私はとらえたほうがいいのではないかと思います。だから、どんどんやればいいんじゃないですか。何も文理融合なんて言わなくても、それぞれ違ったやり方で、どんどんやっている。ニーズがあるからやっているわけで、無意味にやっているわけではないですよね。全体をまとめて、どうだこうだというのは、あまり言う必要はなくて、どんどん発展させればいいのではないかと思います。
 だけれども、例えば、COEをつくるというようなときには、各所で心理学に携わっている方々が集まって、心理学のセントラルターゲットとか、セントラルドグマは今の時点ではどこにあり、どう解決するのということについて話をすれば、大体この辺が今一番大事ではいかなということについては、多分、一致するのではないか私には思えるのです。何でもかんでも統合してやるなんていうことでは、まとまるわけがないと思います。ですから、そういう一番大事なことについては、まとまってCOEというような拠点をつくってやりましょうというふうにしたほうが良いと思います。ワット・イズ・テーマ、どういうのが今、一番重要なテーマなのかということを一致させないと、COE拠点に研究者は集まれません。そういう考え方のほうが現実的ではないかと私は思います。

【伊井主査】
 白井委員、手が挙がっていらっしゃいましたが。

【白井委員】
 今の西山委員の意見に大変同調ですが、とにかく、心理学っていうか、人間の科学というのは、全部に関係しているわけですよね。そういう意味で言うと、とりわけ心理学は、文理融合というよりは、全学問にどんどん乗り出すべき分野というか、乗り出さなきゃ困る分野だと。ですから、さっきいじけているという意見が主流を占めているんですが、自己規制というのか、何か非常に純粋な部分をまず追究しなきゃだめだと、まあ、それは学問というのはそういうものかもしれないんたけれども、それより、人の役に立つということは、要するに、人の役に立つ根本というのは、結局この心理学というか人間の科学にどれだけ関係しているかということですよね。だから、まさに心理学はすべての学問の、もしそれが役に立つというんだったら、心理学が関係しないものはあり得ないと思うんです。
 そういう意味で、どういうふうにとらえればいいのか一例ですけれども、例えば、大災害があったときのトラウマの問題なんかを見ても、ほんとうに総合的だと。精神科の医者もそれは関係あるかもしれないけれども、人類学者も関係あるし、民俗学なんかも関係する、そういった分野だけれども、非常に心理学的な問題であるというのは、だれが見てもそう感じるというような意味で、心理学って、まさに非常に大きな分野でどこにも関係あるという意味で、どんどんやればいいんだと思う。
 ただ、臨床心理という分野は非常に需要があって、脚光を浴びたと言ったら何だけれども、非常にやらなきゃいけないんだということになったというのは、ある意味で悲劇的じゃないかという気がするんですよ。そこのところをやらなきゃいけないからということで、非常に基礎心理の方からこういう方法論、こういう方法論というので、非常に学問的なところからアプローチがずっと出てきている。だけれども、ほんとうにそれだけでものが解決しているかというと、そういうわけでもなさそうだという意味で、もうちょっとそういうところも、何か広い意味での見直しというのか、学問的に見てももっと大きく広げて考えることが私はあってもいいんじゃないかなと。これは全然素人だから勝手なことを言っているんですが、どうも臨床心理の話を聞くたびに、いつもそう思って伺ってはいるんですよね。ですから、もうちょっと広げて、すべての基礎だという認識で心理学というのを見直す必要があるのではないかなと思います。

【伊井主査】
 確かに、今おっしゃったように、現代人は心の病が多くなったものですから、心理の臨床面というのが強く出ているわけですけれども、心理学はそれだけではないわけで、先ほど車の話もありましたけれども、非常に大きな機能もありますし、人間そのものでもあると。文章心理学という分野もあり、文学ともかかわってくることでしょう。さまざま心理学という問題も、基礎の部分と臨床の部分ということで議論がありましたけれども、これはあらゆる学問についてもいえることだろうと思います。それを分けてしまうと、また問題が大きくなってしまいます。コラボレーションという言葉もございましたけれども、今までの問題を含めまして、何か新たな問題提起でもありましたら、どうぞおっしゃっていただければと思いますが。何かありますか。

