2.学術研究組織の整備

1.学術研究組織の現状と課題

(1)学術研究の主な担い手は、国公私立大学及び大学共同利用機関である。大学においては、学部や研究科のほか、大学や学部等に附置された研究所・研究施設において、研究活動が実施されている。さらに、国立大学の全国共同利用型の附置研究所や大学共同利用機関等においては、全国の関連分野の研究者による共同利用・共同研究が実施されており、我が国全体の学術研究の発展に大きく貢献している。

学術研究組織の意義・役割等

(2)国公私立大学の附置研究所・研究施設は、学生に対する教育の体系を基本として設置される学部・研究科等と異なり、研究上のミッションを掲げて特に設けられる組織である。
 これらの研究組織は、優れた研究の芽をさらに発展させる場として特定分野の研究を組織的・集中的に深め、先端的な研究課題に自発的に取り組んだり、個々の学部・研究科等では実施が困難な多分野にまたがる総合的な研究体制を構築し、細分化された研究の組織化や新たな研究領域の開拓、課題解決に向けた総合的なアプローチを行うなど、各大学における特徴的な研究の発展に大きく寄与している。
 また、研究科等との連携により教育活動に参加し、学生に最先端の研究に触れる機会や学際的な環境で学習する機会を提供したり、独自の研究環境や研究成果を活用して地域貢献活動を行うなど、研究、教育、社会貢献の各面において、大学に個性を与える役割を果たしている。

(3)研究組織においては、組織としてのミッションの達成に向けて構成員が目的意識を共有し、様々な研究課題を設定して取り組んでいる。このような組織的な研究活動は、特定の研究課題に取り組む個別の研究プロジェクトとは異なり、共通のミッションの下に一定の人的・物的資源を継続的に備え、様々な研究活動を組織的・体系的に展開してその成果を結集・蓄積・継承することができるという特長がある。
 なお、研究組織のミッションとしては、緊急の学問的・社会的課題への対応など比較的短期間で取り組むべきものと、特定の学問分野に関する総合的な研究や継続的なデータ収集に基づく研究などある程度長期的・継続的に取り組むべきものとが考えられる。前者の場合は、大学等が組織を設置する際に必要に応じ存続の時限を設定することが適当である。また、後者の場合は、長期的な視野に立った研究推進が必要であるが、内外の学問動向等を踏まえ、定期的に組織の研究活動の自己点検評価や外部評価を行い、必要な見直しを行うことで、様々な研究課題に柔軟に取り組み、組織の活性化を図ることが重要である。

国公私立大学等の研究組織の現状と課題

(4)従来、学術研究組織に関する国の施策としては、国立大学における附置研究所・研究施設の設置や全国共同利用化、大学共同利用機関の設置等を行っており、これらの拠点組織において、大型プロジェクト等の重点的な研究推進も行ってきた。

(5)国立大学は、国公私立大学全体の大学院学生の約6割(理工系の博士課程は8割)を有するとともに、専任教員の所属する附置研究所や研究施設を設置する大学も多い。平成16年に国立大学が法人化され、国立大学における研究組織の設置改廃や学内における予算配分は、基本的に各法人の判断で、自主的・自律的に行うこととなり、大学独自に新たな研究組織を設けるなどの動きが見られる。一方、附置研究所・研究施設については、法人化以前は、法令(国立学校設置法体系)により設置され、国立学校特別会計において研究所・施設毎に国から予算配分を受けていたが、法人化以後は、大学全体の運営方針に基づく資源配分の中で位置付けられることになったことから、国全体の学術研究の発展の観点から必要な研究の推進が、大型プロジェクトも含め、困難になる可能性が指摘されている。

(6)私立大学は、国公私立大学全体の約7割の学生、約5割の教員を有しており、それぞれの建学の精神に基づき特色ある研究活動を展開している。研究の多様性を確保し国全体の学術研究の発展を図るためには、私立大学の研究機能を一層活かしていくことが不可欠である。国としては、私立大学学術研究高度化推進事業等により各大学の研究組織の整備を支援するとともに、国公私立大学を通じた21世紀COEプログラムやグローバルCOEプログラム等により教育研究拠点の形成を支援しており、各大学においては、これらの支援も活用しつつ様々な研究活動を推進している。その結果、人文学・社会科学分野において優れた研究実績を有する大学や、自然科学分野において優れた人材を多く育成した実績を有している大学も少なくない。しかしながら、私立大学は授業料を主な収入源とし、主に自己収入によって研究環境を整備しなければならないことから、多くの私立大学では、先端的な研究のために必要な組織を整備したり、優秀な研究者を研究所等で研究活動に専念させたりすることが困難な状況である。他方では、優れた人的・物的資源を有していても、全国の拠点として国全体の学術研究の発展に資するような仕組みがなく、私立大学の研究機能を活用するための仕組みの整備が必要である。

(7)公立大学は、地域における学術研究拠点として大きな役割を果たしており、それぞれの地域の個性や特色に応じ、研究活動を推進している。地方分権の進展等に伴い、近年その数は急増(過去20年間で倍増)するとともに、国私立大学のない地方都市や中山間地域において研究活動を実施したり、特色のある研究組織を設置する大学も見られるなど、国全体の学術研究の発展のために公立大学が果たす役割も大きくなっている。公立大学の特徴的な研究活動を国全体の学術研究推進の観点から活用する視点が必要である。

