第1章 核融合研究の現状と課題

1.核融合エネルギーの必要性

○ 人類は、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料や原子力をエネルギー源として、現在の高度な科学技術産業社会を維持してきた。しかし、世界の人口は確実に増加し続け、それに伴うエネルギー消費量も増加の一途をたどっており、将来に向けた新しいエネルギー源の開発は、世界共通の最重要課題の一つといえる。

○ 人類は、太古から核融合エネルギーを太陽光として日常的に活用してきた。核融合を地上で実現することができれば、海水中に含まれる重水素を燃料とすることができるため、恒久的なエネルギー源を手に入れることができると考えられている。

2.核融合研究の意義

○ 核融合の研究は、これまで世界の主要国において精力的に行われ、高温プラズマの生成及び制御に成果を挙げ、核融合炉実現の科学的見通しが得られるところまで到達してきた。
 特に我が国における核融合研究は、これまでの経験と実績を基盤として、世界をリードできる科学技術分野という点で大きな意義がある。

○ また、その研究推進の必要性について、原子力委員会核融合専門部会の報告「今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年10月)の中では、「核融合エネルギー開発においては、地球環境問題の解決への早期貢献を目指し、ITER(イーター)でその科学的・技術的実現性を着実に実証するとともに、原型炉に向けた研究開発を並行して推進することにより、21世紀中葉までに実用化の目処を得るべく研究開発を促進する必要がある。」と記載されている。

3.核融合研究開発に関する基本方針

○ 我が国の核融合研究開発について、平成4年6月、原子力委員会は「第三段階核融合研究開発基本計画」を策定した。本計画の中で、1トカマク方式の実験炉による自己点火条件(外部から加熱しなくても核融合反応が続く状態)の達成と長時間燃焼の実現を目指した開発、2ヘリカル方式・レーザー方式など各種閉じ込め方式の研究、3実験炉に必要な炉工学技術と原型炉に向けた炉工学の基礎に関する研究、などを実施することとして現在に至っている。

○ 平成15年1月には、核融合研究WGから「今後の我が国の核融合研究の在り方について」が報告され、我が国の核融合研究全般にわたり、今後を見据えて、学術的評価に基づき、1核融合研究計画の重点化、2共同利用・共同研究の強化、3重点化後の人材育成の在り方、を主な内容とする核融合研究の在り方と方向性が示された。

○ 平成17年10月の原子力委員会による「原子力政策大綱」では、核融合研究開発の位置づけについて、長期的な視点に立った研究開発が必要である「革新的な技術概念に基づく技術システムの実現可能性を探索する段階」にあると整理されている。

○ さらに、平成17年10月の原子力委員会核融合専門部会の報告「我が国における今後の核融合研究開発の推進方策について」においては、1トカマク方式については開発研究として、ITER(イーター)計画を進めることを含め、原型炉建設に必要な研究開発を進める、2ヘリカル方式、レーザー方式などについては、核融合エネルギーの選択肢を拡げるとともに、学術研究の成果や人材育成が研究開発の進展に極めて重要であるとの認識から、学術研究として、トカマク方式と並行的にその科学的基礎の確立を目指して研究を進める、3開発研究と学術研究の相乗効果によって開発を加速する観点から、ITER(イーター)を最大限活用しつつ実用化に向かって、開発研究と学術研究からなる総合的な研究開発を推進する、などが提言されている。

4.核融合研究の重点化課題と共同利用・共同研究

○ 核融合研究WGの報告書では、核融合分野の研究を迅速かつ効果的・効率的に進めるため、以下に重点を置くことが必要であるとされた。
a.既存装置の整理・統合と、研究者コミュニティに開かれた新たな研究の展開を可能にする共同研究重点化装置の導入
b.共同利用・共同研究と連携協力研究の促進
c.新たな可能性への挑戦を目指した研究の創生
 審議の結果、トカマク(JT-60及びそれに続くトカマク国内重点化装置)、ヘリカル(LHD)、レーザー(激光X2号及びそれに続くレーザー高速点火装置)及び炉工学が重点化の柱として策定された。
 このうち、3つの装置については共同研究重点化装置として位置づけ、共同利用・共同研究を積極的に促進することが提案された。

