はじめに

 平成18年12月、教育基本法が改正され、大学の役割が初めて明記された。「知識基盤社会」と言われる21世紀において、学術の中心として多様な知の創造と高度な人材育成を担う大学の役割と、それに対する社会の期待は、ますます高まっている。我が国の発展の基礎となる多様な学術研究を長期的な視野に立って推進することは、国の重要な責務である。

 学術研究の発展のためには、その中心的な担い手である国公私立大学や大学共同利用機関における研究組織の活性化が不可欠である。従来、学術研究組織に関する国の推進施策は、主として国立大学を対象として実施されてきた。国全体の学術研究の更なる発展のためには、国公私立大学を通じ、それぞれの研究組織が研究ポテンシャルを最大限に活かして研究活動を実施するとともに、相互に連携・協力することが重要であり、国の推進方策も、国公私立大学全体を通じた視点での新たな展開が求められている。

 他方、平成16年4月の国立大学の法人化や公立大学法人制度の創設等を契機に、国公私立大学を通じ、各大学が競争的な環境の中でそれぞれの特色を活かし、主体的・戦略的に組織編成や資源配分を行って研究活動を展開することが期待されているが、厳しい経営環境の中で、新たな研究組織の整備などは容易でないのが現状である。国として基盤的経費を確実に措置し、各大学の取組みを支援するとともに、研究組織の存在意義や役割等を改めて明確にすることが求められている。

 また、各大学の戦略や大学間の競争は重要なことであるが、一方で国全体の学術研究の発展のためには、所属機関の枠を越えて研究者が共同する横のつながりも重要であり、そのための体制整備が必要である。従来、大学共同利用機関や国立大学の全国共同利用型の附置研究所等を拠点として行われてきた共同利用・共同研究は、研究者コミュニティの意向を踏まえた運営により全国の研究者の知を結集する優れたシステムであるが、国立大学の法人化に伴い、全国共同利用型の附置研究所等も法人内の資源配分の中に位置付けられることとなり、大学の意向と研究者コミュニティの意向との調整が困難な場合が生じるなど、大学の枠を越えた取組が困難になる可能性が指摘されている。共同利用・共同研究の意義・役割を再確認するとともに、今後の方向性を新たな視点から検討することが求められている。

 さらには、これらの共同利用・共同研究拠点を中心に国立大学等の予算の中で推進されてきた学術研究の大型プロジェクトについて、国立大学の法人化後、新たなプロジェクトを推進するための手続きが定まっていないという課題もある。政策主導で実施されるいわゆるトップダウン型の大型プロジェクトとは異なる学術研究の大型プロジェクトの意義を明確にしつつ、国としてボトムアップ型の大型プロジェクトを推進するための意思決定プロセスのあり方等を検討することが求められている。

 このような状況を踏まえ、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会では、大学等の研究組織の活性化を図る観点から、国公私立大学を通じた学術研究機関における研究組織の意義・役割や、国による関与・支援のあり方など、今後の学術研究の推進体制のあり方について検討を行うため、平成18年11月に「学術研究の推進体制に関する作業部会」を設置し、同年12月よりまる回にわたって審議を行ってきた(平成19年2月からの第4期科学技術・学術審議会からは、同作業部会と研究環境基盤部会の合同会議で審議)。審議にあたっては、国公私立大学及び大学共同利用機関の関係者や有識者から学術研究の推進体制に関する現状と課題等について御意見を伺うとともに、委員が大学の附置研究所等を訪問して大学執行部や研究所長等の関係者と意見交換を行い、審議に資することとした。また、平成19年6月には、その時点での審議経過の概要案をまとめ、学術分科会や科学技術・学術審議会総会に報告して審議を行い、その後この概要案をもとに、関係者からのヒアリングを実施した。さらに、平成20年4月には国民一般への意見募集を行い、寄せられた御意見も踏まえつつ、最終的な検討を行い、本報告書をとりまとめた。

 本報告においては、学術研究の意義やその政策的推進のあり方、学術研究組織の整備に関する大学と国の役割分担のあり方、国公私立大学を通じた共同利用・共同研究の推進のあり方、学術研究の大型プロジェクトの推進のあり方などについて、基本的な考え方と今後の方向性を示した。今後、国において、本報告の内容に沿って、具体的な措置を講ずることを要請するとともに、各大学等や研究者コミュニティにおかれては、本報告を参考として、学術研究の推進に向けた取組を充実されることを期待したい。

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-- 登録:平成21年以前 --