学術研究推進部会 国語に関する学術研究の推進に関する委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成20年2月21日(木曜日) 14時~16時

2.場所

中央合同庁舎第7号館全省庁共用会議室1114

3.出席者

委員

 飯野主査、井上主査代理、中西委員
(専門委員)
 石井専門委員、真田専門委員、鈴木専門委員

文部科学省

 森学術機関課長、町田文化庁文化部国語課長、江崎企画官、松永研究調整官、丸山学術機関課課長補佐

4.開会

 第2回委員会の開会にあたり、主査より挨拶があった。
 資料1の前回議事録案について、修正があれば2月28日(金曜日)までに、事務局へ連絡することとした。

5.議事

 まず、事務局より、資料2-1(大学共同利用機関について)に基づき、大学共同利用機関の基本的な定義、特性、運営上の特徴及び大学院教育との関係について説明があり、その補足として、資料2-2(国立大学全国共同利用附置研究所と大学共同利用機関と国立国語研究所の比較について)に基づき、大学共同利用機関、国立大学全国共同利用附置研究所、国立国語研究所の制度的位置付けや運営組織等について説明があった。
 また、参考資料1(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所概要)に基づき、国立大学全国共同利用附置研究所について説明があった。
 主査より、資料3論点案に基づき、自由討議を行いたい旨の発言があった。自由討議の内容は以下の通り。

【飯野主査】
 それでは、資料3の論点案に従い、議論を進めていただければと思う。第1回の委員会で論点の1と2に関しては随分、意見をいただいたので、本日は特に論点の3と4を中心に議論していただきたい。

【鈴木専門委員】
 論点の3と4を中心にということだが、1と2に関する補足も加えながら、話をしたい。
 4つに分けて話そうと思うが、まず一つ目は国際性ということである。2つ目は総合性、3つ目は学際性、4つ目は一応、集約性と言っておく。
 最初の国際性について、私が古代語の時間の表現の理論的研究を始めたころは、古代語についても海外の研究のほうが進んでおり、そこから勉強することが多かった。
 そういうことから考えると、海外の研究から学ぶという姿勢、国際性は必要だと思うが、最近は少し事情が変わってきていると感じる。
 言語の類型的な研究等では、昔は出されなかったが、最近はよく日本語が引き合いに出される。ところが、その日本語の理解があまり正しくない。間違ってはいないが、それほど理解が深くないという感じがする。それに比べると、国際性に関係なく、日本の国内で独自に研究を進めている方の研究のほうがずっと普遍性があり、すぐれているという感じが最近はする。
 だから、国際性に関しては、やはり今後はもっと日本語の研究のレベルの高さを発信していくという方向が今、日本語研究にとっては重要ではないかと感じている。それはなかなか個別にはできないので、どこか大きなところで組織的に行う必要があると思っている。
 2つ目が、総合性で、最近、テレビのクイズ番組等で、日本語がよくクイズのネタになっており、それを見ていると、一般には日本語というのはクイズ的な興味の対象でしかないようにすら見える。これでは若い世代が真正面から日本語に向き合って、日本語に自信を持つということにはなりそうもないなという感じがする。クイズの問題になっているのは、よくあるのはまず漢字、それから、語源、言葉の間違いといったことで、それはもちろん大事なことだが、もう少し理論的な面や歴史的な面、それから、今、国語研究所で行われている方言や社会言語学的なこと等も広く総合的に取り上げて社会に示していくというところがないといけないのではないかと考える。そうして初めて、若い世代の人たちも正面から日本語に向き合えるようになるのではないかと思う。日本語研究者の減少というのも、そういうふうになれば、少し改善するのではないかと考えている。
 3つ目の学際性ということだが、今、日本語研究を支えている研究の中心的なコミュニティとしては、日本語学会(旧国語学会)が一番大きく、それから、言語学会や音声学会、日本語文法学会等があり、それらの間の研究交流はしばしばあるのだが、それほど大規模で組織的なものはなくて、一つ一つの学会で、シンポジウムのパネラーとして、別の分野の人を招いてくるというぐらいである。そういったことをもっと盛んにする大規模な場を保証することがこれからは必要だろうと思う。
 日本語学は関連する分野が非常に多い分野なので、いろいろな関連する分野に、日本語学の成果をどんどん提示していく必要があると思う。
 また、関連する分野との交流によって、既成の分野とは違う、もっと魅力的な研究対象が出てくるということは必ずあるはずだが、そういった関連分野との交流となると、今はほとんどないと言ってもいいくらいで、それを保証するには、日本語学会等の1つのコミュニティでは難しく、もっと大規模でしっかりしたセンターが必要ではないかと思う。
 関連する分野というと、文学はもちろん、心理学や社会学、人類学、それから、教育関係もあると思う。国語教育や日本語教育等も関連する分野で、そういうところとの交流を広くやっていく場はやはり必要だろうと考えている。
 最後の集約性ということだが、日本語研究に携わっている研究者のコミュニティは多く、そこに属している研究者からはいろいろな要求がある。その中で一番大きな要望は、総合的で、しかも大規模な資料やデータ、コーパス等の構築だと思う。
 今もある程度大きな規模のデータがあると思うが、実際そうであるというわけではないが、例えば漢字が京都大学で、語彙は東京大学というふうで、それぞればらばらにかなり大きなものをつくっていて、お互いに関連させられていないような気がする。もう少しセンター的なところをつくって、最初から関連させて、データや資料を構築していけば、もっと有効に活用でき、期待にも答えられるのではないかと思う。
 最後は、歴史的研究での話をさせていただくが、例えば歴史的研究でのデータベースは、国文学研究資料館等の文学関係は別として、ほとんど全体的なものはなくて、個人個人がつくっているものが殆どである。
 日本語だと、いわゆる古典作品の索引というものはたくさん出ているが、それはほとんど文学の研究者がつくっているもので、言語学的に使用しようとすると、相当に手を加えないと使えないというのが現状である。だから、そういったものをもっと組織的に最初から1つの大きなプロジェクトでつくっていけば、そういうことは起こらないのではないかと思う。
 例えば、『源氏物語』に関しては、『源氏物語』の単語をすべて集めて解説した『源氏物語辞典』というものがあるが、古典作品だと、そのほかに個別的な作品別の辞典は、『万葉集辞典』があるだけである。語彙の研究や意味の研究になると、どうしても一つ一つの作品の辞書みたいなものが必要となる。また、歴史的な辞典みたいなものも日本には完全なものはまだないと言ってもよく、それをつくるためには、作品別の辞書のようなものが基礎としては絶対に必要だが、それがないという状態に今はある。
 そういうものを統一的な視点でつくっていくような機関があると、日本の言語生活、それから国語研究もずっと発展するのではないかと考えている。

