第2章 今後の推進方策

1.ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチの推進

(1)国際関係から見た基本的な考え方

○ 国際関係からITER(イーター)計画及び幅広いアプローチを見た場合、その実施の上では国家主導による国際的優位性(国益増進)と、市場主導による国際的連携の両立が必要となる。
 また、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチに関わるものとして、国家、国際機構、学術的・技術的専門家集団、民間企業、ローカル(自治体、市民、市民団体)という多様なアクターが存在し、それに関わる問題も複雑化・重層化しているという状況にある。

○ これらの課題を克服するためには、アクター間の「非集中化(権限の分配)」と「パートナーシップ(共通問題の解決や資源の効率的使用のための連携・協力)」を実現することが重要である。

○ ITER(イーター)参加極の7極のうち、アジアによる4極(日本、韓国、中国、インド)は、幅広いアプローチを拠点としてアジアにおける連携活動の可能性を有しており、そこでは我が国の存在感、リーダーシップを示していくことが期待される。機能的協力に重点を置く科学技術研究分野では特に、我が国が地域連携の旗手として名乗りをあげる余地は大きく、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチは重要である。

(2)全国的な研究体制の構築

○ ITER(イーター)計画と幅広いアプローチを成功させるためには、ミッションと基礎学術基盤との相互補完を今後も維持発展させていくことが必要不可欠である。
 このため、全国的な研究体制として、全国に広がった主体性を持った拠点がネットワークを形成し、ITER(イーター)計画と幅広いアプローチとの間でニーズとシーズを互いに交換しあう必要がある。

○ 幅広い研究者の参加を可能とし、効率的なネットワークを形成するために、eサイエンス(ネット上でのデータのやりとり等)などの方法を積極的に取り入れることが重要である。

(3)核融合エネルギーフォーラム(仮称)の設置

○ 今後、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチが実施段階に入ると、原子力機構をはじめ、学術界・産業界など様々な関係者が議論した上で、機動的に意見集約を行っていく必要がある。このため、これまで核融合研究・技術開発に関する情報交換や討議の場として活動してきた「核融合フォーラム」の性格も残しつつ必要な改変を行い、「核融合エネルギーフォーラム(仮称、以下略)」を新たに設置することが適切である。

○ 同エネルギーフォーラムでは、ITER(イーター)計画と幅広いアプローチに関し、関連する情報の頒布、研究活動に関する国内意見の集約、国内連携協力の調整等を行う。
  特にITER(イーター)計画及び幅広いアプローチに関する活動を担う組織として、「ITER(イーター)・BA技術推進委員会(仮称)」を同エネルギーフォーラムの中に設置することが適切である。
  なお、同エネルギーフォーラムの事務局については、原子力機構と大学における核融合研究コミュニティの中核機関である核融合研が連携して行うことが適切である。

(4)幅広いアプローチの推進

○ ITER(イーター)計画を支援するとともに、将来の原型炉の建設に向けた研究開発を日欧の協力により我が国において実施することとしている幅広いアプローチについては、ITER(イーター)と並ぶ国際的な核融合研究拠点を我が国に整備する必要がある。
 このため、日欧の研究者のみならず、他のITER(イーター)参加極である米国、ロシア、中国、韓国、インドからの研究者の幅広い参加を促すとともに、新たに研究拠点が設置される青森県六ヶ所村においては、研究者の長期滞在のための受入体制の整備が重要である。

(5)ITER(イーター)計画におけるテストブランケット

○ 核融合エネルギー利用の中核機器であるブランケットの開発研究において、ITER(イーター)にテストブランケット・モジュール(TBM)を取りつけて実施する総合機能試験は重要なマイルストーンである。ITER(イーター)計画での主導権確保を目指すとともに原型炉の根幹となる技術で世界をリードする機会となる。