○ 核融合研究WGで策定された重点化課題の状況等を踏まえ、今後の核融合研究を推進するために必要な評価・検討を行うため、作業部会の下に「重点化に関するタスクフォース」を設置するなどしてチェック・アンド・レビューを実施した。
 チェック・アンド・レビューに当たっては、特に「重点化課題以外の実施機関も含めて我が国の核融合研究全体への貢献度(重点化前後の状況の変化)」、「核融合エネルギーの実現に向けたあらゆる取組みの中における当該研究の位置付け」、「学術的な波及や学際性」に留意することとされた。

○ チェック・アンド・レビューの結果、全般的には重点化以後、日本原子力研究開発機構(以下、「原子力機構」という。)と大学、自然科学研究機構核融合科学研究所(以下、「核融合研」という。)と大学、あるいは原子力機構と核融合研の協力が強化されていること、大阪大学レーザーエネルギー学研究センター(以下、「阪大レーザー研」という。)が全国共同利用化されたこと等、共同利用・共同研究、人材育成、国際的視点からの寄与、社会的な視点からの寄与が着実に進んでいることが確認された。

5.ITER(イーター)計画、幅広いアプローチ

○ ITER(イーター)計画は、実験炉の建設・運転を通じて、核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する国際協力プロジェクトであり、昭和60年11月の米ソ首脳会談における核融合開発研究推進の共同声明から始まり、概念設計活動、工学設計活動の後、平成13年11月からは建設に向けた政府間協議が開始された。
 平成17年6月のITER(イーター)閣僚級会合において、ITER(イーター)のサイト地が欧州(フランス・カダラッシュ)に決定した。

○ また、幅広いアプローチの日本での実施が決定し、文部科学省に設置されたITER(イーター)計画推進検討会による検討を経て、平成17年10月、文部科学省が国際核融合エネルギー研究センター(青森県六ヶ所村)、サテライトトカマク装置<JT-60の改修>(茨城県那珂市)、国際核融合材料照射施設の工学実証・設計活動(青森県六ヶ所村)を幅広いアプローチのプロジェクトとして決定した。
 国際核融合エネルギー研究センターはITER(イーター)遠隔実験研究センター、核融合計算センター、原型炉設計・研究開発調整センターからなる。

○ 平成18年11月にはITER(イーター)協定への署名及び幅広いアプローチ協定案への仮署名が行われ、現在に至っている。

○ ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチが十分な成果をあげるためには、これらに参加することが必要な研究者数を確保していくことが重要である。

○ ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチは先導的な大型計画であるが、孤立した研究計画ではありえず、核融合科学のみならず幅広い基礎学術基盤と産業技術基盤によって立つものである。

○ 以上の点から、長期にわたる建設およびその後の実験実施について、ITER(イーター)国内機関と幅広いアプローチの実施機関に予定されている原子力機構が主体的に担当していくこととはなるが、大学等や産業界における国内の研究者・技術者が共同研究を通じて参加するための円滑な体制が求められる。

6.人材育成

○ 作業部会では、核融合分野の人材育成に関する現状調査を行い、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチにおいて今後必要となる研究体制を検討する視点から分析を行った。
 人材育成については、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチを推進するためだけではなく、核融合分野全体の国際的な競争力を維持、発展させていくため、国内で実施されている研究(重点化課題等)の一層の推進が重要である。ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチだけを考えても、わが国が主導的な地位を確保するためには、現在、開発研究と学術研究を合わせて300名程度の研究者数について、10年後には700名程度が活躍することが適切であると考えられ、今後、増員に向けた取組みが望まれる。

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