【白井委員】
 さっき、脳科学とも、生命科学とも一緒になっていくほうがいいというお話もあって、そういう部分も非常にあると思うんですよね。ただ、脳科学で非常に普遍的な心理的な要素というものが明らかになっていくのだろうかと言われると、そう簡単ではもちろんないわけですよね。例えば、この前、データを見せてもらったのですが、簡単な計算をやる。これは民族とか、社会性とか、文化とかによって、同じことをやっていても、明らかに脳の働きって違うんだそうです。そんなことを考えると、非常におもしろいけれども、要するに、心理学というか、脳科学というか、そういうものがもっともっと広がりを持った学問だというところを大事にしないといけないんじゃないかなと私は思うんですけれども。

【伊井主査】
 ありがとうございます。
 何かほかにございませんでしょうか。
 局長さんのほうは、今、心理学の問題なんですが、何かお考えでもあれば。

【徳永研究振興局長】
 私も岩崎先生をよく存知あげておりますけれども、なかなか今、臨床心理学という言葉が、通常ですと基礎と臨床みたいな意味での臨床心理学ということなんでしょうけれども、臨床心理学というのは、今や違う意味でのカテゴライズが出て、それがいわば私どもがさまざま実施しておりますスクールカウンセラーというような、学校教育の中で実際に子どもたちにアドバイスをする制度ということと相まってきて、いわば資格制度に結びつくというような意味での特定の資格体系を修得するものだけを指して、非常に極めて特異な意味で臨床心理学というような言葉になってきているので、臨床的な心理学のことでなくなっているという点があるものですから、時々、岩崎先生とお話をすると、これはなかなか大変だなというような気がしております。

【伊井主査】
 どうもありがとうございます。
 学生数は多いんですよね、今、心理学の分野では。

【岩崎委員】
 はい。人気があるということもあって、多いと思います。

【伊井主査】
 これは資格のためということもあるわけでしょうか。

【岩崎委員】
 いや、資格は、結局、今、文科省認可の財団が認定している臨床心理士は、大学院、マスターコースを出ないと取れないものですから、そういう意味では増えてはいますけれども、マスとしては、取れる人が1年でざっと3,000人ぐらいだと思います。それが多いか少ないかというのはあれなんですけれども、そのベースとして、学部がもっとたくさんございますので、その10倍、20倍ありますので、かなり最近では数が多くなっているというふうに言えるかと思います。

【伊井主査】
 ありがとうございます。
 何かほかにございませんでしょうか。石澤委員、何かございますでしょうか。

【石澤委員】
 今、聞かせていただいて、ほんとうにこうした心理学がこれだけ分かれているというのは、先ほどの西山先生のお話ではありませんけれども、どんどん分化して発展して、またそれが急進的になるのかもしれません。ただ、総じて拝見しておりますと、それぞれに分かれてはいるけれども、どれも心理学的な普遍的な領域を最後は目指しているのかなと、そんな感じがしております。私どもも、最初は文学部に心理学科があったんですけれども、このたび、総合人間科学という新しいカテゴリーの中に心理学科が入って、むしろそういう意味では、本来の人間を対象とした、人を対象とした領域をがっちり固めておくという意味で、学部を移したわけでございます。そんなところで、心理学というのは、そういう将来、あるいはこれから、ほんとうにどこまで普遍と言えるかわかりませんけれども、そういう領域に向かいつつあるのかな、発展しつつあるのかな、あるいは、もっともっと細分化しながら切磋琢磨して、もうちょっと大きな固まりになっていくのかな、そういう意味の心理学の学問体系ですから、どんどんやってほしいというのがほんとうのところです。
 ありがとうございました。

【伊井主査】
 どうもありがとうございました。
 ほかに特にご質問、ご意見ございませんでしょうか。では、谷岡さんどうぞ。

【谷岡委員】
 皆さんしゃべっているようなので、私も。
 私の専門分野は犯罪学ですが、よく、精神鑑定に心理学の専門家の方が出てまいりまして、心神耗弱だ、心神喪失だ云々だと。今回、光市で母子が殺された事件で、死体に姦淫してどうのこうのというのが、母親に甘える気持ちだったとか云々、そういったことを攻めているのではないんですが、そういったものが事実の過程として出てくるプロセス、先ほど、岩崎先生がおっしゃったように、全くエビデンスに基づいていないのに、声が大きくて主流であるかのような、要するに社会における邪魔にしかならんごみをどうやって取り除いていけばいいんだろうかというのは、実は大変このテーブルでも考えるべき、すべての分野にわたって重要な点だと考えております。
 以上です。

