法人化(機構化)以後の大学共同利用機関法人における成果と課題(案)

 「国立大学法人化後の現状と課題(中間まとめ(案))」では、大学共同利用機関法人に共通する成果や課題も記載されているため、本資料においては、これまでの意見や、調査結果、得られたデータを集約し、大学共同利用機関法人及び大学共同利用機関に特徴的な成果や課題を中心にまとめた。

1.研究教育等の活動状況

1.共同利用及びその実施体制

(主な成果)

○ 各機構が実施する、研究者に対する研究施設や研究設備の提供、学術資料の提供、研究者の受け入れ人数など、年々増加傾向にあり、共同利用の体制が充実された。

○ 各機関が所有する研究データ等の資源を法人内の全機関間で共有できるようになった。

○ 利用者の申請手続き及び機構の受付手続きを簡素化・合理化するなど、共同利用研究者の利便性を高める取組が進んだ。

(主な課題)

○ 大学等の個々の研究者のみならず、研究者コミュニティや研究機関も対象とした共同利用の重要性が増しており、コンソーシアムの形成や研究機関との協定締結といった組織的な連携の充実が必要となっている。

○ コミュニティの意見を基に、共同利用が活発に行われているが、利用方法等の情報について、外部にも分かるように発信していく必要がある。

○ 利用者の利便性を更に高めるためユーザーオフィスの機能強化が必要となっている。

2.共同研究及びその実施体制

(主な成果)

○ 各機構が実施する共同研究の実施件数が年々増加傾向にあり、共同研究の活動が活発化した。また、共同研究の実施件数の増加に伴い、特許の申請・取得件数が増加した。

○ 分野の異なる研究所が一法人となったことにより、研究分野をまたぐ、新たな学問領域の創成や、分野融合型の研究活動が可能となった。また、若手研究者など異分野の研究者交流の活発化につながった。

○ 各機関の特色を活かしながら、分野を超えた連携を企画・推進するための体制が整備された。

○ 社会やコミュニティのニーズに応じた組織改編、機動的な予算配分、特任制度や年俸制など幅広い人材の登用が可能となったことにより、研究活動の活発化につながった。

○ より成果が求められる環境となったことで、組織として協力していく意識が芽生え、論文の質や量の向上が図られた。

○ 研究費を確保するための外部資金(共同研究、科学研究費補助金等)の獲得意識が向上した。

(主な課題)

○ 大学共同利用機関には、世界のCOEとしての役割が期待されており、世界的視野で、共同利用・共同研究を推進する方策の検討が必要となっている。

○ 大学や研究者との連携強化により、新しい分野の創出や新たなコミュニティの育成を強化していく必要がある。 

○ 基礎研究であっても、ある程度プライオリティを持って推進する必要があり、その方策について検討が必要となっている。

○ 大学の共同利用・共同研究拠点との効果的な連携を図り、世界トップレベルの研究を牽引できるような体制を整備していく必要がある。

○ 独立行政法人は、「目標の達成」と「計画と効率化」を基本としているのに対して、学術研究機関は、「知の創造」と「自由な発想」を基本としており、それぞれ重要な役割を担っていることを明確に意識して、研究を推進していく必要がある。

○ 運営費交付金の減額に対して、業務運営の効率化や経費削減等の努力が限界となり、研究活動に支障が生じてきている。また、短期的な研究成果が優先され、地道かつ長期的な視点に立った基礎研究が軽視されつつある。

3.研究成果の発信

(主な成果)

○ 研究成果の発信に対する意識が高まり、専門スタッフの配置や外部有識者も含めた検討会議の設置など、成果発信や広報活動の充実のための体制強化が図られた。

○ 研究活動を紹介する広報誌やリーフレット等を創刊し、一般公開等で広く配布するなど、社会や国民に向けた活動が積極的に行われるようになった。

○ 複数の機関が1つの法人になったことにより、研究活動の発信に関して、機関が連携して企画することが、積極的に行われるようになった。

○ 機関間連携による成果発信や広報活動の体制が整い、講演会、展示、メディアなど多彩な社会活動を通して、研究成果の社会還元が室、量ともに強化された。

○ 受託研究や共同研究を推進するため、民間企業等に対する研究活動や研究成果等の情報提供が、積極的に行われるようになった。

(主な課題)

○ 大学共同利用機関は、大学にはない実験技術なども多数持っており、大学の研究基盤の向上のため、大学に対する技術支援を強化していく必要がある。

○ 地域研究の成果を様々な学問分野に結びつけられるような工夫が必要である。

4.大学院教育と人材育成

(主な成果)

○ 総合研究大学院大学の学生の他、特別共同利用研究員や連携大学院学生など、国公私立大学の学生の幅広い受け入れを実施した。

○ 各機関の学問的広がりを活用し、個々の大学ではできないような人材育成を実施できるようになった。

○ 大学と連携して、夏に全国の学生を対象としたサマースクールを実施し、大きな反響を得られた。

(主な課題)