【石井専門委員】
 丁度20年前に国際日本文化研究センターをつくるとき、私は最初から関わっていたのだが、そのときに、世界にあって、日本にないものは何か、という議論をしていて、それは日本文化研究だった。国語研究、国文学研究、国史研究はあるが、日本文化研究をやっているところはどこもないということに愕然とした。
 今、話にあった、国際性、総合性、集約性、学際性という点は、まさにそうで、国際日本文化研究センターは、こちらから発信しようという姿勢があり、総合性、学際性という点でも、センターには、経済学者もいれば、自然科学者、歴史学者、文学者もいて、その中で日本文化を研究している。同じことが日本語研究についても非常に重要なことだと思う。その意味では、小さいところではできないので、大規模なところで、日本語の総合研究をすることが絶対必要だと思う。

【井上主査代理】
 確かに、諸外国の大学の日本語研究所などで日本語の研究等をやっているところもあるが、やはり国語についての学術研究は、日本が、母国語である日本語の研究の最先端でなければいけないと思う。そういう意味で、国語研究所が基盤的な研究をやっていると思うが、それぞれの分野の突出した研究ということになると、大学の研究者のほうがすぐれた研究を論文として既に発表しているのではないかと思う。
 そういった、情報や学術研究成果をすべてデータベース化して整理し、それらを研究者の用に供する。それによって、研究者の研究交流と成果の活用を推進する。そういう役割をする大学共同利用機関を学術研究機関として設けることが必要だと思っている。
 そういう意味では、国語研究所はどちらかというと基礎的な言語研究と政策的な研究、そちらが重点だったと思うが、今後は研究者のための学術研究機関として意識改革をして、そういう観点で研究の拠点となってもらいたい。国語のデータベースの構築とそれに基づく研究者の交流、そして、この共同研究の場としての学術研究機関の機能を発揮できるような内容の充実を図るためにも、大学共同利用機関として設置することは必要だと思う。
 今、大学共同利用機関法人の人間文化研究機構があって、その中に国語の分野が大学共同利用機関としてはないので、それを設けていくということの必要性は、研究者コミュニティでも熱望されていると思うので、ぜひ設置を推進していただきたいと思う。

