資料1 「これまでの議論の整理」に関するコメント(国立大学附置研究所・センター長会議)

「大学共同利用機関法人及び大学共同利用機関の今後の在り方について」に関する
国立大学附置研・センター長会議からのコメント

 国立大学附置研・センター長会議平成21年度会長
大阪大学産業科学研究所・所長
山口明人

   平成20年度から、共同利用・共同研究拠点の大幅な拡大が行われ、従来はこの範疇には入らなかった総合理工型研究所や、臨床医学関係の研究所など、大学共同利用機関法人がカバーしてこなかった領域の研究所群も多く含まれることになりました。さらには、これまでの共同利用から、共同研究をも定義に入れることになり、大学共同利用機関の性格と重なる面がでてきました。このようなことから、大学共同利用機関と大学附置の共同利用・共同研究拠点との関係を改めて再定義することは必要な作業であると考えます。国立大学附置研・センター長会議では、基盤部会がまとめた「大学共同利用機関法人及び大学共同利用機関の今後の在り方について」(これまでの議論の整理)(以下「整理」と略させていただきます)に対する意見聴取を行いました。以下、常置委員から出された意見を基に、会長としての私の考えを加えて、大学共同利用機関と大学附置の共同利用・共同研究拠点の関係に関し、「整理」の論点に沿って意見を述べてみたいと思います。
   大学共同利用機関は、個別の大学では維持困難な超大型の研究装置を設置し、効率的に全国の研究者に利用できるようにするという点では大きな役割を果たしてきました。また、大量の学術資料・研究試料、データを収集し、これを全国の研究者に提供するという機能は今後一層の拡充が期待されています。この面ではまさに「全大学の共同利用の研究所」としての機能を果たしているし、大学附置研にはない存在意義と言えます。他方、最先端研究を行う研究所という点では、大学附置研の立場から見ると、活動形態に大きな差はないと思います。今回の共同研究拠点認定により、さらにその違いは不明確になった面もあります。「それぞれの分野の中核拠点として」、「研究者コミュニティの実質的なとりまとめ役」となっているかと言えば、そうなっている機関もあれば、そうとまでは言い切れないところもあり、大学附置の共同利用研究所・センターもそれぞれの研究者コミュニティの支持をバックにしているという点で似たような性格を持っているとも言えます。大学共同利用機関がカバーしている分野は、基礎学術・基礎科学の分野であり、こういった分野では、プロジェクト型研究とは異なり、中核拠点・サテライト拠点といった考え方よりも、お互いの対等な関係が基本かと思われます。今回の大学附置の共同研究拠点の拡大で、大学共同利用機関がカバーしていない分野の拠点が数多く存在することになりましたので、大学共同利用機関を中心に大学附置の共同研究拠点が配置されているというような構図はますます描きにくくなりました。大学附置研究所・センター長会議としては、大学共同利用機関と、お互いの特性を生かし、対等な関係で緊密且つ効率的な共同研究システムを構築できるよう協議を重ねていきたいと希望しています。
   「整理」3ページ上段に、「我が国の学術研究全体に貢献する中核的な機関としてCOE性を一層高めていくことが重要」とありますが、上で触れたように、大学共同利用機関がカバーしているのは基礎的学術研究の分野であり、我が国学術研究の全体ではありませんので、この点の記述にも配慮していただきたいと思います。COE性を高めることは大変結構なことです。同じく3ページ下段「大学共同利用機関の最も基本的な性格は大学を中心とする学術研究の推進に必要不可欠なインフラストラクチャーという点にある」という定義は、超大型装置と学術データベース、試料ライブラリの提供については全くその通りですが、共同研究については努力目標です。こうなっていただくためには、4ページの最初の○項目に述べられているように、大学研究者が大学共同利用機関研究所を自らの研究のインフラストラクチャーとして十分に利用できるような大胆な環境整備を進めていただきたい。この点は、今後の協議の過程で大学附置研・センター側の要望をくみ取っていただくことを期待しています。
   4~5ページ「共同利用・共同研究拠点の牽引役としての機能強化」ですが、大学附置研の立場から率直に言わせていただくと、「牽引役」ではなく、「協力機関」になっていただくことができれば大変ありがたい。「整理」では、大学共同利用機関との性格の違いとして、「〈1〉共同利用・共同研究拠点においては….、研究所全体が必ずしも拠点活動を行うわけではないこと等から、共同利用・共同研究の推進という面では、一定の制約がある」、との認識が表明されていますが、これまで全国共同利用研究所であった拠点からは、研究所全体のミッションとして共同利用研究を行っているという思いが強く、確かに客観的には大学の中にあるということで一定の制約があることは事実としても、大学附置共同利用研究所の共同利用・共同研究における実績には多大なものがありますので、この点を配慮した表現をお願いしたいと思います。
   次に、「〈3〉共同利用・共同研究拠点と比較して、機構法人がカバーする分野は格段に広い」とありますが、今回認定された拠点の中には、総合理工、宇宙線、臨床医学、獣医学、海洋科学、経済学等々、大学共同利用機関では全くカバーしていない分野の研究所も数多くあります。大学共同利用機関は、基礎的学術研究の分野に限定して、国が重点的に推進するべく設置されているというのが現状であり、分野の広さでは大学附置研・センターの方が広いのではないでしょうか。個々の研究所を比較しても、今回認定された総合理工型研究所などは非常に広い分野をカバーしています。機構法人を構成したことから、「分野が広い」という表現になったと思われますが、大学附置研の立場から見ると、機構法人設置の意味は、「分野が広くなる」ことではなく、「思い切った異分野融合ができる枠組みができた」点にあると思いますがいかがでしょうか。
   次に、大学共同利用機関に求められる役割についての認識については、「〈1〉当該分野の共同利用・共同研究の中心として、関連する共同利用・共同研究拠点と効果的なネットワーキングを行う」「〈2〉カバーする研究領域について、隣接領域も含めた将来像を構想する」とありますが、これは、現実問題として、そういう分野もあれば、大学共同利用機関の関与がほとんど無い分野もあり、共同利用・共同研究拠点の方が当該分野の牽引的役割を勤めている分野もあるということではないでしょうか。ここはむしろ、大学共同利用機関は、我が国学術研究の推進に不可欠なインフラストラクチャーを提供するという原点に立ち返ってあるべき関係を互いに考えていきたいと思います。
   その延長で、「将来的に共同利用・共同研究拠点から大学共同利用機関を目指す研究施設が出てくることも考えられ」との認識が表明されています。大学附置研は大学における教育研究と密接に結びついてこそその存在意義があります。大学共同利用機関とはその点で大きな性格の違いがあり、両者は簡単には転換できません。歴史的にそういう施設があり、今後もあり得ることであったとしても、拠点の大学からの切り離しと受け取られるような表現は適切ではないと思われます。