【伊井主査】
 立本さん、何かありましたらどうぞ。

【立本主査代理】
 そういう人間心理の機微にわたるお話のほうがずっとおもしろいんですけれども、最後にちょっとコメント。一番最後に、「基本的には、社会に役立つ学問も必要であるが、教養ある市民を育成する学問の方がより大切ではないか」とおっしゃっておられました。社会に役立つ学問と、教養ある市民を育成する学問というのは対立するものではないとは思いますが、それにしても、学問と教育ということでしたらよくわかるのですが、教養ある市民を育成する学問ということになると、どういうふうなことになるのかなと思いました。社会に役立つ学問と、個人のための学問と、そういうふうなことを考えたらよいのかなと、ちょっとわかりませでしたのが、そこを教えていただければというのと、それが、今の人文学・社会科学の振興にどういうふうに関係づけられるかというのがちょっと気になりました。

【岩崎委員】
 これは、何も心理学だけのことが言いたいわけではなくて、非常に個人的な私の好みなんですけれども、やっぱり社会に役立つということは、それなりに個人にとっても必要だと思うんです。全員というわけではないんですが、しかし、これだけユニバーサル化してきた大学においては、ほんとうに手に職をつけるというとあれですけれども、要するに、職能教育に特化するといいますか、流れていくということ、おそらく、いわゆる一流校というところもそういうふうになりつつあると私は見ているんです。それはちょっと違うんじゃないかなということで一言、語弊があるかもしれませんけれども、それなりのエリートというのをもうちょっと養成しておかないと、ちょっと困るのではないかなと。それは、私も含めてなんですが、やっぱり見識のあるもの申す人が非常に最近減っているわけですね。そういうことは、おそらく、こんなことからもあらわれているんじゃないかなということを含めて申し上げたわけで、別に相反することではないと思います。

【伊井主査】
 ありがとうございます。おっしゃるところは、非常によくわかるところでございます。立本さん、よろしゅうございますか。

【立本主査代理】
 はい。

【伊井主査】
 それでは、一応これで、今のプレゼンテーションに対するご質問、ご意見を終わらせていただきますが、どういたしましょうか。人事異動のほうをやってよろしいんでしょうか‐‐よろしいですか。事務局、本日付で人事異動があったということで、ご紹介をしていただきます。よろしくお願いいたします。

【高橋人文社会専門官】
 本日、7月6日付で研究振興局振興企画課長として伊藤洋一が着任いたしております。

【伊藤振興企画課長】
 本日付で振興企画課長になりました伊藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【伊井主査】
 よろしゅうございましょうか。
 それでは、次に第2の審議事項に進めてまいります。人文学及び社会科学の社会との関係につきましての審議に移りたいと思いますが、本日、文部科学省から「政府関係の報告書等に見る政策的・社会的ニーズ」及び「政策課題対応型の研究を行う社会科学系研究機関について」と非常に長いんですけれども、イノベーション25や男女共同参画推進会議の中間報告等の政府関係の報告書を出していただいております。その報告書等にあらわれました政策的・社会的ニーズとか、政策課題対応型の研究を行う社会科学系の研究機関についてご説明をいただくということでございます。
 これらを例としまして、人文学及び社会科学の社会的意義だとか、研究成果の社会的な還元、これは初めに申し上げましたけれども、政策や社会のニーズに対応したタイプの人文学及び社会科学の研究の意義や、今後推進すべき課題等につきまして、少しご説明していただいた後、ご意見を賜ればと思っております。きょうは、そういう情報提供だけですので、何かこれにつきましてほかに付加すべきことがございましたら、またおっしゃってくださればと思います。
 それでは、高橋専門官、お願いいたします。

