参考資料3 長期戦略指針「イノベーション25」<抜粋>

(平成19年6月1日 閣議決定)

第5章 「イノベーション立国」に向けた政策ロードマップ

1.社会システムの改革戦略

(1)早急に取り組むべき課題

2)次世代投資の充実と強化

 イノベーションを絶え間なく創造する基盤は「人」であり、今後、日本が人口減少の局面に入っていく中で経済成長を持続させていく鍵は、これからの社会の中核となっていく「人」の力如何にかかっている。
 このため、どのような「人」を育てるのか、どのように育てていくのかを明確にしつつ、科学技術や教育等競争力の根源である「人」に着目して投資する考え方に重点を移す。特に2025年頃社会の中核となって活躍する世代の人材育成を抜本的に強化することがイノベーションを起す日本を作るための最重要課題との認識の下、次世代を担う若者への投資の充実と強化を図る。
 また、多くのイノベーションの種となり、その成果が経済成長のエンジンとなる科学技術分野においては、国際競争が激化する中、今後、我が国のみならず世界の課題の解決に向け、イノベーションを生み出す知を創造し、その成果を世界へ発信していくためには、国際競争上の強み・弱みを分析した上で、研究開発を効果的・効率的に行う仕組みの構築を進めつつ、「第3期科学技術基本計画」(平成18年3月28日閣議決定)に基づき、科学技術への投資を充実・強化させるべきである。
 同時に、情報革命が起こりつつある現在において、将来にわたって生産性を高める基礎インフラはITであり、いまだIT利用が十分でない分野での利用促進、さらにはIT利用に関する様々な民間主導の新しいアイデアが市場化される仕組みづくりを強化する。その際、従来のハード志向から、ハードとソフトを一体化させたシステム重視・インフラ重視とする必要がある。

 このような考え方の下、以下の取組を実施する。

1.若手研究者、意欲的・挑戦的研究への思い切った投資等の研究資金改革

  • 若手研究者向け資金の充実と強化
     若手研究者の自立を支援し広い裾野を築き、その中から世界トップ研究者を育てる一貫した競争的資金体系を確立する。博士号を取得したいわゆるポスドクが概ね5年の間に自立して新しい領域の開拓等に挑戦できる機会を与え、そこで成果を出した人を引き続き育てる仕組みを導入する。また、優れた博士課程学生に対する経済的支援の充実、若手研究者の自立的な研究環境の構築や女性研究者が出産・育児等で研究活動に支障を来さず能力を発揮できるよう、研究や生活環境の整備を図る。
  • 競争的資金の拡充・見直し
     競争的環境下において、基礎研究を強化するとともに、最先端でハイリスクな研究を推進するため、以下の取組を行う。
    - 競争原則により研究の質を向上させるため、競争的資金の拡充に向けた取組。
    - 競争的資金から人件費を支給できる研究者の対象を拡大。
    - 国内外を問わず、国際的にも研究活動を活発に行っている評価の高い研究者が審査する体制等、評価の手法について早急に見直し。
    - 研究活動の効率化(ひいては資金使用の効率化及び研究成果の拡大にも寄与)にも資する観点から、独立行政法人がその能力を発揮しやすい環境の整備をした上で、競争的資金の配分機能を原則として配分機関である独立行政法人に移行させることにより研究費の複数年契約を拡大する等、年度を越えた使用の円滑化を推進。
    - 全競争的資金制度で間接経費30パーセントの早期実現。
  • 研究設備の整備と共用の促進
     多数の研究者が利用する基盤的かつ共通的な研究設備、学生の教育研究に必要な設備等の大学や研究機関における計画的な整備を図る。また、高額の研究設備等は不必要に重複して整備することのないようにするとともに、既存の研究設備等を含め、若手育成や民間利用の観点も含め積極的に共用を促進する。
  • 優れた成果を上げた研究の進展のための円滑な資金供給
     優れた成果を上げた研究の進展が資金供給の途絶で阻害されることがないよう、各府省、各機関の制度のシームレス化を図る。研究開発の最終年度に評価を行う等、次の資金供給に反映させる仕組みを検討する。また、これに伴い評価時期の柔軟な設定等評価の合理化を図る。また、各制度の目的に即した適切な採択手法について検討を行う。

2.世界の頭脳が集まる拠点づくり

  • 世界トップレベルの研究拠点づくり
     イノベーションを起こすには、その出発点である大学等の基礎研究の機能を格段に高め、国際競争力を強化する必要がある。そのためには、世界トップレベルの研究拠点を、従来の発想にとらわれることなく構築し、世界の頭脳が集い、優れた研究成果が生み出され、人材を育む「場」を我が国に作っていく必要がある。この一つの方策として、2007年度からスタートしたプログラムを充実・推進する。
  • 生活者としての外国人に対する支援
     生活者としての外国人が社会の一員として日本人と同様の公共サービスを享受し生活できる環境を整備する観点から、以下のような外国人に対する支援を着実に推進する。
    - 日本語教育の充実等外国人が暮らしやすい地域社会づくり。
    - 外国人の子どもの教育の充実。
    - 外国人の労働環境の改善、社会保険の加入促進。
    - 外国人在留管理制度の見直し。
  • 高度人材の移入に資する在留期間の見直し
     世界各国が国力の根幹としての科学技術に対する意識を一層高めており、優れた研究者を自国に惹きつけるための人材獲得競争が激化している。世界に冠たる研究拠点を作るためには、優秀な外国人が長期にわたり我が国に滞在して研究成果を継続的に生み出す環境づくりが欠かせない。このように、専門的・技術的分野の高度人材を積極的に獲得する観点から、外国人の勤務先に一定の要件を設ける等の措置も講じた上で、在留期間を5年程度に引き上げる。