○ 従来、TBM計画は各極独自の活動との位置付けであったが、ITER(イーター)参加極の増加などの新しい状況に伴って、国際協力での実施が不可欠となっている。

○ 「炉工学ブランケットの研究開発の進め方」(平成12年8月原子力委員会核融合会議)の報告を踏まえ、我が国としては、主案として固体増殖(水冷却)方式を原子力機構が中心となって全日本的に研究開発を推進するとともに、液体増殖などの先進ブランケット方式については、大学等を中心に学術研究として実施することが適切である。
 今後、国及び核融合関係者が協力して、これらの実施を可能とする体制の構築及び適切な資金の確保に努める。

2.学術研究と連携協力

(1)学術研究の重要性

○ 核融合研究は、巨大なプロジェクト研究を積み重ねる必要があることから、プロジェクトへの「集中」について論じられる傾向が強いが、「自由な発想」を本質とする学術研究や他の分野との相互作用の重要性にも十分留意する必要がある。

○ ITER(イーター)を建設稼動させる時代になっても、より魅力ある核融合エネルギーの実現のためには、開発現場からの課題設定と学術基盤からの新たな知見の両方が相互作用しつつ研究開発が進められる必要がある。
 学術研究におけるネットワークと、プロジェクト研究の間では「双方向的な知の循環」が形成される必要がある。すなわち、ネットワークを通じて多様な分野から知を吸収するプロセスと、プロジェクトの先端からネットワークへ学術的課題が還元されるプロセスである。

○ なお、共同利用・共同研究、人材育成、他の学術分野及び産業界との連携は、それぞれ密接に関連しているため、その強化については一体的に推進していく必要がある。

(2)重点化課題の推進

○ 核融合研究の重点化に関するチェック・アンド・レビューの結果、全般的に各重点化課題の研究成果、共同利用・共同研究、人材育成、国際的・社会的視点からの寄与が着実に推進されてきており、重点化が我が国における核融合研究全体に貢献していることが確認された。

○ 一方で、今後留意・改善すべき点等も指摘されているため、原子力機構、核融合研、阪大レーザー研をはじめとする関係者がこれに対応するとともに、重点化課題を中核とした一層強力な連携体制の構築に向けて、取り組んでいくことが重要である。

(3)共同利用・共同研究の推進

○ 大学共同利用機関である核融合研を中核とした共同利用・共同研究は、同研究所が設置されて以来、研究者コミュニティが培ってきたものであり、重要な役割を果たしている。このうち、核融合研究WGの報告を受けて平成16年度から開始されている双方向型共同研究は、核融合研と各大学の核融合科学関係の研究施設の両者の共同研究者が互いに往来し、それぞれの研究資源の相乗的活用を図りつつ、順調に進展している。
 また、重点化課題の策定後には、核融合研のLHDはもちろんのこと、原子力機構のJT-60や阪大レーザー研の激光X2号等を活用した共同研究もより活性化している。

○ これらの共同利用・共同研究を引き続き推進して学術研究の成果を上げていくとともに、今後、本格的に実施されるITER(イーター)計画及び幅広いアプローチにおいても、原子力機構と大学等が強い連携協力関係を築き、推進する必要がある。

(4)ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチに関する共同研究

○ 新たに始まるITER(イーター)計画及び幅広いアプローチを成功に導き、同時にこれらのプロジェクトが学術研究一般にとってもその進展に資するものとしていくためには、多様な専門分野の研究者・技術者が研究に参加するための国内体制を早急に整備する必要がある。

○ これらの国際研究プロジェクトで我が国が十分な存在感とリーダーシップを示せるためには、国内実施機関である原子力機構がプロジェクトの根幹を支えるための組織体制を構築するとともに、大学等から十分な数の研究者がプロジェクトに参加し、同時に人材を継続的に育成できるシステムを構築していくことが重要である。

○ 学術研究と教育を本分とする大学等の研究者が、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチという国際研究プロジェクトに参加するためには、様々な学術分野の専門知識をプロジェクトへ集中すると同時に、プロジェクトから学術へ新たな課題が提示されるという双方向の関連が必要となる。

