資料2 学術研究の推進体制に関するこれまでの意見の概要

1.学術研究の意義と推進体制に関する課題

学術研究の意義と国による推進の必要性

○ 大学を中心として行われている学術研究は、「科学技術創造立国」を目指す我が国の将来を支える基盤となるものであり、国として、戦略的に推進していくことが必要である。

○ トップダウン型の政策目的的な開発研究プロジェクトにおいても、大学が一定の役割を果たしている中、学術研究とは何なのか、現在の視点でその意義を見直す必要がある。

○ 大学における学術研究は、次世代に継承すべき知を創成する長期的な活動であり、活動を支える基盤的経費の確保が極めて重要である。

○ 経済力の基盤としての学術の意義のみならず、文化力の基盤としての学術の意義を、より広く社会にアピールしていくことが必要である。

○ 学術振興は、研究者の自主性に基づく研究活動の促進・支援を行う「学主導」のものであり、大学等における研究の特性を尊重・配慮して、施策を進めることが必要である。また、社会的要請に対応するための技術開発を志向する「官学主導」の研究推進である科学技術振興との調和を保ち、両者の総合的推進を図ることが重要である。

大学の運営方針と国全体としての学術研究推進との関係

○ 大学が独立の主体として自由度を増す中、国からの財政的支援が減り、教育に金を割くために研究活動が阻害される恐れが生じている。我が国全体の学術研究推進の観点から、法制度上の位置付けも含め、学術研究のための予算が確保できるような議論が必要である。

○ 特に、平成16年に国立大学が法人化し、従来それぞれの分野の研究活動の中心的な役割を担ってきた附置研究所等が、国立大学法人の一部局として、法人の優先順位に左右されるようになったことから、我が国全体の学術推進の観点からは極めて重要な研究活動であっても、各法人の事情によって、推進が困難になる場合が生じてきた。

○ 国全体の学術研究水準を向上するために、国としてどのような研究体制を構築し、どのような資源配分を行うべきか、改めて検討する必要がある。

2.学術研究の推進体制の基本的考え方

国公私立大学を通じたシステムの必要性

○ これまでの国の学術研究振興施策は、国立を中心に考えられていたが、学術水準の向上の観点から、国公私立大学を通じた新たなシステムの検討が必要である。

○ 国立大学と私立大学の役割分担(その可否も含めて)の議論も必要である。

○ 国公私立大学がそれぞれの違いを有しながら、連携を進め、全体として活性化を図ることが重要であり、全国共同利用はその重要な手段の一つである。

学術研究の推進のための合意形成

○ 学術研究は、研究者の自由な発想に基づくボトムアップが基本ではあるが、国全体の研究の発展のために必要な拠点の形成や重点的な研究の推進にあたっては、国としての政策的戦略が必要であり、そのための合意形成をどのように行うか、検討が必要である。

○ 研究者間での自主的な議論が重要であり、誰がコミュニティを代表し、どこの場でコミュニティとしての意見をオーソライズして、どのように研究体制に反映させるかという手続きを作る必要がある。附置研究所の設置・廃止や大型プロジェクト等もその中でオーソライズしていくべきである。

○ 何らかの形で、国としてボトムアップの声を吸い上げるしくみが必要である。

○ 学術振興に関するsteering committeeとしての学術分科会の機能を強化すべきである。

各大学における自主的・自律的な学術研究の推進

○ 各大学においては、自主的かつ自律的な教育研究活動を総合的に推進する中で、学術研究に関する戦略を持ち、組織体制を整える必要がある。

国全体の状況把握の必要性

○ 各大学における学術研究の推進の状況を全体として把握、分析し、日本の大学全体としての学術研究のアウトプットを示すことが重要である。

3.学術研究における拠点の形成や重点的な推進

国として拠点形成・重点的推進を行う必要性

○ 学術研究は、研究者の自由な発想に基づくボトムアップが基本ではあるが、国全体の研究の発展のために必要な拠点の形成や重点的な研究の推進にあたっては、国としての政策的戦略が必要であり、そのための合意形成をどのように行うか、検討が必要である。(再掲)

○ 学主導による学術研究の戦略的推進システムとそれを支える財源措置が必要である。研究者間のオープンな議論を経て、戦略的に拠点形成や重点的な研究の推進を行う場合には、必ずしも公募方式をとる必要はない。

学術研究推進の方向性

○ 学術研究の推進体制に関して国として進めるべき方策としては、拠点の形成、重点的に進めるべき研究の推進、新領域開拓や多様性確保のための支援、大学間連携の促進などが考えられる。

○ 卓越した研究拠点を形成する一方で、多様な研究を行う人材が幅広く全国に散らばっていることも重要である。そしてそれらの人材を結びつける仕組みが必要である。また、人材の流動性をより高める視点も必要である。