【高橋人文社会専門官】
 それでは、資料2‐1と2‐2の関係をご説明させていただきたいと思います。
 これまでの審議におきまして、ある程度、政策や社会の要請に基づいて行われる人文・社会科学の研究についていろいろ意見交換をいただいてきたと思っておりますが、その中で、政府の政策的なニーズというのはどういったものなのかということでいろいろご質問など出たと思いますので、その関係の一つの例として、資料2‐1で、政府関係のさまざまな報告書などで、特に人文・社会科学の関係でこういった研究をしてほしいというような要請といいますかニーズが一部出ておりますので、そういった一例をご紹介するのが資料2‐1でございます。
 それから、資料2‐2でございますけれども、こちらは、いわゆる政策課題に対応した研究を恒常的に行っているタイプの、独法もございますけれども、いわゆる国立の研究機関につきまして、一部でございますけれども、若干ご紹介をということで資料をまとめました。
 それでは、資料2‐1をごらんいただければと思います。これは最近の政府関係の報告書などで研究を要請されているような記述についての抜粋でございます。
 まず、1ページでございますが、これは経済財政改革の基本方針2007というもので、いわゆる骨太の方針というものでございますが、例えばこの中では、グローバル化改革という項目の中で、ASEAN(アセアン)プラス6カ国の経済連携構想を含めた広域経済連携の研究を推進するというような記載がございます。
 それから、2ページでございますけれども、上でございますが、日本経済の進路と戦略についてということで、ことしの初めごろに閣議決定されたものですが、こちらも同じような趣旨なんですけれども、東アジアにおける広域経済連携の研究の推進といったこと。
 それから、下のアジア・ゲートウェイ構想でございますが、これも官邸に置かれたアジア・ゲートウェイ戦略会議での報告書でございますけれども、ここでもアジアにおける経済統合の強化に向けて、インド等のEPAや東アジア太平洋地域における広域経済連携の研究を推進というようなことがうたわれております。こういったものは一つの政策的な要請ということだと思います。
 それから、3ページでございますけれども、イノベーション25でございます。こちらも官邸のほうで会議が置かれて議論されたものでございますが、ここにおきましては、イノベーション創出に向けた社会環境の整備という項目のところで、イノベーションを誘発する社会制度の設計等に関する研究の推進というタイトルで、下線を引いておりますが、技術の進歩や社会の変化に伴う諸課題、人間の心理、価値観等に関する諸課題、現代社会におけるさまざまな問題の解明と対応に向けて、人文・社会科学を中心とする学際的・学融合的な研究の取り組みを推進し、その成果を社会への提言として発信するというようなことがうたわれております。
 それから、4ページでございますけれども、これは平成19年5月、男女共同参画推進会議のほうで出されたワーク・ライフ・バランスに関する中間報告でございますけれども、ここも下線のとおりでございますが、ワーク・ライフ・バランスに関する学際的な研究の推進を図るというようなことがうたわれております。
 それから、5ページでございますが、これは教育再生会議の第二次報告の中の記述でございます。3カ所ございますけれども、1つ目は、脳科学や社会科学など、関連諸科学と教育との関係について基礎的な研究をさらに進めるといったこと。それから、2つ目も同じものでございます。それから、最後に、企業や社会のニーズに応じた学際的研究分野の創出ということで、一般的に大学にこういった企業や社会のニーズに対応した研究をお願いしたいというようなことが求められております。
 資料2‐1は以上でございます。
 次に、資料2‐2のほうでございますけれども、これは例示ということで、恒常的に政策対応の研究を行っている研究機関のご紹介をと思っております。独立行政法人の形態をとっているものが3つと、それから、施設等機関と書いてありますが、これは政府の中、各省の中にある研究機関でございます。
 1ページをごらんいただきたいんですが、独立行政法人労働政策研究・研修機構でございます。1ページの上の概要をごらんいただきたいんですけれども、下線部でございます。内外の労働に関する事情及び労働政策について総合的な調査及び研究並びにその成果の普及を行う、こういうことを目的、使命としてした研究所でございます。