○ 大学の研究者が共同研究に参加する場合、個々の研究者が所属する大学側にもメリットのあることが重要である。

(5)人材育成のための方策

○ 核融合エネルギーの実現は、長期間を要する研究課題であり、長期的な視点で、特に若手研究者の育成に向けた取組みを、学校教育や産業界における人材確保も視野に入れつつ、幅広い観点から進める必要がある。
 このため、大学・核融合研、原子力機構、産業界が固有の機能を活かし、主体的な役割に基づいた人材育成のネットワークを形成することが必要である。特に、我が国の代表的な研究機関である核融合研と原子力機構において実施されている大学院教育への協力や、連携大学院制度の活用をより一層推進するなど、両研究機関が今後の人材育成にさらに貢献することが望まれる。

○ 核融合分野を孤立系として考えるのではなく、広い学術分野及び産業界との連携・交流活動を活発に行いながら、他分野からの人材の流動を一層進めていく必要がある。

○ ITER(イーター)計画や幅広いアプローチへの参加を人材育成の観点からも積極的に活用するべきである。特に若手研究者にとっては、その参加がキャリアパスとして位置づけられることが重要である。

○ 核融合関係者が科学技術関係人材の養成・確保のための競争的資金等の獲得に一層努める必要がある。また、国と核融合関係者が協力しつつ、核融合研究分野の人材育成に資する予算を、競争的かつ透明性のある仕組みのなかで支給するための財源確保や体制の構築に努めることが重要である。

○ 研究施設への見学者の受入れや、初等中等教育機関との連携活動、市民を対象とした講演会の実施等を通じて、国民の核融合に対する理解増進に資する活動の充実に努める必要がある。

(6)他分野との学術的な連携、産業連携

○ 核融合科学は孤立したものではなく、他分野との多様な発想から得られた知識の交換、さらにそれを担う人の交流によって、その存在を実現している。
 ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチはこの基盤の上に提案された先導的な計画であり、それを実行するためには基礎学術だけではなく産業技術との高度な統合が必要である。

○ ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチという最先端研究からは、核融合科学へ直接、新しい課題が提起されるとともに、広い知識の還流はこの分野の留まらないところへも及び、新たな研究分野を萌芽させる種となりえる。
同時に産業界へも、「ものづくり」からの波及効果が生じることが考えられる。

○ 核融合エネルギーの開発研究は、極めて広範な要素科学技術を統合する総合的科学技術であることから、様々な分野の知見を吸収するために、多様な分野で育った専門家を集める必要がある。同時に、ITER(イーター)計画や幅広いアプローチ等の核融合プロジェクトを通じて育成される人材が、他分野で活躍し、核融合分野で生まれた知見が散種されることも期待される。

○ これまで、例えば原子力機構、核融合研、阪大レーザー研等において、他分野との連携や産業連携による活動が活発に行われ、その波及効果として、多様な学術分野の研究が進み、産業技術の実用化等が図られている。
今後ともこのような取組みを一層推進する必要がある。

○ 産業界に技術が蓄積されていくためには、一定量の機器製作の機会が継続することが必要となる。技術の普遍化によって、領域を超えた技術の交流が可能となる。

(7)国民からの理解と支持

○ 核融合研究機関と研究者は、現在取り組んでいる研究課題の魅力や、今後目指すべき研究の方向性についてわかりやすい言葉で説明しつつ、積極的に社会に向けて、核融合研究に関する情報発信に努めることが重要である。

○ 研究施設への見学者の受入れや、初等中等教育機関との連携活動、市民を対象とした講演会の実施等を通じて、国民の核融合に対する理解増進に資する活動の充実に努める必要がある。

○ 未来のエネルギーは地球規模の問題である。このため、この問題を核融合だけで議論するのではなく、新たなエネルギー源として期待され、研究開発が進められている多様なエネルギー対策全体の中で核融合が議論されることが重要である。
 その結果、様々な新たなエネルギー源の選択肢の中で、特に核融合が優れているとの認識を広げていくことができれば、国民から大きな理解と支持を得ることにつながる。

まとめ

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