(1)個々の大学の枠を越え、全国の国公私立大学等から研究者が集まって共同利用・共同研究を行う「全国共同利用」のシステムは、我が国が独自に発展させてきた仕組みであり、国際レベルの研究成果をあげるなど、我が国の学術研究の発展に大きく貢献してきた。
(2)多くの研究分野において、多様な背景を有する全国の関連研究者が共同して研究を進める必要性と有効性は大きく、人的・物的資源の効率的な活用の観点からも、今後更に共同利用・共同研究の充実を図っていくことが重要である。
(3)共同利用・共同研究の機能は、1関連研究者で大型の研究装置を共同で開発し(改良・機能向上を含む)利用すること、2個別の大学では収集・保管等が困難な大量の研究資料やデータを収集・整備し関連研究者で共同利用すること、3関連研究分野の発展に資する共同研究や研究集会を組織し研究者の交流を図ることなど、研究分野の性格等に応じ多様であるが、総じて、研究者の知を結集させ、研究者コミュニティの意向を踏まえて共同で研究を推進するという点が重要である。
(4)「全国共同利用」という用語は、国立学校設置法施行規則(平成16年廃止)の規定等を踏まえ、従来共同利用・共同研究のシステムを指す用語として用いられてきた。その趣旨は、「全国の研究者が共同で利用する研究所・研究施設」というものであるが、「利用」という言葉は、設備や資料の共同利用のみを想起させることから、共同研究の拠点としての意義を明確にすることが必要である。このため、以下、本報告書においては、「共同利用・共同研究」という用語を用いる。
(1)これまでの「全国共同利用」は、国立大学の全国共同利用型の附置研究所や大学共同利用機関等を拠点として推進されてきた。平成16年に国立大学が法人化される以前は、「全国共同利用」の拠点は国立学校設置法の法体系の下で法令によって設置され、「全国共同利用」に必要な経費は国が国立学校特別会計により措置しており、国立のシステムの中で、国の学術政策上必要な体制を整備してきたとも言える。今後は、国全体の学術研究の発展のため、並びに学術の継承・普及・活用に不可欠な人材育成のために、国公私立を問わず大学の研究ポテンシャルを活用し国として最善の研究体制を整備する観点から、公私立大学についても、共同利用・共同研究の拠点としてふさわしい研究環境や特色ある設備・資料等を有する場合には、拠点として位置付け、重点的に支援すべきである。
(2)他方、現在国立大学に置かれている全国共同利用型の附置研究所等においては、大学の内部組織として大学全体の運営方針に基づく資源配分に左右されることから、研究者コミュニティの意向との調整が困難な場合が生じている。同様の問題は、公私立大学に拠点を整備する場合にも起こりうることであり、国として重点的に支援するものとして、共同利用・共同研究拠点の制度的位置付けとこれに対する支援のあり方を明確にする必要がある。大学共同利用機関は国立大学法人法に根拠規定があるが、大学に設置する拠点は現在法令上の位置付けがないことから、国公私立大学を通じた共同利用・共同研究拠点について、学校教育法施行規則等に必要な規定を設けるべきである。
(3)そこで、国公私立大学を通じた新たな制度として共同利用・共同研究拠点の整備を国の学術政策の重要な施策と位置付け、既存の拠点組織の見直しを行うとともに、これまで拠点のなかった分野等についても、研究者コミュニティの意向を踏まえ、必要な場合には拠点の整備を行っていくことが必要である。
(4)これまでの国立大学の全国共同利用型附置研究所等は一分野につき一拠点とすることを原則としてきた。今後国公私立大学を通じて共同利用・共同研究拠点を整備していく際には、研究分野によっては、一定の役割分担の下で複数の拠点を設けて相互に連携を図ったり、一定の地域においてその地域の研究者が集結する拠点を設けることで地域の学術研究の活性化とレベルアップを図ったりするなど、柔軟な形態を可能にし、当該研究分野の特性や研究者コミュニティの議論を踏まえて最適な拠点整備を行うべきである。