(8)研究の活性化と発展のためには、複数の国公私立大学が連携協力し、それぞれの所有する人的・物的資源を活用して相互補完を図ることが有効である。近年は、大学間協定の締結やコンソーシアムの形成等により共同研究や人事交流、情報共有を行うなど、国公私立大学の枠組みを越えた連携の例も増加している。さらに、各大学の自主的な判断により、複数の国公私立大学が共同で研究組織を設置することも有効である。

(9)大学共同利用機関は、全国の国公私立大学の研究者のための学術研究の中核拠点として、個別の大学では整備や維持が困難な施設・設備や学術資料等を全国の研究者の利用に供し、効果的な共同研究を実施することで、我が国の学術研究の発展に重要な役割を果たしている。大学共同利用機関は、それぞれの分野の研究者コミュニティの要請等に基づき、学術政策として国により設置されてきたが、平成16年に法人化され、大学共同利用機関法人が設置主体となった。法人化にあたっては、複数の大学共同利用機関が将来の学問体系を想定して分野を越えて連合し、機構を形成することによって、国全体の学術研究の総合的な発展に資することを目的とし、既存の16の大学共同利用機関が4つの機構(大学共同利用機関法人)に再編された。大学共同利用機関法人においては、各大学共同利用機関による共同利用・共同研究の推進に加え、機構化のメリットを活かし、機関間の連携等により、従来の学問分野の枠組を越え、新たな研究パラダイムの構築に向けた取組を進めている。

(10)以上のような状況を踏まえ、国公私立大学を通じた大学間の連携協力の促進や、個々の大学を越えた拠点組織の整備など、国公私立大学全体を視野に入れて、今後の学術研究組織の整備のあり方を検討することが必要である。

2.学術研究組織の整備に関する大学と国の役割

大学における主体的な組織整備

(1)国公私立大学における研究活動は、各大学がそれぞれの研究戦略に基づいて自主的・自律的に実施するものであり、そのための研究組織の設置や改廃は、各大学が主体的判断に基づき実施するのが原則である。

(2)各大学においては、それぞれの目指す役割・機能に応じ、個々の研究者や研究室レベルで行われる多様な研究活動を推進するとともに、優れた研究や特徴的な研究等を発展させる必要がある場合には、必要な研究組織を機動的に整備して研究を重点的に推進することが求められる。また、大学全体としての研究活動や教育研究組織のあり方について、定期的な評価と見直しを行い、活性化を図ることが重要である。

国の役割

(3)国は、各大学における多様な研究活動を支援するとともに、国全体の学術研究の発展の観点から必要な中核的研究拠点となるべき研究組織については、内外の研究動向や研究者コミュニティの意向を踏まえ、国の学術政策として重点的に支援を行う必要がある。

(4)国全体の学術研究の発展の観点からは、大学の枠を越えて研究者の知を結集させる共同利用・共同研究の拠点(国際的な拠点を含む)を支援していくことが特に重要である。共同利用・共同研究の拠点となる研究組織(複数の研究組織がネットワークを組んで拠点を形成する場合を含む)については、個別の大学の判断のみにより設置改廃を行うべきではなく、研究者コミュニティの意向を踏まえ、国の学術政策として一定の関与を行って行くことが必要である。国公私立大学の既存の研究組織の中には、既にこのような拠点としての機能を有するものや、将来的に拠点として発展することが期待されるものがあり、そのような研究組織は、国として重点的に支援する。なお、大学共同利用機関については、特定の大学に属さない共同利用・共同研究拠点として、国が関与・支援を行っている。

(5)また、学際的・学融合的分野等新たな学問領域に係る研究組織や、国内で他に当該分野の研究を行う所がなく唯一の研究の場となる研究組織については、各大学において個性的な取組が積極的に推進されることが望まれ、国としても、研究の多様性の確保の観点から、基盤的経費の措置等により各大学の取組や大学間の連携による取組を重点的に支援していくことが重要である。
 このような研究組織についても、共同利用・共同研究を推進することが適当であるが、研究者の数が少なくコミュニティとしての広がりが必ずしも大きくない研究分野については、拠点となる組織に研究者が集結することも考えられる。研究の深まりにつれて、新たな研究者コミュニティが形成されたり、研究者コミュニティの広がりが生まれ、全国的な規模で関連研究者による共同利用・共同研究拠点として発展することが考えられ、そのような場合には、拠点の形成に向けて国としても支援することが必要である。

国立大学法人に対する国の関与の見直し

(6)現在、国立大学法人については、附置研究所の設置を文部科学大臣が定める中期目標の別表において位置付けており、その設置改廃を行う場合には、学術分科会研究環境基盤部会において妥当性を審議の上、文部科学大臣による中期目標の変更手続きを行うことが必要となっている。しかしながら、共同利用・共同研究拠点以外の組織については、各大学の自主的・自律的な判断による機動的・弾力的な組織編成を可能にする観点から、組織の設置改廃に係る国の関与を廃止すべきであり、今後文部科学省において次期中期目標・中期計画のあり方を検討する際には、附置研究所の設置を中期目標の記載事項としないことを検討する必要がある。
 なお、各大学がそれぞれの学術研究推進戦略に応じて重点的に取り組む研究に係る組織については、それぞれの大学の中でしっかりと位置付けていくべきである。

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研究振興局学術機関課

-- 登録:平成21年以前 --