 2つ目に、調査研究活動というところがございますが、政策目的型の研究所でございますので、あらかじめここにあります4つの研究課題を一応設定して、この4つの研究課題を研究していくという形で研究マネジメントが行われているということでございます。
 右側の2ページ目をごらんいただきたいんですが、先ほどの4つの研究課題を前提として、平成19年度はこういった形で研究テーマを設定して具体的に研究を進めていくということで、比較的トップダウン的な研究マネジメントが行われているということをご確認いただければと思います。
 それから、3ページでございますが、いわゆるアジア経済研究所でございます。基本的な研究マネジメントの構造は大体同じでございます。概要のところですが、アジア経済研究所は、日本における開発途上国研究の拠点として、世界への知的貢献をなすことを目指していると。
 下にまいりまして、主要事業として、1番、調査研究がございますけれども、それ以外にもさまざまな事業を行っていると。
 3つ目に、調査研究方針というのがございます。これは、先ほどの労働政策研究・研修機構と同じでございまして、3つのミッションを掲げて、このもとで研究が行われていると。
 具体的に、この3つのミッションというのは4ページでございます。3つございますが、こういったものをミッションとして立てた上で、5ページでございますけれども、2006年度は具体的にはこういった形で調査研究を進めていくということで、4つの具体的な課題が立てられる、こういった形で研究が進められるというタイプの研究所でございます。
 それから、6ページ、独立行政法人経済産業研究所でございますが、こちらにつきましては、6ページの一番上に下線が引いてあるところがございますが、ここはもっとはっきりしておりますけれども、中長期的に戦略的な視点に立った世界的レベルの調査分析・政策研究に基づき、創造的かつ斬新な政策議論を誘発するための新たなプラットフォームであるというふうに、まさに政策志向の研究所だという位置づけでございます。
 それから、6ページの下で、国の施策との関係というところがございますが、ここも同じなんですけれども、政策の導入に資する理論的・分析的基礎を提供するということで、政策とのリンクというのがきちんと図られているということでございます。
 7ページでございますが、政策研究領域というものをこの研究所では立てておりまして、具体的には7ページの真ん中あたりに1から4がございますが、こういった研究領域を立てて研究をしているということ。それから、8ページに、それを2006年度、具体的にこういうふうにやっていきますということが書かれております。9ページも基本的には同じものでございます。
 それから、次に10ページでございますけれども、経済社会総合研究所、これは内閣府に置かれている研究所、これは国そのものということになります。ここも今までのものと同じでございますけれども、10ページの真ん中あたりに下線を引いたところですが、経済活動、経済政策、社会活動に係る理論及び実証研究を行い、政策研究機関としての機能強化を図るとともに、内部部局と連携して、これは内閣府の内部部局ですが、経済財政諮問会議の審議に資する研究ということで、政策とのリンクを図っているということでございます。
 11ページ、12ページ、13ページ、14ページは、こういった目的を受けて、具体的に行っている研究14ページでございます。
 15ページ、これは国立社会保障・人口問題研究所、厚生労働省の研究所でございますが、ここも、基本的にはこれまでご紹介した研究所と同様、福祉政策、社会保障政策などとリンクをした形で研究プロジェクトが15ページ、16ページに掲げられているような形で行われているものでございます。
 それから、次に17ページでございますけれども、これは法務省の法務総合研究所ということでございまして、これは従来、いわゆる刑事政策関係の研究を主に行ってきた研究所でございます。やはり法務省の政策とのリンクということで、18ページ、19ページのような形で刑事政策関係の研究が行われているということでございます。
 今、資料2‐2で全体としてご紹介させていただいた文言とか表などにつきましては、すべて各研究所のホームページからそのまま頂戴したものでございますので、まさに研究所がこういった形で、みずからの存在意義とか、あるいは研究の位置づけというものを明らかにしているということでございます。
 簡単でございますが、以上でございます。