各拠点組織が対象とする研究分野の範囲は、国際的な学問動向や関係学会の状況等を踏まえ、一定のまとまりをもった範囲とすることが適当であり、特定の先端的研究分野に特化したり、ある程度広い領域を設定して異なる分野の研究者の交流により学際的なアプローチを行うなど、研究者コミュニティにおいて適切な範囲を設定することが必要である。なお、幅広いミッションを掲げる大規模な研究所等においては、その一部が拠点となったり、場合によっては一つの研究所が複数の拠点を包含したりすることも考えられるが、そのような場合には、当該研究所において、研究所全体のミッションと拠点の活動との整合性や、研究組織全体の運営と拠点との運営の関係に十分留意することが求められる。
(5)さらに、分野の特性等に応じ、従来のような固定的な組織ではなく、ネットワーク型の拠点形成が可能となるような形態も推進すべきである。例えば、
などが考えられ、その他、研究分野の特性に応じ、多様な形態を工夫すべきである。その際、大規模な研究所等の部内組織が他の研究組織とネットワークを形成することも考えられる。
(1)共同利用・共同研究の効果的な推進のためには、研究者コミュニティの自主性・自律性に基づいた運営を確保することが極めて重要であり、開かれた運営体制を整備し、運営に外部研究者の意見を反映する仕組みを整える必要がある。その際、国際的な共同利用・共同研究拠点にあっては、海外の研究者の意見の反映にも配慮することが必要である。また、研究者コミュニティによる運営を確保するためには、拠点組織の研究者の人事に関しても外部の意見を取り入れるなどの配慮も考えられる。なお、複数の研究組織がネットワークを組んで拠点を形成する場合には、ネットワーク全体としての運営を協議する場が必要であるが、その場合にも、ネットワーク外の研究者の意見を反映する仕組みが必要である。
(2)共同利用・共同研究の実施にあたっては、国公私立大学等の研究者に対して広く研究課題の公募を行い、関連研究分野の動向を踏まえ、外部研究者を含む合議体により公正な採択を行うことが必要である。共同利用・共同研究の実施方法や研究課題・参加者の規模等は、分野に応じて多様であり、一律の基準を設けることは適当でないが、それぞれの研究分野の内外の動向や研究者コミュニティの意向を踏まえ、各拠点において適切な共同利用・共同研究を実施することが必要である。
(3)共同利用・共同研究の拠点組織においては、共同利用・共同研究に参加する外部の研究者への支援を適切に行うため、必要な事務職員や技術職員を配置するなど、体制を整備することが必要である。
(4)また、共同利用・共同研究の形態に応じて、外部から参加する研究者が研究を実施するために必要なスペースや情報基盤へのアクセス等を確保することが必要となる。さらに、共同利用・共同研究の形態によっては、国内外の研究者のための宿泊施設が確保されるようにすることも望ましい。
(5)全国の多様な研究者の参加を促進するため、共同利用・共同研究に関する情報提供を充実させることが重要である。とりわけ、研究成果に係る情報発信については、研究者コミュニティの発展に資するとともに、社会に対する説明責任を果たす観点からも、積極的な取組が求められる。
(6)共同利用・共同研究の活性化のためには、国公私立大学を通じ、優秀な研究者が共同利用・共同研究課題に参加することが重要である。また、拠点組織とその他の国公私立大学との間での人事の流動性を高めることも重要である。所属を越えた人事の流動性を高めるためには、必要に応じ任期制や公募制を採用するほか、異動によって研究者が処遇面で不利にならないような仕組みも必要であり、年俸制の導入は方策の一つと考えられる。
