資料3-1 大学共同利用機関法人人間文化研究機構 立本成文 機構長説明資料

第65回研究環境基盤部会における「共同利用・共同研究体制強化に向けた、共同利用・共同研究拠点(共研拠点)と大学共同利用機関(共利機関)の位置づけ及び関係」についての意見
〔発表者:立本(たちもと) 成文(なりふみ) 人間文化研究機構 機構長〕20140909
(前同機構総合地球環境学研究所長・元京都大学東南アジア研究所長)

観点1:現状、大学共同利用機関(以下共利機関と略す)と共同利用・共同研究拠点(以下共研拠点と略す)の差異は何か。その原因は?

人文社会科学分野においては、ミッションの特殊性と規模の大きさであろう。一般的に言って、領域、分野によって事情は違うであろうが、総合的に共利機関と共研拠点とを差異づけるのは組織、体制の違いであろう。
共同研究は改めて言うまでもなく、研究の機能強化の方策として必要不可欠なものである。その理念を標語風にまとめれば、(1)総合性、(2)多様性、(3)創発性(革新、イノベーション)であると考えたい。理念を達成するための手段が共同研究・共同利用なのである。
研究内容(対象・方法・目的)は共利機関の分野ごとに異なり、もちろん共利機関と共研拠点とを二つの制度として一括して比較することは難しい。
共同利用・共同研究の研究スタイルの違いは分野別によって違い、共研拠点と共利機関という制度から出てくる違いではない。ただ、科学の進歩に伴いいろいろな面で複雑さが増幅され、分業体制による共同研究が当たり前になり、プロジェクト方式、組織的共同研究だけが共同研究であると見なされるようになっていることは否めない。人文学から見ると、あまりにも共同研究の推進が組織的共同研究の基準で断罪されすぎているという恨みはある。
共同利用・共同研究システムは全国共同利用制の大学付置研究所から始まって、全国共同利用研究施設そして(国立)大学共同利用機関となり、その18機関を大学共同利用機関法人として4つに再編されたわけであるが、その後、共同利用・共同研究拠点の認可制度を大学法人の中に創設したのが、共利機関にとっては大きなターニングポイントになっているのではないかと考える。
システム、体制としての違いは大きく、これを有効に活用すべきである。まず法人組織としての違い。組織運営、人事、財政的支援における違いは大きい。特に大学と違って、共利機関は分野に特化した、学生のいない研究機関であり、大学のように直接的なサポート、連携がとりにくい。総研大との連携は人間文化研究機構(以下人文機構と略す)の場合、若手研究者養成、後継者育成の面が強い。

観点2:双方の現状を踏まえた、共利機関のミッションと共研拠点のミッション(役割分担、デマケーション。)

個々の共利機関は固有の設置目的があるので、分野、領域、課題ごとに類似の共研拠点との役割分担の違いはありうる。それを共利機関と共研拠点と一括して一般化するのは難しい。新分野開拓の研究に重点を置く共利機関と、研究と教育を両輪とする共研拠点というレベルでのミッションの違いはあるかもしれない。
ミッションの違いそのものではないが、共利機関の役割として、研究者の流動性を促進する機関とすることは、研究者コミュニティのリフレッシュのチャンスともなる。
もちろん、分野、領域によっては大学で維持するのが難しい大規模施設や資料などによってデマケーションが可能である。あるいは何らかの特色のあるところはそれを強調することによって役割分担の違いといえるかもしれない。人文学一般としていえば、学問的基盤の深化と創発性を図るために、あえて組織的な共同研究を実施する体制を整備する必要があり、共利機関がこの役割を担うべきである。
人文機構では、施行規則で定められた機関の具体的な目的はそのままにして、それを機関のミッションとして法人化当初は改正を行っていなかった。機構レベルでは法人のビジョン(人間文化研究のパラダイム転換の提言)とそれを達成していくための法人レベルのミッション(①総合性、②研究教育の卓越性、③共同利用・共同研究の高度化、④社会連携・社会貢献)を明確にし、それを機関レベルでの具体的なミッション(戦略目標)につなげていく。幸いに人文機構では、人間文化研究、日本文化研究というターゲットでくくることができるので、大学という教育研究機関では難しい、総合性、イノベーションによる、新しいパラダイムを提示する役割も生まれてくる。教育、学術行政、社会的評価がともすれば科学技術の進歩の価値で測られることに、根本的な批判を提供する役割である。