【真田専門委員】
 前回、重点的に推進する必要のある研究分野という論点で、日本語の歴史や文法構造という、比較的、伝統的なところに焦点が置かれていたような気がするが、情報資料の収集、データベースについては、国語研究所が基礎的に、日本語に関するすべての研究文献のデータベースを作りつつある等、現代日本語資料の整理、収集を行ってきているので、その面も、より拡充して欲しいと思っている。
 一方、今後、大学共同利用機関に移るとすれば、その枠に従う形での改変が必要になる。もし移るとすれば、研究開発や政策研究といった実践的な側面は、やはり研究所から切り離されていくことになる。今まで文化庁等と連携しながら進めてきた事業等が切り離されていく。研究所が国民のためというよりも、言語研究のための研究所になっていくわけであるが、その点、日本語政策、日本語計画という面が、単に委託研究だけで十分ではないような気がする。その辺りの不安はあるが、学術研究に特化するのは大賛成であり、この方向は是非にと思う。

【井上主査代理】
 やはり本来の大学共同利用機関は学術研究が中心になることは間違いなく、それに特化することは、前回の会議でも共通認識だったと思う。
 現在、他の学術研究機関でも研究成果を政策課題や特定目的、特定課題に活用するという形の委託研究が既に行われており、外部からの委託に応じて、研究成果をさらに政策目的に使うということはあり得るのではないかと思う。
 学術研究が中心で、委託研究や、あるいは科学研究費で特定領域研究があって、その中で国語の中の特に必要な分野について研究を進めるということもあり得るので、そういう点では、必ずしも、政策研究が全くシャットアウトされて、今後そういう研究はできないというわけではないと思う。

【真田専門委員】
 昭和23年の創設当時の研究所の設置法に「文部大臣は研究所の監督をしてはならない」という条項があった。その原点に戻ることを歓迎しているが、今回も本当に自立的な研究ができるのか、課題が外部から押し付けられることはないのか、と実はそこを逆に心配している。

【井上主査代理】
 文化審議会の国語分科会等で政策の方向性を出せば、それに必要な調査研究やそれに基づく研究、学術研究は国語研でやる以外にはほかに機関がないのだろうから、全体を通して、そういうところでやればいいのではないかと思う。

【飯野主査】
 新しい大学共同利用機関の設置に関してはここでは各委員にご賛成いただいたと思うので、必要と考えるという方向に動いていると思う。大学共同利用機関をどの法人に設置するのが適当かという点も意見がほぼ一致しているかと思うが、その件につき、今、あとのほうに出た意見も踏まえて、石井委員の考えを少し伺いたい。

【石井専門委員】
 幾つか問題があり、基本的には、国立国語研究所と大学共同利用機関は今まで全く違うもので、まず法律的に違う。だから、大学共同利用機関に属している人間の意識の問題ということではない。
 いずれにしても、人間文化研究機構が、4つある大学共同利用機関の中では一番関係が深いだろうということで、国語学研究所の問題は別にして、一体、日本語の研究を大学共同利用機関でやるとしたら、どういうことを研究者コミュニティは考えているかということを聞くために、既に人間文化研究機構の中に懇談会を立ち上げている。
 そのため、人間文化研究機構としては、基本的には、この委員会の審議を受けて、人間文化研究機構に日本語に関する新しい大学共同利用機関を設置することができるか、できるとしたら、どういうふうに現在の国語研究所が変身してくれないと困るのか、その辺りの技術的な問題を含めて、研究者コミュニティの意向を含めてさらに検討していきたいと思っている。
 この委員会は予定通りなら、3月末で終わると思うので、それまでに研究者コミュニティの基本構想-大学共同利用機関における日本語研究センターか、そこは分からないが、日本語研究の1つの機関をつくるにはどうしたらいいかと、その基本構想をまとめて、今、意見を求めつつあるところである。これは3月末までに人間文化研究機構から、研究者コミュニティはこう考えているということを報告したいと思っている。