【伊井主査】
 ありがとうございました。資料2‐1は、既に方針の決まった閣議決定等のものでございまして、資料2‐2は、今おっしゃったように、いろいろなほかの省庁の関係する、我々のこの委員会の関係するものを集めてきていただいたということでございますが、非常に多様にあるなと思って拝見しているわけですが、何かこれにつきまして、何か情報提供したいとか、こういうことがあるんだというようなことがありましたら、どうぞおっしゃってくださればと思います。いかがでしょうか、どうぞ。

【伊丹委員】
 2‐2で紹介されております6つですか、このうちの4つは、私、何らかの形で関係を持っているものなんですが、こうやって文章になっちゃうと随分立派なことをやっているように見えるのですが、ファンディングの大きさという観点からしますと、例えば経済産業研究所というのは、多分、年間17億円ぐらいしか金が使えない。

【猪口委員】
 10億円ですか。

【伊丹委員】
 17億。この主の経済産業研究所がカバーしていると思われるリサーチの分野が、日本の大学全体でCOEとかそんな予算を絡めると、おそらくそれよりも相当大きな金額が実は使われているんではないかと思います。したがって、こういう委員会で何か政策課題型の研究活動の振興ということを考えるときには、もちろん、こういう他の官庁が既に持っている研究所の研究活動とのオーバーラップを、ある意味で、これは大学の学者が参加してやっている研究は大変なものですから、そういうオーバーラップを避けるのは当然なんですが、むしろ、実際に大学や国立のさまざまな研究機関に所属している研究者たちが行っている、こういう研究所とは形の上では関係ない研究活動が、どうやったらそちらのほうに向けられるかというタイプの発想にしないといけないんじゃないかなとお聞きしていて思いました。

【伊井主査】
 ありがとうございます。
 何かほかにご意見ございませんでしょうか。何でも結構でございますけれども。どうぞ。

【猪口委員】
 資料2‐1についてですが、政府関係の報告書でこのような方針が出たときには、オペレーションには、結局、政府系のシンクタンクのほうに新たなファンディングが流れることを意味しているのか、中でやるというのか、それとも、新たな何かを考えているのか、まだ何も決まっていないというか考えてもいないというのか、よくわからないんですが、そこら辺、2‐1の政府関係の報告書で、こうやろうといったときに、ファンディングというのは関係あるんですか。

【伊丹委員】
 なぜか私のほうを向いておられますけれども、ある程度答えられますが。

【伊井主査】
 どうぞ。

【徳永研究振興局長】
 ここに書いてあるさまざまな閣議決定は、こういう研究が必要だという認識を提案し、そのことを閣議でオーソライズしたということが基本でございまして、じゃ、具体的に何かあるのかということになると、多くの場合、そういったものは、これからこういったことを踏まえて、それぞれの役所で20年度概算要求に向けて考えてほしいということが多いと思います。

【伊井主査】
 どうぞ。

【井上(孝)委員】
 2‐1の最初の基本方針2007と、それから日本経済の進路と戦略、アジア・ゲートウェイ構想、これらのアジア地域との広域経済連携というのは、大体、 JETROとアジ研が中心になって従来からずっと戦略を研究している分野でして、今はWTOが中心ですが、実際には2国間の経済協力が進行しているわけでございまして、そことの関係でこれは言っているんじゃないか。だから、アジ研が中心になって、こういうアジア地域の広域経済連携協力を今進めていますので、そちらの関係の推進について言っていると思います。

【伊井主査】
 そういう背景があるんじゃないかということでございますけれども、どうぞ。

【伊丹委員】
 今の広域経済連携の研究の場合には、こういう文言を使っているけれども、我々がイメージするような研究活動をきちんとやろうという推進ではなくて、実際にこれ、政府間の交渉マターですので、そのファーストステップとして、学者も入った何かワーキンググループをつくりましょうということを称して研究を推進と言っているんだと思います。ですから、こことはあまり関係ない話じゃないんでしょうか。

【伊井主査】
 はい、わかりました。参考までにいろいろ出していただいて、我々の委員会とどういうふうにこれを踏まえながら検討していくかということだろうと思いますけれども、何かほかに特にご意見ございませんでしょうか。よろしゅうございましょうか。まだ少し時間はありはしますが、よろしいでしょうか。
 どうもありがとございました。それでは、本日、さまざまいただきました議論はまたまとめまして、皆様にご提示しようと思っております。本日はほんとうにいろいろとどうもありがとうございました。
 あと、事務局のほうからご説明がありましたら、どうぞおっしゃってくださいませ。

【高橋人文社会専門官】
 次回以降の日程でございますけれども、資料4にございますとおり、次回の本委員会につきましては、7月23日月曜日、14時から16時、霞が関東京會舘、いわゆる霞が関ビルの35階でございますが、シルバースタールームで予定してございます。詳細につきましては、また改めてご連絡申し上げたいと思います。
 また、本日ご用意させていただきました資料につきましては、封筒に入れて机上に置いておいていただければ郵送させていただきたいと思います。それから、ドッジファイルにつきましては、そのまま置いていっていただければと思います。
 以上でございます。

【伊井主査】
 ありがとうございました。そういうことで、いろいろプレゼンテーションしていただきながら、人文学・社会科学の振興というものの具体的な対応策をこれからも提案していただいて、次回以降に概算要求にかかわるような内容につきまして、またご討議いただこうかということを考えているところです。
 何かほかに特にございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 本日の会議はこれで終了させていただきます。次回は7月23日でございます。よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

‐了‐

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