学術研究は、それ自体人々の知的好奇心・探究心を満たし、優れた知的・文化的価値を有する。学術研究により、経済・社会の力強い発展の源泉となる重厚な知的ストックが構築され、その発展は高度な教育内容・優れた人材養成に不可欠である。
このような学術研究の持つ今日的意義にかんがみると、今後、学術政策を推進していく上では、1個々の研究者の持つ意欲・能力を最大限発揮できるようにすること、2研究の多様性の促進を図ること、を基本的な方向性とすることが必要であり、大学等と国がそれぞれの役割を果たし、支援・連携を図りつつ学術研究を推進していくことが求められる。
このため、各大学等は、所属する研究者等の意欲と能力が最大限発揮されるような研究環境を整備するための、学術研究を推進するための戦略(学術研究推進戦略)を確立すること、国は、研究者・大学等の取組みを支援するのみならず、我が国の学術研究全体を中長期的な視野に立ち、着実に推進することが必要となる。
また、学術研究の成果の幅広い還元と豊かな知的ストックの次世代への継承や、産学官連携を通じて地域での役割を果たすことにより、国民各層の幅広い支持を得つつ学術研究を推進することが重要である。
大学等を中心に行われている学術研究は、人文・社会科学、自然科学からその複合・融合分野にまで及ぶあらゆる学問分野を対象とする、研究者の自由な発想と知的好奇心・探究心に根ざした知的創造活動である。
すなわち、学術研究とは、人間、自然・宇宙、社会の本質を理解し、知の限界に挑む営みそのものである。人は誰しも「自分や世界についてもっと知りたい」という知的好奇心・探究心を持つ存在であることから、学術研究は、それ自体人々の知的好奇心・探究心を満たすものであり、優れた知的・文化的価値を有するものである。
また、学術研究とは、我が国が「文化芸術立国」を目指す中、芸術・文化の発展にも寄与する、人類の幸福に資する知の体系であり、国の知的・文化的基盤であるとともに、人類共通の知的資産を築くものである。21世紀は知を基盤とする社会(knowledge-based society)の時代とも、知の大競争時代とも言われている中で、学術研究こそが本当の知を創出するものである。
今後、物的資源に乏しい我が国において、中長期的な視点に立って、独創的・先端的な学術研究活動により多様な知を創造し、重厚な知的ストックを構築していくことは国家存立の基本といえる。この重厚な知的ストックこそが経済・社会の力強い発展の源泉となる。
時流に流されない継続的な研究から多様な知的ストックが構築されて初めて、突発的な事件・事態にも速やかに対応できる底力を生み出すこととなるのであり、このような知的安全保障の観点も考慮されなければならない。
さらに、大学等においては、教育と研究を一体として推進しており、学術研究の発展は現代社会において求められる多様で高度な教育内容を実現し、知を基盤とする社会を担う優れた人材を養成する上でも不可欠である。
このような中、現在の課題の解決、未来への先行投資、そして、現在・将来を支える人材の育成という観点から、学術研究は多くの国民から大きな期待が寄せられている。
以上に述べたような知的・文化的価値の創造、重厚な知的ストックの構築、教育・人材養成への貢献といった学術研究の持つ今日的意義にかんがみると、今後、学術政策を推進していく上では、以下に述べるように、
を基本的な方向性とすることが必要である。
今後の学術研究の発展はひとえに、個々の研究者がどれだけ新規性のある独創的な着想を得て、それを着実に探究できるかにかかっている。このためには、個々の研究者を活かし、自由度を高め、その意欲と能力が最大限発揮されるような研究環境の構築が不可欠である。自由な研究環境にある研究者から多様な研究が生み出されるものである。
また、研究者自らにおいても、できるだけ多くの機会をとらえて、異なる研究分野、研究機関・組織の研究者や研究環境と接触を持つなど、常に自己開発を行うことが必要である。さらに、研究目標を明確化し、積極的に自己の研究内容や成果を外部に開示する努力が必要である。様々な制度改革に受け身で対応するのではなく、自ら積極的に開かれた研究環境の構築に全力を尽くす真摯な姿勢が期待される。
学術研究は、人文・社会科学分野、自然科学分野からその複合・融合分野まで幅広く行われており、その目標とするところも未知の知を目指すものから直接社会に貢献するものまで様々である。また、学術研究は、無限の可能性を持つ芽が育つ萌芽期の段階に始まり、成長期、発展期といった、いろいろな段階からなる。規模においても、個人研究の場合もあれば、研究者グループ・組織で取り組まれる場合もあり、ある先駆者が進めた研究を、次世代の研究者が新しい観点から引き継ぐことで発展する場合もある。方法論的にも、従来の学問分野(discipline)を突き詰めて行くものから、およそ伝統的な手法を離れたひらめき型のものもある。