【飯野主査】
 大学共同利用機関設置の是非に関しては、この場でも関連学会の意向を伺いたいと思っているが、そのときには、また意見を伺わせていただきたい。

【中西委員】
 国語というと、小学校、中学校、高校、全部学んできているので、一人一人、イメージが違うと思う。今、話を伺っても、歴史の話や語学の話、文学の話もあり、イメージ的にはっきりつかめないところがあるので、日本語研究に何が必要かということをもう一回洗い出し、何をすべきか、ということをはっきりさせて欲しい。そうすれば、自然と機関の名前にも反映してくるし、イメージがつかみやすくなると思う。
 また、魅力ある人文社会科学の一つだということも一つの切り口だと思う。どこに魅力があるかというと、人間とのかかわりや社会とのかかわりの中に新しい魅力があると思われるので、もう少しイメージを固めてほしい。
 また、大学共同利用機関と国立大学の附属研究所の区別がよくわからない。
 自然科学だと、大型の機器の設置の問題があるから、大学共同利用機関が必要だということはわかるのだが、国語研究に対してはどういうイメージなのか。
 大学共同利用機関は国立大学法人法施行規則での位置づけなので、大学と共同して学生を育てられるということは非常にいいことだと思う。または、独自に若い人を育て、称号を与え、学生に目的を持たせるのと、どちらがいいのかわからないが、学生を育てられるような機関にしてほしいということを一つ希望したい。

【石井専門委員】
 今の問題で議論を分けて考えなければいけないのは、国立国語研究所という現に存在して仕事をしてきたものと、我々が今、大学共同利用機関で日本語の研究をしなければいけないと議論しているものとである。
 この「日本語か国語か」という問題と、ある組織をほかに移管するという問題とは分けて考える必要がある。大学共同利用機関として、日本語の総合的な研究をする機関をつくるとしたら、どういうものがいいんだろうか、何をやるべきなんだろうかということが重要で、その中に、もちろん国語の問題が入って構わないが、今の国語研究所のことは忘れて、こういう研究機関にしてほしいと、そういう研究者コミュニティの声をまとめて、ここで議論していただきたいと思っている。

【真田専門委員】
 「国語」と「日本語」に関してだが、対象は、我々にとっての母語というか、母国語としての言語の研究である。私は今、旧植民地、統治領の70歳以上の方々の日本語の調査を行っている。多くの人が日本語を話せるので、その人たちの日本語を調べながら、どういう特徴があるのかということを日本語の研究としてやっている。それを「国語」と言えないのである。それはやはり「日本語」、「日本語の研究」と呼ぶべきなのだと思う。その中で、標準語や方言の研究も行いたいと思っている。
 ただ、高等学校までは「国語」という教科で学んでくるので、「国語」をその教科の内容に即して考える人がいるかと思うのだが、対象はそれとはまったく別で、あくまで個別言語としての日本語を考えるということである。

【鈴木専門委員】
 日本語学会は元々、国語学会といって、名前を変えた理由はそこが非常に大きい。「国語を勉強しているというのは、小学校の教科書の勉強をしているのか」とまず聞かれるわけで、そこから説明するのはいつもかなり厄介で、まずその辺りのことがはっきり別のものだということがわかるようにするために日本語学会と変えたというのが、意識としては一番強いと思っている。

【井上主査代理】
 確かに、グローバル化した中で、国語といっても、非常にわかりにくいという点から言えば、それは世界に対して、言語を発信する、母国語を発信する場合に「日本語」という以外にないと思う。そういう意味では、日本語研究が中心であることは間違いない。
 今までの国語研究との違いが何かというと、我が国は島国だったということがあって、閉鎖的な空間で、国語と言っていたような気がするので、グローバル化した今は日本語研究と意識を変えていく以外ないと思う。それをもとに、日本人の日本語を母国語として、それを国語--高等学校まで「国語」と言っているので、そういうものに今度どう対応するかという意識改革の問題もあると思う。
 それは日本語の研究成果によって徐々に、学校教育段階の今使っている「国語」というものを「日本語」に変えたほうが研究者コミュニティからは適当であるということであれば、小、中、高等学校の教科書も変わっていくのではないか。そういうものも研究の成果として世に問うていけば、自ずから国民の理解と合意を得られるのではないかと思う。