○ 国立大学の法人化後、各大学における大学院生の囲い込みが問題となっており、総合研究大学院大学にとって優秀な学生の確保が困難となっている。

○ 私立大学の学生も視野に、多くの大学・大学院との教育上の連携を強化していく必要がある。

○ 教育プログラムの連携を図るなど、総合研究大学院大学と大学共同利用機関の連携の在り方について検討する必要がある。

○ 博士号取得後のキャリアパスの開拓支援の充実が必要となっている。

○ 保有する知的資源と共同研究活動を利用した大学院教育を充実するため、施設や実験装置の充実など、教育環境の整備が必要である。

5.社会貢献

(主な成果)

○ 社会貢献に対する意識が高まり、研究成果の社会還元、地域との協働による事業展開、アウトリーチ活動の積極的な展開、社会への認知や説明責任としての広報活動が積極的に行われるようになった。

○ 組織の改編が自由に行えるようになり、専門の部署を設けるなど、広報活動について組織として積極的に対応できるようになった。

○ 複数の機関が1つの法人になったことにより、社会貢献活動を複数の機関が連携して実施しやすくなった。

(主な課題)

○ 各機関で様々な活動が行われているが、大学と異なり、多くの国民が大学共同利用機関がどういったものか、理解していない状況にあるため、さらなる工夫が必要である。

○ 人件費削減の中で、専門性の高いスタッフの確保が難しくなったことから、社会連携活動の負担が現有スタッフに集中し、研究に専念することが困難となっている。

6.国際交流

(主な成果)

○ 複数の大学共同利用機関に関連する海外の研究拠点に対して、機構として包括的に学術協定を締結することができるようになった。

○ 国際交流協定の締結や国際研究集会の開催等を通じて、共同研究の実施や研究者の派遣・受入などの国際交流が活発に行われるようになった。

○ 外国人職員の配置や、研究交流部局による生活面のサポート等、外国人ユーザーの対応を行う体制整備が図られた。

(主な課題)

○ 研究者を全世界に向けて公募するなど、世界各国の優秀な頭脳が結集するような戦略の検討が必要となっている。

○ 海外連携の日本のリエゾンを目指すことも必要である。

○ 事務を含め、更なる国際化に努力する必要がある。

2.制度の運用状況

1.組織の管理運営

(主な成果)

○ 大学共同利用機関の存在意義・理念を根本的に問い直す機会となった。

○ 業務に応じた理事の配置が可能となったことにより、意思決定の迅速化及び責任体制が明確になった。

○ 理事の役割を明確化するなど、機構長を補佐する体制が強化された。

○ 機構長、役員会などの法人経営の効率化、最適化への意識が高まり、研究機関間の壁が低くなった。

○ 組織の改編が自由に行えるようになり、社会情勢への適応、研究者コミュニティの要請への対応といった研究組織の最適化にタイムリーかつ柔軟に取り組むことが可能となった。また、緊急性の高いテーマへの迅速な対応、高水準の学術研究成果や社会・地域貢献、学術情報基盤の高度化などが推進された。

○ 業務の効率化や平準化を目的とした組織改編や人員配置の見直しについて、機構の自主的な判断で柔軟かつ機動的に事務組織を編成することが可能となった。

○ 研究活動の基盤となる施設や宿泊施設等のマネジメント体制の強化が図られた。

○ 共済関係業務、支払業務、施設関係業務等の機構本部への一元化・集中化により、事務の効率化・合理化が図られた。

(主な課題)

○ 機構法人としての一体的な運営は徐々に高まってきているが、大学と比較すると、各機関の独立性が強く、法人内部のガバナンスを強化する必要がある。

○ 機構化によって、意思決定のプロセスが複雑化し、迅速性に支障を来たしたり、重複的な事務処理が負担となるような場合がみられる。

○ 法人化により、大学とは別の組織との印象が強くなっているが、「全大学の共同利用の研究所」であることを再認識する必要がある。

○ 幅広い分野の共同研究の展開、新たな分野の創出、新しいコミュニティの育成など、当該学問分野をリードしていくような取組が必要となっている。

○ 日本の基礎研究を真に発展させるため、大学共同利用機関は、研究施設・設備の整備、貴重な学術資料の収集など本来の使命をしっかり遂行していく必要がある。

○ 大学との教授職の兼任やサバティカル制度の強化など、大学の研究者が、大学共同利用機関をより活用できるような仕組みや環境整備が必要である。

○ 大学と大学共同利用機関の意見交換の場を積極的に設けるなど、連携をより密にしてコミュニケーションを図っていく必要がある。

○ 人件費の削減に対応するため、大量の研究者を「特任」として任期付きで雇用することとなり、永続的な研究の実施が困難となっている。

○ 将来的には、大学共同利用機関と法人の構成について、改めて検証することが必要である。

2.人事

(主な成果)