国公私立大学の研究者が一定期間所属大学における教育職務を離れ、最先端の研究環境を提供する拠点における研究活動に参加することで、新たな研究活動の発展を期することも考えられる。国立大学法人について、非公務員化された人事制度の下で、研修休業制度等を自由に創設することが可能になったことも踏まえ、各国公私立大学において、それぞれの主体的な判断により研究者の休業制度を設けるなどの工夫が望まれる。また、優秀な研究者が拠点における研究活動に専念できるよう、各種フェローシップ制度の活用や、所属大学における代替教員の確保に必要な経費の支援を行うための方策の検討も必要である。
(7)共同利用・共同研究拠点においては、国内外の優れた研究者が結集し、最先端の研究環境の下で独創的・先端的な研究活動を展開している。大学院学生等の若手研究者がこのような環境の中に入ることは、高度な人材育成の観点からも、研究の活性化の観点からも有効である。拠点においては、全国の国公私立大学と連携・協力して大学院教育等に貢献するとともに、若手研究者の共同利用・共同研究への参加を推進し、関連分野の人材育成に積極的な役割を果たすことが望ましい。
(8)共同利用・共同研究拠点は、我が国における当該研究分野の中核的研究拠点として国際的なレベルの研究を推進し、当該分野の研究の発展をリードする役割を果たすことが求められる。また、国際的な連携が不可欠な分野等においては、当該分野の国際的な連携・協力の窓口としての役割を果たし、内外の研究者の交流の場を提供することも期待される。国際的な共同研究を実施するためには、国際的にも魅力ある研究活動を推進し、海外の諸機関と継続的な友好関係を構築することが必要であるとともに、国際的な対応を専門とする事務職員の配置や組織の設置など、外国の研究者の受け入れのために必要な環境や仕組みの整備も必要である。また、国際的にも中核的な研究拠点を目指すためには、国際公募を実施し、待遇面等について柔軟な人事制度を整えることにより、国内外から卓越した研究者を集め、国際的な研究環境を目指すことも考えられる。さらに、国際的に当該分野をリードする役割を果たすためには、海外の若手研究者を受け入れたり、拠点において育った人材を海外の研究機関や国際機関等に送り出したりすることも重要である。
(9)共同利用・共同研究の拠点組織においては、拠点としての役割・機能を十分に果たしているか、不断の評価を行うことが必要である。共同利用・共同研究の評価においては、研究者コミュニティの要請に応えているか否かという観点が重要であり、開かれた運営体制による日常的な評価機能に加え、定期的に外部評価を受けることが必要である。また、分野の特性に応じ、国際的な評価を実施することも必要である。
なお、共同利用・共同研究による研究成果は、参加した研究者の成果として評価されるとともに、拠点組織の成果としても評価されるべきである。また、大学におかれる拠点組織の活動の評価は、当該大学の評価にも適切に反映されるべきである。
(1)前述したように、共同利用・共同研究は、大学の枠を越えて研究者の知を結集し、国全体の学術研究の発展を図る極めて効果的なシステムであり、国の学術政策として、国公私立大学を通じてそのための拠点整備を推進し、必要な支援を行うことが重要である。
(2)共同利用・共同研究の拠点の設置形態としては、研究分野の特性、研究者の状況や必要とされる研究基盤の性格等により、特定の国公私立大学の中に設置したり、複数の国公私立大学が共同で設置したりすることが適当な場合と、特定の大学に属さない大学共同利用機関とすることが適当な場合がある。
(3)大学内の拠点は、多様な学問が存在する場で研究が行えるというメリットや、学生に対する教育や研究指導を身近に行えるなどの人材育成面のメリットがある。また、大学側にとっても、特徴的な研究活動を実施するとともに、最先端の研究環境における教育研究活動を可能とし、大学に個性を付与し大学院教育を高度化するというメリットがある。
他方、特定の大学内に拠点を設置する場合には、共同利用・共同研究の拠点組織は、通常の内部部局とは異なり、当該大学のみのための施設ではなく、いわば全国の関連研究者のための施設であり、その運営には研究者コミュニティの意向を反映させることが強く求められるということを、大学として十分認識することが重要である。