学術研究においては、どの研究がいつ知の限界を突破するのか、あるいは社会的有用性を持つのか、にわかに判断できないことがむしろ一般的であり、その意味で、様々な発展段階にある幅広い分野の多様な研究を総合的に推進し、多様性に富んだ豊かな知的ストックが形成されることが重要である。この知的ストックは決して静的なものではなく、研究の進展に伴い、研究者自らが不断に見直していくべきダイナミックな蓄積であり、この多様な知的ストックこそが次世代の新たな発展のための源泉である。
その当時評価されていなかった研究が、後世非常に高く評価される例は歴史上多数存在する。その意味で、多様性のある知的ストックは、それ自体知的・文化的価値を持つものであるのみならず、長期的には社会的・経済的価値をも創出するものである。
このような学術研究の多様性を促進するためには、研究者が自由な発想の下に研究を推進していくことが基本であり、それが可能となるような環境整備を計画的に行うことが重要である。その上で、国は、中長期的な観点に立ち、知の多様性を生み出し継承する「場」である大学等そのものが多様性を保ち、学術研究全体が多様性を持ってバランスのとれた発展を遂げるよう継続して適切な支援を行う必要がある。
上記のような学術政策の基本的な方向性を踏まえ、大学等、国がそれぞれの役割を果たし、また、支援・連携を図りつつ学術研究を推進していくためには、次のことが求められる。
まず、各大学等において、優れた研究者の興味・関心に基づく多種多様な研究を推進するとともに、既成の学問構造にとらわれずに独創的・先端的な研究が次々と生み出されるようなダイナミックな研究環境を整備することにより、多様性に富んだ豊かな知的ストックをそれぞれの大学等に重厚に積み重ねていくことが重要である。
各大学等が自らの持つ優れた研究分野、若しくは他の大学等で行われていないような特徴的な研究分野を活かして学術研究を戦略的に推進することによって、広範な学問分野で、あるいは特定の分野で独創的・先端的な研究を行う大学等が全国各地に存在する状態が生まれる。このことが学術研究の多様性をさらに担保するものである。
そのためには、各大学等が所属する研究者等の意欲と能力が最大限発揮されるような研究環境を整備するため、そのイニシアティブにより、学術研究を推進するための戦略(以下「学術研究推進戦略」という。)を確立することが必要となる。
また、他の研究機関の研究者を積極的に受け入れるとともに、機関同士が連携を強化することが、学術研究の質の向上につながることから、独創的・先端的な学術研究を行う大学等同士が互いに切磋琢磨しつつ、様々な面において連携・協力することが今後ますます必要となる。
特に、諸外国の大学・研究機関との連携・交流を推進することにより、世界一流の研究者と優秀な学生が集う国際的に真に開かれた大学づくりが必要となる。
国は、優れた研究者と各大学等の戦略に基づく主体的な取組みを尊重し、今後もこれを支援するとともに、科学技術・学術審議会等の意見を踏まえながら、我が国の学術研究全体を中長期的な視野に立ち、着実に推進することが必要である。その際には、学術研究の特性を踏まえ、大学等が困難な課題に挑戦しながら試行錯誤しつつ、長期間に渉り、多様な研究が行われるような支援が必要である。特に、国際的な知の大競争時代にあって、国内の大学等が国際競争力を向上させていくためには、基盤的経費が確実に措置され、その下で個性ある大学等同士の健全な競争が今後とも維持されることにより、多様な研究が推進される必要がある。
なお、学術研究に対する国民からの関心・期待が高い中で、国民各層の幅広い支持を得つつ学術研究を推進していくことが重要である。そのため、研究者及び大学等は、学術研究から生み出された豊かな知的ストックを国民・社会、さらには国際社会に広く還元し共有することが必要となる。国及び各大学等においては、大学学部学生や大学院学生にとどまらず、初等中等教育段階にある児童生徒までも含めた次世代に対して、多様な機会を通じて、研究成果の幅広い還元と知的ストックの継承が行われるような取組みが必要である。
また、大学等には、それぞれの大学等の設置されている地域の研究の担い手として産学官連携において積極的な役割を果たしていくことが求められる。
研究振興局振興企画課学術企画室