おわりに 学術研究の推進に国民各層の幅広い支持を得るために

○ これまで述べてきたように、学術研究は個々の研究者、各大学等及び国がそれぞれの役割を適切に果たすことで一層推進されるものであるが、学術研究の世界はしばしばその三者で自己完結し、それを物理的・精神的に支えている一般国民の存在について十分認識してこなかった傾向があるところ。
  しかし、国民の知的レベルが格段に向上し、学術研究に期待するところもますます大きくなっている現在、これからの学術研究は国民各層の幅広い支持なくしては発展し得ない。研究者、大学等、国のそれぞれが、学術研究において得られた豊かな知的ストックを国民・社会に広く還元し、共有・継承する意識を常に持ち続けることが不可欠。

(1)国民への説明責任と学術研究を国民に身近なものとする方策

○ 学術研究は、その本質においてどのような成果が生まれるか予見できないものであり、さらに近年研究の細分化が進み全体像が見えにくくなっていることから、国民一般には理解しづらくなっている状況。
 一方で、研究者には、初めて新しい知に到達した者として、また、公的資金を受けて研究に携わった者として、国民の知的好奇心に応える責務がある。

○ 学術研究は、必ずしも目に見える成果が短期的に得られるものではないため、研究成果を社会に即還元することは難しい面もあるが、研究者及び大学等においては、現在取り組んでいる研究課題の魅力や今後目指すべき研究の方向性についてわかりやすい言葉で説明しつつ、研究成果は速やかに社会に還元するなど、積極的に社会貢献していくことが必要。
 例えば、各大学等は、研究者自らが研究内容を一般に説明するアウトリーチ活動を支える体制を整備することが必要。また、公開講座やオープンキャンパスの活用や、ユニバーシティミュージアム等の整備などにも取り組むことが必要。

○ また厳しい財政状況の中にあっても、学術研究に重点的な投資が行われることへの国民の理解を得続けるためには、大学等への国民の期待に積極的に応えていく姿勢が重要。学術研究が短期的な成果を求めるもののみとなってはならないが、知的ストックを活用しながら、現代的・社会的ニーズに的確に対応することも必要。
 こうしたニーズに対応するためには、学際的・学融合的な取組が必要となり、新たな学問分野が創出される可能性もあり、研究の多様性の促進の観点からも考慮されることが必要。

○ 各大学等においては、自己点検・評価の実施及びその結果の公表を積極的に行い、自らの研究教育等の状況を明らかにしつつ、その改善・充実を不断に行っていくとともに、国立大学等においては国立大学法人評価等を通じ、社会への説明責任を着実に果たしていくことが必要。

(2)次世代への還元と知的ストックの継承

○ 近年、学術研究の成果を経済的・社会的価値に直結する形で社会に還元することが求められる傾向が強まっているが、学術研究を通じて各大学等に積み重ねられた重厚な知的ストックを、大学等の枠にとどまらない「教育」を通じて次世代に継承することこそ、究極的な社会還元であることが認識されるべき。

○ 大学等における学術研究の大きな特質は、教育と研究が一体化して行われていること。優秀な若手研究者の育成は、大学・大学院の教育機能の強化に依存。
 大学等は、柔軟な発想から新規性のある研究課題を見つける可能性を秘めた大学学部学生・大学院学生に対しては、できるだけ多くの機会に一流の研究者の最先端の研究に触れさせ、知的な触発をしていくことが重要。その際、遠隔教育システムを活用するなどにより、優れた研究者による教育の共有化を図っていくことが必要。

○ 今後大学院教育の改革が進展し、創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者の養成や確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成などを目指した大学院教育の実質化が行われる際には、これまでの知的ストックと最新の学術研究の成果が活用されることが必要。

○ また、特に自然科学系の研究者の育成という観点からは、自然・社会現象への興味関心が広がる初等中等教育段階から、学術研究の芽を育てるような機会を提供していくことが重要。わかりやすい副読本の編集や自らが講師として小・中学生や高等学校生に研究のおもしろさを伝えるなど研究者コミュニティーや大学等からの積極的なアプローチが必要。

(3)産学官連携の推進

○ 各大学等には、地域の研究拠点としての役割が期待されており、地域社会との協力の推進や産学官連携の組織的な推進は重要な課題。

○ これまでに大学等と民間企業との間における共同研究が大幅に増加するとともに、技術移転機関を通じて大学等の研究成果の社会還元が大きく進展してきたところであるが、持続的な産学官連携を進めるためには、大学等が自ら主体的に産学官連携活動に取り組み、そうした姿勢を産業界に対して積極的に発信していくことが必要。

○ なお、産業界では、大学等に対し、実社会と直結した応用・開発研究を求めることは少なく、むしろそのシーズとなる基礎研究を期待。このため、産学官連携を一過性のものに終わらせることなく、さらに発展させるためには、まず大学等において連携のベースとなる基礎研究をしっかり推進するような取組みが重要。

○ さらに、産業界としても経営・研究開発において、産学官連携を一つの柱として明確に位置づけ、日本の大学等を投資対象として評価・活用することを期待。また、連携において、研究者の交流を進める観点からも、企業から研究者を修士課程等へ積極的に送り出すことを期待するとともに、企業から研究者の修士課程等への受入などに積極的に取り組むことが必要。さらに、企業等においては、学士・修士・博士等の学位を取得した研究者の採用・処遇に関し、それぞれの学位の種類に応じた取り扱いがなされるよう十分に配慮されることを期待。

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