○ 研究の分野や形態等の違いにより、必要とされる推進方策も異なるはずである。研究の性格により分類・整理を行ったうえで、推進方策を検討すべきである。

○ 競争的資金等によるフローとしてのプロジェクト研究費のみで、ストックとしての人的・物的資源の整備が伴わなければ、学術研究基盤が衰退してしまう。プロジェクトではなく研究組織に対するファンディングシステムが必要である。拠点形成はその一方策である。

4.研究組織の在り方

大学の研究所等の意義・役割

○ 大学の研究所等ついて、学部・研究科とは異なる存在意義・役割を明確にする必要がある。

○ 研究所は、大学を研究面で特色づけるものであると同時に、教育面の役割を担っていることにも留意が必要である。

○ 研究所は、研究者が一定期間研究に専念できる利点があり、優れた研究内容を発展させるために、機動的に活用することが重要である。

定期的な評価・見直しの必要性と組織再編等の促進

○ 研究組織の活性化の観点から、定期的な評価と見直しが必要である。各研究組織がミッションを明確にし、研究成果等を自己評価して、社会に示す必要がある。

新たな研究組織の立ち上げ

○ 新たな研究組織の立ち上げの方法や国としての関与の在り方についても、検討が必要である。

○ 新たな研究領域の拠点となる組織の立ち上げの一つのプロセスとして、研究者のボトムアップにより、1学部附属センターの設置、2学内共同施設への転換、3附置研究所への転換や全国共同利用化、といった流れがかつてはあった。特に、全国共同利用については、日本学術会議の勧告を受けて、文部省の学術審議会で検討の上、設置するという合意形成のプロセスがあった。現在、どのようなプロセスで合意形成をしていくのか、検討が必要である。

○ 国立大学の法人化により、附置研究所以外の研究組織は各大学の判断で立ち上げることが可能になった。このような学内組織は各大学が研究者のボトムアップの声を吸い上げたものなので、国としてその状況を調査し、拠点として発展させるべきものは発展させるなど、学術政策に反映させることが必要である。

○ 私立大学の場合、特定の分野の優秀な研究者が集まっていても、大学として研究組織を設置するのが困難な場合がある。国としてこれを支援する方策が必要である。

○ 新たな研究組織の立ち上げにあたっては、施設・設備等の物的資源を整備するのみならず、優秀な人材を集めることも重要であり、人材の流動性が求められる。

国立大学の附置研究所等の在り方

○ 附置研究所とは何かを議論し、改めて明確にする必要がある。国立大学法人評価に関して、研究所の存在意義を明確にし、評価委員会がきちんとした評価ができるようなメッセージをまとめることも必要である。

○ 第二期の中期目標を策定するに当たって、各国立大学法人がどういうことを考えて研究組織をつくっていけばよいのか、国全体でどう考えればいいのか、ルールを考え直す必要がある。

国立大学の附置研究所等の国全体の学術推進上の位置付け

○ 附置研究所が我が国における学術研究戦略の中でしっかりと位置づけられているのかどうかが重要である。

○ 附置研究所の新設や全国共同利用化について研究環境基盤部会の審議を経るという手続きについて、慣例的に行うのではなく、きちんと明確化すべきである。

○ 国全体の学術振興の観点から、分野の中核的拠点など附置研究所の果たしている役割・機能を踏まえて、ファンディングの仕方を考え、十分な手当てをすることが重要である。

○ 学術振興の観点から、既存の附置研究所を個別に評価し、全国共同利用化が望ましいものや、当該分野のCOEとして積極的に支援措置を講ずべきもの等それぞれ適切な対応を考える必要がある。

5.全国共同利用の在り方

全国共同利用の意義・役割

○ 大学の枠を超え、多様な分野の研究者が全国から集まって共同研究を行う共同利用のシステムは、我が国独自のシステムであり、これまでも国際レベルの成果をあげている。さらに概念として拡充・強化することを考えるべきである。

○ 共同利用とは何か、改めて明確にする必要がある。その際、分野による特性等に留意する必要がある。

○ 共同利用は、大型設備の共用とは異なり、単に施設設備を利用に供するものではなく、研究者コミュニティの議論に基づき、個別大学では整備が困難な研究環境を当該分野の研究者が共有するものである。

全国共同利用の在り方

○ 共同利用がどれだけ有効に機能しているか、分析する必要がある。

○ 研究者がある程度長期間参加できるようにすることが重要である。

○ 私立大学等の優秀な研究者がより多く共同利用に参加し、研究が活性化するようにすべきである。

○ 優秀な研究者が一定期間研究に専念できるよう、人事システムも含めた検討が必要である。

○ 大学において研究者の確保が困難な分野においては、大学共同利用機関が中心となって大学との連携を強化し、共同利用を通じて高度な人材を集めて交流を促進し、大学院教育への協力を通じて若手人材の育成することにより、研究分野の全国的な発展を図ることが求められる。

○ 共同利用の評価を正しく行うためにも、各研究所が共同利用に関するデータをきちんと集約して社会に発信する必要がある。

○ 全国共同利用の研究所には多様なものがあり、分野や共同利用の形態等を分類・整理し、それぞれの特性に応じたきめ細かな支援方策を検討する必要がある。

国際共同利用

○ 全国共同利用の附置研究所等の中には、国際的な共同利用の拠点となるべき所もある。国として、海外の研究機関との国際共同利用研究の在り方や支援方策について検討する必要がある。