【大学共同利用機関に望むあり方】 

 大学附置研は大学とくに大学院の教育研究と密接に関連しており、大学の人的基盤を背景としている利点がありますが、反面、大学の枠に制約されることもまた事実です。大学共同利用機関は、我が国基礎学術研究分野において、大学の枠を超えて設置された学術研究支援機関として今後も重要な役割を果たしていく必要があると考えられます。大学附置研・センターとして、大学共同利用機関に対して望むことは、我が国学術研究推進に不可欠なインフラストラクチャーとしての役割を十全に発揮できる体制を構築していただきたいということです。

(1)  個別の大学では整備・維持・サービスが困難な大量の学術データベース、研究リソース等の提供は大学共同利用機関の役割の一つと考えます。タンパク質構造データベースのように個別の大学附置研がその特異な専門性を活かして提供しているものもありますが、大学共同利用機関がまとめ役としての役割を果たすべきです。すでに遺伝子情報データベースをはじめサービスが行われているところですが、もっと多岐にわたり、もっと大規模なデータベースを整備することが我が国の研究レベルを支える上で重要です。研究リソース(菌株、培養細胞株、網羅的ノックアウトマウス、化合物ライブラリなど)の整備も重要です。これらの整備も、大学附置研や研究開発法人で既に始められているものもありますが、それらの研究機関と協力し、大学共同利用機関の事業としても取り組んでいただきたい。