【森学術機関課長】
 先ほど中西委員から、大学共同利用機関に関して、人文社会系での大学共同利用機関はどういうものかという質問があったが、行政の側で理解しているのは、先ほどの資料2-1のところで、特性というのもあるが、大学共同利用機関は共同研究を行う場ということが本質であり、例えば大型の施設設備とか、学術資料の収集、保存等はそのための手段である。
 人文社会系の場合には大型の施設設備はないので、手段として、資料を収集しているような研究所が、人文系だと、国立民族学博物館や国立歴史民俗博物館、国際日本文化研究センター、国文学研究資料館等があるが、基本的には共同研究を行う場である。
 具体的には、各研究所の職員たる研究者の方に対して、その約10倍の人数の方が共同研究員として入っている。4機構全部だと 約1,500人の研究者の方が専任でいるのだが、それに対して、全部で約1万5,000人の方が共同研究に入っている。人間文化研究機構でも、200人弱に対して約2,000人の共同研究の方が入っている。
 共同研究員は単にデータベースにアクセスする等というだけではなく、共同研究員という位置づけをその研究所でしており、その研究員の方がそこに入ってくる限りにおいては、その研究所の職員というわけではないが、いわば研究者の一員として入ってくる。
 金銭面で言えば、そこに参加してくるための旅費や研究費をその研究所で出す等といった形にしている。もし国語研究所が大学共同利用機関になった場合には、この研究所の研究者の方だけでなく、全国の大学の関係の日本語学者、国語学者の方々にそこに入ってもらい、共同研究ができるような場にしてもらう必要があると思っている。

【井上主査代理】
 大学共同利用機関になって、総研大の一環として、博士課程を設け、そこで若手研究者の養成ができるというのは非常に大きなメリットがあると思うし、国語研究者が少なくなってきているということから言うと、大学共同利用機関のドクターコースを設ければ、そこに自ずから若手研究者の養成ができるというメリットが発生するので、そういう点からもぜひ大学共同利用機関としての学術研究を行う機関になってほしいと思う。

【石井専門委員】
 ただ、その場合は教員の資格の問題が出てきて、それが非常に問題となる。マル合(博士課程後期で学位論文の指導できる資格)を取らないとならない。そこが難しい。

【井上主査代理】
 人文社会系を考えてみると、従来は必ずしもドクターを取っていなかったと思うのでドクターを持っていないからといって、マル合にならないということはないと思う。研究成果があり、それが評価されればよいのだろうから。

【真田専門委員】
 国語研究所では、かつては研究所の研究課題は全てが共同でやられていて、一生懸命個人的に研究をしても、それを研究所の仕事としては認められないということが実はあり、それを自分の業績にはできないということはあった。そこに少し問題があろうかとも思っている。それが後にどのように評価されるか、という点である。