○ 法人の裁量により人事制度の柔軟な見直しが実施できるようになり、雇用の多様な形態がとれるようになった。

○ 法人の裁量により雇用条件等の規定ができるようになり、研究機関としてのニーズに対応した採用が可能になった。

○ 民間から職員に登用することや法人内部におけるメリハリのある人事を行うことなど、多種・多様な人事を行うことが可能となった。

○ 特任制度や年俸制の導入などにより、幅広い人材登用が可能となった。外部からの登用により、民間的な発想が研究活動へ反映されるようになった。

○ 機構事務局と各機関との人事交流が行えるようになった。各機関と事務局とが連携して、共同で研修を実施できるようになった。

○ 能力評価や業績評価が導入されたことにより、評価の視点が多角化した。

○ 福利厚生の充実が図られた。

(主な課題)

○ 人件費の削減に伴い、優秀な研究者の確保が困難となっている。

○ 法人化に伴い、各大学等で人材の囲い込みが進行し、人事の流動性が低下している。事務系・技術系職員の、国立大学との交流人事が困難となっている。

○ 優秀な研究者が能力を発揮できるように、金銭的支援の充実など、若手の優秀な頭脳を活用できるようなシステムの検討が必要となっている。

○ 大学の研究者支援の一環として、費用負担も含め、効果的な国内サバティカル制度の確立に向けた検討が必要となっている。

○ 特殊で困難な職務に従事する職員について、手当支給の必要性が認められても、国の制度にない新たな給与等の新設が困難となっている。

○ 労働基準法への対応など、新たな業務・作業が増加する中、従前からの業務を如何に現有の人員で行っていくかが課題となっている。 

○ 機構採用の事務職員のキャリアパスを充実させていく必要がある。

3.財務会計

(主な成果)

○ 運営費交付金が減少する中で、競争的資金の獲得や受託研究による外部資金の受け入れ等の努力を積極的に行うことにより、これまでのところ、各機構における主要経費は一定水準を保っている。

○ 機構長の運営上の裁量が拡大したことにより、機構長裁量経費等を活用した資源の重点配分による研究活動の活性化など、戦略的な運営が行われるようになった。

○ 柔軟な予算執行が可能となったため、研究・教育活動の状況に応じた機動的な予算配分が可能となり、若手研究者等への研究費支援、ポスドク等研究員の計画的配置等を行えるようになった。また、自助努力による施設整備が可能となった。

○ 国債による安全性・確実性に配慮した資金運用など、余裕金のきめ細かな運用が積極的に行われるようになった。

○ 政府調達に該当する案件を除けば、調達は基本的に各法人の規則に基づき行えるようになり、契約事務の簡素化と調達の迅速化が進んだ。

○ 複数年契約が可能になったことに伴い、経費の節減及び事務処理の軽減が図られた。

(主な課題)

○ 運営費交付金の減額に対して、業務運営の効率化や経費削減等の努力が限界となっている。

○ 固定資産税や損害保険料等の支出が新たに発生することとなり、費用負担の増加を招いている。

○ 企業会計原則による会計処理が導入されたことにより、日常的な会計事務が複雑化し、専門的知識が必要となっている。また、会計監査人監査や監事監査、税務調査等への対応が必要となり、事務の負担が増えている。

○ 老朽施設の改善や、研究の進展に伴う新たな施設整備については、法人独自での財源確保が難しく、十分な対応ができていない。

○ 外部資金等による研究教育活動が増加する一方で、施設に関する予算措置が伴わないため、研究・教育設備の設置スペース、研究室等の確保に困難が生じている。

○ 施設完成後の運営経費の財源確保が課題となっている。

4.中期目標・計画、評価

(主な成果)

○ 国立大学法人評価委員会による年度評価結果を踏まえて、毎年、課題を的確に把握し、それを組織運営の改善に結び付けることができるようになった。

○ 大規模な研究プロジェクトに関して、効果的な事前・中間・事後の外部評価が実施されるようになった。

○ 目的積立金制度など、予算の柔軟な執行が可能となったため、中期的な計画実行が可能となった。

○ 法人評価の実施に伴い、法人運営や評価に必要なデータの集約化及びシステム化が進んだ。

(主な課題)

○ 中期目標原案、中期計画及び年度計画の策定や実績報告書の作成等、多くの作業が必要となるため、担当の研究教育職員に多くの負担が生じており、より効率的な評価の仕組みが必要となっている。

○ 様々な種類の評価の実施に際して、評価項目の重複、類似の評価項目・基準の設定により混乱や過重な負担が生じている。

○ 基礎的な研究等の長期的な視野に基づく研究に対する評価基準が曖昧である。

○ 訪問調査など、各法人における活動内容を理解するための措置が不足している。

○ 人文系の研究については、中期計画等における数値目標の設定が困難である。

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