観点3:法人化以後、共研拠点が共利機関になるなどの組織的な流動性が失われていることをどう考えるか。

共利機関としての魅力の減少。共利機関法人からの吸引力不足。しかし、法人として、例えば共研拠点を資源に新領域の機関を作ろうとすると、財政的に独立する目途を立てるのが極めて困難な中で、財政的支援を含めて研究環境を魅力的なものに整備する必要がある。一方では共研拠点の属する大学法人のメリットも配慮する必要があろう。
一般的に言えば、共利機関に転換するインセンティブの欠如といえる。
大学共同利用機関にしていく条件として、研究者コミュニティからの勧告、具申等があるが、大学法人化後、ともすればこの動きが少ない。
もちろん大学法人の事情と言われる、大学の研究能力を高め、広報ともなる人的資源を手放したくない、むしろ大学の中で再編したいという事情もあろう。
インセンティブの欠如は独立の法人のなかで共研拠点制度を認定したことによる影響として検証する必要があろう。

参考:観点3についての最近の具体例(地球研、地域研究、国語研の例)

(1)総合地球環境学研究所

 理想的な共同利用共同研究機関として創設、総合性・流動性・国際性・中枢性のある研究機関をめざし、外部研究機関との流動連携によるプロジェクト方式を全面的に採用できる特別経費によって可能となった。
設立経緯:学術審議会で平成2年に地球環境科学部会を設置。平成6年、細川総理(武村官房長官)の私的諮問機関「21世紀地球環境懇話会」の発足、平成7年学術審議会建議によって平成13年大学共同利用機関として創設。当初の流動連携研究機関は、*北大低温科学研究所(現在共研拠点)、*東北大学大学院理学研究科、東京大学生産技術研究所、*名古屋大学地球水循環研究センター(改組して現在共研拠点)、*京都大学生態学研究センター(現在共研拠点)、国立民族学博物館(人文機構)、*鳥取大学乾燥地研究センター(現在共研拠点)、*琉球大学熱帯生物圏研究センター(現在共研拠点)である。(*印は設立時にポストを出す)

(2)地域研究(大学共同利用機関にならなかった例)

平成2年「地域研究の推進方策に関する調査会議」民博に設置。平成6年「地域研究企画交流センター」民博に設置。平成12年「地域研究の総合的な推進方策に関する調査研究委員会」平成13年「地域研究の総合的な推進体制に関する調査研究委員会」平成18年センター廃止。
本体のメンバーは京都大学地域研究統合情報センター(現在共研拠点)に移り、政策的・社会的ニーズに対応する地域研究プロジェクトの推進は文部科学省から政策研究大学院大学が所掌し、拠点形成が遅れている地域研究の推進を人文機構が担った。
なお、直接関係する地域研究の共研拠点は北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、東外大アジア・アフリカ言語文化研究所、京都大学東南アジア研究所、京都大学地域研究統合情報センターで、最後のセンターは97の加盟組織がある地域研究コンソーシアムの事務局を担っている。

(3)国立国語研究所(独立行政法人から大学共同利用機関法人へ)

独立行政法人であった国立国語研究所が閣議決定によって廃止され、平成21年に人文機構のなかの新しい共利機関として設置した。英語名をNational Institute for Japanese Language and Linguisticsと変更して、日本語を世界の諸言語の一つとして位置づけ、日本語学、言語学、日本語教育研究の国際的研究拠点を目指している。

観点4:共同利用・共同研究体制を強化するために、共利機関と共研拠点は最終的にどのような関係であるべきか。

体制の違いを利用しながら、補完的な連携関係を構築できることが望ましい。
共利機関としては大学法人との大学院連携は効果が大きい。大学院教育・人材育成面での連携を総研大のみに集中させるのではなく、各大学に広げることによって、大学院教育のより一般的な連携関係が築ける。特に、共利機関が新しい分野において設置された場合や、イノベーションを果たした場合には、その成果を大学に還流するというのはミッションの一つであろう。その手段としても人材の流動性を維持することは必要である。
組織的な連携が推進できる関係にあれば、融合または統合が考えられるが。実際問題としては法人の都合、思惑などのハードルが多すぎるという印象である。

観点5:共研拠点や共利機関がCOEとしての機能を高めるために、どのような取り組みが必要か。

隣接分野の統合、文理融合による統合科学としてブレークスルーへの取り組み
優秀な人材に魅力的な研究環境の提供
連携による海外拠点の活動を通しての国際的ネットワークの確保
汎用データベースの整備(書誌データ、コーパス、サービス用データ)
任期制採用やサバティカルやクロスアポイントメントによる流動性。

ことばと解釈の問題が根底にある人文学の分野では国際化への基盤条件整備を図ることが必要
国際的知的存在感を発揮する、内容の質・水準の向上
共通語による伝達手段たとえば英文レビューによる発言
分野(たとえば、文化人類学、考古学、地域研究、外国研究、国際関係論など)によっては、対象のグローバル化についても配慮する必要がある。
共利機関が学際的・国際的アリーナ(高等研究機関)海外国内研究者を問わず一定の流動的部門からなる、虚学や創造的研究の場であるとともに、社会要請に応じた共同研究情報発信の拠点の役割を果たす。
対話(dia-logos)、場を共にするという共同研究の在り方はとくに人文学として極めて大切なことである。
(以上)

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-- 登録:平成28年05月 --