【鈴木専門委員】
 社会的な評価としては、その研究員のやった仕事としてみなすことが多い。

【井上主査代理】
 それは、共同研究の成果を国語研究所という名前で公表していたということだと思うので、そこのところは評価していいのではないか。

【飯野主査】
 今は自分の業績にはできないのか。

【鈴木専門委員】
 自分で申告するときはしづらい。

【真田専門委員】
 名前がはっきりとした形で出ていない場合、ややしにくいのではないかと思う。

【井上主査代理】
 だから、教員審査のときに、大学設置審議会等でどう評価するかだと思う。

【鈴木専門委員】
 外から見ていると、この人だからできた、こういう研究の成果が上がったと評価されている場合が多い。

【真田専門委員】
 それは専門家だからわかるのだが、一般の人が見た場合にどうかということである。

【鈴木専門委員】
 そういうところを見てもらう必要があり、そこが評価されるようになれば、そういう問題がかなり解消されるのではないかという気がする。

【井上主査代理】
 それは教員審査のやり方だと思うので、その点を評価できるような申請の仕方をすればいいのではないか。

【鈴木専門委員】
 共同論文や共同研究等、いろいろな形の出し方があるだろうと思うので、それで細かい説明をつける等すれば、それも入れられるのではないかと思う。

【飯野主査】
 この点について他にご意見がなければ、大学共同利用機関において、どういう分野の研究がなされ得るか、あるいは必要か、そういった点についてはいかがか。

【石井専門委員】
 これは最終的には、研究者コミュニティが出した4項目ぐらいを私の方からまとめて提出したいと思っており、今、整理しているところである。

【中西委員】
 質問させていただくが、今伺って驚いたことは、個人的に非常に良い研究をしても、名前としては研究所の業績になるということで、それだと誰と一緒に研究をやればいいのか、外から見てわからないのではないか。自然科学だと、論文に20人ぐらい名前を書くこともあるが、個別の研究者の名前を書かないという歴史的な何かがあるのか。

【真田専門委員】
 報告書そのものは研究所編となるので、個人研究ではありえない。共同研究の中で一員として動くだけである。

【中西委員】
 他から見ると、だれがどこを担当しているかもわからないということか。

【真田専門委員】
 先程言われたように、専門家は分かる。分かるけれど、論文が別にあるわけではないので、どこまでが個人のものかと言われたときに難しい。

【中西委員】
 そうすると、ほかと共同研究しづらいのではないか。共同研究をしたいときに、こういうところはおもしろいアイデアだから、一緒に研究したいと思うときはどうするのか。

【真田専門委員】
 それは科研費の研究課題等ではやられている。また、最近は個人が前面に出るようにはなっている。しかし、かつて研究所の仕事そのもの、プロジェクトそのものは基本的に共同研究として行われていた。

【石井専門委員】
 自然科学の場合では連名がものすごく多いが、人文科学の場合にはその伝統が全くないので、共同研究というとき、この先生がいなかったらこれはできなかったという場合でも、その先生の名前が出ていれば分かるが、そうでないと、他の人たちは何をやったかわからない。

【中西委員】
 その中にも共同研究者の名前のリストが出てこないということか。

【真田専門委員】
 中心になったのはだれとだれであるとは書かれるが、はっきりした形では分からないというのが現実である。

【石井専門委員】
 これは構造的なものでしようがないと思う。例えば外務省でだれかが論文を書いても、それは何課等と書かれ、その人の名前は出てこない。それと同様で、制度の問題。

【井上主査代理】
 ただ、役所の文書も、分担して作成するので、例えば文部省という名前でも、文書の中で、第1章はだれかが書いたというふうになっていれば、研究者はわかるのではないか。

【鈴木専門委員】
 第2章はだれ、第3章はと書かれているものはある。

【井上主査代理】
 そういうのはやはりその人の研究成果として評価されてしかるべきではないか。

【鈴木専門委員】
 専門の学会では、それに基づいて何か書くときには、だれだれ執筆によるとかいうところまでつける。

【飯野主査】
 ほかに何かそういったことで、研究分野のことや大学研究者との連携によって、共同利用が推進されるようなときにはどういった基礎資料の集積や提供が求められるか等、大学共同利用機関に求められる役割や体制等に関しては何か意見があれば伺いたい。

【石井専門委員】
 例えば今まで国語研究所がやってきた中で、大学共同利用機関に変わっても、コーパス事業や方言研究であれば、大学共同利用機関の研究とぴたりと重なるものがある。しかし、例えば理論研究や言語学的なアプローチから言えば、入っていない部分があるので、国語研究所の今までの研究の全て駄目ということではなく、重なる部分と重ならない部分ができるということだと思う。

【飯野主査】
 新たに推進していかなければならないような分野についても何かあれば。

【石井専門委員】
 例えば理論研究はしなくてはいけないと思う。それから、方言の研究ももっと進める必要がある。また、歴史的な変化の研究は非常に重要だろうし、それから、対照言語学、例えば日本語と英語等の比較研究というものも非常に重要だと思う。

【中西委員】
 データベースづくりや辞典づくりは図書館等でしてほしいと思う。
 どういう辞典をつくるかというのは研究だと思うが、データベース等のルーチン化したところをするのではなく、研究をしっかりとしてほしいと思う。

【鈴木専門委員】
 データはあるけれども、一定の方針のもとに、それぞれまた別のところでやらせてもいい。

【飯野主査】
 そういった形での連携はあり得ると思う。

【鈴木専門委員】
 今、国語研究所には日本語教育の部門が非常に大勢いるが、実際に研究事業というときに、そういうものは、学術研究ということを考えると全く中心にはならないのか。