(4)共同利用・共同研究拠点を設置する際には、研究者コミュニティからの拠点設置の要請に基づき、拠点を設置しようとする国公私立大学や大学共同利用機関法人が計画案を策定し、学術分科会において、その妥当性を審議することが適当である。
(5)その際、上述したような研究者コミュニティの意向を運営に反映させるため外部の関連研究者が参加する開かれた運営体制を整備していること、共同利用・共同研究課題を広く公募する仕組みが整っていること、適切な支援体制が整っていること等を要件とし、研究者コミュニティの要請や内外の研究動向を踏まえているか、計画案に具体性や実現性があるか、学問分野の発展への寄与が期待できるか、といった観点からの検討を行うことが必要である。
(6)既存の拠点組織についても、研究者コミュニティの意向を踏まえ、共同利用・共同研究が適切に行われているか等について、国として定期的な評価と見直しを行う必要がある。なお、国による評価の実施にあたっては、拠点組織が実施する外部評価の資料等を活用するなどの工夫により、研究者の負担の軽減に留意することが適当である。
(7)共同利用・共同研究の拠点となる組織の改廃等は、大学等の独自の判断のみで行うことは適当でなく、研究者コミュニティの意向を踏まえ、学術分科会で国全体の学術研究の推進の観点から妥当性を判断することが必要である。
(8)共同利用・共同研究に必要な経費(拠点の運営経費や共同利用・共同研究に係る研究費等)は、個々の国公私立大学の枠を越え、国全体の学術研究の発展に資する経費であり、国において安定的な財政措置を行うことが重要であり、そのための支援スキームが必要である。その際、共同利用・共同研究に供する施設・設備等に係る経費についても、その負担のあり方について新たな視点で検討する必要がある。なお、複数の研究組織がネットワークを組んで拠点を形成する場合には、ネットワーク内における経費の配分・使用を適切に行える仕組みが必要である。
(9)共同利用・共同研究に必要な経費に係る国に対する予算要求の手続きや会計処理上の取り扱いについては、研究者コミュニティや社会に対する説明責任が果たせるような仕組みを検討する必要がある。
(10)なお、現在、国立大学法人の全国共同利用型の附置研究所等については、共同利用・共同研究に係る経費が国立大学法人の運営費交付金の中で措置されており、各法人が定める優先順位の中で位置付けられているが、共同利用・共同研究に係る経費は、当該法人のみのための経費ではなく、全国の関連コミュニティの研究活動のための経費であるため、国として、法人の優先順位とは異なる観点から財政措置を行うことが適当である。
(11)以上を踏まえ、共同利用・共同研究拠点の整備及びそれに対する支援等のあり方について、国において具体的な制度設計を行うことが必要である。その際、国公私立大学に設置する拠点の整備については、別紙のイメージにより、文部科学大臣が拠点を位置付けることとすることが適当である。
(1)大学共同利用機関法人は、関連分野の大学共同利用機関の設置主体であり、拠点としてのノウハウを有するとともに、各分野の意向を踏まえた運営の仕組みを有している。大学共同利用機関や大学共同利用機関法人が、国公私立大学の研究組織との連携の強化等によりネットワークの中心としての役割を果たしたり、国公私立大学に置かれる他の拠点組織に対する支援を行ったりして、関連分野全体をリードする中核としての機能を果たすことが期待される。
(2)また、大学共同利用機関法人が、幅広い関係者の議論の場となり、学際的分野や新たな学問領域のコミュニティを育成し、研究拠点を形成する役割も期待される。
(3)大学共同利用機関法人が、このように学術コミュニティの中核としての役割を果たすためには、例えば教育研究評議会をより幅広い関係者から構成するようにするなど、その運営体制等のさらなる強化を図ることが望まれる。
研究振興局学術機関課
-- 登録:平成21年以前 --