(2)  大規模な加速器など国家的規模の巨大装置を整備し、全国共同利用に供していただくことも大切な役割と考えられます。これについては、特定のプロジェクトに役立つものだけでなく、より汎用性があり、基礎研究に供する巨大装置の整備も目指していただきたい。

(3)  国際的に思い切って開かれた研究所とするべきとの意見もありました。大学の国際化も大きな課題ですが、大学は教育や運営面での制約が強く、教員採用の面などで外国人と日本人を全く対等に募集するということはなかなか実現できていません。そういった制約の少ない大学共同利用機関では、所内公用語は全て英語にし、教授を含む研究者はすべて全世界に向けて公募し、半数以上を外国人研究者にし、世界各国の優秀な頭脳が一堂に会する研究所にするという戦略があっても良い。装置型ではない研究型の大学共同利用機関は是非そういった国際化という面で特色ある研究機関になっていただきたいと思います。

(4)  ゲノムプロジェクトやタンパク3000といった、研究と作業の中間的な、人的資源を膨大に必要とする分野は、大学附置研では全国的な共同研究体制とポスドク等の雇用によって研究組織を作らない限りは達成できません。今後も、メタボローム、網羅的遺伝子ノックアウトマウスなど、こういったプロジェクトは多数出てきます。このような基礎的研究分野における網羅的研究プロジェクトの推進なども、大学共同利用機関の役割として取り上げる必要があるのではないでしょうか。

(5)  学問分野の壁を取り払った、思い切った学際的研究の推進も大学共同利用機関に期待される分野であるとの意見もありました。大学の研究はどうしても学問の体系に制約を受けます。附置研は研究科に比べると教育に根を下ろした学問体系からは比較的自由ですが、それでも大学院教育を通じて研究科の研究教育と密接な関係があり、学際的研究には制約があります。その点、大学共同利用機関ではそういった制約からは全く自由に、とてつもなく離れた異分野の融合を可能にすることができると思います。

(6)  NIHのような学術研究をコーディネートする役割を担う大学共同利用機関というのも一つの方向性かも知れません。我が国の学術研究の弱点として、研究をコーディネートする機関の不在が挙げられます。欧米には研究コーディネートを専門にする人たちがいますが、我が国にはほとんど見かけません。こういった人材を育て、コーディネートを専門にする機関があっても良いのではないでしょうか。この点は、会員からは特段の意見はありませんでしたが、会長としての私の私見です。

  以上、大学附置の共同利用・共同研究拠点の側から見た望ましい大学共同利用機関の在り方について縷々述べてきましたが、総じて、両者の特性を生かし、互いに補い合うことによって我が国の学術研究を飛躍的に推進することにつなげたいというのが願いです。最先端の研究を推進するという点では両者は全く対等であり、カバーする分野の広さにも違いはありません。むしろ、特定の課題への研究資源の集中と国家的基礎研究プロジェクトの推進、研究リソースやデータベース等のサービスや大規模研究設備の共同利用を通じた研究支援、附置研では踏み込めないほどの国際化や学際融合研究などの面での大学共同利用機関の役割を大いに期待したいと思います。
   大学共同利用機関という名称はありますが、これまで、大学との関係は、研究に関してはそれほど密接とは言えなかったと思います。大学との教授職の兼任、大学の研究室を一定期間共同利用研究所に移動することができるようにするなど、もっと自由に大学研究者が大学共同利用機関を自らの研究のインフラストラクチャーとして活用できるような仕組みの整備が望まれます。今後は、大学附置研・センターとの定期的な協議の場を設け、密接な関係を構築するということに関して大いに賛成いたします。大学共同利用機関の基本的な性格である「我が国学術研究における基本的なインフラストラクチャー」という視点から、協議の相手としては共同利用・共同研究拠点だけでなく、附置研・センター全体との密接な協議を指向していただくことを切に望みます。

お問合せ先

研究振興局学術機関課企画指導係

高橋、中村、谷村
電話番号:03-5253-4111(内線4295)、03-6734-4169(直通)

-- 登録:平成22年03月 --