【石井専門委員】
 人間文化研究機構が日本語教育をやるわけにはいかない。

【鈴木専門委員】
 例えば第2言語習得論、中間教育言語教育の研究といった分野は、まさにいわゆる学際的な分野であり、実際の日本語教育の仕方や教科書づくり、研修等はもうやめてもいいと思うが、学際的な研究分野をセンター的に指導していくような、そういう部門は残していったほうがいいのではないか。

【石井専門委員】
 日本語研究、日本語教育という言葉では、少し難しいかもしれないが、対照研究等ということになれば、可能だと思う。

【飯野主査】
 そういったことに関係するかもしれないが、関係分野の大学附置研究所など、先ほど、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(以下、AA研という。)の説明があったが、そういったところとの役割分担や連携等ということはいかがか。先ほど、例えば研究と辞書編さんをある程度分けるという意見があったが、これは役割分担、すみ分けをするということだと思う。あるいは、どういう形で分担、あるいは連携ができるのかということに関してはいかがか。

【石井専門委員】
 アジア・アフリカという表現は特殊日本語的で、その中に日本は入っていない。だから、アジア・アフリカに日本語を加えれば、この中の言語研究等、いろいろなものにまさに対照で、アフリカの言語と日本語と対照とかということもできるので、そういう意味での共同研究は十分できると思う。

【飯野主査】
 何か意見があれば。先ほどから議論の中に出ているが、国際的な研究交流等に関してはいかがか。

【石井専門委員】
 国際日本文化研究センターは外国人研究者が20人ぐらい在籍しており、非常に多い。外国の日本語研究者を20人ぐらい、客員研究員で入れて、交流するということは非常にいいと思う。つまり、外国人研究部門としないでも、外国人研究者を入れて、日本人と並んで一緒に研究するという形。

【飯野主査】
 共同プロジェクトで研究を進めていき、そういう中で、若手研究者が養成されていく等も考えられる。

【石井専門委員】
 若手研究者育成は総研大に入れば、もちろんできる。

【飯野主査】
 ここまで議論が進んできたが、そういう中で、例えば大学の役割はどんなふうになるか。研究者の養成や確保においての役割、あるいは大学教育全般に日本語研究を生かすにはどうしたらいいか等、現状などをよくご存じの方からも考えを伺えればと思う。

【石井専門委員】
 大学共同利用機関はもともと、大学と関係なく、自己完結的なものであってはいけない。そのため、共同研究の多くの人、ほとんど大半は大学所属の研究者である。そして、それがネットワークのような形になって、共同研究の場を大学共同利用機関が提供している。

【飯野主査】
 そして、それが大学にも戻っていく、フィードバックされるということになる。これは非常に重要なところだと思う。

【真田専門委員】
 国語研究所のプロジェクトによる共同研究では、私の大学院での指導生たちも、多くフィールドワーク等に参加させていただいている。

【井上主査代理】
 現在でも、国語研究所が方言の研究等、全国的な国語研究をやる場合に、各大学の研究者の協力を得てやっているという実態があると思うので、そういう意味では、大学共同利用機関としての研究形態も既に取り入れた形で研究が行われているということでもある。国語研究については自然な形でスムーズに入っていけるのではないかと期待している。

【石井専門委員】
 ただ、現状ではほとんど日本語教育なので、そこが少し違うと思う。

【井上主査代理】
 それで、AA研の形で見ると、日本語研究もこういう形が一つ考えられると思うが、従来はあまり対照言語学の研究が行われていないということがあるから、今後は、研究分野としてはそういうものの充実させて、外国人が入って一緒に共同研究する等で、非常に特色を発揮できると思います。

【森学術機関課長】
 日本語におけるフィールドサイエンス研究は、方言の研究のようなものになるのか。

【真田専門委員】
 方言に限らず、フィールドにおいて、性差を調べたり、年齢差を調べたり、企業による言葉遣いを調べたり、社会的属性と相関する日本語変種の調査をするわけで、決して地域差としての方言に限定されるものではない。

6.閉会

 次回以降の開催予定について、事務局より説明があり、本日の委員会は閉会となった。

お問合せ先

研究振興局学術機関課