3.多様性を受け入れ、出る杭となる「人」づくり

  • 若者の海外交流の充実
     異なる文化、生活、習慣をもつ同年代の若者との交流活動は、異文化を直接体験し、国際理解を深め、国際性を養うことから、多様性を受入れ、出る杭となる「人」づくりにとって重要であり、若いときからの国際交流を経験する観点から、以下の取組を行う。
    - 海外の優秀な研究者との討議の場の提供や、海外研究機関への長期派遣等国際研鑽機会の充実。
    - 大学間の学生交流を推進するため、短期留学制度の充実。
    - 高校生の海外留学に対する支援、外国人高校生の短期間の招致等により高校生の海外との交流を推進。
    - 海外の大学との連携プログラム推進等により、博士課程在籍者の1割程度(年間2千人規模)を1年間留学させることを目指し、支援を充実。
    - 中学生、高校生のアジアの仲間との交流を促進するためのプログラムの早期検討(「アジア青年の家」構想等)。
  • 起業家精神をもつ人材等の育成
     インターンシップ等自ら体験できるような環境を作るとともに、新しいイノベーションを生み出す原動力となる起業家精神を持つ人材等を育成する観点から、以下の取組を行う。
    - 若者・団塊世代等の農林漁業への就業、二地域居住等の促進に向けて、啓発・普及のための情報提供、円滑な就業・定着に向けた研修や、起業化のための支援等を充実。
    - 産学が協同して行う高度なインターンシッププログラムの開発・実施による自立心の育成及び起業家精神の涵養、複数の分野を専攻する等「異」との出会いや「融合」の機会の提供。
    - 横断的課題や業種・分野的課題等について幅広く議論を行い、産学双方の具体的な行動につなげるため、関係府省が連携して産学双方向の対話と取組の場として、産学人材育成パートナーシップを推進。
    - 企業と連携した課題解決型の授業や実践的インターンシップ等の実践教育を通じて、「社会人基礎力」等社会人としての基礎的な能力を有する人材を育成。
    - 地域を核として人材を育てようとする産学官一体の取組を促進し、起業家精神を持つ人材の活躍・育成の機会の充実。
    - NPO・企業等の民間主体の経験やアイデアの活用等により、ものづくり体験や職場体験、インターンシップ等を通じて働くことの面白さを体系的に体験・理解できるようにするキャリア教育・職業教育の推進。
    - 企業における人材投資の加速を促進。
  • 技術経営力を備えた人材の育成
     科学・技術・経営・市場をつなげる実践的な技術経営力の強化に寄与する能力を持った人材を育成するため、企業や公的研究機関の共同研究プロジェクト等において、国内外の研究者やポスドク等の積極的活用を慫慂する。
  • 学ぶ意欲と能力のある者への支援の充実
    - 意欲と能力がありながら経済的な理由により修学に困難がある者に対する奨学金事業について健全性を確保しつつ充実。
    - 博士課程学生に対するフェローシップを充実するとともに、競争的資金を活用する等により、2010年度までに20パーセント程度の博士課程学生が生活費相当額程度の支援を得られることを目指す。

4.科学技術イノベーションを支える理数系人材の育成

  • 高度で先進的な理数学習の機会の提供
     理数への興味・関心が高い児童・生徒・学生に、高度で先進的な理数学習の機会、「異」とのふれあいより国際感覚・職業観を育む機会を充実し、将来、科学技術の舞台で主役となりうる卓越した人材を育成する観点から、以下の取組を行う。
    - 高校生及び中学生を対象とした科学オリンピック等の科学技術コンテスト(物理、化学、生物、数学、情報、課題研究等の各分野)の支援(2010年までに参加者の倍増を目指す)。
    - 理数教育に重点を置く高校(スーパーサイエンスハイスクール)の取組を推進するとともに、海外の理数教育重点高校等との間の国際交流支援を充実。
    - 卓越した意欲・能力を有する児童・生徒を対象に高度で発展的な学習機会を提供する大学等の支援。
    - イノベーションを担う実践的・創造的技術者の育成の推進。
  • 理数教育の充実
     教員の指導力の強化等により小・中・高等学校において国際レベルの理数教育の充実を図る観点から、以下の取組を行う。
    - 特別免許状・特別非常勤講師等の免許制度の活用により、外部から意欲と能力のある多くの理工系人材の教員としての登用の促進。
    - 小学校の理科支援員等の配置の充実。
    - 小・中・高等学校の理科教育等設備について、着実に整備・充実。
    - 学習指導要領の見直し等を踏まえ、教科書の質・量を充実・強化。
    - 地元の企業技術者等の経験・能力を活かした理科授業づくり(「理科実験教室」)を実施。
    - 実験・観察・実習等体験活動を充実させるための教員研修の充実。

2.技術革新戦略ロードマップ

(3)イノベーションの種となる多様な基礎研究の推進

 イノベーションの種の多くは、予期せぬところから思わぬ成果を生むことから、ハイリスク研究として、短期的な成果にとらわれることなく、高い目標を掲げる等意欲的で挑戦的な研究を支援することが必要である。
 そうした意欲的・挑戦的な研究を積極的に推進していくことがイノベーションの種を数多く生み、将来のイノベーション創出につながっていくこととなる。
 2008年度以降、各種競争的資金制度の中で、制度の特性に応じ、採択に当たっての評価に更なる工夫を加えることに取り組みつつ、こうした意欲的・挑戦的研究の採択比率を上げるとともに、その成果を的確に評価した上で、上記(2)分野別の戦略的な研究開発の推進、及び(1)社会還元を加速するプロジェクトの推進、への展開に活かすこととする。

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