公私立大学を拠点とした全国共同利用

○ 全国共同利用の拠点は、従来国立大学の附置研究所等及び大学共同利用機関に限られていたが、公私立大学も含めて、拠点整備を検討すべきである。

○ 私立大学を拠点とした全国共同利用は、国立大学と全く同様の枠組みにする必要はなく、例えば私立大学では人材養成により重きを置くということも考えられる。

大学に置かれる全国共同利用研究所等と大学共同利用機関

○ 国公私立を問わず、大学が全国共同利用の研究所等を有するメリットは何か、議論する必要がある。逆に、研究所側からみても、独立した大学共同利用機関ではなく、大学内の研究所とするメリットは何か、整理が必要である。

○ 大学の全国共同利用研究所と、独立の大学共同利用機関の、それぞれの存在意義を整理することが必要である。その上で、既存の国立大学の全国共同利用の研究所の中に、独立した大学共同利用機関となった方が適当なものがあれば、そのような組織転換を検討するべきである。

○ 大学内の研究所には、多様な学問が存在する場で特定分野の研究が行えるというメリットや、多様な多くの大学院学生の研究指導を身近に行えるというメリットがある。また、大学側のメリットとして、特徴的な研究活動を実施するとともに、最先端の研究現場における教育活動を可能とし、大学に個性を付与するというメリットがある。

○ 大学共同利用機関の、大学の全国共同利用の研究所等とは異なる重要な特質として、人事も含めて、外部のコミュニティによって運営を行っているという点がある。

○ 大学共同利用機関はそれぞれの学問分野の中核機関として分野の研究者コミュニティの意向を把握することが求められており、各大学共同利用機関が集まって、国際的な視点で総合的な議論を行うことが期待される。

大学の全国共同利用研究所等の学術研究推進上の課題

○ 共同利用という面と予算額が大きいことから、国立大学の全国共同利用の附置研究所等は概算要求の際に学内順位を高くすることが困難な場合がある。ある程度の大型の施設・設備を今後どう実現するかという問題にも関連している。

○ 共同利用の研究施設は学外の研究者コミュニティの意向・支援を受けて運営されており、大学の意向だけで組織や予算を決められるとミスマッチが起きてくる。大学の執行部の理解が必要であるとともに、コミュニティの意向と大学の意向を調整する場が必要である。

○ 大学に全国共同利用の拠点組織を附置する場合には、大学としての戦略を踏まえつつも、国全体の学術推進の観点から、研究者コミュニティの意向に応じた取り扱いが必要である。そのため、大学の枠を超えた全国共同利用に関する制度的位置付けや予算のしくみを検討する必要がある。

○ 大学の全国共同利用の附置研究所等については、大学に管理・運営を委託した機関という考えに立って、運営費交付金とは別に必要資金を措置する等の配慮が必要である。

○ 研究の基盤となる設備の維持や更新は大きな課題であり、特に、全国の研究者が共同利用する設備については、重点的な支援が必要である。各大学の設備マスタープランにおいて、全国の研究者に必要とされる設備として関係コミュニティの要請が明記されている場合には、重点的に支援するようにしてはどうか。

新たな共同利用拠点の形成

○ 新たな共同利用の拠点を形成するための、意思決定の仕組みが必要である。その際、大学共同利用機関法人が、研究者コミュニティの意向を集約・調整する機能を有することも考えられる。

○ 新たな分野に係る拠点形成の一つの方法として、大学共同利用機関法人に時限付きのセンターを設置し、ネットワーク型の共同研究を行うことも考えられる。

○ 大学共同利用機関が中核となって、当該分野の附置研究所等と連携し、全体として大学における共同利用のシステムを効果的に運営していくことも考えられる。

6.学術研究の大型プロジェクト等の重点的な推進

○ 大学共同利用機関を中心に行われる学術研究の大型プロジェクトは、従来、学術審議会の審議等を踏まえて推進してきたが、現在は、新たなプロジェクトを推進するための手続きが定まっていない。合意形成の在り方や予算措置等の推進方策を検討することが必要である。

○ 国際的なプロジェクトに参加する場合には、日本がイニシアティブをとれるよう、マネジメントを含めた体制整備が必要である。その際、研究者のみならず、事務部門や技術部門も含め、国際化を図る必要がある。

7.その他

政策目的的な研究との関係

○ 独立行政法人の研究所等における研究も含めた国全体の研究振興の中での大学の学術研究の位置づけを明確にする必要がある。

○ 直接的に学術振興を目的とする施策のほか、政策目的的な研究の資金を大学に誘導し、大学の研究活動を活性化させる方策として、例えば、アメリカのFFRDCのような事例も参考になると考える。

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研究振興局学術機関課

-- 登録:平成21年以前 --